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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
3章 イベア
78/306

71話 カネリア

 仮眠していた俺は爆発音で文字通り飛び起きた。



 俺以外のみんなも同じ。たたき起こす必要もなかった。



 急いで階下に降りると、準備万端のセンがいた。乗っていかないという選択肢もなくはないけど…、やめて。そんな目で見ないで。そんな目で見られて置いていけるやつはいない。



 御者はいないが問題ない。文句を言うやつは大部分が今夜、露と消える。



 爆発から逃げる人、逆に野次馬根性で見に行く人、それらをセンの迫力で押しのけ、無事にコロメニア博物館へ。



「習。とりあえず、北へ行こうか」

「ん?わかった。皆もそれでいい?」


 つくなりタクに移動を促された。素直に聞いておいた方がよさげで、みんなも……頷いてくれた。なら、行こうか。



 タクとついでにディナン様も馬車に乗せ、北へ。北は砂漠がある。



 チラッと後ろを見ると、こそこそとディナン様とタクが話し込んでいる。気になるけれど、後で教えてくれるでしょ。



 北門到着。門はディナン様の姿を確認したと同時に開門したのでノンストップ。そのまま砂漠へ。……馬車で来たのは完全に間違いだったな。



「セン。いける?」


 「問題ないよ!むしろ楽しい!」と言いたげに鼻を鳴らす。セン。



 ふむ、なら心配なのは馬車。あのおっちゃんこういうところ走るのを想定してくれてるはずだけど…、こんなハイスピードだとは思ってないだろう。



 センに少し速度を落としてもらって…、



「おい、どこまで北へ行けばいい?」

「もうちょい」


 どこまでだよ! と言いたいのを我慢して、さらに北へ。停止すると地面が砂だから馬車の重みで沈んだりするのかな。



 そこからしばし、一面に広がる砂を眺めていると、突然、



「みんなでこれ読んで」


 タクが手紙らしきものを俺に押し付けると、ディナン様とそそくさと馬車から飛び降りた。



「何ですかそれ?」

「さあ?とりあえず読もうか」


 何々?



「拝啓。私の恋人を預かってくださっている黒い髪の男女二人組へ。私の黒い髪の恋人を返してください。場所はスポルトの北の砂漠の中です。わかりやすいようにして待ってます。返して下さらない場合は、先ほど博物館から連れてきた獣人の貴族の子供の命は保証できません。では。敬具」



 なるほどねぇ。黒い髪ねぇ…。



「なあ、この中に恋人持ちはいるか?」


 アイリとカレンは首を振った。だよね。



「私ですかね?私の恋人は習君ですけど」


 真面目な時だからか、顔色一つ変えずに四季が言った。それは…。



「…男女二人組へ送ってるんだよ?」


 違うんじゃない? という前に、アイリが諭した。



「ですよね。となると…」

「目的は娘か」


 またか…。はぁ。頭に血が上るのを感じる。



「セン」


 一声で、思わずバランスを崩しそうなほど加速。



「送り主を探す。カレン。あてにするぞ」

「任せてー!」


 さて、こんな手紙を送りつけやがった奴の意図を探るか。



「おい、習!殺すなよ!」


 ディナン様の声が聞こえた。かなり離れていたが…、『身体強化』様様だな。



 ま、こちらとしてもあった瞬間にぶち殺したりなんかしない。野蛮すぎる。人違いという可能性もなくはない。…人違いであっても、誘拐は罪だから捕縛確定だが。人違いじゃなければそん時はそん時だ。



「おとーさん!おかーさん!あったよ!右!」


 あれか。かなり遠いな。だが、確かに砂漠のど真ん中に突如出現した違和感しかない洞穴の入り口がある。入り口周辺に、歓迎でもするかのようにこっちの言葉で「ようこそ」と、文字が踊り狂っているところに逆にセンスを感じる。



「突っ込め」


 俺の声に答えるかの如くセンは高く嘶いた。



 中に突撃してみると、異様な空間が広がっていた。ただ地下へ地下へと続いているだけ。だが、底から何とも形容しがたい雰囲気が漂ってきている。



 そこを目指し、ガラガラガラと車輪が音を立て進む。



 そして、底にわざわざ作ったと思われる異様な扉。



 これは……、シャイツァー?



