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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
2章 アークライン神聖国
41/306

35話 急転

 宿に戻れば、もう夕食の時間。結構長い間外にいたようだ。



 夕食はハンバーグのデミグラスソース(もどき)がけとパン、それにスープ。



 ハンバーグの肉は前の『キャベギュ』だそう。肉汁があふれ出してとてもジューシーで美味しかった。今まで食べた中でも一番じゃないかな?



 今更だけど、このメニューの豊かさはかつての勇者たちによるもの。料理は大切だ。



 でも、勇者の中には「料理で世界を変える!」とか言って、召喚されたときの願いを達成した奇人もいるらしい。



 「俺の料理が食えねぇのか!?」からの毒殺。とか、「お前を料理してやる!」からのドラゴンのローストとか。とにかく話題に事欠かかない。



 が、今は関係ない。興味があれば『料理で世界を変えてしまった勇者』という本を読むといい。



「じゃ、今日見てきたことを今度こそ話し合うぞ」

「お願いします」

「まず、白いの…、チヌヴェーリは真っ黒。教祖がチヌカだった」

「案の定ですね…」

「…またなのね…」


 二人ともうんざりした声を出す。



「それと誘拐もしているっぽい。こういう紋が、教祖の紋と同じ白に青が混じった色であった」

「…何の紋でしょうか?」

「わからない」

「…わたしも知らないよ?」

「じゃあ、明日これを調べよう」


 明日の予定は決定。



「後、二日後にタクとルキィ王女、それと護衛が来る。そのときに討伐を依頼するらしい」

「つまり…、大義名分を補強するわけですね」

「そうなる。今でも一応立つけど、残念ながら目撃者が俺だ。信用性がない。勇者だって言ってしまうと…、これはこれでバシェルがどう出てくるかわからん。ただ、もしもタクに手伝ってって言われれば手伝おうかな?とは思ってるんだけど……どうする?」

「私は習君が手伝うと決めたなら手伝います。自分一人だとやろうとは思いませんけど。ルキィ王女に借りはあってもそこまで深くはないですし。」


 四季は俺が手伝うなら手伝ってくれると。



 アイリはちょっとだけ考えてから、



「ルキィ王女に頼まれればやるよ…。でも、習が手伝うと決めたなら、そのときはわたしもやる」

「わかった。じゃあ、面倒な宗教関係はそれで。これが終われば、この国の安心レベルが少し上がるな。で、」


 俺はまたパンフレットを取り出す。瞬間、勢いよく四季が立ちあがった。



 昨日みたいに勢いよく倒されるかと思って身構えたが、そんなことはなかった。が、代わりに優しく押し倒されて、無事かどうか確かめられた。



 ……結局押し倒されるのね。



 パンフレットの内容は要約すると、



 真なる支配者チヌリトリカ神を讃えましょう。祈りは毎日2回。1の鐘と8の鐘。必ずどちらかは参加すること。さもないと不幸になります。なお、今まで参加しなかった人も、毎日2回3日参加すれば幸せになれます。



 というもの。向こうに比べるとまとも(真面目さの点で)だ。教祖チヌカだけど。



「やっぱりあっちに比べるとまともですよね…。あ、そうそう。調べてみたら数点、気になる情報がありましたよ」

「…確か…黒いのが教祖に怒られて黙った理由を調べてたんだよね?」

「そうです。で、気になる情報というのは、実はエルモンツィがチヌカという記述です」


 ん?



