62話 次へ
方向音痴なクリアナさんを案内する。やる前はすごく簡単で手間じゃないと思ってた、そんなこと考えてたさっきまでの俺をぶん殴りたい。認識が甘かった。
最初、タクやみんなと話しながらでも行けるだろうと思って、喋りながら進んでいた。でも、いつの間にかいなくなっていた。確かに俺たちの後ろについてきていたはずなのに、何故かいなくなった。
ならば、と俺達の前の先行させてみた。すると、これまたいつの間にかいなくなった。逆にすごい。
その後、色々手を尽くしてみたが、すぐに迷子になる。もはや面倒になってきたから俺と、四季、タクの3人で囲い込んで、首。胴。手首。足首に紐を巻きつけ、全員で一つずつ持つ。なんてごり押しをした。全員疲れてきていたのか、やりすぎだ。というような声は一つも出なかった。クリアナさんの分は黙殺した。
…狂暴な動物の輸送か何かだろうか? ま、いいか。
そんなおかしな案内方法で移動し始めて気づいたが、クリアナさんが歩いた後には、魔力が地面にへばりついているのか、歩いた軌跡が光っているように見える。聞いたほうがいいよね。
「クリアナさん。靴がシャイツァーなんですか?」
「はい。そうなんです!歩いたところにペタペタっと、魔力が貼りつくんです!」
何が嬉しいのかエヘンと胸を張る。
「あの…、それって、迷子防止に使えませんか?」
俺と同じ疑問を持った四季がおずおずと尋ねる。
「それは無理ですね!だって、何故か皆さんを見失ってしまいますから!」
どうやったらトライアングルの中から忽然と消えられるのか教えていただきたい。見失うっていうレベルじゃねぇぞ。
「…なら昨日は?あれって、元の位置に戻るだけだったよね?」
「うぐっふぅ…」
奇妙な鳴き声? をあげて膝をつき、震える声で、
「か…肝心な時にやるのを忘れるんです…」
……ダメだこりゃ。
心なしか彼女は泣いているように見える。だが、嘘泣きだ。へたくそすぎんだろ…。そういえば、ついさっき同時にやれないとかなんとか。そんな感じのこと言ってたような、言ってなかったような…。早く何とかしたほうがいいんじゃないかな。この人。
嘘泣きしているクリアナさんを放置すると迷子確実。その上、せっかくの今の状況が崩れてしまう。だから、なんとかして復帰させないといけない。めんどくさい…。なんて思ってたら、カレンが「とー」と言いながら盛大に蹴り飛ばした。
クリアナさんは地面に「うにゃあ!」と奇声を発しながら、「ビターン!」と激突すると、とっさに俺達が『身体強化』をしたために、俺達が持っている紐に同時にひっぱられ「グボェフ!」と無理やり文字に起こすとそんな感じの、わけのわからない悲鳴をあげ、
「なぁにするんですか!」
なんて言いながら勢いよく立ち上がった。なんだ。大丈夫そうだ。丈夫だな…。
「…これ以上、お父さんとお母さんに迷惑かけない。いいね?」
すかさずアイリが鎌を突きつけ言う。
「あっ、はい!わかりました!タクさんにかけます!」
「俺にかけると最終的に習が…」
「じゃあ、かけないようにしまーす!」
顔面蒼白で叫ぶクリアナさん。娘がやばい。確かに辟易していたけど…、流れるように脅した。後で教育しなきゃまずいか。特にカレン。アイリはどっちかって言うと、カレンに合わせた感じがする。
そんなことがあってからすべてを巡り、ようやく脱出。時刻は5の鐘が鳴った後。華麗にフラグ回収した。
クリアナさんは、アジトから全員が出たのを確認するなり、地面に手をついて長々と呪文を唱え始める。
「長いから。飯にすんぞ」
「貴方たちは作れないからシュウ様達から分けていただいているのではありませんか?何寝ぼけたことを言っているのですか?」
呆れたようにルキィ様は言い、近衛、「そーだそーだ」と言わんばかりの視線を送る。
「そうだな。すまない。我らの分も作ってくれ」
「わかりました」
威厳がない…。
さあ、とりあえず適当に作りますか。
ジャガイモモドキを蒸かしてすりつぶして、焼いた肉とニンジンモドキ、それとキュウリモドキと水でさらした玉ねぎモドキ。それらをレシピがあったので作ってみたマヨネーズでからめて混ぜ混ぜ。それをパンにはさんで出来上がり! ポテトサラダをパンにはさんだだけ。あっちではなんて言ったっけ? 忘れた。ま、いいか。ポテサラサンドとでもしておこう。
さて、出来たしクリアナさんを呼びにいこう。
