おまけ3 続シュウキ湖上国開発会議
「食糧をどうするかに関してはまず、どういう食糧があるか?が大事だよね。だから」
「文の出番だね!まっかせてへらん!」
…謎言語ぶち込まれるとちょい不安になるんだよねぇ。有宮さんなら大丈夫だろうけど。
「といっても、そこまでぶっちぎったものにはしないよ。とりあえず、第一に考えるべきなのは文が死んでも持続すること。次点で、生態系に流出しないことだと思ってるんだけど、この辺は皆、了承してくれる?」
かな? 味とか栄養とかは高い方がいいけど、食糧確保……つまり、その植物に食糧供給を依存するなら、有宮さんが死んでも続いてくれないと困る。そして、魔法を使う以上、それが外に出てやばい影響を引き起こされても困る。バイオハザードを引き起こす余地は可能な限り潰さないと。
「よしよし、であれば、ちょい待ってね。作るから」
了解。あ、でも、有宮さんのシャイツァーってどれくらいの時間がかかるものだっけ? 割とすぐだったような気がするけど、元になる種がいるとか、そういうのだったような。
「かんせー!てってれてってっーてー!トヨクシヒメー!」
言い方が完全に例のあれ。そして、手を掲げているのは良いけど、小さいのか見えない。
「見えないぞ。有宮」
「すまねぇな!ケンゾ!えっと、見えるように机の上に……いや、いいや。しゅー!しーちゃん!」
「何をして欲しいのは分かるけど、投げないで」
「どっかに飛んでいったらどうするんですか…」
幸いなことに机の上に着地してくれたけども! でも、言ったけど、案の定、反省の色はあまりない。
とりあえず、みんなの前に映そう。ホワイトボード出してるし、その下で良いや。
「見てくれたらわかると思うけど、それはお米を収穫したときのやつ!種もみだね!日本人なら、やっぱりお米でしょ!ってこと。後、お米は水稲……日本でよく見る水田ね。あれで育てるならほぼ連作障害が起きないから、限られた土地で生産するには向いてると思う!そんなわけでお米をベースにしましたん!」
連作障害はめんどくさいからね…。同じ土地で育ててると徐々に生産量が減っていくアレ。ヨーロッパで二圃式だの三圃式だの混合農業だのが生まれた原因。
「うん?じゃがいもじゃねぇのか?」
「のんのん!じゃがいもは確かに、単位面積当たりの生産量がすごいけど、あいつは連作障害が起きやすいよ?うんうん、わかるよ、ケンゾ。回避できる方法はあるんじゃない?って顔してるもんね。わかるわかる。確かに、じゃがいもに好んで病気を起こす菌が集まりやすくなるから、土壌消毒してあげるとか、栄養バランスがじゃがいもの好む成分ばっか取られて崩れるから、補ってあげるとかすればマシになるよ。なるんだよ。でも!そんな管理、文らが死んだ後で、出来ると思う?多分、無理だよ。アイルランドの悲劇を引き起こしてはいけないんだよ!だから、連作障害に強い稲が最強だと文は思うの。思うんだよ!」
解説の圧が強い……!
「有宮嬢。聞きたいんだが、穀物生産は米だけに頼るつもりか?」
「もちもち」
「であれば、先に出てきたアイルランドの悲劇……あれの原因はジャガイモに疫病が蔓延して収穫が死滅したからだ。単一作物に依存する限り、疫病の蔓延のリスクは避けられんぞ。他に米がかかる病気にかからない作物を作った方が良くないか?」
「でも、それをすると連作障害が避けれないと思うんだよね。だから、極限まで病気に強くしといたよ。5段階評価で言うと6くらい」
5段階評価とは? 上限突破してるんだけど?
