4話 北上中
俺たちは今、さっきの道を北上中。
「…シュウ」
「なんだ?遠慮せずに言っていいぞ?」
誰もいないからお父さんと呼ぶのは避けたみたい。…まぁ、まだお父さんと呼ばれても反応できる気がしない。
「…ねぇ…。申し訳ないけど…食べ物頂戴」
またか、さっきからたびたびこれ。5回ぐらいあったかな?別に構わないけどさ。
「今から晩御飯にしようと思ってたからちょっと待って」
「…ん。あ、それならここはちょうどいいから野営の準備しよう?」
「いいけど…、そんな装備は持ってないぞ」
「…わたしの持ってきた荷物を見てみて…王女様が「渡しそびれていた、もしくは間に合わなかった、必要なもの入れてあります」と言ってたから多分入ってる…」
「そういう大事なことはもっと早くに言いなさい」
「…ごめんなさい」
しょんぼり…ではないな。何かを怖がるような顔だ。
「そんなに怒ってないよ」
「はい、これアイリちゃんの荷物です」
言ったらもとに戻…てはないな。わかりにくいけれど顔の奥に脅えがある。護衛を果たせないことを怖がっている…のか?わからない。
悔しいが、わからない以上どうしようもできない。渡してくれた荷物を確認しよう。道具は…、
野営するための一式
金貨40枚
腹持ちのしそうなジャーキー(相当数)
さっきの熊肉
ふつうのカバン何個か
アイリの説明書
数的にジャーキーたぶんアイリに食わせろってことなんだろうが、味見してみるか。説明書は後。
ささっと野営の準備を終え、今晩の夕飯は昼食べたパンとスープ。そしてジャーキー3本。準備終了。
「「いただきます」」
「いただきます」
俺らがいただきますと言うと、アイリも日本の風習だと悟ったのかすぐにまねをし、フードを下した。食事中はフードを下すようだ。たぶん、ルキィ王女の躾。地球でも行儀悪いといわれるからな。
さて、パンとスープはおいしいのは昼で分かっている。ジャーキーだけが問題だ。ジャーキーから食べるか。
口を開け、噛みつく。
!?
硬い。驚くほど硬い。噛み切れない。これしゃぶるタイプの奴なの?四季もうまく食べれていない。
頑張って噛み切ろうと歯を押し付けてみる。…硬い。無理でしょこれ。
「…二人とも水で戻したほうがいい」
「あ、そうなんですね?ありがとう」
「ありがとう」
さっそく水に浸す。水はアイリが魔道具から出してくれた。さて、食べますか。
まずい。戻したらなんか獣臭くなったし、味もよくない。まずいとしか言えない。しかし、お残しは流儀に反する。頑張って食べた。
四季も俺と同じような流儀があるようで、涙目になりながらもなんとか食べていた。びっくりするぐらいまずいしね…。でも、アイリは普通に食べている。慣れかな?
