表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
2章 アークライン神聖国
31/306

25話 図書館

 「チーン!」エレベーターが一階に到着した音が鳴り響く。



「図書館はどっちだっけ?」

「え?確かあっちじゃなかったですか?」


 俺はもとより、四季もしっかりと覚えていないらしい。



 でも、仕方がないよね。だって、何故か廊下がいっぱいあって、どれがどこに行くのかさっぱりわからないもの。その上、廊下の装飾もまるで一緒…。ん?微妙に違うな。でも、わからない…。



 二人そろって頭を抱え。「よし、もう総当たりで行こう」と提案しようとしたとき、



「お困りですか?」


 と聞き覚えのある声が。声のした方を見てみると、メイドさんがニコニコした顔で立っている。



「はい。困っています」

「図書館がどこかわからなくて…」

「図書館ですね。わかりました。ついてきてください。案内いたします」

「「ありがとうございます。」


 俺たち二人は礼を言って、優雅に歩く彼女の後を追いかける。



「助かりました。声をかけてもらわなければ、総当たりで行くつもりでした」


 俺の言葉にメイドさんはきょとんとした顔になって、四季のほうを見る。



「そうです。なので助かりました」

「無謀なことをしますね…。この宿は許可のないものが許可の必要なところへ立ち入ろうとすると、魔術で迎撃されますよ」

「「えっ…」」

「フフッ。本当に仲がよろしいんですね。迎撃と言っても、警告が2回ありますから、それまでに引き返せば大丈夫ですよ」


 なるほどね。ひょっとすると、2回警告を受けている間に強引に突破できたりするのだろうか?しないけど。



「ところで、お名前をうかがっていませんでした。聞いても?」

「問題ないですよ。わたくしはドーラです。お気軽にドーラとお呼びくださいな」


 見るものを惹きつける素敵な笑顔だ。



「わかりました。ドーラさん。ところで、俺たちも名乗り返したほうがいいですか?」

「いえ、いいですよ。メイドですから存じ上げております」

「そうですよね」

「到着いたしましたよ」


 図書館は少女が言った通りすぐだった。途中でカクッと90°折れ曲がってしまっているから、まるで見えなかったわけだけど。



「中も案内いたしますね」


 ありがとうございます。ドーラさん。



 中に入ると、図書館だから大量に本があるのはわかっていたけれど、蔵書量に圧倒される。



「フフッ、どうです?すごい蔵書量でしょう?」

「はい、すごいですね。圧倒されました」

「一体何冊あるんでしょうか?」

「さぁ?わたくしも詳しくは知りませんの。ただ、歴史の分ほどは本がある。と言っても過言ではないです」


 壁一面、全てが本棚。その中にあふれんばかりの本が詰まっていて、それは天井まで続いている。これ、どうやってとるんだ?



 俺の疑問に答えるように、目の前にビュンと何かが現れた。



 ナニコレ?ドローンのように見える謎の物体は俺の目の前をふわふわと浮いている。俺たちが不思議そうに見ている様子を堪能したのか、ドーラさんが、



「それは専属の司書でございます。読みたい本があれば、自動で取ってきてくれる優れものですよ」


 と説明してくれた。なるほど。



「よろしく頼む」

「よろしくお願いしますね」


 その声に反応したのか2機のドローンは、まるでお辞儀をするように器用に体を動かした。その動きがなんともかわいらしくて、ほっこりする。



「そういえば、ここって禁書とかあります?」

「ありますが…。お二方には、特級の禁書以外は閲覧許可が出ておりますので…」

「なぜですか?」

「上からの指示ですね。ですので、わたくしにも詳しいことはわかりません」

「そうですか…」


 まぁ、読ましてくれるならそのほうがありがたいから、いいか。



「ところで、純粋な興味なんですけれど、特級の禁書ってどういうものなんですか?」


 と四季。



「そうですね……。代表的なものをあげると…、人を食べてしまう本や、ろくでもない魔法が載った本。もしくは、悪魔の類が封印されている本ですかね。この図書館にはありません。

