259話 シュウキ湖上国
「なぁ、本当に俺らでいいのか?」
「それ何回目か知らねぇけど、同じ答えをくれてやろう。勿論さ!」
白いタキシードに身を包んだタクのサムズアップに合わせ、同様に白いタキシードで正装した男子クラスメートが頷く。
「正直、王とかやりたくないんだけど?」
ニッズュンの上に浮かんだままのラーヴェやシュファラトが作った街。その存在をなんとかし忘れていたから、国を興さなきゃならないのはわかるけどさ…。
「しゃーねぇだろ。土地がある以上、誰かが管理してねぇと、争いのもとだぜ?」
「それを言ったのは俺らだけどね…」
人間、獣人、魔人という三領域に囲まれたところに突如湧いて出た土地。誰かが管理しないとまずいよね! そういったのは俺ら。でも、だからって、ポイって全部俺らに投げる?
「逆にお前ら以外に誰がいるんだよ。勇者って肩書は共通だが、前世が有名な名君。この世界の主神が混じってる。かつ、ファヴェーシュウキラトの誕生に絡んだ。この名声には勝てねぇよ。なぁ、光太、賢人?」
目を向けられて一、二もなく頷く二人。
「そもそも、僕らのカリスマは二人には勝てないし…」
「だな。というか、とっくにお前らの名前で招待状を出しただろう?諦めろ」
「そうだそうだ。ていうか、ルキィ様、リンヴィ様、ナヒュグ様にも支持されてんじゃねぇか、諦めろ」
そこに実質エルフ領域トップのカレンの支持もある。でもなぁ…。皆、貧乏くじだと思ってるんだろ?
「「「勿論!」」」
恨めしそうな目で俺は皆を見たはずなのに、まぶしい笑顔で答えられた。
「だから「諦めろ」なわけだぞ」
おうふ…。
「じゃあ、それはいいとして。国名はどうにかならない?」
「変えたければ変えろ」
…うん。無理だね。ニッズュン、ファヴェーシュウキラトは子供たちに却下された。前者はニッズュンだと昔の湖のイメージを引っ張って新時代っぽくない。後者は長いし、不敬。
国名なんかに思い入れなんてない。試しに聞いたら出てきたのがこれ。変えれない…。
「子供たちが二人の名を後世に残したがったんだろ?なぁ?」
タクの視線の先でガロウとコウキが頷く。
「あー。何も言わないでね。ただの愚痴みたいなものだから。ごめんね」
申し訳なさそうな顔はさせたくない。とっくに頷いたこと。それで子供たちに申し訳ない気持ちにさせたくない。
「万一、二人の名前を忘れちゃったとしても思い出せるように。転生して全部忘れても何か感じられるように。俺と四季の名前をほぼそのまま使ってほしい」…と言われてうれしかったのは事実なのだから。
「この話はやめよう。もう一つだけ確認。本当に永代貴族じゃなくていいのか?俺らが永代なのに皆が永代じゃないのは、勇者として不公平感があるんだが…。あぁ、タクは別な。お前は絶対に一代だ」
「ん?なんで俺は別?」
は? お前、マジで言ってるの?
「え。なんで皆、そんな顔…」
「ルキィ様」
「うぇっ!?ちょっ、習!?なんで言ってくれてるの!?」
「安心しろ、言わなくてもお前がルキィ様に気があること、そして逆もまた然りなことくらい全員察してるわ」
「うぇっ!?」
思わず見渡すタク。が、目が合う人全てがこくっと頷く。てか、今回、その絡みもあるしね。少しタクには申し訳ないけれど、ルキィ様の希望だしな。
「ルキィ様の夫──王か王配──になるなら、永代爵位なんて邪魔だろうに」
こっちが内政干渉しようと思えばできてしまうし、逆もまた然り。
「っていうのは、俺が言うまでもなく言っていたはずだが?」
何を呆けてるんだこいつ。
「察されているとは思わなんだ」
「タクのは有名だからね…」
「おまいうだぞ、光太ァ…」
「?それより、話を戻すよ」
本気で分ってない。でも、全員、光太には天上院さんがいるって確信してる。二人の関係が謎過ぎる。謎過ぎて誰も聞けない。
「永代爵位はいらないよ。僕らの子供が優秀かどうかわからないしね…。ねぇ、賢人?」」
「あぁ。万一、反乱を企まれると面倒だ。長寿命なカレン、ガロウ、レイコがいるから、容赦なく潰してもらえるだろうが…。手を煩わさせたくはない」
あの子らは気にしないだろうけど…、気持ちは受け取っておこう。
「何よりこっちとあっちの世界の行き来は基本、国王一家に頼む必要があるからね」
「王の手を煩わせるのに永代爵位。王が軽く見られる」
「そのうえ、貴族が多いと体制変化はしにくい。長寿な子らがいるなら、トップダウン体制のほうがいいだろ?」
それはそうなんだけど…。俺と四季が気絶している間はもちろん、目覚めてからも、世界中駆けずり回ってチヌリトリカ復活であふれ出した魔物討伐してくれてた。それを踏まえると永代のがいいと思うけれど…。「絶対嫌!」という気持ちが伝わってくるから要らないんだろうな。
