37話 鎧
ガシャンガシャンうるさい音を立てて動き出す鎧。スピードは俺たちの半分ほど、かなり遅い。
「まずは斬ってみるか!」
「ですね。やってみましょう!」
あえて一番固そうなところに斬りかかる!トロイ上に大ぶりの一撃をなんなく回避して一撃!
ガギィン!
「硬い」
「ですね」
「手応え的にはノサインカッシュほどではないが…」
「それでも硬そうですね。ひょっとすると、あれが今回の白授の道具ですかね?」
「かもな」
「次は関節の部分狙いましょうか!」
「弱点としては定番だな。やろう」
斬りかかって来ているのをバックステップで回避。その隙に、攻撃してこなかった鎧に肉薄。攻撃をわざと誘発させる。
奴が選んだ攻撃は右から左への横なぎ。わかっちゃいたけど、俺は攻撃できそうもない、四季に任せよう。
四季は横なぎ後の隙をつき、
「でやああ!」
「ガギン!」
関節を突いた。だが、この音か…。
「ダメですね…」
「シャイツァーで削り殺すか、崩壊覚悟で魔法ぶっ放すかどっちが良いと思う?」
「これだけ遅いと、外すことなんてないでしょうから、魔法で」
「だな」
「「『『ロックランス』』」」
大きな一本の槍が出現。猛烈に回転しながら鎧に接近し、ドゴォ!という音を立てて、鎧の中心近くをえぐり、片腕をもいで、壁に縫い止める。
ドゴ―ン!という不安になる音が鳴ったが、大丈夫だろ。とりあえず、これであいつは使い物にならんだろう。
「このまま!」
「はい!一気につぶします!」
『『ロックランス』』
二本目!今回もど真ん中!
「ガギィン!」
は?ちょっと待って。何に遮られた?そんなものどこにもなかったはずだぞ。……あれ?さっきの鎧どこに消えた?
「四季、さっきの鎧どこにいった?」
「足元見てください。」
足元には真っ二つになった鎧がある。が、動いている。そして片方は腕がない。
「さっきのやつは、自分の腕か!自分で自分の腕なげるとか正気の沙汰じゃねぇぞ!」
「それだけじゃないですね。たぶん槍から逃げるために自分で真っ二つにしてますよ、あれ。しかも見てください。直撃じゃなかったからか、腕もまだ動いてますよ」
「だぁああ!面倒くせぇ!どこまでつぶせばいいんだよ!」
「まぁ、浮いてこないだけマシでしょう。最悪、文字通りすりつぶしてしまいましょ。でも、たぶん色がもとに戻るまでとかだと思いますよ?」
「それでもむちゃくちゃだな!でも、それしかないか。急ごう」
ただでさえトロイ鎧が、足を失ってしまえば、もはや機動力なんてないも同然。撃てばあたる。だが、いちいち邪魔してくんじゃねぇよ、他の鎧ども!
位置を調節してダメージを抑えるとか、そういうことしなくていいから!
「先に鎧全部砕いてしまうか?腕で妨害することも鎧どもから距離あるし、できないはずだ」
「いいですね。そうすれば防ぐこともできないはずです」
「なんだ、簡単に終わるな」
『『ウインドカッター』』『『ロックバレット』』
二つの魔法は二つの鎧それぞれを、真っ二つにし、大穴をあけた。
「あ、穴開けるだけじゃだめだ」
「ですね」
『『ウインドカッター』』
大きな風の刃が抵抗許さず、三基の鎧をまとめてさらに細かく切断した。
「ほぼ終わったな」
「ですね。まだ、扉は通れません。すりつぶしましょう」
「だな」
気を少し緩めたとき、部屋がチヌカの青い光で満たされた。
何も見えない!またかよ!
「四季!無事か!?」
「はい!眩しいだけで何もありませんよ!」
会話の最中、ガチャガチャという金属音を耳が拾う。これは…。
眩しさをこらえて目を開くと、最初と寸分変わらぬ鎧が3基。そして足元には破壊された3基がそのまま。
「ふざけてるのか。これ」
「何か仕掛けがあるんでしょうね。それを何とかしない限りおそらく、通れませんよ」
「奴の領域なんだから何か仕掛けていて当然だったか…!」
ドサッ。
「今度は何だ!?」
「騎士でしょうか、ねっ!」
後ろを振り返ると、階段付近に突如として騎士5名が出現。さっきの音はそれか。
それだけでも異常なのに、ターゲットは俺ら。顔を見た瞬間に武器を投げてくるなよ!
