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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
2章 アークライン神聖国
34/306

28話 買い物に

 翌朝。



 いつものようにメイドさんが持ってきてくれたが、ドーラさんじゃなかった。この人もドーラさんと同じタイプの美人さん。いや、違うか。ドーラさんと同じ銀髪碧眼で、顔立ちも似ていて姉妹っぽいからタイプが同じなのかもしれない。



 血縁があっても似てる、似てないは個人差があるけど。



 ただ、スタイルはこっちの人のほうがいい。特に胸。というより、あの人がないだけ…訂正。ちょっとはある。



 そんなドーラさんは今日、お休みらしい。そりゃそうか、いつでも働いているわけないし。



 朝食はオムレツとパン。「これは何の卵?」と聞いたら、



「え…?『オムライス』という魔物の丸焼きですよ?」


 という答えが返ってきた。



 突っ込みどころが多すぎる。昔の勇者がふざけたんだろうな……。この人のせいでまた俺と四季が赤くなる事案があったが、割愛。俺がさっき変なことを考えていたせいだ。



「じゃあ、行きましょうか」

「だな。センも連れて行こう」

「…なんで?」

「蕾を持って行くし…、アイリを連れて行くなら、隠れる場所はあったほうがいいだろ?」

「アイリちゃんの服も破れて数枚ダメになってますから、昨日の晩に言ったように、買わないといけませんので絶対に連れて行きますよ」

「…う…うん。わかった」


 四季、圧力かけすぎ。アイリが引いてる。



 センを連れてきて馬車につなぎ、いるものを馬車に詰め込んで、「さあ、出発!」というところでふと気づいた。



「俺らこの壁の超え方知らないじゃん…」

「あっ…そうでしたね…」

「しんぱーいないさー!」


 また懐かしい……いや、微妙に違うか。



 今度は…馬車の下か。もう、敬語とかいいかな…、あ、でも、壁のこっちでは、敬語のほうが…、ん? 変な子供に対する対応なら敬語不要か。



「ねぇ、君。いつも俺らのこと見てるの?」

「すっごい呆れた顔するねー。よいしょっと」


 ヌルルッという効果音が付きそうなぐらい気持ち悪い動きで馬車の下から這い出してきた。



「「きもい…」」

「ひどい!困ってそうだったから来てあげたのに!」


 ぷんすかぷんすか、という効果音が付きそうなくらいわざとらしく怒って見せる少女。



「うん、困ってる。で、いつもつけてるの?」

「そんなに暇じゃないよ!怒るよ!」

「「へぇー」」

「全然興味ない!?」

「いや、あるよ?」

「ええ、ありますよ?」

「…はてなマークついてるよね。その言い方…」

「「気のせい」」

「なんかもう疲れた…。帰っていい?」

「どうぞ。メイドさんにでも聞くから」

「ええ、いいですよ」

「ブルンナの扱いどんどん悪化してる…。しゃべりかたも…、腹が立つ…」


 顔を赤くしてプルプル震えている。面白いから見ててもいいんだけど…。



「帰るか帰らないのかはっきりしてほしいんだけど?」

「あ、はい。やります。やらせてください!」

「なんで敬語?」

「じゃあ、勝手に乗るね」


 言葉を発した瞬間、姿が掻き消え、数秒後に四季やアイリのいる馬車の中に姿を現した。



「ここから案内するね!大丈夫何もしないから!」

「信用できるか!」

「前は何も言わずに来てくれたじゃん!」

「前は前!今は今!二人にすぐに直接手を下せそうな状況を了解できるかぁ!」

「そういえばそうだね!じゃあ、アークラインの神々に誓うよ!」


 この世界で「アークラインの神々に誓うということ」は、俺らにとっては想像もできないほど大きな意味を持つ。シャイツァーとかあるからな。



 ならば、信用してもいいのではないだろうか?