「あ、みんな。文が馬鹿だと思ってる?」
「あぁ!」
「ケンゾは後でしばくけど、それくらい病気に強くしたってこと。ついでに冷害とか乾燥とかにも強くして、安定して収穫できるようにしておいたよ。その分、味だけはちょっとだけ落ちるけど……。それでも、文が魔法を使ってやったからね。日本の最高級品には負けちゃうけど、高級品には負けないレベルの味ではあると自負してる!そうじゃないとトヨクシヒメなんてつけない!」
てことは、そのお米の名前の由来は神様でほぼ確定かな。なんやかんやで有宮さんもそれなりに信仰心というか、恐れ多いって思う心はあるし。後、後ろ四文字が分かりやすすぎる。
「天照大御神のお食事を担当されている豊穣神、豊受大御神と、某ゲーのおかげか知名度が高い稲田の神様櫛名田比売の二柱から名付けましたね?」
「いえす!さすがしーちゃん!で、連作障害と選んだ理由については良いと思うの。バイオハザード対策だけど、この土地を利用することにした!」
つまりどういうこと? と聞く前に、すらすらと有宮さんの口が言葉を紡ぐ。
「ほら、ここって神様が作った土地でしょ?それに、神域の入り口たるあの大神殿があるから、あそこから神気が漏れ出してる。それがないと育たないようにしといたの!栄養が足りなくても育つとか、乾燥に強いとかはその辺のおかげ!」
なるほど。でも、
「それって重要な欠点があるよね?他の神気が豊富なところに種もみが流れ着いたら、その強さのために成長しない?」
「…かもしんない。だから、しゅーとしーちゃんに申し訳ないけど、封殺できるような処理をお願いしたい」
あぁ、特別な処置はいるのね。でも、そっちのが安心ではある。放置してOK!とか、ろくなことにならない。
「では、私からもう一点、神気を利用するとのことですが、それによって食べる人への影響はないんですか?」
「皆無にした。この子が神気を吸入したら、即座にこの子が必要なものに転換されるよ。もし、ちょうど神気を吸収したタイミングで稲が刈り取られたとしても、それならそれで神気は排出されるから残留はしないよ」
うん、それなら平気そう。
「有宮嬢。水はどこから引くつもりだ?」
「ニッズュンがあるんだから、そこからでいいかなって。水を引き込む時、要らないモノを除くためのものとか、排水時のバイオハザードを防ぐためのものは悪いけど、かおるんに頼みたい」
「ふむ。任せろ。それは姉の領分だ。むしろ、やらせてくれ」
薫さんが目を輝かせてる。そんなにやりたかったんだね…。
「森野氏。清水嬢。材料がない場合、魔力や神気で代用することは構わないか?」
「魔力は良いけど、神気は駄目。神気を材料としか見なさなくなったら、終わるから」
「……その懸念があったな。すまない。姉にも異論はない」
さすが、薫さん。理解が早い。
そう、「神気があれば何でも作れるんじゃね?」なら、いいんだ。けど、そこから「なら、神気搾り取るために神様捕まえようぜ!」なんて発想になったら、目も当てられない。そうなったら最後、その発想に至った生命体をラトに滅ぼしてもらうしかない。
どうせ、ラーヴェとシュファラトは出来ないから。
「稲を活用するって流れなのは分かった。が、稲を使うってことは室内でやる感じになるか?」
「室内だと狭すぎてわろりんぬだから、文的には道をべりべりってはがして、水中に構造物を作る感じにするか、いっそ異空間を作るかにして欲しい。あぁ、その兼ね合いもあるから、太陽は要らないぜぃ。純粋に、魔力だけでも育つべ」
「てことは、次に議論するのはそれだね。上の建物を残すのは確定。だけど、そうすると土地が足りない。その土地の確保をどこまで許容するのか」
「また適当に案を出したので、選んでください。よさげなのあれば、そこに勝手に加えてくれてもいいです」
選択肢は地下(湖中)と、地下(湖底含む)と異空間。手間的には異空間が一番手っ取り早くて、湖中、湖底。さて、結果は……。
「湖中が優勢か」
「ですね。逆に一番人気がないのはネタで追加されてるであろう選択肢を除くと、異空間と」
だね。何で一票も入ってないんだろうね。空中とか船の上とかさ。提案したならいれるのが普通なんじゃないの…?
「この結果には納得かな。異空間は土地を無限に確保できるけど、維持をどうするかって問題があるしね」
「それに、異空間に頼りきりになって、際限なく開発する可能性もありますから」
俺らが生きていればいくらでも異空間は開ける。けど、死んだら、たぶん無理だ。アイリは出来なくもない気がしないでもないけど…。アイリのシャイツァーは既にあるものと既にあるものを繋ぐって性格が強い。ないものを生み出すのはあまり得意じゃない。
「あれ?維持は出来るんじゃないの?」
「光太の言うとおり維持は自動で出来るよ?俺らの魔力じゃなくても、世界から引っ張ることは出来るし。でも、」
「あれって、新しく世界をくっつけてるようなものなので、恒久的に置いとくのって世界に負担かけることになるんですよね」
地球の家の地下には異空間作って、俺らの家を置いてあるけど……あれは俺らが継続的に魔力払って持続させてるから、世界への負担はそうでもない。それ以外には恒久的に置いてる異空間ってのはない。必要な時に適宜、作って潰してるし、作る時は世界に負担を回さず、自前の魔力で負っている。
「だから、結構、気を使わないと駄目なんだよね」
「さらに、異空間に頼るとなるとこの狭い国土面積ですから、入り口が密集するわけでして…、どう干渉するかわかんないのですよね」
異空間の入り口同士がひっついてビックバン! とかもう目も当てられないし。
「湖底までが人気ないのは何でだ?」
「多分、異空間が人気ないのと一緒。岩盤を切り開く必要はあるけど、下にいくらでも行こうと思えば行けるからね…」
「拡張の余地があるなら、拡張してしまえ。なんて脳筋手法をされて、この星を壊されてもかないませんし」
後、下に行けば行くほど、建造物に負担がかかる。大崩落の恐れがあるのは……ねぇ。
「上下どっかで区切ったらあかんの?」
「せやんな、兄ちゃん?無限に長い円筒なんて、電磁気か熱力の問題やあらへんねんし」
「それはどこで区切るか?ってのでまた別の問題が出るんだよね」
「後、今、ある障壁は街を覆うように球形になっているのですが…、それを変更してしまうと「変更した」という事例ができてしまいます。その結果、障壁を拡張して土地を確保して…という流れで乱開発を招きかねないのですよね」
拡張するのは結構。だけど、際限なくってのは避けたい。リソースを食いつぶすから。
「てことは、聞くまでもなく、あれじゃん。この国、人口をあんま増やす方針には出来ぬな?」
「じゃな!」
「そうなるね」
百引さんと有宮さんの語尾がおかしいけど。
「そして、球形に投票した人はそもそもその心意気でしょう」
四季の言葉に頷いてくれてるしね。
「宗教的権威が一番ある国なんざ、変に夢見て助けてーってくる奴が多そうだからな。んなもん、全部拾ってられねぇよ。だったら、最初から土地ないから無理です。とかで拒否るほうが楽。そういうこったろ?」
「「うわー、拓也君非人道的―」」
「こっちの世界に人道なんざないのでセーフ」
「「それなー」」
その反応をするなら何で言ったし百引さん、有宮さん。
「うわっ、みんなの目が冷たすぎ……。まさか、人の心がない!?だから、そんな酷いことが……」
「ブーメランだぞ」
「そんな!?文は難民なんて全部、燃やしちゃえとしか思ってないのに!」
「一番、過激では?」
謙三の言葉に同意。何で殺してるの…?
