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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
2章 アークライン神聖国
35/306

29話 服

 全く同じ感想を口にした俺達が面白かったのか、ブルンナは一人でケラケラとひとしきり笑う。しばらく経ってやっと満足したのか、



「そりゃーね。ここは庶民も貴族もいけるお店なんだよ。貴族領域にはお店はないからね。ここが、この国で最大なんだ。階で分けているから問題は特にないよ。階で分けてあるっていっても身分関係なく服は見れるよ。汚したら弁償だけどね。あ、そうそう。馬はそっちね」


 と、服屋の規模に比例して相当大きい建物を指さした。



 さいですか。この規模で馬小屋ですか。



「了解」


 内心をできるだけ出さずに、端的に答える。蕾は…、俺が袋に入れて持つか。



 よいしょっと。やっぱり重い。『身体強化』できるからいいけど、やっぱり軽くする魔道具がないか探さないと。袋の形ならうれしい。



「全員そろった?そろってるね。3人の身なりだと…。4階かな?」

「それってどのレベル?」

「貴族の下のほうのレベル」

「いいのそれ?」

「大丈夫でしょ。全員礼儀あるし。やろうと思えば、とりつくろえるでしょ?最近はブルンナに慣れてきたのか口調崩れてきてるけどね!」


 慣れてきたというか、疲れてきたというか。



「とりつくろったほうがいいですか?」


 ブルンナは四季の言葉にしばらく考え込み、俺、四季、服屋さんと視線を移すと、


「必要ないね。どうせ崩れるし」


 すぐさま確信をもった頷きと共に言った。なんでだ。



「今までの行動振り返って。それでわかる」

「…なるほど」


 アイリは納得したようだが。よくわからん。ま、いっか。



「とりあえず、このままで行くよ」

「はい、そうですね。そういえば…、階の内訳はどうなっています?」

「下から普通の人。あ、この国の人はみんな一階でなら、満足のできる買い物はできるよ。どう?すごいでしょ」


 ドヤァ…。という音が付きそうだ。確かにすごいが、威張らなくてもよくない?



「次に、ちょっとお金持ちな人。3階が大金持ち。4階からが貴族クラスで、下級、中級、上級、王族。の7階建て。屋上もあるよ。そこは遊び場だけどね」

「さすがに7階まで平民は行かないよな」

「そうだよ?それでも、原則は出入り自由なの」

「えぇ…」


 まぁ、遠慮して入らなくても出入り自由です!とは言い張れるしな…。



 当然、売り物があるわけだから、ある程度のこぎれいさは必要だろうし。



 ふと、「君の場合は出入り自由いつでもってなってそうだけどね。」という言葉が思い浮かんだが言わないことにした。



 さすがに今、宿の窓の外から入ってきたことをいじるのはかわいそうだ。



「ここにもエレベーターがあるんだな」

「こっちは頑張って作った奴なの」

「そうなの?」

「勇者様がシャイツァーで作ったのが聖堂にあるやつで、これは模倣品。あ、来たよ」


 あっちと違って、音は鳴らない。よそ見していたら到着に気づかない。



 乗り心地もあっちの方が圧倒的にいい。遅いうえにグラグラ揺れるとか…、酔う人が出そう。



 スッと目線をエレベーターの隅に移すと、バケツらしき魔道具があったのは見なかったことにしよう。ていうか、そういう人こそ階段使えよ。ああ、好奇心か…。



 4階には高そうな服が。でもこれ、今俺たちが着ているのと同レベルなんだよな…。



 そんな品が所狭しと並んでいた。紳士用品から婦人用品、子供用、それぞれの上下と下着すべてがここで売っている。



 道理ででかいわけだ。地球でも下手したら数階にわたって並べてあるものを、ここでは一階で全て並べてあるんだから。



 内装は一階に比べるとちょっと豪華。やはり階によって違うのだろうか?



