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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
2章 アークライン神聖国
58/306

52話 宴の終わり

 恥ずかしさのあまり凹んでいたら、タクに声をかけられて、祝福の話を聞かれた。そしたら何故か下から声が飛んできた。



「王よ!なぜそんな得体のしれないやつらとばかりお話しするのです!」


 こっちをガン見しながら叫ぶ貴族。



 得体のしれないって…。そこはどこの馬の骨とかにしとけ。そして、全く緊急性がない。



「あなたは何を言っているのです?この方たちはこの国に巣くっていたチヌカを討ち取りし勇者ですよ?」


 落ち着いて返答するカーチェ様。



 しかし、その目にはかなりの侮蔑が込められている。素だったら確実に「お前は阿保か」やら「馬鹿かお前」とか「頭のねじは緩んでないか?」の暴言がまず間違いなく飛んでくるだろう。



 おそらく面倒なタイプの貴族なんだろうなぁ…。実際面倒。



「先からそうおっしゃいますが、証拠はあるのですか!?証拠は!?」


 出たー。「証拠出せ理論!」今回はまだまともなのが幸いだ。たまにもっと意味不明な時にこれ言いだす奴もいるからな。



 それはそうと、王様に噛みついていくのはある種の賞賛に値するのではないだろうか。



 ところで、証拠あったかね。こいつらを速攻で黙らせられるような物……。ない気がする。



「証拠なら…、そこにあるよ?チヌカの使ってた道具の破片。それとシャリミネ」

「ですが!それだけではチヌカがいたことにはなっても、そいつらが倒した証拠にはならんでしょう!」


 確かにそうなんだけどね…。めんどくせぇな。



 一番まともな証拠はチヌカの存在証明にしかならないというね。それに同調して周りの貴族2名も騒ぎ始めた。



 デブ。ハゲ。ガリ3人衆と呼ぼう。一体何が彼らを駆り立てるのだろうね。名誉か、それとも金か。あぁ、ポストが減るとでも思っているのかも。



 もし最後なら、心配無用。この国に留まる気なんざないし。



 それに周り見ろ。「こいつ何言ってんだ」が7割。2割があきれ果てていて。5分がそもそも気にせずにダンスしている。



 いや、5分の人らも何してんの。鋼の精神でも持ってんの? それとも、険悪な雰囲気を和らげようとしてるのか。できれば後者であってほしい。



 で、最後の5分が同調した奴、もしくはしそうなやつ。この時点で浮いていることを自覚しろ。



 そして、この5分。言っちゃあれだが全員ダメっぽい。ただダメなんじゃなくて、いわゆる働き者な無能。一番言われたくない評価。



 当然、ポストの残りなんて気にしなくてもお前らに回ってこねぇよ。もっと有能な人いるよ。とか思っていたら、



「粛清後に無能だけどそれを自覚していて、害のない奴らにポスト与えたのがまずかったか…」


 カーチェ様がぼそりとつぶやいた。



 ああ、お飾りを作ったら勘違いしたのか…。無能を自覚している人って、当然だけど評価が低いんだよね。でも、自覚してないやつよりまし。だから、自然な流れとして周りの人的には、自覚している人のほうがしてない奴より評価は高くなる。でも、していない奴は「あいつより俺の方が…」なんて言いやがる。面倒だな本当に…。



「4人、証拠はありますか?」


 カーチェ様が聞いてくる。が、顔は「ないよな。めんどくさいな…」という顔。一応聞いてます。という感じがひしひしと伝わってくる。



「ないですね」

「同じく」

「…あるはずない」

「ナニソレ?」


 答えると鬼の首を取ったように騒ぎ始めた。うるせぇ…。



 カレンはそもそもわかってない。当然だ。まだ生まれてないもの。聞いたのは家族だからだろう。見かけの年的に聞いておかないとまずい。実は生後3日も経ってないけどね!



