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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
最終章 ニッズュン
294/306

258話 ファヴェーシュウキラト

「ラーヴェ、シュファラト!」

「私たちのシャイツァーを書き換えてください!」

「「「!?」」」


子供たちはもちろん、二柱も驚いているような気配。



「え、待ってよ!?シャイツァーって書き換えられるものなの!?」

「あぁ、勿論。やろうと思えば誰のシャイツァーでも書き換えられる!」

「なんでそれが言えるの!?」


何でって…、



「シャイツァーは二柱が戦いの中で零れ落とした権能が人に宿ったものです!」


白授の道具も起源また同じ。チヌリトリカに貸し与えられた二柱の権限。歪み…瘴気の影響で純正シャイツァーより脆いが。



「シャイツァーの大本は二柱。もとは二柱のものなんだから弄ろうと思えばいじれる」


全く別物にするのは不可能。だけど、その人に宿る権能の中であれば、多少、融通を利かせることは出来る。というか、それこそシャイツァーが強くなることがある理由だ。名前のあるなしも、シャイツァーが自身の権能を理解してるかどうかの差。当然、理解している名前がある方が強い。



シャイツァー持ちが死んだ後に血縁に同じシャイツァーが行くことが多いのも、権能が類似した魂と、求める思いにひかれるから。再構成される可能性もあるにはあるけれど、血縁の人からすればシャイツァーは前の所有者のもの。求めるシャイツァーの名も、能力も同じ感じのものを想定するだろうから、同じになるのは不思議じゃない。



死んで即転生ならばそれに一番惹かれるのだろうけれど…。転生までにはラグがあるし、転生してもまた人間になるとは限らない。



人にだけ宿る理由は不明だが。おそらく、最初にシャイツァーを授けたとき…、正確には怪我しすぎて持ちきれなくなった権能をあげたのが人だけだったからだと思う。人はとにかく数がいて、チヌカと戦う姿勢を鮮明にしていたから…。



悪人にもシャイツァーがある可能性があるのも、その時の産物だろう。ラーヴェとシュファラトの言うことを聞いてチヌカを殴るけど、一般的に悪い奴もいた。それだけの話。



「…待って。「書き換える」って言ったよね?」

「言ったよ。俺と四季のシャイツァーを引き上げる」


「弄る」とは次元が違う。だから誤魔化したかったのだけど、やっぱり気づくか。



「こっちは私と習君のシャイツァーだからできます。何しろ、ほぼいろんな権能を落としてしまった二柱の魂の持つ権能。それを基幹に構築されたのが、私たちのシャイツァーですから」

「勇者召喚陣あるじゃんー!」


召喚陣? なんで今、その話…、あ。あぁ。時系列か。俺らを転生させてから陣の用意。陣を通った勇者にシャイツァー(権能)が与えられるならば、「俺らのシャイツァーだけ(・・)じゃないんじゃ?」というところか。



…ボクが、わたしが、やる。その表明。ありがたいけれど、



「勇者召喚陣を通った時に与えられるシャイツァーは、世界樹やほかの神獣、陣自身が自覚なしに世界から回収した権能だ」

「どうせ、怪我してるせいで神に回しても耐えられませんからね」


だから、勇者召喚陣は俺ら転生後でもシャイツァーを勇者に与えられた。二柱が保持し続けた権能ではない。



「なら言語の加護はどこから来てるの?」

「あれ?あれはたぶん本来なら全員にあげるもの。権能じゃなくて世界による補助。魔法といってもいい」

「ですが、人間に言葉を教える道具がありましたし、人数が人数だったので減らしたのでしょうね…」


一人ならあげないと困るかもしれないが、複数ならだれか持っていれば聞ける。強く望んだ人だけにあげて、リソース削減…というところか。



「でも、父さま、母さま。残ってるのは愛と戦い。それじゃあ、何の意味もないんじゃないの!?」

「ミズキ、それは確かに正しいよ。名前の通り、残っているのは愛と戦いだ」

「ですが、二柱は創世神。その大本たる世界を書き換える力は残っているのです」


もはや解決するために使えはしないけれど。下手に世界を書き換えて、大切な世界と子が滅茶苦茶になることが怖かったがゆえに。



でも、「ひょっとしたらこれで奇跡を起こせるかもしれない」、「これがないと困るかもしれない」そんな思いがあったから、意地でも持ち続けた。



その意地がどこから沸いてきたかはわからない。だけど、その意地のおかげでなんとかなる可能性がある。



「ということはー、つまりー…」

「そうです。私と習君のシャイツァーは…、」

「アークラインと白地を書き換える力。そのものだ」


俺と四季のシャイツァーの本質は世界を書き換えること。俺と四季が作った紙で、攻撃、回復、防御が出来るとか、ペン先やファイルから何か出せるとか、そういうものは全てその副次効果に過ぎない。



