248話 レシツン=サマル
時系列は前話の続きです。
視点は芯視点です。
銃で鎧の剣をいなして、射撃。
普通の銃なら殴った時点で銃身が変形して暴発の可能性があるが、こいつはシャイツァー。シャイツァーよりちょっと柔らかいシャリミネでは変形しない。
…暴発しないのは結構だが、鎧がシャリミネで出来てるせいで有効打が与えられないんだが。
大剣を受け流し、銃で殴りつける! ―ッ! 硬ぇ! たぶん殴ってるこっちのがもたない! ほんと、凶悪なまでの防御力をもってやがるなこの鎧!
しゃがんで回避。銃口を鎧にひっつけ接射。…うん。効かないな。というか、硬すぎて弾が一切動けなかったっぽい。これも普通の銃だったらout。爆発の衝撃を逃がしきれずに暴発して、お釈迦だ。
避けて避けて、チラと銃口の向きをJマカドギョニロ、Jウカギョシュと滑らせ発射。順の弾がいい目くらましになったのか、命中。
Jマカドギョニロに撃った弾は冷凍弾。氷がゴトッと落ちているから効いてはいるっぽい。だが、すぐに溶かされて、体にひっついていった。たぶん威力が足りてない。
Jウカギョシュは意味がわからん。効いてるのか効いてないのか判別不能。腕をぶち抜いて凍結させたのに、腕切断して即座に生やすとかやめてくれよ…。
鎧の攻撃を銃でいなし、避けて…。さて、どうするか。鎧を直接殴るのは論外。接射しても効果なし。なら、これか?
剣をしゃがんで避け、蹴りを回転して回避。避けながら弾を指で弾き、装填穴で受ける。
「『mode銃剣』!」
銃口から魔力で刃を形成。形成した鋭利な刃でたたっ切る! …のは、ダメか!
「芯!芯!」
何やってんの!? みたいな声。俺に攻撃が当たりそうだから注意を呼びかけてくれてる…かと思いきや、そんな気配はない。じゃあ、何故……あ。あぁ!? シャイツァーでたたっきれないのだから、魔法で作った刃なんかで切れるわけないじゃねぇか!
なら、超高温だ。詰めてる弾を使いきり、空の弾倉に挿入。
「列!順!アークを使う!あんまり直視すんなよ!」
言えば絶対止められる。が、注意を促さないのはあり得ない。
「『神の雷霆』!」
超高電圧。これを用いて発生するアーク放電の熱量で溶け落ちろ! 銃を押しつ…、
「芯!」
なぁっ!? Jマカドギョニロが割り込んで来た!? さっきまでJウカギョシュへの攻撃落としてたくせに…、全部放り投げてきやがった! これは避けられん。
「がっ…」
腹に泥の弾が一撃。貫通は御免被る。上へ滑らせ、流す!
「『回復』!『回復』!」
「もういい列!無駄遣いはやめろ!」
二回もありゃさすがに回復できる!
「でも、すまん。助かった!」
親指をグッとたてると、Jマカドギョニロを大砲でぶん殴る列。幸いなことに、我を失ってはいない。さっき俺に怒られたからか?
