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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
2章 アークライン神聖国
50/306

44話 戯れ

 翌朝。窓から差し込んでくる日光で目を覚ます。時間は…、お、鐘の音。



 金から判断するに8時らしい。とりあえず、ベル鳴らそうか。「リーン」と優しく、甲高い音が鳴り響く。



 その音で二人もちゃんと目を覚ましたらしい。



「おはようございます。皆さま。本日の朝食はビュッフェスタイルとなっております。つきましては、移動をお願いいたします」


 部屋の外から声が聞こえる。



「だ、そうだ。移動するよ」

「ふぁーい」

「…ん」


 まだ眠そうだが……、歩けば起きるでしょ。蕾は……、連れて行ってやるか。昨日、文句言われたし。まぁ、言われた気がするだけなんだけど。



 案内された先は宿の1階。ルキィ様たちは俺たちと入れ替わるように、この宿の最上階に泊まっている。戦闘の跡はだいぶ片付いたようだ。おそらく塗装とかでごまかしているんだろうけど。



「おはようさん。3人とも」

「おはよう。タク。お前は起きたところか?」

「いや、1の鐘には起きてたぞ。飯はこれからだ。で、後ろのは何だ?」

「後ろの…?」


 四季やアイリじゃないのは確かだしな…。何だ? あ、あれか。



「これか?」


 背中のものを指さす。



「それ」

「拾い物。なんか昨日おいていったら怒られた気がしてな…」

「ふーん。あ、ちょうどあそこにいい席があるぞ。来いよ」


 む。どうしようか。四季おいていくのもあれだし…。



「行ってきたらいいじゃないですか。親友なんですよね?」

「んー、どっちかというと悪友かな?」

「フフッ、タクさん変な顔になってますよ。まぁ、そう言わずに、行ってあげてくださいよ。アイリちゃんもいますしね」

「わかった。じゃあ、また」

「ありがとう、清水さん。じゃ、行くぞ」


 というわけで、席を確保。「また」と言ったが、席は隣になりそうだ。どうも他の方々が空気を呼んでくれたらしく、昨日の晩御飯の時のメンバーが再びそろいそうだ。



 アークライン神聖国の王族二人は、親睦を深める名目であるらしい。ただ食事をするだけなのに、いちいち名目を用意しないといけないのは面倒この上ない。



「じゃ、ささっと取りに行くぞ。習」

「あいよ」


 荷物を置いてすぐに移動。早い。



とりあえず、サラダとパスタ類。それに肉類取っておきますか。



「ところで、習。お前、清水さんとどこまで行った?」

「んーとね。あらゆる過程をすっ飛ばして家族になったから、恋人らしいことは何も」

「ハ?」


 顔文字の” ( ゜д゜)”これが当てはまる顔に、リアルで出会うとは思わなかった。



「おい、習…」

「わかってる。皆まで言うな。告白すらまだだよ。チキンですよ。悪いか!?」

「開き直ってんじゃねぇよ…」


 頭を抱えるタク。ご飯、落とすなよ。



「落とさねぇよ。それよりも。お前なぁ…、なんでしないの?え、あれか、まさかの成功の見込みなしか?」

「いや、むしろ成功率が100%ですけど何か?」

「うん、馬鹿だろ」

「ひでぇ。でもさ、恥ずかしいしさ…」

「顔見えてたら。とかか」


 なんでわかんだよ。



「あと、あれか、関係性が急に変わるのが怖いか」

「それもあるかもしれない」

「まぁ、俺から見ればそんなの大丈夫だと思うけどな…。お前らはなんだかんだで安定志向タイプだ。やってもいい時とやっちゃダメな時それくらいわかるはずだ」


 タクは一旦皿を置いて、耳元で、



「どうせ、お前らの事だ。本当の子供ができるのは帰ってからか、帰還不能がほぼ確定した時だよ」


 と小声で言う。言うだけ言うと、皿をとって近くにあったブイヤベースっぽいものを取った。



 うーん。やっぱり、機会があれば考えるべきか?



