47話 戯れの裏
タク視点です。時系列的には、勝負のすぐ後ぐらいです。
足音が近づいてくる。えーと、かなり多いな。
そのうちの一つはルキィ様だな。たぶん。
今、会いたくねぇなぁ…。いや、絶対一回は怒られるから…、いつあっても変わらないのか。はぁ…。よし、狸寝入りしよう。
「バタン!」
え、ちょ。乱暴に扉が開いて、いきなりある人物が飛び込んでくる。まぁ、それはルキィ様なわけだけど、すごい剣幕だ。だが、美しい…。
「拓也様何やったんですか!キリキリ吐いてください!」
「痛いです!痛いです!」
「…ルキィ様やめたげて。話が進まない」
「そうですね…。アイリちゃんが言うなら…」
助かったぜアイリちゃん! まさかルキィ様にグリグリとされるとは…。
「で、何をやったんです?」
「オレも聞かせてもらいたいな」
「ブルンナも!」
カーチェ様は単純な好奇心。ブルンナ様は…、プンプンしてらっしゃる。かわいい。まぁ、好きなのはルキィ様だが。
「早く説明しろぉ!このっ、このっ!」
「だから、痛い!痛いって!」
「…ブルンナ様落ち着いて。話が進まない…」
アイリちゃんが天使に見える…。一応、病人を蹴るのを止めてくれた。感動していたら、
「…早く吐いて?」
可愛い笑顔で鎌を首元に突きつけてきた。あぁ、間違いない。この合理的で手段を択ばない感じ。二人の子供だわ。影響受けてるわー。
「おーけー、おーけー。まずはその鎌をどけようか」
どけてくれた。このままふざけたりすると、今度は薄皮を斬られるだろうな。
「えっと…。率直に言います」
4人…、アイリちゃんとルキィ様。カーチェ様とブルンナ様は唾をのんだ。
「なんかすごい魔法作ろうとしたらああなりました!すいませぇん!」
説明不十分? ノンノン。信じられるか? これで全部なんだぜ? もっと深い理由があるとかですらないぞ。
そして「ふざけるな!」とか言われそうなので先手を打って土下座! これぞジャパニーズスタイル!
「「「「はぁ…」」」」
ため息をつかれてしまった。アイリちゃんにすらな! 悲しい…。
「で、なんでそもそもあんなもん作ったんだ?」
椅子に乱雑に座りながら足を組むカーチェ様。むだにエロイな! それは癖なのか?
「あー、それはですねぇ…」
「…言わなくてもわかる。だから言ったのに…」
アイリちゃんはかなり不満気だ。
「…お父さんとお母さんを真正面から重傷を負わせるなんて…」
「でも、一回。戦闘不能になったってアイリちゃん言ってましたよね?」
作戦立案者のルキィ様が言う。
「…そうだよ?でもあれは…、腕が16本もある化け物だよ?それに、ボロス。リブヒッチシカとずっと戦い続けた後だよ?そりゃ、お父さんとお母さんでも無理だよ。というより、なんであそこまで集中力が持ったのかが、今思えば不思議なくらいだよ」
しみじみ言うアイリちゃん。言い終わった後も、こちらをじっと見つめている。その目は雄弁に「あなたなら答え持ってるよね?」と語っている。
「それはなぁ…、あれだ。もはや根性と言ってもいいだろうなぁ…。習の…、おそらく清水さんもだけど…、根っこの部分。身内を守ろうとするある種の病的なものだよ」
「…やっぱりそれなの?」
「だろうね。これに集約されてしまう」
アイリちゃんは納得したみたい。でも、3人は考えている。
「あれ?ならどうして試合とはいえ、アイリちゃんに手をあげたの?教会から帰ってきたときはアイリちゃんには一切怪我をさせてなかったのに?」
とブルンナ様。オレが口を開こうとすると、先にアイリちゃんが話し出した。
「…それは簡単。教会の時は正気じゃなかった。だから、正気に戻った時、万が一にでもわたしに勘違いを起こさせないようにするため。今回はわたしの意志。なら、お父さんとお母さんは容赦なんてしない。むしろ、手を抜く方がわたしに対して不誠実だと思っている節がある」
「アイリちゃんは愛されてるんですね…」
「…うん」
ルキィ様は慈しむようにアイリちゃんを撫で、アイリちゃんはそれをじっと受け入れている。
「で、結局あれはなんなんだ?」
声は乱暴だが、イラついているわけではなさそう。
「重症を負わせるのが無理なら、もはや殺す気でかかってしまえ!という破れかぶれの精神から出たものですね」
盛大にため息をつかれる。
「だが…、そもそも作戦に不備があったのではないか?」
「え゛、私のせいですか?」
「一理ある。」
「…でも、3人ともわたしの言葉聞かなかったよね?」
「「「う゛」」」
仲いいなぁ…。
「…タクさんもだよ?」
「うげ」
俺もか…。
「だってなぁ…、あんな教会を焼いた魔法が一瞬で出るなんてなぁ…」
「思わんな」
「思いませんね」
「ブルンナもそう思う」
「…だから、重症負わせて、聖水ぶっかけようなんて安直な作戦が出たんだね…」