ただ、相変わらず絵面がひどいなぁ。華奢な女の子が大砲持ち上げてそれでぶん殴るとかもはやギャグだろ。
ぶん殴ったらさらに殴打。殴打しながら砲弾をたたき込む。そのたびに弾が泥をぶちまけ、四散させる。だが、ある程度の大きさの泥は戻ってきてひっついている。死にはしなさそう。
やはり凍らせたほうがよさげか? それは兎も角、
「やらせねぇよ。糞鎧」
何どさくさに紛れて列を殴ろうとしてやがる。にしても、俺らとJマカドギョニロおよび鎧との距離が近すぎる。Jウカギョシュは遠いのに。
「列、下がれ!順!ちょっとの間でいい!Jマカを持て!列は…、」
「お金!お金!」
お金→両→了解か。さすが列。あれだけで理解してくれた。
俺が鎧を、順がJマカドギョニロと相対。俺は狙撃銃を振り回し、順は機関銃をぶん回す。
順の絵面も列ほどじゃないがひどい。機関銃は機関銃でもミニガンタイプのでかい機関銃だからな…。たぶん、巨大ハンマーとかあるならそっちのが絵にはなる。
俺らが戦う間、列はほどよく距離をとる。俺の狙撃銃は邪魔な魔物を撃てそうなときに火を噴き、順の機関銃は誤射しない時以外は常に火を噴いている。当てないとは思うが、こっちに当てるなよ…。
「『カチューシャ』!『発射』!」
少し距離をとった列が大砲を変化。ソ連の自走多連装ロケット砲を模した砲台から弾を連射する。一撃の威力はそんなにない。が、防御力がカス同然のJウカギョシュならば、爆発に巻き込むだけで塵になるはず。
案の定、Jウカギョシュは必死に回避。Jマカドギョニロは撃墜に必死になり、鎧は俺を抜け、列を止めようとする。
だが、甘い。さっきは止められたが…、今度は止めさせはしないぜ? 装填! 『神の雷霆』!
「アーク!」
今度こそアーク放電の超高温で溶け落ちろ!
ッ!
列のところに行くのを中断してまで、俺を蹴ってくるか普通!? で、蹴ったら蹴ったで列の方へ走る鎧。だから行かせねぇって!
「『世界蛇』!」
超重量の弾を鎧の後ろからぶっ放す。着弾した弾は鎧を押しだし、列の砲前に展開される障壁に押しつけた。が、それは一瞬。列がJウカギョシュを撃つためにするり横へずれると、勢いそのまま後方へ。
「『グドストラ』」
列が巨砲を召喚し、即時発射。同時に俺がJマカドギョニロへ殴りかかり、Jマカドギョニロを俺が引き受ける。結果、順が自由になり、順が機関銃で列の砲弾を遮るあらゆるものを打ち落とす!
列が放った弾は吸い込まれるようにJウカギョシュの元へ飛び、着弾。爆ぜて爆風と破砕音をまき散らす。
これで…もダメ! 鎧が動いてる! 列…は少しばかり疲弊しているか? 明らかに魔力を一度に消費しすぎてる。
列と鎧の間に割り込む。ちっ…、ちょい俺らの損耗がでかいな。あんまり消耗したくないのだが。結構な勢いで削られてる。特に列の魔力消費量が俺らの中で大きい。まだ、頑張ってもらわなきゃならないのだが…。
Jマカドギョニロは順が持ってくれてる。鎧は俺。だが、Jウカギョシュはどこ行きやがった!? あいつ自身はたいしたことできやしなさそうだが…、こそっと出てきてナイフでぶっさすぐらいなら出来る。場所がわからないのは恐怖でしかないぞ!?
「油断なさらナイのですネ…!」
「お生憎様だなぁ!うちの大将は頭の回転が結構いいんだ!」
「結構」ってつけるなよ!
「はっ。習とタクの前なら同じ事言えねぇじゃねぇか!」
「やかましい。てか、その場合、お前は…」
「クカカカッ!死ね!この土魔人!」
露骨に話題そらしやがった!
それはいい。だが、そろそろ順もきつくなってくるはず。所詮は後衛。長々前線で戦うレベルの体力はない。決めにかかりたいが…、どうやればいいかがわからない。とりあえず、さっきから何度か試みてはいるけれど一度も成功していないアークを…、
ッ! さすがに、使おうとして失敗。を繰り返しすぎたか。もはや弾を見ただけで同じのをやろうとしてるってばれてら。だが、残念。作り置きの弾は別として、魔力を込めて作り直しさえすれば、別の弾でも同じ効果は出せるんだよ! 作り置きなら、後で「この弾何だっけ?」ってなる気しかしないけどなぁ!
装填! 今までアーク発生の前提条件たる、電気を流す事すら出来てない。だから、そっちを優先する! やったこともないのに、最初から完璧にしようとするのが間違いだった!
引き金を引き、電気を発生、直後に思いっきり頭をぶん殴ってーッ!
