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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
1章 バシェル出国とフーライナ
28/306

閑話 ある主従の会話

三人称のつもりで書いてます。

 バシェル王城の玉座の間。普通ならば王様しか座れないはずの玉座。その上に女の姿がある。そして、その前には跪く一人の男。部屋は暗く、異様な雰囲気を醸し出している。



「で、ルキィと矢野、望月、天上院は出たのよね?」

「はい、そうでございます」

「そう、邪魔ものがいなくなったのね。こっちも動くかな?」


 自分は偉い。そんな感じを出したいのか、足を頻繁に組み替える女。男は下を向いたままろくに見ていないが。



「無理です。現実を見てください」


 と男は淡々と言う。そんな言葉に女は顔を顰めた。



「なんでよ?あたしを誰だと思っているの?」

「我らが主、チヌリトリカ様です」


 質問を受け、すぐさま答える男。まるで質問が来るのを予期していたかのようだ。女は満足そうな顔をし、深く何度もうなずく。



「そうよ、そうよね。じゃあ、やりなさいよ」

「だから、無理です」

「だから、あたしを誰だと…」

「出来ないことは出来ないんですよ。あなただって、やっと復帰したんでしょう?全く完全じゃないじゃありませんか」


 男は、女の言葉を遮って、バッサリと切り捨てた。女は、ムーと膨れる。かなり不満そうだ。



「それと、」


 男は言葉を切った。



「何よ?」


 さっさと早く言いなさいよ。そんな言葉が省略されていそうだ。



「何のために暗くしているのです?」

「雰囲気」


 あっけらかんと言い放つ。男は跪いたまま頭を抱えた。かなり変な格好だ。



「明るくしても?」

「ダメよ。あんた、今何時だと思ってるの?」


 馬鹿じゃねぇの?お前?そんな顔をしている。



「……今のあなた様風にいうなら2時ですかね」

「そうよ。真夜中のよ?みんな、起きちゃうじゃない」

「まともな理由、あるじゃないですか…」

「あら、そういえばそうね」


 今にも男は叫びそうだ。



「そういえば、勇者共はどうなってるの?」

「あん、ゲフンゲフン。あなたもいたでしょうに…。まあ、いいです。説明しますよ?

北が今日出た、モチヅキ一派。東がモンガ一派、南がオウセン一派。西が、ヒャクビ一派ですね」

「そっか、あたしは、目的地があるんだけど…」

「そのために調整したんですよ?モチヅキ達が北でよかったですよ。本当に」


 男は顔をあげて、すさまじいまでの冷めた目で女を見る。



「きゃーこわーい。あたし泣いちゃう」

「はいはい、どうぞ。いいですよ」


 かなりぞんざいな発言だが、女はそんな反応でさえ、嬉しそうだ。



「あたしに反抗する奴って少なくてさー」


 と、女が突然切り出す。男は面食らったような顔をしたが、



「あなたがそういう風に作ったからでしょう。かくいう私もこういう風に作られていますから」


 首をすくめる。



「そうだったわね。今度は、あんたみたいなのも作ろうかしら?」

「どうぞ、ご勝手に」


 男の突き放すような言葉、それにもやはり嬉しそうに、玉座の上で悶えている。



 しかし、それでもなお、男は離れることはない。話し相手でいることを強要されているからだ。さもなくば死ぬ。



「ところでさ」

「はい?何でしょう」

「うちのクラスの名前、独特なの多すぎない?」

「は?」


 男はきょとんとした顔をする。



「だってさ、なかなかすごいよ。北が望月光太でしょ?それと天上院雫。苗字が固いよね。矢野だけ、普通だね。東は…」

「ガモンですけど?」

「そうそう、臥門がもんね。臥門芯がもん しん。絶対、こいつシャイツァーあれよ。銃だよ!」


 男は知らねぇし、地球の話をするなよ。とでも言いたげだ。近いうちに胃に穴が開くだろう。



「でさ、南が…、確か、青釧美紅おうせん みくだよ?どうやったら、苗字そう読むんだよ。と言いたくならない?ならないかぁ…」


 男はますます「だから、知らねぇ。」という顔になった。男の毛根は将来壊滅することが約束されているだろう。それにもかかわらず、女は続ける。



「で、西が百引晶ひゃくび あきだっけ?もう、ツッコミどころしかねぇわ。ハハッ」


 男は「ちょ、お前何言ってんの?」という顔だ。男は若くしてはげそうだ。



「で、捜索組が…、西光寺だったか。こいつらもすごくない?寺だよ寺?」


 そろそろ男は疲れてきたようだ。目から生気がなくなった。白髪になるのも早いかもしれない。というより、こいつの髪は半分ぐらいすでに白い。最も、作られた当時は全部茶色だったはずなのだが。



