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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
3章 イベア
74/306

67話 さらに次

途中で視点変更を入れてみました。

習→タク→習です。

 宿に戻る。昼食を食べると、すぐに馬車の中の人となった。 話し合いとは一体何だったのか。



「すまんな。昼飯を食っていたら、新情報が来てな…」


 ディナン様にかなり申し訳なさそうな顔をされた。そんな顔をされたら何も言えないじゃん…。



「その情報とは?」

「奴隷にするのが目的の賊がいるらしい。裏で売るんだと」

「それも、出荷が間近なんですって!」


 奥さん! なんてクリアナさんが言ってるように思えたのはかなり疲れているからだと信じたい。



「出荷先を叩きますか?」

「どうやって…。あ」


 ディナン様はカレンを見つめた。カレンは任せて! と言わんばかりに胸を張った。



 ディナン様……忘れてたな? あんだけ2つ目のとき頼ったのに。やはり小さいから、無意識のうちに戦力外と考えてしまっているのかな?



「ルキィ様!計画変更だ!カレンの力を借りて、出荷先を叩く!」

「え…!?今更ですか!?私、そう言いましたよね!?」


 ディナン様が冷や汗をかきだした。怒ると怖いからねあの人。馬車の中だから逆撃うけないですむけど、後でまとめてくらうだろうなぁ。なんだかんだで、丈夫だから問題ないだろうけど。



「とりあえず、貴様ら全員寝ろ。夜中に出発らしいからな」

「まぁ…、それだけの大移動だと目立ちますものね…」


 定番っていったら定番だよね。娘たちをちゃんと寝かしつけないと大変なことになる。



 ディナン様たちと寝るのは嫌だけど妥協する。あれ? 馬はどうするんだろう?



 ま、センなら大丈夫だろう。他は、ルキィ様がいるから何とかしてくれるでしょ。



 娘たちは横になると、わりとすぐに心地よい寝息を立て始めた。俺も四季もそれを確認

すると、すぐさま眠りに落ちた。



「皆さん、着きましたよ」


 パオジーさんが優しく声をかけてくれる。馬車から外を見ると…、あれ? 町?



「町ですよね?」

「はい。サロネラブですよ。今夜の宿です」


 今夜の? ということは…。



 俺達の視線がディナン様に突き刺さる。ディナン様はツイッと視線を逸らす。目が合ったらしいルキィ様が、今の状況を見て察したのか全く笑っていない目でほほ笑んで手を振る。さらにツイッと視線を逸らす。



 ディナン様は誰もいない方向をジッと見つめてたたずむ。よし。殴ろう。これくらい許される。クリアナさん? あの人は残念な人だから…。



 ああ、別に忘れていたとかじゃないよ。ディナン様があれこれ言う前に、グースカ寝てたよ。起きていなくてもいい時に起きていて、起きていて欲しいときに寝るってすごいよね。



 一応、クリアナさんは、今回はちゃんと把握してた。今日はここでお泊りするって。だから、俺達の目の前で今、ドン引きする勢いで土下座してるわけだけど。



「私を代わりに殴ってください!」


 ハハッ。面白い冗談だ。それですますとでも? この流れ何回目なのさ。もう我慢の限界だよ!?



「「クリアナさん」」


 声をかけるとビクッと跳ね上がった。そこまで跳ね上がらなくても…。



「「八つ当たりに付き合って(ください)」」


 クリアナさんは血相を変えて逃げ出そうとしたので、首元を掴む。



「ちょ、離してください。ね?暴力はダメだと思うんです」


 知ってる。



「これはね、遊びなんですよ」

「ねぇ、アイリちゃん。カレンちゃん」


 俺達が正面から立ち去ると、準備を完全に整えた娘二人がクリアナさんの目の前に。



 カレンは矢を完全に引き絞り、その上にかなり巨大化された鎌が固定されていて、都合のいいことに偶然あった大きな一枚の布がその下に取り付けられている。



 当然、二人を間違っても切り裂かないようにはしてある。



 クリアナさんの顔が露骨に引きつり、硬直する。そんな後ろのバカ騒ぎが気になるのか、後ろをついに振り向くディナン様。



「ふっとべー」


 緊張感のない間延びした声とともに放たれた矢は、二人に直撃し、布の部分ですくい上げてそのまま大空へ。うん。これで反省してくれるでしょ。



「なかなか手厳しいお仕置きをしますね…」

「怪我させるつもりはないですからそうでもないですよ」

「感想には個人差があります」


 タク。その通販みたいな注釈やめて。



 ビューンと飛んで行った矢は放物軌道を描き、頂点で急に170°下に方向を変え、スピードを上げたかと思うと、カクンと鋭角に折れ曲がって急上昇……そんな感じの滅茶苦茶な挙動をおよそ5分繰り広げた。



