49話 宴前
翌日。1の鐘と同時に起床。同時に四季もアイリもカレンも起きた。そのままのんびりしていたら、2の鐘にドーラさんが来て朝食だ。
相変わらずビュッフェスタイル。どうも「俺らとここの王族。それにバシェル組の仲が良好だからか、まとめてすませてもらいたい」という意図を感じる。別に構わないけどさ。
四季との関係は告白こそすれ、特に何も変わっていない。普段から仲良くしているわけだしな。それこそカーチェ様とブルンナがびっくりしてしまうほどに。
でも、それは表面上。内心はガラッと変わった。友人から恋人にランクアップしたわけだしね。
もちろん、恋人になったとはいえ、他人。そのことは忘れてはいけないし、尊重するべきだ。というか、しないといけないわけだけども。
それは置いておいて…、心の中が変わったからか、少しだけ互いにスキンシップに積極的になった気がする。今も手をつないでいるし…、て、これはエスコートだ…。でも! それでも! 嬉しいのは間違いない。
ついでに、告白を境にして家族関係も変わった。
カレンが増えて、アイリとの関係もより強くなった。気がするだけじゃない。確実に、だ。
アイリの側も色々吹っ切れたようだ。
あ、アイリで思い出した。アイリはシャイツァーを隠せるようになった。呪いを解いた後からできたようだが、いろいろありすぎて報告するのを忘れていたらしい。
「おい、朝っぱらから仲いいな」
ん? あぁ、タクか。もう着いたのね。ドーラさんは邪魔にならないように下がっていった。
「昨日と変わらんぞ」
俺の感覚ではな。
「カレンを忘れてるよ!おとーさん!」
「ああ、ごめんよ。カレンが増えた以外は何も変わってないぞ」
「ぜってぇ嘘だ。昨日よりあれだ、糖分が増えた気がする」
「気のせいだろ。ったく…。さっさと食べよう」
「じゃあ、こっちだな」
案内されたのは王族組の席。最近の定番だ。そちらに近寄ると、
「さて、主要メンバーが全員そろったことだ。まず…、」
「ちょっと待って。姉様。まだ姉様しかご飯取って来てないよ!」
「ああ、すまん。皆も取ってこい。オレは待ってる」
というよくわからない会話が繰り広げられた。座ってもないのにそろった?で、カーチェ様の目の前にだけ、ブルンナの言う通りご飯が置いてある。かなり豪華に盛ってあるな…。
「姉様。朝からテンションがおかしいの。仕事が溜まってるからか、宴が楽しみなみたいだよ」
ブルンナは、俺達を取りに行く方へ手で誘導しながら言う。
「猫被る必要あるのに?」
「それでも。だよ。ね。ルキィ様?」
「え!?私ですか!?私、猫被っているようなつもりはないのですけれど…」
「あー、ごめん。そうじゃなくてさ。仕事でも宴は楽しいよね?って、ことだよ」
「どうでしょう?私の場合、座っているだけでも貴族が寄ってきますから…」
遠い目をするルキィ様。縁談の申し込みかな?
ルキィ様は途中で言葉を切ったが……、楽しそうにしているものならもっと来る。そう言いたかったのだろう。
「あー、でも、ブルンナはそういうことないからねぇ…」
「これから増えるかもよ?」
「先に姉様でしょ。あ、ごめん。それ取って。うん。それ。ありがとう」
俺の冷やかしに反応し、その反応を途中でぶった切ってまでブルンナが欲しがったのは、鮑モドキだ。
「好きなのか?」
「うん。大好きだよ。あ、姉様がちょっと不機嫌になってる。急ごう」
カーチェ様を見てみると、確かに不機嫌そうだ。なるほど、確かにテンションがおかしい。
仕方ない。適当にとっちゃうか。嫌いなものは基本ないからね。俺。
今日のメニューはどうやら野菜をメインにしているようだ。実にカラフルである。もちろん、肉や魚介もあるけど。異世界らしく、食欲をそいでくる青色の野菜もあるけど…。
大根を千切りにして、麵のようにしたラーメン。それとカラフルな単色の野菜で肉を巻いたものを、虹になるように形を作って食用のりか何かでくっつけたものを取ってみた。
皆で席に戻ると、カーチェ様が威厳の欠片もない姿でこちらを見ていた。
「ちょっと、待っててね」
ブルンナはステテと、俺らより先に席に戻って、指揮棒を握らせて…、あ、光った。
カーチェ様は自分の聖杯を出して、水をためるとその水を頭からかぶった。上手に綺麗になりましたー。
次に聖杯にたぶんさっきとは効能の違う水をため、飲んだ。飲み切ると「プハー!」と、何とも豪快な声を出すと、
「あー。スッキリした。で、ブルンナ。どうした?」
快活に言った。それに対してブルンナはかなり申し訳なさそうな顔で、
「かなりオーバーワークだったのね…。気づかなかったよ。ごめんね姉様。寝てないでしょ?ブルンナが途中で寝落ちしちゃったから…。余計な仕事増やしちゃったね」
「ん?それくらい問題ないぞ。ただ、お前の言う通り徹夜だがな。一日ぐらいはどうってことないぞ?」