「…信用する?」

「してあげましょうか。今までこの子が私達に直接被害を加えたこともなかったですし…。殺ろうと思えばこれまでも何回かやれましたし…」

「…だね」


 宿の窓の外にいたときとかな。いきなり窓を割られて、即死するような攻撃をされれば、たぶん死ぬ。



「まぁ、怪しい動きをしたら私が即ぶっこ…、ゲフンゲフン止めますし、最悪、習君がやってくれるでしょう?」


 顔を赤く染める四季。かわいいなぁ…。



「そうだね」


 俺も顔を赤くしながら答える。



 ただ「やる」がどう考えても「殺す」だったのはいかがなものか…。いや、俺もそれに即答したわけだけども。



「…怖い。この人たち怖い。ナチュラルに物騒なこと言いながら桃色空間を作ってる…」

「…二人とも身内に激甘だから…」

「ま、いいわ。行きましょ!早く。お馬さん。道をまっすぐ行って3本目の道を右に行って次を左。2本目を右に行けば目的地だよ」

「なぜ、俺に言わない…。ま、いいけど…。セン3本目を右だ。行くよ」


 手に持つ綱を振るえば、センが歩き出す。



「なぜ俺に言わないって…。直接いえるような雰囲気じゃなかったじゃん…」


 少女がぼそっと何か言ったのは気にしない!



「ついたね」


 と少女は言うが、あるのは毎度おなじみただの壁。今日も誰ともすれ違わなかった。仕事かな?



「ちょっと待っててね…」


 前と同じように壁をいじり始める。



「ここをこうして…。こうで…。ゲ、なんで数学…。姉様め…。ブルンナが数学嫌いなのわかってるくせに…!」


涙目になってるが、大丈夫かあれ…。一抹の不安を抱きながらも俺たちはそれを眺め続ける。

それしかすることない。



 数分後。



「えーと…。わからない…。なんでこんな高等数学…」


 芸術的なまでのorz。写真に撮って額縁に飾っておきたい。少女の見目がいいからそんな間抜けな体勢でもすごく絵になるのだ。



「むぅ! 笑ってるけどさ!」


 え、まじで!?



「うわぁ…、気づいてなかったみたいな顔してやがる…」

「…二人だし」

「あなたもだよ!?」

「…え…」


 アイリも知らず知らずのうちに笑っていたらしい。俺らと同じく、自覚症状がなかったようだ。



「なんかつらい」


 なんかごめん。



 しばらく待機。



「よし、回復した。えっと、あ、そうだ。三人は、これ解けたりする?」


 そう言って少女が指さしたのは三角形。その横には、



「お前には2辺の長さの値とその間の角の大きさをくれてやろう。だから残りの辺の値を出しやがれ!ばーか!2辺は2と3 で角度は60°!」


 と。書いてある。何でこんなに挑戦的なんだ…。これが出題者姉クオリティ?



 それは置いておこう。余裕で解ける。文字通り高等数学…、三角関数の知識がいるけど。



 所詮余弦定理に当てはめるだけ。角度は、0、30、45、60、90(°略)以外はノーサンキュー。面倒だ。一応、15や75ぐらいなら半角(半角公式)加法(加法公式)で出せるが。それ以外は三角関数表持ってきて。



 しかし…余弦定理か。俺らが数学1履修してなかったら詰んでた。すごいなこの世界。ここまで数学進んでるのか。それとも『オムライス』のように勇者関係か?



「ねぇ、解けるの?」

「解けるな」

「解けますね」

「本当に?」

「ああ。」

「「2分の23の二乗根」


 声が重なる。



「本当に?」

「そうだよ。暗算だから自信ないけど四季と答え一緒だから大丈夫でしょ」

「私も自信ないですけど習君と同じなら大丈夫だと思います」

「そう…。馬鹿みたいに値が面倒くさいんだけど…」


 頭をかきながら作業に戻る。しばらくして…。



「違うよバーカ!ってののしられたんだけど…」


そんな目でこっちを見ないで欲しい。そういうこともあるさ。どこで間違えた…?



「「あ」」


 四季も気づいたらしい。



「2はかけるんだよな。割るんじゃなくて」

「そうでしたよね…。と言うことは…。余弦定理は、

求めたい辺の値の二乗 =残りの辺の値それぞれの二乗の和-2×残りの辺の積×cos(2辺の間の角)

