247話 遠距離VSジュニア
時系列は244話終了直後。
臥門芯視点です。
「ほな、うちが前に出るわ」
「青釧さんだけに前に行かせへん!俺も出る!」
「じゃあ、あたしも出る!」
頼む。習に「近距離が出来ないわけではない」とは言ったが、我らの武器は銃火器。銃が近距離戦に不向きである純然たる事実だ。
座馬井兄妹に青釧さん。彼女らが前線を担ってくれるならば、我らは我らの出来ることを。
「列、魚を処分しろ」
我の声に頷いた我らが姫はすぐさま砲の向きを変え、砲を重巡サイズへ。その砲から射出された砲弾が大量の魚の死骸に命中し炸裂。一気に破壊する。
「俺はどうする?」
「我とともにJuniorどもを撃て。我らは死骸処分では役にたてん」
順ならば機関銃であるから焼夷弾を撃ちまくれば出来ぬ事はないだろう。が、我はどうあがいても無理だ。手数が足りぬ。
「それは構わないが、兄妹が邪魔で撃てないぞ」
「なら、魔物を撃…ん?一人足りないな?」
「は?うわ、マジじゃねぇか!?」
いないのは…、『リブヒッチシカJunior』か?
「チッ…、いきなり我めがけて撃ってくるトハ!我が狙いが露見していたとでも言うのカ!?」
魚の死骸が積み重なっているところからか出てきたか。列に指示を出したのは我だが、我は貴様がいないことすら知らぬ。故に全くの偶然であるのだが…。言う必要もない。そして、
「死ね。『稲妻』!」
「ひゃっはー!的だー!」
「4、4!」
おい、順!? 遠慮なくぶっ放していい場所にいる敵だからって適当に撃つなよ!? で、列! 何を言っているのか、めっちゃわかりやすいのはいいが、4で「死ね」って言うな。大砲ではなく、高射砲にして弾を撃ってくれているあたり、俺や順の弾丸を消さないようにしてくれてるっぽいけどさぁ…。
稲妻のように早い弾丸と、列と順による大小入り乱れた弾嵐が着弾…、する直前に何かが飛んでいった。
さすがに避けるよな。飛んだやつはそのままひゅっと飛んで、青釧さん達の方へ。
「青釧さん!敵!」
「心配せんでもええよー。うちらの魔法は完成してる」
青釧さんが扇を振りながらひらひら持ち上げると、その後ろに桜吹雪が続く。条二と律さんがそれにあわせ、笛と太鼓で舞うようにJuniorの攻撃を捌くと、緑と白で色づけされた風と雷が三人を包む。
「チッ。奇襲は通用しませんカ!」
「見え見えやったら奇襲にならへんよ。ほんなら、行こか」
自分自身を守れそうな風と雷が飛び交い、桜の花弁が舞う嵐を完成させたのにも関わらず、そこから出て突撃する青釧さん。当然のように兄妹も続くが、嵐はその場から動かない。
「それに触れやんようにしてやー」
「了解。青釧!リブヒッチシカJuniorはおそらく死体を使う!リブヒッチシカとは違うっぽいから気をつけろ!」
一切、あいつらから説明されていないし、直に見たわけでもない。だが、あのタイミングで列の攻撃に巻き込まれるところにいた。そして直後の台詞。おそらく間違いないはずだ。
「やっぱりそうなん?ほんならこっちもわかったこと言うで。ウカギョシュジュニアはシャリミネの鎧一基の使役。マカドギョニロジュニアは泥を撃つ、泥で自己強化とかする、泥魔法使いみたいやねぇ」
習達から聞いてたJuniorなしのチヌカと全然能力が違うっぽいじゃねぇか!?
リブヒッチシカは瘴気からの魔物生産、ウカギョシュは洗脳。マカドギョニロは泥人形の使役だったはずなんだけどなぁ!?
Juniorとは一体どういう意味なんだよ…。継承者じゃねぇのかよ。百引さんは何も考えてないのかもしれないが…、リブヒッチシカは魔物生産。ウカギョシュはシャリミネの鎧の使役。マカドギョニロは泥。一部は被ってる。
ウカギョシュだけはサブ能力みたいなものだが……、考えてもわからん。
俺がわかるぶっ飛んだ考え方するやつは列だけ。有宮と百引は対象外だ。…習と清水さんは両方翻訳出来るっぽいけどな! すげぇ!