「店員さん。丈夫な服ってない?」


 すぐそばにいた店員さんに声をかける。この人はイケメンだ。



「丈夫な服とは…、どのレベルでですか?」


 困った顔された。



「えーと、ですね。アロスの突撃にかすっても破れないとか、アベスホッパーの酸をくらっても破れないと」

「ごめんなさい。既製品ではないです」


 言葉の途中だったが…、そうそうにないと判断されて土下座された。



「お兄さん…。服に何を求めているの?」


 あきれ顔のブルンナ。



「頑丈さ。なぁ、四季」

「そうですよ。前そのせいで大変だったんですから」

「鎧じゃダメなの?」

「着たことないし…」

「不便そうです。とりあえず、後にしましょう。まず、普段着を適当に買いましょう」

「じゃあ、俺はこれと、これと…、後このあたりのものを…」

「ちょ、ちょっと待ってください習君」


 少し必死な感じの四季に腕をグッと掴まれた。



「ちょ、危ない、こけるって」

「あ、ごめんなさい」

「いいよ。で、何?」

「私の服や、アイリちゃんの服を選ぶセンスはあるのに自分の服を選ぶセンス壊滅してますよね。薄々気づいてましたけど」


 服と俺を交互に見る四季。うん。俺もそんな気がしてたんだ。毎回、服を買うときは家族がついてきてくれていたし。唯一来なかったのは、制服を買うときだけ。



「…そういうお母さんも自分で選んだ服は、お父さんほどじゃないけどセンスなかったよ?…ていうか、比較対象がひどすぎるだけで、お母さんも最悪だよ?」

「そ…そうだったんですか…。自覚はありましたが…」


 凹む四季。ついでに俺もけなされてるんだけど…。自覚症状は少しあっても、面と向かって言われるとつらい。



「…前みたいに仲良く買いなよ。それが一番いい。わたしは…、二人が二人の服選んでいる間に軽くする袋ないか探すから…」


 アイリの言葉に凹んだ俺たちは、「はぁい」と、少し小さい声で返事をする。



「…そんなに落ち込まなくても大丈夫。…相手に選んであげる時のセンスは最高だから。

…わたしのもお願いします」


 と言うと、何を急ぐことがあるのかテッテッテと走って行ってしまった。



「じゃ、四季。俺のを頼む」

「習君は私のをお願いします」


 選ぶか。えっと、売り場は…、あった。が、遠い。遠すぎる!



 レジが階段とエレベーターのそばなのに、端っこじゃないか!これはあれか、店の戦略か!



 向こうでもあったな。一番お金を使う人に、一番商品を見せるように配置する手法。



 少し憤りを感じながら歩く。これ、疲れて途中で商品見なくなるんじゃない?店員さんに頼めば持ってきてくれるのかもしれないが…、それじゃ意味がないしな。



ようやく歩ききった。たぶん1 km はあった。気のせいかもしれないけど。



 とっとと見よう。四季が早々に選び終えてしまうかもしれないし。



 このワンピースいいかな?四季の出るとこは出ている、スラッとした体形によく合いそう。色合いも四季の好きな色だし…。何より似合う。



 この短いスカートは。このズボンと服を合わせればよさそう。スポーティな感じになる。髪はポニテにすれば完璧でしょ。テニスでもやってそうだ。四季はどっちかと言うとインドア派だけど…。絶対にいいと思うんだよね。



 で、この着物みたいな服。四季のイメージ的に間違いないと断言できる。色合いも模様も少し派手と言われるかもしれない。でも、模様は花で、俺的にはド派手じゃないと思う。そして何より、着た四季が見たい。



 って、俺の趣味に走りすぎてる。戦闘用の服も買わなきゃ。どうせオーダーで作るけど。



 ん?オーダーで作るって考えだしたら、言い訳用の服を選んでいる気分になってきた。あ、うん。間違いない。どう言いつくろうが言い訳用だわ。



 言い訳用の服とズボンは…、このセットでいいか、ピリッとした感じだけど、雰囲気がきつすぎるわけでもない。それに丈夫そう。長袖長ズボンな点もいい。



 虫刺されは怖いからね。地球ですら、南米の森はもちろん、日本の山でのハイキングもこれが推奨されているし。



 後これ。ちょっと子供っぽくなるけどこれはこれで似合うでしょ。これも丈夫そうだし、長袖長ズボン。



 後はこれもか。これは今、四季が来ている服とよく似てる。だから確実に似合う。上下3セットあれば…、3回は戦えるな。ボロボロになること前提だけど。



 さて、戻ろう。結構重い。



「店員さん。持ってもらっても?」

「承知しました」


 嫌な顔一つせずに引き受けてくれた。お店だからって言ってもすごい。この1 kmほどありそうな距離を歩くわけだし。



「四季。決まった?」

「決まりましたよ。どうですか?」


 見せてくれた中にはローブとか混じってる。こっちも趣味に走ったのかな?一応、大丈夫かの確認用に試着タイム。



 お互いの服を一対ずつ交換して、着替える。試着室はあっち(地球)とよく似ている。ていうかそのものだ。



 鏡を見る限り、大丈夫そうね。選んでもらって正解だった。



「四季、着替えれた?」

「もうちょっとだけ待ってください。えーっと、これは、こうですね。はい。大丈夫ですよ!」


 カーテンを開けると、四季の姿が目に入る。



 これは……似合いすぎていてやばい。四季が着てくれているのは、最初に選んだワンピース。こうなるかな?なんてこっちの想像を軽く超えていってくれる。



 確かにイメージ通りではある。あるのだけど、ただそのイメージが実際の四季の魅力とか、素敵さとか、そういう面をまるで正確に評価できてなかった。



 俺も四季も、声を出さずに互いの姿をポーッと見つめる。



 このまま抱き着きたい衝動に駆られるけれど、生憎、チキンな俺には無理。



 精々「似合ってるね」とか「素敵だよ」とか、それくらいの月並みな言葉をかけることしかできない。



 四季も何か言ってくれているけど、そんなのは全く気にならない。恥ずかしそうに微笑んでいる顔、その破壊力がすごい。



 別の服をそれぞれ試着……したけど最初と同じような反応の焼きまわし。



 アイリはたぶんこれを嫌ったらしい。懐いてくれてはいるけど、近くで何回も見たくはなかったのだろう。

 俺らが真っ赤になって互いを褒めあっている中でも、冷静に袋探してくれていた。長い鎌 (今は斧に見せているけど)の先端がひょこひょこと移動していたし。一人で、別の階も見に行ってくれていたようだ。