でしたか」

「思いっきり2で割ったな」

「割ってましたね…」


 頭を抱えて「ウガー!」と叫びたくなるほど初歩的だが恥ずかしいミスだこれ…。



 でも、今は答えを出さなきゃいけないな。余弦定理があれと言うことは。



「「7の二乗根だ…」」

「また面倒ね…。まぁ、やってみるけど。あ、いけた。性悪姉さまめ…」

「…すごい。間違えるところまで同じなんて…」

「仲いいのね…。羨ましい…。ブルンナもそういう人がいいかな」


 言った後、ビクリとして考え込む少女。



「あ、やっぱりそこまでバカップルじゃなくてもいいや」


 ふぁ!? 四季の顔が朱色になる。俺もそうなっている自覚がある。ていうか、こっちにもそんな言葉あるんだな…。



 しばらく放心していたらさっきの少女にはたかれた。



「外に出るよ。さっきのところとは違って人がいっぱいいるんだからしゃんとしてね」

「ああ、そうだな」


 「誰のせいだ」と言いたいのを我慢して、センの綱を持つ。センに対しては飾りレベルの意味しかないけど。



「はいよー」


 センが進みだした。扉をくぐれば、少し薄汚れた道に出た。それでも、国全体から感じる神聖な雰囲気はこんなところでも十二分に感じられる。



 そういえばすごく今更だけどこの子名前なんていうんだろう?



「ねぇ、君名前は?」

「ブルンナのこと?あれ?言ってなかった?」

「そうだよ。一人称で「ブルンナ」なんだろうな…。とは察しているけど。君の口から本名は聞いてないぞ」

「そっか。ブルンナはブルンナだよ?」


 首をかしげながら、笑顔で言う。



「殴りたいその笑顔」

「ひどい!」

「何もひどくない」


 すっげぇうそくせぇ。絶対名前、それだけじゃねぇだろ。でも、この態度。聞いても教えてくれないんだろうけど。



「ブルンナ。君のことだ。どうせ、聞いていただろうが…。服屋に行きたい。どうやって行けばいい?」

「どうせって…」


 すごいジト目。どうせ聞いてただろ?何が不満なんだか。



「ダメだこの人。女心わかってない。モテないわ」

「自覚はある。だが、四季のさえわかれば、他の有象無象はどうでもいいな」


 告白待ってくれているのはわかってんだけどね…。はぁ。



「ため息なんて吐きやがって…、自然に惚気るとかテロだわ。テロ。惚気テロ。許さん。」


 ん?あ、確かに。そういえば、四季後ろにいたわ。ものすごくはずいこと言ったわ。聞いてないことを祈ろう。で、気分を逸らすために、ぐりぐりしよう。



「痛い痛い!何するの!」

「早く道を教えろ」

「え、ちょ、やつあた、痛い痛い!」


 間違ってない。でも、やめない。早く言って?



「ちょ、わかった。ギブ。ギブです。あ、離してくれた。見てわかるように、しばらく一方道だからしばらく道なりに行ってくれればいいよ。分岐出たら右ね」

「わかった。センそのままお願い」

「ブルルッ」


 センの声は弾んでいる。うれしそうだ。昨日は走れたはずだが、俺らと一緒。というのがうれしいのだろうな。鬣に指を伸ばせばフサフサとした感触が返ってきて、絡ましてみればつるり指から滑り落ちる。



「気持ちよさそうだね。触っていい?」

「いいぞ」


 ブルンナ、君。生物に対しては優しいんだね…。俺、勝手にさわるものだと思ってたわ…。



「何その顔」

「いや、許可取るんだな、と思って」

「え!?ブルンナが許可取るの、そんなに意外!?」

「おう」

「なんでよ…」


 泣きそうな顔されても…。これまでの行いを思い出してほしい。



 突然窓の外に現れたり、馬車の下から出てきたり、知り合いのなのに迷子装って近づいて来たり…ねぇ。



 落ち込んでいるブルンナを完全に無視して、テッコテッコと歩みを進めれば、言われた通りに分岐があった。右に曲がる。



 そこからはブルンナの指示に従って右左。そして、道をたまに引き返す。迷いなく案内しているから儀式だろうか?それとも単に迷っただけか。



 そうしてしばらくすれば、人、人、人。どこを見ても人ばっかりの道に出た。観光客や、商売人が多く、ここの住民らしき人は相対的に少なく見える。



「うわ、すごい人通り」

「何言ってんの。さっきからいたでしょ。あ、今嫁さんと御者変わったばっかりだっけ?」


 こいつは何を言っているんだ。あ。そうか。



 普通の人はこの光景を最初に見るはずだから、不自然な今の言動を何とか自然な感じでごまかしてくれたんだろう。



「右がこの国の中枢。大聖堂。前も言ったけど名前はないよ!ただ、大聖堂とだけ皆言っているよ。一番の観光名所だよ。貴族領域への道は、大聖堂と門二つそこにあるよ。普通は使わないけどね」

