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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
8章 再人間領域
275/306

閑話 ミズキのイベアへの手紙配達

ミズキ視点で、時系列はアークライン神聖国編より後。樹軍戦より前です。

約6000字です。



 無事、イベアについたわね。基本的に人間領域を飛ぶ人型なんて魔族ぐらいしかいないから、撃墜されてもおかしくなかったのだけど…、到着出来て良かったわ。



 それにしても…、父さま、母さまの記憶にあるように何もない場所が多いわね。この辺りはまだ自然があるわ。でも、もう少し行っちゃうと自然は街のそばのオアシスくらいにしかなくなっちゃってるわね。



 イベアに入っても、首都スポルトはまだ遠いのだけど。スポルトなら王族4人の誰かには会えるでしょうけど…、近場で誰かに会えないかしら?



 …なんて考えてたら森の中にメイドさんがいるわね。上からで距離があるからよくわからないけれど…。一人ぼっちで森にいて、何故か森深くに入ろうとしている気配があるわ。ひょっとして方向音痴のクリアナさんじゃないかしら?



 彼女がいるなら、ディナン様も近くに居そうね。ちょっとカレン姉さまに止めてもらいましょう。



 止まったわ。ありがとう。カレン姉さま。見る限り…付近にはあのクリアナさんらしきメイドさんしかいないわね。むぅ。微妙ね。あれがクリアナさんなら、ディナン様は近くにいてるでしょうから、降りる意味はあるわ。でも、クリアナさんじゃなければ、降りちゃうと無駄に手間がかかるのよね…。



 あら? メイドさんが棒を拾ったわね。童心に帰って振り回す…なんてことはしそうもないわね。棒を道に立てて、手を離す。あれもよく父さま達が子供のころやる遊びよね?



 棒が示す先は…思いっきり森ね。道に対して90°。完全に道から外れるわ。え゛。待って。本気? 本気なの!? 何で棒に従っちゃうわけ!? それは蛮勇よ!? 意味が分からないわ。



 あれかしら? 「安価は絶対!」とか「サイコロの神を信じよ」的なノリで生きてる人種なのかしら? …ないわね。命かかってる場面でそれはないわよね。どう見ても迷ってるわ。



 挙句、彼女がいる地点はちょっとうねってはいるけれど、道沿いに行けばイベア方面の開けた場所に出れる位置。間違いないわね。クリアナさんね。ディナン様は…ッ! いるかわからないけれど、本格的に森に入られる前に止めましょう。手っ取り早く飛び降りましょ。



 手を離して落下。森の中に降りるのは手紙が引っかかっちゃうかもしれないから、道スレスレに落ちられるように調整して…、地面ギリギリで手紙を上に投げ、アタシを召還。



 これでよし。ッー! 何度やっても痛いわね。手紙を確保して…、



「動かないでください」


 たらクリアナさん(仮)に思いっきり背後取られちゃったわね。まぁ、声も貰った記憶にあるのと同じだから(仮)は要らないでしょうけど。



 そもそも、黒髪のアタシに躊躇いなく刃を向けられるメイドさんなんてそうそういないでしょうし。…いきなり真後ろに降ってきた不審人物になら誰でもできそうな気がするけど、その辺りは無視しましょう。