「『回復』!『回復』!」
「『回復』!」
…かはっ。おえっ…。当てた瞬間、蹴り飛ばされた。そのせいでこっちまで電気が一瞬来て心停止。その後に受け身とれずに地面に激突。…か? かなり危うかった。
これを喰らったのが列じゃなくてよかったよ、だが、この痛みはどうにもならん。糞痛い! 泣きそう。泣かないけど。てか、列が泣きそうな顔してるのに泣けねぇよ…。
「大丈夫。ありがとう。列。順もな。で、効いたか?」
「アークは知らん!が、電気自体は効いてたっぽい!てか、列!助けろ!心配する気持ちはわかるが、さすがに俺一人で二人を支えるのは無理!」
ちょっ。列! 順にだけ前衛を押しつけてたのかよ!? そりゃダメだ。痛いが体は動く。手助けに入る。…? 鎧が露骨に俺を警戒している?これは…、
「芯!芯!」
ん? ッ!
強烈な殺気を感じてバックステップ。俺が先ほどまでいたところを鎧の大剣が通り、横からJウカギョシュがナイフを突き立て通り過ぎる。
そのままJウカギョシュは視界外へ消える…かと思いきやこっちに来る。んん? 動きが何かぎこちない。ド素人が動画を見て真似しようとしているような感じがする。
なめるなよ…! この程度であれば多少痛くとも十分! 一度の回避でJマカドギョニロを2回撃つ余裕さえある。まぁ、しないが。だが、こいつの動きでなんとなく仮説がたてられた。確かめるためにも動く! 魔力を回し、弾を生成&装填。わりかし持って行かれたが、構わない。
「吹き飛べ。『戦乙女』!」
戦乙女は英雄の魂をラグナロクに備えてヴァルハラへ連れて行くらしい。故にこの弾丸は、人型のそれっぽい奴を遙か上空へ跳ね上げる!
「空高くカッ飛ぶがいい!」
これでしばらく無力化できる!そして、この攻撃をJウカギョシュが受けたのを見たJマカドギョニロと、鎧は…焦ってないな。表面上は焦っているように見えるが、心の奥底では全然焦ってない。よし、OK。これなら証拠として十分。安心して動ける!
「順!俺が列としゃべる時間を稼げ!」
「はぁっ!?日本語で喋れよ!?そうすりゃ通じねぇだろ!?」
…確かに。それなら戦いながらでも問題ないか。
「列!『同時に叩く!そのために…』」
だぁ! 鎧の相手しながらしゃべるのは面倒くせぇ! 先に押さえておくべきだったか? だが、それでも一応、口は動く。舌をかみそうで怖いし、列にちゃんと通じるかどうかも不安。だが、なんとか…、
「『出来るか!?』」
最後に問いかけると列は無言でグッと親指を立てた。しゃぁ! 伝わった! 列ならこのめちゃくちゃなお願いにも答えてくれるはず。たぶん。「出来ないことは出来ないと言ってくれ」と言ってるし…。
「どうするんだ、芯!」
「『時間を稼ぐ』!」
さすがの列も一瞬で準備できるとは思えない。
「不要だろ?姫だぞ?」
……OK、わかった。確かに。おれらの準備の方が、時間がかかりそう。なら、すぐに動くか。
「既にある程度わかってるだろ!」
「あぁ?わからん!聞いてねぇ!」
順ェ…。
「俺に捌きながら聞く技量があるとでも!?」
ちょ、おま。それだと今から伝えてもダメなんじゃ…。
「『鎧を引き倒せ』!『Jマカは打ち上げろ!』」
「『引き倒すだけか!?』」
「『そのまま倒し続けろ!』」
この感じ、順が鎧を持ってくれるのか? なら俺とスイッチして俺がJマカドギョニロを…、
「『芯!派手に行くぜ!』」
…担当交換するかと思ったけれど、そんなことはなかった。はぁ、了解。俺もやりゃいいんだろ!
