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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
2章 アークライン神聖国
61/306

55話 出立

 カレンの性格について、いやでも実感させられていたところに、カーチェ様が口を開く。



「ところでドーラ、騎士団長…、アウレリオは何て言ってる?」

「アウレリオ団長ですか?「俺も戦わせてくれ!」と言っていますが?」

「……あれなら受けると思っていたけど…、はぁ。先にカレンに聞いておけばよかったな…。そうすれば連戦にはならなかったのに。すまない、カレン。いけるか?」

「んー、今は微妙かなー。ちょっと待ってもらってー」

「それはわかってる。皆に一回出てもらいたいしな…」


 遠い目をするカーチェ様。



「確実にまともな試合になりませんからね…」

「そうだよ。相性悪すぎ。フルボッコだよ」


 ブルンナもドーラさんも追従した。聞いている限り、近距離特化ぽいですしねぇ……。力でねじ伏せることは可能だろうけど、カレンはカレンでゴリ押しできる。



 なんて考えていると、カレンがとことこ走り寄ってきて、



「撫でてー」


 ストレートに俺達3人に要求する。俺と四季は頷くなりカレンを抱き上げ、隣同士に座って、互いの膝の上に乗せて撫でる。アイリは少し驚いたような顔になって、



「…わたしも?」

「うん。おねーちゃんも」


 という軽いやり取りを経たのち、アイリはカレンを俺の膝の上に移動させて、四季の膝の上に座って、撫で始めた。



 客観的に見たら間違いなくカオス。



 そしてしばらくしたのち、誰も観客のいない訓練場で、騎士団長アウレリオさんと試合をした。が、本当に勝負にならなかった。騎士団長は両手剣を扱う人だった。剣はシャイツァーらしい。



 勝負にならなかった理由は、ドーラさんのように弾幕を張れるわけじゃないから、矢を剣で受け止めるしかないから。



 辛うじて、剣に風のようなものを纏わせて飛ばす……という遠距離攻撃もあるようだったけど、圧倒的に量が足りてない。矢を全く押し返せない。



 結果、10分ほどで物量に押されて負けた。10分耐え抜いただけですごいと思う。



 なお、アウレリオさんのシャイツァーの本質は、魔力を集中させて、斬りつけたところの傷の治りを遅くしたり、その魔力を飛ばしたり、刺したと同時にその魔力を爆発させて、体内破壊! といったことらしい。



 超相性が悪いわけではないけれど、近づけなければどうしようもない。当たらないと意味のない効果が多すぎた。ただ、最後のは普段から試合では自重しているそう。まぁ、そうだよね。即死だもの。



