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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
3章 イベア
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57話 ディブラッタ

「…そういえば、どこ目指してるの?」


 馬車の中でアイリが聞いてきた。あ、言ってなかったか。



「スポルトの前の町、ディブラッタ。ディブラッタからスポルトまで町はないから、今日は野宿を避けるために、そこで一夜を明かすよ」

「…ん。わかった」

「なんの話――」


 話しに混じりたいカレンがアイリに勢いよくぶつかる。危ない……。アイリは小さく「痛っ」って言ってる。



「カレンちゃん。危ないからやめなさい。アイリちゃん飴食べてるんだから」

「わかったー」


 無事納得してくれたみたい。あ、そういえば。



「カレン。アイリ。言葉わかるか?」

「…大丈夫。最悪、シャイツァーから言語の加護もらう」


 悪い顔するなぁ…アイリ。脅し取るつもりだろうか? というか、そんなことできるのだろうか? カレンの方に視線をやると、



「ボク?ボクはねー、すでに言語の加護あるんだよ!」


 えへん! と、胸をはるカレン。なら、言語でヤバいのは目下のところアイリだけ。そのアイリはさっき言ったように、脅し取りそうだから大丈夫かな? …まずそうなら、その時に対策考えればいいか。



 あれ? 馬車が止まった。



「着きましたよ」


 パオジーさんの声。それとともに門の開く重厚な「ギィィィイ」という音が響く。「ガチャン!」と甲高い音が鳴ると、センが一鳴きして、再び馬車が動き出す。



「まず宿の方に行きますね」


 パオジーさんの縄さばきに従って、センが移動。しばらくすると、下りるように言われたので降りる。



 ついたのは普通の宿。いや、この表現はおかしいか。昔なら「わぁ、豪華!」とかは思ったはずの宿。でも、アークライン神聖国と比べてしまうと……ね。見劣りがすると言わざるを得ない。



「露骨に表情に出すぎだ。二人とも」

「あ、タク。そんなに出てるか?」

「二人ともすごく出てる。アイリちゃんは別格だろうが、カレンちゃんも出てないぞ」


 まじか…。カレンにさえ負けるの…!?



 そんな驚愕を込めてカレンの方を見ると、首をかしげて嬉しそうにニコッと微笑み返してくれた。まるで向日葵が咲いたようだ。なんかもうどうでもいいや。



「おい、お前ら…。早く中に入れ。他が入れないだろ。そんで飯だ」


 呆れを含んだ声で文句を言われたから中へ。まぁ、文句を言われるのは邪魔だから当然なんだけど。



 うん、やっぱりあっちと比べると見劣りするけど、悪くない。フーライナと比べると確実にいい。でも、あっちはあっちで味があったしなぁ…。



 こちらではご飯は個人個人の部屋で食べるらしい。ルキィ様やカーチェ様、ブルンナのせいで忘れてかけていたけど、普通は王族が部下と食事一緒にしたりしないか。



 さて、部屋に案内してもらおう。そう思って受付を見ると、何故か近衛と受付の人がもめ、ルキィ様がたしなめている。何があったし。



「何があったんですか?」

「ん?ああ、清水さん。一番いい部屋が埋まってるんだってさ。で、王族なんだからそこにしたいんだけど、部屋の主が外出中。近衛が「何とかして欲しい」って言っても、相手は一応貴族らしくて「呼びつけなんて恐れ多いことできません!」って言ってて、双方平行線」

「ルキィ様はそういうのに拘らないよな?」

「ああ。でも、もしこれが相手がただの貴族だとメンツが云々で後々面倒くさくなるんだよ」


 またか…。



 ただの貴族=「王族、もしくは王族の親戚ではない貴族」ということ。つまり、指してるのはほとんどの貴族だ。その場合、侯爵であろうが王族のが偉い。譲ってもらわなきゃ駄目になる。



 それ以外の場合、心情的な問題がまだある。相手が王族の場合、全く問題ない。ルキィ様も王族だが、地位は同じ。



 というか、そもそもこの世界では「A国においてはA国の王族が他の国……B国の王族より偉い」という習慣がある。……国同士の力関係で変わったりするが、北方の要たるイベアと人間領域の中核たるバシェルは同格。やはり問題はない。



