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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
3章 イベア
65/306

58話 王

 準備することは何もない。だから、みんなでそそくさと馬車に乗り込む。歩いて行ってもいいけれど、格がなんとかかんとかでダメらしい。めんどくせぇ…。



 ルキィ様とタクも馬車に乗り込み、近衛二名が御者をする。



「ルキィ様、残りの近衛は?」

「留守番です」

「邪魔になりません?」

「なりません。留守番です」


 ニッコリほほ笑まれたから、追求はやめておこう。



「まぁ、邪魔になっても宿が迷惑するだけですから」


 そういうパオジーさんはなかなかいい黒い笑顔を浮かべている。さっきの問答に腹が立っていると見える。



 でも、ごめんなさい。敬愛される主を馬鹿にされたとかそういう感覚。俺にはわからない…。



「ルキィ様、近衛を頼りにしてますけど…、同時にたまに煩わしくも思ってますよね」

「だね。一部の人がルキィ様を好きすぎるから…」


 いろんな意味で。目に入れても痛くない! なんてレベルをとうに越している人ばっかりだ。パオジーさんと、名前を聞いていない向こうの御者さんが、比較的おとなしめ。



「…悪化したような気さえする」


 それ、たぶんアイリが離脱したからだと思うなぁ…。アイリには言わないけど。ルキィ様、アイリばっかりかわいがっていたみたいだし、アイリのいない今がチャンスだと考えているんだろうなぁ…。



 ただ、あの人の好きな女の子のタイプって、どう考えても自分より小さい子。あの人、そんなに大きくない。もちろん、アイリや、カレンよりは大きいけど。



 近衛を任されているからなのか、皆さん背がルキィ様より高い。つまり、ほとんどの人がアウト。何とも言えない悲しさがある。男の好みは知らん。タク、頑張れ。



 そんなことを考えていると、いつの間にやらギルド前。ここはフーライナと同じ感じ。黄土色の石造り。



 石造りって、砂漠らしさがあっていい。まだ、本格的な砂漠ではないけど。あれ? 砂漠では、粘土で建物を作っていたような……? ま、いいか。ファンタジーだし。



「先に中にお入りください。私は馬車を置いてきますので」

「了解です」


 ルキィ様たちをここで待つのも邪魔だろうし、パオジーさんの言うように中に入ろう。そう考えたのは俺だけではなかったらしく、四季もアイリもそそくさと移動し始めた。カレンだけ、ちょっと遅れた。きっと建物を見ていたんだろう。



 扉を開けて、中へ。……うん、やっぱりアークライン神聖国のギルドが異端すぎたんだ。極めて普通。受付があって、ボードがあって、階段がある。



 ……この世界最大の宗教国家のギルドが異端って、逆になんだか笑えてくる。



「四季。端っこで待ってようか」

「そうですね。ほら、二人も行きますよ」


 手を取って歩き出そうとすると、階段からやたらとギザな男性が「カッツカッツ」と高らかに足音を鳴らしながら降りてくる。かなりの美形。女性たちが「はぅ…」と、息を漏らす程度には。



 髪も獅子を思わせるような金髪で、覇気に満ち溢れた瞳をしている。だが、その瞳の色は赤色だ。



 赤目なのだからきっと、苦労しているんだろう。でも、それと同時に、あんなに目立つ登場の仕方をしているぐらいだから、トラウマなんてないだろうなぁ…とも思う。



ふと、アイリの方に視線がいく。「どうしたの二人とも?」という顔。



「ちょっとね」

「自然と目がいっちゃったんですよ」


 きっとバレてるだろうけど、やんわりぼかしながら釈明する。アイリは、小さくため息をつくと笑って、



「…いいよ。気にしすぎ。…全く。過保護なんだから…」


 嬉しそうに言った、



 うん、やっぱりバレてたか。それにしても、過保護……ね。本当の過保護って、公園の遊具を片っ端から取っちゃうようなことだと思うんだけど。



 なんて考えていると、いつの間にやら先ほどの男性がこちらの方に歩いてきている。



 面倒だから来ないでいただけるとありがたいんですけど!? だって、この人、自分に絶対的な自信を持っているタイプの人だもの!