 途中、何を言っているのかわからなかったが、やたらと叫んでいた。きっと楽しかったんだと思う。あっちだったら慣性やら抵抗やら考えないと死ぬけど…、こっちはある程度適当でも魔法で何とかなっていいよね。



「貴様ら…、精神病んでんのか…」

「うぅ…。地面が上でぇ~。お空が下ぁ~」

「なんて人だ」

「そうですよね。せっかくお空の旅に連れて行ってあげたのに」


 「そうだそうだ」と、娘二人も頷く。



「やべぇ、全員。連れて行ってあげたって顔してやがる…」

「恩着せる気満々ですね…。素晴らしいです」

「あ?」


 喧嘩を始めた王族の勘違いを「そんなつもりはないです」と正そうとすると、タクが声をかけてきた。



「ところで、あれの原理は?」


 娘二人を見る。本人に言ってもらった方が早い。完全に任せたし。



「…わたしの『死神の鎌』と」

「ボクの追跡機能だよー」


 おい。タク。なんでそんな目で見る。



「カレンちゃんのに名前はないのか?」

「俺につけろと?」


 ジト目で見ると、スッと視線を四季にスライドさせた。ネーミングセンスのなさは自覚しているが、若干傷つくな…。



 しかし、四季はアイリと遊んでいて。ろくに見ていない。見ないようにしているともいう。タクは大きくため息をつくと、



「俺が、」

「「却下」」

「お前に頼むと変な名前になりそうだ」

「そうです」

「何でだ!?」

獄炎龍スルトを忘れたのか?」


 露骨に「あ…」という顔をした。



「厨二が悪いとは言わん。でもさ。せめて合わせよう」

「何かのゲームでもいましたよね。スルト。宣伝で見かけた気がしますよ」

「ああ、あの。ドラゴンでパズルをぶっ壊すアレ」


 何かが致命的におかしい気がする。でも、今回は置いておく。



「話がズレてる。俺が言いたいのは…」

「でも、変形は日本のお家芸だぞ?」

「確かにそうですよね。でも…」

「「どや顔で間違われると困(ります)」」

「うぐぅ…」


 タクが凹んだ。どうせすぐ立ち直るけどな。



「とりあえず夜ですし、ご飯食べましょうか」

「気分が…」

「うぇ~い。地面がクルクル~」

「食べましょっか!」


 相手にしたくないんですね。わかります。でも、ディナン様にとどめ指したの多分ルキィ様ですよね?



 いざ宿。宿はもはや、コメントする点がない…。その場その場で一番高い宿なんだろうけど…。アークライン神聖国が悪い。



 なお、なんだかんだ言いつつも、二人ともしっかりご飯は食べていた。ドン引きである。



 だって、今日のやつ、油多かった。豚肉で言えばおそらくバラだ。表面を高火力で焼き、肉汁を閉じ込めたモノ。美味しいけど…、3つも食べれば限界。だのにそれを5つは食べていた。それ以上はこっちが気分悪くて見てない。



 アイリも同じ。かなり食べていたっぽいけど、見てるだけで負担だったから、後ろから眺めていたのでわからない。でも、たぶん二人に負けてるんじゃないかな…。



 あとパンもあった。肉のせいで一本が限界。大食い三人は知らない。



 その後、お風呂入って、寝るわけだけど…、やべぇ。寝れない。アイリとカレンは寝付いてくれたけど…。よく考えなくても、高校生が昼にぐっすり寝て、夜に寝れるわけがない。