「わかったよ。機会があればするよ」

「告白?」

「んだ。四季も待ってるだろうし…」

「アイリちゃんもな。自分が繋いでいるだけの家族じゃなくて、本当の家族になって欲しがってると思うぞ」

「うげぇ…」


 そっか。アイリもか…。



「ところで、お前は?」

「俺か?やっと、拓也様になったところだな」

「ほえー。それは前進?」

「いきなり四季って呼んだ奴に比べると、微妙と言わざるを得んが。前進だろ」

「あれは、必要に迫られてだから。あ、もちろん、四季のことは本当に好きだからな」

「わーっとる。わーっとる。俺じゃなくて、本人に言え」


 言えたら苦労しない。



「フォークとスプーンは?」

「さっき四季が全員分持って行ってくれてるはず」

「ナイフは?」

「要らないと思うぞ?小さく切ってくれてるし…」

「俺らはいらんか。じゃあ、女性陣の分……清水さんにアイリちゃん。それとルキィ様、ブルンナ様、カーチェ様。合計5本か。ん?何笑ってんだ?」

「いや…、ブルンナが様付で呼ばれてるのがさ…。面白くて。ククッ」

「お前って、そういうとこあるよな…」

「そうだよ!ブルンナだって、王族なんだよ!敬え!」


 突然ブルンナが出てきた。また魔法の無駄使いして…。



「あー、はいはい」


 頭をポンポンと撫でる。悪いが今更無理。タメ口に違和感がなくなってしまったからな。諦めろ。



「公式の場では考えるよ」


 そう言いながら手を離して、席に着く。副音声が通じたのか、不満げだがカーチェ様とご飯を取りに行った。……自分で取りに行くのね。その方が毒殺とかされにくい…とか?



「みんな来てねぇけど、いっか。食べよう」

「あいよ」

「「いただきます」」


 今回取ったのはカルボナーラと鳥のトマト煮込み。それと野菜サラダ。内容はキャベツと大根、玉ねぎにトウモロコシ。もちろん、全て名前にモドキがつくけど…。正式名称知らねぇもの。ん? あ。モドキで思い出した。



「そういえば、貨幣価値ってわかるか?」

「貨幣価値?ああ、日本円換算?」

「そう。それ」

「ああ、それな。石、鉄。銅までは、日本と同じぐらい。小さい順に対応させていけばいい」

「知ってる」

「銀からか。やっぱり。銀が千。大が万。金は十万。大きいほうが千万。白金は頭おかしいぞ。十億」

「ビリオン?」

「それ。大はまさかの兆だよ」

「トリリオン?」

「だったんじゃない?とにかく、上に行けば行くほど、なぜか位が跳ねあがるのな」


 なるほどね。通りでフーライナでこいつ何言ってんだ。って顔されたわけだ。



 取ってきたものをさっと平らげ2周目へ。美味しかった。次は魚系でいこうか。



 見渡してみるとタクはまだ食べてるし、女性陣は最後の方でドリンクを選んでるようだ。じゃあ、今回はボッチだ。正確には近衛がいるけど。面識ない。サッと立ち上がると、



「ブイヤベースっぽいの美味しいぞ」


 とタクから声が飛んで来る。じゃあ、それももらおう。というわけで、ブイヤベースっぽいモノ、カルパッチョみたいなモノ。それとポトフっぽいモノ。さらにパンを少しづつ。次はデザートかな?



 席に戻ると、みんな和気あいあいと会話している。四季とアイリは食事に集中しているのか無言だけど。



 まぁ、俺も人の事言えないんだけど。



 黙々食べて、3周目。むぅ……少し食べすぎたかな? なら、取るのはデザートでいいか。今回取った中では、カルパッチョもどきが一番美味しかった。魚少し酸っぱいソースが程よくからんで美味。



 立ち上がると、四季とアイリも立ち上がった。



「習君も一緒にどうです?」

「いいよ。行こう」

「何を取るつもりですか?」

「デザートかな?朝なのに、2回目ちょっと取りすぎた」

「そうですか。私もデザートにしましょうか。朝ですし」

「…わたしも、デザートにする」


 全員同じだから、そろって選びに行く。



 デザートはフルーツを基本として、ゼリーやヨーグルトがある。料理に比べて控えめな印象。



「適当にとっちゃいますね」


 そう言いながら、ヨーグルトやフルーツを取って盛り付けていく四季。



 めっちゃ綺麗に盛るなぁ…。パフェか何かか? 俺も、四季ほどではないけどある程度綺麗に盛ろうか。あんま自信はないけれど。



「…食べた後、何する?」


 盛ってる最中に聞いてくるアイリ。



「センに会って、遊んで…。昼食かな?」

「私も行きます。昼食後は読書するつもりです」

「まだ読めてない本あるもんね。いいね。俺もそうしようかな」

「…わたしもついてく」

「了解。じゃあ、さっさと食べちゃおう」


 そう言って席に戻ったのに、四季はさらに2回ほど取りに行った。甘いものは別腹なのだろうか。それとも、一回目が少なかっただけ?



