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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
2章 アークライン神聖国
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54話 カレン

 カレンからは、どう考えてもドーラさんの動きは見えてなかった。



 …いや、これは正しくない表現か。正確には、見えるはずがなかった。と言うべきか。なのに、カレンはドーラさんの肩をかすめてみせた。



 岩でわずかに軌道がずれたが…、ずれていなければ、顔面に直撃。もしくは喉に突き刺さったと思う。そうなれば致命傷で即終了。どう考えてもおかしい。



 ドーラさんもそう考えているのか、着地して様子をうかがっている。



「まだまだいくよー」


 シーンと静まった場内にカレンのその無邪気な声は明瞭に響いた。カレンは矢のサイズを元に戻し、何本もまとめて発射。それを見たドーラさんは岩陰に隠れて視線を切る。



 少しだけタイミングをずらして岩陰を飛び出しながら、裏で詠唱をしていたのか、風の刃の弾幕を飛ばす。が、カレンはそれを叩き落す。



 再び会場から歓声が巻き起こる。



 ドーラさんは風の刃の弾幕が尽きると、再び同じ魔法を発動させた。先ほどのが、偶然か否か見極める算段なのだろう。また、発動させ終わると魔法に追従して突っ込んでいく。



 カレンはにかっと笑うと、再び大きめの矢を取り出す。「さっきよりも簡単だね」と言わんばかりに、完全に引き絞ったと同時に発射。さらに追撃とばかりに元のサイズの矢を放つ。



 だが、さすがはドーラさん。先ほどの矢が飛んでくると予想して、防御のために氷の盾を作っていた。それで完全に最初の矢を受け止めた。



 だが、追撃までは予想しきれなかったのか、驚いたような表情になって、左右に飛び跳ねることで回避。対策を考えるつもりなのか、しばし立ち止まる。



 だが、カレンは矢を引き絞って上空に放つ。完全に見当違いの方向。だのに、その矢は狙い違わずドーラさんのもとへ飛翔した。



 曲射!? 俺、その弾道苦手でゲームじゃ、全然当てられないんだけど。



 って、そんなことはどうでもいい。いや、よくないけど。普通なら曲射で狙ったところに落とせるだけですごい。だが、それよりもすごいことがある。これで三度カレンは見えないはずのところにいる敵を狙撃して見せた。



 これから導き出される結論はただ一つ。



「見えてるな。どれくらいの距離まで見えるのかはわからんが…。精度は高そうだな」


 カーチェ様が俺の言いたかったことを言ってくれた。会場の熱気が最高潮で、声がうるさいためかなり聞き取りにくかったが。



 ドーラさんは次の行動に移るためか、自分の魔法で作った岩を粉砕した。自分の魔法だから、すぐ壊せる。壊されたせいでもうもうと砂煙が立ち上がる。会場の様子がよく見えない…。



「本気だね、ドーラ」

「だな。滅多に使わないのにな」


 二人の会話の意味はすぐに分かった。ドーラさんの姿が会場にない。一体どこに行ったんだ? そして何をした?



 俺達は首をかしげる。観客たちはかたずを飲んで見守っている。



 だが、カレンはまるでそこにいるのがわかっているかのように一点を見つめ、再び大きな矢をつがえ、発射した。



 矢は空を切り地面に突き刺さり、勢い衰えることなく地中へと進む。そして矢が完全に見えなくなってしばらくすると、地面からカレンの方に向かって、一条の太い光線が炸裂した。カレンはそれをわかっていたかのように余裕で回避。その間に、少し離れたところから砂煙が立ち、そこにドーラさんが現れた。



 カレンの矢を放った角度。そして、双方の距離。そこから考えると…、おそらく直撃コースだった。かなり荒い考えであるのは言うまでもないが。



「ふむ、滅多に使わない戦法が敗れたか。地中でも見えるのか」

「そのせいでブルンナが割を食ってるんだけど!」


 さっきの光線は観客席直撃コースだったのでブルンナが消した。頑張れ。



「あれって、普段ならどういう戦法なんです?」

「魔法を地中で詠唱。そして、詠唱する間に地中に響く音から居場所を計算。真下に移動してあれをぶっ放す。そういうものだ」

「それって、色々おかしくないですか?」

「大丈夫。即死”は”しない」


 そこじゃない。一番問題なのはそこじゃないよ。何で聞こえるんだ。そして計算ってなんだよ



「大丈夫、シュウ達家族もタクも大概おかしいから」


 グッと親指を立てるブルンナ。違うそうじゃない。そうじゃないんだよ。



「あ、試合が動きましたよ」


 俺達がこんな会話をしていても試合は進む。俺を含め、釈然としない顔をしていた面々も試合に集中する。



 どうやらドーラさんは近距離線に持ち込んだようだ。ドーラさんは腰につけていたナイフを取り外してそれを使っている。カレンは弓を消し去り、新たに作り出した短めの矢。それで応戦している。