「さっきのも洗脳効果あったのか!」
「でも、かなり弱そうですよ!おそらく、優しく頭を殴ってやればそれで回復しますよ。ほら!」
実演とばかりに、近くにいた騎士の頭を殴る。
「ハッ!?私は一体…!?」
「どうです!」
「そうだね。それで済みそうだ。手伝ってもらおう」
「あ、ダメですね」
「何で!?」
「消えちゃいました。部屋の外にはじき出されたようです」
「仕掛け満載だな!」
騎士はただの妨害役か!動きは当然鎧なんかよりいい。それが5人。今は4人だけど、鎧も入れればかなり大変。なぜかあいつら、フレンドリーファイアしないからな!
まとめて弱めの『ロックバレット』でやるか。威力は落として…。
「『ロックバレット』!」
大量の岩の玉が騎士たちに襲い掛かる!が、鎧が受け止めた。威力を下げすぎたせいで、全くもって効果なし。
「スキありです!『ウインドカッ…』、やめです!」
今度は騎士がウインドカッターの盾になる。鎧を破壊する威力なら、間違いなく騎士は死ぬ。しかも、わざわざ兜まで脱いで頭さらけ出してくる。
「っ!?足が…。って、前の鎧の腕か!?」
少し破損しているからか、握力はない。が、動けない…!
そんなことしてたら来るよな。
騎士の縦の一撃を、掴まれた足を軸に回避。そのまま後ろにいた鎧に向かって、勢いよく頭から投げつける。これで、あの騎士も正気に戻るはず。次の鎧の一撃は、剣で受け止める!
「『ウインドカッター』」
四季の放った風の刃は、俺と鍔迫り合いをしている鎧を真っ二つに。ついでに、足を掴んでいた腕も破壊した。これで動ける。
激突していた騎士が消えた。今なら確実に当たる。
「『ロックランス』!」
鎧の腹の部分に直撃。一回目と同様、壁に縫い付けられた。追撃だ。
「『ウインドカッター』!」
を撃てば、自分を真っ二つにしようとする剣をはじく。これであと一基!
四季が騎士を蹴って、飛び上がる。剣をファイルで防ぎ、鎧を押し倒す。
「あんまり今、使いたくないんですけどね。これならどうです!『ファイヤーボール』!」
キーワードを唱えると、鎧を蹴って後ろに飛びのく。
ファイヤーボールが直撃したところは、ドロドロに溶け、周りは赤熱化。そして、床の絨毯にでも、引火したのかチリチリと炎が広がる。
再び目がくらむような閃光。またか!
「四季、大丈夫?」
「はい!ですが、ということは…」
言わない方がいい。想像するだけでも鬱になる。
目が見えるようになると、再び鎧3基。そして、6基分の残骸。そして…、騎士。なぜか増えて6人。さっき吹っ飛ばした人も3人混じっている。ついでに火も消えている。
「やっぱりか!」
「騎士が増えてしまいましたけどね!」
「そうだねっ!」
まずは一人。
「っ!?また!?これでは仕事が…」
再び消えた。
考えろ。今までとさっきとで何が違う?時間が経った?それは一番明らかだが…、鎧の数が増えていない。ならば。他だ。きっとほかの何かが違うはずだ。
ゴン!
ん?何だ?足元に何か…。
見てみると足元には石畳が広がって…、ん?石畳!?しまった!ここ、さっきファイヤーボールで鎧を仕留めたところか!
今の音は鎧を蹴った音か!足を掴まれる前にとっとと離脱…は、させてくれないか。立ちふさがるは騎士2人と鎧一基。
「てい!」
四季のかわいらしくも真剣な声が響くと、騎士が一人倒れ伏す。どうやらファイルを投げたようだ。角に当たらないと死にそうにないしな。
「ナイス、四季!」
言いながら、間近にいた騎士の攻撃を剣で受け止め、盾もろともペンで殴る。哀れ盾は粉砕され、突き出したペンの威力は少し弱くなり、死にはしないレベルになった攻撃が腹に直撃する。
「ゲフッ」
あ、ごめん。強かった。でも、これでこの人も片付いた。
今のうちに鎧の振り下ろしをよけ、石畳から逃れる。そしてそのまま体当たり!くらえ。
「『ロックランス』」
岩の槍が体当たりを受けて倒れた鎧もろとも石畳を砕く!
ん?下に何かあるようだが…、暗くてよく見えない。音も聞こえないし…、妨害されているのか?
手を入れる気になんてならないからペンを投げ込んでみるか。槍が砕け散ったからほぼ結果はわかりきってはいるが…。ほいっと。
「バチィ!」そんな音を立ててものすごい勢いで弾かれ、たまたまそこにいた鎧を貫通した。怖っ!