「……なあ、あの人ものすごいワクテカしてない?」
クリアナさんを目にしたタクが言う。
靴のあたりと地面にかざした手のあたりが、眩く光り輝き、アジトの奥まで続いている。それはいいが、本人が纏っているオーラが「実力を見せてやるですぅ!」という感じ。
何でだろう。触れたくない。
「…発動準備が終わっている。見せたくて見せたくて仕方がない。といった感じだな」
やっぱりか…。
「放置しちゃダメですか?」
「構わん。……と言いたいが、それじゃ意味がない。見t、「ああっ、無理です!えいっ!」あ」
ディナン様が抜けた声を出す。俺達はディナン様の方を見ていたのでろくに確認できなかったが、いつの間にやら穴は完全に塞がっている。
「どうです!えへん!」
やけくそ気味に跳ね上がりながら回転しながらクリアナさんは言うと、こちらを向ききると同時、そのまま糸が切れたように勢いそのままに地面に倒れた。
何がしたいのこの人…。俺達がいなかったら残念な人確定。タク以上にノリで生きている。
「俺、あそこまでひどくないから」
「知ってる」
久しぶりに心を読まれた気がする。
クリアナさんが倒れたのは魔力の使い過ぎ。だからだろうか? 俺を含め、誰も彼女のことを心配していない。心配していない人の一味が言うのもなんだが、なかなかひどい。
「…ま。寝かしておけば復帰するだろ。寝かせておけ」
「了解です」
先ほど作ったポテサラサンドを食べて、ラダへ。クリアナさんはディナン様が担ぎ上げて馬車に乗せた。補足しておくとすれば、人を運ぶ運び方としては限りなく雑なものだった。
その後、ラダのギルドに着いた。
「まず、遺留品を預けるぞ。後…、」
「私の近衛と合流ですね。今のところはそれぐらいですかね」
「だな」
「クリアナさんどうします?」
「…放置で」
以上の会話を経て、気絶しているクリアナさんの放置が決定。そのままギルドへ。
だが、完全にディナン様にお任せなのですることもない。しかし…、ラダ自体が田舎町。近衛含めておよそ30人。そんな数が入っちゃうと、割とパンパン。
近衛。何人か外で待てよ。そう言ってみたいが、言えない。というか言っても無駄。中途半端に権力があるから、ルキィ様が明確に拒否、もしくは他の指示をしない限り欲望のままに動く。
やることもないから、カレンやアイリと遊んでみる。まぁ、抱っこして軽く振り回すぐらいしかできないけど。やりすぎると確実に酔うので注意が必要。
というかこの遊び自体よくない気がする。ついでに、言い聞かせておこう。最終的には納得してくれた気がする。よかったよかった。……気がするだけなんだけど。ま、いいか。なんだかんだでカレンはちゃんと考えているから、致命的な問題はないだろ。というわけで続行。…飽きないのだろうか?
飽きないよねぇ。子供のころは何でも楽しいし。やろうと思えば消しカスで30分遊べる。
______
「貴様ら…、何してるんだ?」
「遊んでます」
ディナン様の問いに俺が即答したときの彼の顔は、いつか見たタクの顔に酷似していた。馬車に戻ると、
「すいません。クリアナがいません!」
と先行していたパオジーさんが言う。なんとなくそんな予感はしてた。
「……探すの手伝ってくれ」
「それが、人に、ものを、頼む、態度なのですか?」
ルキィ様、かなり煽るな…。
「お前も、人の事、言えねぇだろ」
「今は関係ないですよね?」
「だな…。お願い。手伝って」
言い負かされた。これで俺たちが見るの、何回目だ。
「人の事言えないって、あれか?」
「あれだろうな…。「戦争する気はないよ!理解して!」っていうお願い」
「ですが、お願いというよりも…」
「むしろ脅しだよな。半ば「手柄立ててやるから許してね」だからな」
「何の話ですか?」
楽しそうに言うが、その実軽く狂気を感じさせるルキィ様。彼女を前にした勇者3人は黙るしかなかった。
「…フーライナでは思いっきり言ってたけど」
と俺達にだけ聞こえるような小声でアイリが言う。だが、
「何の話でしょう?」
耳ざとく拾うルキィ様。王族怖い。
さて、肝心のクリアナさんだが、何をトチ狂ったか、ラダの外で見つかった。発見したディナン様曰く、「もしやと思って探してみたらいた。ぶっ倒れてた。貴様らもこいつと行動するなら、頑張って察しろ。いや、察してください」とのこと。頑張ってみるけど、頑張るだけ疲れる気がするのは俺だけだろうか?
