250話 勇者VS勇者
時系列は246話で別れた直後くらいで、有宮視点です。
「行っちゃったねぇ…、文ちゃん」
「だねぇ。アキ」
まぁ、「行け」って言って、通したのはアキなんだけどな! とはいえ、「通れ」って言われてんのに躊躇いなく進んでいくのは、さすがあの二人というか…、よーやるやるヤールー川というか…。
とかなんとか考えてたら普通に見えなくなったねん。グッバイ! 健闘を祈る! ……あれ? 文、直でこれを言ったっけ? くっ。文! まだ呆けるのは早いゾ!?
「さ、それじゃあ、戦おっか ?」
「嫌だよ」
「ガマ様は言いました」
!?
「アキ。ノータイムで返答するのはよき。でも、そのネタは有名じゃない。小学何年生かすらおぼつかねぇ国語の教科書ネタとかまず通じねぇべ?」
「何……だと!?確か1年生で、その作品のなかで矢鱈と印象に残るのに!?」
「つ「下手したらその教科書使ってない」。文らが使ってた教科書を、他の小学校でも使ってるなんて考えるのは早計だぜぃ☆」
いや、まじで。そもそも、同じ中学であっても教科書が新しくなったタイミングで種類自体変わることもあるしな! うちとか英語の教科書、突如として「新王冠」から「新地平線」に変わったじゃん。教科書、別に同じシリーズでもええんやで? と言いたい。……変わっても実害なんざねぇけどな!
「ま、まぁ、それは置いておこっ。で、仕切り直してだな…。戦おうぜぃ」
「嫌だよ」
「ガマ様「天丼乙!」グヌヌ…」
二回も言わせねぇぜ? 「突っ込み放棄されたぁぁぁ!死の」とかなら許してやらねぇでもないけどねん。そうじゃねぇなら、言わせない! これが文のジャスティス! (ただし例外はある)。
「コホン。それじゃ、戦おうぜ!」
「しゃーなしやで?」
ほんとに。文のシャイツァーの種袋にー、魔力込めてー、種出してー、放り投げてー、
「「死ぬがよい」」
文の植物が根を下ろした瞬間、アキの水晶球が輝いて、巨人の腕みたいなのが出てくる。
危なげなく回避し……したら一撃で穴がぶち開けられて、腕は湖底にさよう奈良。ふぅ! しょっぱなからフルスロットルだぜぃ!
だが、文の種は生きてる! たちまち成長して腕を形作る。さぁ、いっけぇ! アキを押しつぶせぇ! 決して、攻撃が被った恨みではない。断じてない!
「回避!」
甘い! 腕で床を砕く! 隙を生じぬ二段構え! 湖の底へ南無三しろやぁ! ちっ。ダメか。
「いやいや待って!?殺意高すぎない!?なんでアクセル前回なの!?有宮さん、百引さんが死んじゃうよ?」
うん? 何で藤はそんなに慌ててんのん? あ、あぁ
「しゃーないよ。アキはやる気だもん。こっちだってガチで行かなきゃ死んじゃうぜぃ☆」
だからと言って納得できるかと言われると文も別だけどな! ……むむ。怪訝そうな顔だなぁ…。聞くか。
「でしょ?アキ?」
「そりゃそうじゃんじゃん。パンジャンドラム」
「失敗作やめーや」
戦場で兵士(主に味方の)を恐怖のどん底にたたき落とした英国面の最強兵器! 兵は死ぬ。
「ま、まともにいくよ。まぁ、そりゃそうでしょ。殺す気で行くぜ?あぁ、一応言っとくけど、これは私の意思。洗脳は関係ないぜぃ。え?瞬と、愛ちゃん……?……黙秘権を行使しますん」
ん?
「アキー。それ、言っちゃっていいのー?」
正味それ、シュンと、アイは洗脳されてるけど、アキは洗脳されてないって言ってるようなもんだぜ?
「さー?まずったかも。でも、言いたいことはわかるでしょ?」
「うむ。じゃあ、何故にアキは立ち塞がるのか。ソレがワカラナイ……」
「さっきはぐらかしたのに、その質問ぶつけてくるのやめーや」
はっはっは。答えさせないなんて許さないぜ?