今日だけで何発使ってんだかわからんが…、『世界蛇』を装填。その横で順がJマカドギョニロの攻撃を受け、後ろへ吹っ飛ぶ。
ちょっ…、出だしから躓いて…、
「『行くぜ!』」
!? あいつ、距離をとるためだけにわざと攻撃受けやがった!? ならば俺も答えねばなるまい。
「『ギガンティックバレットレイン』!」
「『世界蛇』!」
順が弾を乱れ打ち、遅れて俺が一発放つ。順の弾は飛翔するにつれて巨大化。最終的にリンゴくらいのサイズになって鎧を滅多打ち、その質量で行動を阻害する。さすがにウザいのか、剣で撃墜しようとしている最中、弾の嵐を抜けた俺の弾が頭に命中。バランスを崩した瞬間、順の弾が大量に着弾。そのまま押し倒す。
「ははっ!行くぜ!」
順がぴょんと飛び、鎧の上へ。超至近距離から弾をたたき込み続ける。
「やらせはせんゾ!」
Jマカドギョニロが魔法を放つが、鎧で跳ね返った弾で遮られる。じれったくなったか、直接殴るために走り出す。一拍遅れて奴の視界外で俺も走り出し、新たな弾を装填。
鎧の上にいるために、順の位置はちょい高い。だからか、Jマカドギョニロも飛び上がる。それを見て取った順はぴょんと飛び降り奴の狙いからはずれる。結果、俺のほぼ真上を通るJマカドギョニロが残る。
「『飛去来器』!」
俺の放った弾丸がJマカドギョニロに突き刺さり、後方から火を噴きながらJマカドギョニロを天高く持ち上げる。それと入れ替わるように列が鎧の上へ。
「『レシツン=サマル』」
鎧の上で大砲を変化。今回のためだけに作った砲はグドストラに匹敵するほどの巨砲で、その底部はドリルのように尖り、鎧の胸に突き刺さっている。
列が大砲を残して鎧の上から待避しても、大砲の重量で鎧は動けない。列が着地したとほぼ同じ時に、『飛去来器』がJマカドギョニロごと大砲の中に戻ってきて、準備完了。
「列!やれぇ!」
「『発射』!」
列の合図で超巨大電流が大砲の中を駆け巡る。電流は内部の導体をプラズマ化させ、その体積を跳ね上げる。その圧力でJマカドギョニロが打ち出され、反動で底部のドリルが鎧にめり込み、かつ、流れた電気が鎧を通って地面へ逃げる。
「列!トドメを!」
「『発射』!」
今度は砲弾を発射。同じ原理で、されどさっきよりも強烈に撃ち出された弾は再度鎧を痛めつける。飛んでいった弾はJマカドギョニロに追いつき、命中。奴の体を構成する泥を引き裂きながら凍てつかせ、貫通する前に炸裂。衝撃でさらにJマカドギョニロを破壊しながら、飛び散る破片を凍らせる。
その爆発は空に開いた氷の華のよう。だが、その華は周囲の空気まで凍てつかせながら、Jマカドギョニロの体の一かけらまで凍てつかせ、再生をことごとく封じる。
そして華が風にさらわれ散ると、後には何も残らない。
「芯ー」
ぽふっと寄りかかってくる列。
「お疲れ様。ありがとう」
へにゃり笑った列は、すぐに顔を引き締め…、どさっと落ちてきたJウカギョシュに目を丸くする。
「そのままでいいよ。列。見たままだ。一応、連行してきたチヌカの処分はもう終わってる」
だから、気を抜きすぎるのは周りの雑魚魔物の影響でまずいが、ある程度なら構わない。
それが通じたのか列は邪魔にならないように俺の背後に回ると、ぐでーと寄りかかってくる。
「芯。なんで終わったって言えるんだ?」
「Jマカドギョニロは列の砲弾で再生不能。Jウカギョシュは本体たる鎧…、真Jウカギョシュとでもいうべきやつを破壊した。だからだよ」
言っても詮方ないことだが、能力がJなしと全然違うじゃねぇか!? 習や清水さん達、外見はほぼ同じとか言ってたはずなのになぁ…。そのくせ、中身違うとか詐欺だろ。ゲームで出てくる亜種(という名目の手抜き)でさえ、体色は違うぞ…。
「五?五?」
五から「つ」をとって「いつ?」か。
「何時気づいたって言われてもな…。戦ってる最中としか」