「刺客ですか?」

「違うわよ。手紙を届けに来たらメイド服だけ着て、森の中に突っ込むとかいう謎行動しようとしてる人がいたから止めに来ただけよ。『クリアナ=ベルディー』さん」


 これで違ってたら無駄足よねー。あり得なiぐえっ。



「それが何か?」


 待って首に押し付けられてる剣が薄皮切ってるわ。それに首が若干締まってる…。しかも声のトーンが落ちてるわ。



 あ゛。やらかしたわ。刺客じゃないって言ってるのに名前確認なんてしてたら、刺客がターゲットか否か判定してるみたいよね。



「ごめんなさい。アタシは森野習と清水四季の娘、瑞樹(みずき)です。二人の知り合いの王女ルキィ様より、貴方の主か、国主への御手紙を届けに参りました」


 考えてみれば初対面なのに口の利き方不味かったわね。相手がメイドさんでも、手紙届けに来たならある程度の礼は必要だったわ。…貰った記憶のせいだけど、それは駄目よね。



「え?モリノシュウ様に、シミズシキ様の娘…です?」

「えぇ。二人の娘よ」

「くっ!先を取られましたか!」


 何の先を取られたのかわからないけど、信じてもらえたっぽいわね。



「ならば、私も急がねばなりません…!」

「待って。何処に行くつもりなのよ」

「ぐえっ」

「あ。ごめんなさい」


 でも、貴方が悪いのよ? 何故すさまじい勢いで森に入って行こうとするのよ…。



「そんなの決まってます!子供を作るのです!」


 あぁ、「先を取られた」ってそう言う事なのね。



「落ち着いて?どう考えてもアタシ、母さまのお腹から生まれてないわよ?妊娠出産成長がみじ「わかってます!ですが、お二人の実娘でしょう!?」え、えぇそうだけど」


 それがわかってるなら何で…、あー。子宝の泉で授かったって思ってるのね。それで先を取られたと…。



「兎も角、合流しませんと、いえ、それよりシュウ様とシキ様を問い詰める方が先…?」

「いや、そこは合流しましょうよ」


 アタシの目的のためにも。



 あら? あららー? 何故にクリアナさんの目が獲物を狙う肉食獣のような目になってるのかしら?



「そうですね。そのほうがよさそうですね」


 末尾に(いろんな意味で)って付きそうな言い方で、舌なめずり…。アタシ、選択ミスした気がするわ…。最悪、手紙渡してとんずらしましょう。えぇ。



「さ、イベアの方へ、ディナン様の元へ連れてゆくのです!…あ。イベアの方角わかりますよね?」

「この道を逆走すればすぐイベアよ?」

「ほんとですか?…うわ。ほんとですね」


 ほんとですね。じゃないわよ。何でこの距離で迷えるのよ。二地点が直接目視出来なきゃダメなのかしら…。それでもこの距離で迷うのはなしよね。せめてどっちから来たかぐらい覚えておきなさいよ。



「見つけた。おい!クリアナ!」

「!はーい!愛しのクリアナが参りますー!」


 「飛んでいくよう」っていうのは今みたいなのを言うのかしら。呼ばれると同時くらいにばびゅって音を立ててディナン様(仮)のほうに飛んでったわね。



「何故だ?何故お前は勝手に来た?お前、勝手について来たろ?お前、対魔族布陣を敷くのは国境沿いの何もねぇとこだってわかってたろ?迷子になるのは確定的だろうが。だのに何故来た?」


 真面目な顔で問うディナン様らしき男性。



「貴方が好きだから!」


 クリアナさんが即行で頭融けてるの? って言いたくなる答えを返したわね。



「好きって言うなら城にいてくれ。即行迷子になられると心臓に悪い」

「え?ディナン様の心臓はシャイツァーじゃないですかー。やだー」


 駄目だこの人。お疲れ様。ディナン様っぽい人。



「ん?貴様は誰だ?」

「え?今更です?」

「話の腰を折るな」


 よね。話を続けにくいわよ…。まぁいいわ。



「お初にお目にかかります。『フェルベル=ディナン=イベア』様。アタシは森野習と清水四季が娘、瑞樹と申します。以降お見知りおき下さい」

「あの二人の娘か。なら、普段通りに喋ってくれて構わないぞ」

「ありがたく」


 勇者という名の持つ力は本当に偉大よね。王族でさえ普段通りで良いって言ってくれるもの。



「あれ?私の時こんな礼を尽くされなかったのですけど?」


 クリアナさんだし。



「お前だからだろ」

「何故です!?私、侯爵令嬢ですよ!?偉いんですよ!?」


 わお。父さまと母さまの記憶から割と偉いと思ってたけど…、めっちゃ偉いわね。王族、公爵は王族の身内じゃないと駄目だから、実質、王族以外の最高位ね。



「でも、令嬢は爵位を継いでないわよね?」

「ミズキの言う通り。こいつが偉いわけではない。周囲が勝手に配慮するだけだ。そしてお前は令嬢は令嬢でも「残念」令嬢だ」

「ひどいです…」


 事実だから酷くないわよ。さっきのディナン様とクリアナさんの会話聞いてるだけでも既に、何か命令違反してるのわかるもの…。というか、



「侯爵令嬢がメイドさんしているのもかなり謎だものね…」

「こいつの家には既に嫡男と次男がいる。だから融通が利く」


 嫡男と次男がいるなら政略結婚の駒不可避じゃ…あ。なるほど。ディナン様の言ってることは全てじゃないわね。



 クリアナさんがディナン様大好きでそれ以外眼中になくて、ディナン様と結婚してもおかしくない侯爵家。そして、実家も王家との繋がり求めてる。丁度いいしディナン様の御付きのメイドにしてしまえ…といったところかしら?