 何はともあれ食べ終わったから、移動開始。王族組は仕事。タクは護衛だから、同じく仕事。



 部屋を出るとドーラさんがいたので案内してもらう。



 そういえば、ご飯食べている最中にブルンナが「どうして、シュウもシキも、ブルンナは呼び捨てか、ちゃん付けするくせに、ドーラは「さん」って敬称つけるのさ!」とかほざいてた気がする。あれだよ。オーラの差だよ。



 大聖堂の中を歩いて外に出ると、城壁に囲まれた場所に出た。そこはトラックのようになっており、馬を走らせる場所であることは明らか。



 その一画に小屋がある。雰囲気が相変わらず神聖だから、小屋って言うのを少し躊躇してしまうが…。小屋は小屋。狭いから3人で行っても邪魔になるだけだから、俺だけが小屋に行く。中に入って、



「セン!」


 声をかけるとすぐに立ち上がって、こちらまで歩いてきた。



「あれ?繋いでないんですか?」


 そばにいた人に聞いてみる。



「ここの馬は賢いので、基本繋ぎませんよ。その子は…、賢いからつながなくていいでしょう。と、ドーラ様が」

「なるほど。ありがとうございます。行くよ。セン」

「ブルルッ!」


 センは外に出て、アイリの姿を確認すると嬉しそうに一鳴き。そして駆け寄って、スリスリと顔を擦り付け始めた。



 アイリも「…ちょ、待って。セン。危ないから」と言いながら、口から飴を出してるが、まんざらでもなさそうだ。センも何かあったことがわかっていたのだろうな。



 スリスリしていたかと思うとパクッと、アイリの手を銜えてはむはむしだした。2回ほどはむと、口を離した。



「…魔力吸われたみたい」

「ブルル」


 美味しかったよ!と、言っていそうだ。



 蕾を安全なように高台において、全員でセンに乗る。全員で乗る意味は特にないけれど、しいて言うならセンが乗れと言った気がしたから。



 3人を乗せたセンはグラウンドを数周。



 俺だけ、四季だけ、アイリだけ。それぞれでもさらに数周。それでも満足しなかったから、俺と四季のシャイツァーを投げて、取ってきてもらう遊びをした。犬の遊びなんだけどいいの?



