65話 手掛かり求めて
64話あらすじ。以下、前の話のネタバレです。
アジト前に落とし穴。中はグロかった。
生き残りを捕まえにカレンの指示で動くと、生き残り発見。でも、ディナン様に罠が反応。
ディナン様がシャイツァーである「心臓」を用いた、爆発で罠を強行突破すると、生き残りもアジトの一部もお亡くなり。カレンが見れなかったところに踏み込むと、そこには先ほどの光景が生ぬるい地獄が…。
こんな感じでした。
洞窟を出るとクリアナさんがアジトを埋めた。何を言っているのかわからないと思うが、彼女が誰に指示されることもなく仕事をしたのだ。
出てきたばかりの俺らも、待っていた近衛も、一様に信じられない。と言わんばかりにクリアナさんを見つめる。
「私だって、やればできるのです!」
「その機会がなさすぎるのが欠点だがな!」
「ちょっと、ひどいですよーもー!」
ぷくっと頬を膨らませるクリアナさん。それが面白かったのか、ルキィ様が思わず吹き出すと、一帯は笑いに包まれた。
「よい気分転換になった」
「心機一転…とはいきませんがね」
「次はアゴンか」
「当然、今日中には無理ですよ?」
「わかってる。カレン、道はわかるか?」
ディナン様に聞かれたカレンは今まで聞いたことのないような「あ゛」なんて声を出した。
……。
「わからないか」
「来た道をたどりましょう」
「ごめんなさい。ボク、最短距離で突っ込むことしか考えてなかったから道なんて覚えてないよ?」
「それにこの土の質では轍も残っていないかと…」
俺の言葉でさしものディナン様も困った顔になった。
「仕方ありませんね。私が人肌脱ぎましょう!」
口では仕方がないと言ってるけど、やる気満々だな。だが、その顔も、
「いや、結構」
「酷い!」
ディナン様に即却下されて崩れた。
クリアナさんだし、仕方ない。なんて考えているとそのまま凹んでりゃいいのにクリアナさんはめげずに立ち上がって、
「今こそ、母に伝授された奥義を使うときです!」
などと宣う。奥義…? クリアナさんだから予想もつかないほど間抜けなモノか、驚くほどすごいものどっちかだろう。
「目的地は東です!ですから…、太陽に背を向けて…右に行けばいいんですよ!」
言いながら太陽に背を向けて右手をあげた。……この人に一瞬でも期待した俺がバカだった。
「こっちが東です!行きましょう!」
意気揚々と一歩を踏み出す彼女を、
「馬鹿。そっちは南だ」
襟を掴んでディナン様が止める。「グボォウォエ」とかいうヤバい悲鳴が上がったがディナン様は気にしない。
それどころか涙目のクリアナさんの抗議をガン無視して、方位磁石のような器具をクリアナさんに見せて呆れたように肩をすくめる。
クリアナさんは膝から崩れ落ちた。何回目だろう、これ…。
太陽の運行は地球と変わらない。東から出て南を通り西に沈む。だから、クリアナさんの言ってた扇は間違いではない。……時刻が昼であれば。今は夕方だから、背にしていたのは西だ。
「で、でも奥義はそれだけじゃないんですよ!?」
「お…おう」
喰ってかかるクリアナさんにディナン様は少し、いや、かなり引いている。
「わかった。わかったから。話せ」
「とりあえず東に行きます」
「で?」
「大きい道に出ますよね?」
「ああ」
ここでの大きい道は…、アークライン神聖国と首都スポルトを結ぶ道のことだな。
「それをたどっていけば町に着きます!」
ドヤァ…。という言葉がクリアナさんの背後に幻視できた。奥義 (笑)だったか。すっごいアナログだ。
だけど、俺も一回、街中で鬼ごっことかいう今考えると危険極まりない遊びをしたときに、鬼に追いかけられて迷子になったときに使ったな…。
その時は町の境に流れていた川を目印にしたっけ。川の周辺はよく知ってた。家に帰ったら当然のように怒られたけど。
街中の鬼ごっことか、飛び出しの原因にしかならない。やらないほうがいいだろう。やるなら、学校の校庭とか公園ぐらいでいい。そもそも街中とか広すぎて見つけられない。
逃げまくるテレビ番組でも、全く見つけられなかったからか、後半のほう10分ぐらいカットされたりする。しかもあれ、広いとはいえ、範囲が決まっててそれ。際限なしとか、ムリゲー。
でも、最初はルールがちゃんとあったはずなんだけど……。誰かが捕まるの嫌がって公園から出たからだったか?