宿へ。小さい町だが宿はある。ただし、俺らが止まると、宿は全部屋埋まっちゃうわけだが…。
4人ならベッドに乗れる。問題ない。両端は壁だし、落ちる要素はない。ということで、いつもの夜のルーチンワークを済ませて寝る。あ、センに魔力もあげたよ。喜んでくれた。今日は珍しく4人同時。なかなか贅沢な食べ方をしたと思う。
______
翌日。クリアナさんがベッドと壁の間に落ちて迷子になるという事件を解決したのち、なんやかんやしてから、ラナドへ。
隙あらば迷子になるその能力。面倒くさいのでやめて欲しい。というか、呪われているんじゃないだろうか…。
本人は「寝ている間に落ちたんじゃなくて、寝ようとしたらこけて挟まりこんで出れなくなりましたぁ!」などと供述している。が、それだと、出れないからと諦めてそのまま寝ちゃう謎発想。後、それに気づかないディナン様が鈍感ってことになるんだけど…。
………何も問題ないな。同じ結論に至ったのか、俺を含め、全員からの生暖かい視線が二人に注がれた。
さて、そんなことがあったが無事に出発。精神的にかなり疲れた気がするけど、馬車の中で、アイリとカレンを四季と一緒に眺めることで何とかしよう。…元凶が一緒なんだけど何とかなるかな?…何とかできるように頑張ろうか。
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しばらく進むと、馬車が止まった。
「失礼。ディナン様、打ち捨てられた馬車がありますが…」
「わかった。ルキィ…様と話してくる」
近衛の眼圧に負けるなよ…。
「私もいっきまーす!」
「お前は来なくていい」
「ショボーン」
迷子になりそうだしね…。こんなところで迷子になられると冗談抜きでヤバい。
およそ1分待つと、
「シュウ様。調査します。ついてきてください」
馬車の中に顔を覗かせるルキィ様。馬車の下から声をかけているから、若干上目遣いになっているのがかわいらしい。…言わないけど。多分殺される。
「クリアナは…、我が引っ張ってく」
置いて行っても迷子になりそうだから、迷子防止の安全策を取るみたい。
だが…いかにこの人が女性が好きとは言え、下手したら、クリアナさんと関係持った認定されて、強制的に妾やら側室やらにしないといけなくなりそうだけどいいのかな? 本人がやってる以上いいのだろうけど…。価値観の違いか。
「たぶん諦めだろ」
タクの言う通り……なのかね?
「俺が一番あの目を知ってる」
疑いの目を感じたのか付け足しされた。
なら、そうなんだろう。俺達勇者が馬車の付近の安全を確認してから、王族組が接近する。
「馬車は破壊されてはいるが…」
「流血が少ないですね。赤色がほとんどないです」
残されていた馬車は破壊されてはいるが驚くほど血の痕がない。死者はいないが、生者もいないし、物もない。
それを見て、しゃがみこんだディナン様がつぶやく。
「…護衛連れてなかったか?」
「さすがにないですよ!賊が最近多いって周知させてますもの!」
担がれたまま叫ぶように言うクリアナさん。ディナン様、耳元で叫ばれているから大変だなぁ…。
「ですが、情報が届いてなかったら?」
「護衛が足りず壊滅する。だが、血が少ないからこの場合、抵抗が無駄だと悟って降伏したか、血ごと消し飛ばされたか」
「あるいは、その両方かもしれません」
うへぇ…。
「この中で『マリッジ・エクロアー』を使えるやつは?」
ディナン様が立ち上がりながら聞く。
「何ですかその『マリッジ・エクロア―』って」
「あ?魔法の痕跡を調べる魔法だよ」
「なるほど…」
使えるかな? やってみるか。
「おい、習。お前、さっきなんて言った?」
「え?『マリッジ・エクロアー』だけど?」
「『我に全てを詳らかにせよ』ではなくて?」
「厨二かよ…。俺なら、もし日本語に直すとしても、『魔法痕探査』ぐらいだ」
タクと会話をしているその横で、
「パオジー。うちに『魔法痕探査』を使える人なんていませんよね?」
「はい。いません」
ルキィ様達が仕事をしている。
ん? あ、あー。なるほど。なんであのときアーラ・クワシュルスが翻訳されなかったかわかった。俺が、その魔法に当てるべき日本語訳を知らない。もしくは思いつかなかったからだ。
