7話 フーライナ
アイリが昨日フラグを立てていたような気がしたけれども、特に何もなく国境の町についた。
「道中なにもありませんでしたね。誰もいませんでしたし」
「…時期が時期だから…」
「「時期?」」
「…収穫期。みんな今次の国フーライナにいる。あの道はフーライナからの帰り道」
「えっと、フーライナって確か…」
「本によると、人類の食糧庫ですね。その名前の通り大量の穀物、野菜、肉をつくってるそうです」
「おいしいものあるかな?」
「あるでしょう。食料庫ですよ?」
「そうだよな…。でも、食料庫なんだよな…」
食料庫=美味しいものがあるとは限らない。美食の都とかなら美味しいものがありそうだけど。
「…ねぇ、びっくりするぐらいすぐに食べ物の話になるよね…」
「人は食べないと生きていけないからな」
「そうです」
「………あ、そうだ、あれ用意しといてね」
生暖かい目で見られた。
あれ…あぁ、王族発行の偽造証明書のことね。何度聞いても字面がやばい。
すこし森の中をあるけば、森を出てちょっとしたところに町の門があった。町は壁で囲まれている。盗賊とかの対策用らしい。
「通行料とかいらないの?」
「…いらない。わたしがいるから」
どういうことだ?
「…まぁ、見てて」
まるでこれからいたずらをする子供みたいにはにかむアイリ。
「…門番さん。連れ二人と通っていい?」
フードをかぶったまま何かを見せる。門番はそれを確認すると、
「あ、はい。どうぞ」
通してくれた。超あっさり。
「お連れの方は?」
「…両親」
「親孝行ですか?」
「…そんなもの。…そうそう、道中で魔獣だけの群れと、魔物・魔獣混成の群れに遭遇した。結構数がいたけど、殲滅しといた」
「あ、そうですか。連絡しないと…。ん?殲滅したのですか。ありがたいですね。それにしても、前は黄色い謎生物の出没があったのに…。今度は大繁殖ですか…。最近、変なことが多いのですよね。どうもフーライナのほうから来ているみたいです。お気をつけて」
「…そう、これからそこに行くから気を付けておく。…じゃあ、行くね」
「はい、どうぞ。良い旅を」
無事に町の中へ。人がいて、ちょっとガヤガヤしてる。でも、うちの町のショッピングモールよりは人が少ない。
町並みは田舎の中世ヨーロッパ風といったところ。
「…とりあえず、さっさと国境を越えたい」
「そうだな(ですね)」
理由はさっきのやりとり。アイリは近衛という身分を明かして、さらに、群れの討伐の報告をした。
その連絡は当然王城にも行く。タイムロスはあるけど。そうなったら、門を通るときにアイリのほかに同行者がいたことがばれる。そのまま俺らのこともばれるかもしれない。
だったら捕まる前に国外に行ってしまいたい。何されるかわからないのだから。
町の中を観光したりせずに…もとからそんな予定もなかったけど…。一直線に国境の町へと向かう。
それにしても、賑やかなのにどうしてみんな声をかけてこないんだろう?市場のおばちゃんとか俺らだけあからさまに避けて声掛けをしている。
そのことを疑問に思っていると、橋があった。石橋の中央が国境だ。関所は橋の両側にある。橋が落ちたら全部おじゃんになるからその対策だそう。
こちら側からバシェルの関所を通るときは止められない。町の入り口で審査受けているからな。俺らみたいな素通りする人にとって二度手間になる。
フーライナ側の関所で身分証を要求されたので渡す。
「ご家族ですか?この国へはいったい何のごようで?」
さっきの門番さんもだが、すっごい丁寧だな。もしかすると門番という人はみんなこうなのかもしれない。
「あのー?何をお考えで?」
「あ、家族です。フーライナ観光をしに来ました」
「…あ、奥様ですか。そうなのですか。わかりました。それにしてもお二方はお似合いですね」
「…ん、そう思う」
「娘さんもそう思いますか!少しお待ちを。はい、できました。どうぞ。お通り下さい。
ようこそ、食物庫の南口ミェージュへ」
楽々通してくださった。でも通る前に。
「あ、お聞きしてもいいですか?」
「はい、どうぞ」
「俺たちにバシェルの人たち全然話しかけてこなかったんですけど、なぜですかね?」
「あー、言いにくいので耳を貸していただけますかね?」