「お嬢さん。おれに見惚れたか?構わん!さあ!式をあげよう!」


 いきなり四季の目の前で跪いて告白。まず初めに四季は硬直し、顔が引きつった。そして、助けを求めるように……というか「どうしたらいいんですか?まず、見惚れてすらないんですけど…?」という目で見てきている。



 どうもこうも、断ればいいんじゃないかな…。



 態度からしてどう考えても脈なし。だのに、男は何をトチ狂ったのか、勝手に四季の手を取ろうとする。



 させるか。だが、四季の前に立とうとする俺なんかよりも、圧倒的に早くアイリが動いた。



 接近してきた時点で手を打ってあったのか、四季と男性の間で、大きくなった鎌が男性の手を強打。そして、



「なんd」


 男が喋るのを「…黙れ」という冷たい言葉で遮り、鎌を首に添えた。同時に、ギルドの空気が「ピキッ」と張り詰めた。



 ちょっと待とう。うん、ここまでしなくてもいいよね?



おれは、きゅu」

「…黙れ。お母さんに触れるな」


 容赦ねぇな。



「アイリちゃんの方が過保護じゃないですか?」

「だな。悪化している気がする」


 なんて小声で話していると、



「んー?おねーちゃんこの人悪い人?」

「…で、いいと思う」

「そっかー」


 カレンまでもが弓を取り出し、矢を番え、眉間を狙って引き絞る。事態が悪化した! 大聖堂じゃ、カレンはこんなことやらなかったよね!?



「大聖堂でやらなかったのは、言葉だったからだよー。あの時はまだ、ボクは言葉の重みを十分に知らなかったのー」


 無邪気な声で心の声に返答が返ってきた、だが、その目は冷徹に男性を射抜いている。



 なるほど。理解は出来た。でも、どうしよう…。



 アイリが口を開こうとすると、ドアの開く音がする。ルキィ様達が来たのか。



 入ってきたのはルキィ様とタクの二人だけ。二人は室内の空気に気づいて、ギョッとすると、こちらを見る。そして、納得したような顔になった。俺のせいじゃないから。



「おお、麗しn」


 アイリに鎌がさらに押し付けられ、カレンの引き絞る矢を支える指が三本から二本へと一本減ったのを見て黙った。二人は「人の言ってることもわからないの?」というような、絶対零度の表情。



 さすがに、告白した次の瞬間、別の女性に対して「麗しの」はないと思う。



 ルキィ様は盛大に、それはもう盛大に「ハアアアアアア」と、彼女らしくないため息を吐くと、



「おひさしゅう。フェルベル=ディナン=イベア陛下。全くお会いしたくなかったです。しかし、不本意ながら会ってしまいましたね。」


 これまたルキィ様らしくない辛辣極まりない挨拶をした。



 うげ、陛下……。王族か。不敬……か? いや、でも、王族の知り合いいるし、勇者だし、なんかわけのわからん告白されたし、セーフだよね。



 俺も四季も同じように動揺しているのに、娘二人は全く動揺していない。むしろ周囲への警戒を強めだした。王族なら普通は護衛がいる。徹底している。



「然り然り!おれとルキィ様の間には赤いi」


 さらに鎌が寄った。ぎりぎり切るか切らないか。そのレベル。



「…お母さんだけでなく、ルキィ様にも手を出すの?美人なら誰でもいいの?」


 アイリは黒い笑みを浮かべながら、軽く狂気を孕んだ目で言う。



「はは、ジョークだとも…。ん?君。よく見ると、かわ、あ、すまん」


 学習しろよ。余計な口を開いたから、アイリは無言で鎌を一瞥し、睨みつけた。



 男性──フェルベル=ディナン=イベア殿下──は、助けを求めるようにルキィ様の方を見る。が、



「なるほど。ジョークですか。それはよかったです」


 の一言と黒い笑顔で華麗に一蹴。そもそも、頼む相手間違えている。



 フェルベル殿下は目を泳がせ、アイリの方を助けを求めるように見る。



「…謝れ」

「は?ああ、お嬢さん。申し訳なかった。何分、おれの性分なものでな」


 一言余計だ。



 だが、四季はそれを受け入れ、娘二人も武器を片付けた。



「さて、失礼はあったが名乗らせていただきたい。おれの名前はフェルベル=ディナン=イベア。気軽にディナンと呼んでくれ。イベアの王をやっている」


 キリッ。という効果音が鳴りそうなほど、きまった自己紹介。だが、既にもう色々と手遅れである。



 え、王なの? これが?