「貴様も察しがいいな…。だが、それだけじゃないぞ。単純に他の仕事が出来ないというのもある。主にすぐに動いて迷子になるせいで」

「文官仕事は出来ないの?」

「察しろ」


 はい。クリアナさんは文官仕事が出来ないから武官にするしかないのね…。そして即行迷子になる…と。マジでひどいわね?



「まぁ、こいつは置いておこう。ミズキ。貴様がシュウとシキの娘と言うのは…本当のようだな」

「信じてくれるのはありがたいけど、どこで判断したのよ?」

「所々に二人の面影がある。加えて、(おれ)を前にして一瞬たりとも怯まず、毅然と名乗った。おまけに察しもよい。そこに二人の気配を感じた」


 名乗りと態度ってわけね。完全に見た目から判断したわけじゃない…と。さすがね。



「ところで用件は何だ?あの二人が娘だけをやってきていることから、火急とみるが」

「ルキィ様から手紙預かってきたのよ。それを動ける人に渡したいのだけど、ディナン様でいいかしら?」

「火急なら(おれ)が見ても問題ないだろう。(おれ)で足りなければ、伝令をだす」


 そういうことなら渡してもよさそうね。…伝令は確定になりそうだけど。



 封を切って流し読みするディナン様。母さまには及ばないけど、結構読むの早そうね。



「目を通す限り伝令必須か」

「なのです?見せてください!」


 むくっと立ち上がって手紙を奪い取るクリアナさん。質問の意味ないわね。…けど、大丈夫かしら? あの手紙、普通にアタシの生い立ち書いてるわよね? クリアナさんの気持ちを刺激しそうなのだけど…。



 クリアナさんがプルプル震えだしたわね。ディナン様も「やらかした!」って顔になってるわ。…耳塞いどきましょう。



「薄々そうじゃないかと思ってましたが、やっぱりそうじゃないですかー!」


 耳を塞いでいても普通にうるさいわね。



「くぅ!ディナン様こうなれば急いでミズキ様に吐かせましょう!」

「待て。目的をはき違えるな」

「ぶえっ」


 アタシの方ににじり寄ろうとして思いっきりディナン様に殴られたわね。痛そう。



「何も殴らなくともいいじゃないですかー!」

「喧しい。常日頃から指示を聞けと言っているだろう」

「くっ、ですが私の溢れんばかりの情熱が…」


 情熱で暴走しちゃダメでしょうに…。というか、



「たぶん二人じゃ、子宝の泉に行っても意味ないわよ?」

「何故です!?」

「うぇっ、やめっ。止めて」


 揺られても気持ち悪くはならないけれど、喋りにくい…。



「落ち着け」

「ぶえっ」


 ありがとう。ディナン様。あぅ…、舌噛んじゃったからちょっと痛いわ。



「…よし、落ち着いたわ。話すけど聞ける?」

「聞けなくても聞きます!」


 凄い言葉ね。ま、良いって言ってくれてるし、良いでしょう。



「たぶんクリアナさんの言う子宝の泉って、複合泉(コゼッテファネン)もしくは、樹宝湖(トゥメジェッレー)って呼ばれる泉の事だと思うのよ」


 というか、エルフ領域にはそれしか湖なかったもの。



 …クリアナさんの眼力がえぐいわね。軽く引くわよ。「それで?続きは!?」って念がヒシヒシと伝わってくるわ。



「でね、その泉なのだけど…。子供を授かろうと思うと、前世でも二人が夫婦で、子供がいて、しかもその子供がもう一回二人の子供になりたいと思っていて、かつ魂が一度も輪廻に帰らずに残ってる必要があるのよ」