「習君、何やってるんですか!『ファイヤーボール』」
「ごめん、石畳に穴が開いて、その下に何か空間があるから、行けるかどうか試してみたらこうなった!」
「そうですか…、でも、今のナイスでしたよ!」
親指を立てる四季。鎧は融けて倒れ伏し、再び絨毯が燃える。もう一基の鎧は、その隙を狙おうとしたのか、背後から四季に迫るが…、
「『ウインドカッター』」
その一言で、哀れにも縦に切断された。
そういえば、さっき、足を掴まれなかった。何故だ?……頭に靄がかかったような感じがする。あぁ、目を閉じておかねば。
ギリギリ間にあった。目を閉じていても、眩しいと感じるような閃光が再び部屋を覆う。仕切り直し。
俺らの前には見慣れた鎧3基。それに騎士5人と…、ちょっと待て。なんでブルンナがいるんだよ。それにあの目は…、洗脳されてないじゃん!まずい!
「四季!」
「はい!」
「動くなよ、ブルンナ!」
「え、えっ?」
「動いたら死にますよ!」
まだテンパっているが仕方ない。
「「『『ウォーターレーザー』』」」
2条の水がブルンナの左右を飛んで行った。
奥の壁に激突し、ドガァ!と音を立て、入ってきた扉は粉砕された。
やっちまったぜ!それに、やっぱりこんな威力。当たれば即死は免れん。
案の定「ヒッ」ってブルンナ言ってるし。震えてる。おもらししてないのはすごい。覚悟を決めたからか?
「「『『ロックバレット』』」」
最初からこうすればよかった。鎧と合流されるから面倒くさい。される前の呆然としている時間。そのときに、全員を叩きのめす。
適度に威力が弱められた岩の弾丸が騎士たちを襲い、「キンキン!」と硬質な音を奏でる。きっと青あざがいっぱいできるだろう。でも、神聖魔法で治る。許せ。
「またか!ここどこなんだよ!?」
「ここは?」
「私は一体…?」
等と言う言葉を残して騎士は消えた。最初に声出した人3回目だぞ…。髭が特徴的で、さらに、髪がね。あれだからね。わかりやすくていいよね。って、今はそんなこといい。
「ブルンナ!大丈夫か!?」
「色々言いたいことあるけど大丈夫」
「後ろに下がっていてください。鎧は通しませんから」
ブルンナは言われた通り素直に後ろに下がる。鎧を倒すことなく、話を聞く必要がある。
また、騎士召喚されたら面倒だし、かわいそう。あんな助け方したし…。正直すまんかった。
でも、攻撃できるのにしちゃいけないというのはなかなかストレス。半分にされているやつでもすりつぶすか。のそのそと動いているやつもあるし。
「何があったかわかるか!?」
「うーん、頭がなんかポワポワしてる…。気持ち悪いよぉ…」
「話を聞いてよ、ブルンナちゃん!」
「うーん、回復か?」
「それよりも、解呪のほうがいいだろ」
「了解です。『解呪』!」
白い光がブルンナを包み、まばゆい光を放って消えた。マジで、影響受けてたのか…。
「うん。スッキリしたよ。えーとね。騎士が消えて、地下から怪我をして出てくるっていう報告があったから、一緒に入ってみたの。護衛数名とね」
めっちゃワイルド。無茶しやがって…。
で、話を聞いている間ぐらいは、黙ってみててくれないかな鎧ども。無理だよな。知ってる。
「ちょっと、待って」
「少し話を聞きやすくするから」
「「『『ロックランス』』」」
からの、
「「『『ウインドカッター』』」」
これで2基は戦闘不能。残り一基は、
「受けます!」
「頼んだ!」
四季が鎧の剣を受け止め、俺がその隙に『ウインドカッター』で腕を破壊。そののちに、全力の体当たりで吹き飛ばす。腕は『ファイヤーボール』で焼却。あ、絨毯が燃える。一応、消すか。
「いいぞ」
「どうぞ」
「あ、うん。でね、一階が怪しいかなと思って見回っても、何もなかったの。でね、仕方ないから、数人だけ残して退散しようと思ったら、突然地面が光ってね。ここにいたの。でも、光ってないところもあったよ。不思議だね」
わからん。全くわからん。
鎧がその場にあった残骸を拾って投げてくる。壁を作ってガード。見る必要もない。
そんな俺たちの様子を見てブルンナがボソッっと一言。
「ねぇ、二人ともさ、自分、解呪したの?なんか普段と違うよ?あ、黒いというのは別だよ」
あ。ツッコミたいことはあるが、使ってなかったわ。
『『解呪』』
頭がすっきりする。うん。影響ガッツリ受けてるわ。怪しい点がわんさか。確かめるか。