タクと目が合った。同じことを考えていたな。親指をグッと立てられたし。
ん…? あ、こいつだわ。街中鬼ごっこの発端。自然とジト目になる。こら、目を逸らすな。しばらくそうやっていたら、
「ま、それでいくか」
「ですね…」
話しがまとまっていた。それ以外に方法は…。ん? 俺のすぐそばで砂煙と「すたっ」という軽快な音があがり、
「このまま真東に行けば大丈夫だよー」
砂煙の中から、カレンがニコニコとした顔で言った。手には弓が。まさか…、普通は考えてもやらない移動方法使った!? 何してるの!?
「…カレン、前の時もやってるよ?」
マジか…。というか、いつの間に? いつの間に矢で飛んだ?
「え?クリアナが奥義云々言い始めた時だよ?」
かなり最初だった。
「町名は…」
「わかんない」
「だよな。我でも上から見ただけじゃ無理だ。たぶんディブラッタか」
馬車に乗り込み、カレンの見た街目指し、ガタガタな道を一路ひた走る。なんとか閉門前に着いた。ディナン様の読み通り、ディブラッタだった。
有無を言わさず一番高い宿に突撃。宿屋を混沌に叩き落しながらも、部屋を借りて一夜を明かし、再び馬車に乗ってアゴンへ突き進む。
……誰だルキィ様に酒を飲ませたのは。
昼頃にアゴンに到達。ディナン様には既に場所がわかっているらしく、一旦町で昼食。
かなりせかされたので味わう余裕もなかった。それでも誰も文句は言わない。皆、ラナドのあの光景を作った奴が許せないのだ。
「よし、行くぞ!」
食べ終わるなり、ディナン様は叫んでクリアナさんをお姫様抱っこで担いで走り出す。
クリアナさんの顔が朱に染まる。なんだかんだでやっぱり惚れてるんじゃないだろうか? ディナン様にその気はないだろうけど…。
「ブルルン」
なんかセンが近くまで来てくれている。あのディナン様を見て来てくれたのか。
「乗りなよ」という目をしてくれるのはありがたいんだけど…、4人もどうやって乗るの? などと思っていたら娘たちの行動は早かった。
俺と四季をさっさとセンに乗せると、自分たちと俺達を紐で縛って、センの上に。その「安全性? ナニソレ? 美味しいの? 」状態で、アイリの声でセンは走り出す。あまりの早業に止める暇もなかった。
「待って待って。これ危ないぞ!」
「「わたし(ボク)達なら大丈夫!」」
……。何も言えない…。後ろを向くと四季と目が合った。なるようになるか…。
アイリは俺の前。カレンは四季の後ろ。そこで立っている。かなり危ない。
紐? そんなものが何の役に立つ。地面に落ちればそのまま引きずられることになるし、地面に落ちない長さだと、今度は空中を引っ張られることになる。だから止めたんだけど。
「危ないからやっちゃダメ」は、今の二人には無意味な言葉。
俺達はセンに揺られるだけ。というか、下手に動くと娘が危なそうで動けない。
アイリはディナン様をちゃんと見ていて、カレンはカレンで矢を地面に突き刺して目印代わりにしている。きっと後続のルキィ様達のため。あの人ならきっと馬車なりなんなり用意してくれるだろう。
「…それにしても早いな」
「ですね…。センが遅いわけではありませんし…」
「…ん?セン若干遅いよ?4人も乗ってるし、わたし達が落ちないように配慮してくれてるもん」
この前、一緒に爆走したアイリが言うなら間違いはないか…。となると…
「あの人かなり早いな」
「少しずつしか距離を縮められませんからね」
「シャイツァーか?」
「心臓ですしね、常人なら耐え切れない心拍数を出せるでしょうから…」
「それだと血管はどうなるのー?」
普通、圧力に負けて破れるよな…、特に足先、指先の毛細血管。
「なら、そこも含めてシャイツァーになっているのかもしれない」
「もしくは、シャイツァーが何とかしているかですね」
「…二人とも自力で何とかしているとは言わないのね」
あの人に限ってそれはないだろ。まっすぐなのはわかるんだけど。
追いついた後、ルキィ様がまだ来ていないと伝えると、露骨に「あ」という顔をした。忘れてたか。そんな気がしてたんだ。
「だが、もう着いたぞ」