「あれ?エルモンツィは500年前だよな?時代が合わなくないか?」

「私もそう思って調べてみました。すると、エルモンツィはチヌリトリカの呪いを受けて誕生したものじゃないか?という記述がひっそりとあったんですよ」


 エルモンツィがチヌカ……ね。



「…でも、それって関係あるの?」


 アイリが疑問を呈する。



「あるんじゃない?仮にもエルモンツィを信仰しているんだ。その辺の事情に詳しくて、黙ったということはありそう」

「そもしくは教祖がチヌカなのですから、何かをしたか。でしょう」

「ああ、その線もあるね。ま、その辺は明日」


 もう遅いからな。



「後、関係ないかもしれませんけど、エルモンツィはやっぱり人の領域で突然?生まれたみたいですよ。理由は定かじゃありませんが」

「一応、覚えておくか。これから先、突然発生とかあったら死ぬ」

「…で、後はないの?」

「料理とかを適当に見てましたのでな…あぁ、お米は獣人領域にあるそうですよ!」

「本当!?やった。これでお米が食べれる!」

「…好きなんだねぇ…」


 アイリが呆れているけど仕方ない。ソウルフードである。ここのパンも美味しいけど、やっぱりご飯が食べたい。



 そんなときに、コンコン。と窓が叩かれた。ブルンナかな?



「ブルンナだよ!開けて!」


 うん。合ってた。こんなことするのは彼女しかいない。



「何?こんな時間に」

「新情報を伝えようと思って。黒いのがついに尻尾をだしたよ。その報告」


 割と重要な情報だった。



「どんなふうに?」

「えーとね、信者が一名誘拐して、捕まったよ。教祖はどこかに行っちゃったみたいだけど…、二番目に偉いのが対応しているよ。で、曰く、過激派の暴走で関係ないってさ」


 よくある言い回しだ。



「で、どうするの?」

「過激派の暴走なら仕方ない…で今回は済ませたよ。二度目はないとも言ったよ」

「信教の自由を守るのも面倒くさいですね」

「ほんとそれ。さっさとつぶせればいいのに。でも、一応気を付けてね、壁あるけど、絶対じゃないから」

「了解」


 それはよくわかってる。地球でもよくあったことだ。浮沈艦と言われた大和級戦艦は沈み、スペインの無敵艦隊(英国が皮肉ったともいわれているけど)もスペインの栄光とともに消え去った。



 絶対などありはしないのだ。あ、命あるものはいつか死ぬというのは絶対か。……これもいつか科学が発展すれば覆りそうではあるけれど。



 ブルンナが帰ると、俺たちは風呂に入って、いつものように紙を作って寝た。



 翌朝、今日のメイドさんはドーラさん。



 朝食はサラダとホットドッグ。ケチャップとマスタードはお好みで。なお、この二つの調味料は高価な材料を使っている。だからいっぱい使うと、それだけでパンとソーセージの原価を軽く上回ってしまう代物らしい。



「アイリ、今日はどうする?来るか?」

「……待ってる。今日は久しぶりに勉強しとく」

「わかった。気を付けてな」

「…部屋の中で何を気を付けるのさ」


 とアイリはくすり笑う。



「アイリちゃん、部屋の中でも気を付けることは案外あるんですよ?熱中症とか…、足元見てなくて、転んで机の角で頭打つとか」

「…心配しすぎ…。でも、わかった。気を付ける」

「今日は俺ら二人一緒にいるから、蕾も持って行くね」

「…わかった。じゃあまた」


 アイリは返事をするためにこっちを見ると、いつの間にか取り出した日本語勉強用の紙で勉強していた。



「また」

「またね」


 俺たちはエレベーターで下に降りる。



 いつものように図書館に降り…、ちょっと待って。多い。専属司書ドローンが、えーと、14機?


「ドローン増えたよな」

「本当ですね…。えっと、昨日より7台多いですね」

「なんで?」

「さぁ?昨日の時点で7機ありましたから…、私一人来るだけで、確定で7機、習君も前は、4か、5機でしたよね?で、日をまたぐごとにスピード上がってますからそれでじゃないですか?」

「な…なるほど」

「やっていきましょうか」


 「(ドローンを)殺っていきましょうか♪」に聞こえたのは俺の気の迷いだ。あ、でも、♪は合ってると思う。四季は本を読むのが好きみたいだし。



「習君?」


 俺が立ち止まっているのを不審に思った四季が振り返って声をかけてくる。



 その四季の顔を見て思わずハッと息をのんでしまった。「楽しいことを考えている女の子はきれいになるんだ」とよくうちの母親が言っていたが本当だったらしい。



 今までは嘘だと思ってた。



 振り返るときに流れる髪は清流のようで、艶と気品にあふれている。そして、本を読めることがよほどうれしいのか、すこし紅色に色づいた頬は四季のかわいらしさと美しさを引き立てている。