大聖堂のほうで管理されています」

「大聖堂というと、隣の隣の?」

「そうです。名前はありません。ただ、大聖堂なのです。ここの本にはその理由が書かれています。探されてみてはどうですか?」


 探さなくてもなんとなく「名前を付けるのがただ面倒だった」とかそういう気がする…。



「ところで、あの壁は何なんですか?」


 俺は図書館の中央にある上部だけがすっぽりと空いた、鍵のかかった扉のついた壁を指さしながら問う。



「あれですか?あれは聖堂の方からやってくる利用者と出会わないようにするための壁です。」


 なるほど。となるとあの穴は、このドローンが壁向こうの本をとれるようにするためのものだろう。



「ほかに何かないですか?なければわたくしはお暇させていただきますが」

「ないです」

「私もないです」

「それでは、ごゆっくり。何かわたくしに御用があれば、エレベーターすぐ横の廊下を進んでください。何もなければ普段はそこにいますから」

「「ありがとうございます」」


 ドーラさんは見事な一礼をすると、これまた見ほれるようなターンをして、優雅に歩いていった。



「メイドさんに貴族らしさ、負けてますね…」

「元貴族設定だし…。どうせなら、もっと信憑性を出すために本気出す?多少見劣りするかもしれないけど…、ちょっとは「らしく」見えるはず」

「そうですね。やってやりましょう。見る人がいなくても、こういう細かいところはきっと生きてきますから」


 俺はなるべく力強く、堂々と。四季はなるべく優雅に、繊細に。



 そう見えるように気を使いつつ、椅子に座った。



 あ。でも、ドーラさんには二人して悶えているのを見られてるんだよな…。……人間味あふれる元貴族ってことでなんとかならないかな?



 そんな益にもならないことを考えていると、



「本を読みましょう。私は『チヌリトリカ』関係を見ておきますので」


 と四季。そうだね。目的はそれだった。



「じゃあ、俺は伝承を。帰還魔法があればいいけど…」

「紙渡しておきますね」

「ありがとう」


 できるだけ貴族らしさを意識しつつ、紙を受け取る。



 ……机を二人で二席占領してるから、既に貴族らしくない気がしないでもない。



 でも、大丈夫。貴族ならそんなことやってのけるでしょ。そもそも俺ら以外に誰もいないし、机もまだあるから問題ない。人が来たらどければいいさ。



「じゃあ…。勇者関係の伝承を集めた本を頼む」


 ドローンに声をかけると、ピカピカと発光してブーンと飛んでいった。今のは「了解」ってことだろうか。結構かわいい。



 かわいいものを見た……と思ってたら、ドローンはすぐに戻ってきた。



 馬鹿みたいな量の本を抱えて。



「ちょっと待って多い…」


 声が引きつっているせいで聞こえてないのだろうか。それとも、もう戻すのが面倒になってしまったのだろうか。どちらかは不明だけれど、ドローンは自分の体の大きさよりもはるかに上回る本を持ってきた。



 そしてそれらはまとめて「ズーン」という、およそ本を置いたときになるとは思えない音を立てて置かれた。



「多いな…」


 「ブーン」え?何で……って、またか!



「ちょ、おまっ!」


 第二便が「ズーン」と音を立てておかれた。机!机は……大丈夫そう。



 ドローンは……!フラフラと飛んでいってる!止めないとヤバい。



「もういいよ。ありがとう」


 声をかけると「疲れました」とでもいいたげに、机の上の邪魔にならないところまでフヨフヨと移動し、そこで停止した。



 四季のほうを見ると同じように本の山。



 ただ、あっちのドローンは「やり遂げたぜ!」といった様子。どうやらこの子たちにも個性があるようだ。面白い。



 ただ…。ドローンを止められなかったらどうなっていたんだろう。確実に机は壊れたような気がする。



 もしかすると、この子はギリギリを考えて持ってきてくれているのだろうか?……とりあえず、今言いたいことは一つ。本の数多すぎ。さすが、人間領域最大。



 さて、やりますか。気を取り直して、一番近いところにあった本を手に取る。ずいぶん適当にとったが、これでも山は崩れない。一体どう組んでいるんだこれ?