言い訳するように大きな声を出して、指をさす先には、ちょっと大きな池。周りにはちょうど都合よく、木々が生えている。オアシス…かな? そんなところに賊がいる。
「数も少ない、我らだけで事足りるだろう」
「なんでここまで目立つ、弱い奴らが放置されてたんですか?」
ディナン様とクリアナさんはツイッと目を逸らす。ここでふざけて見つかるのも馬鹿らしいので追及は諦める。終わってからでいいだろ。
「作戦は簡単。四方から袋叩きだ。組み分けは…、シュウとシキ。アイリとカレン。我と…、クリアナ?」
「「「「ダメでしょ」」」」
「だよな」
何回この流れをやるんだよ…。
「ブルルン!」
「ん?貴様が手伝ってくれるのか?なら、クリアナを頼む。じゃあ、またあとで」
言うと、そそくさと移動してしまった。
「私は…」
「「「「貴方はここにいて」」」」
「ブルルゥ!」
センにまで賛同されてかなり凹むクリアナさん。…誰にも迷惑の掛からないタイミングで特訓すればいいと思うよ…。
ディナン様は性格的に一番遠いところに行ってくれたはず。だからこの場で別れる。
「頑張ってな」
「怪我しないでくださいね」
声をかけて移動開始。……怪我しても頑張るっていう顔はやめてほしい。死なれたら泣く。
「移動し終わったけど…」
「合図なんでしたっけ?」
「聞いてなかったな…」
というか、伝えられていない。どうすんだこれ。あの人、全方位爆発だから伝える手段もない。
「バレないように近づいておこうか」
「ですね。あの人がわざわざ合図を伝えに来るなんて考えられませんし」
「だよなぁ…」
近づきすぎるとバレるから注意しないと…、と思ったら爆音があがった。
「あの人、攻撃始めたぞ!」
「ですよね。どうせこうなる気がしていました!」
俺らなら合わせてくれるでしょ。そんな信頼はあんま嬉しくない! しばらく走るとテントが見えた。…剣で切り裂くか。
剣を振るって、テントを裂くと、四季はその裂け目に身を滑りこませた。
俺が体勢を整えて突入すると、中の賊をさっくり気絶させていた。
無事みたいだ。と、考えた瞬間。盗賊がどっとテントに入ってきた。ああ、もう!
ペンと剣を殺さないように振るうと、あっという間に片付いた。
テントから出るとそこら中に盗賊が。たぶんこちらに逃げてきたのだろう。彼らの背後には、先ほど別れた面々がいるし。
敵が逃げてきたおかげで、後は作業。魔法を使わずとも、魔力を潤沢に用いた『身体強化』で気絶させ回る。しばらく四季と、アイリと、カレンと一緒に戦っていると、相手方は降伏した。
降伏した賊に手伝わせて、遠くで気絶した面々を一か所に回収する。生憎、縛るものの持ち合わせがアイリとカレンが使っていたアレしかないから、漁って見つけたやつも使う。
全員縛り終えて、家族みんなでのんびりとオアシスを眺めていると、ルキィ様が到着した。馬の顔色がかなり悪い。かなり無理をさせたようだ。
ルキィ様が上品にタクにエスコートされて降りてくる。が、俺達の背後の光景を見て盛大にため息をついた。
「シュウ様、シキ様。それにアイリちゃんとカレンちゃん。お疲れさまです。助かりました」
と頭を下げ…、
「貴方はもう少し周りを考えたらどうです?」
「急ぎたかったからな。仕方あるまい」
ルキィ様は「ぐぎぎぎ」といかにも何か言いたそうな顔になったが、言っても無駄だと考えたのかすぐに元の顔に戻った。
「遅かったな」
「誰のせいだと思ってるんですかねぇ…」
ルキィ様だけではなく、その場にいた全員の冷たい視線がディナン様に突き刺さった。
「えー、ああ。すまなかった」
ディナン様が頭を下げた。もはや恒例行事と化してきた。
「ルキィ様。何故ここまで遅かったのです?」
「それはですね…。馬車を引っ張って来るのに時間がかかったのですよ。馬を引っ張って来るのに時間がかかってしまいましてね」
「そもそも貸してもらえるような馬がいなかったんだ。盗賊のせいで」
あー。馬貸屋さんなんてものがいたとしても、貸した人が盗賊にやられて、馬がいなくなってしまっているのか。
「俺ら、人を殺したことないぞ!?」