「ナッ…。まさかこちらの情報が読まれるトハ!?」
「勇者だゾ!?この程度の把握はお手の物って事だろうナ!」
泥をこちらに飛ばしてくるマカドギョニロJuniorと、動揺してたくせに速攻復帰して鎧を青釧さん達に突っ込ませるウカギョシュJunior。
泥はたたき落とす。逆に撃っ…たところで通らないな。チッ。
「行け!我の子らよ!」
「落ちろ」
魚の死骸から作られたような継ぎ接ぎのカジキもどきは順の弾幕の前に肉片と化して消える。
「ガンガン行くで!りっちゃん!」
「望むところや!兄ちゃん!青ちゃんもええよな!?」
「二人がええんやったらええよー」
座馬井兄妹が演奏に専念し、青釧さんが舞うように扇で攻撃しながら謳う。無差別に花弁と緑風と白雷が散って、周囲を破壊する。
今更だが俺らと青釧達、相性が悪すぎる。俺らは俺だけ精密攻撃だが、残りは範囲攻撃。余裕で巻き込む。そして青釧達は近距離戦をしながらも攻撃が出来るが、やっぱり範囲攻撃。巻き込まれかねん。
しかも、青釧さん達が使っている魔法は発動したら最後、効果が切れるまで攻撃をばらまき続けるもの。巻き込まれやすさアップだ。青釧さん達自身が近距離戦闘をしてくれているし、その不足を補うためだろうから文句は言えない。……仕方ない。あまりやりたくなかったが。
「青釧さん!禁じ手とっても構わないか!?」
「ええでー」
許可はもらった。たぶん何をするかまでは通じてないが。「巻き込む何かをしない」という信頼の上で言ってくれてる。なら、それに答えるまで。
敵を連れ去って無理矢理こちらの土俵に乗せてやる。
誘拐するなら魔物を増やせるリブヒッチシカより、残り二人のどちらかを拉致する方がいい。だが、周囲の魔物は列が処分してくれているけれど、どんどんやってくる。青釧さん達はたぶん動けない。であれば、俺らが二人を持つべきだ。
「UJ!MJ!」
「…あぁ。RJ!MJ!」
通じた! ナイス! MJだけわからないが、たぶんMonsterだろう。Jはほか全部についてるからつけただけか。まぁ、いい。行k、
「芯!行くぞ!」
え!? ちょい待って。早いよ。条二! なんで早々にウカギョシュを確保できてるんだ!?
「風やからな!そぉれ!」
理由になってない! 風だから速度強化したとかか!? だぁっ!
「列!」
コクッと頷いた列が大砲の口で笛に串刺しにされ、放り投げられたウカギョシュを受ける。
「『発射』!」
一切の躊躇も、慈悲もなく発射。…はいいが、あっちは獣人領域側じゃないぞ!?
「巻き寿司、巻き寿司」
? 寿司は余分ぽい。巻き…巻き込む? …あ。あぁ。なるほど。獣人達を巻き込まないようにしてるのか。なるほど。賢い。
ウカギョシュJuniorは飛んだ。鎧は…全然気にしてないな? 与えられた指示を遂行し続けるタイプ? わからん。が、
「硬くても持ち上げることは出来るで!」
律さんが床を雷で砕き、鎧の足場を不安定に。そこを青釧さんが叩き、完全に体制を崩す。鎧の下に列が大砲を潰して差し込み、口の中へ。くるり方向を変えて発射。
マカドギョニロJuniorは…、俺に来るか。俺が一番何もしてないからな!
「クカカッ!弾けとべぇ!」
が、こっちに来る前に無駄にテンションの高い順に滅多打ちにされ…たが、効果はなさそうだ。なら、俺を狙っていることを活かして走って引っぺがす! 『身体強化』。さぁ、逃げるか!
「鬼ごっこだぜー!」
逃げながらも弾幕を張る順。ぶちかませて楽しそう。頼むから青釧さん達には当てるなよ。後、鬼ごっこと言っているが、泥がガンガン飛んでくるんですが。鬼ごっこというには野蛮すぎない?