その後は頑張って残りも食べ、パンとスープで口直し。
「「「ごちそうさまでした」」」
寝る前に色々聞いておかねば。
「寝る前に魔道具の説明と、目的地を聞いても?」
「私もお願いしようと思ってました。いい?」
「…ん、構わない。…とりあえずはこの国、『バシェル』の出国が第一。他国に逃げればそうそう刺客は送れない。…幸い、国境はすぐそばだからすぐ」
…うん、アイリの説明には納得できるね。ルキィ様が北って言ったのも国境が近いってのがあったんだろうな。
「…で、魔道具だけど」
早速取り出して、説明してくれるアイリ。魔道具は、
1、飲料水を出すもの
2、昼のあれ
3、調理用の火を出すもの。つまりコンロもどき
4、魔包丁
これで調理するとおいしくなるらしい。ほんまかいな。俺が熊に使おうとしたのはこれ。
5、簡単な怪我を治したり、疲労を回復させたりする杖
俺が昼に四季に渡したのがこれ、回復用だったんだね。そんな雰囲気ないじゃん。思いっきり攻撃に使おうとしたぞ。これを説明されたとき四季も苦笑いしていた。
6、夜寝ている間に敵を教えてくれる魔道具
効果範囲は狭いけど固まって寝てれば十分反撃するぐらいの時間はとれる。らしい。残念なことに俺にはそんな反応速度はない。
アイリ曰く、「説明を聞いたとき、二人ともものすごく微妙な顔してた」とのこと。
7、身分証明書。ただし偽造
これがないと国境を通れない。しかし、本名がばれるとややこしいかもしれないのでルキィ王女がちょいちょいとごまかした。何をどうしたかわからんが、合っているのは名前だけ。年齢28って…。そんな年いってないぞ…。
それはそうとして、王族発行の偽造証明書ってなんだろうな。
あぁ、ファンタジーおなじみ冒険者ギルドのギルド証も身分証明につかえるらしいけれど、戦えないから、取る気は今のところない。
8、このかばん
魔道具らしい。容量を拡張されたモノ。容量はだいたい8畳分ぐらいの一部屋で、時間も止まる。ぶっちゃけ持ち物の中で一番高いのではなかろうか。
9、容量のでかいだけのポーチや袋
たぶんあまり使わない。けどポーチは邪魔にならなくていいよね。サイズはものによってまちまち。
10、攻撃用の魔術本
目玉商品。売り物ではないけれども。魔紙に魔方陣を書いたもの。魔力を流して、呪文を唱えれば発動する。
アイリ曰く。「…説明よりやるほうが早い」ということなので、やってみた。危なくないように水でやってみたら小さい木ぐらいなら折れた。こう、ぽきっと。四季でも折れた。なんか、アイリがびっくりしていたが問題あるまい。
キーワードは『我、軌跡を望むもの。わが眼前の敵を打ち倒す〇の力を!』だ。厨二っぽいね。〇はその属性。
この本だと火、水、風、土が使えるみたい。闇や、光もあるみたいだが、これにはなかった。大概の人はラストの後に『ファイアボール』や、『ウインドカッター』をつける。そのほうが、味方にどんな魔法が飛ぶかわかりやすいからな。
一人の時はわざわざそんなものはつけない。
説明が終わると、
「…そういえば、二人は身体強化の魔術使える?」
とたずねてくるアイリ。
「使えない」
「そもそも魔術自体使えないよ?」
俺らが順に答えると
「…覚えてもらったほうが守りやすい。…教える」
すぐさまそんな言葉が返ってきた。魔術(身体強化)を教えてもらえることになった。
「…身体強化はこの世界の人なら魔力があれば使える。…だから二人も使えるはず」
「どうすればいい?」
「…体中に魔力を流す。そして、魔力をそこで使う。それだけ。一部分だけに流して、使えば局所的に強化できる」
「まず、魔力がわからないんですけど…」
四季が言いにくそうに言う。俺もわからん。魔力をまともに使ったのは検証でペンを投げた時ぐらいだし
「…それなら、『シャイツァー』だして」
「「『『召喚』』」」
それを見てアイリは満足そうに頷く。
「…じゃあ、それを安全なところに放り投げて。それから戻して。」
それなら簡単だ。ふりかぶって、そーい!で、「『召喚』」前よりましだが、やっぱり何か減ってるな。
「やりましたよ?」
「…それを魔力が感じ取れるようになるまでやる」
うわぁ。
「…二人とも同じ顔している。…仲いいね」
やっぱり気が合うのかね?告白したいけど…。タイミング逃した感がすさまじい。
そんなことを考えていたらアイリがかわいらしくあくびをした。まぁ、たぶん10時ぐらいだしな。眠いわな。こういうところはやっぱり年相応か。年知らないけど!