「残念ながらこれが王です。まぁ、王族の立ち位置的には長男ですが、実質的な王を弟に押し付けたクズです」


 言い方。ルキィ様、言い方が本当に辛辣すぎます。



「なので正確には「名目上の」が必要でしょうね。こいつには」


 マジで辛辣。え、えっと、とりあえず、話題を変えよう。



「えーと、それで、ディナン様はどうしてここに?」

「男にその呼び方を許した覚えはない!」


 などと言って、クワッと目を見開くディナン様。えぇ……。



「そもそも、貴様らは彼女たちのなんなのかね!?」


 うわ、答えにくい質問きた! 恋人ではあるけど、対外的には家族なんだよね…。ていうか、四季がお母さんって呼ばれている時点で察して欲しい。でも、この人には無理か!



「俺は、ルキィ様の近衛です」

「俺は…、彼女の夫ですかね?」

「なぜ「?」を付けているのだ?」


 うぐぅ。イントネーションでバレた。タクに、ばっかじゃねぇのっていう目で見られている。でも、嘘はつきたくなかったもの! そんなこと考えているうちに、どんどん目が怪訝になっていく…。ええい、ままよ!



「彼女は俺の嫁です!ええ!人の嫁口説かないでいただけますかね!?しかも目の前で!娘たちが激怒するのも当然ですよねぇ!?」


 勢いに任せて言い切ってやったぜ! 顔が赤くなりそうなのは、興奮で誤魔化す! だから、四季。顔を朱色に染めて、嬉しそうにするの止めて。ちゃんと機会見てプロポーズするからさ。



「激怒…?」

「なんで、首をかしげるんですか!当然じゃないですか!?」


 絶対違うだろ。という顔。うん。俺も言ってからそう思ったとこ。普通の子供なら…、一体どうするのだろうか? わからん。



「あれが激怒なのか…」

「怖い。幼女怖い」


 外野ェ…。ひょっとすると、この人が首をかしげたのもそこか!? 違うか!



「母親が口説かれたから、鎌を首に当てて、いつでも殺すぞ。というような娘は見たことないぞ」


 知ってた。



「頭、お花畑なのですかね?いっそそのまま死んでくださってもよかったのですが…」


 勝手に手を触れようとしたのは貴方でしょうに…。と、ため息を吐きながら、ルキィ様が爆弾を落した。マジで辛辣ですね、ルキィ様! 何かあったんです? ってレベルで。



「確かに一理あるな。だが、ルキィ。何て言い草だ」

「呼び捨て」

「あ、すまん」


 ルキィ様ェ…。



「で、こいつらは何だ。お前の部下か?」

「それは拓也様だけですね」

「下の名前…だと!?」

「黙れ」


 速攻で黙らされた。何がしたいのこの王様。王様ならもっとこう…。…ん?あれ?ちょっと、知ってる王族をまとめてみよう。



 ルキィ様は可愛いものを前にするとぶっ壊れる。ブルンナは、ぶっちゃけただの小動物だし、カーチェ様は素が荒過ぎる。フェルベル=ディナン=イベアとかいう、イベアの王様は目の前のこれ。



 なるほど、王族という地位に過度な期待を寄せるのが間違いだったんだな。



「…で、そちらの4人はなんだ。」

「勇者一家です」

「…どう見ても、緑髪の子は違うだろ。それに親?も若そうだぞ?」

「家族なのです」

「………はい」


 折れた。頑張れよ…。あ、嘘。折れてくれた方が楽なので頑張らなくていいです。王様だからか、勇者パワーでも思考停止はしないようだ。



「お前の服は何なんだ?」

「戦闘用の正装がなかったので」

「…なるほど」


 そして、俺達をジッと見つめると、



「ついでにお前の訪問の要件も読めた」

「左様で。では、別室に行きましょうか」


 別室に案内された。後には、どうもディナン様が王だと気づいていなかったぽい顔面蒼白な人々。突然の勇者・王女・王子の訪問に唖然とする人々。そして、いまだにアイリとカレンの作った空気から脱出できてない人々が残された。



