41話 続大聖堂
「まずは、部屋だよねー。これのってよ」
と指さす先にはエレベーター。こういうところのエレベーターって、雰囲気ぶち壊しにするよね。大阪城や、平等院とかにもエレベーターあるけどさ……。
そんなことを考えながらエレベーターに乗り込む。
おお、すげぇ…。そこまで違和感がない。雰囲気と一体化している。
それでもなお、違和感があるのは、もはや俺の感性の問題なんだろう。アイリは特に違和感があると思っている様子はない。四季は…、俺と同じ感じか?
かなり上まで上がったところで、静かにドアが開く。
「この部屋ね。自由に使って。塔の天辺あたりだから向こうに比べたら狭いけど、景色はいいよ?」
というので、荷物を置いて見てみよう。
ああ、これはいい。首都を一望できる。残念なことに、エレベーターを使うために通った廊下のある建物のほうがでかいから、そっちから奥は見えないけど。
首都だけでなく、フーライナ。それに、次に行く予定の『イベア』という国も見える。フーライナは魔物被害のせいで少々荒れているな。
イベアは砂漠近くの国だ。国境沿いは緑が多いが、北へ北へ進めば、その分だけどんどん赤茶けてくる。
「かなり高いですね…、宿の7階が小さく見えますね」
「下の方に騎士っぽい人が集まっている場所もあるな…」
「あれは訓練場だよ。一番高いところにあるやつ。ここに泊まっている人に見せつけるための場所でもあるよ。だから一番強い」
「ぶっちゃけたな」
「3人に隠しても意味ないしね。勇者だしさ。よかったら訓練に付き合ってあげてよ。別に行動を妨げようとかいうわけじゃないよ。単に、うぬぼれないようにっていうだけ。まぁ、うぬぼれる要素なんてないけど」
「わかった。考えとくよ」
「お願いします」
ブルンナはそういいながら、頭を下げた。
「なんでうぬぼれる要素がないんです?」
外を見ていた四季がブルンナに尋ねる。
「誘拐されちゃったけどドーラがいるし…、ブルンナもシャイツァーあるから決して弱いわけじゃないよ。そりゃ真っ向からやれば負けるけど。姉様もいるしね」
「ドーラさんって何者なんだ?」
「あれ?聞いてないの?」
「「うん」」
「…ん」
いつの間にかアイリも混じってきた。気になるようだ。
「ドーラはね、本名、ドーラ=メトネル。若いように見えるでしょ?」
3人そろって頷く。
「実際若い」
盛大にずっこけた。なんじゃそりゃ…。
「ノリいいよね。二人。でもさ…、“エルフとしては”なんだよ」
「は?エルフ?なんで?耳も…」
「そう、普通なんだよね。妹の方も普通。それでも一応はエルフらしい。姉様が言ってた。ブルンナも信じられないんだけどね。エルフ領域で何かあったのかもね。こっちからはエルフのところに行けないけどさ」
「崖か」
「そうだよ」
エルフ領域と人間領域を隔てるデカい崖だ。急すぎて登ることは出来ない。その上、飛竜の巣窟。そのせいで降りることは出来ても登ることは出来ない。
魔人領域からなら山越えになるけどまだマシらしい。
「…あれ?姉様が言ってた。そう言いましたよね?」
と四季。
「そうだよ?あの二人小さい頃の記憶がないらしいよ。それで、耳もないし、姉様はエルフだって言ってるけど、とりあえず普通の人として暮らしてもらってるよ。ただね、技術がすごいの。色々なところでね。あの二人がエルフだとしたら年の功なのかな?ちなみに年齢関係の問題が出てきたら扱いは考えるってさ」
「行き当たりばったり!?」
「記憶が戻ればなんとかなるんじゃない?戻らなくても、まぁ、『アークライン神聖国』だしね。問題ないよ」
物理的に黙らせるんですね。わかります。宗教怖い。
「ちなみにドーラが宿にいたのは、職場だから。強いし、礼儀もあって、綺麗。ついでに、役職もあったはず、なんだっけ?」
「しゃべりすぎですよ。姫様」
「ウゲッ、ドーラ」
「ちなみに、姫様の世話役も兼ねております」
シュパパパッと消えようとしたブルンナを一瞬でドーラさん捕まえた。
「ギャー!ぐりぐりはやめてー!」
そしてぐりぐり。痛そうで痛くないそんな微妙なライン。
「ついでに、神聖騎士団魔法部門のトップです。わたくし、体術もそこそこできますが…、奇襲されてしまうと…ね」
まだ気に病んでるのか、そこ。でも、普通の感性があれば病むよね…。
「ギブ!ギブギブ!ヘルプ!」
「エルフらしいですけど、ほんとのところはよくわからないので、まぁ今はこのままでいいのですよ。普通の人と同じように老いて、死ぬ。そんな気がするんですよね」
ブルンナが助けを求めているが気にしない。英語に聞こえるのが気になるけど。まぁ、そういうこともあるよね。
「痛い…、魔力お化け4人に見られていたら逃げれないよ…」
「ドーラさんだけ認識変えればよかったんじゃない?」
「干渉が云々とかあって無理なの」
「ふーん」
よくわからないな。まぁ、俺のも同じようなもんだが。
「そういえばさ、他にここと同じような塔がこれいれて4つあるけどさ、」
「牢屋だったりしませんよね?」
「そんなことは全くないです。今は全部、部屋ですね。一つは姫様の部屋です」
“今は“ね。まぁ、本にもあった。継承権を巡る争い。教皇になれる器もないのになろうとして、部屋が牢獄に早変わりした哀れな人がいたって。そのまま一生そこで暮らしたとかいうね。
器があれば、普通に脱出できるらしいけど。
「尤も、牢にしたところでお三方に効果があるとは到底思えませんがね…」
ドーラさんがそんなこと言った。器認定ガバガバじゃない?
