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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
2章 アークライン神聖国
54/306

48話 エルフ

「カレン。ちょっとだけ黙っててくれ。絶対すごい誤解されてるから」

「えー、わかったよ…」

「いい子ですね。よしよし。こっちおいで」


 四季がカレンを受け取ってくれた。



「まず言っとくが。カレンは実子じゃないからな!」


 俺の言葉にみな頷いた。よかった。



「じゃあ、一体なんなんだ?」

「とりあえず回想を話すから静かに聞いておいて欲しいかな」


 再度頷いてくれたことを確認して、話し始める。







______


 四季と唇が触れ合った瞬間、二人しかいないはずの浴室に、俺でも四季でもない、鈴の鳴るような少女の声が響いた。



「おとーさん。おかーさん。初めまして!」


 声のした方を思わず振り返ると、小さなエメラルド色の髪の毛を持った、耳の長い子供がいた。



「えっと…、誰?」

「おとーさん、おかーさんって誰です?」


 俺と四季は当然の疑問を口にした。



「ひどいよ。おとーさん。おかーさん。ボクは、二人が持っていてくれていた蕾から生まれたんだよ?」


 ひどく悲しそうに言う少女。そんなこと言われてもなぁ…。ああ、でも確かに蕾は消失してるわ。



 とか考えていたら泣き出した。



「ああ、もう。よしよし」


 四季がお湯をかき分け、近づいてあやす。俺も近づいて頭を撫でる。正解がわからん!しばらく二人で困惑すること暫し。ようやく落ち着き始めた。



「ひっく。ひっく…」

「悪かったって…」

「ちゃんと言ってくれないとわかりませんよ…」

「うぅ…。ごめんなさい…」

「で…、名前は?それと性別は?」

「名前はないよ。おとーさんとおかーさんがつけてよ。性別?何ソレ?美味しいの?」


 名前がないのはわかる。生まれたばかりっぽいもの。



 でも、性別は何でわかんないの? 肉体の性別なら見ればわかるよね…? 意図的に顔しか見ないようにしているけど。



「…名前考えるために性別をチェックしようか」

「ですねぇ…」

「どっちが見る?」


 そこが問題だ。一応俺たちの子供らしいが…、見た目的にはアイリより少し下ぐらい。精神年齢はアイリよりもずっと下。じゃあ、どうしましょうかね。普通、性別なんて生まれたときに確認してるしなぁ…。



「二人でやります?」

「そのほうがいいかな?」

「見るよりは手を当ててみるだけのほうがいいですかね?」

「本人に聞いてみよう…」


 デリケートすぎるわ。これ…。



「なあ、性別確認するのに見るか、触られるかどっちがいい?」

「どっちでもいいよー。でも、ないって言ってるじゃん」


 全く見られることも、触られることも、気にしてない…。



「やっぱり見る方がまだ健全ですかねぇ…」

「かな?」

「図を想像してみてください」


 ……子供のある部分を二人してこわごわ触る図と、こわごわ見る図…。うん。たぶん見る方がましに見える。



「うん。見ようか」

「ですね」

「ちょっと湯船からでて、こっち向いて立って」

「んー?いいよー?」


 水の中をザプン、ザプンと波を立てて走る。



「あ、急がなくていいよ。こけると危ないですから」

「わかったよ、おかーさん」


 セリフに反してたいして速度変わってない!



 で、こちらを振り向いてくれたはいいが、全く隠すそぶりも見せない。情操教育が大変そうだ…。とりあえず見よう。できるだけ短時間で。



「あれ?ないですね」

「本当だね。ないね…」


 性別なし。とはこのことか。マジで何もないじゃん。男性であればあるものも、女性であればあるものも。



「だからないって言ったじゃん」

「ああ、ごめんね」

「とりあえず、冷めてしまう前にお入り」

「うん。てい!」


 かわいらしい掛け声とともに、俺と四季の間に飛び込んできた。ちょ…。



 危うく避けそうになったが、なんとか踏みとどまり、受け止めた。『身体強化』使ってよかった。なければ確実に頭打った。



「こら。危ないから跳ねちゃいけません!」

「そうだ。危ないぞ。怪我したらどうすんだ!」

「ごめんなさい…」


 目に見えてシュンとしてしまった。罪悪感がえぐい。でも、言わなきゃならない。子育てって大変だわ…。



「わかりました?」

「うん。わかった」

「じゃあ、よかったです」


 四季が丸く収めてくれた。やっぱりこういう面は四季のほうが向ているのかね?