 試合後、着替えて、ご飯を食べて、風呂に入って、寝た。



 カレンとアイリの寝つきが良く、しばし四季と一緒に寝顔を見つめてから寝た。子供の寝顔はかわいいものだ。まぁ、日本だったら法律上は俺らも子供になるわけだけど。



 翌日。いつもより早起きして、塔の外を眺める。数日しかいなかったけど、離れるとなると割と感慨深いものだ。



「おはようございます。習君」

「…おはよう」

「おはよー」

「おはよう。皆、早いね」

「考えることは一緒なんですよ」


 フフとほほ笑む四季。その顔は朝日があたっているせいか、いつもよりも素敵に見えた。皆でメイドさんが呼びに来るまで外を眺め、最後の朝を楽しんだ。



 ドーラさんがやってくると、移動開始。朝食は最後だからか、カーチェ様の部屋の前の応接間で取ることに。



 部屋の中には既にカーチェ様とブルンナがいた。仕事が…、とか言っていたわりには、顔色は悪くない。若干寂しそうに見えるけど。これは俺達が出発するからだろう。



「揃うまで待て」

「言われなくてもわかってますよ」


 食べるのは好きだが…、それくらいはわかる。だからその、本当に? という顔をやめてくれませんかね…。



 俺達が椅子に座ると、ルキィ様とタクがやってきた。やっぱり近衛はハブられてしまうようだ。まぁ、タクがいればどうとでもなるし、当然だよね。



 ルキィ様たちが座ると、計ったかのようにドーラさん達メイドがやってきて、机の上にコンロを置いて、鍋を置いた。



「今日は最終日だし。折角だから鍋だ」

「「王族もこういうのやるんですね」」


 俺と四季の言葉が綺麗に重なった。若干恥ずかしい。まだ慣れたとは言い難いね。



「あれ?初日にやらなかったっけ?」

「やったと思うぞ。まぁ、構わないが」


 ごめんなさい。



「まぁ、説明しておいてやると、王族は普通やらないが。やる時はやるぞ」

「安全面からですね」

「今日、こういうスタイルにしたのは、みんなを信用してるからだよ。話もいっぱいしたいしね」

「ですね。信用がないとできませんもの。このスタイルの利点は毒殺を疑わなくても済むことですかね?それ以外の危険はありますけどね」


 ほほ笑むルキィ様。ですが、その冗談は笑えません。



「えーと、あれだ。朝だから軽めだぞ。スープはあっさり系。肉や魚もあるけど、脂肪分の少ないやつだ」

「おいしいよ!食べよ。作法なんてないも同然だよ」


 話しの流れを変えようとしてくれているのが分かったので、鍋に具材を投入。お箸も普通にあるんだな。始めてみた気がする。



「あ、そうだ。迷惑料代わりにさらにお金振り込んでおいたぞ」

「どれくらいですか?」

「忘れた。でも、今の総額なら知ってるけど。教えたほうがいいか?この前カード渡したとき、確認してなかっただろ?」


 あ、読まれてますね。はい。確かに、あの時確認してませんし、それ以来してません。四季は…、同じだな。色々あったし……でも、最近ればっかり言ってる気がする。



「総額金貨100枚。後、ちゃんと調味料や砂糖も用意してあるぞ」


 金貨100枚? えーと、1000万か。子供が持つ分には多いな。でも、意外とお金吹っ飛ぶんだよね…。



「…お金、心配?」


 あ、見抜かれたか。小声で声をかけられた。



「少しだけね」

「…最悪、わたしが魔物や魔獣、動物を狩って稼ぐから大丈夫」


 えへん。と胸を張るアイリ。ありがたいけど…。



「それはさすがに…」

「そのときは私達も行きますよ」

「だよね」


 わかってたと言わんばかりの顔。でも、その顔は少し嬉しそう。



「ボクも行くー」

「ああ、わかってるよ」


 ポンポンと頭をさわる。



「できたみたいなので取りますよー」


 と四季。ま娘二人のから取って、それから俺の。それから自分のを取った。



 王族組のを取らなかったのは鍋が2つあるから。こちらの鍋は俺らのだが、王族組とタクはもう一方の鍋だ。人数的にぴったりだったので自然とそうなった。



 それはさておき、いただきます。……ん、この野菜美味しい。ゴボウモドキだけど、ゴボウのように食感しっかりしてるし…。あ、そういえば。



「仕事は大丈夫なのですか?」


 ふと思い出したので聞いてみた。



「全く大丈夫じゃない。だが、昨日はちゃんと寝た。そうしないと支障が出る」

「見送りぐらいは元気な顔でしたいしね」

「だから、オレじゃなくてもいいやつは押し付けてきた」


 ククッ、と黒い笑みを浮かべるカーチェ様。



「まぁ、もとはと言えば、押し付けたやつらのせいで仕事が増えたともいえるんだけどねー」

「言うなブルンナ…、せっかく溜飲を下げたのに意味なくなるから」


 カーチェ様がギロリとブルンナをにらむと、ブルンナは小さくなる。



「ごめんね。でも、腹が立っちゃって」

「いいよ。許すさ」


 まぁ、戯れの一環だよな。楽しそうで何より。この食事もきっとストレス発散を兼ねているんだろうな。



「食べてくださいよ。皆さん。会話だけではなく」


 どうやら向こうでは、タクが取り仕切っているようだ。



「ああ、すまん」

「ありがとう」

「ありがとうございます」


 向こうでも食べ始めた。



 会話をしながら、鍋を楽しむ。途中で、全く四季が食べれてなかったから、俺と交代した。なんだかんだと喋っていたら、あっという間に〆になった。〆はパスタ……ってあぁ! 思い出した。確かにやってる。鍋食べてるよ!