「じゃあ、障害物競走だぜ!」
障害物(後ろから飛んでくる)とは新しい。まぁ、障害物たり得る泥は攻撃で全部落とされてるがな。
「魔物とかいう的がいるじゃねぇか!」
確かに前から来るな。だいたい俺が射殺してるけどな。…死体は残って邪魔だから、その点で言えば間違いではないのだが。
『列、その角で待て。腹を思いっきり殴りつけろ』
ハンドサインで列に指示を出す。列がコクッと頷き、砲声が轟く。折れた先の安全を確保してから、列が曲がる。
そして俺も左にいる雑魚を射殺し、曲がる。順だけは何も指示出してないし、テンション上がっているからそのまま前進。
弾を取り出し、装填。道のど真ん中、膝をつけて待っていれば…、来た! 俺を狙ってるんだから俺めがけてくるよなぁ!
「『世界蛇』!」
世界蛇の名を冠す超重量弾を発射。半拍遅れて奴が泥を発射。泥を砕くために通常弾を一射。
弾はマカドギョニロの腹を貫き、べしゃっと泥をぶちまかせる。例え体が泥で作られていようが、この弾で受けた力までは打ち消せない! そのまま奴は待ち構える列の砲の中へ。
「ッー!」
チッ。泥を砕いたはいいが、破砕仕切れなかった。地味に回避しきれず足に当たって微妙に痛い。あっ。
「順!」
「あぁ!ったく!さすが姫さんだよっ!」
元のノリに戻った順が、弾を建物の陰にばらまき、そちらへ逃げる。直後、
「死ね。『発射』!」
俺が傷ついたせいで、猛烈にイラついている列が斜角をマイナスにとった状態で発射。マカドギョニロJuniorは発射された瞬間、床に激突。そのまま床を削り取りながら吹き飛んでいく。
「列!要らないぞ!」
悲しそうな顔をしても駄目だ! 俺らには回復役がいない。回復手段は習達からもらった紙だけ。それを無駄遣いするわけにはいかない。
「大丈夫だ。列。ありがとう。それより、吹き飛ばした場所はわかってるんだろ?案内して」
回復は要らない。それに納得がいかないのか数秒、列はこちらを見つめてきた。が、俺に翻意する気がないと悟ると、誰が見ても渋々とわかる動きで方向転換し、走り始めた。
すまない。列。だが、本当に無駄使いは駄目なんだ。本当に使いたいときに使えない。それだけは避けたい。
「めっちゃくちゃやりやがるな!姫!」
「軽くキレてたからな」
じゃなきゃ吹き飛ばせって言ってるのにゴリゴリ削るなんてしない。どうせノーダメだろうから魔力の無駄遣いでしかない。というか、
「列!頼むから落ちいてくれよ!魔力切れで死ぬとか本気でやめろよ!?」
余裕でオーバーキルの巨砲とか無駄すぎる! お。高射砲に変えてくれた。落ち着いてきたか…? 泥が毒かもしれないとか、そのあたりが強烈に不安なのはわかるが…、冷静にな。
「てか、芯。ハンドサインとか作ってたんだな…」
「必要になったら困るだろ?怪我して声出せないなんてのは、ほぼないだろうが…、風邪が声で出ぬ…というのは十分あり得る話だ」
我が列を止めれぬなら、止められる人間が非常に限られる故な…。
「風邪で声が出ないというありそうなシチュエーションよりも先に、異世界召喚されて意図をこっそり伝えるために使う羽目になった感想をどうぞ」
「俺が想定してたありとあらゆる可能性の中で一番ぶっ飛んでて笑う」
あっちにいたときは「飛行機が爆発してアフリカ砂漠とかアマゾンに落ちたら必要」が最高にあり得ないレベルの可能性だったんだがなぁ。飛行機爆発してるのに生きてるって”situation”がそもそもほぼあり得ない。
「芯!芯!」
見えてきたか? 案内を頼んだけど、ゴリゴリ削った先を辿って行くだけで吹き飛ばした奴らに追いつけたんだな。
案の定、全員無傷っぽい。シャリミネ製の鎧には傷一つない。マカドギョニロJuniorも泥だからか無傷。ウカギョシュJuniorも無傷。ウカギョシュは一番に打ち出された。地面に激突して怪我しててもおかしくないはずなんだが。…ひょっとするとひょっとするか?