 後で、アイリに聞いたところ、一人で探すことになった原因は俺らだったらしい。



 この階の店員さんは全滅。上下も離れればましになるけど、それでも、数人の店員さんが砂糖吐き機になる。突如として壁を殴りだす、家に帰ろうとするなどの、奇行に走っていたらしい。だから一人で探す羽目になったんだと。



 また、すぐそばで砂糖を吐きそうにしていたけど、いつの間にやらいなくなったブルンナは、



「濃度が高すぎて広さが足りなかった。独身の人は壁を殴り、相手のいる人は家に帰ろうとした。これは一種のテロだと思う」


 と供述しており……、うん、よくわからん。



 試着が全部終わると、アイリが阿鼻叫喚の砂糖地獄と化したこの混沌とした空間に一人、階段を下りて帰ってきた。ちょうどよかった。いつまでもこうしているわけにはいかないしね。



 って、ちょい待って。Uターンしないで。「…忘れ物」とか言ってるんじゃないよ。絶対ないだろ!



「アイリ!」

「お疲れ様」

「…………………ん。これどう?」


 いつもよりはるかに長い時間をかけ、そのうえで苦虫をかみつぶしたような顔をして、超しぶしぶといった顔で歩いてきた。そんなに嫌ですか。


「これは?」

「…卵を持ち運ぶのに使うらしい。50 kgまでいけるって書いてた」

「ん?これ、卵をあっためて、孵化させるためのだよね?」

「…そうだよ?…蕾は生きていると思っているから、二人ともいつもの魔道具にいれようとすらしてないんでしょ?」


 なるほど。俺たちが蕾を魔道具に入れて時間停止させたくない理由を察して、選んでくれたのか。



「そうだよ。ありがとう。すいません、これいくらですか?」

「羨ましい妬ましい羨ましい」


 うわ。怖い。なんか呪詛を呟きながら壁を何度も殴りつけてる。仕方ない。もう一回声をかけるか。



「すいません。これいくらですか?」

「妬ましい羨ましい妬まし、え?あ、はい。金貨10枚ですよ?」

「すがすがしいほどのマイペースですね。あの夫婦」

「…二人だからね。」


 そこ、店員さん達とアイリ。それだけの会話で頷きあってんじゃない。



「で、この服は?」

「金貨1枚と大銀貨5枚ですかね」

「アイリちゃんの服もありますから…」

「残金が心配だな…。ちょっとおろしてくる。ブルンナ!」


 返事がない。あれ?どこに行った?



「いない…。まぁいいか。とりあえず行ってくる」

「お気をつけてー」

「…つけて」


 さて、適当にあるいて銀行…もといギルドを探そう。



 エレベーターを使い、一階に降りてきた俺はブルンナがいないので店員さんにギルドの場所を聞く。



 ギルドはここから少し2枚目の壁に近づいたところにあるらしい。



 曲がる回数は少ないが道が複雑。その上、ギルドも白い石造り。だから、わからなければその辺の地元の人に聞いてください。とのこと。



 ギルドに行くだけだから、徒歩でいいか。わざわざセンを出す必要はないだろう。



 その代わりとは言っちゃあ何だが、警戒は必要。今は俺一人だし、いつもと違って馬車の上にいるわけでもない。



『身体強化』


 心の中で唱えておく。面倒だし全部強化しとこう。『身体強化』ぐらいで魔力は尽きんない。歩いていればいろんな会話が聞こえる。



女性二人の、



「ここの野菜はおいしかったよ!」

「そうなの?ちなみに、あのお店はダメ。まずい」

「あ、そういえばうちの子供がシャイツァーを使えるようになりたいって…」


 というポンポン話が変わる、日常感にあふれた会話や、



騎士二人の、



「また、姫様がいなくなった!?もうよくない?」

「ダメですよ~。探さないと…。あ、そういえばまた黒髪赤目の子が狙われたそうですよ?未遂ですけど」

「は?まじで?被害者は同じ子だよな…。あ、そういえば、この前、別の部署の騎士が「ここ2日の記憶がない」とか言ってたらしいぞ」

「まじっすか~。ここ最近治安が急に悪化してますね」


 という、良くない重要な話もある。帰ったら二人と話さないといけないな。







______


 案の定迷った。あの道、まっすぐだったか?お店の人に聞くか…。



「すいま」

「キャ!」


 あ、人とぶつかった。俺は全く問題なかったけど、相手の女性はこけてしまった。



 手を差し出しながら声をかける。



「すいません…。お怪我はありませんか?」

「はい。大丈夫です。あら?」


 女性は顔をあげると首をかしげる。



 俺もこの人に見覚えがある。誰だっけ?と一瞬思ったけど、該当人物は一人しかいなかった。ブルンナ除けば、この国でまともに付き合った人なんて。



「ドーラさんで、あってますよね?」

「はい。そうですよ。宿のメイド。ドーラです。」


 相変わらず美しい。が、この場には不釣り合いな一礼をした。

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