 まぁいいか。早速本を読んでいこう。



 アイリのおかげで『身体強化』を使えるようになったから、地球にいた時よりは格段に読むスピードが上がるはずだ。さすがにドラマで見たみたいにペラペラペラッ!と本を3回ぐらいめくって、はい、読めました……は無理だけど。



 それに近いことは今の俺にもできる。ペラッとページを開いて、見開きのページが全て目に入るようにする。そして、そのページの情報を一括で記憶領域にぶち込み、ページをめくっている間に処理する。処理は、今ならばまとめて軽く10ページはできる。見るだけだし。



 必要な情報があれば抜き出し、書名とページ数とともに記しておく。処理が終われば、それらの情報は記憶から抹消する。いつまでも覚えてられない。



 こんな方法だが、地球にいたときよりはかなり早く処理できる。極端に言えば、地球の俺が1ページ読んでいる間に、今の俺は10ページ以上処理できるわけだ。



 キビキビいこう。



 作業がある程度進んで、気になったので四季を見たら唖然とした。顎が外れるかと思った。



 あれは無理。少なくとも今は確実に。さっき言ったペラペラペラッ!×3で終了してる。どんな頭の構造してるんだ。



 ドローンも1 冊返している間に1 冊、下手したら2 ,3 冊山ができているからか、元の場所が近い本をまとめて返却することにしたようだ。それくらい早い。



 俺は戻ってきたら、1 冊読み終えているかどうかレベルなのに……。



 読み終えた本をすぐに片付けるのは、次の人に迷惑をかけないための処置らしい。この積み上げた山はどうなんだと言いたくなるが…。どうせドローンが取りに行くから問題はないらしい。



 ドローンが持ってきてくれた山を全部つぶし終わったら、ドーラさんが来た。



「そろそろ夕食のお時間ですが…」

「もうそんな時間ですか。戻ります」

「シキ様は?」

「あっちにいますよ。四季。ご飯だって」


 俺は本の山と化したテーブルの主に声をかける。



「わかりました。これで最後なので…。はい。オッケーです。じゃ、これよろしくね」


 四季が立ち上がり、ドローンに声をかけると、ドローンはピカッと光って了承を示した。ドローンが2台になっているのは…気のせいではないだろう。


「今の全部読み終わったの?」

「そうですね…。ちょうど全部終わったところです。もう少し遅ければ5山目に突入してましたね…」

「そ…。そう」


 どうやら四季の読むスピードは俺なんかよりはるかに速いらしい。



 ドーラさんと共に部屋に戻る。後姿はやはり気品にあふれている。もっと真面目に友人の母に教わるべきだった…。あの人、苦手だったんだよな。見ず知らずのあの人の親戚と結婚させられそうで。



 二人でぐぬぬぬ…、と心の中でうなっていると、優雅に可憐に振り返って一言。



「どうされました?」


 魅力的な笑顔付き。



 ダメだ。勝てない。これはまず、見本にして追いつこうとするのが正解な人だ。勝つためにはまずまねる必要がある。その次に動きを咀嚼して、理解する。そうしてから、洗練させる段階に移行する。



 そこまでしないといけない人だ…。友人の母と同レベルか!



 真似たとしても、俺と性別が違う。動きに求められるものが違うが、それは問題にならない。基本は同じらしいから。要は頑張って可憐さを抜いて、力強さとかを出せばいいのだ。



「いえ、何もないですよ」

「はい」

「そうですか?では、わたくしは晩御飯を持って行く準備がありますので」


 急ぎ足ながらも、どこか凛とした雰囲気を漂わせながら去っていった。



「あの人、すごいですね。なんでメイドさんをやっているんでしょうか?」

「だからじゃないかな?宿で最高級の対応をするために」

「ああ、なるほど。それでですか。さっき、図書館で本気だしましょう。と言いましたけど、全力でやらないとだめですね」

「そうだな」


 二人で決意を固めていると、タイミングよく、「チーン!」と音が鳴る。



 殊更に心を込め、動きに気を付けながら移動。そういえば、近くに女性がいればエスコートするんだよな……。



 手をスッと差し出せば、四季は受け取ってくれた。そして、しずしずとエレベーターから降りる。



 アイリはトイレにでも行っていたのか、別室から出てきた。そして俺たちを見るなり一言。



「…頭打った?大丈夫?」


 ずっこけて二人、互いの頭で頭を打った。痛い。なんでそうなるんだ…。



 頭をさすっていたら、ドーラさんがやってきた。



 晩御飯。今回はフランス料理のフルコースみたいなもの。オードブルから始まって、スープ。魚、肉、メイン。サラダとドリンク。デザート付きの物。



 中学時代のテーブルマナー講座で食べたものと一緒の構成だからあっているはず。ただ、まとめて持ってきてくれたけど。これはフルコースっていうのだろうか?



