257話 神話
「コーン!」
「む?増えた?でも、無駄だよー!」
「「!?」」
話そうと思った直後にこれか。レイコの作った自身とそれに乗るラーヴェ、もしくはガロウとそれに乗るシュファラト。その幻の発想はいいのだけど…。
「レイコ!チヌリトリカにラーヴェとシュファラトの幻は効果ないよ!気を付けて!」
「チヌカに効果はありますけど!」
「ガルッ!?」「!?」
何で? って言われても…。
「生まれのせいとしか言えない」
「ラーヴェとシュファラトの子ですからね…」
雑に言えばそれが理由。後、チヌリトリカも神だから、同族の神の気配を感じ取れるってのもある。
「コンコン!」
? 幻が増えた。…あぁ、幻の上にラーヴェを乗せるのか。チヌリトリカを欺けなくても、本物のラーヴェの下にいるレイコ=本物という方程式は崩しておける。いい方法だね。レイコの幻は質量がある。それをうまく生かしてる。
……狼と狐そのものの姿で走り回るガロウとレイコの上。そんな状況で考えられるか心配ではある。けれど、神話を話す間は待つって約束を違えるわけでもないし…。いいか。
「仕切り直して、神話を語ろう」
「いつ?なぜ?どうやって?そういった疑問に対する答えは神自身も持ち合わせていないようですが、ともかく、太古の昔に二つの世界と二柱の神が生まれました」
「一つはアークライン。神はラーヴェ。一つは白地の原型。神はシュファラト」
「…え。白地?」
そうだよ。白地はチヌリトリカが侵攻しれきた場所として伝えられる場所。だが、
「白地はもともとシュファラトが生まれた世界だ」
「もともと別の名前だったそうですが…、面倒なので白地で通します。そのあたりの説明はもう少し後です」
だから、もうちょい待っててね。…戦ってくれてるのに申し訳ないけれど。
「アークラインと白地は表裏一体にして、決して交わることのない世界としてあった」
「方や何物をも染め上げる黒。方や何物にも染め上げられない白。ですが、二つそろって初めて成立する世界です」
世界は互いに寄りかかるように存在していて、どちらかが滅びれば、もう片方は自分を支えきれずに滅ぶ。けど、交じり合うことはない。そんな世界だ。
「決して交わることのない、不可分な対の世界。そのような世界に生まれたからか、二柱は誕生より互いの存在を知って…いえ、感覚的に感じていました。そして、互いが唯一無二の存在であることもわかっていました」
「だから、互いのことを会ったことがなくとも自身の半身と認識するのもすぐだった」
ラーヴェが女神で、シュファラトが男神。たまたま性別的に対になっていたけれど、互いが互いの知る唯一の存在である。それが占める意味は大きすぎた。だから、性別は何であれ半身認定は変わらなかっただろう。
「ラーヴェは自身とその片割れが楽しめるように世界を創ろうとし、事実、そのように世界を創っていった」
「シュファラトは片割れが作ろうとしているのを察して、楽しくないもの…主に世界の歪みを処理できるような世界を創ろうとし、そのように創っていきました」
その時に今のアークラインと白地の下地が創られた。
「シュファラトと楽しむために試行錯誤するラーヴェと、」
「ラーヴェを見守り、一緒に楽しむために支援に徹するシュファラト。その二柱は男神と女神で、ちょうど対です」
「その二柱が恋愛的な意味で惹かれあうのはある意味必然だった」
世界は創造され、アークラインの上に生き物はいた。だが、同格であるのは互いしかいないのだから。
「ですが、世界の法則は変えられません。世界は決して交じり合わず、ゆえに二柱も決して会えなかったのです」
「だけど、二柱とも諦めはしなかった。諦めて、一人で生き続けるなんて耐えられなかった。失うものなんて自分と相手の命と、創りかけの世界だけ」
「会えずにいるくらいなら、死んだ方がましだと二柱とも思っていましたし、」
「創りかけの世界なんかに未練なんてなかった」
だから、迷わずに挑戦することを選んだ。その結果、
「決して交わることのない。その法則を気の遠くなるほどの時間をかけて捻じ曲げた」
「ラーヴェとシュファラトはアークラインと白地の創世神。片方の力だけでは世界を越えることは出来なくても、二柱ならいけるかもしれない。その一心は法則を捻じ曲げたのです」