「習君?どうしたんですか?」


 少し恥ずかしいけれど、心配させちゃったみたいで不安そうな顔をしている四季の不安を晴らすため、正直に答えよう。



「…ごめん、あまりにも四季が綺麗で…見とれてた。今から、やるよ。四季はそっちを頼む」

「え?みと、見とれて?」


 激しく動揺する四季。やらかした…。



「あ、ごめん。タイミング悪かった。ん?そういう問題でもない?わからない。でも、今の言葉は本当だから!」


 俺は吐き捨てるように言って、作業に逃げようとすると、壁の向こう側から、



「え?何?向こうでラブコメか、ラブロマンスの読み聞かせでもやってるの?え、違うの?」


 というすごく真面目で怒気のこもった声が聞こえてきた。だから、すぐに二人とも冷静さを取り戻し、作業に入った。



 俺だって読書スキル?は成長している。四季みたいに3回とはいかないけど、6回あれば十分読めるようになった。



 四季は次元が違うから、比べるのが間違い。2冊同時に読むのはさすがにね…、控えめに言ってどうかしてる。



 14機にも及ぶドローンが、机が壊れない程度という、常軌を逸脱した本の山を築きあげる。俺たちはそれをただひたすらに読むことによって崩す。



 部屋の中をせわしなく14機のドローンがあっちへ本を取りに行き、こっちへ本を直し、せわしなく飛び交う。



 それにもかかわらず、あの白と青の瘴気。もしくはそれを扱うチヌカの情報がまるで見つからない。



 身体情報はあてにならないことはわかっている。俺たちが倒した、リブヒッチシカは小柄な男性。といった感じだった。でも、本には大柄な男性。と書いてあった。



 復活直後だったぽいからかもしれないが…、教祖にも同じことが言えると考えて差し支えないだろう。



 にしても全然情報がない…。もう100は読んだのに。まぁ読んだって言っていいのか微妙なレベルだけど。



「四季、あった?」

「ないでーす。まだ読み足りないんですかね…」


 さらに読む。次は壁向こうのチヌリトリカ関連の情報。



 でも、ない。ない。まるでない。壁向こうから、



「ちょっと待って、本が舞ってる!」

「ん?お前ここ久しぶりか?ここ最近よくあることだ。ぐだぐだ騒ぐな」


 とかいう会話が聞こえてくるが気のせい。原因は俺たちじゃないはず。



 ん?手ぶらのドローンが帰ってきた?……もしかして、



「四季、もう本ないぞ!」

「えぇ!?じゃあ、範囲を広げましょう。権限のない禁書はほうっておきましょう。次は人です。一応人に見えましたもの」

「だな。みんな。次は人関連のものを頼む」


 声をかけると、暇そうに浮かんでいたドローン10機が臨戦態勢に入った。そう言っても過言でないくらい、再び目まぐるしく飛び回る。



 「人」という超曖昧な情報だけでは、ヒットも多いのか、本がいろんな棚から大量に出てくる。



 積み上げられてしまう前に、一冊、また一冊と減らす。ただ……圧倒的に関係ない情報が多い。昔の王様に側室が300人いただとか、フェルミ王とアニミス王がじつは幼馴染だとか、第34回オリッツェ=プラシャ戦争の英雄だとか…。今、本気でどうでもいい…。



 ん?『カギョヌ』の邪紋…?模様の絵は……あった。これっぽい?



えーと、今は亡き『ミテ』という蛮族の住む村で突如発生しだした紋。もともと友好的な民族だったが、これが発生しだしてから一変した……と。いつから発生したかは不明。ただ、そこにいる人々は基本全裸だったので、すぐに、背中に変な文様があることが露見。聖魔法で取り除いたと。



 もう一度模様を確認。……微妙に違うようにも思えるが、色や形はほぼ一致。これで合っているだろう。



「四季。こんなのあった」

「どれです?ドローンで送ってください」

「了解」


 ドローンはこういう要望にも応えてくれる。その間に本読んでおこう。3冊ぐらいは読める。



「習君、見ましたよ。これっぽいです。重点的に探してみましょう」

「わかってる。そのつもりで進めてる」


 絞り込めば、探しやすい。そもそもこれの記述がそんなになかった。50冊ぐらいか?しかもその中の数冊はほんのわずかにのみ触れているだけ……とかだ。すぐに読み終わる。



 これらの情報を統合すると……………。え。まさか…、あいつの能力って、もしかして……洗脳?