 仕方ない。夜風にでもあたるか…。確かここ、屋上があった。そこにでも行こうか。できるだけそっと立ち上がって、そろりそろりと移動。



 もうちょっとで出口…。ん? 視線を感じる。



 振り返ってみると四季だった。だよね。寝れないよね。手招きしてとりあえず寝室から出る。リビングなら話し声が多少大きくなっても大丈夫でしょ。



「寝れない?」

「はい…。ディナン様のせいですね」

「夜風に当たろうと思うんだけど…、どう?」

「はい。行きます」







______


 寝れない。さて…。どうすっかな。ま、俺にはよくあることなんだが。寝れないなんて。



 特にテスト前にな! …習に馬鹿にされた気がする。いや…、これは…、2週間前から勉強しろという念か!? 残念だったな。俺は2週間前からやっても、基礎がグダグダだから意味ないんだ。やべ、言ってて尋常じゃないぐらい悲しくなってきた…。万一、俺がもう一回テスト受けるようなことあれば助けて、習。



 さて…、ルキィ様達もいないし…。星でも眺めてみるか。何か思いつくかもしれない。新魔法が!



 夜中でも屋上は解放されてる。治安も悪くないし…、そもそも屋上の前にも見張りの人がいる。異変があれば魔道具で分かるらしい。その人が死んだり、気絶したりしても一緒。寝落ちした場合は…、二度と勤務中に寝落ちしたくなくなるような目に会うらしい。



 お、都合よく寝落ちしそうな人が。俺の日頃の行いが良いからだな!



 起こしてしまわないようにこっそり見る。コックリ、コックリと船をこいでいる。あんな状態で仕事できるのか? 出来ないだろ…。俺なら寝る。それが授業中であろうとも!



 …何故か清水さんにまで「寝るな!」と言われた気がする。



 あ。寝そう。寝るか…? あ、完全に寝た。と思ったら飛び起きた。やべぇな…。何があった? 汗がブワッとにじみ出て来てるぞ?



 なんて思っていると、グリンとこちらを見た。ホラーである。そして、すごくいい笑顔でほほ笑んでくる。口が動いている…。なになに?



 「こ・っ・ち・こ・い」なるほど。激おこぷんぷん丸だな。当然異世界語だから口の動きは日本語と一致してない。



「寝かかった私が悪いんですけど…。これ、近くに人いればいるほど、つらいらしいんですよね…」


 目が死んでるぜ!



「はぁ。それで何でしょう?」


 俺の答えが気に入らなかったようで、目を吊り上げて、



「貴方のせいでかなりつらかった…!」


 胸を掴みあげて、小声で絶叫するという素晴らしい技。かくし芸としては満点だ。



「聞・い・て・ま・せ・ん・ね?」


 ギチギチ締め上げられる。でもなぁ…、全然痛くない…。



「むぅ!他に人いますよね!?二人ぐらい!?」


 諦めたか。だが、他に…?



「いませんけど?」

「嘘だぁ!?」


 力こもりすぎだ…。動画で貴方みたいな言い方してる人見たことあるよ。ネタにされてたけど。



 とりあえず、屋上のドアを開ける。あ、先客いるじゃん。声が聞こえる。習と清水さんか? こっからじゃ見えない。こっそり聞いてみよう…。



「痛くなかった?」

「はい…。大丈夫です」

「本当に?『回復』」

「大丈夫だと言っているのに…。で、もう一回お願いします」

「もう?いいよ」


 あいつら何やってんだ。こんな夜中に…、しかも外で!



「行くよ」

「はい。お願いします」


 その瞬間、空気が変わった。これは…。急いでそっと隙間から覗き込む。あぁ、なるほど。



「何やってんですかあの人達。というか、私、あれに気づけなかったんですか…」


 落ち込む受付の人。



「そういうこともありますよ。バロンさん」

「何故名前を?」

「書いてありますよ?」


 胸の名札を指さす。きっちりバロンって書いてある。ぶち込まれた魔法が仕事してるぜ。



「これ私の彼のやつ…。私はシエスタです」


 …シエスタ? 俺でも知ってる。シエスタとはスペイン語で昼寝だと。受付で寝かかっていたことから、何か運命的なものを感じる…! 偶然だろうけど。



「あのー。聞いてますか?」


 聞いてるわけがないじゃないですか。



「イケメンなのがむかつきます…。で、あの二人は知り合いですか?」


 小声でも聞こえてるんですよねー。褒められている気がしないがま。



「知り合いですか?」

「はい」


 なんで重ねてきたし。シエスタは言いよどむと…、



「なんで殺し合いしてるんですか?」


 と言った。わっと? え? 殺し合い? 二人が?