「ブルルッ!ブルルルッ!」


 「楽しいから!問題ないよ!」…と。問題ないのね…。



 勿論、アイリの鎌は投げない。そんなことしたら事故を起こす。



 周りの人がシャイツァーの扱いについて何か言っていた気がするけど、気にしない。いつものことだ。



 昼食も引き続きビュッフェスタイル。朝とはメニューの志向が違うが。



 朝は地中海風だったけど、これは中東になるのかな? 香辛料多めということから判断しただけだけど…。



 タイミング悪く、近衛ばかりだったからさっさと食べて、読書へ。



 アイリだけはわざわざルキィ様とカーチェ様のところに行って、そこで食べながら話をしたいみたい。



 いざ、図書館。入るなり相変わらず、ドローンの大歓迎を受ける。



「今日は、読むからお願いね」


 御願いするなり、一斉に臨戦態勢に入った。



「早いですよ。座ってからで十分ですよ」


 四季が言っても聞かない。まぁ、これはこれで人間味があって、かわいいか。



 大聖堂側は誰も座っていない机が1脚もなかったので、宿側に座る。



 こちらも近衛がお仕事していて一脚しか開いてない。けど、まぁこっちのがマシか。俺と四季が向かい合うように座る。この机は占領してしまうんだろうなぁ…。



「アイリ、悪いけど、椅子2つ分は開けといて」

「…いいけど」


 アイリは頭上に疑問符を浮かべながらも、言った通りに開けてくれた。



「ところで、アイリ。何の本を読むんだ?」


 俺が聞くと、四季も興味があるのか身を乗り出してきた。



「…これ」


 差し出されたのは、エルモンツィの本。



「いいのか?」「いいんですか?」


 俺も四季も思わず聞いてしまう。アイリはそれに苦笑いしながら答える。



「…区切りはつけた。いつまでも逃げてちゃダメだと思った」


 なるほど、確かにそうだ。アイリの言葉に二人とも頷くしかなかった。



 アイリはそんな俺たちを見届けると、本を読み始める。……大丈夫そう。見届けたら、座って準備。蕾は隣の席でいいか。



「じゃあ、お願いしますね。今日は…、まだ読んでいない本で。今まで頼んだ分野の中に未読本があれば、それを優先してください」


 俺が蕾を座らせている間に四季が声をかけた。すると、ドローン21機が一斉に飛び回り始め、すぐに山を作り出した。もはや見慣れた光景だが……、



「…え、ちょっと待って。どんだけ積むの?」


 初見のアイリは横で驚いている。見ていればわかるから答えなくていいか。



 ガンガンできる山を読んで潰す。読む速度は前よりも早くなった…気がする。黙々と読んでいたら、肩をたたかれた。



「ん?タクか。どうした?」


 風に声をかけながら、ドローンたちに本を持ってくるのをやめてもらうように手で指示を出す。



「ちょっと早いけど、飯だ」

「あ、そう?今、何時?」

「17時かな?」

「あいよ。これ読み終わるまで待って」

「了解。ところで、清水さんどこだ?声かけないと」

「はい、読了」

「はっや…。で、清水さんは?」

「四季?反対にいるけど?ていうか見えてるぞ」


 正確には頭だけだが。髪の毛の色艶でわからないかね?


「わかんねぇよ」

「そうなの?俺は四季とアイリ。あと、お前ぐらいなら髪でわかるぞ」

「喜んでいいのか微妙…」

「…そんなことより、声かけないと」

「あ、そうだな。四季。ご飯行くよ」

「はーい。わかりました。じゃ、これお願いね」


 四季は本をドローンに託すと、スッと立ち上がった。



「何冊読めたんだ、3人とも?」

「さぁ?読みすぎて数えてないですね」

「俺もだわ」

「…わたしは残念ながら3冊」

「残念がらなくてもいと思うよ…。この二人が異次元なだけで」


 失礼な。そんなことはたぶんない。っと!



「すまん、タク」

「構わんよ。な、アイリちゃん。異次元だろ」

「…忘れていた。読書に魔法を使う人種だということを…!」


 そこまで語気を強めなくても…。ちょっと魔力が枯渇気味になってるだけじゃん。



 夜ご飯もビュッフェ形式。…手抜きか!?



 いや、料理は全部、作るのに時間かかるのは知ってるけどさ。今回のはロシアとか、北欧風になるのかな。これ?地理の時間に写真で見ただけだけど…。



 北欧…。そういえば北欧で思い出したが、フィンランドはイギリスに並ぶメシマズ国家とどこかで聞いた気がするけど…、本当なのかな?



 それはともかくとして、美味しかった。



「習。まだ時間あるだろ。ちょっと付き合え」


 何にだよ、タク……。まぁ、話だけは聞こう。四季に許可……、



「どうぞ」


 口に出す前に頷いてくれた。じゃあ、行こ……、



「…わたしも…、お母さんも。」


 うとしたら何故かアイリも四季の手を取って立ちあがった。



「お、それはいいな。ドーラ!」

「はい、ここに」

「暇な騎士全員集めろ。勇者が戦ってくれるそうだ」

「かしこまりました」


 なんかカーチェ様が言うと、



「ふむ…、アークライン神聖国の方々がご覧になるのであれば…。皆!二人の勝負を見に行きますよ!」

「「「「はい!」」」」


 ルキィ様と近衛達も動き出した。あぁ、付き合えって手合わせのことか。



「大事になってしまったな…」

「ですねぇ…」


 俺と四季は悟るのが遅すぎてできてしまったこの状況にポカーンとするほかなかった。



 原因であるタクは落ち着いてた。顔を見ると「お前で慣れてる」と書いてあった。でも、なんとなくタクがやりたかったのは違うことっぽいのだけど。何がしたかったんだろう?

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