 昼よりもさらに気を使いながら食べた。気を使っていたら味がしない……なんてことはなかった。アイリにしか見せないし。



 あ、そうだ。アイリに事情を説明しないと。かくかくしかじか、



「…なるほど。わかった。そういう理由ならさっきのエレベーターのかなりいいね。…わたしの本気より少し上かな?悔しいけど…。それと…、食べ方もわたしより綺麗だね…」


 褒められた。近衛のアイリが言ってくれているからそんなに変じゃないと思う。



 料理は美味しかった。ただ、夜でもお酒は飲んでない。酔ったら面倒だ。だから超高級紅茶。



「お風呂入ろうかと思うけど、先に入る?」

「私は絶対習君より時間がかかると思うので、お先にどうぞ。今日のリストを整理しておきます」

「了解」


 とっととお風呂へ。昼も見たけれど、お風呂場はかなり広い。一人だと寂しいくらいに。でも、泳がない。



 でも暇なのは事実。深すぎるところはないか歩いて見て回ろうか。



 歩けばざざっと波が立つ。浴槽中を歩き回っていると、それだけでのぼせてきた。大丈夫そうだし、上がろう。



 上がって、服を着て、四季に声をかける。すると四季が蕾をもって立ち上がり、そのまま風呂場へ向かおうとする。



「それ持って行くの?」

「はい。何となく持って行ってあげようかと思いまして」

「なるほどね。やりすぎに気を付けてあげてね」

「わかってますよ。アイリちゃん行きますよ」

「…ん」


 二人して浴室へ。アイリがシャイツァーを持って行っているのが、なかなかシュール。仕方ないんだけどね。



 さて、二人がいない間に今日の成果をまとめよう。



 今日の成果は図書館の情報をまとめたリストとアイリの日本語力の向上。この二つ。



 明日はまず、まだ見ていない本を読んでリストを埋めきる。それからその情報を詳しく見ていこう。



 アイリにはもうちょっと難しめの日本語を渡しておこうか。レベルとしては…、小学校3年生ぐらいかな?詳しくはわからないけど。漢字や四字熟語、ことわざも含めて渡しとこう。



 四季が紙を大量に置いていってくれたから、リストを整理するのにも、アイリに作ってあげるのにも困らない。



 二人が出てきた。寝て起きたら魔力は回復する。もったいないから紙を作る。



 字を書いていると、四季のさらさらとした黒髪が目に入った。先ほどまで「ブワー」という音がしていたから、ドライヤーもどきで乾かしていたんだろう。



 あれ?これ、普段どうやって処理してるんだろう?



「四季、髪の毛の手入れって普段、どうしてる?」

「髪ですか?『風』の紙あるじゃないですか。あれで、ブワッと」


 かなり雑だった…。



「気づかなくてごめん。今からでもそれ用の紙作る?」

「お願いします」


 一切苦労せず書けた。『ドライヤーの温風』だ。



 字はアイリが提案してくれた。今まで似たようなこと何回もやっていたけど……出ないときは出ないからなぁ。



 出来た魔法は俺的には少し強い。でも、四季にとってはちょうどよかったらしい。髪を風になびかせて少しの間嬉しそうにはしゃいでいた。



 可愛かったので、止めそびれた。



 その後、就寝。思った通り俺らが全員乗ってもかなり余裕。ていうか、余裕すぎる。ここまででかい意味が分からない。



 離れて寝ようとしたけれど、なんか変。全く寝付けない。何だろう、こう…、うまく説明できないけど…。寂しい、のかな?



「なあ」「あの…」「…ねえ」


 3人の声が重なった。たぶん、要件は一緒。ここはアイリに任せよう。



 二人してアイリに続きを促す。子供を尊重するように見えて、実態は子供に押し付ける両親の図である。これはひどい。



「…いつもみたいに寝よう?」

「そうだな」

「そうですね」


 いつものように川の字だ。アイリが言ってくれて助かった。言ってくれなかったら、また、寝るのが遅くなってた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