 ここの神は甘いと考えたことはあったが…、案の定か。図書館にはそんな記述はなかったが……、アークライン神聖国だった。隠蔽されて当然か。



「ゴゴゴ」


 自動ドアなのか重厚な開閉音とともに扉が開く。扉の隙間から耳を覆いたくなるような動物、人間、老若男女の区別なく、怨嗟の声が漏れ出てきた。思わず顔がしかめっ面になる。



 ドアから中を伺うと、舞台のようなところに向かって色々な黒い人や動物の形を取った精巧な模型が苦しむように身をよじりながら怨嗟の声をあげている。ただし、聞き取ることはできない。



 いや、正確には、「全てが他の声と混じってしまい意味をなした音として拾えない」か。故に、ただただ声に苦しみ、辛み、恨み、諸々が混じっているということがわかるのみ。



 ゴブリンに…、アロスっぽいものもいる。



 完全にドアが開ききると、奥にいた黒いローブを纏った人間…、フードで分かりにくいがおそらく男。その線の細い男が最前列から、後方へ移動しながら口を開く。



 漏れ出る声がうるさくて内容がさっぱり聞き取れない。だが、この声は聴いたことがある。スポルトに入った時の「ミツケタ」という声。そのものだ。



 男はこちらの反応がないのを不思議に思ったのか首を傾げると、何かを悟ったのか手をポンとすると、腕を振った。



 途端、怨嗟の声が止み、全ての模型が消え去った。舞台の中心には、女性用の服が落ちていて、その上に微かな光の塊が力なくフヨフヨと漂っている。それは、声が止んだためか心なしか安心しているように見える。



「私としたことが失礼。歓声のせいで恩人の声を聞き取れないとは」


 やれやれと首をふる男。今、何言ったこいつ!? 歓声…!? あれが!? あの模型…、生き物と呼ぶのもおこがましいような生命体らしきものがあげるあの声を歓声と言ったのかこいつ!?



「ああ、獣人どもですか?ちゃんと生きていますよ!もう少し遅かったら彼女を讃えてもらうお仲間になってもらおうと思っていましたけどね。右側をご覧くださいな。そこで眠っているでしょう?この歓声は彼女のもの。彼らが受けるものではないのデス!」


 俺ら無反応を勘違いしたのかそんなことを男は言う。



 ふむ、確かに。気絶しているだけのようだ。被害者は2人。最悪、抱えて脱出出来る。



 獣人が普通の人と比べて何が違うかなんて知らない。けれども、普通の人間基準で見る限り問題はなさそう。幸い、シャイツァーの外側にいるようだし。



 男は手を広げ、待ち受けるような体勢になり、



「さあおいでアネリ!」


 悲痛な声で叫ぶ。だが、この場にそんな人はいない。



「アネリ!?私だ、カネリアだ!」


 ますます悲痛な声で叫ぶ男…、もといカネリア。カネリアが「アネリ!」と叫んだ時、微かに存在を主張するかのように光が揺れた…気がした。



「アア。そうか。ソうカ!君は私ヲ…、忘レてシまっタンダネ!」


 叫び声をあげるカネリア。雰囲気が変わった。来るか…。



「歓声を、歓声ヲォォ!アネリのタメニ!」


 部屋の中央から先ほどまで苦悶の声をあげていた動物やら、人やら、蠅なんかの虫までもがヌルヌルと立ち上がるように出現する。魔獣や魔物までいる。今も頭に血が上っている自覚はあるが…、さらに血圧が上がりそうだ。ああ、準備が整うのを待ってやる必要もなし、攻撃するか。