「先に寝ててもいいぞ?」
「…ありがとう」
「あ、感じ取れたらどうすればいい?」
「…体に魔力を流して、身体強化したいって思えばできる。局所強化なら、その部分を強化したいと思えばいい…。流し方は…ひとそれぞれだから、いろいろ試して。異界の人ならいろいろ知ってるでしょ?」
「ありがとう。おやすみ」
「おやすみなさい」
「…おやすみ。魔道具は起動しておく」
さて、アイリも寝たことだし、説明書読むか。もちろん二人とも魔力が感じ取れるように、さっきの作業は継続している。効率悪いなぁ…。仕方ないけど。
今更だけど、人の説明書ってなんなんですかねぇ…。
「四季、とりあえず説明書読むよ」
「はい、読みましょう」
内容は以下。
「その子の名前は『アイリーン』です。お話してみてもうすでにお分かりでしょうが、その子は信頼している人でなければあまり多くを話そうとはしません。しかも、その信頼している人というのも、偶然拾った私ぐらいではないかと思います。というのも、その子は今、魔道具でごまかしていますが、目の色は赤、髪は黒『シャイツァー』は大鎌と『エルモンツィ』に似ています。多分そのせいで親に捨てられたのでしょう、孤児でした。さらに孤児院でもいじめられていたようです。
これだけならまだ孤児院を出る必要はなかったのです。しかし、私が拾う前日に、お腹がすきすぎて孤児院にいたネズミを殺して食べていたそうです。それを見て「ほかの子供を襲ったり悪影響を与えたりしたらまずい。」と院長さんが追い出しました。そこで私が偶然通りかかったので保護しました。
荷物に持たせてあるジャーキーはアイリーン用です。調べてみたところ、どうもアイリーンは呪われているようで、ある程度お腹がいっぱいか、何か口に入れていないと力が暴走して、何か食べようと暴れまわってしまうようです。
ですが!アイリーンはすごくかわいい子なんです。暴れまわっていてもしてはいけないことは判断できます!護衛としても優秀なはずです!なので捨てないで、ちゃんと面倒見てあげてください!お願いします。
追伸
読めばお分かりになるでしょうが、アイリーンは言っていないでしょうから言っておきます。目の色は魔道具で黒にしています」
ふむふむなるほど…。
「「母親か」」
抱いた感想は同じだったようだ。最後…。文法若干乱れてるし。といっても、十分通じるし、まだ綺麗なほうだが。
それはそれとして、やっぱり押し付けじゃないっぽい。
にしても。予想は当たっていたが、目の色が赤…ね。
これはきついだろうな。赤はほとんどの魔獣、魔物の目の色らしい。本に書いてあった。だから、もともと昔からこっちの人間は赤目が嫌いだ。その上、エルモンツィが暴れたもんだから拍車がかかった。そして、アイリの容姿だと100%、エルモンツィと結びつく。
でも、覚悟は決めた。今更その程度で揺るぎはしないさ。
ただ一つだけ言いたい。ルキィ王女あんた、そもそも俺らを父母扱いすれば捨てられないってわかってやってるだろ。
閑話休題。とりあえず、あのおいしくないジャーキーと改善案を探してやらないといけないかな?あー、眠くなってきた。
しかし、魔力を感じ取れるようになった気がするから、試しておきたい。
「なあ、四季」
「はい、なんでしょう」
四季は『ファイル』を投げながら答える。話しかけても投げるのは継続するのね。
「身体強化できそうだからみててもらってもいい?」
「あ、いいですよ。一応杖持っておきますね」
失敗して変に怪我した時の備えだろう。ありがたい。
深呼吸して…よし、いけそうだ。
「『身体強化!』」
ちょっとだけ視力がよくなった気がする。暗いからわかりにくいけど。でも、ちょっとさっきより明るく見える気がしないでもない。
「ちょっと走ってみる」
「気を付けてくださいね」
「わかってるよ」
さ、走ろう。行きはこのまま、帰りは身体強化をやめて走ればわかるかな?と考えながら準備運動をしていたら、四季が俺の前に立っている。なぜか四季がスターターを務めてくれるらしい。
「よーいドン!」
おお、いつもより早いし、疲れも少ない気がする。ざっと、100mは走ったと思うので、そこで折り返して、戻る。200mは全力で走れば疲れるな。
「ただいま」
「早かったですね。成功じゃないですか?」
そういうと、四季は杖を使って疲労を回復させてくれる。ありがたい。けど…、魔力使い過ぎじゃない?もう完治したぞ?