 まぁ、先の習慣もさすがにB国の王族が王本人の場合、A国の王のみが上に立つ。っていう例外があるけど。この時、皇太子か否かはどうでもいい。大切なのは、王であるか否かだけ。



 今回のケースで相手さんが王族の親戚だと微妙なライン。でも、まだ許せるらしい。ここでいう親戚は「王族の傍系で、かつ6親等以内の人間」だ。



 なんてことを考えていたけど、攻防はまだ続いている。



 「キュルキュル」


 ん? なんか可愛らしい音が……。発生源はルキィ王女かな? ……さすが王族様。お腹の音まで上品である。



「とりあえず、食事だけでもしてしまいましょう。部屋は後でいいです」


 ルキィ様が恥ずかしそうに頬を赤らめて問題を一時棚上げすることを提案した。



 半ば主そっちのけで熱中した近衛も、王族の言うことを聞けない宿側も、双方、ルキィ様に謝罪。一番豪華な大部屋に通された。



 大部屋になったのは、今度は昼食用の部屋をどこにするか論争が起きそうな気配を察したルキィ様が「お腹すいたので、早く食べさせてくださる?」と、怒ったような顔でニッコリとほほ笑んだから。



 大部屋なのは妥協案として最適だからだろう。ルキィ様サイドからすれば「大部屋に泊まるとは思われないからメンツが立つ」もしくは、思われても「豪華な大部屋ですよ!ふふん」となる。



 宿も宿で「豪華な部屋を占拠させるなんて、素敵!」となる。……うん、言っちゃなんだけど、ものすごくあほくさい。



 それでも、やっぱりメンツは大事らしい。



 アークライン神聖国で思いっきりブルンナのメンツ踏みつけた気がするけど…。許されてるからいいか。



「…あれは諦めだよ」


 アイリが何かを察したのかぼそりと呟いた。驚きのあまり振り返ると、アイリはため息をついて、視線を左右に滑らせる。そして、ニコッとほほ笑んで、



「…やっぱり。お父さんもお母さんも同じこと考えていたみたいだね」


 一人頷きながら言った。そんなにわかりやすいかな?



 …で、カレンは何がしたいんだろう。俺と四季をよじ登ったり、飛び降りてみたりしている。ちょっと邪魔。でも、楽しそうだからいいか。他人に迷惑かけているわけでもないし。



 部屋に案内されて、ようやく昼食。



「そういえば、盗賊と商人はどうなったの?」

「お前ら完全にこっちに任せてたもんな…」


 ため息を吐くタク。仕方ないじゃん。そっちの方が効率良いし。



「門入ったところで別れたよ。盗賊共は商人と近衛が詰所に連れて行って牢にぶち込んだ。

盗賊団の一味みたいで、国がまたがってるから、ギルドが出てくるかもしれないってさ」

「なるほどね。この件の処分はお任せするから」

「知ってる。言われる前から知ってた」


 なんで生気が抜けたような顔になるんですかね…。



 無駄話をしていると、昼食が運ばれてきた。今回はサボテンモドキとヤシの実モドキ。



 ……どうやって食べるんだろう?



「このように『サフォテ(サボテンモドキ)』の皮をむいてください。次に『ヤルシュ(ヤシの実モドキ)』の実を…、このようにハンマーでかち割って中身を取り出し、皮を取ったサフォテで巻いて食べてください」


 疑問を抱いた瞬間、宿の人が実演してくれた。普通、こういう下処理はやっておくものな気がしなくもない。でも、俺的には、こっちのほうが生のものが見れて嬉しい。



 いざ実践。サフォテの棘を掴んで、別の棘に刺さらないように注意しながら皮を引っ張ると、面白いくらいにスルスルと皮がむける。皮をむいたサフォテは驚くほどにみずみずしい。



 ただ、不思議なことにその水分が垂れたりしない。直接触ると、水分が溢れてくるのにもかかわらず。とりあえず、サフォテを一旦お皿に置いて、ヤルシュをハンマーでたたき割る。どれくらい力を入れればいいのかわからないので、『身体強化』抜きのほぼ全力。



 でぇい!