「名前つけましょうか」


 あやしながら言う四季。子供は嬉しそうにピクンと体がはね、まるで考えるのを邪魔しないようにしようとしているかのようにじっとしている。



「名前ね…」

「性別はないですけど…、女の子っぽいですよね」

「だな。だが、男の子でも通じないことはない」

「男女で通りそうで、私達っぽくて、この世界っぽい名前…」

「要は、外国人にもいそうな日本名だな」

「ですね。何かないですかね…」


 どうしようか。えっと、この子が生まれたのは蕾から。ツボミ…は、安直すぎるか。じゃあ、蕾の形…、蓮から……。あ、そういえば「華蓮」っていうのを見たことがあるな。



 カレンであれば、苗字になってたような気がするし。女性のイメージが強いけど…、問題はないはず。花のようにかわいらしいし。



「カレンはどうだろう?」

「カレンですか?由来は?」

「蕾が蓮みたいだって言ってただろ?」

「言ってましたね」

「そこから取ってみた。ちょうど花のようにかわいいし…」

「大きくなってもこの美しさは変わりそうにありませんものね…。で、海外にもいそうですね。それに笑顔の形容詞としても使われますものね。いいんじゃないでしょうか?漢字はどうします?向こうに帰った時に備えてつけておきません?」

「あ、そうだね」

「では、どちらにします?難しいほうの「華」か、簡単なほうの「花」か。レンのほうは「蓮」でいいでしょうが」

「だね。カのほうは、選んでもらおうか」

「あ、いいですね」


 俺達の会話が一区切りついたと思ったのか、こちらを振り返ってきた。



「決まった?」


 ワクワクを隠し切れない。そんな顔。



「ああ、決まったよ。カレンだ」

「わぁ、ありがとう」

「でも、それだけじゃないんですよ。カレンちゃんに一つ決めてもらいたいことがあるんです」

「なーに?」


 ああ、可愛いなぁ。この邪気のない顔。



「とりあえず、移動するのでついてきてね」

「わかったー」


 移動し終わると、四季に紙を渡された。さっと、先ほどの二字を書く。



「名前の字。どっちが良いですか?」

「これ何?」

「俺たちの故郷の字だ。意味は一緒のはずなんだけどね。受ける印象が違うだろ?だから、決めて欲しいな」

「そーゆーのってさ、おとーさんとおかーさんが決めるものじゃないの?」

「「確かに…」」

「でも、いいよ。決めさせてくれるなら選んじゃうね。えっとね。こっちがいい!」


 選んだのは「華」のほう。



「どうしてこっちなんだ?」


 紙に「華蓮」と書きながら聞いてみる。



「なんとなくー」

「そっかぁ。何となくですか」

「それも大事だよね。で、これがカレンの名前。こっちの世界の字は読める…よね?」

「うん!」

「そうですか。よかったです。こっちが私達の故郷でのあなたの名前ですよ」


 俺が手に持った紙を指差しながら四季が言う。



「これがボクの名前なんだね…!」

「名前の由来教えて欲しいか?」

「うん!」


 とびっきりのキラキラした笑顔。眩しいなぁ…。



「カレンの生まれた蕾は故郷では蓮っていうんだ」

「その花は、徳の高い花ということで有名なんですよ」

「蓮…。この字はそれにあやかったんだ」

「華は花々。かわいらしい容姿にぴったりです。それと、これからもあなたが、花が咲くような笑顔でいれますように。そういう願いがこもってますよ」

「そーなの!?ありがとう」


 元気いっぱいの笑顔で言うと、そのまましばらくの間、自分の名前を口ずさみ、俺の書いた紙をじっと見つめた。



 というわけで、この子の名前はカレン。漢字は「華蓮」だ。



 そのまましばらく遊んでいたが、のぼせてきたので切り上げ。で、カレンの服がないのでとりあえず、近場のメイドさんに頼んで持ってきてもらった。







_____


「で、今にいたる。というわけ」


 皆、首をかしげている。でも、アイリだけは、そんなことより気になることがあるようで。



「…ねぇ、そういえば、わたしには漢字ないの?」

「ん?アイリ?体は大丈夫?」

「…ん。大丈夫。酔っただけだしね。それより…、」

「あ、聞いてたよ。漢字。欲しい?」

「…欲しい」


 期待の宿った目で頷くアイリ。



「そっか…。アイリの方でいい?」

「…うん。むしろそっちの方が嬉しいな」

「そうか。なら…」

「もう既に決めてありますよ。はい。これ」


 四季は前に書いて、ファイルにしまってあった紙を取り出した。


 アイリはそれをひったくるように取ると、書いてある「愛理」という字をじっと眺める。ひとしきり眺めると、意味を聞いてきた。



 アイリには漢字が意味を持つ字だと、説明してあるし、同音異義語がたくさんあるのも知ってる。だから、由来を聞いてきたのだろう。



 さて、名前の由来だが「アイ」に「愛」の字にすることは、俺も四季も異論はなく、すぐに決まった。これは俺達に出会う以前のアイリが皆から好まれていなかったことから、愛されて欲しいという願いを込めた。



 頑張れば今の黒髪赤目の鎌持ちを忌む価値観は変えられるはずだ。無理でも地球に行ってしまえば問題ない。



 問題は「リ」のほう。「リ」だけでも、おそらく一番多くの人が「リ」という読みで思い浮かべるだろうアイリの字にした「理」をはじめ、「李」やら「利」、「里」に「梨」さらには「璃」なんかもある。



 だが、結局この字にした理由はアイリの性格──わりと論理的──に加えて、道筋という意味もあるため「愛」に込めた願いを補強できると感じた点。それと「ことわり」とも読むことから、俺達の長女として頑張ってもらいたいな。そんな感じの意味を込めた。