「変なとこで思い出すんだな。お前達…」


 カーチェ様のあきれるような声ににうんうんと追従する王族組。またか。



「とはいえ、俺らの国では、鍋にパスタ入れないんですけどね」

「そうなのですか?」

「ああ、一般的には。ですよ。イタリアンレストランにある鍋とかならやるかもしれませんね」


 タクが謎のフォローをしてくれた。



 〆も食べ切って、ご馳走様。美味しかった。



「さて…、では、オレは準備をしてくる」

「ブルンナも。皆も準備よろしくね」

「了解」

「了解しました」


 6人で下に降りる。泊まっていた塔からすべての荷物を持ってくると、宿に移動。馬車にせっせと積み込む。魔道具マジ便利。



 そしてこのタイミングでドーラさんから香辛料や砂糖ももらった。わざわざ魔道具の袋に入れてくれている。この袋も高いのに…。



「いいんですか?」


 一応確認する。間違いかもしれないし。だが、それを読んでいたかのようにドーラさんはほほ笑んで、



「袋ですよね?問題ありません。カーチェ様からの指示ですので」

「ありがとうございます」


 なるほど。であるならば、素直にもらっておこう。皆にもお礼を言うように言わないとね。



 諸々の作業が終わるとルキィ様やタクもやってきた。ばっちりとおめかししている。

ルキィ様は青色のドレス。タクは近衛と同じ感じの赤を主体とした服。扱う魔法と色がぴったりなのが運命的なものを感じる。



 だが、タクは「やっぱりかぁ…」という顔をした。あれ? 何かしたっけ?



「どうした?」

「お前ら…、一緒に行こうって言ったのこっちだけどさ、せめて着替えとけよ…」


はて? どういうことだ? そう思った時、アイリが「あっ」と小さく息をのんだ。



「…ごめん。忘れてた。ルキィ様たちと一緒に出るなら、服装ぐらいはしっかりしないといけない…」

「「あ」」


 完全に忘れてた。ドーラさんは…、後で着替えると思ってたんだろうな。カレンはそもそも蚊帳の外。楽しそうにセンに自己紹介して、一緒に遊んでる。乗せてもらっているだけだけど。



 急いでこの間買った正装を身に着ける。もちろん着るのはウェディングドレスじゃない方。主役じゃないからな。



 着るのは黒色主体のアイリデザインのもの。近衛が赤系統なのでちょっと浮きそうだ。でも、似合ってるし問題ないだろう。俺の自分の服のセンスはあてにならないって自覚してるけどね!



 四季は紫色のドレス。少し妖艶な雰囲気が出ている。アイリは黒色ドレス。この前の式典で着ていた服とは配色が逆だ。こっちはこっちでかわいい。



 でもこっち、配色的に夜会に出る用な気がするけど…、ま、いっか。



「これでいい?」


 タクに聞いてみる。



「問題ないですね。完璧です」


 何故かルキィ様が答え、アイリに頬ずりをする。それを羨ましそうに見る近衛の数名。やべぇ、この近衛…。



「四季も似合ってる」

「ありがとうございます。習君もですよ。アイリちゃんありがとう」

「ありがとうな」


 ルキィ様になでなでされていたが、指をグッと立てて返事をしてくれた。



「カレンのはー?」

「使いまわしは…、ダメだろうなぁ…」

「心配するな。作ってある」

「あれ?カーチェ様?」


 突然やってきたカーチェ様が差し出したのは、これまた暗い色合いの青のワンピース。



 あれ? いつアイリから今着ている服のデザイン聞いたんだろう? 謎だ。まぁ、いいか。俺達の服装とちょうど同じくらいの質だし。



「「ありがとうございます」」

「ありがとー」

「…ありがとう」

「どういたしまして。それは買ってあったやつだ。悪いなカレン」

「いーよー。着替えてくるねー」


 カレンは着替えるために部屋に入っていった。ん? 買ってあった? じゃあ、どうして前は…?