 一応、ファンタジー定番の魔力痕とかはあって、きちんと調べれば証拠になるらしい。でも、今回は無理だ。



 魔力痕はその人の使った魔法の跡のようなもので、唯一無二。DNAみたいなものと考えていい。魔法を使えば必ず残る。3日以内なら精度はほぼ100%だそう。だから3日以内にそれを記録しておければ超強力な証拠になる。



 でも、今回は前までのアイリと、ウカギョシュと戦闘中のアイリ。それに、戦闘後のアイリ。みんな魔力痕が違うのだ。ウカギョシュに何かされたみたいだからなぁ…。



 ウカギョシュを葬ったのは戦闘中のアイリ。魔力痕はぐちゃぐちゃ。まるであてにならない。「何人いたんだ」って、思わず言いたくなるレベルでぐっちゃぐちゃ。



 今のアイリは言わずもがな戦闘後。呪いから解放されて強くなったからか安定もしている。けど、戦闘中がひどすぎてどうにもならない。



 絨毯?あれは無理。焼いちゃって破片もない。ナンテコッタイ。これがかの有名な悪魔の証明なのだろうな。



「うるさいですね…。私はこの方たちを信用しています。その方が倒したと言ってるのですから問題ないでしょう」


 我慢できなくなってきたのか、話…ではないな。愚痴大会か。それをぶった切って、俺達の方を見て言ってのけ、どや顔するカーチェ様。解決になってない…。



 え?「わかってる」って? じゃあ、なんで? あ、俺達を和ませたかった?



 なるほど、大丈夫です。最初っから聞いてませんから! 面倒なのは聞き流す。これがストレスなく生きる道。あ、もちろん説教はまじめに聞くよ。自分に非があるなら。ループしだしたら流すけど。



 カーチェ様と表情だけで会話していると、さらにギャースカ騒ぎ出した。ところどころ俺や四季の暴言も混じってる。ただなぁ…、これは腹の立つことに「解釈によってはそうなる」というもの。問い詰めても、「別の事ですよー」と言われるのが関の山。逆にカウンターをくらう。「あれ?もしかして勘違いされました?ププ―」的な感じで。



 めっちゃむかつくけど頑張って聞き流す。どうせ後で処分されるし。こっそり報復も…。



ていうか「こんなに細いお方が、倒されたのですか?」が「こんなほっせえやつに倒せるわけないだろ、ばーか!」となることもある日本語よりも暴言が自由なのはすごいと思うな。なんて考えていると、ルキィ様が口を開いた。



「では、あなた方が、真の功労者を探し出せばどうです?」


 怒っている声で言った。



 なるほど。悪魔の証明は言い出した奴にしてもらおうという策か。賢いな。俺らがやる必要もないし。



 頑張れば偽造もできるよ! やったね! 功績横取りできるよ!



 ぶっちゃけ、俺は功績要らないから偽造されてもいいんだけどね。他の人はたまったもんじゃないだろうから言わないけど。主にカーチェ様が死ぬ。書類のせいで。



 しかし、そんな話が出たのに、さらにわめき始める。今度はルキィ様の暴言まで出てきた。さすがに直接的な表現ではないが。



 「ルキィは論点をすり替えるド畜生だ!」が「ルキィ様は聡明でいらっしゃいますがそれでは解決になりませぬ!」になるってどうよ。



 今にも飛び出しそうな近衛、タクをどうどうと、ルキィ様はなだめすかしている。……偽造してやろう! という意思すらねぇのかよこいつら。情けねぇな…。



「この尻軽ビッチ!」

「軽薄野郎!」

「アバズレ王女!」


 もはやただの悪口である。どうやら、直接的でないと通じないとでも思ったのだろう。馬鹿か。俺らはともかく、ルキィ様は王女だぞ。通じているに決まってんじゃねぇか。そんなこともわからないからお前らは相手にされねぇんだよ…。



 しかも、超えてはいけないラインを越えてしまった。俺の暴言は良くても、四季の悪口は許さないよ? 