辛辣だなぁ…。
「まぁ、うん。あれだ。過ぎたことは仕方ないじゃないか!」
「ですよね!」
「そう思うよ!」
「ほら、未来志向で!」
「…あ、うん」
アイリちゃんは呆れてしまったようだ。
「で、どうなんだ?あいつら」
「たぶん、大丈夫でしょう」
「うーん、タクさんが言うなら大丈夫なのかな?」
「ブルンナ心配せずとも、あそこはあれだ。壁あるけども、場合によっちゃなくなる場所だぞ」
は? 何それ怖い。みんなぽかんとした顔だ。
「あー、まぁあれだ。混浴がしたい王や女王のための謎機能だ。今はオレが持ってる。オレなら問答無用でなくせる。まぁ、一緒に入りたい男性などいないが…。それは置いておくとして、あの二人は王ではないが…」
「仲のいい夫婦とかならよくなくなるらしいからねぇ…」
あ、察した。
「それはともかくだ。お前から朝方に、あの二人が実は恋人どころかただの友人と聞いて耳を疑ったぞ」
「そうだよ」
ああ、あの時の二人は滑稽だった。思わず爆笑してしまうほどに。
驚きすぎて顎が外れるとか、漫画でしか見たことない。それに何度も何度も何度も何度も「本当か?」と聞いてくるしねぇ…。
「事実ですしねぇ…」
「だいたいルキィ様のせいですけどね」
アイリを付けたのはルキィ様だ。
「ちょ…、それを言うなら拓也様もでしょう?」
あれ?そうだっけ。
「まぁ、作戦は最終段階。後はなるようになるでしょう」
「だな」
「だね」
「ですねぇ」
「というわけで反省会です。今回、どこがダメだったかを…。龍を除いて話し合いましょう!」
アブねぇ。先に言っとかないと先の二の舞だ。露骨に嫌な顔されているけど…。黙殺する。
「まず、当初の計画は戦闘で重傷負わせて聖杯で回復。そののちに風呂に二人で行かせるというものでした。全く流れ違いますけど、一応、風呂にぶち込めたので最終段階なわけです」
「場所はお風呂でよかったの?ブルンナが言うのもなんだけど、変じゃない?」
「そんな気がしますが…。あいつらが顔を見ずに二人きりになるような場所って他にあります?」
俺の言葉にカーチェ様が考え込む。
「まず、あの二人が互いの顔を見えないが、声が届くっていうだけでなぁ…」
「その時点でないよね。トイレとかもっと意味わかんないし。後は…、図書館?」
「それ、二人きりになれないってブルンナ様自身が却下しませんでした?」
「ああ、そうだったね。専属司書がいるからねぇ…」
二人ともあれ気に入ってるみたいだし。
「じゃあ、場所はよかったってことでいいよね?」
ブルンナ様の言葉に皆頷く。
「では、次です。風呂に入れるのに濡らしてしまう。これはどうでしょう?」
「よかったと思いますよ。俺は。『身体強化』していれば、手を抜いてやっていると、汗かかないこともありますしね…。それにあいつなら、濡れた後に風呂を勧めればまず断りませんし」
「…好きだもんね」
「だな」
「となると、ここも問題なしか?」
「一応、昨日の夜に話し合いましたものね」
「とりあえず、ここも大丈夫だった。ということで」
再び全員が同意する。
「次です。戦闘に引きずり込む手順ですね」
「大変だったなぁ。あいつは正面からだとたぶん受けなかったし」
「そういう意味ではアイリちゃんがいい仕事しましたね。あのおかげで逃げ道防げましたし」
「…ほぼ騙し討ちになっちゃうんだけどね…。でも、裏でこんなこと画策してるからいいかなって」
実際引きずりだすのには苦労が予想された。予定ではあの後、説得してバトルするつもりだったんだけど。受けてくれるかどうかは5分5分。その上、時間はかなりかかったはずだ。
ところが、アイリちゃんのファインプレーとそれをうまく生かしたカーチェ様、ルキィ様。3人のおかげでスッといけた。
「初めの戦闘は…」
「まぁ、成功だろ。うまくシキを引っ張れたんだからな」
「ブルンナもそう思うよ。アイリちゃんに結構負担掛けたけどね…」
「…それは策のうちだったから問題ない」
「そもそも私達が戦えませんし…」
「一応、オレもブルンナも剣や魔法の心得はあるぞ」
「それを言うなら私にだってあります」
なぜ張り合う。
「…でも、お父さんとお母さん。それにタクさんには及ばないよね」
ズバッと言いにくいことを言ってしまうアイリ。
「それなんだよなぁ。魔力量が違うからなぁ…」
「『身体強化』に使える魔力も持続時間も違うからねぇ…」
「どうあがいてもじり貧になってきちゃうのですよね…」
あーあ。落ち込んじゃった。
「…でも、わたしは昨日の一件で増えたから大丈夫。だから、わたしだった。それでいいでしょ」
ここで「ね?」と、瞳を潤ませて首をかしげれば一発だったんだろうけど…、そんなあざといことしないわな。でも、勝手に学んでしまうかな? どうだろう?