 かと、思ったが、ディナン様は真っ先に部屋の中に入ったにも関わらず、全員が入ると一回外に出て、



「貴様ら。先ほどの無礼。おれが許す。安心するがいい」


 と言って戻ってきた。安心できる要素まるでないんですけど。あ、でも、あの人たちが無礼働いたかもしれないのはこの人だけか。なら安心できるか。



「お前らもな」


 椅子にドン、と座ってこちらを見て言った。



「…許されなくても」

「問題ないよー」


 こら、武器を取り出して、ニッコリほほ笑むのはやめなさい。ディナン様の顔引きつってるから。



「貴様らは?」


 俺?



「別に…ねぇ」

「ですよねぇ」


 何もないでしょ? そうやって、四季と顔を見合わせて言葉を交わしただけなのに、



「なるほど。確かに家族だ。よく似ている」


 と、引きつったような、苦虫をかみつぶしたような、何とも言えない顔で吐き捨てるように言った。どういうこっちゃ。



「で、俺が、仮説を言うから真偽を言ってくれ」


 ディナン様、素直に説明してもらえばいいのに……。ああ、でも、完全に合ってる場合は、そっちの方がいいのか。理解も深まるし。ルキィ様はため息をつくと、



「好きですねぇ…、それ」

「ああ。大好きだ」

「ハア……。わかりました。どうぞ」


 ルキィ様が許可を出すと、意気揚々と語りだした。



「まず、この黒髪のでっかいの3人。これは召喚された勇者だな」

「はい」

「で、お前の訪問の目的は…、」

「戦争する気はないですよー。というアピールです」

「ちょ、お前…!」

「みんな知っているでしょう。フーライナ。アークライン神聖国と回ってきているんですから」

おれは知らないぞ…」

「知りませんよ…。また、何かしていたのでしょう」


 はぁ、とため息を吐くルキィ様。



「この二人、腐れ縁なのか?」

「だろうな。俺とタク。その関係に似ている気がする」


 こいつにはこんな対応で良いだろ。みたいな感じがそこはかとなくある。



「王様、アグレッシブですよね」

「だね」

「まじめな方にならいいんだが」

「こら、タク」


 それは言わないお約束。あっちにも芸術や、お酒、女性に溺れた王様はいたし…。



「貴様ら。自己紹介しろ。聞いてなかった」


 突然の紹介要求。まぁ、してないし、しようか。



「俺は、矢野拓也。ルキィ様の近衛兼勇者です」

「私は森野習。えーと、一応勇者で、家族の父?」

「私は清水四季です。同じく、勇者で、家族の母?です」

「…私はアイリ。長女」

「ボクはカレンだよ!次女なのー」


 何故か自己紹介したのに、ディナン様はルキィ様の方をじっと見る。目だけで会話しているようだ。



「なるほど…。貴様らにも複雑な事情があるんだな。わかった。服もそのほうが便利だからか。把握した。で、おれはフェルベル=ディナン=イベア。この国の王だ。貴様ら全員に、おれを、ディナンと呼ぶことを許可する」


 許された。別に、許されなかったらなかったらで、王様って、呼ぶからいいんだけど。



「許可する。ではなくて、呼んでくださいでしょう?」


 クスクス笑うルキィ様。ディナン様は少し気まずそうだ。



 いつの間にか入ってきていた、パオジーさんがそっと耳打ちで説明してくれた。



 どうも、先ほど「許す」と言って、アイリとカレンの殺意が増したことに若干だけトラウマを持っているらしい。怖がったことを恥じるタイプの、結構、武よりの人なのだろうか。



 すげぇな、二人。こんな、何しても怖がらなさそうな人を怖がらせるなんて。



「ところで、あなたはなぜここに?」


 ルキィ様の一言はディナン様のまとう雰囲気をたちまちのうちに変えた。名目上という言葉が不要じゃないかと思える雰囲気。これは、面倒な事になりそうだ…!

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