一柱だけでなら、自分の世界にもう片方の世界までの穴を開けられても、もう片方の世界を弄ることは出来ない。二柱がそれぞれの世界に穴を開け、相手を迎え入れられる大きさの孔を貫通させて始めて実現すること。
「こうしてアークラインと白地。交わることのなかったはずの世界は交わり、シュファラトは白地からアークラインへ来た」
「一柱では思いつかなかったようなことも、二柱なら思いつきました。世界は急速に色を増しました」
ラーヴェが手ずから種類を増やさなくても、勝手に増えるように進化するようにする。この世界だけでなく外…、宇宙を作ってみる。等々、色々した。
「ですが、本来は交じり合うはずのない世界の神。どうしても歪みは生じました」
「その歪みが瘴気。だけど、それはシュファラトがそのように構築した白地に叩き込むことで、除去できた」
「それでも、最大の異物…シュファラト自身はどうにもなりませんでした」
どうにかするにはシュファラトが白地に帰るしかない。だけど、二柱とも別れる気はなかった。色づいた世界を手放すことは耐えられなかった。
「そこで、世界と二柱自身の在り方を変えた」
「二柱とも自身の世界に関しては全能の神です。ですから、「アークラインがシュファラトを排除しようとするのは、ラーヴェという全能の神と喧嘩して、ラーヴェが失われたら困ると世界が思っているのでは?」…そんな風に考えてやってみることにしたのです」
本当に世界がそう考えていたかどうかなんて定かではない。定かではないが…、
「ラーヴェとシュファラトにはそれをどうにかする術がありました」
「そして、離れるくらいなら死ぬ。世界もまだ創りかけ。まだ思い入れなんて無かった。二柱の行動を縛るものはこのときもなかった」
だから、二柱は躊躇なく思いついたことを実行した。
「自身の世界において自身の全能性を排除し、排除した分の権能を相手に貸し与えました」
「そうやって、互いを両世界で必須のものとした」
貸し与えた権能がもとは自身のものであるとしても、本当に持っていて、使えるのは相手だけ。そんな理屈を使った。
「解決したのー?」
「多少は」
「たしょーなの?」
そう。多少。交じり合うはずがなかったものを無理やり捻じ曲げた。その事実は変わっていないし、屁理屈みたいなものを使ったのだから。
「だけど、多少でもそれで構わなかった」
「二柱で楽しくアークラインを創り、白地で以前より増えてしまった歪みを処理する。そうやって存在し続けていれば、いつか、交わったものが落ち着くようになる。その確信があったのですから」
水と油のように、交わらなさ過ぎて放置していたら大部分がもとに戻る…という可能性は権能の貸し借りで既に排除出来た。だから、あとは水に落とした牛乳の雫がやがて均一な全体に広がって均一になるように、貸し与えたものが相手に馴染むまで、貸した権能をあげられるようになるまで、待っていればよかった。
「永久に等しい時間は、二柱は既に一度、ひとりぼっちで過ごした」
「ですから、二柱がともにあって、過ごすには何の問題もなかったように思われました。が、」
さすがに、それは甘い見通しだった。
「生き物が進化し、多様性を増すごとに絶滅する生き物が出てきた」
「ラーヴェはそれを見て悲しみましたが、手を出すことをよしとはしませんでした。伸ばした助けの手が、他の子らを水に突き落とすかもしれないことを理解していたからです」
絶滅した子を助けようと思っても、一回、自然淘汰されたのだから保護してあげなきゃいけない。そうして神が介入してしまえば、その子らは強くなる。助けなしに強くなった子らを逆に追い落としかねない。それは嫌だった。
「同時に、それを見て命を育むことの尊さを知りました」
「そして、実際に子をなしたいとも思った」
「え。まさか、我慢できなくなってやっちゃったとかじゃないでしょうね?」
「「まさか」」
二柱はそれをしなかった。
「二柱ともそれをしてはいけないことは理解していた」
「シュファラトをこちらに呼ぶことと子をなすこと。その差がとても大きいことを知っていたのです」
シュファラトをこちらに連れてくることも、子をなすことも、世界に穴を開けて異物を投入してそのまま放置するようなもの。世界を守るということだけを考えれば悪手もいいところ。
だけど、連れてきたシュファラトは権能の貸し借りで誤魔化せた。表層に穴を開けただけのようなもので済んだ。でも、子をなすことはそんな誤魔化しが効かない。