 「キン!キン!」と両者の得物が激突するたび硬質な音が鳴り響く。ドーラさんの右下からの切り上げをカレンは左にしゃがんで回避。同時に手に持っていた矢で足を狙うが、ドーラさんは切り上げの勢いを利用してそのまま転がり避ける。



 カレンは手に持っていた矢を放り投げ、さらに何本も取り出し投げる。



 地面への刺さり方を見る限り、当然ながら弓を使ったほうが威力は高そう。だが、牽制にはちょうどいい。目やのど、胸に食らえば大打撃なのは間違いないから。



 牽制で距離を取らせると、再び弓を取り出し、矢を大量に放つ。



「これは…、あれだな。確かに騎士団長は厳しいな」

「だね。弾幕と、盾を無視できる手段。それに接近戦に持ち込んでも、十分に動けて戦える。極めつけは、牽制であっさり距離を取らせられる…と。確実につらいね」


 頷きながら言うブルンナ。



「ああ、彼が弱いとは言わんが、いささか相性が悪いな。後は…、」

「あ、ドーラ様がキラキラ光りながら高速移動を始めましたよ」

「自己バフか?」

「タク。それじゃ通じないかもしれないぞ。自己強化にしておけ」

「『身体強化』と同じようなものですか?」


 ほら、やっぱり四季に伝わってないじゃないか。



「言葉上はね。実態はわからない。そこんとこどうなのです?」


 スピードを上げたから、試合の情勢は目まぐるしく変わる。



 ドーラさんが跳ねるように大地を移動しても、正確に矢は射抜いてくる。接近をしようとしても、少し劣る程度の機動力を発揮しだしたカレンが適度に距離を取るから詰め切れない。



 弾幕に紛れ接近を試みても「無駄ァ!」と言わんばかりに的確にドーラさんと当たりそうな火球だけを射抜く。最初の弾幕打消しはパフォーマンスだったらしい。



「本気で騎士団長には厳しいな」

「だねぇ…。スピードも出せるんだもんね。一応、後でやらせてあげる?そんな評価されちゃ黙っちゃいないよ」

「希望があればこっそりな」

「お二人とも聞いてました?」


 四季が、会話の終了を見計らって割り込んだ。



「ん?聞いてたぞ。あれは『身体強化』ではない。聖魔法の一種。『|戦神の祝福《ブレブ・

シュファラト》』だ」

「そのまんまだよ」


 シュファラト神は戦神。ブレブは祝福と。なるほど。確かにそのまんまだ。



「何が違うのです?」

「『身体強化』は部位をある程度選べるが、あれは無理ということかな…」

「それでしたら、光ってますからただの劣化ですよね?」


 言外に「そんなわけないでしょう?」とタク。それが嬉しかったのか、ニヤッとカーチェ様は笑い、



「その認識は甘いぞ。あれの最大の長所は魔力消費が驚くほど少ない点だ。なんと、およそ二十分の一の魔力量で『身体強化』と同等の強化ができる」

「それに『身体強化』も併用できるよ!」


 と嬉しそうに言った。二十分の一はすごいな。あとで模倣しよう。出来るはずだ。



「ただ、千日手だねぇ…」

「だな。双方決め手に欠ける。地味すぎる局面で、魔力切れで決着は出来れば避けて欲しいところだ」

「それは大丈夫でしょ。ハイエルフだからきっと魔力量はあるよ。それに二人の子供だし」

「それもそうだな」


 二人の子供=強い。もしくは、何かやらかす。という認識はおかしいでしょ!?



「何もおかしくない」


 タクぅ!?