「とりあえず続けますよ。で、聖杯ですよね。結果論では必要なかったですけど…」
「だな。たった4人であそこまで疲れるとは思わなかったぞ」
「姉様のあれって、どういうのだっけ?」
「ブルンナはあまりオレが使うところ見てないものな。説明してやる。あの魔法は、あの水を飲んだものは、即死以外でかつ指定範囲内なら、しばらく生きられるようになる魔法だ。効果は一日やそこらで切れるがな」
即死以外なら。だから体が両断されても意識があるならしばらくは平気ということ。まぁ、生きてる間に治せないと死ぬけど。
「自分よりも強い相手、範囲が広いほどほど損耗が大きい。だからいつもの場所なのに消耗がすさまじかったんだ。怪我からの回復は聖杯に聖水を召還する魔法でやる。聖水をぶっかければそれでいい」
「ああ、なるほど。それで聖水ぶっかけるのに、瀕死にさせたかったのね」
「そういうことです。脈絡もなく水をぶっかけたりするのは意味不明ですしね」
「…だね」
確実に怪しまれるからな。
「で、戦闘は…」
俺がそう言った瞬間、すさまじいまでのジト目 (4人分)が突き刺さった。「お前、スルーするって言いやがったけど、許さねぇから!」(意訳)という意思をひしひしと感じる。
「とりあず、タクさんの妄言はガン無視するよ。てめぇ、なんてことしやがる!破壊できないから誘導するしかなかったじゃん!」
怒っているが迫力がない。むしろかわいい。
「そんなこと言われても、俺は知らない。頑張った結果だもん」
「グヌヌ…。でも、説明したよね?ブルンナのシャイツァーがどんなのか?」
「いや、されてないと思うけど?」
「あり?」
かわいらしく首をかしげる。やっぱりかわいいって得だな! 俺には通じないが。
「だって、同意してって言われてすぐ同意したし」
「ありゃ?じゃあ、シュウとシキかな?じゃあ、もう一度。ブルンナのシャイツァーは指揮棒で、「何かの向きを変える」そういう力を持つよ。飛べたりするのはそのおかげだね。で、ブルンナのシャイツァーで今回使ったのは、攻撃の破壊もしくは、軌道変更」
「軌道変更はわかるけど…、破壊?向き変えるだけなのに?」
「魔法だからね。魔法の構成要素の向きをいじくりまわして破壊しちゃうの」
「あれ?でも何で破壊より、向き変える方が楽なんだ?」
さっきの話から考えるに、破壊>向き変更だ。どっちも一緒じゃないのか?
