45話 続戯れ
とりあえず、皆で一緒に移動。今回使う場所は一階の訓練場。一番広く、観客も見やすいらしい。
一般客はいないそう。でも、喋り方からして満杯にする気らしい。誰をどんだけ呼ぶつもりなんですかねぇ…。
俺達が先頭で歩いているわけだが…。後ろが凄い気になる。
最初は近衛だけだったのが、ドーラさんをはじめとする戦闘のできるメイドさんが、部屋からぞろぞろと出てきたのは確認した。また、廊下で騎士や魔法使いっぽい人達も合流した。結果として、人数が膨れ上がってるのはわかっているのだけど。足音が100人じゃきかねぇぞこれ!?
俺とタクは訓練場の控室へ。そこでサッと着替えて、訓練場へ。観客が移動している間に、準備運動。戦う気なんてなかったのになぁ…。あ、この服、動きやすい。
「お、準備運動か。いいねぇ」
「お前はしないのか?」
「俺はもう済ませてる」
「さいですか」
やる気満々か。ということはあの「付き合え」もこのことを言っていたのか? ……むぅ、謎だ。
「さあ、観客の皆さま。準備はよろしいですか?」
カーチェ様の猫を被った声が聞こえる。それに続いて、
「「「いえええええええい!」」」
という歓声が響く。
「声がかなりでかいな…」
「たぶん500はいるからなぁ…」
「ばっかじゃねぇの」
「こら、歓声で聞こえないだろうが、やめておけ」
「だな」
聞こえたらマズい。でも、俺達がのんびり待っていても、歓声は続く。待ちきれなくなったのか、
「では、お二人とも準備はよろしいですか?」
カーチェ様がぶった切った。
「はい!」
「いつでも」
俺達の返答を聞いたカーチェ様は頷き、
「では、始め!」
号令をかける。それと同時に、大聖堂の澄んだ鐘の音が鳴り響いた。
タクはシャイツァーである二刀を取り出し、斬りかかってくる。あるぇ? 武道じゃないの?
まぁいいや。しゃがんで回避。
「あれ?武道じゃないのか?」
「真剣にやるんだよ!」
「そっか。了解。四季!」
四季に声をかけると、そばに置いてあった俺の武器を投げてくれた。
ブンブンという風切り音を頼りに受け取り、そのまま抜刀し横一閃。ちっ、避けやがったか。
「ちょ、おま。待ってやろうとしたのにそれかよ!」
「ああ、すまんかったな」
「ていうか、殺す気か!」
「大丈夫。切り裂く前に止めるから」
「シャレになってねぇぞ!」
「大丈夫。大丈夫」
シャイツァーを出して、全力投擲。狙いは胴だ。
「キン!」という硬質な音を立て、ペンは叩き落される。想定内。右手に持った剣で突きを放つが、バックステップで避けられる。再びペンを投擲。
タクはそれをもひゅっと回避。
「炎よ、我が魔力を喰らいてて、走れ。『火焔』!」
魔法か。せこいな。俺のは四季の関与がいるから使えない。紙さえあれば使えるけれど、全部四季に預けているっていうね。
文字通り地面を走ってくる炎を右に回避。避けるついでにもう一回ペン投げてやろう。自分の魔法で見えないだろ!
「ぐっ」
少しくぐもったような声。当たったか。
こちらも欲張ったからか、靴が若干やられたけど。あ、そういえば靴買った記憶がない。
けど、替えがあったな。何故……って、アイリがやってくれてたのか。
「お前また別の事考えてるだろっ!」
回避先を読んでいたかのようにタクが突進してくる。
「正解」
言いながら、魔力をギュッと足に込める。自分でもここまでやったことないけど、タクの意表は突けるだろ!
意気込んで足を踏み出すと、何故かバランスを崩して前のめりになる。
ちょっ……、何が起きた!?