 さっきまでのは、解釈を好意的にすれば、ただ好意的な言葉をわめいているだけだからスルーしたけど。直接なら許されない。



 今も暴言は悪化している。本当に何が彼らを駆り立てるのかね。だからと言って手加減しないが。



 ニッコリとほほ笑んで立ち上がろうとしたとき、何故かもう既に3人の首筋に大きな鎌が添えられていた。



「…謝らないと首刈るよ?」


 底冷えするような、感情の一切こもっていない、無機質な声でアイリはそう告げる。気のせいか鎌が、キラリと輝いたように見えた。



 顔が真っ青になる3人。だが、それでも気丈に俺やアイリをにらみつけている。



「所詮は下賎の者。野蛮ですな」

「「然り然り」」


 足が震えていたら意味ないぞ。しかし…、この状況でなお悪口を言えるのは、正直賞賛に値するのではないだろうか。



 アイリは黙って首筋に鎌をさらに近づける。デブの首筋から血が一筋流れ落ちた。



 それを見たハゲとガリはデブが怪我しているのにも関わらず、



「なんて野蛮な!」

「神聖な大聖堂で血を流させるとは!」


 とさらにわめきだした。声枯れてしまえ。デブは恐怖からか黙ったまま。



 あれだろうか? ハゲとガリはデブが死ねば罪に問えるから、功績がなくなるとでも考えてるのだろうか? だとしたら、クズである。



「この野蛮なエルモンツィの生き写しめ!」


  決定的な一言。俺はアイリが殺っちやうかと思ったが、アイリはまるでこたえていないようだ。むしろ俺と四季のほうが爆発しそうになったが、それを見てなんとか抑えた。



 ハゲとガリは、



「「お前のような奴の両親は…」」


 二人の首筋に二筋の浅い切り傷が刻まれ、言い切ることができなかった。おそらく何が起きたかわかってないだろう。アイリはただ鎌を動かしただけなのだが。



 事ここに至ってようやく、



「「「ごめんなさい」」」


 奴らは膝を屈した。



「…誰に?」

「「「皆様に」」」


 アイリは頷き、鎌を消した。消すことはできないから小さくしただけだろうが。



「「「申し訳ありませんでした!」」」


 謝罪されたので受け入れておく。表面上はな。覚えてろよ。3人は逃げるように去っていった。



 …会場の皆にも謝れよ。3人の退場を見届けると、



「ところで、異論があるという方は?」


 カーチェ様が聞く。皆なさそうだ。



「では、白けてしまいましたので解散にいたしましょう」


 その一言でわらわらと人が動き始めた。カーチェ様はこちらを向いて、



「では、お話ししましょう」


 と言った。楽しい楽しい報復の時間だ。何をしてやろうか。



 何故かタクと家族以外、顔をこわばらせて固まってしまった。その上、一瞬だけ、退場のために動く皆の足音も消えた気がする。



「習に清水さん…。怖すぎ。俺ですら固まってしまったぞ」

「なぜだ。こんなにも笑顔じゃないか」

「そうですよ」

「黒すぎるんだよ」


 あ、さいですか。反省はしない。



「で、どうする。あいつら。どうして他国の来賓に暴言吐くのかね…」


 乱暴に椅子に座って、頭が痛いと頭を抱えるカーチェ様。



「知らないよ。教育不足じゃない?」

「つまりオレのせいか?あんなのに時間とられたくないんだけど」

「まぁ、私はそんなに気にしてませんから」

「俺も」

「私も」

「…わたしも」

「大事なのはそこではないでしょう?」

「そうですよね?」


 二人で言うと、



「お前ら…、ものすごいあくどい顔するな…」


 カーチェ様が顔を引きつらせる。



「ちゃっちゃと始めちゃおうよ。で、死刑は確定なんだよ。後は範囲」

「それはルキィ様たちに任せる」


 一瞬であいつらの死刑が確定した。



 おそらく、慣例破ってまで声かける。王の決定に異議を唱える。他国からの来賓に暴言。この3つが駄目だった。前二つはどれくらい重いかよくわからないけど…、最後のは明らかにダメ。



 ヒートアップしてたとか通じないよ。自国の君主に暴言の時点で考えられないのに…。



「私は…、どうでもいいのですけど。3人が死ねばこちらの名誉も守られますしね…。それに…」


 とチラチラとこちらをうかがうルキィ様。何故だ。そして何で皆、納得したような顔になるんだ。



「習。何か案があるんだろ?言えよ」

「了解。奴隷にしてしまいましょう」

「奴隷?殺すんじゃなくて?」

「はい。そうです」


 今回は奴隷であることに意味があるのだ。死んだらそこでおしまいだし。



 こちらには奴隷制度がある。法律上は犯罪奴隷といって、犯罪をした奴で、この刑が出たものだけが奴隷扱いされる。これはどこに行っても同じ。



 だが、残念なことに、やはりというかなんというか、こっそり拉致して奴隷にする奴もいるらしい。しかも、人間だけじゃなくて、獣人や魔人もいるらしい。だが、エルフにはいないそうだ。神の加護がなんとかかんとか。今はそんなことは置いておこう。