「え゛?」


 そうよね。わかりにくいわよね。なら、もうちょっとわかりやく…。



「泉で子供を授かるには「いえ、ちゃんと聞いて理解できています。一度で結構です。内容が衝撃的すぎただけですから」そう…」


 実際衝撃的よね。何でこうなった? って言いたくなるくらいめちゃめちゃな条件だもの。アタシとコウキ兄さまは正直、超例外でしょう。まず、前世でも夫婦であるってのを満たせる夫婦がどれだけいるかって話だもの。



 そりゃ子の魂が前世の親を永久に待てるなら、いつか起きるでしょうけど…、それは無理よ。どこかでガタが来て輪廻に戻っちゃうわ。アタシとコウキ兄さまは2000年くらい耐えてると言えば耐えてるのだけど…、コウキ兄さまは準前世を挟んでるし、アタシは世界樹に茶々かけてたわ。だから、二人とも完全な魂状態で待ってる時間なんて2カ月もないのよねー。



「はぁ…。わかりました。ミズキ様。ありがとうございます。もっと頑張ることにいたします」


 もっと…? まさか。チラッとディナン様に視線を送る。



「貴様の父母たちと別れ、魔物大氾濫(スタンピード)を平定したその日のうちに喰われた」


 あ、う、うん。そうなの。えっと…。



「おめでとう?」

「まぁ、国としてはおめでとうだろうな」


 王族と、侯爵令嬢の結婚だものね。家同士のパワーバランスがどうなってるのかは知らないけど、ガン無視すればお祝いすべきことだものね。



「ディナン様としては?」

「性格以外は最高なのだがな」

「えへへー。褒められました!」

「褒めてねぇ」

「わね」


 性格という内面の大部分を否定されてるわよ。鋼メンタルだからまるで効いていなさそうだけど。…そもそも聞いてないのかもしれないわね。



「吉報は父さまやルキィ様に届けることにして…、それはさておき、アタシはどうすればいいのかしら?」

「む?すぐに戻るのではないのか?あいつらの娘だからそう言うだろうと思っていたのだが」


 よく理解してるわね、アタシのこと…。



「じゃあ、戻っちゃってもいい?」

「出来ればこいつを見ていてくれれば(おれ)自身が王都に戻れるが」


 …そっちのほうがイベアの始動は早くなるわよね。でも…。



「アタシにコレを抑えられるとは思えないのだけど」

「すまん。確かにそうだな」

「!?一瞬でも悩んでくださってもよいのではありませんか!?」


 アタシがクリアナさんを抑えられるかってこと? 再考してみましょう。



「「無理(だな)」」

「ちょっとー!」

「「一瞬は考えたわよ()」」


 どうやっても「ディナン様ー!」って走って行くのが目にみえてるわ。そして、即、迷子。黄金コンボね。下手したらその黄金コンボをディナン様は親の顔より見てる可能性があるんじゃないかしら。



「かと言ってミズキに使者としてついて行ってもらってもな…」

「アタシ本人は誰とも面識ないものね…」


 だからたいした意味はないわね。フランシスカ様…『フランシスカ=ラフエンテ=イベア』様に『真想天秤 ハリヴ』を使ってもらえれば、一瞬で信用してもらえるって言うメリットはあるけども。



 でも、王都にいる王族方がディナン様の使者を信じないとは思えないから、いてもいなくとも変わらないのよね。



「やはり帰らせてもらうわ」


 そろそろ森に入るから、一人でも戦力は増やしておきたいわ。



「わかった。なら、伝令に王都まで走らせ、手紙をオスカルに渡す。伝令が届けばその日中に全軍動き出すだろう。(おれ)らは軍に帰還次第動く」

「そんなことしていいの?」

「安心しろ。軍の全権は預かってる」


 そう。なら、安心ね。独断専行になって罰されたりしちゃうと目覚め悪いもの。



「じゃ、アタシは帰るわね」

「おう。気を付けてな」

「また会いましょー」

「ありがと」


 でも、気を付けては無理なのよねー。



「帰るけど、驚かないでね?」


 一言断ってから木兵を召還。一拍置いて直ちに首を刎ねる。



 ッッ! …ふぅ。これでお手紙配達は終了ね。後は父さま達とルキィ様に手紙渡した三国の内戦中立と、チヌリトリカ探しの了承を伝えれば任務完了ね。

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