この時点でだいたい察した。でも、確認をかねて聞いておこう。
「お嬢さんが、鎌持っていらっしゃるでしょう?だからですよ。エルモンツィを彷彿とさせるからです。特にバシェルは被害が酷かったらしくて、「鎌のシャイツァーというだけでも怖い」っていう人が普通にいます。あ、こっちは川があったからか、そんなことないですけど。その上、フードでちょっと確認しにくいですけど娘さん、黒髪ですよね?普通は、両親は娘さんが黒髪なのに鎌を使わせたりしないので…。鎌が『シャイツァー』だとわかるんですよね。怖がられるかもしれないのでそれは覚悟してください」
あー、やっぱり。ごまかせるものを急いで手に入れないといけないな。
「でも、門番さんはアイリのこと怖がったりしないんですね。」
「ああ、それはですね。目の前にいるかわいらしいお嬢さんの迷信なんて、鼻で笑えるぐらい酷い人間をこれでもたくさん見ていますからね。しかも、この仕事人を見た目で判断してはいけませんし。ハッハッハ」
快活に笑う門番さん。少し声がうるさいけど、見習いたい姿勢である。
「あと、魔獣や魔物が多いみたいなのですけど、どうなっていますか?」
「北東のほうに多いみたいですね。この季節は収穫期で皆さん家に帰って農作業しているので、兵士が足りないのです」
「戦争になったらどうするんですか?ちょっとした興味なんですけども」
俺たちのせいで戦争とかになったら嫌だし。一応聞いてみる。
「戦争なんて起きないと思いますけど…。とりあえず、国を焼きます」
なんか斜め上の解答が帰ってきた!?門番さんは説明が足りないと思ったのか、補足説明をしてくれる。
「いわゆる焦土戦術です。そうすると周りのうちに食料頼っている国が当然怒ります。そのまま、攻めてきた国をみんなで叩きます。だから、攻めてくる国はないです。ついでに賊もいませんよ。捕まえたらその場でバッサリ行くので。それだけ、ここは食糧とその流通が大事なんですよ」
笑いながら言う門番さん。笑ってるけど、わりと怖いと思います。やるほうが悪いけど。
でも、とりあえず、大丈夫そう。
「説明ありがとうございます。じゃあ私たちは行きますね。お仕事お疲れ様です」
「ご丁寧にどうもありがとうございます。お三方とも良い旅を。あ、そうだ。よければこれをお使いください」
袋を渡された。
「何です?これ?」
「それで鎌隠してあげてください。無くされたか、戦闘で使い物にならなくなったりしたんでしょう?」
「ありがとうございます。助かります」
優しい人だな…。彼に手を振りながら町へ。
そういえば、さらっと流したけど、四季が「家族です」って言った時の顔少し赤くて魅力的だったな…。でも、思い出すと少し恥ずかしい。
「…二人とも早くなれるべき」
だからなぜばれるのか。
「で、どうする?」
「この袋で鎌隠しておきな」
「…やっぱり嫌い?」
悲しそうな眼をするアイリ。
「全く」
「そんなわけないじゃないですか」
アイリは俺たちの目をじっと見つめて、
「…そう…。じゃあ、ありがたくそうしておく…」
素直に袋で鎌とわかりにくくした。
「さてまずは、物価調べましょう。金貨の価値がわからないのはまずいでしょう」
「だね。とりあえず、庶民の台所的なところに行こうか」
服の前に野菜やら、肉やらの食物を売っている市場を目指す。
アイリに物価聞かないのは、アイリがさっきの話しているときに「物価?何それ?」みたいな顔をしていたからだ。
通貨は石、鉄、銅、銀、金、白金。さらに、それぞれに大、小の二種類がある。高価さは、小石貨<大石貨<小鉄<中略<大白金貨。
小貨幣はわざわざ小をつけないのが一般的みたい。
石は重いから真ん中に穴が開いてある。日本の5円玉みたい。後、石、鉄は割れたり、酸化されたりしやすいから、特殊加工されているようだ。
また、通貨は世界中で統一されている。2000年ほど前の神話決戦で世界が一つにまとまった際についでに統一したみたい。世界中でどこでも物価はだいたい同じ。本に書いてあった。
もし、違っていたとしてもEUと同じくらいらしい。言われてもよくわかんないけど。
でも、200年ぐらい殺し合いしている魔族と人間で物価ほぼ同じって何さ。昔の人は偉大だなー。でいいのか?