「聖魔法でいいよな?」

「良いと思います。あれはたぶん…、惨殺された命ですから。せめてもの弔いです」

「…それならわたしの鎌もいけそうだよ?」

「なら叩き斬れ!」

「手数は多いほうがいいです」

「ボクはー?」

「援護を頼む。出来るだけ聖魔法、もしくはアイリの鎌で仕留めてやりたいが…、こちらが死ぬとお話にならん。全力で行け。来るぞ」



「「『『聖弾』』」」


 魔法はファイヤボールの聖魔法バージョン。大きな光の弾を回転させ、スピードを付けたうえで射出する。紙からあふれるようにして飛び出した光の弾は、



 出てきたばかりの命を包み消えてゆく。そして、アイリは鎌を右、左。そのたびにごとに首や胴体が切断され、黒い生き物は活動を停止する。



 カレンは俺達3人がカバーしきれない端の部分の生き物を適宜、射抜き無力化。



 カレンにやられた生き物は別として、俺達3人にやられた生き物たちのあげる声は穏やかで、顔は「やっと眠りにつける」という安らかなもの。



 四季の考えは間違ってなさそうだ。それはそうと、心なしかこちらの威力が低いような気がする。…怨念の影響だったりするのだろうか? さもありなん…。



「まだマダ!歓声が足リヌ!もっと歓声を上ゲルのダ!」

「まだ増えますか…」

「やることは変わらん。減らせ減らせ」

「ですね…」


 増えるそばから減らす。そうしていると力押しが通じないと悟ったのか、口を開く。呪文か?



「貴様ラァ!無垢なル観客達を殺しテ何も感じないノカ!?」

「お前にだけは言われたくないな」

「激しく同感です」


 気勢がそがれる…。



「ヌウウウ!何故ダ!私はこの観客たちを此処ヘ招待シタダケダ!」

「その方法が問題なんだよ!」


 殺して集めるなんて正気の沙汰じゃない。ちっ、減っている気がしない。人よりも動物のほうが多めか? だからなんだという話なんだが。


「…お前、いくら殺した?」

「失礼なヤツダナ。私は招待シタダケダ!」


 ダメだ。話が通じそうな気配がない。



「では、一体いくら招待したんです?」

「フフフ聞きたいか!人間は1000以上ダ!動物や虫ドモハ数えていない!」


 ……。



「処理が間に合わない!気を付けて、二人とも!」

「ああ!」


 数が多くて、無傷で地面に立てるやつが増えてきた。



「ハハハハ!準備!完了!アネリをこの手に取リ戻スゥゥウゥゥ!行ケ!観客共!アネリにオ前達ノ声を聞カセろ!」


 一斉に黒いモノ達がこちらに向かって行動を開始する。ああ、イラつく…! 何故だかこいつの言動が癪に障る! 四季をチラリとみると、四季も顔にいら立ちが出ている。だが、そんな時、



「…わたしは有象無象の声なんかいらない。お父さんとお母さんの声が聞ければそれでいい!」


 アイリの声が響き、その場で回転して薙ぎ払う。そして、あいつに突貫する。…イライラしている場合じゃなかった。



「カレン!あいつ見てろ!アイリを補助する!」

「だいじょーぶだよ!もうロックオンしたからー!」

「よくやった!じゃあ任せた!」


 四季が紙を使い切る前に、新しい紙を差し出してくる。



「「『『聖弾』』」」


 光の弾がアイリの背後を取ろうとする生き物を消滅させる。



「できるだけ早く掃討するぞ」

「はい。長く聞いていると気が滅入りそうです」


 黒い生き物の声が耳障りだ。意味はわからないがな。アジトで見た限りかなりいたぶっていたのはわかりきっている。が…、どれほど非人道的な行いをすればここまでになるのだろうか。精神攻撃作用があると言われても信用できる。



 何か来る! しゃがんで回避。



「ごめんねー。撃たれちゃったー」

「避けたから問題ない」


 そもそも一人で封殺しきるのは無理があるのはわかってたからな。



「せめて、アイリちゃんの方にはいかないようにしてくださいね」

「私ノ!アネリヲ!別ノ名デ呼ブナぁぁァァアア!!イけいケ観客達!彼ラにもアネリヲ讃えテもラうノデス!お前らモ!讃えロ!『アイドンジャロイデ』!」



 ガキン!