「そんなことより、姉様の部屋は中央の建物の一番高いところだよ。礼拝室から直接繋がっているよ。行こう!」
「直接?それって危なくない?」
「ぜんぜん。見ればわかるよ」
了解。じゃ、次の目的地。姉様、つまり教皇猊下の部屋へ……、
「ぐうう」
行こうと思ったら響く音。
「ごめん。今のブルンナ。昼ご飯食べてからにしようよ」
全員頷く。
「それでは、わたくしが取ってまいります」
ドーラさんは階下に姿を消した。
一緒に行かないのは、王族と勇者が他の人と一緒に食べると色々面倒らしいから。
そういえば部屋の中見てなかった。戻ってくるまでにみんなで見たところ、部屋は今いる部屋と、寝室それにトイレだけ。風呂はまた別。
部屋はグッと狭くなったが、3人であれば問題ない。というよりも、前が非常識すぎただけ。内装は大聖堂だからか、純白を基調とした落ち着いた感じ。さすがに部屋の中まで神聖感はいらないからこれでいい……というか、これがいい。
昼食はパスタ。ミートソースのかかったモノ。パスタといえば多くの人はこれを思い浮かべるんじゃないだろうかと思えるモノ。美味しかった。
でも、ドーラさんは仕事があるとかで持ってきたらさっさと帰って降りてしまった。
「じゃあ、今度こそいくよー」
「その前に…、」
俺はブルンナの口周りを清潔な布で拭いてやる。うん、綺麗になった。布は当然汚れた。
「俺らしかいないけど気を抜きすぎ」
「ですね。アイリちゃんのほうが綺麗に食べてますよ」
「…当然。少しでも無駄にはしない。あ、飴ちょうだい」
「ほい」
「…ありがと。…おいしい」
呪いはなくても飴が好きなようで、よく飴を食べている。棒のついたやつが食べやすいし、会話しやすいから好きなようだ。でも、喉は突かないでね。
「むぅ。また置いてけぼり…。まぁ、いいけど。ありがとう。気を付けるよ。じゃあ、今度こそ行くよー」
エレベーターで降りて中央へ。そこには円形のスペースがある。さらにその中央に少し雰囲気の違う円形の場所がある。二重円の真ん中とはいえ、人が10人は同時に居れそうだ。
そこへ近づくと、
「ここから先は許可がないと入れないよ。とりあえず、横一列になって。でね、許可は姉様が、「いちいち面倒くさいから信用できる人には常時出す」って言っているからもう出てるよ。それじゃ、手、つないで」
ブルンナに言われるがままに全員で手をつなぐ。そして、そのまま一歩進む。
「何か通り抜けた…?」
「ですね」
「…ん。間違いない」
「そうだよ。大聖堂の謎機構。たぶん魔法だと思うんだけどねー。詳しいことは教皇しか知らないらしいよ。だから、今は姉様だけ」
なるほどね。研究している人とかいそうだな…。
ふと下を見ると、足場が透けていることに気づいた。
「あれ?これ下見えるぞ?」
「わぁ、本当ですね!向こうでもありましたね。こういうの」
「…ん、透けてるね。落ちても痛くないけど」
「そうだよ。でも、こっちから見えるけど、下からは見えないから大丈夫だよ」
あ、そう。よかった。四季が乗っていても安心だ。
「あ…、そうなんですね。よかったです。ワンピースですからね。助かります」
大丈夫って言われるまで絶対気にしてなかったよね、四季……。悪い人に襲われるぞ…。まぁ、やらせんけど。その前につぶす。
「…お父さん。抑えて抑えて」
「あ、ごめん」
どうやら負のオーラが溢れていたようだ。
「ちなみにここ、開くよ。姉様しか開けられないけどね。この下が、ちょうど姉様が礼拝室でいるところ。祭壇だね。後で見せてあげるよ。この位置だから、許可のないやつは通れないし、もちろん攻撃も届かないから一番安全なんだよ」
「なかなか合理的だな」
「でしょー」
