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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
2章 アークライン神聖国
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53話 出立前日

 翌日。ご飯を食べてみんなで図書館に突撃。ハイエルフとは何なのか調べてみる。



 相変わらずたくさんのドローンのお出迎え。ご苦労様。なんかもはや数えるのが面倒になるくらいいるな。30は超えていないだろうけど。



 しかし、そんなに集まってくれたのに『ハイエルフ』と指定してみたところ…、全然なかった。



 2基ほどが禁書庫に突撃して、それぞれが一抱え分ほど持ってきただけ。しかも一回読んだ分すら混じってる。いつもなら読んだことのある分は勝手に弾いてくれるのに。



 なんて考えていると、喋るわけじゃないけど、伝えようと頑張ってくれている。その動作が何とも愛らしい。小動物的な可愛らしさがある。



 ふむふむ、なるほど。本があまりにもなかったと。それで、読んだことのある本もついでに当たってみたけどそれでも、これだけしかない。と…。



 少ないな…。俺がドローンと戯れている間に四季はもう読み始めている。すぐなくなりそうだな…。



「うーん、じゃあ、禁書以外は?」


 今度は3基が飛んで行った。だが、本が図書館中に散っているだけだったのか、3基も行ってくれたのにさらに本の数は減った。まじかよ…。



「エルフもお願い」


 禁書と一般合わせて7基。それぞれが少しだけ大きくなった山を抱えてきた。今度は今度で、読破したものばっか。新規本ないんじゃないか? とりあえず読もう。



 読み始めてみると、すぐに終わった。しかもちょろっとだけ記述があるとかいうのがほぼ全てである。



「一応、民間伝承もお願いします」


 と四季。今度はドローン全基が動き出した。かなりあるな…。これは時間がかかりそうだ。







______


 と思ったけど、やっぱり昼までに終わった。まともな情報がない。ほぼ伝説に近い存在のようだ。エルフも同様にほぼない。ラーヴェ神が作ったってぐらいしかない。ナンテコッタイ。



 ということは…『エルフ』についてはよくわからないけど『ハイエルフ』については、ひょっとしたら俺らが人間で一番詳しいんじゃないだろうか?



 とりあえず昼食だ。食べに行こう。都合よくドーラさんも来てくれたことだしね。



 カレンは退屈だったのかいつの間にか四季の膝の上で寝ている。四季は優しくなでながら読書。片手ふさがってるのに速度えげつないな…。アイリはエルモンツィについて調べていた。



「皆、行くよ」

「はーい。カレンちゃん起きて。あ、本。お願いしますね」

「…ん。これお願い」

「ふわぁぁ…。ご飯?わーい」


 各々準備ができたようだ。



 というわけでとっとこ移動。朝食は久しぶりに部屋で食べたけど、昼はまたビュッフェスタイル。会話の機会ができるからいいけどさ。



 今回は…、東南アジア風に見える。ただし米はない。すごく残念である。でも、東南アジアはフォーとかあるし、主役不在でもなんとかなるよね! って、フォーも米じゃん。ダメだこりゃ。



 8席のテーブルに着くと、都合のいいことにまたいつものメンバーがそろった。が、会話は後でもいいのでさっさととっちゃえ。メニュー名なぞ知らん。東南アジアでさっと出てくるメニュー名はフォーとガパオライスぐらいだから。



 なので適当に取ってしまう。今更だけどカレン、ハイエルフだけど菜食主義というわけではないみたい。普通に肉も魚も食べてるし。その方が旅するときにありがたいけど。



「で、だ」


 椅子をサッと引いて、皿を置いて、ドンと座るカーチェ様。座るときに椅子を引いたら楽しいことになりそう。あ、でも、この悪戯下手したら悪戯じゃすまなくなるからダメだな。



 この世界なら大丈夫かもしれないけど…、俺の知る限り最強の回復魔法使える人がそのせいで使えなくなったらシャレになんないな…。



「話始めても?」

「あ、ごめんなさい」


 脱線してたのに待ってくれているようだったので謝る。



「まず、あの3人だが…、話しあった通り奴隷落ち。たぶん鉱山にでもつっこまれんじゃないか?」

「奴隷落ちの時点でほぼ報復は終わってるのでどうでもいいです」

「後は、反撃されないかどうかですね…。心をしっかりへし折れてないですから」

「やっぱあんたら似てるな…」

「だねぇ」

「方針一貫してるよな、習は」


 どんだけ似てることの再確認するんだよ…。もういいじゃん…。



「方針って何です?」


 流せばいいのに、流さないのか。



「聞きたいですか?たぶん楽しくないですよ?」


 俺もそう思う。だが、四季も含め、皆頷く。



「報復は許される範囲で。逆撃をしてきそうな相手は心を折る」


 まぁ、一言でいえばそれだよね。今回は逆撃喰らうかもしれないけど、奴隷落ちしているから無問題。



 言い忘れていたけど、奴隷は他人を傷つけられないし、傷つける意図を持って行動することもできない。首にそういう魔道具がついているから。



 ほら、やっぱり面白くないじゃん。みんな顔死んでるし。頷いているのは身内だけ!