「じゃあ、書き換えなくてもいいんじゃ…」

「それじゃ駄目なのですよ。コウキ君」


それでは足りない。



「書き換えなきゃいけないのはアークライン、白地。そして、ラーヴェとシュファラト。チヌリトリカの三柱」

「この世界そのものを書き換えるのに等しい所業をなすのに、この世界の枠組みで納まってはいられないのです」


「書き換え」るのだ。強引に。この世界を俯瞰的に見て変えていかなければ、どこかで見落としが起きて破綻する。



「え、でも、二人のシャイツァーは、二柱では書き換えられないんじゃ…」

「白と黒でー、交わらないんじゃー」

「昔はね。でも、今は問題ない」


二柱にとっては非常に幸運……というのは失礼か。二柱の頑張りの結果だ。



「二柱がアークラインに降臨してから、今に至るまでの間に生じた不都合…、シュファラト降臨とチヌリトリカを何とかしようともんどりうって駆けずり回って、長い長い時間をかけた結果がここに出てるのです」


チヌリトリカが生まれた当時は駄目だった。でも、しばらく何とかしようとして長い時間が経ったことで、貸し与えた権能はほぼ相手に馴染んだ。もう完全に相手にあげてしまうことができる。



…怪我のせいでほぼ全ての権能はこぼれ落ちてしまっているけど。



「俺らの中にある権能は既に二柱の権能が混ざり合ってほぼ馴染んだもの」

「ここまで来ていて混じり合わないことなんてありませんよ」

「で、でもー、元は二柱のものでしょー?動かせるのー?」


チヌリトリカの誕生は貸し与えた権能の暴走。なら、二柱が混じり合っている俺らは自分を書き換えることになるから、無理なんじゃ…ってことかな?



「別世界に飛ばされて、そこでこっちの世界換算で2000年。それだけの時間があれば、私たちの魂はほぼ地球の世界の魂になってます」

「書き換える権能は二柱の魂のほんの一部。それも別世界で2000年晒された。既にこの世界のものでも、二柱自身のものでもない」


それに、さっきも言ったように権能の融合も進んでる。



「俺ら自身、ちょくちょく姿を変える魔法を使ってたでしょ?」

「あれも一種の自分の書き換えです」


そして、



「俺は俺で、」

「私は私です」

「自分自身で変革しようとしているものを手助けするだけ」

「失敗するはずがあるとでも?」


毅然と言い放ち、言の葉を継がせない。この子らも俺らが死ぬ可能性があることはわかってる。だから、散々心配して色々聞いてきてくれている。でも、これ以上は言わせない。



ここで止めなければ次に出てくるのは「俺らの思いを踏みにじったうえで、散々利用した神に命を懸けてまで助力する価値があるの?俺らが死ぬくらいなら、世界が滅んでも構わない」なんて言葉だろう。それは事実であっても言わせたくはない。



仮に今、俺らがもとの世界へ逃げても、二柱は俺らに何もできない。勝手に滅びるだろう。



それでも、やる。既に二柱に希望を見せてしまった。その希望をフイにするのは悪魔の所業だろう。それに、なんだかんだ言って、成功する目算は高い。成功した場合のリターンは極大。命を張る価値は十分にある。



「ラーヴェ、シュファラト。やるよ」


俺と四季は紙の準備だ。魔力はほぼないけれど、さっきの薬で多少はある。二柱の魔法を受け入れ表明みたいなもの…、いわば起爆剤。魔力はそんなに要らない。



四季が形を成してくれた紙に、俺がペンで字を書く。さっきのに比べて格段に書きやすい。が、のせる思いはそれ以上。絶対に生き延びて、二柱の心を救う。それが可能なようにシャイツァーを変える。それを形に……なんて思ってたら書けた。