 なお、女の理論で行くと寺内や、寺井を始め、数多くの寺のつく名字はあるわけだが…。女はまるで気にしない。そもそも女がどういう点ですごいと言っているのかが不明瞭だ。



「あと、リーダー格というと、二人抜けてますけど?」

「ん?えーと、誰だっけ?あたし、たぶん、面識ないぞ?」

「モリノとシミズです」

「おお、超普通」


 男は、「そこじゃない。」とでもいいたげだ。頭を掻きむしると、毛が数本抜けた。ハゲが加速した。



「冗談だよ。冗談。ああ、思い出したけど暗殺はもういいよ。西光寺も森野も。普通、高校生が人殺して、なおかつ証拠隠滅までするかね?うちの国、修羅の国じゃねぇぞ?」

「最後は知りませんけど、いいのですか?」


 まじめな話に戻ったからか、男の目に生気が戻った。



「ん?ああ、殺すの?別にいいよ。あればうれしいから狙って行ってもいいけど…。ただ」

「あたしじゃ無理なんだよね。今は」


 女は自分の体を指さし、



「これと、これのお仲間で手一杯。あんた何とかしてくれない?」

「無理ですね。王と、王女それで手一杯です。暗殺者たちは心をへし折られてますから。昔はいけたかもしれませんけど、処分しちゃいましたから」


 一応、信仰対象を襲撃…、あれは襲撃といえるのだろうか。



 まぁ、それはともかくとして、王の命令で襲撃して、失敗。その上で、西光寺薫によって、精神的ダメージを受けた。彼らはもう、勇者襲撃はしないだろう。直属の上司の命令でもない限り。



「あんたは大丈夫なの?」

「私ですか?私はそもそもあれぐらいでへこみませんし。そう作ったのはあなたでしょう?」

「それもそうだね、じゃあ、あたしは寝る。昔は寝なくても、一人で何日も遊べたんだけどな」

「古戦場に行かれるのですね。わかりました。手配しておきます。あ、そういえば…」

「何よ?眠いのよ。早くしなさい」


 不満でいっぱいという顔で、女は男をにらむ。



「リブヒッチシカが復活のために、隣国で暗躍しているそうですが…」

「リブ…?リブロ―ス?美味しいよね」

「ところどころ向こうの話を持ってこられても困ります」


 再び男の目が死んだ。



「そっか、じゃあ、チヌカ作れるようになったら、付き合ってもらえる奴作るわ」


 とだけ言うと、いそいそと寝室に行こうとする。



「そうしてください。って、そこじゃないです。まだ、寝ないでください。どうします?呼び戻しますか?」

「いーよ、構わない。面白いモノ作れるかな?と思って、あいつ作ったけど、基本ワンパターンだし。なんか設計がトチ狂ってるし」

「そりゃ、あなたが作りましたからね」

「どういう意味よ?」

「そのままの意味ですよ。一人しかいなかった白地から、わざわざ出てきて、戦争吹っ掛けたのはあなたですよ?」

「そうだったね。今度こそは勝つよ」


 親指をグッと立てた。



「じゃあ、おやすみー」


 今度は「邪魔を許さない」そんなオーラを出して、せかせかと移動して、バタン。扉が閉まる。



「明かりをつけなかったくせに、あんな音立てたら…はぁ…」


 大きなため息をついた。



「まぁ、仕方ない。俺はチヌカだ。あの方のために生きて、あの方のために死ぬ。そういう生き方しかできん」


 男は独り言を言うと、せっせと、部屋の掃除を始めた。



 掌握できた人数はかなり少ない。ゆえに、ばれないようにする必要があるのだ。音のせいで、衛兵が来るかもしれない。なので、男は素早くやらないといけないのだ。たった一人で。

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