「多少、どちらの世界にも両方が認められるようになったとはいえ…、それをしてしまうと最悪、ラーヴェが死ぬ」
そうなればアークラインが滅ぶ。連鎖的に白地も滅んで、シュファラトも死ぬ。
「それがわかっているから、やらなかった。せっかく色づいた世界を閉じるくらいならば、永久に二人でいたほうがいいと思っていたし、」
「子供代わりなら、二柱が手掛けたアークラインがありました。そこに生まれた子らを見捨てることは出来なかったのです」
「…一人だったときは世界あってもやってたよね?」
うん。やったよ。アイリ。
「でも、それは大事なものは何もなかった時のこと、」
出会う前の世界創りは、確かにきっかけは相手に喜んでもらうため。でも、相手の姿は見えない。実態は一人ぼっちの悲しい砂遊びだった。
「出会った後とは、文字通り世界が違ったのです」
出会ってからは二人共同。共同で世界を創っていくのは楽しかった。二人でちょいちょいと手を加えて、崩れて悲しんだり、思わぬ行動を示してくれてびっくりしたり…そんな思い出はかけがえのないもので、もっと欲しかった。そのためには互いの存在は不可欠だったし、世界も必要だった。そして、世界に住まう、こちらを楽しませてくれる子らにも、愛着が湧いてきていた。
だから、これまでのようにやってみることが出来なくなった。
「でも、決して交わることのない世界を繋げた二柱の権能は強力だった」
「待っている間も、二柱の間に生まれた「子供が欲しい」という思いは心の中に押し込められても、完全に消え去ることはなく、年々強くなりました」
「あっ」
!? …あぁ、よかった。察しただけか。語る間も待てないくらいの何かが起きたかと思った…。情勢は落ち着いてる。まだ、時間はあげられる。俺らは今、何もできないけれど…、耐えてくれるのを信じるしかない。
「そう。お察しのように、その思いに反応した権能はラーヴェの胎内にシュファラトとの子をもうけた」
「権能って自分の力よね?制御できなかったの?」
「自分の分は出来ましたよ。でも、貸し与えられたもう半分が駄目でした。貸し与えられた半分が、自分が好きな人の望みをかなえようと動いてしまったのです」
チヌリトリカは決して、望まれなかった子ではない。むしろ、欲しかったけれど世界が滅ぶかもしれないから、手に入れられなかった子だ。だから、堕胎なんて考えるはずもなかった。偶然とはいえできた子。ちゃんとなっていると思われた。そう、信じたかっただけかもしれない。けれど、
「生まれた子は残念ながら、生まれてはいけない子だったのです」
「何が駄目というわけでもなく、ただ一つ。瘴気を…世界の歪みを無意識にばら撒いてしまう。その一点だけが致命的に駄目だった」
遊びを始めたときから周囲に浮遊しだした瘴気の球。あの球はチヌリトリカの感情が高ぶった時に無意識にばら撒かれる。楽しくても、寂しくても、怒っていても、悲しくても駄目。いくら処理施設として白地があるとはいえ、チヌリトリカが生み出す瘴気の量は許容できなかった。
「一応、シュファラトの時のように権能を貸し与えてみたようでしたが…、」
「故意ではないとはいえ、大幅に時間をすっ飛ばした代償は大きかった。どうにもならなかった」
「それでも手を尽くそうと東奔西走したうえで、そろそろ白地がマズイとなったのが、2000年前。神話決戦です」
討伐を決心し、殺しに行った。それを遊びととらえたチヌリトリカは迎え撃った。それがあの大戦が起きた理由。誰が悪いかと言えば二柱だが、責める気にはなれない。
「そして、何とか打倒しました。その場所が獣人領域の聖地です」
「が、二柱は討伐できずに封印を選んだ。とりあえず、瀕死になってるチヌリトリカを寝かせて、白地に押し込んだ」
「少なくとも、寝ている間は瘴気を生産しないので、応急処置としては悪いものではなかったのです」
あの聖地に転がっていた感情は三柱のもの。おそらく、俺と四季が二柱でもあり、別の自我もあるから感じ取れたものだろう。
よい感情はチヌリトリカ。徹頭徹尾、構ってもらえて嬉しかった。懇願はラーヴェ。やはり実の子は殺せなかった。殺してほしくなかった。悪い感情はシュファラト。子を殺さねばならない悲しみと、ラーヴェを悲しい顔にさせている自分への怒りと、我が子を殺さなければならない悔しさとが混じった感情だった。