「うむ。有耶無耶にしてやろう。瞬!愛ちゃん!行くよ!」
「「了解」」
あぁ、やっぱ許してくんないよなぁ。正直、スゴクめんどくさい…。
瞬は素手で突っ込んできてるね。でも、たっくんと、かおとが相手してくれてる。で、アイは藤と、ずくずくが、押さえてくれてる。
然らば残るのは…、ケンゾと、かおるんか。なんだアキ相手に文含めて3人もいるじゃん。よゆー……にはならんかなぁ。でも、
「はっは!全然有耶無耶に出来てないぜぃ、アキィ!」
3人いれば、距離詰めて再度同じ問いをぶん投げることはできる!
「だね!全く!人数差がひどくてワロリンだよ!というわけで、ふっとべぇぃ!」
ッ!? 水晶玉が輝いて……、って、あかん。種をぶん投げて、ガード! とっとと発芽してクレイモア!
あ。この光自体がやばいやつっぽい! 今の時点で軽く当たった場所が痛い! おうふ。発芽が間に合わねぇか!?
「なめるなよ、百引!」
「なめれるわけねぇじゃん!幼馴染みだぜ?ケンゾーの技量はよくわかってる!光斬るとか無茶苦茶やめぃ!」
さんきゅ! ケンゾ! ケンゾが攻撃を斬ってくれて助かったぜ! 原理がよくわかんんねぇけど、ケンゾだしな! せっかく蒔いた種が意味なくなっちったけど、放置。新しい種を落として、発芽。
「『散種』!」
某ゲーの赤白の花みたいになってる頭から、種を大量にばらまく。ついでに文も近づいて、種を直接アキにぶん投げて…!
「『燃えろ』!」
ちょっ。めっちゃ簡単な呪文で全方位炎上とかやめれ。全部燃やされたんだけど!?
「ねぇ、やっぱし、火を斬るとか反則じゃない?」
「百引と一緒の時からやってたろうが!だぁあ!あたらねぇ!?」
ケンゾ、人の話を聞いて差し上げろ。「やっぱし」をおもいっきし無視すんじゃねぇべ。
「当たらんのは当然だべ?だってケンゾーじゃん。私が避けようって意識してるうちは当たらんよ。だから、避けるのは簡t」
アキの顔すれすれをケンゾの剣が通って、髪を数本持ってったな。…アキィ、言ってる尻から油断しちゃダメだぞ☆
「避けるのは比較的簡単!」
言い直しやがった。ケンゾの攻撃を避ける難易度がサラリ上がってるのが草生える。
「くたばれ!」
「ちょっ、ぶわあぁぁぁ!怖いなぁ!?」
すれっすれ通過してったなぁ…。当たったら無事頭が☆真っ☆二つ☆。
でも、当たんねぇな。基本当たらないのがケンゾですしおすしとはいえ、当たんねぇな。油断してたら当たる。して無くても決定的な場面で当たる。とかいうよくわからん鬼畜仕様なのだけどん……。気が気じゃねぇぜ!
「有宮嬢。植物に私の薬をぶっかけてもいいか?」
「ん?いいよん。今のところ全部燃やされてるけどにゃ!草も生えない(物理)」
「貫け!『光線』!穿て!『爆槍』!吹き荒べ、『嵐』!」
飛んでくる光線はケンゾが斬ってくれた。けど、槍は避けた。だから文も避ける。かおるんも放っておいても避けてくれそうだね。ケンゾが斬らなかった槍なんて近づきたくもないから、よきかなよきかな。離れて…たら壁にぶっささって爆☆砕。嵐は…、まんま嵐だにゃあ。
「ちょ、百引!?それをされるとこっちの視界が…!」
「そうよ!あたしがあんたを視認できなきゃ、回復も出来やしないのよ!?」
「うるへー!ケンゾーがうっとい!離れなきゃ洒落になんないの!」
なるなる。正味、よくない手だと思うけどにゃあ。始まったのなら仕方なし。種の防水性あげて、風に強くしてあげて、雷は肥料に出来るように…、雷が落ちたら窒素だっけ? が、増えるらしいから出来る。うん。
こっそり嵐の中に投入! ふぅ! アキは嵐の中に消えた。だから、今、嵐の中に行けばアキと話はできると思う。けどにゃあ…。嵐。行きたくねぇなぁ…。でも、きっと行かないとアキはたぶん話してくれないだろにゃあ。
今、行くなら凸ったことを評価して話してくれると思う。
「あー。でも、突貫するにしても、さすがに生身では嫌だ。文の体に種を植える……のはやりたくねぇ」
確かに、しゅーやしーちゃんと戦った時と違って、殺しに来てる。自分の体を保護するという面では大正解なんだけど。文に自虐趣味はないぞい。
…んにゅ? 誰かに肩を叩かれた?