【変革】



「…お父さん、お母さん。わたしでも読めないんだけど」


よく戦闘しながら読めるね…。チヌリトリカがラーヴェとシュファラトにしか目が行ってないとはいえさ。



「言語の加護があっても読めないのは当然」

「加護は人間の字は対応していても、それ以外は対応外ですから」

「この字は、二柱が創った字。だから、知っているのは俺、四季、そして、」

「ラーヴェ、シュファラト、チヌリトリカだけです」


だから、アイリですら読めない。



「紙に書く字は、アークラインで知っている人が少なければ少ないほどいいからね」

「「世界に命令しているのが誰か?」が明確になりますから」


命令者を明確にして成功率をさらに水増しする。



「俺らのシャイツァーのように世界に直接命令は出来なくても、」

「人の思いが世界を動かすことはあります。ですので、世界にとって「世界(自分)へ命令しているのはだれか?」は重要なのです」


神が命令しているなら最優先で受ける必要があるし、神獣、勇者なら神の創造物だから、その次くらいに優先する必要がある。とはいえ、世界は魔法やら言葉やら意思やらで、大量の命令を受けている。それを区別するのは面倒くさい。



でも、神なら神の言葉、勇者なら大抵加護の関係で日本語。初期判定に言語を用いると楽だった。



「神の字を使って、神の命令だと誤認させる」


こうすることで、日本語で書く以上の強度で魔法を使う。



「あの…、ラーヴェ、シュファラト?何をするかはわかっているでしょう?何故、準備を…」

「ち…か、ら」

「え?」

「た。りな…い」


準備をしてないんじゃなくて、力が足りないくてできない? 他に力を回せるもの……、……仕方ないか。四季をちらと見ると、目が合った。



何も言わなくても四季が同じことを考えているのが分かった。ごめん、四季。やろう。



「これを」

「使ってください」


俺と四季の手に嵌めていた指輪。それを外して…、



「ちょっ、何をしてるの!?」

「指輪の原料、トリラットヤとシャデニーはもともと、」

「三柱が戦争や力の行使で世界に散った力の凝集体です。ですから、これから力を取ることは出来るはずです」


トリラットヤは決戦地たる聖地にあった。その聖地は湖から地中にしみ込んだ水の終着点。チヌリトリカへのトドメと、この神殿を構成する力が固まったもの。シャデニーは不帰の(ヒュシャハ)滝にあったもの。ラーヴェがチヌリトリカのことを忘れようとして使ったはいいが、忘れられなかった。役目を果たせなかった力達の塊だ。



もともと自分のもの。十分に力は足りるはず…なのに、二柱は首を横に振る。なんで!?



「ちか…ら、お、お。すぎ」

「わた、した。ち……は、つか、えな…い」


!? …まさか、適量調整も出来ないくらい弱ってる? そりゃ権能回収なんて出来やしない。いや、だけど、これはそこまでエネルギー量はないはずだぞ?



「せかい…じゅ」


それだけ言ったラーヴェとシュファラトがコクコク頷く。世界樹? まさか……、コウキとミズキが生まれたあの時の話か? 世界樹に指輪が取られたとき、あの時にこの指輪に力が流れ込んだ?



「つか…う。なら、つ、かえ」

「つ…える。はず」


俺と四季がこの力を使えると? 助燃剤だけじゃなくて、ちゃんと燃料も作れと。…やれないことはなさそう。



「やりますよ」

「あぁ、やろう」


四季の手を取り、空いた手を二柱に伸ば…したはいいが、二柱が手を取ってくれない。



「別に取らなくても構わないのですが、」

「それで魔法がきちんと使えますか?」


回復してもズタボロな二柱であれば、魔法を外す可能性すらありそうなのだが…。



「あの、あまり言いたくはありませんが…。今更、怖気づかないでくれますか?世界を改変するのが怖いはわかります。ですが、私たちを改変するのが怖いとかふざけたことはぬかさないでくださいね?気にしていないとはいえ、シャリア=コーエルミア=ハイコメリアから清水四季に至るまでの生を弄繰り回したのですから」


辛辣。だが、事実だ。



「なぁに、失敗しても大丈夫ですよ。どうせ出来ないのであれば、チヌリトリカの息の根を止めるまで。それで二柱が精神的ダメージで死んで世界滅亡。失敗して俺らが死んだら、ストッパーを失ったこの子らがチヌリトリカ共々二柱を殺しにかかって世界滅亡。どっちにしろ、二柱の未来に変わりはありませんよ」


俺と四季はこの子らの親で、この子らは俺らの子。だが、確たる意思を持つ個。当事者たる俺らが許しているから二柱を許すが、万一、この状況下で俺らがいなくなれば…。この子らはチヌリトリカを止めるのをやめるか、もっと直接的に殺しに行く。



特に|人間三人衆《アイリ、コウキ、ミズキ》がやばそうだ。



「む、むー!おとーさん!おかーさん!そっちの人と遊ぶなら、私と遊んでよー!」


ッ、チヌリトリカの感情の高ぶりに合わせて攻撃が強まってる…!