Jウカギョシュを吹き飛ばしても、鎧は動じていなかった。無駄にJウカギョシュの復元力が高かった。こいつらがヒントだが…。確証はアーク…というよりは電撃。鎧に受けさせればいいのに、鎧が電撃を受けるのが嫌で、Jウカギョシュが出張ってきた。これほどおかしな事はない。Jウカギョシュが本体なら、鎧なんて放置していてもいい。多少魔力に影響は出るだろうが、お金だけあっても、死んだら意味がない。
それに、Jウカギョシュの動きはぎこちなかった。鎧はちゃんとしてるくせにな。
「つまり…、鎧が本体で、Jウカギョシュは分身みたいなものってことか?ミズキちゃんみたいな」
「ミズキちゃんではないと思うぞ。こいつのはたぶんただのラジコン。ミズキちゃんみたく、完璧に動かせるわけじゃない。それに一人しか出せないみたいだしな。だが、痛みも感じないっぽいし、魔力ある限り一瞬で再生できるみたいだけどな」
だから、劣化ミズキちゃんというわけではない。
「Jウカギョシュだけ出てこられたらまずかったよな?」
「おそらく」
鎧を倒さない限り、常に一人は出し続けられるはず。そうなると倒しても倒しても出てくるだろう。いつか気づくだろうが…、鎧(真Jウカギョシュ)を見つけられるかが疑問だな。普通に詰みかねない。
「何故、同時に出してきたんだ?」
「知るか。習とか、百引さんの幼馴染み達とか、そのあたりに聞け」
もしくはチヌリトリカか、今は亡き真Jウカギョシュ本人か。
「芯、行くぞ」
「もう少しだけ待て。少しだけ疲れた。休憩させろ」
速攻戻りたいが、少し遠い。体力回復してからの方が魔物を蹴散らしやすくなるから、結果的には安全だ。
「なら、あの大砲はなんだ?」
「『レシツン=サマル』か?アレの名前は小っ恥ずかしいことに俺と列。それと元ネタの武器の複合だ」
元ネタは『サーマルガン』。『サマル』はそこからとったっぽい。
「簡単に言えば銃弾の推進力を火薬の爆発から、プラズマ膨張に置き換えた銃だ。日本で作ろうとすると下手すりゃ銃刀法に引っかかるぞ。作るなよ?」
捕まっても俺は知らんぞ。
「原理は?」
「弾薬代わりの導体に大電流を流すと導体がプラズマ化して体積が大膨張する。それを推進力に撃つ…そんなもの。確か、習と清水さんがこのニッズュンで…、確かシュガーだったっけ?あれと戦ったときに水蒸気爆発起こして、それで吹き飛ばされてたよな?体積膨張を推進力にするって点ではそれと同じ」
体積膨張を推進力にしているって点以外はかなり違うけどな。
「レールガンじゃないのか?」
「違う。レールガンは加速にローレンツ力を使う」
「ローレンツ…、あぁ!フレミングか」
そう。それ。フレミング左手の法則。
「電流の流れる向きに直角に磁力がかかっていれば、電流はそれらがなす平面に垂直な方向へ力を受ける。弾丸はその時の力で加速する。だから、発射体に電流を流さないと成立しない。Jマカドギョニロに電流は流れるだろうが、十分に加速できる気がしない」
あれはローレンツ力で加速する。すなわち、電流が流れ続けにゃならんわけで。途中で導線から離れてしまうと加速できなくなって、加速不十分になりかねん。
「リニアは?」
「あれは磁力じゃねぇか。ずらっと並んだ電磁石に電気を流して、NSを切り替えることで、発射体を引っ張って加速する。だから発射には発射体…、Jマカドギョニロを磁力で引っ張れないとダメだが、あいつ、たぶん磁力ないぞ?」
だからそもそも加速しないんじゃねぇかな。通常の条件なら磁性体は鉄とかニッケルとかだった気がするから、泥に含んでいれば磁力で動くが…。確か、加速される方も電磁石がなかったらダメだったような。いや、別にSNどっちかの極を持っていれば良かったか…?わからん。
「コイルガンは?あれも発射に電気使うはずだろ?」
「そうだが…、なんでおまえ名前知ってるくせに原理全然知らないの?」
「名前しか興味ないから」
さいで。ドイツ語の一部のカッコイイ単語だけ知ってて意味をよくわかってないみたいなものかね?