「それはそうと、習。お前もタキシードなんだな」
「正式な場だからな…。本当に、なかなかカオスだよね」
俺の服は真っ白なタキシード。王の正装が白タキシードってのに違和感。…ファンタジー作品の見過ぎってわけではないはず。
「今回のは?」
「子供たちが選んでくれた。四季に見せるのは今日が初」
四季も同じく子供たちセレクト。だから、俺も四季がどんな服を着てくるか知らない。絶対、綺麗だと思う。綺麗な確信があるから、挙動不審にならないか不安だけど、それ以上に楽しみ。
「子供たちは?」
「俺と四季が選んだ。ここにいるのは男子だけ。ガロウとコウキしかいないけど、かっこいいだろ?」
ガロウは黒いスーツ。髪の銀色と対照的でよく映える。ネクタイの青、ハンカチーフの薄紫も相まって、うまく調和してる。
コウキも黒スーツだけど、髪色を考えてちょっと薄めの色。それだと黒が多いから、ネクタイを割と鮮やかな赤に。ハンカチーフとベルトの色も弄って、単色になりすぎないようにした。
「あぁ、かっこいいな。だのになぜおまえは自分の服を選ぶと壊滅するんだ…」
「うるせぇ」
それは俺が一番疑問。何でなんだろうな…。
「この子らが正装…白タキシードじゃないのは何故だ?王の家族として出るなら正装のがいいんじゃないのか?」
「子供だからな。まだ正装でなくとも構わないだろ?それに、壇上が白一色だとまぶしい」
チラチラして目が休まらないと思う。
「なるほど。あ。センは?女の子らと違って着替えててここにいないわけじゃないと思うんだが、どうするんだ?」
「セン?あの子もおめかししてるよ。パレードに出るために。あ。悪いけどあの子に魔力あげるのにこの紙、持って行ってあげてくれない?」
そろそろお腹が空いているかもしれないから。
「ん?別に構わないが…。ガロウやコウキが行ってあげた方がいいんじゃないか?」
ちっ。こんな時に正論を。
「ごめんなさい。俺はレイコを見てないといけないので!」
「僕はミズキを見てないと…」
「うん?理由が謎だが、二人がそういうなら、そうなんだろう。じゃあ、行ってくる」
「すまん。お願い」
……よし、行ってくれた。これで頼み事は果たせる。
「ごめん。父ちゃん。割とやばかった」
「いや、こっちこそごめん。ガロウ。フリが急すぎた」
「自分でもどうかって思うくらい、言い訳がかなり雑だったけど、行ってくれたからいいってことにしよう?」
だね…。次はないだろうが、似た状況ではもうちょっと自然な振り方をできるようにしよう。
「男性方、女性陣の準備ができました」
メイドさんが言いながら開けた戸から出てくるウエディングドレスを着たクラスメート。全員真っ白でかわいらしい人もいれば、綺麗な人もいる。のはいいけれど、四季は?
「…お母さんはまだ」
「了解。ありがとう。アイリ」
侍女さん達の気合が違うのかな? 王妃だし。俺もみんなより時間かかったし…。
「どうです、光太?似合ってますか?」
「あぁ、雫。似合ってるよ。僕も似合うだろ?」
「えぇ。お似合いですわ。光太」
見せあいっこしてるのに全く照れていない二人。褒められてうれしそうな顔をしているけれど、そこに羞恥心が全くない。ほんとに関係性が謎。
「おぉ、青釧さん、めっちゃ綺麗やな!」
「ほんまやな!兄ちゃん!青ちゃん、めっちゃ綺麗!」
「あ、ありがと。褒めてもらえて嬉しいわぁ」
光太たちの横で座間井兄妹に褒められて、青釧さんが珍しく恥ずかしそうにはにかんでる。
「家、家」
三人の奥で、蔵和さんが芯にぐいぐいせめよって壁際に追い詰めてる。家は英語で”home”。そのまま読んで、褒め(ろ)…と。照れて直視できないからあのザマか…。
「海!海!」
海を英語で”sea”。発音つながりで”see”。「見ろ」と。
「海、海…」
元気がなくなって寂しそうになってる。今にも泣きそうだ。
「あーもー!ごめん!めっちゃ可愛い!可愛すぎてこっちがなんか恥ずかしい!」
花が咲き誇るようにパッと笑顔になって芯に飛び掛かる蔵和さん。ウソ泣き…ではないな。あの人にそれは出来ない。壁にたたきつけられてるけど芯も嬉しそう。末永く爆死しrぐえっ。
「あしょべ!」
「あー。ごめん。ルナ。服がぐちゃぐちゃになると駄目だから遊べない」
「むー!」
ごめんね。頭を撫でてこれで許してもらおう。……うん、ご満悦。それで誤魔化されてくれるんだよなぁ…。あぁ、この子らが四季の準備はまだなのにこっちに来たのはそのせいもあるかな?