「ラーヴェ!シュファラト!早く!」

「ま…、つて」

「待てません!」

「待ってて言って、めっちゃ待たせたから嫌―!」


わかってはいたけれど、チヌリトリカには俺らが何を話していたか? とか、何を話しているか?なんて一切興味がない。ただただ、ラーヴェとシュファラトにだけ注意が向いている。



…だから長々と話も出来たのだが。とはいえ、これだけ慕われてたら二柱には斬れないよな…。



待たせた(・・・・)は封印のことだろう。仕方ない面があるにしても二柱の自業自得。そりゃ、待たない。



「ともかく、やる!」

「了解です!二柱は了解してなくてもやってください。3からカウント。0の言い終わりと同時に発動です!」


もはや待てない。もたない。無理やり手を取って、しっかり…やっと握ってくれた。



「いきます」

「「3、2、1、0!」」

【【変革】】


言い終わると同時、魔法を発動。二柱から流れ込んでくる力を受け入れ、シャイツァーへ! 俺らの魔法と共シャイツァー内を巡らせ、膨らませ、変革を促す。



後で必要になる分以外の魔力、指輪の持つ二柱の力も、出せる全てをシャイツァーへ!



…ん? シャイツァーだけを変えればいいのだが…、微妙に俺の体も変わっている気がする。予定外。だが、これは…、二柱がそうなるように組んでくれているっぽい。



…あまり二柱から乖離しすぎるのもマズイか。素直に乗りつつ、細々調整しつつ、シャイツァーと自分たちを変える。



力の根幹──世界を変える──は残しつつ、使い勝手がいいように、かつ、目的を果たせるように。そのために力の方向性を制御して、本来ならば出来ないはずのことをできるように…!



「『命世指 オードフ』」

「『命世掌 オードム』」


自然と言葉が口からあふれ出ると同時、魔法が終了。…よし、うまくいった。



なるほど。体が変わってる気がしたのはそのせいか。力を伸ばす…ということを考えていたからか、媒体のペンが消滅し、両手の指全てに力が宿った。ペンも完全にお役御免になったわけではなく、出すことは出来る。けれど、使い勝手が上がった。



四季も俺と同様、ファイルが消えて両の掌に力が宿った。ファイルも出せるけれど、掌から直接、紙を出せるようだ。



「うまくいったの!?」

「あぁ、いったよ」

「行きましたよ。ミズキちゃん。調子も何故だかばっちりです」


魔法もガンガン使えそうな気さえする。けれど、調子には乗らない。必要な分だけ使う。



「ラーヴェ、シュファラト。あの子に名前を」

「新しい世界にふさわしい、貴方たちの子としての名前を考えてください」


神話決戦を勃発させたり、チヌカを放ったり、色々やらかした。『チヌリトリカ』では負のイメージが強すぎる。二柱にこの名前に思い入れがあるわけでもなし。悪いイメージは名前ごと置いて行ってもいいだろう。



それに、名前の付け替えは世界の作り変えの儀式としてふさわしいし、二柱にとっても新たな関係を築くきっかけになる。が、



「嫌ならば、そのままでも構いません」


殺すか協力するか、その決断をしないというのであれば、こちらが勝手に進める。だが、名前は、あの子をどう呼ぶかは、二柱が決めるべきもの。俺らが干渉していいものではない。



【【ファヴェー…、シュ、ウ。キ…ラト】】

「【ファヴェーシュウキラト】…ですか?」


四季の言葉にコクリ頷く二柱。…了解。二柱が使った言葉は神の言葉。そして、聞き間違えてほしくないと、気を払って丁寧に伝えられた名。込められた思いはわからないけれど、その名に籠った二柱のあの子を慈しむ気持ちはわかる。