 まるで何かのスイッチが入ったような音が鳴る。思わず音のした壁面や足元を見るとそこには記憶に鮮明に残るアレ──2つ目のアジトで大量に目にした忌まわしき杭や棘──があった。



「イケ!」


 真下に出ないだけマシだが、数がヤバい。アイリを守りつつ迎撃しながら回避。それが出来るか? ……いや、出来なくてもやるしかない。



 四季は何を言わずとも紙を変えた。『聖弾』ではこれを迎撃できない。おなじみ『ロックランス』だ。



「「『『ロックランス』』」」


 前から飛んでくる槍を残らず叩き落とし、後ろから飛んでくるモノも撃墜する。アイリに飛んで行かせてなるものか。上下まで潰す余裕はない。が、自力回避できる。娘のためと思えば、この程度、へでもない。 



右、右。前。左。左。上。しゃがむ。後ろ。って、何であいつアイリも狙ってやがる。



「危ないです!習君!」


 四季に肩をガッと掴まれ、無理やり体を捻られる。杭が俺の肩の上を通り抜ける。そして、四季が指さす方向を見る。



 !? アイリに槍が当たる! 消えろ!



 変な体勢だが、四季がそのまま俺を掬い上げる。俺はその場でくるりと一回転。後続も避け…れない!



「うぐっ」


 !? 痛いな!? 掠っただけだぞ!? 思わず声が出た。俺に掠った杭は欠けている。脆いな。



「『回復』」


 四季がすかさず回復してくれる。



「ありがとう!」


 痛い以上の影響は…、微妙に違和感がある。ああ、あの杭と同じ感じか。…言葉に出来ないこの違和感は何だ。それはともかく!



「掠るのも出来るだけ避けろ!何か細工がされてる!」

「アジトの杭だからでしょうか?」

「かもな!それより…、カネリア!何故アイリも狙う!」

「アイリでハナイ!『アネリ』ダ!間違えルンじャナイ!」


 ああ、イラつく! この野郎…!



「で、何故なんです?」


 ただでさえ冷たい顔だった四季が、より一層冷たく、険しい表情で杭を避け、叩き落しながら問う。



「そんナの!『アネリ』を取り戻しタイカらにキマッてルジャなイカ!」

「は?意味が分からない」

「殺しても構わないと言いたいのですか?」

「そのアネリはアネリでアッてアネリでハない!」


 なるほど。殺す。



「「『『ウォーターレーザー』』」」


 触媒魔法だ。死ね。って、あぁ! 情報搾ってない! 紙から水が出る前に無理やり軌道を変えた。光の塊の真下の舞台をえぐり取って、シャイツァーであるはずの壁まで貫いた。