 今回、やつらをその犯罪奴隷にしてしまうのだ。犯罪奴隷は過酷でいつ死んでもおかしくない仕事をするそうだ。本で読んだ。



 ということは、あいつらが言っていた下郎以下の仕事をするわけ。何故か無駄に選民意識の高いあいつらには報復としてはちょうどいいだろ。どうせ死ぬけど…、死刑確定から、ひょっとしたら生き残れるかも? にランクアップするのだ。よかったね!



 家族の処置は任せる。「寛大な処置が云々」とか言って許してあげてもいいし。「寛大な処置をしてくれたが誠意を見せたい」とかで、全部殺ってもいい。その延長で「くじで連帯責任決めます!」とか言って、殺したいとこだけ殺してもよしだ。



 まぁ、カーチェ様が死刑って言わなければ心を折る方向で行くつもりだったんだけど。



 さすがに、暴言ぐらいで殺しはしない。ただ、死ぬのが確定しているからここまでするだけ。許された範囲で最大限の嫌がらせを!



 ……何故ドン引きされるんだ。俺達もカーチェ様達も、本人達も得な提案なのに。



「とりあえず…、その案で行こうか。家族は…、置いておこうか。取り立てて有能なのが1名いるし…、あいつらほど無能じゃないしな」


 あいつらの処分は決定した。アイリは「二人が良くて、馬鹿にされないならそれでいい」らしい。



 あれ? ひょっとしなくてもアイリ。俺らタイプ? 自分の悪口はいいけど、それ以外はダメっていう。



「で、いつ出発するんだ?いつでもオレたちは構わんぞ」

「んー。どうしよっか。四季」

「任せますけど…」

「次は、イベアに行くんだろ?一緒に行こうぜ」


 タクが誘ってくれた。



「どうする?」

「別に私は構いませんよ。二人は?」


 アイリとカレンも頷いた。



「ルキィ様は?」

「そちらのほうが嬉しいですね。では…、いつにしましょう?」

「明日1日は待ってください」

「心配されずとも明日は無理です。ええっと、滞在予定は確か4日ほどでしたから…、明後日にしましょう」

「わかった。見送りの準備もしておく。ああ、習。しばらくギルドカード預かるからよこせ」

「あ、出来たら調味料も分けてください。長期間持つやつ」


 四季がそう言うと、カーチェ様はフフフと笑ってオレからカードを受け取ると、



「じゃ、またな」


 と去っていった。ブルンナも一緒に。



「それにしても滞在予定短すぎないか?」

「アークライン神聖国ですからね。外征をしない国として有名ですから…」


 タクに聞いたつもりだったんだけど…。ま、いっか。



 外征しないから、時間はかけなくていい…と。そう言いたいわけだろう。



「とりあえず、寝ますね。疲れました」

「私もです…」

「明日は図書館にこもるから」


 声をかけて皆で出た。手を振って見送ってくれた。部屋を出るとドーラさんが。



「先にお着換えです」


 とニッコリ微笑んだ。あぁ、忘れてた…。



「あ、カレンの服。ありがとうございました」

「ありがとうございました」

「…ありがとう」

「とー」


 ドーラさんはフフフと笑って、



「気に入っていただけました?」

「はい。とても」


 答えると、さらに嬉しそうな顔になって、



「よかったです。徹夜で作ったんですよ」


 と言った。やっぱ徹夜ですか。なのにあのクオリティですか。さらにいうなら、徹夜しているはずなのに、微塵もそれを感じさせない姿。素敵です。



 会話しながら部屋に戻り、追加でやってきたメイドさんや執事と一緒に脱衣所で着替えを手伝ってもらう。そのままお風呂に入って寝た。



 かなり疲れたためか、昨日と同じくらいスッと眠れた。

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