四季を見る。頷く。考えることはやはり一緒か。
「「『『ファイヤーボール』』」」
壁に縫いつかられたままの鎧もろとも、カーペットを燃やす。次。
「「『『爆発』』」」
燃えたカーペットのちょうど真上、そこにある天井をぶち抜く!哀れ天井は、爆発の直撃を受け、「ガラガラ」と音を立て、崩れ落ちた。
「ブルンナ!」
「ひゃ、ひゃい!」
「洗脳されなかった騎士のいた場所はあそこで合っているか?」
「え?ちょ、ちょっと待ってよ…」
ブルンナはその位置をジッと見つめる。
「わかんないよ!そんなの!こいつらの睡眠スペースなんて画一的だったし!」
「そっか、じゃあ…」
「ブルンナちゃん。そこから天井を見ていてください。騎士がその穴付近に集まってきたら教えてください」
「え、うん。わかった」
今も騎士の声が聞こえている。すぐに集まるだろう。
「来たよ!」
「「『『ロックバレット』』」」
多数の岩の弾丸が一瞬で鎧に殺到し、見えなくなる。そして壁に激突すると、ズドン!という大きな音を立てた。
「ブルンナ!目を閉じておけよ!」
「答え合わせの時間ですね」
一拍の後に、部屋中が閃光で満たされる。
「ニャあぁあ、目が、目がああ!」
閉じとけって言ったじゃん…。
仕方ない、俺らが確認するか。その前に…、騎士がうっとおしいので先に片付けてしまおう。
「「『『ロックバレット』』」」
適当に威力が落とされた岩の散弾が入り口 (元)に向かって飛んでゆく。
「ぎゃ!?痛い痛い!」
ありゃ、一人だったか。結構いると思って、適当に撃ったわ…。すまんな。これで4度目である。
となると…、穴の上には変わらず騎士たちがいる。やはり鍵は絨毯か。鎧もよく見れば、火で黒ずんでいるが…、絨毯の上にない鎧は、青みが取れている。
目を閉じるという発想が出るのが遅かったり、実はあれ、メッキなんじゃないかという発想が出なかったりと、散々だわ。メッキでも、ペンで5回は殴らないとダメそうだ。
「『解呪』」
四季が3人まとめて解呪してくれた。
「四季!あってたぞ」
「そうですか。では、ちゃちゃっと片付けましょう」
「だな。新しく書くか?それとも、ファイヤーボール?」
「書くのはダメです。さっき触媒火魔法使ったじゃないですか」
「あ、そっか。じゃあ、焼くか」
「ですね」
「「『『ファイヤーボール』』」」
まずは鎧の周りを焼く。動かれると面倒だ。
武器を投げて妨害しようとしてくるが…、無駄だ。今回のは威力ではなく数重視。数個つぶしても結果は変わらんよ。
次に安全地帯(焼いた場所)に避難して…、そこから焼く。
「「『『ファイヤーボール』』」」
「さて、待ってる間、紙補充するか」
「ですね。ロックランスにロックバレット、それとウインドカッター。それ以外は…、今は遠慮したいです」
「わかってる」
落ち着いてかけるから3枚で1分もかからん。そんなに魔力も込めてないし。
「ねえ、今更だけど、空気は?密室で火を使ったらダメなんじゃないの?」
「天井ぶち抜いたし、問題ない。問題あるなら魔法で何とかする。」
「ということは追加の紙ですね」
『空気浄化』っと。系統はたぶん風。
さて、絨毯も鎧の周り以外燃え尽きた。後は、あそこを燃やすだけ。
「面倒なものでしたね」
「だな」
「たぶん結界の一種だよ」
「へぇー」
武器も何もない鎧をただ、土の大きな壁で押し出す。そして、その隙に燃やす。
絨毯から一度でも押し出されてしまうと、動かなくなる。
だから、鎧は必死に踏みとどまろうとするが、肩や、背中などの一部が出てしまう。一部が動かなくなりバランスが悪くなった鎧は、加速度的に抵抗が弱くなり、一気に押し出された。
「「『『ファイヤーボール』』」」
最後に残った絨毯も焼き払う。閃光が部屋を覆う……が、さすがに慣れた。
「またぁ!?眩しいよぉ…」
テンションが下がっている人が一名いるが致し方なし。
閃光が収まると、先へ進むドアがいつの間にやら開いていた。
「ブルンナ。お前は戻れ」
「どうやって?入り口はなくなってるし、天井の穴からはみんな来れないんだよ?ブルンナが通れるわけないじゃん」
うへぇ…。
「じゃあ、ここで待機。シャイツァー使って全力で」
「…わかったよ。足手まといになりそうだし。気を付けて」
「ああ」「はい」
声が重なる。
「じゃ、行くか」
「ですね」
俺たちは扉をくぐった。