しばらくさまよい歩いてやっと目的地の市場っぽいところについた。築地みたいに人がいっぱいいる。行ったことないけど!
「あ、大根がありますよ?」
四季が人のよさそうなおばあちゃんが大根モドキを売っているのを見て声をかけてくる。
「あ、ほんとだ、おばさんこれどうやって食べるの?」
「これかい?これはねガーツって言って、皮をむいて、煮て、そのまま食べるんだ。甘くて、おいしいよ?」
甘い?ということはこれ、テンサイでは?
テンサイは地球では、主に北のほうで作られる砂糖の原料。輪作とかでも入ってくる割と大事な代物だ。サトウダイコンっていったり、デーツと言ったりもするはず。
ということはこれを使えば、べっこう飴ならつくれるんじゃないか?
ちらっと、四季のほうを見る。やはり同じことを考えていたようで、目が合った。
思い立ったらやってみる。
「おばさん、これいくら?」
「これかい?一個銅貨3枚だよ?」
「欲しいんだけど、金貨しかないんだけど…いい?」
「嫌だ。って言いたいけど、お嬢ちゃんにやりたいのかい?でもねぇ、銀貨や大銀貨なんてそんなにあったかねぇ…」
激しく嫌な予感がする。
もしかしなくても、金貨が尋常じゃないぐらい価値があるんじゃない?これ…。
「参考までにお聞きしたいんですけど、金貨一枚でガーツって何個買えます?」
「ちょっと、待ちな。えーと…」
ちょっと(体感的に2分)待たされた後、おばあちゃんは、
「だいたい300個だね」
となんでもないかのように言う。
あー。一瞬放心しそうになったけど、ぐっとこらえて、物価を確認するため、おばあちゃんに片っ端から値段を聞いていく。野菜しかないけど!
白菜っぽい野菜、ホーリエ、一つ銅貨2枚
南瓜っぽい野菜、パンチャ、一つ銅貨3枚
ごぼうっぽい野菜、ルーボ、一本銅貨1枚と大鉄貨一枚。
エトセトラ…
「それにガーツ入れるといくらですか?」
俺たちが値段を聞いたのは日本で総計6000円分に相当する品物だ。俺たちの嫌な予感を受けて考えた物価が正しければ、銀貨6枚になるはず…!
「えーと、銀貨6枚だね」
アタッタ、ヤッタネ。まるでうれしくない。はぁ…。どうやら、貨幣の価値は下から一、五、十、五十、百、五百、千、万、十万、百万、一千万、一億。
っぽい。ということは俺ら今500万持ってると。ないわー。
とりあえず、おばあちゃんのところでの物価確認が終了したので、ガーツをあるだけと、頑張って8万ぐらいになるように野菜を買った。ていうか、全部買ってやっと8万。
「はい、大銀貨2枚ね。今日は店じまいだね」
おばあちゃんは嬉しそうだ。俺らは、金貨の価値に愕然としてるけど。アイリはジャーキー食べてる。美味しくないけど、ずっと。
「こんな大金持ち歩きたくないんだけど!?」
「そうですよね。何かないですか?」
「…ギルドでも行けば?あそこは銀行業務もやってるよ?」
「ギルドって…、冒険者?」
「…うん」
「それはどこでも使えるの?魔族とか獣人や、エルフでも」
「…エルフは知らない。でも、魔族と獣人はいけるらしい」
「仲たがいしてるのになんでなんだ?」
「2000年前のあの時にできた超国家的組織だからじゃないですかね?」
2000年前の人の万能感よ…。やっぱ2000年前の人ってすごい。
「じゃあ、冒険者になる気なんてないけど、大金持ち歩きたくないし、行きますか」
二人とも頷いてくれた。じゃ、目指そうか。
場所はわかっている。理由は簡単。でかいから。この一点に尽きる。ここからでも屋根が十分見えている。これよりでかいのはたぶん領主の城とかぐらいだろう。
道中、スリに気を付けながら歩く。お金持っているのはアイリだから、そこらの奴にはお金取れないだろうけど…。
とか思っていたらすぐ着いた。やっぱ避けられてる?