「有宮嬢。そんなときにはこれだ」
なるほど。お薬ね。でも、待って。親指立ててるけど、なんかコポコポいってるんだけど!?
「安心しろ。温度は常温…というかむしろ低いぞ?15℃くらい」
温度の心配はしてねぇYO! いや、確かにコポってたら温度高そうなイメージはあるけどね? 問題はそこじゃない。そこじゃねぇんだよ…。
「安全だ。死にはしない」
死にはしないって何!? 死ぬよりひどい目にあう可能性があるんじゃないの!?待って、ウェイト! 飲ませないで……って、
「美味しいな!?騒いでたのが馬鹿みたいじゃん!?
「え?美味しいの?」
ゑ? アキの声? 嵐の中に隠れてここまで来て…る!
「あぁ、美味しいぞ。そら」
1ミクロンも迷わず顔面に薬投げつけたぁ!?
「見るからにやばいの投げるのやめーや!」
「アキィ!逃がさないぞ☆」
さっきまでグダグダ言ってたけど、アキがすぐそばにいるというこのビックウェーブ。乗るしかないっしょ! しかも、かおるんが薬を飲ませてくれてる。迷うことは何もねぇ。いざ行かん。嵐の中へ! ……なんかかっこいいな!
いざ侵入!
…なーんということでしょう。嵐の中は真っ暗でほぼ見えないではありませんか。…って言ってる場合じゃないやんかい! ま、見えないなら見えないでおkおk。見えなくとも気配はわかる。文がアキの気配を追えないとでも思ったか!?
「というわけで、捕まえた!」
「どういうわけなの!?」
ははは。細かいことは気にしたら負けだぜ、アキィ…。薬飲んでても普通に風と雷が痛かったりするけどなぁ! 無意識に腕に力が入っても仕方ないよね!
って、あ。外された。解せヌートリア! どうやって外れた?
「残念、無念。そっちの私は偽物だい!」
「ふぁっ!?」
嘘ん。この肌触りに毛穴の具合、シミの感じとか皮膚の色合い、脈動や虹彩、指紋に声紋。そんなの全部がアキなのに!?
「きめぇ」
「そこだぁ!」
くははっ! 声に出した記憶がないけど、こういえば引くと思ってたぜぃ!
捕まえ…はできないけど、無事に近づけた! 引く…ってレベルで済んでる気がしねぇけど! 精神的に諸刃の剣で大草原。
それはいい。この距離なら言葉が届く。そして、言葉が届いた後の顔の表情、反応が見れる!
「アキ!アキにとってチヌリトリカってなんなのさ!?」
「ん?んんー。さっき誤魔化したのに、それ聞いちゃうのん?」
そりゃね。だって、
「アキは文らとチヌリトリカ、どっちが大事なのさ!?」
風と雷の音に負けない、心の奥底からの叫びが文の口から飛び出す。ヤンデレ染みてるとか言われたってかまわない。これだけはどうしても聞きたい。
洗脳されてないなら、なんでそっちなのさ!? アキなら、文らの幼馴染ならこっちにつかなきゃダメでしょ!?
「いい質問ですね!」
「茶化すな、アキィ!これは文らの総意だぞ」
「「ら」って言ったって、そっちにはケンゾーと文ちゃんしかいないでしょうに…っていうのは野暮だね」
わかってんなら言うなし。しばくぞ。…現在進行形でしばこうとしているんだけどな! とはいえ、やっとこさまともに話を聞いてくれる体勢になってくれた。
「『大事』ってまで言われちゃうとそりゃ、文ちゃんらに決まってる。でもねぇ…。あの子もあの子でかわいそうなんだよねぇ」
ん?
「カワウソ?」
「しばくよ?」
「お相子だぞ☆」
聞き間違い…じゃないのかぁ。「かわいそう」…か。「何が」なんだろ? 少なくとも文が知っていることは「チヌリトリカは2000年前に侵略してきて、神話大戦で敗北した」ってことだけ。明らかに自業自得。これじゃあ、アキがそんなことをいう理由にはならない。
「かわいそう…ねぇ」
「口に出されたって、「何が?」かは言わないよ。絶対に」
ちっ。態度からしてガチで言う気ないね。アキ。
「それは彼らが何とかすべき問題なのさ」
「ふぅん。じゃあ、アキが文らと戦う理由は何じゃらほい?」
戦う理由はないはずだ象?