「白地に押し込むにしても、白地とアークラインを繋げておく場所は必要だった。その場所にはニッズュンが選ばれた。広大な湖があって、当時地上を支配していた人が滅多に来ない場所だった」
「せめて静かに眠ってほしい。そんな思いの表れですね。街はチヌリトリカが寂しくないようにと、作った場所です」
純然たる白と黒。その二色だけで街が構成されているのは、せめて、チヌリトリカが二柱の存在を感じ取れるようにしてあげたかったから。
「街を作って、神殿を創って、白地への穴を開けて、チヌリトリカを押し込んだ。そして、厳重に開けられないようにして、最後に番人としてフロヴァディガ…シュガーを置いた」
「白地に押し込んだとしても、チヌリトリカが起きてしまえば、いずれ白地に限界が来ます」
起きたとき二柱がいなければ悲しくて瘴気が出る。それを防ぐために会いに行っても嬉しくて瘴気が湧き出る。どうしようもなかった。
「だから、この封印はいつか解かれることが前提のものだった」
「いつか心の整理がついた──チヌリトリカを殺す決断が出来た──時、いつでも殺せるように」
ニッズュンにあった感情はすべて残された二柱のもの。封印される子への申し訳なさと、封印しても、いつかは殺さなければならない。そんな悲壮が合わさったものだ。
外側が無駄に硬くて、中が脆いシュガーはその象徴。本気でチヌリトリカを殺す気ならば、ブレスを吐こうとでもしているときにでも、口に全力で叩き込んでシュガーを殺せばいい。
だのに、二柱はそれをしなかった。そのせいか、チヌリトリカ自身もそうしなかったようだ。倒す気になっても外を殴って外皮を削り続けるだけ。外側は削ったとて、驚異的な回復力で戻る。
いわば、倒す気はあるんだよ。というアリバイ作りのようなもの。「回復力を上回れそうなくらい削って削って…していたけど、倒しきれなかった。すごく疲れた。これじゃ、チヌリトリカに殺されちゃうから止めておこう」…なんて言うためのもの。
シュガーの存在は、二柱にとって甘え。そういう意味でまさに甘いシュガー。適当につけたのに、割と的を射ている。…ん? そう考えると俺らが再入場できなかったのは内部を攻撃した俺らが二柱じゃないってわかったからかもしれない。
「ニッズュン以外の封印は、チヌリトリカをより長く寝かせておくためのもの」
「これがなくなるとチヌリトリカは起きやすくなってしまうのですが…、」
「…封印解くために百引叔母さんが動いてなかった?」
そうなんだよね…。
「本体は起きていた可能性がある」
「一応、チヌリトリカにはこれが邪魔で何とかしないと本体の封印を解けない。と刷り込んでいたっぽいので…。時間稼ぎですかね?」
チヌリトリカに乗っ取られた百引さんたちが速攻でニッズュンへ行ってしまわないようにするためもの。眠りを深くするためだけの封印だから、ニッズュンの封印が解けたとき…すなわち、チヌリトリカが起きたときに連鎖的に解けたんだろう。
コウキの前世、ズィーゼさん。獣人領域の神獣、そのほかそれに類する俺らの知らない生命体はその番人として置かれた。また、獣人領域の神獣たちは、ニッズュンの監視としてある程度固まって置かれた。
…力があっても悪い方に大暴走している奴がいないのはよいことだ。愛するアークラインの子らにも多大な負担はかけてはいないとは思う。が、
焦っていたのか処置がところどころ雑。
「その後、今の不帰の滝に行った」
「そこでチヌリトリカのことを忘れようとしました。覚えていては情が湧いてしまう。湧いてしまえば、絶対に殺せないのですから」
「ついでに、世界に残るありとあらゆるチヌリトリカの資料を改竄した。特に、チヌリトリカの元の名前は念入りに破壊した。忘れた後に、真実を思い出してしまえば、自分が狂いかねなかったから」
ありえない現実を夢想しながら、神が世界を存続させるために頑張った場所。そんなところにアイリの前世が歪みである瘴気を大量に捨てた。
だからあそこは訪れるものに都合のいい現実を見せて、帰れなくしてしまう。そんな場所になってしまった。二柱でもある俺らの記憶が飛んだのは、かつて二柱が子のことを忘れようとした残痕に巻き込まれたから。
「それで、忘れられ…てないねー」
「そだね。皮肉なことに仲良く過ごしたかったという夢想が強すぎて、忘れる力はそこまで強くはなかった」
だから俺らは子供たちそのものを見て、思い出せた。
「忘れられたのは白地のもとの名前と、」