 ということを説明した。説明中は黙ってずっと聞いていてくれたが、説明が終わると四季のほうに歩いていき、腕の中にいるカレンに、



「…はじめまして。カレン。わたしはアイリ。あなたの姉」


 と、字面だけではかなり固いけれども、浮かべる表情はかなり優しいという、ある意味アイリらしいといえる自己紹介をした。



「よろしくね。アイリおねーちゃん」


 カレンもすぐになじんだようだ。



「おい。シュウにシキ。親交を深めるのはいいが…、結局こいつはなんなんだ?」

「だーかーらー。カレンだって言ってるじゃん!」


 ぷくっと頬を膨らませるカレン。



「ああ、すまんな。カレンは一体何者なんだ?」

「カレンはカレンだよー。あの蕾から生まれたカレンっていう生き物であって、それ以上でもそれ以下でもないよー」

「そういうことじゃなくてだな…、ああ!もう!」


 頭をガシガシっと乱雑に掻いてドサッと座り込むカーチェ様。



 言ってないけど俺たちが聞いてもこの調子なんだよね。確かに俺自身を説明しろと言われても、カレンと同じような説明になるのだけども。



 目下の問題は、俺達の問とその答えがどうも哲学的であって、本人はまじめに答えているのだろうが、少々腹が立つということ。



そんな時「あっ」というドーラさんの声と、「パリン!」という甲高い音ほぼ同時になった。



「どうしたのドーラ。珍しいね。失敗するなんて」

「申し訳ございません。お茶の入ったカップを全て落としてしまいました」

「いや、かまわん。怪我はないか?あればオレが治療してやるぞ?」

「いえ、それには及びません。それより…」


 恐縮しながら断ると、チラチラとカレンの方を見る。



「どうした?彼女。ん?彼か?まぁ、どっちでもいい。カレンが気になるか?」

「ええ…、お恥ずかしながら…。近くで見させていただいても構いませんか?」


 俺らが頷くと、ドーラさんはジッとカレンを眺める。しばらくしてカレンに断りを入れ、文字通り体の隅々まで眺める。しばしの空白の後、



「どうやらカレン様はハイエルフのようです」


 と言った。



 ……ハイエルフ?エルフかもとは思っていたけど。ハイ? その疑問は皆持っているようで。そろって、疑問顔。カレンは四季に撫でられてご満悦。撫でるの止めないのね。



「この耳と、性別なし。それとこの気…。間違いないです。そもそも生き物としての格が違いますもの」

「ちょっと。待て。気?なんだそれは。記憶が戻ったのか?」

「記憶…ですか?いえ、全く。ですが、この気。感じられませんか?」


 全く感じません。



「……そうですか…。ということは…、わたくし、やはりエルフなのでしょうか?」

「だからオレはそう言ってただろ?」

「…普通にカーチェ様と同じ月日を生きて死ぬ気がするのですけれども?」

「知らんな。エルフが長寿でなければならん理由もないだろ」

「……あると思うのですけども…」

「ないな。それと、オレとともに生きて死んでくれると先は言ったな?」

「言いましたっけ?」


 言ってないと思うぞ。



「こまけぇこたあいいんだよ。このままオレに仕え続けてくれるか?」

「……はい。貴方がわたくしを必要とされるなら」


 ドーラさんは見るものを魅了する美しい礼をしたのち、カーチェ様の手をとった。



 思わぬところからドーラさんの種族が確定した。それより…。



「ところで、エルフとハイエルフ。何が違うんです?」

「さあ?」


 首をかしげるドーラさん。首をかしげる姿すら気品に溢れている。それこそ思わず息をのむほどに。



「え゛。わからないのですか?」


 ルキィ様が変な声をあげながらも聞く。