「あれ?皆さん見てください。カレンちゃんが口を動かしていますよ」

「あ、本当だな」

「だね。何をしているんだろう?」


 その声に俺たちはタクを追求するのを諦め、カレンを見る。



 口を動かしている間、矢を一切射らなくなったため、ドーラさんがここぞとばかりに弾幕を叩き込み、接近戦に持ち込む。



 だが、カレンはそのことごとくを避け、時には被弾しながらも決して口は止めない。そして、ニコッとほほ笑むと…、持っていた矢を自分の腕に突き刺した。



 うそぉ!?そして、カレンは即座に矢を引き抜くと、血まみれになった矢をドーラさんに向けて振るい始めた。



「あれ?動きが大げさになっていますよ?」

「そりゃあ、あんなものに当たりたくないでしょう。ルキィ」


 俺だって嫌ですよ。と苦笑いしながらタクが言う。



「呪いもありえるしな」

「ですが、ハイエルフですよ?伝承からは呪いとは無縁ですが…」

「そうなんだけどね…」


 その目は何さ。また二人の子供理論ですかそうですか…。



 伝承とはラーヴェ神が作ったとかいうもの。地球じゃ、神様が呪うとか普通にあったけどこっちはないんだろうか?



 日本の神様は罰当たりなことしたら呪い……というか天罰がある。ギリシャ神話とか北欧神話にもあったはず。確か、オリオンは熊にされたはず。



 ……いい加減真面目にみよう。試合はしっかり見ないと。



 ドーラさんが回避するため体を捻って後ろを向いたその隙に、先ほどと同じところに矢を刺して、血塗れた矢をもう一本作って、即座に投げた。



 ドーラさんはそれを叩き落し、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ気を抜いてしまった。



 カレンはその隙を狙ってつがえていた血塗れた矢を発射。威力は不自然なことにまるでなかったけれども、しっかりとお腹の中心…とは、わずかに回避行動をとられたためいかなかったが、とにもかくにも命中した。



 観客はせっかくの命中にもかかわらず威力のなさに嘆き、盛り上がりが一気に落ち込んだ。ドーラさんは愕然としている。おそらく気を緩めてしまったことだけが原因ではないだろう。



「いっくよー!」


 楽しそうなカレンの声が響く。



 カレンは弓につがえられるだけ矢をつがえると、思いっきり引き絞って発射する。ただそれだけなのに、発射された矢は生きているかのようにドーラさんに飛んでいく。



 ドーラさんは矢を打ち落とそうと、魔法を放つが、矢はそれらを全て避ける。

ならば、とカレンを狙おうとしても、カレンは次々に矢を放っているため、その矢に打ち消されて届かない。



 そして…、ドーラさんは次第に回避と撃墜に意識を割くことになり、カレンがどんどん有利になってゆく。



 しばらくの間、辛うじてしのぎきっていたが、ついに全方位を矢に囲まれる瞬間が来た。



 カレンは「待っていました!」とばかりに嬉しそうな顔をして、腕を振るった。



 その瞬間、全ての矢が一斉に加速してドーラさんに殺到。「ドドド!」と猛烈な音を立てる。おいおい、やりすぎじゃないか、これ。死ぬぞ…。



 「ドドドド!」という音が止んで、全ての矢が地面に落ちると、その中心には無傷のドーラさんが立っている。……良かった無事か。



 でも、ドーラさんは少し顔色が悪い。しばらく手でカレンを制しながら息を整えると、両手をあげてこちらを見ながら首を振った。



「魔力切れか」


 カーチェ様は呟くと、立ち上がって、



「試合終了です!勝者!カレン!」


 試合終了を宣言する。会場は再び「ヤアアアアアアアアア!」という熱狂に包まれた。



 二人は熱狂から逃れるようにそそくさと退場する。こちらも二人を待つために中に引っ込んで控室で待機する。さて、会話でもして待っていようかと思った時に、服すら着替えていないカレンが部屋に飛び込んできて、



「勝ったよー!」


 と満面の笑みで俺たちに突進してきた。とりあえず腕の傷がやばそうなので回復しておく。



「あー。放っておいても勝手に治るのにー」

「そうじゃないでしょ。何であんなことしたんですか?」

「そうだぞ、なんで自傷行為なんてしたんだ」


 俺らが怒気を露わに詰め寄ると、



「ごめんなさい。でも、必要だったから。おとーさんもおかーさんも必要ならやるよねー」


 でしょ? と純粋な目で首をかしげながら言うカレン。うぐぅ。確かにやらないとは言い切れない…。だが、



「そういう問題じゃないでしょ。だいたいあれは何なんです?」

「あれ?あれはねー、そういう魔法だよー。いい機会だから説明しちゃうねー」


 カレンは説明を始めた。かなりわかりにくかったので、俺と四季が頑張って解釈したことをまとめておこう。



 カレン曰く、シャイツァーは見た通り弓。魔力であの3種類の矢 (短いの、普通の、長いの)を自由に作れるそうだ。でも、エイムは自分の実力。そんなもんどこで身に着けたんだろうって気になるが、すごいのは間違いない。



