64話 2つ目のアジトの中
グロめ注意です。
私的には、西光寺姉弟の閑話よりちょっとグロイかな? という感じです。
無理そうなら飛ばしてください。あらすじは次の話の前書きに書いておきます。
大地にべこって開いた大穴。さっきまでなぜか青空が見えていたそこは、一頭の巨大な喋るワイバーンで完全に満たされ、青空なんてそこになかったかのよう。
ナニコレ。いや……言葉がこれでいいのかわかんないけど、ナニコレ。何なの、これ?
『ふふっ。懐かしいですね。あの子も初対面の時は皆様のように固まってました』
「うん?あの子?なぁ、質問していいか?」
誰よりも真っ先に復活したタクが質問を投げかけた。さすがタク。突発的事態を受け入れるのが早い。……お前で慣れてんだよとか目で言ってる気がするけど、きっと気のせい!
『構いません。ですが、聞きたいのは「あの子」のことでしょう?すみません。此度の騒動は私共にございます。ですが、私達の誇りにかけて私達は解決せねばならないのです』
「そちら……バーンさんと呼んでも?」
『えぇ。構いません。呼び方はご自由に……と言いたいところですが、私にも群れの長としての立場がございます。主様方は自由で構いませんが、主様方の知り合い方にはある程度の礼節を求めさせていただきたく』
割と早口。そして、結局、どういう呼び方ならいいんだろうか。
『っと、失礼。さん付であれば、私は拒みませんとも』
呼び方のことを考えてたからか、誰も何も言っていないのに、バーンさんはちゃんと希望を述べてくれた。どう考えても人付き合いなんてなさそうなのに、対人スキルはそれなりにあるみたい。
『あ。そうでした。私のシャイツァー越しの会話は主様方に不敬ですよね。そちらに「待ってくれ。バーンさん。こちらに来られてしまうとうちが大混乱する」…ですか。であれば、不敬ですが皆様にこちらに来ていただきましても?』
「申し訳ありませんが、そちらに信用がないです」
『ですよねー』
ルキィ様がばっさり切り捨てると、バーンさんは露骨に落ち込む。そんなに穴越しってのは気にするものなのかね。んー。ひょっとすると、空が見えてたってことは穴を覗き込んでる感じになるから嫌なのかな。
『ブルルッ!』
「うん?セン?どしたの?」
『ブルルッ!』
えーと、「大丈夫!」……えぇ。根拠is 何。
『あぁ。未熟とはいえ同類がいるのですか』
「え。同類ですか?」
『えぇ。そこの白馬は私の同類ですとも。喋れはしないようですが……。魔物の一種であれど、意思伝達を試みておりますし』
唐突に明らかになる新事実。でも、嘘を言っている雰囲気はない。
「セン。バーンさんが言ってることはあってるの?」
センが頷く。ふむ、となると、
「大丈夫って言ってたのは、同類だから?」
『ブルルッ!』
「そうだよ!」……ね。うーん。根拠うっすうすの極みなんだけれども。なんか大丈夫って認識できる繋がりがあるのかな。
「習。センがなんて言ってるかも大事だが、お前のバーンさんの見立てはどうなんだ?俺は信じていいと思う」
「同意」
俺とタクの意見がかみ合ってるってことはまぁ、間違いなさそう。でも、俺らだけで決断は出来ない。
「四季とアイリ、カレンはどう思う?」
「大丈夫かと」
「…ん。少なくとも現時点で敵意はない」
「だいじょーぶじゃないかなー?」
王族s以外の認識としては大丈夫そうと。なら、
「提案に乗ってみる?」
「本気か?」
「本気ですとも。ディナン様。少なくともバーンさんが気にしておられるのは、勇者たる俺らがこっちにいることでしょう」
勇者=主様かと言われると「よくわからん」だけど。少なくとも人間社会に属さないワイバーンが人間の中の区別である王族だの王女だのを気にされるとは思わないし。
「だから、俺らはあちらに行こうかなと」
「行って騙し討ちにされるとは思えませんしね。殺すだけなら初手ブレスで十分ですし」
もっとも、俺らも警戒していたからそれが素直に通るかと言われれば通らないですけど。
「ディナン様が迷っておられる今、不肖、私、クリアナが先陣を務める所存!私視点、たぶん信用できますし!行きまーす!」
え。「待って!」とかいう間もなく、宣言したクリアナさんが穴へ突撃。バーンさんとごっつんこして、視界外に消えた。
有能とは。無謀過ぎない!? 何やってんの、あの人!?
『……あの、送り返したほうがよろしいですか?』
「いや、我らもそちらへ行こう」
『よろしいので?』
「皆が行くと言ってるしな」
ディナン様に俺らの人(?)を見る目が信用されているのか、はたまた勇者の地位がバグり散らかしてて、勇者様だけに危険なところに行かせたって王族ですら後ろ指刺されるのか。どっちかはわからないけど、ひとまず、この場の意思が統一された。
『ありがとうございます。では、私は少し離れます。皆様はその穴に飛び込んでくださいませ』
すいっとバーンさんが消える。顔を見合わせ、タイミングを計って皆で飛び込む。天地が逆になるとかそういうことはなく、無事に地面に着地。
俺の体に変な感じはなし。他のみんなも見ている感じは大丈夫……ん?