「自分で覚醒作業できてない時点で、かなりまずかったと思うけど?」
「忘れてただけだ。おい、皆。いつまで立ってる。こっち来い」
呼ばれたから、皆席についた。素直に来ておかないと割と面倒なんだ。この人は。
先の会話からして、たぶん記憶抜けているし。自分で待ってるって言ったことも絶対忘れてるよ。
「とりあえず、食べながらでいいから話を聞いておいてくれ。宴は昼からだ。おそらく夜まで続くだろう。昼の分は平民なども一緒に参加するモノ。とりあえず教会のやったことを全て明らかにして、皆で祝うモノ。夜はルキィ様の歓迎パーティだ」
「つまり、昼の主役はシュウ達。夜の主役はルキィ様たちになるよ」
うげぇ…。
「そんな顔されてもな。今回は諦めてくれ。民の心の癒しも含めてるんだから…」
「そうだよ!」
どういうこと? と聞く前にブルンナが同意した。何故だ。
「なるほどねぇ…。諦めろ。習。端的に言ったら、お前はやりすぎたんだ」
「何を?」
「色々。胸に手を当てて考え…なくてもいいぞ。どうせわからん。アイリちゃんは…、わかってるみたいだがな」
アイリはなぜか遠い目をしている。
「もう勇者ってバレてもいいだろ。というよりも、このまま隠し続ける方が面倒だぞ…」
「私もそう思います。バシェルもここまで来てしまえば、手は出せないでしょう。勇者ってばらしちゃいましょう」
「とりあえず、バシェルへの対策として、うちの英雄扱いにするか。チヌカを討ったんだ。英雄扱いしても問題ないだろ」
「それでいいでしょう。私が来たのにアークライン神聖国と戦争になったら意味ないですから」
でも、公表するのはねぇ…。公表=偽造証明書とおさらば&勇者にまつわる色々な事が出てくる……でしょ?
ここでの「色々」は望ましいことも面倒なことも含まれてる。
望ましいことは、配慮や融通を効かせてくれたりすること。面倒なことは、現地人の対応が固くなったり、利用しようと思ってきたりすること。特に俺たちはフリーだし。
嫁や夫の押し付けとかありそうなんだよねぇ…。
「あれ?今気になったんですが、チヌカを討ったこと公表するんですか?」
「ああ。さっきも言ったが英雄扱いするにはもってこいだろ?」
「はい。そう思います。ですが…、そうすると他のチヌカに狙われません?」
「あー。どうだろう?」
気まずそうな顔を浮かべ、チラッとブルンナを見るカーチェ様。
「ブルンナに振られても…」
と、ルキィ様を見る。
「だからといって私に振らないでくださいよ…」
全員だめじゃねぇか!
「うん。あれだ。俺が言うのもなんだが…、既に2人やってるんだろ?今更じゃないか?清水さん」
「かもしれませんね」
じゃあ、しゃーないかな…。
「アイリちゃんの扱いは?」
「お前らの家族だし、チヌカを直接討伐したのはアイリだ。英雄扱いで」
「目の色は?」
「任せる。赤でも黒でも問題にはならん。英雄なら、そんなこと気にするものかよ。黒なら遺伝。赤なら、瞳の色素欠乏症でいいだろ」
アイリは頷いて考え始めた。
「ねぇねぇ。カレンは?」
「カレンか。どうしよっかねぇ」
「家族だしぶっこんじゃえば?」
「でも、髪の色がなぁ…」
「細かいことはいいんだよ!姉様。ほら、カレンちゃんをよく見て」
ぐいっと、カーチェ様の首を曲げてカレンを見させるブルンナ。絶対痛いぞあれ…。
「あー、うん。ちょっと痛い。離せ。ああ、うん。で。なんだ?」
「似てない?」
「かなり似てるな。二人を足して割ったくらいか?耳は全然違うが…」
「じゃあ、問題なくない?」
「……それでいいか。耳はよく見ないとわからないし…」
「フードかぶってもらえばいいですよね」
「髪の毛の色は…、あれだよ。先天性色素異常症とでもしようよ」
「子供二人病気持ちになりますよ…。それ」
「…両親のどっちか、もしくは両方に問題あるってなるか…」
「勇者補正で何とかならない?」
「そうすると、今度は勇者で子持ちというのが前例ないわけですけど、どうします?」
「ああー。そういうのもあったな!めんどくせぇ…」
「じゃあ、元貴族の勇者の子孫設定は?」
「それだと今度は、両親のどっちかが…」
「をどうにかできないのね…」
「「「はぁ…」」」
三人そろってため息をついた。
「で、そんな中、当事者の二人は何してんだ」
「え?ご飯食べてるよ?」
「見ての通りです!」
「すいませんうちの親友とその嫁が…。マイペースなんです!」
「「「知ってた」」」
ラーメンは美味しかった。冷めたら美味しくないしね。そもそも食べながらでいいって言ったのはカーチェ様だ。
「割り込むのも悪いな。と思ったし…」
「設定でしょう?そういうのは王族の3人のほうが効果的なモノ出るんじゃないでしょうか?」
「あー、確かにな。一理ある。俺らそういうのに詳しくないし…」
俺らの丸投げの発言に頭を抱える三人組。頭を抱えることしばし、