「仕方ないでしょう。記憶がないのですもの。それに…、記憶があったとしても、わかるかどうか…。とりあえずは、アイリ様と同様、親として接すればよいのではないでしょうか?」

「エルフ領域に連れて行かなくてもいいの?」

「別に構わないでしょう。出来れば連れて行ったほうが良い気がしますけども…」


 ドーラさんはそこで言葉を切ったが、その目は「わざわざ戻って、バシェルと事を構える気はないでしょう?」と、言外にそう言っていた。



 俺も四季もアイリも即座に頷いた。それを見たルキィ様は苦笑いだ。



「さてと、明日は宴がある。そろそろ寝たほうがいいと思うぞ。オレは溜まってるだろう書類を片付けて寝る」

「ブルンナも手伝うよ」

「ああ、ありがとう。では、皆。また明日」


 カーチェ様はいきなりそれだけを言うと、さっさと戻っていってしまった。



「では、私も戻りますかね。拓也様。今日一日は安静に。ですよ」

「わかってますよ」

「では、おやすみなさい。シュウ様。シキ様。それとアイリちゃんにカレンちゃんもおやすみなさい」


 ルキィ様もこういうと、カーチェ様に続いて退席した。



「じゃあ、俺らも…」


 立ち上がると、



「ああ、習だけ待って」


 とタク。何だ?



「習君。私達は先に戻っておきますね」


 了解。頷きを返すと四季はそう言うと二人の手を引いてさっさと戻ってしまった。



「で、なんだ?タク?」

「ちゃんと告白したか?」

「あれ?なんでお前が知ってる?」

「は?お前何言ってんだ?回想。キスから始まってただろ…」


 あ。忘れてた。



「……気づいてなかったのか…。お前…」


 凄まじいまでの呆れた目だ。ああ、そうだよ。忘れてたよ!



「まぁ…、ううん。なんだ。何にせよ。おめでとう。永遠に爆発しろ」

「うん。ありがとう」

「プロポーズは?」

「もっと雰囲気のあるところでしっかりしたものを。今度は顔を見て」

「そっか。まあ、頑張れ」

「ありがとさん。ところで、お前とルキィ様。それにアイリは察せるけど、カーチェ様とブルンナは?」


 少しの空白の後、



「…ルキィ様が話題作りに口を滑らせた」


 とタクが申し訳なさそうに言う。



「つまり、まだ結婚どころか付き合ってすらないと?」

「ザッツライト」

「……。うん。まあ、いいよ」

「慰めになるかどうかわからんが…、カミングアウトされたときの二人の慌てぶりは、滑稽だったぞ。ほんと、お前にも見てもらいたかったほどにな」

「慰めになってねぇ…。つまり、部屋の全員に告白したことばれたな」

「そうなるな」

「まぁ、いいけどさ…。なにこの羞恥」

「だいたいお前が悪い」

「うぐ…」


 確かに、フーライナで片付けておけばこうはならなかった…!



「ま、仕方ないだろ。明日は宴らしい。引き留めて悪かった。早く寝ろ」

「ああ、わかってるよ」

「アイリちゃんのデザインした正装らしいぞ」

「あ、そうなの?楽しみ」


 何故かタクの目が温かくなった。



「そっか。よかったな。じゃあ、また明日」

「ああ、また」


 扉を開けようとすると、一言。



「あ、告白したノリで変なことすんなよ」

「しねぇわ、馬鹿!アイリもカレンもいるんだぞ!?」

「ということは…、いなければ…」

「いなくてもないわ!ていうかできる度胸あったらすでにバシェル内で告白してるわ!」

「確かに!」

「納得すんな!」


 タクはケラケラと笑う。むかつく…!



「すまんすまん。じゃあ、また明日」

「あぁ、今度こそ、また明日な」


 俺は部屋を出た。明日は宴か。ハイエルフのこと調べられるかな?

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