 汗が額から流れ落ちる。そんな時にブルンナがやってきた。



「あれ?シキは?」

「あそこ。普通に見えるだろ?」

「え?どこ?まるでわからないんだけど…。あ、いた。立ったね」


 四季の顔を見ると、同じように汗が流れている、同じ結論に達した。と考えてもよさそう。急がねば。



「四季!上に戻るぞ!」

「はい!急ぎましょう!」

「え、ちょっと待って」


 状況がわかっていないブルンナは無視だ。



 ドゴォォォン!



 爆音が響いた。チッ。動き始めたか!宿の一階、玄関には黒いの…エルヌヴェイの信者がいる。邪魔だ。



「「『『ウインドカッター』』!」」


 発動と同時、大きな風の刃が宿の一階を薙ぎ払う。信者の中に生存者はいないだろう。信者以外の犠牲者はなし。宿の一階はもとより爆発でボロボロ。問題ない。



「習君、エレベーターは使えなくなってます!」

「仕事の早いことだ!俺らが気づくのが遅かったか?」


 あのやろうが…!



「非常階段で上がりましょう!」

「ああ!」


 後悔していても仕方ない。今できることをする。



「え?ちょっと待って」


 ブルンナはあたふたしている。こういう状況には弱そうだし…。



「担ぐぞ」

「え?ちょっと待って」

「待たない。上がりながら説明する」


 よっと。……結構軽い。魔法使っているからか?



「ちょっと待って、後ろ。また来たよ」

「大丈夫ですよ。わたくしがいます。姫様」

「ちょ!?ドーラ!?」

「うるさい。すでに察してる。黙って担がれてろ。『ブルンナ=クリーナ=ヴェーラン=アークライン』第二王女様よ」

「あ、はい。ごめんなさい」


 よし、うるさいのは黙った。名前は本にあった。



「ドーラさん申し訳ないですがお願いします」

「大丈夫です。わたくしがここにいるのはそういうことのためですから、騎士団来る時間稼ぎぐらいは余裕ですし…」


 そこで言葉を切ると、



「姫様。別に全滅させてしまってもかまいませんわよね?」


 好戦的な笑みを浮かべる。



「うん、構わないよ!」


 ブルンナはそれだけ言うと、慌てて口を手で押さえ黙った。少し脅しすぎたか。まぁ、大事の前の小事。許してもらおう。



 ドーラさんに階下は任せ、階段を駆け上がる。



「で、何がどうしたの?」


 ん?あぁ、ブルンナか。完全に忘れてた。



「推測だぞ?」

「別にいいよ」


 ならばよし。



「チヌヴェーリ教の教祖のチヌカ。そいつの能力は『洗脳』だ。洗脳されているかどうかは紋でわかる。俺らは見えるが…ほかの人は知らん」

「え、それだけですでにやばいんだけど」

「その上に、記憶まで読み取れそうです。昔、それで破滅した都市があったとかないとか」


 それは民主主義都市国家で、チヌカに有利になるように仕組まれた結果らしいがな。



「で、二人が焦る理由が…、あ」

「察した?それ正解」


 他にお客などいないのは確認済み。暴れても問題ない。



「いや、あるから!これ国の設備だから!」

「そういうのは敵さんに言おうな」

「習君!」


 四季が扉の前についたようだ。ブルンナを降ろす。



「ぶち破るぞ!」

「はい!」

「ちょ、ちょっと待って」


 待たない。



 3、2、1、今!全力で体当たり。扉はなすすべもなく砕けた。



「行きますよ!体。大丈夫ですか!」

「ああ!」


 先に四季が最上階に到達。



「アイリちゃんがいません!」


 畜生!間に合わなかったか!

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