適当な日本語訳を当てても意味不明。というか、訳の存在意義がない。
となると…、フーライナでは勝手に見たまんまで訳してたんだろう。
戦神の祝福は、俺が容易に理解できて、日本語に置換できるものだったから、この形。
今回、タクのおかげで分かったわけだが…。『魔法痕探査(マリッジ・エク ロア―)』は、そもそも単語からじゃよくわからない。
何故って?マリッジはどうしても、“marriage” つまり、結婚に結びついちゃうから。元から「マリッジ=結婚」の図式はあったが、確実に宴で強化された。
シャイツァー? あれはわかりやすさを優先してる。たぶん。時たまここまで人間に優しくしていいのかな? と思うときがある。ま、文字通り神のみぞ知るなんだけど。
「習君?」
「あ、ごめん。四季お願い」
「はい。やってみましょう」
若干顔を赤くした四季が紙を渡してくれた。…マリッジがらみで同じこと考えていたな…。ま、ささっと仕上げちゃおう。
『魔法痕探査(マリッジ・エクロア―)』っと。わざわざ漢字にする必要もなかった。しても発動するだろうけど。
「ルキィ様!試してみますね!」
「はい!お願いします!」
さすがルキィ様。細かいことは気にせず許可を出してくれる。
「「『『魔法痕探査(マリッジ・エクロア―)』』」」
紙から出た虹色の光が馬車を包み込む。少し遅れて光の中から黒色が出てきて字を書き始めた。かなり大きい字だ。少し離れないと読めない。
「ちょっと待ってくださいね」
声をかけて離れる。どの角度から見ても、正位置で表示されるのはありがたい。そんなことないだろうけど、崖際で使って正位置で読もうとしたら落下……なんて起きないからね。
ふむ。『催眠』か。
「何が分かった?」
「『催眠』の魔法が使われたようです」
「『催眠』か…」
「禁術ですね…」
「あれ?禁術なんですか?」
「正確には「許可された場所で、許可された人物が、指定された対象にのみかけてよい魔法」だ」
「闇魔法の一種でーす!警察魔法ともいいますよぉ!ついでに魔法痕探査も一応、警察魔法です!悪用できる気がしませんけど!」
うげぇ…、使っちまったぞ。
「今回は、我と、ルキィ様が求めたから問題ない」
「そもそも、一般的なモノと異なってますしね」
助かった。でも、結構曖昧。王権国家だからだろうか? 王族二人の許可だけ……だけじゃないわ。最高レベルだわ。
「あれ?二人のと、一般的なモノ。何が違うんです?」
タクが尋ねる。好奇心の強いやつだ。俺も気になるけどさ。
「一般的なモノは、使用者が魔法痕と対話するんです」
「対話?」
なんじゃそれ。
「はい。魔法痕に一つずつ、丁寧に使用された魔法がどんなものか聞いていくんです」
「すんごい手間かかりません?」
「数が増えるとかなり。でも、魔法名まできっちり当てる必要はないです」
「オリジナル魔法とかありますからね!シャイツァー持ちを筆頭に!」
それでもなかなか不便そうだ。
「その点、貴様らのはいいな。一発で分かる」
「色がおそらく魔法の系統でしょう。その点もいいですね。問題は魔法の数が増えすぎる。もしくは、使用された魔法が大きすぎると字が読めなくなる点でしょうか?」
「おそらくそれであってますね。ただ、魔法の数が増えても、立体構造になるだけな気がしますし…」
「字の大きさも小さくできたりするんじゃないでしょうかね?」
というか、出来る。そんな気がする。実験する時間はないけれど。
「兎も角…、闇魔法を悪用する奴か。急ぐか」
「ですね」
闇魔法と聴くと俺でも少しだけ嫌な予感がする。二人はきっとなおさらだ。
「カレン。ここからわかるか?」
「だいたいの位置はわかるよー。でも、具体的に何をしているか。まではわかんないかなー」
「それで今は十分だ。急ぐぞ」
ディナン様はそう言うとクリアナさんを担いだまま戻る。
「言われなくても急ぎますよ」
「はいはい。ルキィ様。いちいち噛みつかないでください」
俺達も3人に遅ればせながら小走りで馬車へ戻る。
誰も突っ込んでないけど、クリアナさん、文字通りのお荷物だったな……。