「知るか!後であっちで存分に聞いてもらえ!」
「本当だって!最近入ってきたやつらは殺しやがったやつもいたけど!」
どういうことだ? 詳しく話を聞きたいが、もうディナン様とクリアナさん。そそくさと馬車にぶち込んでるからなぁ…。もう少し丁寧に扱ったほうがいいと思うんだけどなぁ…。
「貴方。雑です。証拠を破壊したいのですか?それとも頭の中身がないだけですか?」
ルキィ様が止めに入ったけど…、人扱いすらしてない。異世界だしこういうこともあるか。そして罵倒も忘れない。
なんなんだろう、この二人の関係。夫婦漫才をしているようにしか見えない時もあれば、ルキィ様がディナン様の母親に見えることもある。
……本人には言えないけど。母親なんて。アイリやカレンの母親なら喜んで引き受けそうだけど。
「なんだお前ら…。またロクでもないこと考えているだろ…」
「失敬な」
「そうですよ。失礼ですよ」
ほぼ当たっているけど悪あがきしてみる。タクは、
「じゃあ、言ってみ?」
いじわるそうにほほ笑む。ダメだ。通じない。
「ん?ほら」
追撃までかましてきやがった…! 諦めて手招き。しゃがめ。よし。
「ディナン様とルキィ様が、夫婦に見えたり、親子に見えたりするよねって話」
正直に言ったのに、ものすごい呆れた顔をされた。だから、言いたくなかったんだよ!
「誰が、誰の母親と?」
なんでルキィ様に聞こえてるんだよ! とりあえずタクは逃がさない! 腕をがっしりホールドしてやる。死なばもろとも…!
「ちょ、習。清水さん。離して!俺関係ないよな!?なぁ!?」
大いにある。お前が聞かなきゃこうはならなかった。
「こいつらぁ…、またろくでもないこと考えてやがる…!」
「拓也様。何を話しておられるのですか?」
「ヒッ」
タクが珍しく恐怖で変な声を出した。とりあえず生贄には捧げた。とりあえず、ルキィ様が好きなら慣れろ。じゃあ、俺がやれって? 嫌だ。
「ルキィ様って、アイリやカレンの母親なら受けるかな?という話ですね」
おい。それ。嘘だが、限りなく本質をついてるぞそれ! だが、極めて危ういと思われた答えは正解だったようだ。鳩が豆鉄砲を食ったような顔をすると、
「どうでしょう?私はお母さんよりお姉さんの方がいいですね。年齢的に。こんなに大きな子供普通はいませんから…」
なんて言う。でも、横見て。横。たぶんあなたと年齢そんなに変わんないのに、外見年齢10歳ぐらいの子供の両親にされた人がいますよ。
「…ルキィ様がそれ言うの?」
「うんうん」
娘二人がかばってくれた。嬉しい。
「カレンちゃんは私のせいじゃありません。ですので、知りません。アイリちゃんは…。そのほうがよかったでしょ?」
諭すように優しく言うと、すぐさまアイリは満面の笑顔で頷いた。
その頷いてくれるスピードが速いのがたまらなく嬉しい。そんでかわいい。もう細かいことはいいや。全部まとめてゴミ箱に捨ててしまえ。
「おい、準備できたぞ。ルキィ様はいいが…、お前ら手伝わなかったな」
ジー。という擬音が背後に浮いてそうな目だ。
「いいのですよ。勇者とその家族ですよ?貴方も一応、王様なのですから、癪ですが、私の近衛に任せてもよかったのですよ?」
「そう言われればそうなのだが…。ルキィ様達には迷惑かけすぎているからな…」
なかなか殊勝なお言葉が。ルキィ様だけが、何故かがくがく震えている。小声で何か言ってる? なんだろう?
「反省して、それを踏まえた行動をしている…!?明日にはこの世界滅んでしまうのでは!?」
……。その場にいた家族とタクと目を合わせた。
さてこの場合どうすればいいのだろうか? だが、上の言葉をそのまま伝えてしまったやつがここに。クリアナさんだ。素直に手伝っているだけでよかったのに!
ディナン様は青筋を浮かべて固まってしまい。ルキィ様は復帰しない。近衛もルキィ様と同じことを言いだして仕事しなくなり、クリアナさんは自分が何をしたのかわかっていなくて、能天気な顔をしている。俺達はどうすればいいのかわからない。
全ての準備が終わり、後は走り出すだけ。そんな状態の馬たちは、困り果てて一斉に天高く嘶いた。