「チヌリトリカの──あの神が生まれたときに二柱が付けた名だけだ」
失われたのはこの二つ。
「白地の前身となる世界の名は、生まれた時から頭の中にあった名前です」
「二柱に思い入れなんてない。だが、」
チヌリトリカのもとの名前はそうではない。
「あの子の名前は「ラーヴェ」と「シュファラト」。自身達の名からとってつけたのは覚えていました。ですが、なんという名前だったかは覚えてはいません」
「チヌリトリカという名は改竄の過程で生まれた名前。あの子の本当の名前ではない」
世界に探し求めたって、記憶を忘れる前に行われた世界の改竄はチヌカも、あの子さえも影響を及ぼしていた。故に、どこを探してもあの子の名前はない。あの子の名は永久に、完全に、失われた。
「…待って。チヌリトリカ自身からラーヴェとシュファラトが親って記憶は消さなかったの?」
「消そうとはした。けど、消し切れてなかった」
「難度は、二柱の記憶に比べて年月が浅い分、低かったですが、根幹の記憶ですからね」
だから、本人も誰を待ってたかわかってなかった。でも、二柱が出てきたら速攻で二人が父母だと思い出せた。
「それもあってほぼ倒すのは無理なのでは…?と半ば絶望していたようですね」
「そんなとき、俺らの前世を見つけた。姿形、在り様が自分らにそれなりに似ていて、強い。だから、自分たちがチヌリトリカを倒せなかった時に備えて、保険を掛けた」
「かけた保険が、さっき説明したアレですね」
魂の一部引きちぎってぶち込んで、余ったやつで調整する奴作る…というもの。
「同時に召喚陣を作って、帰還魔法陣は世界樹に置いた。チヌカに依り代召喚に使えるとも吹き込んだ」
「いつかチヌリトリカが復活しようとしたとき、私と習君も一緒に召喚できるように。私たちにチヌリトリカを倒してもらえるように」
「召喚陣が勇者を召喚する仕様なのは、この魔法陣を維持してもらえるようにするため。人なら益があれば、大切にするから」
だから、歴代勇者たちは二柱の犠牲者とも言える。
「歴代勇者が黒髪黒目なのは、私達の影響を受けているからですね」
「ラーヴェは黒髪黒目。シュファラトは白髪白目」
瞳が白で、白目が黒だ。
「私たちの世界では黒髪黒目は一般的ですが、白髪白目は珍しいです。なので、私たちは必然的に黒髪黒目」
魂に影響は出なかった。だが、外見への影響は避けられなかったようだ。
「その子、チヌリトリカも今は兎も角、二柱の子。髪の色は黒か白」
「同様の理由で依り代になる子もやはり黒髪黒目です」
召喚したい対象3人が黒髪黒目で確定。だから、勇者としてふさわしい人を選定する際、黒髪黒目からしか選ばなかった。
「日本人が多い理由は不明。俺らが日本人だから因果が逆転した…とかいうわけではなさそうだが」
「案外、私たちが転生しまくった先が日本ばっかりだったとか、順応の早そうな人を選ぶと、私たちの時代の日本が一番良かったとか、そんな適当な理由でしょうね」
それで拉致されている歴代勇者には、本当にご愁傷様としか言えないのだが…。
「そして、現在に至ります。何か質問はありますか?」
ない……か。当然だね。皆、戦いながら聞いてくれている。いわば、皆、俺と四季、ラーヴェとシュファラトの我儘に付き合ってくれているようなもの。何かあれば後で俺らに聞けばいい。今、聞くことではない。
「ガロウ!レイコ!」
「ガルッ!」
「コン!」
ラーヴェとシュファラトを連れてきてくれた。最初はあんなにきれいな毛並みだったのに、今はかなりひどくなっちゃってるな…。
「時間です。答えを聞きましょう」
「協力してくれるならば、10秒以内に俺らの手を取って。では、10、9、」
言葉で言わせると、聞こえないかもしれない。いつまでも言えないかもしれない。だから、動きで示してもらう。
「8、7、」
時間も指定する。長々引き延ばして…は許さない。どのみち、どちらかしかないのだから。
「6、5、」
二柱の後ろで、チヌリトリカとチヌカが来ないよう、子供たちが必死に押しとどめてくれている。だから、神話を話している時間はおろか、この時間さえじれったいのだが。
「4、3、」
決断できないか。それもわかるが…、
「2、1、ぜr」
寸前で手を取られた。
「了解。やるよ、四季」
「えぇ、やりましょう」
ベストエンドは無理だ。だけど、せめてバッドエンドを、ベターエンドに書き換えてやろう。