「…正解。お母さんとルナが遊ぶとぐちゃぐちゃになっちゃいそうだったから…」
間違いないなさそうだね。ルナの衣装は白いワンピース。飾りがない状態だと上半身がぴっちり体に合うけれど、下がゆったり…というもの。それにレースやフリルをつけて豪華に。豊満な胸のラインによる大人っぽさが内面と合わないから、見えないようにレースの花で覆い、子供っぽさを強調してある。その花も淡いピンクや黄で色づけてあって、可愛くて綺麗に仕上がってる。
けど、暴れられると落ちかねない。四季の服も破ると大惨事。俺の方がまだ融通が利く。
「うん。ありがとう。アイリ、皆」
「…ん」
うらやましそうだから、皆もちょっとずつ撫でておこう。
アイリの服はアイリの目の色と同じ赤。
「アイリ。目は赤のままでいいの?」
罵声を浴びせてくる馬鹿は吊るせるが、畏怖の目を向けられるのは仕方ない。まだエルモンツィの恐怖は拭い去れていないのだから。ダメージを受ける可能性が否定できないのだけど…。
「…ん。ありがとう。大丈夫。…わたしはわたし。偽りたくはない」
了解。なら、いい。アイリも撫でておこう。…どことなくご機嫌だ。
アイリの服は、俺みたいな専門家じゃない人が思い浮かべるゴスロリ服。純粋な赤ではなくちょっと黒によっていて、裾の方に黒で2本くらいラインが入っている。それがぱっと見幼く見えるアイリを実に可愛らしく仕上げてくれている。アイリと面識のない人が見れば、お人形さんに見えるかもしれない。
「…ありがと。お母さんも、お父さんと同じことを聞いてくれた。…わたしはそれがものすごく嬉しい」
ご機嫌だった理由はそれね。笑うとどことなくあった神聖さが崩れてますます可愛らしく見える。
順番待ちしているカレンも同じく可愛い系。騎士服とかも合いそうだけど、場面に合わない。だから、全体に花があしらわれた可愛らしいライトグリーンのワンピース。頭に飾られた白いユリとの相性がいい感じ。
レイコはガロウがいるから、白のウエディングドレス…でもよかったけれど、ガロウが白タキシードじゃない。だから、装飾を減らして落ち着かせた橙のドレス。飾りの色、ドレスの色、レイコの毛の色がうまくかみ合っていて、大人の階段を上り始めたこの頃の子特有の魅力が出てる。
ミズキはレイコと同じ年頃に見えるけれど、レイコよりしっかりした印象の外見だから、ちょっと綺麗さ優先。紺色のワンピースと、手に白いグローブ。紺と白が落ち着いた感じを与えてくれるけれど、ワンピースについた少し強調されたフリルの段々が、可愛らしさを与えてくれている。
「習。そろそろ時間だから、先に行っとくね」
「了解。また後で」
俺と四季の出番は式典が始まってから。貴族の叙任式? みたいなのをしてから、この国の国王陛下夫妻の登場…だったはず。堅苦しく待たなくていいのは楽だけれど、この国を治めなきゃならないことを考えると…、役得ではない。
「これも何回目かわからないけれど、俺らが死んだ後、めんどくさかったら去ってくれていいからね」
俺らが死ぬ前に、この子らが離れるとは思わない。だからそれはいちいち聞かない。…というか、聞く前に言われた。
だけど、死んだあとはわからない。さすがに死んだ後も縛り続けたくはない。カレンやガロウ、レイコにルナ。長命種の4人がいてくれて楽…みたいな雰囲気も一部にあるけれど、そんなこと知ったことか。
「…ん、わかってる」
アイリの声に続いて、全員が頷く。それならいい。
「お待たせしました」
声のしたほうを見ると、純白のウエディングドレスを美しく着こなす四季がいる。
「どうです?」
はにかみながらその場で一回転。
肩付近からピッチリ四季の体のラインに沿いながら下がり、腰のあたりでラインを無視してふわっと膨らむ。概形はルナのとよく似ている。
ピッチリした部分では、ところどころに織り込まれたレースがドレスの豪華さを増している。背中付近ではレースだけでドレスを構成することで隙間から僅かに肌色が見え、体のラインが見えることも相まって、四季の大人な魅力を増している。