 ん? ちょっと待って。アイリはともかくカレンもか…。皆顔ひきつっているのはそのせいかもしれん。



 許される範囲はまちまち。その時の気分次第や、相手の行動、それに伴う結果等々。それらの要素を全部加味して決まる。なのに、これをわかってるタクは素直にすごいと思う。



「…さて、えーと、何だっけ。そうだ思い出した。シュウ。カード返しておくな」

「ありがとうございます」


 あれ?カード増えた?



「カード増えてますよね?」

「カレンの分も勝手に作っておいた。ランクはそろえるために据え置きだが問題あるまい」

「カレンの戦闘力全くわかりませんよね?」


 四季もタクもルキィ様もブルンナもアイリもうんうんと頷く。頷かないのは食事に夢中のカレン本人だけ。



「こまけぇこたあいいんだよ」

「…よくないでしょ」


 ブルンナが代表して素晴らしいジト目でツッコミを入れる。



「じゃあ、後で戦ってもらおう。それでいいじゃん」

「…せめてカレン本人に聞いてからにしようよ。カレンちゃん。おーい、カレンちゃん?」

「ん?何?」


 2回も声をかけられてようやく顔をあげた。口まわりはものすごく綺麗。逆に怖い。普通さ、もっと汚いだろ。



「ボクは蕾の中から二人を見てたからねー。だいたいのことはわかるんだよー」


 心を読まれた…だと!? それも怖いが…、俺らを見てたの!? それは逆に問題だ。だって俺らこの世界の人間じゃないもの。この世界の常識をまじめに知ってる奴がアイリしかいねぇ。アイリもちょっと怪しいし…。



 同じことを考えているのか皆、再びフリーズ。アイリに王族組、タクの憐憫の視線が集中する。アイリはやる気はあるけど荷が重すぎる。そんな顔。



「で、何の話なのー?」

「えっとな、後で試合してほしいんだが…」

「いいよー」

「え、いいのか?」


 あまりの即決に逆にカーチェ様が驚いた。



「一昨日は、ボクだけ蚊帳の外だったからね。それに、ボクの力をおとーさんやおかーさん。それにおねーちゃんに見せるいい機会になると思うんだー」


 言ってくれるのは嬉しい。でも、何だろう。無邪気さの中に少し黒いものがある。



「なるほど。ありがとう。じゃあ、相手はどうしようか?」

「生半可な人じゃ多分ダメだよ。これ」

「だな。それも、できればタクとシュウ、シキにアイリ以外がいい」

「それはまた何で?」


 気になったので聞いてみた。



「昨日みたいな3馬鹿が出ないように。実は見掛け倒しだったんじゃないかと考えるド阿保がいないこともないから」


 遠い目をするカーチェ様。大変だなぁ…。



「普通はそんなこと思わないのですけどね…」

「声のでかいやつに限ってそれだから…、仕方ない。一昨日に来なかった奴もいるからそいつらは強制招集。よし、ドーラ。頼んだ」

「かしこまりました」


 ドーラさんはいつもより嬉しそうに去っていった。エルフだからハイエルフの戦いが見れることが嬉しいんだろうか?