 「バキン!」


 嫌な音が鳴って、見事に殻が粉砕された。ちょっと待って。やりすぎた? 中身は…、よかった無事だ。中身を取り出すと、ふっくらしていて柔らかい。クッションをさわっているみたいだ。



 引っ張ってみる。おお、伸びる伸びる。まだまだ伸びる。まだ…いける? でも、そろそろヤバいかも…。



 あ。無理。限界。頑張って伸ばしててるけど、今の長さ…、1 mくらいでうまくつまめなくなってしまった上、かなり伸ばすのに力が必要になってきてる。そろそろ疲れてきたし、カレンが真似しそうだ。やめとこう。



 で、ヤルシュをサルファで巻いてみる。



 おおう。サルファの水分が一気にヤルシュに吸収された…。そのおかげ? で、持ちやすくなった。そのまま口に含む。



 この歯ごたえ…、引っ張ってみるか。しっかり歯の間に挟み込んで、グイっと。おぉ、案の定伸びた。これもかなり伸びそう。でも、やめておこう。噛みちぎって、噛む。



 伸びた時に察したけど、これ餅だ。この実は焼いてないけど…、焼いた餅によく似てる。醤油をかけて食べたい。醤油はもちろん少し焦がしておいてほしい。でも、これ単体でも、塩味がしていて美味しい。…醤油かけると、しょっぱすぎるかもしれない。



「餅だな。習に清水さん」

「んあ?」


 かなり間抜けな声が出た。四季は口にこれ含んでいるからか、そもそも声を出してない。



 二人そろって首肯。さて、もう一個と思ったら、アイリとカレンに恨みがましい目で見られた。



 あ、ごめん。懐かしい味が悪い。でも、二人ともうまくできないのね……。しかし、カレンはわかるけど、アイリは何故だ。アイリならできると思ってたんだけど。



 まぁ、いっか。とりあえず、一回くらいは自力でやる楽しさを味わってほしいから、説明してみよう。あの人の説明はかなり雑だったしね。ふれあいの機会を作ろうとしてくれたのだろうか?



「まず、サルファの棘をつまんで。あ、刺さらないように「痛っ!」……遅かったか…」


 カレンがやってくれた。アイリはちゃんと避けた。



『回復』

「ありがとー。おかーさん」

「気をつけてね」


 四季がカレンに回復をかけてくれた。四季は子供たちを俺に任せ、次に子供たちが食べる分を作ってくれるみたい。目がそう言ってる。お言葉に甘えさせてもらおう。



「で、棘に気を付けながら、つまんだ棘を引っ張る。そうすれば剥ける」


 かなり雑だけど、これしか言うことがない。丁寧にやらないと、完全に剥けなくて、取り除くのが面倒! って、ことが起きないんだもの。



 つまんで、思いっきりひっぱればそれだけで完全に皮を取り除ける。だからやってほしいわけなんだけど。この爽快感はなかなか癖になる。



 二人とも、ちゃんと剥ききった。偉い偉い。



「次。ヤルシュの実をハンマーでかち割る。力加減は…、ごめん。わかんない。魔法なしでとりあえず一発やってみて」


 「全力でやらないで」だと、魔法使ってやりそうなので先に言っておく。下手に魔法なんてものがあるから、ミスった時が怖い。



 とりあえず、さっきの半分ぐらいの力で殴る。あ、ヒビ入った。これくらいが適正か。でも、力加減を説明するのは不可能だ。そもそもアイリとカレンと俺じゃ、持ってる力が違う。