この弓のすごいところは、「ターゲットにした対象がどこにいようと、対象の動向が手に取るようにわかる」というもの。



 ターゲットの周りを自由に動き回る小型カメラが飛び回っているようなモノ。しかもそのカメラは撃墜不可。と言えばわかりやすいだろうか?



 この効果の有効射程は不明。本人が「その気になればいつまでもどこまでもできるよー」とか言っていたので、本人の魔力次第だろう。



 しかし、強力であるがゆえに、同時に複数人にこの効果を及ぼすことは出来ないらしい。その上、ターゲットにするためには、一回は必ず肉眼で見ていないといけないらしい。完全に1:1向けだ。



 そして、ターゲットにしてからしばらく時間が経つと、先ほどのように、どこに矢を放とうと自動でホーミングするし、急発進もできるらしい。



 明言はしてなかったけど…、たぶんその場でとどめることもできるんじゃないかな?その上、障害物があればある程度は自動で回避するらしい。高速で動かれるとだめらしい。



 色々おかしい気がするが、シャイツァーだからいつもの事。



 ただ、「しばらく時間が経つと」という部分がかなり曲者だ。解釈に非常に時間がかかった。話を聞く限り、どうも対象によるっぽい。しかもそれだけじゃなくて様々な要因が絡んでくるらしい。



 本人もうまく言葉にできないらしく、要領を得なかった。唯一わかったのは「魔力の多さによる」ということ。対象の魔力が多ければ多いほどその時間は指数関数的に増えるらしい。



 ドーラさんは3時間ほど。俺、四季、タク。それにアイリは約3日らしい。



 「すごいね!」と満面の笑みで言われたけど、何がすごいのか全く分からないよ…。そして、一般人なら3秒ほど。やっぱり何がすごいのかがわからない。むしろ一般人貧弱すぎるだろ。



 あの自傷行為の意味は、その時間をなくすこと。手順は、まず、詠唱。無事に詠唱しきれば、腕に模様が現れるらしい。観客席からは見えなかったけど。



 そして、そこに矢を突き刺して血を付けて、その矢で傷をつければいいらしい。それで一瞬であの状況を作れるそうだ。言葉にされればかなり簡単だ。



 ただし、縮めるための効果は最初の一本にしかない。つまりカレンが投げつけたあの矢は完全なブラフ。でも、知らなかったら無理。初見殺し甚だしい。



 で、以上のことを皆に話しなおした。誰も完全に理解していなかったっぽいし。カレンにも確認をかねて聞いてもらった。



 話している間、みんなの顔の変化が面白かった。特に王族が酷かった。まぁ当然だ、やろうと思えば暗殺もできるわけだし。ルキィ様やカーチェ様。ブルンナに矢が飛んでいくことはないだろうけど。



「で、いいの?」

「うん。それでいいよー」

「で、最初に戻りますけど、なんであれを使ったんですか?そのままでもたぶん勝てましたよね?」


 四季が聞くと、カレンは少し「んー」と唸って考えて、



「たぶんね。でもそれだとねー、ドーラさん死んじゃうよー。手加減なんてしてたら、押しきれないのはー、戦っててねーよくわかってたもん」


 ニコリとほほ笑みながら言った。笑いながら言うことじゃないからそれ!



「あれだと加減ができると?」

「うん!矢の手応え?が一本一本伝わってくるからね!「服や、肌に触れたかなー?」って、思った時に全部落とせるからねー。その必要はなかったけどー」


 無邪気な顔で言ったが、ドーラさんは顔を引きつらせた。



「ともかく…、カレン様がかなり強いのは間違いないでしょう。魔力量もかなりあるはずです」


 最後、ほぼゴリ押しだったしな。



「…あんまり使わないでね」

「善処するよー」


 ダメだこりゃ。絶対にやる。



「お前らに似たんだよ」


 呆れながら言うタク。知ってる。そんな気がしてたんだけど。今、嫌でもそれを実感してるところなの!


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