「なぁ、もう回復してるよ?」
「あ、すいません、杖使えば、私もできるようになるかな?と思って試してみたら、できるようになりそうだったのでそのままやってました」
なるほど。
「じゃあ、私もやってみるので、スターターお願いします」
「はいよ」
これに意味は特にないと思うが、雰囲気作り。
「よーいドン!」
おお、早い。あ、折り返してきた。成功だな。
「おめでとう、成功してる」
「本当ですか!やった!」
ぴょんぴょん飛んで全身で喜びを表現する四季。かわいい。普段のんびりした人がこういう反応をするとぐっとくるものがあるな…。
「あ」
俺が見ているのを思い出したのか、ちょっと赤くなる。
「成功しましたし、私は寝ようと思うのですが、習君はどうしますか?」
「俺?俺も寝ようかな。あ、ちょっと待って。アイリの鎌をある程度ごまかせるような袋を作ろう」
「いいですね。でも、材料は…」
「ない…ね。町に着いたら必ずやろう」
「そうですね。絶対です」
テントに二人で戻って寝よう。テントが一つしか入ってないから仕方ない。不可抗力だ。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
アイリを挟んで川の字になって就寝。一応無事に、城を出た初日は終わった。
______
翌日、さっさと朝食を食べた。メニューはパン、スープ。謎の卵でつくった卵焼きだ。
謎卵は焼き方がうまくいったためかふわふわとろとろ。上手にできてよかった。二人を見る限り、二人も好きそう。味付けはちょうどよかったみたい。
身支度やらなんやかんや整え、いざ出発。
道中、アイリは俺が渡したジャーキーをずっと食べている。違和感しかない。ていうか、かわいくない。
フードをかぶっているから小動物的なかわいさはあるけれども、小さい子はどうせなら食べていて可愛いものを食べるべきだと思う。何かないか…あ、飴がある。飴ならいいかもしれない。
「なぁ、四季。アイリがジャーキーずっと頬張っているのがかわいくないから、飴とか用意しない?」
「ああ、いいですね。絵面的にもばっちりだと思います」
「けど、飴にばっかりこだわっていたら思考固まってしまいそうだから、それ以外も探すことを念頭に置いておかないとね」
「帰る方法も忘れちゃだめですよ」
「わかってるよ」
本末転倒にはならないよ。
「…ん?」
先頭を行くアイリが立ち止まった。
「どうした?」
「何か見つけましたか?」
「…違う。何か来る。…二人とも悪いけど、戦闘準備をしていて…」
俺は包丁を、四季は魔導書を取り出して…、せっかくできるようになったのだから
「「『『身体強化!』』」」
聞いたアイリが目を見開く。
「…もうできるようになったの?」
「これでいいのか?」
「…二人とも無駄が多いけど、形にはなってる…。今はそんなことより前の未確認生物」
その一言で喜びそうだった気持ちを抑え、気持ちを切り替える。
「…来た!魔獣がたくさん」
魔獣か。野生動物のほうがよかった。こっちのが弱いらしいし。
「魔獣?確か動物みたいなやつですよね?」
「…それでだいたいあってる。申し訳ないけど数が多い。何匹かは、後ろに行くと思う」
「「了解」」
数匹なら問題ない…はず。てか、問題なくしとかないとアイリにまかせっきりになってしまう。
「…ん、申し訳ない。でも、護衛としてここはあんまり通さない!」
そんな声をアイリは上げると、魔獣の群れに突っ込んでいく。
「あんまり」をつけてしまうあたり、頼りになるのかならないのかよくわかんないな…。と俺は場違いにもそう思った。