「「カレン?」」
「んあっ!?あー。だいじょーぶ!ちょっとぼーっとしてただけー」
そか。それならいいんだけど。全員、悪影響はなさそうか。
周囲は少し開けてる。荒野のあちこちにぼこっと穴があって、その中にワイバーンがいてこっちを見ている。巣の中に案内してくれたっぽい。
巣の先には森が広がっていて、後ろには鏡がある。多分、俺らはここから出て来たんだろう。そして、鏡の奥には遥か遠くまで地平線が広がっている。
ここ、すんごい高度が高そう。てか、あれ? クリアナさんは?
「すまない。先ほど飛び込んだ、クリアナはどこだろうか?見当たらないのだが」
『ご安心ください。私と衝突した衝撃で断崖より落下しましたが、群れのものが「いやーん!私、愛されてますぅー!」えぇ……』
えぇ……。単身で崖下からくねくねしながら飛び出してきたんだけど。ワイバーンに助けてもらったんじゃないの?
「あ。バーンさん!救援を派遣してくださってありがとうございました!」
『あ。はい。ご無事で何よりです』
「いえいえ。むしろ、私が余計なことをしたばかりに、すみません」
落ちそうだったってのにクリアナさんの顔に一切の恐怖がない。何で? ディナン様が心配してくださったから恐怖なんて消し飛んだ?
「あ。助けてくださったワイバーンさんは叱らないであげてください!私がディナン様との再会を待てず、シャイツァーで飛び出しただけにすぎないので!」
『あ。はい』
バーンさんがクリアナさんの勢いにBot化してる。
「ルキィ様。クリアナさんのシャイツァーって、落下耐性あるんですか?」
「んー。国が違いますので、そんなに詳しい情報はありませんが…。彼女のシャイツァーは靴です。靴から落ちた場合に限るかもしれませんが、落下による衝撃を無効化出来るのかもしれません」
「その通りでーす!」
タクが「どうせ教えてくれないんだろうな」と思ってルキィ様に聞いたんだろうに、クリアナさん自身がその配慮をぶち壊した。シャイツァーって国家機密に等しい情報じゃないの?
あ。それは間違ってなさそう。こっちの世界の人間社会の常識があるアイリ、ルキィ様、ディナン様が軽く頭を抱えている。
『ひとまず、こちらの事情を説明させていただきます』
頭を抱えていた組を含めて頷くと、バーンさんが語り始めた。
『まず、ここは皆様が一般的に想起されるであろうワイバーンの生息地、カスボカラス断崖に相違ありません』
「つまり、瞬間移動をしていると?」
『そうなります。皆様がお通りになられたあの穴は私のシャイツァーによって開かれたもの。一旦、穴が開かれますと私が許可を与えた者があの穴と私のシャイツァー……この鏡を通って行き来が可能になります』
俺の鏡通って来たんじゃない? って推測は当たってたみたい。あの鏡、何の飾り気もないんだけどなぁ。
なんてある意味のんきなことを考えている俺ら……習四季タクとカレンとは裏腹に、ルキィ様、アイリ、ディナン様、クリアナさんの異世界人組がなんか衝撃を受けている。
「あの、失礼ですが。バーンさんがシャイツァーを持っておられるのですか?」
『えぇ』
「ワイバーンですのに?」
聞き方ァ。それ暗に「魔物がシャイツァーを持てるの?」って聞いてるのと一緒ですよ!?