「ところでここからどうやって上がるんです?」
「あ、ごめん。姉様もブルンナもいつもここ使ってるから…」
まぁ、そういうこともあるよね。慣れは怖い。
「…魔法使っても大丈夫?」
「大丈夫だよ。危害を加えようとしない限りは。あ、でも、これも心の中読まれるみたいだよ。毒魔法を仕掛けようとしたやつとか即死したらしいし」
「こっわ」
「即死ですか…」
「…問題ないね。そんな魔法じゃないし。二人とも」
「「何?」」
「…3人、もしくは4人が乗れる籠みたいなのって作れる?」
「どんなやつ?」
「…えーとね。紙頂戴」
アイリに四季が紙を渡し、筆記具を俺が渡すと、紙に書き始めた。数分後。
「…こんなの」
アイリが見せてくれた紙には気球の籠のようなものの絵。というより、ほぼ気球そのもの。気球から風船部分をとればこうなるんじゃないかな?
にしても…。絵がうまい。俺よりも絶対にうまいぞこれ。
「いけるよ」
「いけますけど…、作ったらいいんです?」
「…お願い」
敗北感を感じつつも、いつも通りに書く。乗ること前提だろうし…、強度と時間は長めにしたいから魔力は多め。
「「『『籠』』」」
うん。イメージ通り。
「…じゃあ乗って。ブルンナ様は…、どうする?乗る?」
「興味あるし乗るよ」
全員乗り込む。それでもわりとゆとりがある。
「…お父さんはこっち。お母さんはそこ。ブルンナ様はそこね」
アイリの指示通りに座ると、
「じゃあいくよ。『死神の鎌』」
アイリは魔法を使うと、籠を鎌にひっかけて…、そのまま籠を持ち上げた。
浮いた!? 一瞬、立ち上がりそうになったが、
「…言い忘れてたけどあんまり動かないでね。バランス崩すと落ちるよ」
とアイリが言ったからやめた。
…なるほど。確かにバランスが悪い。
鎌の斬るほうの逆、その部分にひっかけて持ち上げているだけだ。引っかかりやすいような形にはなってはいるけど、暴れてしまえばバランスは簡単に崩れる。
「…割と疲れるね。どこまでいけばいいのかな?」
「一番上まで。見逃すはずがないよ」
「…そう」
アイリは上を見るのをやめた。うん。それがいい。まだかなりありそうで心が折れそうになるからな。
一切代り映えのしない塔をひたすらアイリの力だけで登っていく。
「…ねぇ、まだ?」
いい加減アイリの顔色がやばい。
「あとちょっと」
「……ちょっとってどれくらい?」
「うーん、後3m ぐらいかな?」
アイリは上を見て、
「…よし、なら大丈夫。ちょっと荒くなるよ」
と言うと、一気に鎌を動かして、着地させた。
「ちょ」
「待って、アイリちゃん」
「…無理。しんどい」
少しの間、ひどい揺れに襲われた。が、すぐに「ズン」という音を立てて、その揺れは終わった。
「…しんどい。加減がわからないからゆっくりやりすぎた…、次はもっとうまくやる」
顔色が悪いのにそんなことを言う。向上心の塊だ。
「あんまり無茶すんなよ」
「そうですよ。死んじゃったら元も子もないんですから」
言いながら、ねぎらうつもりで頭を撫でると、アイリはしんどそうにしながらも、顔をほころばせた。
「お疲れ。娘さん。って、本人呼ぶのに娘さんはおかしいよね?なんて呼べばいい?」
「…アイリでいい」
「そう、じゃあ、それで。アイリちゃんお疲れ様」
ちゃんづけか。それで。じゃないじゃん。
アイリもそんな顔してる。嫌だっていう顔ではないけど。……身長差的にちゃんつけて呼んでもおかしくはないか? こういうのは極論しちゃえばその人の感性によるし。
「じゃあ、行くよ。この扉を開けると姉様がいるよ!」
ブルンナがまるでボスに会うかのように気合をいれて、神聖感が今までで一番溢れる扉と相対する。
仲良さそうだと思ったんだけど、なんでそこまで気合い入れるかな?