「あれは訓練ですよ」

「は?」


 今度はシエスタが目を丸くした。そこまで驚くことじゃあるまいに…。



「どう見ても、一発一発に力が籠っていますけど?」

「寸止めしますよ」

「弱点ばっかり狙ってますけど?」

「寸止めできます」


 たぶん。あれ? アークラインじゃ全力で殴られたな? そんであいつら『回復』できる…。



 ……普通に殴りかねんな。ん? あっ。さっきの会話から考えるに普通に殴ってるわ。自力で復帰できるレベルなら許容範囲内か。こええ…。



「…嘘ですよね?」

「本当です。うちの流派の基本は寸止めです」


 内心の考えをできるだけ悟らせないように答える。俺が嘘つきになってしまうからな。



 ま、習が一番上手なのは事実。門下生は俺と習と先生の血縁だけだけどな! 清水さんは知らねぇ。「因縁が…」とか先生が言ってたからたぶんそっちでやってたんじゃない?



「訓練の定義が…」

「あっちの方が正しいでしょ?」

「え?」


 あれ? おかしい?そういえば…、高校で体育の時間に二人で本気でやったら引かれたな…。先生にも、



「出すのは殺る気ではなくて、やる気ですよ?」と心配された気がする。主に習が悪い。一緒にいれば大抵何考えてるかわかるしな。あいつ。



「勇者様の世界はすごいところなんですね…」


 なんか変に納得された。訂正は…、いいか。面倒だ。



 習がペンを清水さんの右胸めがけ繰り出す。清水さんはそれを予期しているかのようによけ、頭を回し蹴り。だが、習もそれをしゃがんで回避。首めがけて剣を振るう。清水さんはそれを受け止め、思いっきり弾き飛ばす…。って、待って。こっち来る!?



「戻って戻って」


 シエスタを巻き込まないようにとりあえず宿屋に押し込む。俺も入ろうかと思ったけど、習が姿勢を立て直しているのが見えたのでやめる。



「あれ?タク?何やってんの?」


 戦いの最中に気づけよ。あぁ、まぁ、無理だよな。







______


 タクがいたから、こうなった理由をかくかくしかじかと説明。



 タクは俺達の話を聞くと、北の端っこへ歩いて行って、そこから街を眺める。しばらくの間、そうしていたかと思うと、



「なぁ、習。清水さん。あっちに砂漠が広がってるんだよな…」


 と言った。



 何言ってんだこいつ。一瞬だけそう思った。あまりにもこいつらしくなかった。



 でも、すぐに「俺達の心配してくれてるのか」と察した。次は砂漠越えだ。



「だな。でも、タクが思ってるのとは違うぞ。たぶん」

「なんで?」

「地球にある砂漠の大部分は岩石砂漠らしいからな」

「知ってる。サハラとかの砂砂漠の方が珍しいんだろ?」


 二カッと笑う。こいつめ…。雑学的なことは結構知ってるんだよな…。



「でも、ここは異世界。よく似ていても向こうとは違う」


 真剣な顔つき。それはよくわかってる。魔法とかあるからな。



「心配はしてないけど…。死ぬなよ」


 いつになく真剣な顔。でも……、悪いが笑いを抑えられない。似合わなさすぎる。



 俺が笑い出すと、四季はおろか、タクまで笑い出した。自覚あったんだね。



「あ、笑っちゃダメじゃん。夜だ」

「それは心配いらないぞ。ここ、防音設備完備。訓練し放題」


 そう答えると、タクが頭を抱えた。黒歴史でもほじくり返されているのだろうか?



「ま、ともかく。この問題が片付くまではやるさ」

「どこまでも広がっていきそうですけど…」

「おそらく明日からの流れで、ほぼ終わるでしょ」


 タクが楽観的な意見を出す。終わるかねぇ…。終わるといいけど。あ、あくびが…。



「習君眠そうですね…。ふわぁ…」

「四季もだね。眠くなってきた。風呂入って寝るよ」

「私もそうします」

「俺はもうちょい、星を眺めてるわ」

「そか。また」


 そう言って、俺は部屋に戻る。風呂に入ってベッドに戻ればすぐに睡魔が襲ってきた。

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