「これぞファンタジーっていう感じの建物ですね」
「だな」
みんながイメージするそれ。さすがに2000年前からこの形ではないと思うけど。
「…邪魔になるからさっさと入ろう…」
だね、そうだったね。
扉を開けると、力自慢そうな男性や、魔法使いのオーラを出している女性など様々な人がいる。昼間から酒を飲んでいるような人はいないが、内装もみんながイメージするギルドだな。
なんか視線を感じる。きっと、連れ二人の見た目がいいからだろう。とか思っていると、横を通り抜けたお兄さんのカバンがアイリのフードに当たった。そのせいでアイリのフードが脱げ、黒髪が露わになる。
あ。
「げっ、あれまるでエr」
「「は?」」
四季と声が被った。
だが、気にしてられない。アイリは気にしないかもしれないけど…。言葉の刃はかなり危険なもの。仮にも親として、絶対に許さない。
うーん?どいつだろう?みんな心なしか、小さくなっている。まるで鬼でも見たみたいに。あ、あいつか。あの大きな悪そうな鎧を着た怖そうなお兄さん。
「ちょっとそこの人」
「さっき何を言おうとしていらしたんですか?」
二人で近づいていくと、どんどん顔が真っ青になり、震えが大きくなっていく。冷房の効きすぎかな?冷房なんてないけど。
ある程度近づくと、絞り出すかのように、
「え…えっと、「えらいかわいいお嬢さんですね」です」
言う。それを聞いて、
「ですよね!アイリちゃんはすごくかわいいですよね!」
間髪入れずに四季が激しく頭を振って同意する。
絶対嘘だけど…。まぁいいか。十分だろ。四季も喜んでいるから、俺もさっきみたいに怒る気にもなれん。
四季がわざとやっているのか、それとも天然なのか区別がつかないけれど。
受付前に列ができていないので、そのまま受付へ行く。
「あ…。こちら『冒険者ギルドミェージュ支部』へ」
すこし顔をひきつらせた受付嬢さんが対応してくれた。言葉おかしいけど。
「えっと…なんの御用でしょうか?」
「銀行機能使いたいから登録しようと思いまして」
「あれほどの殺気放てるのに、登録されてなかったんですね…。じゃあお名前をここに書くか、身分証明書出してください」
ここ、と指をさしているところ。そこギルドが書くところですよ。偽造証明書使うから関係ないけどさ…。
「はい、どうぞ」
「えっと…ご家族ですね。説明は要りますか?」
「銀行使うのに説明いる?」
「一応聞いといたほうがいいと思いますよ。私は」
「四季がそういうなら…お願いします」
「はい、これが冒険者カードです。銀行を使うときもこれを使ってください。なくしたり落としたりしても本人しか使えないようにしてありますから、紛失したらここに来てください。ただし、再発行に金貨1枚かかります」
再発行に10万。高ぇ。ん?それならなんで登録させてくれたんだろう?まぁ、いいか。
「で、クエストとか受ける気なさそうですけど、一応カードにランクがあります。ストーン、アイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナですね。」
「お金と一緒ですか?」
「ですね。きっと初代が「ランクの低い奴の価値なんてないに等しいんだぜ!」とか思って作ったのでしょう」
はっちゃけすぎじゃない?
「私は、「お金作った。ギルド作った。しんどい。え?ランク?ああ、あったね、お金でいいじゃん。めんどくさい」というノリで決まったと思うんですけど」
「俺もそんな気がする」
「まぁ、そんなことは時間をさかのぼらないとわかりませんし。置いときましょう。ランクによって受けられる依頼が変わります。高ランクになりたければ試験を受けてください。具体的にはゴールド、プラチナに上がる時ですね。たまーに、推薦もらって上がる人もいますけど。これくらいですね」
「ありがとうございます。じゃあ…」
あ、預けるにしても、どれくらい持っておけばいいんだろう。そう思って、アイリに聞いてみると馬車をどうするかによるらしい。
四季と相談してあった方が便利そうってなったから、一応200万。つまり金貨20枚を残しておくことに。持ち歩くのは怖いけど。
そんなことを思ったからか、アイリが持ってくれた。ていうか、いつの間にフードをかぶったのだろうか。
「とりあえず金貨30枚お願いします」
「は、はい」
また、顔ひきつってるし。
「これカードのお返しです。ありがとうございました」
「「ありがとうございました」」
「…ありがとう」
そして俺らは建物を出た。