「あー、もうあれだ。面倒だ。勇者パワーでごり押ししよう」
「だね。家族だって言ってるでしょ!でいいよね」
「ですね。これ以上にまともなものは思いつきませんしね…」
結局、ゴリ押しでいくことにしたようだ。
「で、朝食を食べたら、悪いが4人、メイドが呼びに来るから少し待っててくれ」
「あれ?昼からなんですよね?」
「そうなんだが…、あれだ。4の鐘から始める予定なんだ…」
「ああ、時間ないな」
「わかりました」
「わかってくれて嬉しい。タクとルキィ様は夜まで自由だ」
「じゃあ、俺は見に行きます。ルキィさ…」
「私も当然」
「あ、了解です」
今日のやることは決まった。4の鐘…12時からならほぼ自由時間はないだろう。
「宴は基本パレードになるよ、センをはじめとする、馬に馬車をひいてもらうよ。そこにのって手を振ってくれればいいからね」
「昼食はどっかで、休憩をはさむ。その時に食べてくれ。6の鐘には終わる予定だ。7の鐘には夜の部になるんだが…。これは夕食会だと思ってくれ。適当に飯を食べて、踊れ。素行が終わってる奴はいないと思うが…、万が一、いたら生きていれば何しても構わん」
「「了解」」
「…ん」
「わかったよー」
16時に終わる予定で、18時から宴。うん、まじでないな。自由時間。
その後のんびりご飯を食べて、全員でしゃべっていると、メイドさんが呼びに来た。
「じゃあ、行ってきてくれ」
「行ってらっしゃい」
「気を付けてくださいね」
「習…、頑張れ」
? なんでタクだけ目があんなにも暖かいんだ? そのことを疑問に思いつつも、手を振りメイドさんについていく。
ついていくと、4人とも別々の部屋に通された。
部屋にはメイドさんと執事さんが一人ずつ。で、その奥には、衣装がつってある。たぶんタキシード。こっちにもこういうのあるんだな…。勇者発だろうか?
服はアイリがデザインしてくれたもののはず。でも、こういう服とは知らなかった。けど、こういうフォーマルな服はかっちり原型? みたいなのが決まってそうなんだけど。
「このネクタイをはじめ、ポケットチーフ、それにシャツなども含めて、全部アイリ様がお決めになられておりましたよ?」
俺の心を読んだのか、そう教えてくれた。
「あ、そうなんですね。ありがとうございます」
そっか。アイリが全部やってくれたのか。そう考えているうちに、執事に「足をあげてください」や、「手をあげてください」と言われ、その通りにする。そうやってるうちに、二人の手によってあれよあれよと、着替えが終了してしまった。
「軽くメイクをしますので、ここに座ってください」
メイドさんに促され座ると、こちらも見事な手際だ。メイクなんてするんだなぁ…。と思っているうちにいつの間にか全部終わってた。
「はい、鏡です」
二人がひっぱってきた姿見。それに全身を映してみる。
……うん。なかなかいいんじゃないだろうか? いつもより良く見える。普段あんまり鏡見ないんだけど。アイリのセンスがいいのだろうか? 問題は靴が慣れないから少々歩きにくいぐらいか?
「あれ?そういえばカレンの服は?」
「メトネル姉妹が昨日のうちから作っていたようです」
「そうなんですね」
今度会ったらお礼を言わなきゃいけないな…。たぶん徹夜になってるはずだし…。
「で、これからどうしたらいい?」
「全員の用意が出来ればお呼びしますよ。しかし…、ご家族はあなた以外女性ですよね?」
「ええ、まあ」
本当のところカレンは性別なしなんだけど。女の子っぽいし頷いてもいいよね。
男の子に見えないこともないけど。……そういえば一人称は「ボク」だったな。でも、そういう属性の子もいるし大丈夫! のはずだ。
「ですので、おそらくお会いできるのは始まる直前だと思いますよ」
女性はわりと時間かかるよね。化粧とかで。
俺はいつもの四季が好きだから別になくてもいい気がするけど…。ああ、でも俺がメイクしてもらうと、いつもより心なしかかっこよく見えた。だからしてもらった方が絶対きれいになるか…。
俺でさえ、そうなんだから元がいい3人はもっといいよね。絶対。こう考えると待ち時間も楽しくなってくる。
することもないし、動けるかどうかの確認。ダンスがあるならある程度は動けないとお話にならない。
とりあえずラジオ体操を全力で1回。捻りやジャンプ、前に体を倒すなどの動きが入っているからちょうどいい。で、軽く室内を走って…。うん。問題なし。
余談ではあるけど、ラジオ体操はまじめにやると結構なカロリー消費があったりするらしい。具体的な数値は覚えていないけど…。まぁ、何事もどうせやるなら真剣に! ということだね。
「皆さまの準備が整いました。これより、顔合わせです」
との声に連れられて、別室へ。
そこにいたのは、なぜか純白のドレスに身を包んだ四季。あれ? これって結婚式だったっけ?