「不憫な彼の神への同情、哀れみ、偽善、憐憫、哀憫、憐愍、憐情どれでもどーぞ」
難しい言葉使いたかっただけだろシリーズやめーや。憐憫と憐愍がある時点で草も生えない。
「その気持ち…、哀れみの根拠はどこにあるのん?」
「ん?私は私だぞん?」
んんー?
「つまり、私はチヌリトリカと同化してたから、よくわかるってことだい。なんだったっけ?心理学だかなんかで、「自分も他人も知ってる開かれた心」、「自分だけが知ってる閉じた心」、「他人は知っているけれど自分は知らない閉じた心」、「自分も他人も知らない完全に閉じた心」ってあるらしいじゃん?そのうちの完全に閉じた心以外はわかるからねぇ…」
文はチヌリトリカを見てないからわかんないけど…、文にも外に開かれた心はわかるはず。となると、アキのアドバンテージは「自分だけが知ってる閉じた心」だにゃ。…結構でかいな!?
「その「わかる」は正しいの?そもそもチヌリトリカが感じているものが間違えている可能性はないのん?」
「それは否定できないさ。でも、チヌちゃんが感じてたこと、それの私の理解に間違いはないはずだぞっ。だって、言わなきゃわかんないことでも、同化してたわけだよ?同化してたのにわかんないほうがどうかしてるぜ☆」
唐突にギャグをぶち込むアキは間違いなくどうかしてるぜ☆。
「それに、同化していても、本質的に私とチヌリトリカは他人だぜ?自分の気持ちを文字通り客観的に見れるんだぜ?当事者には言葉にしがたくても、私ならそれにラベル付けをしてあげられるかもしれない可能性さえあるんだぜ?だから、おそらく確実に、当人より深く理解できてるとは言えるぜぃ!」
確かに。そのあたりは全く否定できないなぁ…。
「「誰にもわからない心」に大事な情報が隠れてる可能性はないのん?」
「大いにあるね!何しろ、私が拾えるところもところどころ靄がかかっているような、整合性が取れないようなところがあるからにゃあ…。まぁ、それでも、私が知り得た思いは本物だ。故に、私は武器を取ろう。たぶんそれがきっと最適なのさ。”May be”」
なるほどねぇ…。
「手加減はしてくれないのん?」
「はっは。するわけないじゃん。豆板醤!私は私の信念に従うのさ。通すなって言われたのにこっちの都合で習君、四季ちゃんを通した関係上、これ以上のサービスはダーメ」
不義理ってことねん…。チェッ。だったらしゅーや、しーちゃん達と一緒にボコればよかった。いまさら言ったところで詮方ナイチンゲールなんだけど。そもそも、一緒にボコらせてくれたかどうかがまず怪しんだけど。
はぁ、種をこっそり取り出して落とす。都合よく…というかいつの間にか誘導されてたんだろうけれど、最初にぶち開けた穴のそばだし。
「もういいよね?」
「よくはないけどね」
アキがそういう子だとわかってるから、頭で納得はできる。だけど、感情がついていかない。でも、やることはやっとく。種に魔力をこそっと流す。
「だろうね。でも、時間切れ。話してばかりは」
「「さすがに不義理」」
ふん。文はアキの幼馴染だぜ? 何を言うかはわかるさ。
「上等。なら、お話はここまでだ!」
「あいあい!行くよ!」
アキの水晶玉が光って、嵐がぎゅるぎゅる一つに固まってく。同時に、文の種は魔力を得て成長。根を穴から湖へ下ろし、水分を吸収しながら魔物を巻き込み殺す。文の魔力と、魔物からパクった魔力でぐんぐん成長して人型に…、ってアキもなんか人型になってるっぽいんだけど!?
「「またかぶってんじゃん!?」」
ま、それは兎も角、真四角。
「殺っちゃえ!」
「逝っちゃえ!」
ちょっ、アキ。この状況でそれだと死ぬのはアキの巨人…。って、この距離だと余波がやばそう。逃げよう。双子葉類。
「ケンゾ!みんな!ちょい距離とるよ!」
そっから仕切り直しだな! …文の魔力、わりとえっぐい勢いで減ってるけどな!