「前の服か?あれはな…、ドーラが暴走した結果だ」


 察されたようで教えてくれた。



「暴走ですか?」

「ああ、「ハイエルフ様の服を既製品で済ませるだなんて!」的な感じで」

「今回は暴走されないように誤魔化したんだよ」

「さすがに徹夜されまくるとまずいからな。ただでさえ魔力使い切ってるのに」

「なるほど…。ありがとうございます」

「着替えたよー」


 ちょうど会話が切れたところでカレンが着替えて出てきた。うん。ちゃんと似合ってる。カレンの活発なイメージにまるで合わないけど…、喋らなければ問題ない。



「似合ってるが…」

「イメージと合いませんね…」

「だねー」

「ですよね」

「俺もそう思う」

「俺もです」


 どうやら皆同じことを考えていたようだ。



「…ま、いっか」


 全員頷いた。今更どうしようもないし。その陰で、



「…カレン。出るときはおとなしくしてようね」

「んー?わかったー」


 アイリがカレンに忠告していた。



「ルキィ様。すべての準備が出来ました」

「はい。お疲れ様です。カーチェ様」

「ああ、わかってる。さよならだ。また来てくれると嬉しい」

「はい。私は王女ですので、また機会があれば」

「俺はルキィ様の護衛ですから」


 と二人は答える。カーチェ様はこちらを向いて。



「4人もな」


 と言った。彼女にしては珍しく、頼み(威圧)ではなく、本当に心から願っているようなそんな顔だ。



「はい。機会があれば」

「帰れなければここに住むのもいいかもしれませんね」

「だね。帰れるときは…、」

「挨拶に来ましょう。お世話になりましたから」


 アイリとカレンの方を確認の意味を込めてみる。アイリはいつも通り「二人に任せる」という顔。カレンはカレンで、ちゃんと理解したうえで「任せるよー」という顔だ。



「と、いうことです。お世話になりました」

「ああ、またな」

「ブルンナもいるよ!忘れずに会いに来てね!」

「うん。わかってるよ。じゃあね。そして、元気でね。カーチェ様も」

「お前らもな」

「みんなもね」


 カーチェ様もブルンナも嬉しそうに微笑んだ。その二人の顔は、例えることのできないくらい、不思議と心温まるものだった。



 そして二人はタクやルキィ様からも「お元気で」という言葉を受けながら部屋を出る。ここからは、もう会話はできない。



 俺達はセンのひく馬車に乗り込む。出発する順番は俺たちの馬車、ルキィ様とタク、近衛の馬車。それから近衛だけの馬車×3の全5両。御者台には近衛が一名ついてくれている。さすがに勇者の家族にやらせるわけにはいかないとかなんとか。



 門の前に整列すると、ドーラさんがやってきた。



「ここから出てください。式が始まれば自動で開きますので。開ききったときに」

「ドーラさん。ありがとうございました。お礼を言えていない人たちにもよろしく伝えておいてください」

「私からもお願いします」

「フフ、わかりました。では、お元気で」


 手を振り見送ってくれると同時に、門が開いた。それを見た近衛が縄を振り、センがゆっくりと歩み出す。



 カーチェ様とブルンナは、こういうときのために作ってあるのだろう、バルコニーからこちらを見てくれている。それに気づいたカレンが「おとなしくしてね」と言われていたのに、馬車の開口部から大きく手を振りだした。



 カーチェ様とブルンナは一瞬だけ顔を引きつらせたが、手を振り返してくれた。なので、開き直って俺達も手を振る。周りには見送りの人…、というよりも野次馬がたくさんいたけども、野次馬よりもあの二人のほうが大事なので無視だ。



 ずっと手を振り続けていたが、プリストカウタンの2枚目の壁を通り過ぎ、全ての馬車が通り抜け切ると、門が閉まり完全に見えなくなった。二人も俺達も、しまり切る最後まで手を振り続けた。



「見えなくなっちゃいましたね」

「だな…。いい人たちだった。でも、止まるわけにはいかない」

「はい。家族が心配してるでしょうから…」


 次の国はイベア。国土の半分が砂漠にして、獣人領域と接する、獣人領域への旅における最後の通過国だ。

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