だからこそ、ここで終わらせよう。



「四季」

「了解です」


四季の手の上で指を滑らせ、俺の指で字を書く。動かす指に動きを合わせ、四季が掌で魔力を滑らせる。俺の指と四季の魔力が滑ったところから紙が現れる。



別にこの紙はなくても使える。だが、あるほうが失敗しない。書いた字は【起点】。これを四枚。一枚をラーヴェへ、一枚をシュファラトへ。一枚はその場に貼り付け、アークラインへ。最後の一枚は…、



「カレン!この紙を白地へ!」

「神殿最奥、そこにぶっさしてください!」

「りょーかい!」


カレンの矢が紙に突き刺さり、奥へ飛んで行く。チヌリトリカはこれに興味を持っていないが、チヌカは邪魔をしてくる。だけど、全て子供たちが撃墜する。そして、チヌカがそっちに気を取られている隙に…、



回復した気のする魔力を全て回し、肉体を強制的に動かす。そして、一気に距離を詰める!



「む!また来たね!私の邪魔をしないで!」

「邪魔はしない」

「ですね。一緒にいてあげられるようにしますから」

「むー!今のままでも一緒にいれるよ!」


……確かにそうだ。末路が滅びで確定しているけれど、一緒にはいられる、



だが、ここで問答をする気はない。距離を詰めるために飛び出した勢いそのままに、お腹に張り付いたままの紙に二人で手を触れる。紙もろとも魔力を回収し、素早く紙を作り直し、貼り付ける。



【【睡眠】】


魔法を発動。込めた魔力はわずかで、効果はあっても数秒。だが、それでいい。書き終わるまでの間、じっとしていてくれ。



再び書く。これもマーカー。巨大な魔力はいらない。だが、気持ちを込めるのだけは忘れない。二柱が考えた新たな名。雑に扱うわけにはいかない。



四季と息を合わせて完成。【ファヴェーシュウキラト】。それをこの子に貼り付け…、



「何か手伝えることはないの!?」

「「邪魔をさせないで(ないでください)!」」


もう眠りから覚める。そうなれば、さすがに俺らも狙われる。



「むg!」


起きた瞬間、ガロウとレイコがチヌリトリカを吹き飛ばした。さらに、絶対に通さないという気概で、ボロボロの子供たちが立ちはだかる。



急ごう。新たな世界の始まり。この世界の再出発。であれば言葉は…夜明けがふさわしいだろう。それを三柱の言葉に変え、今持てる全てを尽くして、書く。



……ん? あれ? やろうとしていることの規模は過去最大級。だのに抵抗は一切ない。これまでトドメに使ったどんな魔法よりもするする動かせる。四季も全然しんどそうではない。



魔力量が多いからか、若干、指が震えるし、四季の魔力もぶれてる。だが、それだけ。背負う疲労は比べるべくもない。



世界も、二柱も、このままでは行き止まり。だから、変わらなければならない。そんな思いで後押ししてくれているのだろうか?



「「でき(ました)!」」


完成。四季の掌から実体化した紙が浮上。俺らの手の上へ。



「終わったら、多分倒れると思うから、」

「フォローよろしくお願いします!」


既にボロボロな子たちに負担を負わせることになるけれど、ごめん。任せる。



【俺、森野習と、】

【私、清水四季が、】

【アークライン、白地、】

【ラーヴェ、シュファラト、】

【チヌリトリカに命じる】


発動に詠唱はいらない。だが、明確にターゲットを指定し、改変成功率を高める。



【【これまでの在り様を捨て、新たな世界へ変化せよ】】


魔力を高め、どう変えるかのイメージを四季とすり合わせる。起点として渡した紙と、改変対象をつなぎ、魔力で覆う。



瘴気が世界を歪ませるものならば、歪みを調整して世界を変える力へ。



トリラットヤ、シャデニーといった形で世界に散っている神の力は、力だけを集め、改変力へ。



回収されていない権能は集めて一部は三柱に押し込め、彼らの力に。一部は変革の後押しをさせる。



ありとあらゆる力を利用し、大規模改変の道筋を整える。



【俺らが願うは新たな世界】

【暗い未来を変え、明るい未来へと】


始点、道中、終点。全部の変わる道が明確に繋がった。いける。大丈夫。魔力を全て解き放ち、改変を実現する!



【【夜明け】】


俺と四季の言葉と共に全ての紙が弾け、世界が光に包まれた。

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