『えぇ。持っていますとも。悪人が持っているよりは、正常でしょう?』
セーフ。気に障られたわけではなさそう。フレンドリーな会話が継続してる。皮肉っぽい最後の台詞も、口調的に皮肉ととらえるほうが間違い。
『何故?とはお聞きになりませぬよう。私が私であるが故です故』
俺らは勇者だからシャイツァーがあるって説明できるけれど、こっちの人は条件よくわかんないですものね。シャイツァー持ちの血縁に多いとは聞くけれど、じゃあ、初代はどうなの? っていう……。
別に勇者が血縁に居なくともシャイツァーを持っている人はいないわけではないらしいし。
「話の腰を折ってしまいました。続けてください」
『はい。次に、あの場と繋がったわけですが、イヴァンがあの場でシャイツァーを起動したからでしょう。あ。イヴァンは私達が保護しましたエルフです』
「エルフ!?え。なんっ……いや、場所を考えれば……」
さっきからクリアナさんの反応がでかすぎる。ルキィ様もディナン様も「え!?」とはなっておられるんだけど、クリアナさんの反応に見事にかき消されてる。
『えぇ。ここはカスボカラス断崖を上り切った先にあります。少なくとも私たちの群れはエルフ達の生活を脅かしたくはありません。それ故、エルフ達との交流はございませんでしたが……。彼らと私達の生存領域を隔てているのは森です。そこさえ抜ければ、私達の領域にはたどり着けます。保護は可能ですよ』
「ですよね。ですが、保護とは?」
『エルフ領域を出ようと思い立ち、出立したはいいものの道中で魔物に襲われて記憶喪失になってしまっていたようです』
「把握しました」
俺らの知ってるエルフの記憶喪失率の高さよ。もっとも、俺らの知ってるエルフはアークラインのドーラさんくらいだけど……。なんなの。エルフ領域を出るときは記憶喪失にならないと駄目って法律でもあるの? いやまぁ、んなのないだろうけどさ。
『彼は記憶がない故、私が名を与えました』
「それがイヴァンですか」
『えぇ。イヴァンは怪我が治るまで滞在し、その折に私達に色々なことを教えてくれました。故に、私達は彼を群れの一員と認め、彼もそれを受け入れてくれたのです』
「私達の知っているワイバーンの生態から受ける印象と違う……」
ぼそっとこぼすクリアナさん。かなり小さな声だったけれども、バーンさんはその言葉を聞き逃さなかった。
『生態……あぁ、卵の関係ですかね?』
「ぎょっ」
なぁんで口から思ってることがぽこじゃか出てんですかね。クリアナさん。優秀とは一体定期。
『私達にとって、卵は大切です。ですが、巣から落ちた卵は別です。何せ、全ての卵が必ず孵るとは限りません。が、巣から落ちたとなれば、ほぼ確実に卵は割れて駄目になってしまっています。私達はそのような卵を見るのが嫌なのです』
「理由が割と繊細……。それはバーンさんだけですか?」
クリアナさんは怖いもの知らずなの? めっちゃぶち込んでく。暗に「おめー以外のワイバーン、繊細なわけないよね?」って言ってるのと同意なんだけど。それがわかってるディナン様とルキィ様はすごく慌てておられる。
『私達全体です』
「すっごい意外です。で、あるならば皆さんがそのエルフさん……イヴァンさんを家族認定したのがよくわからないのですけれども。バーンさんの言い分ですと、私、「皆さんは目の届かないところで駄目になったかもしれないものは、怖いから見たくない」と解釈しました。なら、ワイバーンよりも脆弱なエルフさんを家族認定するのは…」
『目の届かないところで壊れているかもしれない。それは平気なの?とおっしゃりたいのですね?平気ではありませんよ。ですが、自分で動ける私達とイヴァンと、動けない卵は扱いは変わります。助けを求められるかどうか。それが私達の中でかなり大きいのです』
……あれ? 俺ら思いっきりバーンさんの群れのワイバーンをぶち殺してるんだけど。その理論だとまずくない?
「あの。私達、思いっきりバーン様の仲間を殺しているのですけれども……」
『存じ上げております。あぁ、皆まで言わないでください。悲しくはあります。ですが、仲間の死の可能性は、イヴァンを探すと決めたときからわかり切っていたこと。私も群れも悲しみを呑み込むことを納得しています』
「強いのですね…。満場一致で呑み込めるとは」
『そうでもございません。納得しないものもいましたよ。納得させましたが』
「強いのですね…」
全く同じクリアナさんの言葉。でも、含まれている意味合いは微妙に違う。最初はバーンさんの群れのワイバーンの精神面を主に称え、後者はバーンさんの強さと精神力を称えている。仲間思いのワイバーンが納得させるためとはいえ、よく武力行使をしたよねっていう。
『他人の領分を侵してまで、動いているのは私達なのです。私達は崖の上。人間たちは崖の下。その相互不可侵の関係を破った以上、そこは徹底させませんと』
「あれ?私たち、人間はたびたびワイバーンの領域に入っているはずですが」
『だとしても、それは別の群れでしょう。私達の群れではございません』
「あ。そうなのですね」
こういうときはクリアナさん有能なんだなって思える。相互不可侵が云々言ってる時点で、既に群れ違いなんて察してるだろうにわざわざ道化になって聞いてくれてる。
『さて、長々と前提を話させていただきました。そろそろ核心となります。イヴァンは回復すると旅を望みました。それゆえ、私は本当に危ない時、私達に助けを求められるシャイツァーの魔法を託しました。その魔法があの位置とここを繋げたのです。繋がったとき、窮地にあるであろうイヴァンを救うため、私達はさっそうと飛び出していったのですが……、そもそも、イヴァンを見つけ出すことはかなわなかったのです』
「何故です?」
『襲われてしまったのでしょう。魔法が発動しなかった理由は不明です。おそらく、イヴァンがあれを使う前に気絶させられてしまった上、一定以上、イヴァンより離れると起動するようになっている仕組みも無効化されたと』
悔しそうに歯噛みするバーンさん。
『ですから、私達は彼を助け出すため、動いていたのです。少なくとも、彼に何かあったのは間違いないのですから。これが、私達が皆さんの領域に出没していた理由です』
「なるほどです。でしたら、私達が代わりに捜索させていただきます。その代償として、ワイバーンをしばらく送り込まないことって可能ですか?」
最後まで話しきったバーンさんの言葉に続くようにクリアナさんが口を開いた。話す内容は妥当だけれど……、何でクリアナさんが交渉始めてるんだろ。ディナン様もルキィ様もいるのに。