ふわっとした部分では、ドレスそれ自体やレース、リボンが花を作り、王妃としてみたときのドレスの上半身部分の物足りなさをうまく打ち消している。
手には肘から指の付け根まで覆う白いグローブが装着されていて、上品な印象を与えてくれ、グローブのない部分に嵌められた右手薬指に輝く指輪がよく映える。
そして、何層にも重なった純白のベールから覗く四季の美しく、艶やかな顔。リップに彩られた鮮やかな唇も、玉のように滑らかな肌も、少し潤んだような瞳も、滑らかに輝く黒い髪も…どこをとっても愛らしく、写真にとっておきたいくらいだ。
「……あの、習君?」
「あ、あぁ。ごめん」
思わずぎゅっと抱きしめてしまった。でも、離れない。離したくない。
「四季、誰にも見せたくないくらい、本当に綺麗だね」
「しゅ、習君も独り占めしたいくらいにカッコいいですよ」
ちょっと赤くなった顔で、恥ずかしそうにそんなことを言う四季。ほんとに、可愛らしくて、綺麗な嫁さんだ。
「でも、残念ながらそうするわけにはいかないわけで」
「ですね…」
そろそろ時間のはず。離れて互いの服装をチェック。互いの変なところをさっと直す。
「両陛下。お時間です」
タイミングバッチリ。さ、行くよ。部屋を出て、少し改築された神殿へ。シュガーのいた部屋の最奥、そこに直接つながるように壁を壊した道、そこの部屋からは見えない場所で待機。
「カチェプス教皇のご案内に従ってお入りください」
何やってんですか、カーチェ様…。なんで人間領域最大の宗教国家のトップがぽっと出の国の戴冠式の司会してるんですか…。
「それでは、新たな国の王と王妃、そのご家族に登場いただきます」
結構喋っておられたはずだけど、もう出番。開かれた戸から、かつて俺らが二度戦場にした部屋へ。ファヴェーシュウキラトの住処へつながる最奥の壁画。その前にある少し高いところへ俺と四季が上り、子供たちは少し後ろの一段低いところで並ぶ。
「それでは、王、王妃。冠を」
普通、戴冠式って冠は誰かに被せてもらうものだった気がするのだけど、その役目を担ってくれそうなカーチェ様が跪きながら二つの冠を差しだしてる。
なら、仕方ない。俺がティアラを、四季が王冠を持ち、互いにそっと被せあう。身長がほぼ一緒だから、かがまずともできる。
「ここに新たな王が誕生いたしました!祝福を!」
正解だったっぽい。俺らの今日の仕事はこれで終わり。後は悪巧み。
「皆様、ありがとうございます。私、森野習と、」
「私、清水四季は揃って、シュウキ湖上国の国王、王妃として差配して参ります」
軽く一礼。俺が声を出した瞬間、静まったからよく声が通る。
「この戴冠式が、新神話決戦の祝勝会をも兼ねているのは周知でしょう」
「お祝い事が二つあってめでたいですが、さらにもう一つ、慶事を追加しましょう!」
場がざわめきに包まれる。ざわめいていないのは共犯であるクラスメートと、旧知の王族方だけ。
「セン!」
この部屋の正面入り口が開け放たれ、いつもより飾られ、毛並みも美しいセンがタクと、ルキィ様を乗せて入ってくる。
「ここで、勇者、矢野拓也と、」
「バシェル王国女王、ルキィ=カーツェル=バシェルとの結婚式を実施いたします!」
宣言して注目が二人に集まったから脇に待避。予定では二人はこの段までは来ず、その手前にある一段低いところの前までしか来ないけれど…、俺らがいたら主役がどっちかわからんくなって邪魔だろう。
「「カーチェ様、引き続き進行をお願いします」」
「任された」
さ、皆、行くよ。避けたところからタクを見る。のんびり進むセンの上にいるタキシードに身を包むタクは、イケメンなのも相まって無駄にカッコいい。友達なのに普通に腹立つ。
…その横にいる純白のドレスに身を包むルキィ様を見ていると、そんな気持ちも萎えるのだけど。
タクが俺やクラスメートをジト目で見てるな。そんなことしたら他に…ばれないようにやってるな? …よーやるわ。
謝って許されるとは思っていないけれど…、ごめん。お前の気持ちはよくわかるけれど、ルキィ様のお願いだったし、俺らもそうするべきって判断したんだ。