「構成要素、その一つ一つをこまごまといじくるよりも、魔法っていう大きな一単位をいじるほうが楽だからに決まってるじゃん」
何言ってるの? みたいな顔をされた。決まってるのか…。そーなのかー。
「で!あのとき指揮棒に触れてもらって同意してもらったのは、ブルンナの指示を通しやすくするためなんだよ!なのに、破壊できないって…」
「…魔力足りなかったんじゃない?」
「うっ…。そうなのかな?」
「オレに聞くな。ブルンナ。そういうのはお前しかわからんぞ。でも、可能性はある。あれ、オレから見ても結構ややこしいことになってたぞ。お前の破壊の仕方じゃ、かなり面倒くさいぞ」
「そうなの?って、ことは…」
「シュウ様達のように、力押しが楽。ということですね」
ブルンナ様は目に見えて落ち込む。
「…でも、鍛えればきっと消せるようになるよ」
「それに『身体強化』とか、ごり押しで消せない魔法もあるしな」
「かけなおせば終わりじゃないの?それ?」
「その一瞬をついてしまえばいいじゃないですか。もしも、不死身の魔法なんてものがあって、それがかかっている敵がいれば…」
「ブルンナが大事になって来るね!わかった!頑張る!」
元気になったようだ。ただなぁ…、習達なら普通に何とかしそう。
カーチェ様もボソッと「魔法は知らんが、資料で異常に再生する魔物の情報を見たんだよなぁ。でもそいつらほとんどアンデット系列だったから聖魔法で倒せんだよなぁ…」と言っていたのは気にしないことにしよう。
……アンデットじゃないのもいるかもしれないし。
「で、龍はどうやって…、ああ、頑張って作ったのでしたね」
「そうです。なんか適当に強くなりそうに呪文唱えて魔力全部突っ込んだらああなりました!」
さすがルキィ様だぜ!
「今度からよっぽどの時でない限り、即席魔法は禁止で」
即断である。
「異議なし」
「異議なーし」
即決。
「わかってますよ…」
「…実験は大事」
アイリちゃんがしみじみとした顔で言った。何やらかしたんだ!?あいつら。
「で、最後の誘導方法」
「問題ないだろ」
「だよね」
「ただ一点を除いてですが」
「……あれな。シキが鋭くてちょっとやばかったな」
苦虫を噛み潰したような顔だ。
「あれだね」
「昨日のうちから風呂掃除させてたしなぁ…」
「魔法はありますけど…。お風呂、何年放置されていました?」
「少なくとも5年。下手したら10年くらいかなぁ…」
「そりゃ、半日くらいはかかるよねぇ…」
「…だね」
俺だけが理解できない…。寂しい。異世界でも掃除には時間がかかるということか?
「抜けてるように見えて、二人とも変なところで察しがいいし、こだわるからなぁ…」
接する時間の長いアイリちゃんはしみじみと頷いた。
ブルンナ様は少し納得のいったような顔。この国に来てから、一緒にいた時間があったようだしな。
ルキィ様とカーチェ様は短かったからか、よくわかってない様子。時間短いとわからないよな。鈍そうに見えるもの。…見えるだけだが。
「ま、ともかく、反省会はこれでいいだろ。たぶんなるようになるさ。明日だ。明日」
「パーティするんだよね。到着祝いの」
「だな」
「あれ?そうなのですか?」
「そうだ。ついでに教会壊滅祝いも兼ねているがな。主役はルキィ様とタク。シキとシュウでいいだろ」
「二人、ちゃんとした服あるの?」
「…わたしが頼んである。デザインは2種類ね。片方はわたしが2人分。もう片方はお父さんのぶんが、お母さんが、お母さんのぶんが、わたし」
見せてもらおう。
おお、清水さん綺麗にデザイン出来てる…。アイリちゃんもなかなかだ。で、こっちは…、ん? ちょっと。待って。何で? 何でこれなの?
「ああ、いいな」
「そうだね。明日は二人、主役だから…」
「アイリちゃんデザインのものでよさそうですね」
俺が疑問もったほうでいく方向に話進んでる!?
「え…、それでいくんですか?」
「はい」
「何か変か?」
「いえ…、そういうわけではないんですけど…」
「大丈夫。これは伝統的な衣装だよ!」
「…昔、勇者様が式典で着た衣装らしい。そこから大事な式典の主役はこれを着ることがあるとかなんとか」
確かにあっちでもそうだけどさ!
「で、もう出来てるのか?」
「…たぶん出来てる」
「出来てなければ王命で急がせるか」
カーチェ様はさっそく立ち上がると、扉から顔を出す。一言二言伝えると、座りなおした。たぶん今のを伝えた。
「さて…、後は…」
「ガチャ」
扉が開いた。ドーラさんか。
「お二人が戻られます」
「そうか。隠せ隠せ」
「…わたしは?」
「治ったってことでいいんじゃない?治ったでしょ?」
「…うん。酔っただけだしね」
「じゃ、お見舞いの体で」
全員がコクっと頷き、怪しくないように配置換え。それが終わると二人が入ってきた。手には子供らしきものを抱えている。
「なあ、習。それ、何?」
俺は思わず聞いた。だだ、答えたのは、習ではなかった。
「むー!それとは失礼だよ!ボクにはおとーさんとおかーさんにもらった「カレン」っていう名前があるんだよ!」
「あ、そう。ごめんね」
てことは、子供か。なるほど…は?子供?
…どうやら友人は子供を作ってしまったらしい。