「いや、着の身のまま放り出して、魔物どもに食われて栄養になって魔物が強くなることを考えたら、そっちのが良くない?」
「それするくらいならちゃんと追い返すよ……」
さすがに……ね?
「ん゛ん゛っ。とりま、決めたこととしては、上のガワは弄らない。開発は球状障壁の内側だけ。第三次産業に依存しつつも、食糧とかは魔法活用して得れるようにしとく。で、人口は積極的には増やさない!で、いい!?」
逃げた。でも、まとめてくれたのはありがたい。
「そうだね。増やすとしたら、政のために必要な各国から来てくれる人とその家族。それと、宿屋とか待ちの施設に必要な人とか商会の人間とかの必要な人を推薦でもらう感じだよね?」
これで人口は抑えられる…はず。
「それだと不十分だぞ。習。私らが拒否ったから、貴族は二人以外にいない。だが、政を回す人間は重要人物だ。そいつらが自由に外に出て機密を喋れるとマズいぞ?」
「咲景さんの言う通りですね。なので、契約で縛ります?」
「の方がいいだろう。だが、私らは人口の抑制をしたいんだろう?なら、働けなくなった場合はどうする?いずれ、あっちのように働けない高齢者だけが住んでいるという事態が起きるぞ。その場合、どう対応する?」
それは……どうしよっか。「働けないなら出て行け」は合理的と言えば合理的。だけど、あまりにも冷たすぎる。
子供たちに冷たいって言われるような国を渡したくはない。問題を先送りにするのもなんだし……。かといって、全ての人を助けるようにしてしまえば、この国ひいては子供達への負担がデカすぎる。何より、俺らが一番避けたい、自分で何とかしようって意思のはく奪を招きかねない。
この国にさえこれば助かる。なんて、セーフティネットとして最強だろうが、確実に堕落する。だから、土地を無制限に確保するのはやりたくない。
「別に、ぶん投げちゃってもいいんじゃない?そも、私らが全部解決しとこうってのがある意味、傲慢なんじゃない?」
「おー、アキ。いうこと言うねぇ!でも、文もそう思うよ!いつの時代だって、大人が好き勝手やって、その負債かいいことかはわかんないけど、それを子供世代が払うって構図なんだし。資源を野放図に使おうってんじゃないし?いいんでない?」
「…ん。二人の意見には少し言いたいことはあるけど、同意。何も、お父さん達やわたし達世代だけで全部潰す必要はないと思う」
確かに。一理あるかも。他のうちの子ら……は、分かって無さげなルナ以外は同じかな?賛意に差こそあれ。
「そもー、全部解決しちゃうとー、後の子らが成長するー種が無くなるよー?」
「私個人としましては、私達が予期しない問題が発生するとは思うので、潰してしまってもよいとは思いますが…。難しいところですよね」
だね。うーん、でも、なんとなく投げる方針に寄ってるっぽい。であれば、
「完全に呑み込めてる人ばかりではないだろうけど、その方針で行く?」
「しかないだろうな。姉はそれで構わんが」
薫さんが言葉を発すると、みんな程度に差こそあれ、頷いた。よし、なら、それで。
「では、この方針で行こう。人はルキィ様達、人間、獣人、魔人領域のお偉いさんに頼んでまわしてもらおう」
「エルフ領域は、戦闘ばかりで戦闘力以外はアレでしょうから、頼まない方針でいいですよね?」
「いーよー!」
ハイエルフのカレンが言うなら大丈夫かな。なら、今日は解散!
『アイルランドの悲劇』
別名 ジャガイモ飢饉。当時の人口の1/3が餓死するかアメリカに移民として流出した。
『電磁気か熱力』
物理の問題で無限に長い導線」や「無限に長い箱」をがたまに出る。
お読みいただきありがとうございます。
今回のおまけの投稿はこれで終わりです。次はまた思いついた時になります。