「遠距離戦行くぞ!期限はあいつらが接舷してくるまでだ!」
「船じゃねぇんだから、舷はおかしいけどな!」
順の言葉に列が激しく頷く。うるさい。大体のnuanceは伝わるんだからいいじゃねぇか!
「はっはー!死ね死ね死ねー!」
聞いてねぇし。こいつ、速攻でテンション崩壊する癖? 治した方がいいと思う。
列がマカドギョニロJuniorを大砲で狙うが、当たらない。さすがに一撃で死ぬ可能性があったら死ぬ気で避けるわな。現に順の乱射は当たってる。尤も、それも鎧とマカドギョニロJuniorにだけだが。鎧は弾いているし、マカドギョニロは泥をぶちまけるだけ。後方にいるウカギョシュJuniorに届かない。
さすがに弾種を変えるべきだとわかっているのか色々変えてるようではあるが有効打がない。二人の攻撃で背後にから沸いてくる雑魚魔物どもはガンガン吹っ飛ばされてはいるが。
俺の弾は当たる。が、ウカギョシュJuniorを狙っているにも関わらず、堪えている様子がない。カス当たりだからか? だが、仰け反ったり、肉が飛び散ったりはしているのだがなぁ…。これはやっぱりひょっとする?
「列、Jマカドギョニロはいい。別のを狙え」
…Jって何? って顔すんなよ。いい加減、マカドギョニロJuniorっていうの、長くて鬱陶しくなってきた。それだけだから。
それは兎も角、列の攻撃はJマカドギョニロを一撃で吹き飛ばせるだろうが、距離があるせいか当たらない。当たりそうになっても泥を飛ばして落とされる。だったらほかを狙うべきだ。
列もそれをわかっているのか狙いを変える。躊躇なく生身のJウカギョシュを狙いに行く当たり、容赦ねぇなと思わなくもないが、正解だ。
大砲の弾が命中…してくれたらいいのだけど、しない。さすがに当たりたくないのか避ける。あいつ自身に撃墜する方法はないのか間一髪避けていたり、Jマカドギョニロが撃墜したりしやがる。さすがに俺の攻撃は通りさえすれば当たるが…、超超積極的にJマカドギョニロが邪魔しに来る!
だぁ! これ、Jマカドギョニロまで連れてきたのは失敗だったか?
反射で狙う…のも通らない。俺らが近すぎるから撃墜しやすいのは確か。だが、俺らのうちの誰かが抜けて狙うなんてしようものなら、各個撃破されて終わる。俺は兎も角、列も順も長時間の近距離戦闘は不可能だ。
あーもー! どうする!? Jマカドギョニロは俺や順、列の攻撃落としつつの接近をしてくる。まだ余裕があるが、鎧は弾なんざ効かないって感じでガンガン迫ってきやがる! 俺が鎧をもつのはほぼ確定だが…。そうすると命中精度を鑑みりゃ、Jマカドギョニロが割とフリーになるのは確定。
ちょい本気でJウカギョシュの頭ぶっ飛ばすか。…どうせ再生される気がするが。
「順!列!どうせだから一回やってみる!」
列も順も頷いてくれた。順は聞いてくれないかと思ったのに…。
殺る。邪魔されてしまうならば、鎧にもJマカドギョニロにも、Jウカギョシュにさえ邪魔されなければいい。
『不可視の魔弾』を取り出し、装填。この弾は打ち出されても見えない。が、だからといって馬鹿正直に狙う必要もない。壁、魔物、こいつらの位置、材質を考えて…、
引き金を引く。直ちに装填。『消音』を発動。こんどは真っ向からJウカギョシュを狙う!
轟いた銃声は一発。Jマカドギョニロの目の前には飛んでいく普通の弾。だから、奴はそっちに気をとられ、不可視の魔弾には気づけない。カッ、カッっと奴らの視界外の壁と床で反射。
「ぎゃがっ」
よし、命中。だが…、効いている気がしない。根源的に何か間違えている気がする。
しかしここでタイムリミット。
「二人とも!鎧はしばらく俺が持つ!」
了解は得ない。はなから俺が持つのは確定してるのだから。さて、いい加減こいつらを倒したいが…、近接戦闘しながら出来るか?