「へぇ~」


 その門使わなかったよな?とか言いたいけど、いいや。今は人が多すぎる。



「服屋はどこ?」

「この人混みをかき分けてまっすぐ行って、次の道を右。左側の3間目。そこがイチオシ!」

「了解」


 人混みの中をトコトコトコと歩く。当然だが、スピードは格段に落ちる。さっきのような速度で走ると間違いなく事故る。



「そういえば、服高いよな?」

「高いよ?ギルドカードある?」

「あるよ?銀行カード」

「銀行…。一応聞くけどランクは?」

「ブロンズ」

「ダメだね…。ゴールドでカード決済もできるんだけど。じゃあ手持ちは?」


 銀行カード──もといギルドカードはまさかのゴールドでクレジットカード化するのか。



 少し遠い目をしていたせいか、



「おーい、どうしたの?」


 心配されてしまった。



「ああ、ごめん。大丈夫。考え事」

「ふーん。そう。で、手持ちは?」

「金貨20枚はあったはず」

「十分すぎるわ」


 即答!?



「というより、何枚買う気っていう領域だよ?あ、もしかして、オーダーで嫁さんに着せる変な服作る気なの?アイリいるのに?」


 すっげぇ呆れられた。そして、後半は心外すぎるぞ。



「え?オーダーあるんですか?じゃあ、機能性を重視した、いい服でも作ってもらいますか?」


 荷台から声だけ出して会話に四季が参加してきた。



「構わないけど…値段と時間との相談だな」

「そうですね時間との兼ね合いもありましたね」


 万が一、宗教関係が面倒になったときに服が足かせになったら困る。



 そんなことになったら、もちろん服の方を切る。アイリを切るわけがない。さっきもアイリに言ったし。でも、もったいないからね。



「え、何?ブルンナにも…。ああ、なるほど」


 こいつにシャイツァー見せてたっけ?



 まぁいいか。アイリは黒髪で長い武器持ち。出会った時に少女は禁句言いかけていた気もする上、警告くれるぐらいだ。だからあのヤバい2宗教は関係ないだろう。というか…。



「あ、ついたよ」


どうやら目的地に着いた…。



「でかくない?」

「大きいですね」

「…大きい。」


 向こうでもたぶんここまでのレベルはないぞ…。3人ともが、全く同じ感想を口にしてしまうほど、案内された服屋は大きかった。

202011/5追記

 完全に補助線使う方法の存在を忘却しておりました。補助線と三角比を使えば、三平方(ピタゴラス)の定理でも解けます。


解)

1) 3 cmを下にして三角形を書き、頂点から垂線を底辺(3 cmの辺)に降ろす。

(斜辺が2と、斜辺不明の直角三角形が二つ完成)


2) 斜辺が2の三角形において、斜辺が2、斜辺と底辺のなす角が60°であるから、斜辺:高さ:底辺=2;√3;1より、高さは√3

3) 斜辺が2の三角形で三平方の定理。斜辺2, 高さ√3より底辺1を得る。

4) 斜辺の長さ不明の三角形の底辺が、斜辺2の三角形の底辺1より引き算(3-1)で2を得る。

5) 2), 4)で斜辺不明三角形の高さ、底辺がわかったので三平方の定理。√7を得る。


 となります。三角形の図はあった方がいいでしょうが、省略いたします。



 60°の三角比が既知である。という前提が必要ではありますが、余弦定理はなくても解けます。



 割と賢い設定の二人なのに三平方への言及が一切ないのは、「三角比知っているなら余弦も知ってるだろうと思っている」か、「余弦定理の使用で思考停止している」のどちらかでしょう。


 後者は別の場面でやらかすと致命傷になりかねないので、耳タコでしょうが受験生の方は特にご注意くださいませ。


致命傷の例

ex1) ベクトル計算が嫌でベクトルを頑なに使わず、図形の性質でごり押そうとしているが、ベクトルの計算は実は一瞬で終わる。

ex2) 円を見て円周角の定理!で思考停止。円周ばかり見て、中心角(円周角は中心角の1/2)の存在を忘却している


 記述でやらかすとこれで15点くらい軽く差が付きます。(部分点0なら最悪30や35)

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― 新着の感想 ―
[一言]  今回の数学の問題ですが、中学校で習う≪三平方(ピタゴラス)の定理≫の問題ですね。30°または45°の整数倍の角度の時は正三角形または直角二等辺三角形を利用して解けますから。1:2:√3や1…
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