この戴冠式の招待状を送ってからしばらくして、これと結婚式を同時にできないか? って相談を受けて、そうするべきだって判断した。
でも、お前に伝えると性格からして絶対にいいものにしようとする。だけど、それじゃあ、間に合わない。お前、自分では気づいてないかもしれないけど、大事な人に対してはかなり凝り性だからな…。
ルキィ様の説得ならたとえ中途半端なものになったって実行するだろうが、不完全なものだったって後悔が残る。それだったら最初っから除外して、ルキィ様のサプライズでやった方がいい。俺もルキィ様も、そっちのがましだって判断した。すまない。
今のルキィ様は内戦に勝った結果、王と女王がいきなり死んだ国を継ぎ、ルキィ様以外に正当な後継者はいないとかいう、超不安定な立場。それこそ、後ろ盾は何枚あってもいい。
だから、お前以外の後ろ盾を示せるようにこんな戴冠式で結婚式をしたがった。これで俺らの国は勿論、戴冠式にいろんなところで噛んでくださってる国々…、フーライナ、アークライン神聖国、イベア、ぺリアマレン連邦、フープモーツァ…、各大国の支持があることも示せる。これでやっと足りるんだ。
だけど、これは言い訳。いい結婚式を作れなかったというのは本当にごめん。
「…お父さん、お母さん。ごめん」
?
「なんで?」
「どうしたのです?」
「…二人が、結婚式羨ましそうだったから」
あ。あぁ、そういうことね。
この世界に来てバシェルを出た時、俺と四季、そしてアイリで対外的に家族を作った。その後、色々あって本当に家族になったけれど…、この関係は最初から家族。俺と四季の間で恋人から家族になるプロセスがあっても、対外的にはそんなプロセスはない。この関係は始まった瞬間から俺と四季は夫婦として認識されている。だから、結婚するときに挙げる結婚式というものはもうできない。
そのあたりが気になったのね。
「気にする必要はないよ」
「です。そもそも、結婚式は結婚するときにだけ挙げるものではないですしね」
結婚式をし忘れていたから、10周年とかの節目にする…そういうものもある。
「それに、こっちの世界で結婚するからする結婚式は出来なくとも、」
「あっちの世界なら出来ますから」
…まぁ、正直、あっちの世界でも結婚するときにする結婚式は出来なさそうだけど。とっとと婚姻届を出したいからね。
「そもそも、私は習君と、皆がいればよいのですから」
言いながらそっと、四季が寄りかかってくる。
「俺も。俺も四季と、皆がいればいいさ」
手を四季の腰に回して、さらに俺の方に寄せる。
「それでは、誓いのキスを」
! どうやら式は佳境らしい。タクとルキィ様がそっと唇を重ねあう。重なった瞬間、会場が湧きたち、拍手の音で満たされる。十分に拍手が行われた後、自然に収まり、ブーケトスの案内を受けて列席者がぞろぞろと外へ出る。
「私たちも行きますか」
「だね。でも、その前に」
お色直しもあるし、いいよね。
四季の手を取ってこっちを振り向かせ、軽く唇と唇を合わせる。
「今までありがとう。四季。これからも一緒にいてください」
少し恥ずかしいけれど、ちゃんと改めて伝えておこう。
「いえ、こちらこそありがとうございます。習君。これからも、私と一緒にいてください」
少し顔を赤くして告げる四季。俺と四季はそのままそっと唇を合わせ、名残惜しいが数秒で離れる。
「みんなも、ありがとうね。これからもお願い」
「私からも、ありがとうございます。これからもよろしくお願いしますね」
「当然」と言わんばかりに子供たちが返事を返してくれる。ん、ありがと。頭をなでてあげたいけれど…、
「いい加減出よう」
「ですね。さすがに国王でも、結婚式の主役より遅く出るのはマズイ…って、普通にばれてますね。二人に」
うん。センも二人もこっち見てるね。タクは「仕込んどいて何やってんだ」。ルキィ様は「まぁ、本当に仲がよろしいのですね!」そんな感じ。…これはキスあたりから見られてるな。
「うん、出よう」
「ですね!出ましょう!」
何やってるのって言われると、弁解する術がない。逃げるに限る。。