「いきなりですけど問題は…、なさそうですね」


 四季は言いかけたけど、二人の顔の雰囲気で察したみたいだ。



「そうだな。元からいなくても構わない奴だし。むしろいない方が回るかもしれん」

「来たいって人はどうするの?」

「来させればいいだろ。その結果、仕事が止まったとしても、困るのは主にオレとお前だ。じゃ、皆食べ終わったみたいだし、行くか」

「できればあまり来ませんように!」







_____


「な゛ん゛て゛ふ゛え゛て゛る゛の゛お゛ぉぉぉおぉ!」


 着替えるために皆で控室に入った後、ほぼ観客が揃った観客席を見て、凄まじく聞き取りにくい断末魔をあげるブルンナ。



 ブルンナの思い虚しく、観客はむしろ増えた。増えてしまった。



「そりゃな、一昨日見に来た奴がすごかったって広めまくったからな」

「それでも対戦カードが違うじゃん!」

「…そんなこと、オレに聞くな。オレだってそれは思ったさ、でも楽しみだったんだろ…」


 諦めろ。言外にそう言うカーチェ様。ブルンナの落ち込み方が見ていて哀れ。



「送り出しもあるから仕事増えるぞ」


 なぜかさらに追い打ちをかけるカーチェ様。



「忘れていたかったよ…」


 残念ながら見送りを流すわけにはいかないのだ。国家の威信が云々で。こういうところ、すごく面倒くさい。



「対戦カードはどうされたのです?」

「あ、ルキィ様。騎士団長にしようかと思ったんだが…」


 言いにくいのか言葉を切った。ルキィ様は途中で切られてしまって、頭に疑問符を浮かべた。おい、タク。教えて差し上げろ。



 俺たちにまるで教える気がないのを悟ったのか、それともその思考を既に読まれていたのか、大きなため息をついてから、口を開く。



「騎士団長では相手にならない。そう言ったんだよ」

「誰がです?」

「カレンちゃんが」

「は?」


 目をぱちくりさせるルキィ様。



 なお、ルキィ様がこのやり取りを知らないのは、控室まで同行していなかったから。



 先ほど着替えるためにと言ったが、それは俺と四季、それにアイリとタクも含まれている。

万が一、カレンの戦いが酷かった時にお茶を濁すためだ。全員な理由は知らないが。



 カーチェ様、ブルンナは、あの儀式をしないといけないからな。一緒に着替えてある。



 その時に、相手が騎士団長…、正確には、近距離戦闘の人だと聞いて、カレンはそう言ってのけたのだ。俺らだって、目を丸くしたわ。



 ということを簡潔に説明した。タクが。



「だからドーラになったんだ。ドーラは魔法メインだから」

「しかし、ドーラさんエルフですよね。戦えますかね?」

「大丈夫だろ。あいつは職務に忠実だ。だからオレも助かってるんだが。ちゃんとやってくれるさ。さてと…、喋っている間に二人が出てきたか。行くぞ。ブルンナ」

「あいあい」


 立ち上がって、前と同様、やるべきことをやって戻ってくる。相変わらず飛び方がシュールだ。何とかなりませんかね? それよりドーラさんの服おかしいだろ。なんでいつもと変わらずメイド服なの?



「前よりは、疲労感ないか」

「それはよかったね。人数少ないしね…、ところでカレンの武器は?」


 俺らに振られたので手でカレンの方を指さす。俺らも知らないからな。



 でも、今は見ればわかる。どこから取り出してきたのかわからないが弓だ。シャイツァーだろうが…、弦の部分がたるんでいるように見える。だから、弓本体と合わせて楕円形になっている。あれで射れるのか? 射れるんだろうなぁ…。



「矢はどこにあるんだろうね?」


 わからん。全員で首を振ると「聞いておきなよ」とでも言いたげな顔された。仕方ないじゃん色々あったんだから。でも、始まればわかるはずだ。



「ちなみにドーラのシャイツァーはあの服だよ」

「じゃあ、ドーラさんが誘拐されたのって…」

「休日だったんでしょ?公私は分けるべきという信念があるからね。あれを着ていなかったからだろうね」

「あの服は勇者様が広めた由緒正しきメイドの仕事着だそうです」


 勇者! あんたら一体何やってんだ!



 二人が既定の位置に立って、戦闘準備を整える。それを確認したカーチェ様が、試合の開始を告げた。



 合図と同時、双方距離を取ろうと後ろに飛び跳ね、滞空したまま攻撃を開始する。それだけなのに歓声が巻き起こる。



 ……二人の声がまるでこちらへ届かない!



 ドーラさんは火の玉。詠唱が早い。それに数が結構多い!



 それに対し、カレンはどこからか取り出してきた矢。たぶん魔力で作ったんだろう。それを3本や5本、まとめて弓につがえて引き絞って発射する。その一本一本が正確に向かってくる火の玉を全て消し去り、ついでとばかりにドーラさんを襲う。



 物量ではカレンのほうが一枚上手か?



 ドーラさんはこのままでは弾幕勝負をしても意味がないと思ったのか、魔法の効果時間が過ぎたのか、今度はポケットから半径10mはあろうかという超巨大な岩の玉を発射する。俺らもチートじみてるなぁとは思ったけど、ドーラさんもだいぶえげつない…。



「あれを使ったのか…」

「あれとは?」

「切り札だよ。ドーラは詠唱のストックができる。取り出すときはなぜかあの胸ポケットからだ。詳しい原理は知らんが。そのストックの中でもかなり強めなのがあれだ。ドーラでさえ、詠唱に2時間はかかったはずだ」


 詠唱時間を言われてもさっぱりわからない。とりあえず強いよねぐらいしか。そんな顔をしていたからか、



「実は、オレもよくわからんのだ。聖魔法しか使えないし。聖杯あるしな」


 と言うカーチェ様。えぇ……。



 そんな会話をしている間にも、状況は変化する。ドーラさんはその岩の陰に隠れながら高く飛び上がる。カレンからは見えないだろう。



 カレンはそのバカみたいなスケールの魔法に一切動じることなく、先ほどまでのよりも 大きな矢を一本つがえ、限界まで引き絞る。そして何かを考えるように二、三拍間を置き、発射!



 放たれた矢は岩を貫通し破壊。さらにドーラさんの肩をかすめ、服が切り裂いた。



「嘘だろ…」


 誰が言ったのかはわからないが、歓声は止み、場の人々の心は一つになった。

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