27話 情報
「「「ごちそうさまでした」」」
食べ終わって、机の上を拭いて、皿を返却口に入れれば、食後の片づけは終了だ。
「地図を机の上に広げておきますね」
「ああ、頼む。飲み物は普通のお茶でいい?」
「構いません」
「…習が決めたならそれでいい」
「了解」
栓を開け、地図を広げていない机の上にコップを3つ並べて、そこにお茶を入れる。麦茶だろうか?家ではよく飲んだ。
全員がやることを終えて、ソファに座った。得た情報を話し合おう。
「まず、俺から。俺らしかいないから、ゆったりとした気分で聞いて欲しい。話しにくいし。で、結果だけど…。当然というか、残念と言うか…。ほぼ人間領域の話しかなかった」
「あー。習君もですか」
残念そうな四季の声。ということは、四季もほとんど人間領域の情報しか得られなかったということになる。
「人間領域以外では…。獣人領域では穴。魔人領域では谷。エルフ領域では木。これくらいしかなかった。本当に時々、魔人領域にあるらしい、不帰の滝とか、エルフ領域で子宝の泉。獣人領域で湖底遺跡とかの記述があっただけ。だから、穴、谷、木の情報以外はろくにないと言っていい。残念ながら」
「でも、逆に記述の多かった、穴。谷。木。を調べれば何かわかるかもしれませんね」
「かもしれない」
「…わたしもそう思う」
3人の意見がまとまった。
「あ、割り込みになっちゃいますけど『チヌリトリカ』関連でも同じようなのありましたよ」
アイリと二人して続きを促すと、喋ってくれる。
「穴と木は神話決戦時から、谷はだいぶ前からあるようですが、記述が増えだしたのは500年前ですね」
「神話決戦か…。こっちにもそこそこ記述があったよ」
「齟齬がないか確認しましょう」
「まず、あったのがおよそ2000年前。この世界、つまり、アークラインの神々が、白地から侵攻してきたチヌリトリカを迎撃した戦い。これでいいよな?」
「ざっくりいうとそうですね。神々はチヌリトリカと闘い、人々は、チヌリトリカの作り出した、眷属チヌカ、まき散らされた瘴気から作り出された魔物。そして、瘴気に巻き込まれた動物から偶然発生した魔獣。それと、チヌリトリカや、チヌカが発生させた呪い。それらと戦ったものです」
「その時に神々がシャイツァーを与えた。これでいい?」
「はい、あってますよ。それが神話決戦です。たぶん、先ほど習君が言っていた穴は、この時に開いたものですね。なんでも、戦神シュファラトが、チヌリトリカを串刺しにして、地面に縫い付けた際に開いたとか」
スケールがでかいな。おい。
「まあ、穴はわかった。木と谷は?何かあった?」
「ありましたけど、先にこっち説明しときましょうか。先ほど、シュファラト神に縫い付けられたチヌリトリカ。それが、愛の女神ラーヴェによって、殺されるのは免れるのですが…、チヌリトリカが何を思ったのか、爆発四散するんですね」
うわぁ…。
「その時に、世界中に瘴気と呪いをばらまいたんですよ」
「いい迷惑だな」
「ですね」
瘴気は魔物を作る元。呪いはそれ以外のよくないことを引き起こすもの。という認識で、問題ない。記述がだいたいそういう風になっていた。
ちょっと待ってくださいね。と四季は言うと、お茶を少しだけ飲んだ。
「で、その瘴気はこの大陸南に集中してしまったそうですよ。それを浄化するために作った浄化装置ですね。これは、ラーヴェ神が責任を感じたのか、主体的に作ったようです。ですが、魔力が足りなかったので、人間の助けをもらっていますね」
「…どうやって?」
「ありがちといえば、ありがちですけど、神々の力って、信仰心、もしくは、司っているモノに由来するそうですよ?感情系の神様なら、愛、喜びを筆頭に、悲しみ、嫉妬などの感情です。天空神や、海洋神は、そこの清浄さや、あふれている力。戦神は…、その戦いが、どう見えるかでしょうね。しょうもない争いでも得られるのでしょうけど、双方が譲れないものをかけた戦いならかなり力になるかもしれませんね」
なるほど。
「ラーヴェ神とそれがどう絡んでくるの?」
「なんでも、『ウシャール=カーツェ=ラーヴェ』と『シャリア=コーエルミア=ラーヴェ』という瀕死の夫妻に出会って、その二人の愛が凄かったので、願いを叶える代償にその愛の力をもらったそうですよ?その時に、管理者としてエルフも作ったそうですよ」
えぇ…。たった二人で足りてしまうものなの…。と思ったのに、アイリは納得と言った顔。