 こういう個人差のあるところの説明って難しい。二人の割り方には性格がよく出ている。



 アイリは弱いほうから徐々に強くしていくタイプ。疲れるけど、失敗しない、堅実だ。



 カレンは「魔法を使ってないければ、全力でやってもいいんだよね!」と言わんばかりの一撃。雑だ。人の事言えないけど、雑だ。



 結果的に、カレンはヒビの入りまくった実を取り外すのに時間がかかって、アイリと同じ時間に準備完了。



 カレンが恨みがましそうな目でアイリを見ている。そして、こちらもチラチラと。



 カレンの力が中途半端だったんだね…。俺クラスの力だと、実は粉砕される。だから、探し出すだけで済む。中身が傷みそうではあるけど。



 アイリみたいにやれば、ヒビが入るから、そこからぺリぺリとゆで卵の殻をむくみたいにはがせる。



 カレンのが一番中途半端すぎて駄目みたい。ゆで卵みたいに薄皮もないし…。まぁ、ゆで卵を剥くとき、うまく薄皮使えた試しないけど。



 アイリはそんなカレンに見向きもせずにサルファを巻きつける。カレンもそれを見て、遅れまいと急いで巻いて、二人ともほぼ同時に食べる。



 喉に詰まらせないでね。頼むから…。



 ……あぁ、でも、そんな心配は杞憂だったみたい。俺のように、伸ばして遊んでから、噛みちぎった。



 ………本当に美味しそうな顔して食べるなぁ。作ってくれた人も、食材も嬉しいだろう。食材に関してはエゴだと言われてしまえば、それまでなんだけど。




 さて、ま、そんなことは忘れて、俺も四季の真似して作っとこう。作りたかったら勝手に作るでしょう。余れば俺たちが食べればいい。説明にそこまで時間かかってないから、まだ2個しかできてない。



 どんどん作っていこう。二人とも結構食べるの早い。



 一個完食すると、アイリは作り置きに手を伸ばし、カレンはサルファ自体に手を伸ばす。カレンはもう少し自力でやるみたい。リベンジかな?



 あぁ、二個目はちゃんとできたね。次……も、サルファか。前に成功しているから、今回も危なげなく成功。でも、それで飽きたのか、作り置きに手を伸ばした。



 よきよき。いっぱいお食べ。とはいえ、アイリ、結構食べるな…。4つ目だよ? とりあえず、作り置きは今6個ある。もっと作っとこう。



 アイリは最初幸せそうに食べていたが、徐々に苦しくなってきたのか、ペースが落ちる。

カレンは6個食べたところで、「お腹いっぱーい」と言って、四季の膝の上でおねむだ。



 アイリは20個食べたところで、



「…お腹いっぱい。無理」


と言った。ありゃま。



「…作りすぎ。…何考えてるのさ…」


 え? 「美味しそうに食べるなー。ずっと見ていたいな。だけど?」と言うつもりで、瞬き。四季の方を見ると、同じ目をしている。



「馬鹿だろ…」


 タクの言葉にアイリは少しためらないながら頷いた。うん。やりすぎたね。20個ほど、作り置きあるし…。



「大丈夫。責任もって食べるから!」

「はい!」

「そうじゃねぇ!いや、まぁ…、反省してるっぽいからそれでいいんだけど…」


 頭をポリポリかくタク。まぁ、いいじゃん。食べきれるさ。一人10個。それで済む。



 アイリがもっと早めに指摘しなかったのは、たぶん、俺達が作ってくれるのが嬉しかったからだろう。最初、自力でできるはずなのに説明をしてもらおうとしたのもおそらく、かまってほしかったからじゃないかな? 最初だけ自力でやって、次から俺達が処理した奴を食べだしたのも同じ理由。で、指摘できずにオーバーフローと。



 ごめん。



 思ったよりお腹にきたけど無事完食。さすがにもう一個食べようという気にはならないけど…。



「辛そうだな…」


 少しだけあきれ顔で言うタク。それでも「残せよ」と言わないのは、俺の「お残しはダメ」という流儀に反することを知っているからだろう。もちろん、アレルギーは除く。アレルギーは死ぬ。俺はないけど。



 ぐだっとしているとルキィ様がやってきた。



「すいません。一緒にギルドに来てもらえます?」

「なぜ?」

「先の盗賊の関係です。来てもらわないと困るのです…」


 困るのか…。なら、仕方ない。3人の顔を見ると、全員頷いた。



「了解です。服はどうします?」

「そのままでお願いします。」

「了解です」


 昼からの目的地は決まった。

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