「あれは電磁誘導を使う。発射路と軸が一致するようにされたコイルを用意。それに電流を流すと、コイル内部に磁界が発生する。それを使って加速する」
「あぁ、右ネジの法則」
言ったら関連法則名出てくるじゃねぇか。
「つまり、これも使えんな」
そりゃな。リニアと一緒。Jマカドギョニロが磁力を持ってるとは思えない。故に加速不能だろう。
「サーマルガンは、体積膨張か。…うん。押し出すだけだからいけるな」
「だろ?」
だから電気発射の時点で選択肢はサーマルガンしかあり得ない。
「なんで電気発射?火薬でも反動は出るだろ?」
「反動だけを考えたら確かに火薬でもいい」
というか、よくわからん電気発射より、火薬の方が間違いなく撃てるというメリットがある。
「だが、鎧がシャリミネだぞ…。最悪、二回反動で思いっきり大砲をめり込ませても。ぶち抜けない可能性があった。だから、電気。シャリミネは金属。金属なら電気は流れるだろ」
金属は自由電子で原子が結合している。その自由電子がある限り、流れないなんて事はないはず。魔力的な何かが思いっきり干渉して電気流れません! とか、金属でも電流が流れない! だと頭抱えたけど、幸いそんなことはなかった。
それに電気ならシャリミネの電気抵抗が鎧内部の真Jウカギョシュより高ければ絶対に電流はチヌカを通る。低くても大電流。いくらかは流れる。ダメージを与えることは可能なはず。そう考えたが…、
死骸を見る限り、シャリミネはシャリミネ以上に硬いシャイツァーから与えられる強い衝撃に耐えられずえぐれている。そして電流は真Jウカギョシュを流れて肉を焼いている。反動だけで真Jウカギョシュをぶち殺せなくても、焼き殺せるように…と思ったけど、普通に体貫通してる。
「なるほど。なら、回路は?」
「回路に電気が流れたらアース(鎧を通る)から地面に逃げる。そんな回路」
回路としては一周してないけれど、地面があるから問題なく電気は流れる。大砲底部がアース代わりだな。
「列は平気なのか?」
「しばらく休めば回復するだろうが…、さすがにドカドカ使いすぎ。ちょい疲弊して寝かかってる。しばらくすれば起きると思うが」
「了解。なら、俺は青釧さん達のところに行ってくる。この位置ならおまえ一人でも守り切れるだろ?」
はっ。当然だ。
「我を誰と心得る?我は臥門芯であるぞ?」
「了解。なら、任せた。ちょっと休んだら来いよ」
そう言った順はさっさとかけだした。すまない。順。
即追いかけても良いが、少し休んだ後、我らも行くか。姫が少々危ういのもあるが…、今、順を追うと巻き添えを食らいかねない故。
注意と解説的なもの
作中に出てくる「アーク」とは「アーク放電」のことです。「アーク溶接」等に活用されています。
光の直視は目を傷めるので駄目。防具がないと火傷する可能性有…と、本編のような状況でやろうとするのは論外なので真似しないでくださいませ。
見てみたい方は動画で見る、もしくは専門家の方に頼んで適切な方法で実演していただくか、体験してくださいませ。
また、電気を利用する砲の解説は魔法の原理説明に入れてますが…。間違えていた場合、ごめんなさい。
以上です。本編ともどもお読みいただきありがとうございました。