「アイリちゃんは知ってるの?」
「ルキィ様が話してくれたことがある。ウシャールとシャリアは夫婦で、神話決戦時に大陸を統一した、ひどく中の良い夫婦だったって…」
歴史書に記されるぐらいだから、相当仲が良かったんだろうな…、それなら納得できるような気がする。
「大陸統一、は文字通りですよ。獣人や魔人もひっくるめてですよ。もっとも、どうも私が、資料を見る限り…、獣人は瘴気に、魔人は呪いに、負けた人々のなれの果てみたいなものなんですよね」
「ということは…、混乱はあってもまとまりやすかっただろうな」
「だから、ギルドや通貨を作れたんですね。元は人間ですし、統一しておかないと不便ですから。それなのに、今はここまでいがみ合っているんですよね…」
「人間の性じゃないかな」
「…なのかな?」
少し暗くなったので、ここでちょっと休憩。みんな思い思いに羽を伸ばして、だいたい10分後に再開。
「谷はどうなの?」
「谷ですか?谷自体は戦神シュファラトが剣で切り裂いてしまったものらしいですよ?500年前から記述が増えだしたのは、ここに魔人領域の呪いを集めたかららしいです。その方法はわかりませんでした。秘匿されているのか、禁術なのか、はたまた誰かに消されたか」
「ということは…、谷は呪いを集めた谷ってこと?」
「そうなります。呪いは、魔人領域の解呪できてなかった、もしくは害がないから放置していたやつでしょう。元が呪いに負けた人間なら放置していても害はなかったでしょうし」
「だね」
「…ねぇ」
「「何?」」
「…今までの話聞いて思ったんだけど…。帰還魔法なさそうじゃない?」
「「確かに」」
生い立ちが、
穴――戦闘で開いた。
谷――呪い集めた。
木――浄化装置
「関係なさそうだな…」
「ですねー。他に何かなかったんですか?」
「人間領域ぐらいしかないぞ? 亡霊の出る場所とか、そんなのばっかり」
「手詰まりですね…」
「ま、獣人領域行けばまた、本あるでしょ」
「ありますかね?」
「…あるかな?」
「元が人間ならあるでしょ。たぶん」
まるっきり自信はないけど。勝手だけど、粗雑なイメージがある。あ、そういえば。
「リブヒッチシカは何か記述あった?」
チヌカだし、チヌリトリカを調べた四季なら何か見ているはずだ。聞いておかないと。
「ああ、あの頭のいかれた狂人ですか?ありましたよ。さっきの夫妻を頂点とする国と闘って負けてます。シャリアが打ち取ったそうですよ?」
「あれ?さっきさらっと流したけど…、ウシャールもシャリアも国の王だったんだよな?」
「そうですよ?」
「何があったら瀕死になるの? 絶対老衰じゃないだろう?」
「それですか? それはですね…。チヌリトリカがばらまいた呪いで国の人たちが徐々に錯乱しだして、最終的に、二人を迫害したからですね。逃れるために二人して南へ。その結果がさっきのです」
「そりゃまた…」
「…救いがないね」
「この時に息子は命を落としてますね。娘だけは、なんとか錯乱していなかった人々に守られたそうですけど…。この子がアークライン神聖国の生みの親ですね」
「そんな昔からあるのかここ」
「そうみたいですね。結局、二人の国は空中分解して、激動の時代を経ますが…。アークライン神聖国だけはずっとここにあります。戦争でも攻められたことはないそうです。全部1枚目の壁で止めてますね」
「そういう歴史があったのか」
「…それはいいけどこれからどうするの?ろくに情報なかったよね?」
首をかしげるアイリ。
「それでもまだ集めるぞ。今度は魔物とか料理とか…」
「そうですよね。まだ、そっちは触れてませんし。でも、明日は忘れないうちに買い物に行きません?今まで行ってませんでしたよね?」
「買い物?そうだね。いいよ。行こう。アイリの服も買っとこう」
「この蕾を入れる魔法の袋とかも欲しいですね…。置いてけぼりはなんとかくかわいそうですから…」
「じゃあ、決まったな。明日は買い物だ」
「今日は遅いですから、お風呂入って寝ましょうか」
「そうだな。今日は、先に二人からどうぞ」
「昨日も言いましたけど、私たちは時間かかりますから習君が先でいいですよ」
「そう?じゃあ、そうするけど…」
いいのかな?確認を込めてもう一回見ても、促された。
了解。とっととお風呂に入って、さっぱりして……、眠いから先に寝させてもらおう。
ベッドはシーツを取り替えてくれたのか、ものすごくいい匂いがした。