「お父さん!お母さん!短絡的すぎる!」

「らしくないよー。落ち着いてー」

「ああ、すまない」


 確かにらしくなかった。



「…お、…おう?」


 唖然としていたカネリアだったが後ろを見ると、奇声をあげてえぐられた舞台へ…、というよりかは、光の塊に駆け寄る。



 本人がそんな状態でも攻撃が止まない。その点は評価してやろう。当たるはずもないが。



「ああ!アネリ!アネリ!大丈夫かい!?」


 舞台上の光の塊に駆け寄っていく奴に一撃を加えたいが…、先に減らそう。触媒魔法なんかじゃ殺しかねん。そして情報を搾り取る。



「ああアアああああぁぁああァァアァああああああぁぁ!」


 もっとも…、発狂しているあいつと会話が成立するかは未知数だが。



「アア!ああ!アネリをこの世ト繋ぐ杭ガ!杭ガ!モウ一度やルか?…それだと、アネリが死ヌ!どうするドうスルドウすル!」

「お前今、アネリと言ったか?」


 聞き捨てならない言葉があった。



「アア!ソウサ!こレこそがアネリの魂そのモの!こコは私の願いの具現!アネリを

コの世界に留め続ケル鎖!そレがお前たチに砕かレたモノ!」


 光の塊の足元でただただ狂乱するカネリア。



「お前、あの光の塊がアネリさんだと?」

「アア!ソウサ!ソウダトモ!私が彼女ヲ間違えルモノカあああアアあアあ!」

「ならば、このアイリちゃんは貴方にとって一体何なのです?」

「アネリだ!アネリの生き写シ。まさにアネリの魂を入レる器ニ相応シい!そして、私トとモに二人デ歓声ヲ浴ビるノだ!生前ハ不当にも受けらレナカったアノ大歓声ヲ!」


 アネリさんを見つめながら、大きくその場で一回転。はらりと奴のフードが落ちた。ガリガリの筋張った体…。ああ…、既に死にかけか。



 たぶんアネリさんは記録から抹消された人。おそらく目や髪を隠し、女優を志した。だが、露呈してアウト……そんな感じだろう。



 …エルモンツィの因果はアイリと何も関係ないところで相変わらず付きまとってくる。



「こうなれば…!早急にアネリをたたキノめし、真のアネリを取り戻す!」


 もはや何も言うまい。



「アイリ!戻ってこい!」

「もう戻ってるよ。お父さん。お母さん」


 ナイスだ。殲滅もほぼ終わった。現在進行形で杭を俺達にひたすら落とされている奴に打つ手はない。情報を搾る。



「モット、モット魔力ヲ!」

「お前、これしか出来ないのか?」

「ソウダトモ!このシャイツァーが出来るノは魂を繋ぎ止メルこと。たダそレノみ!他は全部私ノモノだ!」

「あの杭の魔法もか!?」

「杭…?ア、アレか!アレはシャイツァーにツイていタノをいジッた!良イ観客を集めらレル!」

「では、盗賊は?アジトに杭があった以上、無関係ではありませんよね?」

「盗賊?アア、観客を集メる実ニいい隠れミノだッた!元かラの屑も!潜在的屑も!ミーンナ!アネリのタメニ、行動しタ!何と素晴ラシい!皆がアネリを讃えタノダ!」

「あ?お前…、出来たならば、そんなまどろっこしいことせずに、速攻で観客にしただろ」

「当然だとも!私ガ未熟ダッタ!ソシテ、今モ!」


 攻撃が激しくなった。だが、無駄だ。多少本数が増え、強度が増したところでこちらの守りを突破できるわけがない。



「あああァァあああああああ!」


 こっちにはまるで被害がないのにも関わらず、他に手段がないためにただひたすらに杭を打ち出すカネリア。実際、杭の数、サイズ、速度。すべてが増えてはいる。それでも、こちらの許容量を凌駕することはない。



「私ハ…、私の望ミのタメニ折れるワケにはイかナイ!」


 強烈な一本。速度も速い。打ち落とすには一苦労だが、避けてしまえばおしまいだ。

そろそろ限界だろう。魔力が大量にあるならば別だが…、勇者でもあるまいし、そこまであるはずがない。もはやフラフラだ。



「マダ…、マダぁアアあ!私は…、ワタシハァ!」


 …魔力を使いすぎると気絶する。これは、体の防衛反応であり、同時に、これ以上使いすぎないための最後の砦。カネリアは今、そのラインを超えた。体の末端…、指先が朽ち、土くれのように崩れ落ちた。



「それでも…、私ハ!わたシは!アネリと一緒ニ…!」


 アイリとカレンは慌てたように質問を投げかける。



「盗賊に別のアジトの情報を共有させたのは何でー?」

「アア?観客ガ集めやすいかラダ!」

「…催眠かければ聞き出せるから?」

「ソウダよアネリ!」

「じゃあ、チヌカはー?」

「チヌカ?チヌカは死ね!あいツラさえいナケればコンナ事にハ…!……チヌカ?ソウダ!」


 妙に喜色の混じったソウダ!という声。



「グォン!」


 不気味な音が部屋中に響き渡った。不味い!



「四季!」

「はい!触媒魔法で!」

「「『『ロックランス』』」」


 サイズは直径3 mほど、かなり先の尖った槍がカネリアめがけて飛んでいく。



「避けられた!?」


 正確には光に包まれ消えたのだが。



「まずいです、習君。今のでシャイツァーに致命的なダメージが入ったようです!」

「…崩れるよ!」


 マジかよ。



「撤退する!獣人の二人は?」

「もう乗せたよー!」

「なら、出る!」


 センのひく馬車に乗り込み、脱出!



 壊れたのはシャイツァーのみ。部屋から出てしまえば大丈夫…のはずだが、寒気が止まらない。



「砂漠まで出る、構わないか?」


 全員頷いた。よし。



「セン!」


 それだけで先ほどの加速なんて目じゃないほど加速。



 穴から抜けきり、馬車を降りる。外に広がる異様な雰囲気に誰も一言も発さない。この張り詰めた空気を打ち破るかのように、土を完全に無視して、シャイツァーのあったところから、名状しがたい何かが現れた。

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