振り返ってみてみると、軽く陥没した地面。ああ、強すぎたか。
そんなことを思っていると、タクに思いっきり手を取られ、首元に刀を添えられた。
「チェックメイト!」
「そうでもない」
タクの腕を取ってそのままひねる。すこし緩くなった拘束を力技で抜け出し、頭突きをかます。ついでに蹴りもくれてやる。
軽く吹っ飛ぶタク。ちょっとだけ立ち上がり方がよろよろしてる。
「お前なぁ…、無茶苦茶すんなぁ」
「向こうでは終わりでも、こっちは魔法があるしな。ゴリ押しでも行けるんだぜ?」
首を強化すれば、いつもよりは頑丈になる。突きつけて「終わった」と油断している状況なら抜け出せる。一流の人には通じないけど、俺もタクも三流もいいところ。十分通じる。
「なら、俺も無茶苦茶するぜ!やったことないけどな!『刀よ。我が魔力を纏い、燃えろ!』」
詠唱がみじけぇ! 止めれなかった! 刀が炎をまとって赤々と燃え盛る。
「成っ功だ!」
喜びの声を上げながら斬りかかってくる。回避したが、熱気が…。
「お前、熱くねぇのかよ!」
「自分の魔法で影響受けてたらせわねぇぜ!」
振り下ろし! 回避は無理か!
「確かになぁ!」
受け止めた! が、熱い! たまらず腕を上に跳ね上げ、距離を取る。
「あっついなぁ!」
「だろうな!魔法使ってもいいんだぞ!?」
「さっきから『身体強化』は使ってるわ!」
再び打ち合う。だから熱いって! ああ、もう! 水ぶっかけれたらいいのに!
「そうじゃないわ!この、天然が!教会焼いたあれとかだよ!」
「そっちか!そっちは四季もいないとだめだから…。今回の勝負にゃ、ふさわしくないだろ!?それに威力がバカすぎる。直撃すればシャレにならん」
俺の言葉を聞くとタクはニッと笑って、武器を降ろした。あれ?あいつそんな笑い方する奴だったか?
「なら、清水さんも呼べばいい」
「そうすると、1:2になるぞ?それより、四季が受けるかどうかもわからんがな」
「聞いてみればいいだろ。清水さん!一緒にやらない?」
ちょ…、いきなりだな。四季も「え!?私ですか!?」みたいな顔になってんじゃん。そんな四季のそばに王族組が来て、アイリも交えて一言二言会話すると、
「わかりました!着替えてくるのでちょっと待ってください!」
笑顔で頷いて引っ込んだ。あれ? 何があったの?
「何があったんだ?」
「アイリちゃんだよ。昨日もやったんだろ?今日は正気だからやりたいとか言ったんじゃない?」
「なるほどねぇ…。はなからそれが狙いだったか」
「バレたか」
「わかりやすいんだよ。阿呆」
いつ聞いたかわからないが、俺の魔法は四季の関与が必要なことを聞いたんだろう。で、アイリも俺らと戦いたいと。ん?あの子そんな性格だったか?まだ何か隠されている気がするが…。
まぁ、いい。魔法を使って、俺も使わざるを得ない状況にする。それで今の言葉を引き出させて、Wバトルと。最初からだと四季は「いいですよ」って、いいそうにないしな…。
「お待たせしました!」
四季の声が響く。でも、聞こえてくる音の元は観客席。何故…って、飛び降りて俺の横に来た。ワイルドだ。
「動ける?」
「はい。問題ないですね。どこも苦しくないです」
「似合うなぁ…」
「そうですか?嬉しいです」
四季が顔を赤らめながらそう言う。
「いちゃつくなよ…」
「ついてないし…」
実際、白を基調としたこの服は四季の雰囲気を引き締めている。ニコニコしている今は天使のようだが、戦いだすと戦乙女という感じになるだろう。
「そういえば、四季はなんで受けたの?」
「え?ああ、それですか。「受けてくれると、砂糖を大量に上げます!」と、言われたので」
「それだけ?」
「ほぼそれだけですね。一応、威力シャレにならないので、そこは何とかしてください。とは頼んでますよ」
「そっか。ありがとう」
砂糖のためか。なら仕方ないな。
「あんたらアイリちゃん好きだなぁ…」
「そりゃな」
答える俺の横で四季もうんうん頷いている。
アイリが出てきた。見たことのない服だが…、タクのと似ている気がする。
「気づいたか?あれは近衛の戦闘服だ。ルキィ様が持ってきていたみたいだ」
「合流するかどうかもわからないのに?」
「…たぶん、処分されたくなかったんじゃない?あ、これ。くれるって」
貰えることを伝えてくるアイリは、どことなく嬉しそう。
「そっか。よかったな」
「よかったですね」
さて、これで全員がそろったわけだが…。どうするんだ?
「皆さま。こちらの準備が整いました。これより、儀式を始めます」
「「儀式?」」
思わず疑問が口から出たが、知らないのは俺と四季だけのようだ。
カーチェ様はシャイツァーである『聖杯』を取り出すと、サイズを大きく。それをひっくり返して、ブルンナとともに乗る。
そして聖杯から水を大量に噴射すると、そのまま飛んできた。すっげぇシュールなんだけど。
笑いをこらえていると、いつの間にやら目の前に降りてきていたカーチェ様に「殴るぞ」という目で睨まれた。仕方なくない?
「では、まずこれをお飲みください」
聖杯をひっくり返し、そこに溢れた水を指さして言うカーチェ様。手で汲んで飲めばいいか。
水は透き通っていてかなりきれい。手を入れると、抵抗なくスルリと入った。かなり冷たく、心地いい。手ですくって飲む。のど越しが良くて美味しい。
全員が飲み終わるのを確認すると、残った水を全てひっくり返した。たちまち地面に吸収されるかと思った水は、浮き上がって薄い膜を作るとそのまま競技場に広がっていった。
「はい。これで即死は免れます。はぁはぁ。でも、致命傷は負うので、はぁはぁ…。せめて1分は生きられる怪我で収まるようにしてください。はぁはぁ」
カーチェ様の息がかなり荒い。で、少しだけ…エロイ。見ないようにしよう。
説明を聞くとかなり微妙にしか思えないが、疲れる魔法であるのは間違いなさそう。効果はあると思っていいだろう。
「次はブルンナだよ。指揮棒握って」
よくわからないけど、握る。
頭の中にブルンナの言葉が響く。「攻撃の誘導、破壊をブルンナに許可しますか?」とのこと。
観客席に届かないようにか?
「そうだよ」
うわ、答え返ってきたよ。
「指揮棒握ってもらってるからね。とりあえず、同意して。こうでもしないと確実に魔法破壊できないよ」
「あいよ」
4人が同意したからか、指揮棒も俺らの手もピカッっと光った。
「これで大丈夫。姉様。戻ろう」
「今回ばかりは、歩かせてください…」
「わかったよ。大丈夫?」
「大丈夫…だと、思います。水を用意しておいてください」
「……わかった。暇な人、水用意して!」
訓練場があたふたしだした。
「大丈夫なのか?」
「さぁ?わかりません。二人はわかってるんじゃないですか?」
「清水さんには悪いがわからん。俺だってそこまで詳しいわけじゃないよ」
「…ん」
一抹の不満を抱きながら、待つことしばし、
「皆さま、準備はよろしいでしょうか?」
少し元気なカーチェ様の声が競技場に響いた。よかった。
そんな思いとともに全員が頷く。
「では、開始!」
先と同様、カーチェ様の声とともに、鐘の音が鳴り響く。
まず、俺と四季はタクとアイリから距離を取る。今まで書いた紙は使わない。反則くさいからな。
それを見たアイリが突撃。タクも追従してくるが、遅い。
四季はすでに俺に20枚ほど紙を渡してくれている。数回しか使う気のない紙ならば、魔力量は少なくていい。ペナルティ受けるけど。
だが、明日一日戦うことはないだろうから、問題ない。
魔力量が少ないということは書きやすいということ。ほぼ立って書いているのと変わらん。腕を台にしているからいびつだけど。
アイリが四季に斬りかかり、その隙にタクが抜けようとしてくるが、四季の足払いで軽くバランスを崩す。
足払いした四季をアイリが狙う。でも、させないよ。
「『ロックランス』」
岩の槍が飛んでいって、鎌と激突。たまらずアイリは鎌から手を離し、鎌がくるくると飛んでいく。吹っ飛んだ岩の槍は観客席ギリギリで爆ぜた。ブルンナか。
四季は足払いをした勢いそのままにアイリを蹴り飛ばし、タクとぶつけ、二人を吹き飛ばすことで距離を取った。
よし、これだけ紙あれば十分だろ。
「…ためらいなく蹴ったね…」
「正気ですからね。あの時は記憶が飛んでいるかもしれませんから、起きた後に、私達にぼこぼこにされた記憶で苦しむ……なんてことがあったかもしれませんから」
俺は飛んできていた鎌をペンと剣でがっしりと挟み込んだ。
「そういうこと。会話中に攻撃とはやるねぇ、アイリ」
まぁ、正気じゃないときはやたらとあったけど。
「…はぁ、効かないか。タクさん来るよ」
「?わかった」
さすがアイリ。よくわかってる。いつものように手をつなぎ、
「「『『ロックバレット』』」」
岩の弾丸を撃ちだす。今回は威力も数も普通だ。一般人が顔に直撃すれば、即死する程度の威力はある。
でも、さすがはタクとアイリ。しっかりと避け、無理なものは切り捨てている。畳みかける。
「「『『ウインドカッター』』」」
「「『『ファイヤーボール』』」」
「「『『ウォーターレーザー』』」」
どれもこれも当たれば即死級。切り捨てることもできないぞ。
あ、ジャンプした。回避のついでに攻撃に入ろうという算段か。甘い!
「「『『フラッシュ』』」」
言葉通りただの閃光。ただし、かなり眩しい。俺らには影響ないが。
あまりの眩しさに、見当違いの方向に着地する二人。さぁ、継戦能力を奪おうか!
「「『『ロックランス』』」」
小さめの岩の槍が二人の足に突き刺さる。
だが、今の飛んできた方角から俺らの位置を察した二人は、まだ目つぶしが聞いているはずなのに、こちらに飛びかかってきた。この状態で魔法は…、無理だな。間に合わん。
背中合わせになって迎え撃つ。
「…目つぶしなんて…、できたんだね」
「だな。やらなかっただけ」
「…攻撃が…、通らない!」
「だろうな。タクがいたら、大きさも変えにくいだろうし…。それに」
刺さったままのロックランスを蹴り上げる。かなり痛いだろうけど、勝負だし。された方は軽く涙目だ。
アイリを持ち上げ、地面に叩きつける。四季は俺の行動を予想して、すでに俺の横に移動している。
「ちょ、おまっ!」
そのまま、四季もアイリと同じことをされたのか悶えているタクをたたきつける。
ダメ押しだ。
「「『『ロックバレット』』」」
岩の玉が殺到し、押しつぶ。少し、やりすぎか?
「本当にっ、容赦ねぇな、お前!」
ボロボロだがなんとか立っている。アイリもだ。戦意はまだあるか。
「勝負では相手の嫌がることを進んでやらなきゃ。これでも手心は加えてんだぞ?」
追撃を一回しかしなかったしな。
「わーっとるわ。畜生!」
さて、どうしよう。やりすぎるとダメなんだよね。
と、ここでアイリの大鎌の一閃。当たればやばいが、しゃがんでしまえばそれまで…、って滅茶苦茶するなぁ!
鎌の上にのっていたタクが飛び降り、切りつけ。四季が何とか逸らしてくれたが、肩を思いっきりやられた。
「『回復』。無茶するなぁ、ほんと!」
「回復もできんのか!」
「そうですよ!」
「…お母さんの腕を…」
「させないよ!」
アイリの鎌を受け止める。流血がかなり少ない…。この子の魔法か。ロックランスは力を一点に集中させるから受けきれなかったか?
「で、連携うまいし!」
「二人もなかなかだぞ?」
「…わたしにタクさんが合わせてくれてるだけ!」
「こちとら合わせるのは慣れてるんでねぇ!それでも…、」
「「二人には敵わない!」」
はもっていう必要なくない?
「『我が魔力を喰らい、いでよ炎龍!我の敵を打ち破れ!』」
詠唱!?ツッコミどころ満載だが止める!
「「『『ロックランス』』」」
いけぇ! って、危ない! 咄嗟に槍を破裂させる。
「アイリちゃん!わざと即死するように魔法を受けようとしないで!」
俺の言いたいことを、四季が言ってくれた!なんてことしてんだ!
「…戦いでは、相手の嫌がることを進んでやる!」
「さっき、俺はそう言ったけどぉ!」
さすがに無しでしょ!? だって、さすがに即死しそうなら止めるもの。即死じゃなければやるけど。
「…さすがだね。会話なしでもう次の手を撃ってくるんだね。でも、通さないよ!」
二人でアイリを挟み込むように走る。アイリは魔法を使えば、一人で二人を止めることも十分できるだろう。でも…、
「そもそもこちらに来させないよ」
「「『『土壁』』」」
昨日、アイリの鎌を囲んだように、今度はアイリごと包んでしまう。アイリが中にいるし、触媒魔法でもない。
だから、前と違って鎌をぶんぶん振り回されてしまえばすぐ壊れるだろうが…。それでも、十分だ!
『…煉獄の化身たる龍をここに!『煉獄龍』!』
「それは北欧神話の巨人の名前だ。馬鹿!」
思わずぶん殴ってしまった! …あれ? 起き上がらない? 魔力の使い過ぎだな。それはいい。間に合わなかったか!
「ちょ…、なんてもの作ってくれてるの!?」
慌てたブルンナの声がこだまし、この場所に続く道全てが閉鎖された。