閑話 ミズキのフーライナへの手紙配達
ミズキ視点です。
時系列は本章が始まってすぐ~樹軍との戦闘前くらい。
約4000字です。
さて、フーライナについたはいいけれど…、父さまと母さまの知り合いのルジアノフ夫妻はどこにいるのかしら?
アタシが二人から貰った記憶では夫妻は仲が良くて、そのせいで暴走する人だってのはわかってるのだけど…。一応、第一師団長なんだから、人魔大戦と、バシェル内戦の対応に動いてないなんてことはないはず。こっちに来てくれていればいいのだけど、別方面に配備されちゃってたら会いにくいわね…。
最悪、王城に行けばいいのだけれど…。王族とは父さま達会ってないみたいだしね。ルキィ様の書状はあるけれど、正直、アタシ一人じゃ受け取ってもらえるか微妙ね。さすがに、人間領域最大の国の王女の書状を読まずに捨てるとかしないでしょうけど、ルキィ様廃嫡されちゃってるのよね…。
そのせいでアーミラ様の次が公的にはいないのよね。…控えめに言って地獄ね? でも、父さまと母さまが何とかでき…ないかしら。さすがに。子は授かりものっていうもの。
たとえルキィ様が王位復帰しても、直系の王位継承権持つ人がいないのは変わらないし…。直系相続が原則のようだから、ルキィ様が子供を産めば、女系にはなるけど王朝は続くのは良いわ。でも、万一、後継者不在のまま死んじゃったら内戦勃発ね。
王の親戚である公爵は勿論、ルキィ様達のおじいさまとかひいおじいさまに娘を降家された伯爵、侯爵がいれば、そいつらも加わるでしょうし…、どれだけ燃えるかは想像したくないわね。事そこに至ればできるだけ燃えないようにお祈りするくらいしか出来ることないわ。
フーライナも来た時は明らかに騎士団数足りてないように見えたけど…、イレギュラーが無ければ大丈夫そう。普段は、魔物領域ないから魔物でないし、盗賊は残虐に殺すから湧きにくいし、攻められたら全部焼くとか言う外道ムーブかまして援軍で潰せるし…。
そもそも軍が少ないのはその分、食料生産にリソース割いて、国自体の魅力を上げて、焦土戦術の価値を上げるためのようだものね。
「団長ー!逃げないでくださいー!」
「五月蠅い!ソーネが待っているのです!」
「くっ!否定できないのが痛い!」
…探してる人がいたっぽいわね。
「ですが、そもそも何故、フランソーネ様とアレム様を離したと思っているのです!?」
「嫁のいないリベールが妬んだのでしょう!?酷いやつです!」
「ちょっ、それは事実ですが、それを言ったら戦争ですよ!?」
追いかけっこの理由が小学生ね。…人違いだと思いたいわ。
「私、戦争は受けませんよ。ソーネと遊ぶのに忙しいので」
「拳の振り上げ先を無くすのは止めてくれませんかね!って、遊んでる場合じゃないです。本気で待ってください。離したのは私だけではなく、特定の相手のいない軍属全員ですよ!」
「ほらね!」
何で待ってって言った後に弁明しちゃうのよ。力づくでも止めればいいでしょうに…。
「毎晩毎晩五月蠅いのです!団長と副団長が一番軍規を乱してどうするんです!?」
「!え。だって、シュウ様とシキ様が…」
「言い訳しない!」
なるほど。どうも父さまと母さまが仲いいのに当てられたみたいね。…もらった記憶にある限り、ルジアノフ夫妻はラブラブだったはずなのだけど…。それでも影響を与えるなんて…。すごいわね。
「む!そこです!」
! っと、危ないわね。急に真面目モードになって剣を投げてきたわね。態度の変わり方が酷すぎるわ。
リベールさんも攻撃してきそうだし、さっさと降りちゃいましょう。矢から手を離して飛び降りる。地面にアタシを召喚できるようになれば召還。そして、持ってる荷物を上へ放り投げる!
そして、召喚されたアタシが投げた荷物を拾う。ぐちゃっとなる心配のない荷物だから楽ね。さ、挨拶しましょう。剣を向けられないうちに。
「お初にお目にかかります。アタシは以前お二人にお会いした勇者、森野習と清水四季の子、瑞樹です。そちらにいらっしゃるはフーライナ第一騎士団長アレム=ルジアノフ様と、リベール=クランスキー様でよろしいでしょうか?」
…………何故何も言ってくれないのかしら。
「あ、あぁ。失礼。空から人間が降ってきて潰れた途端、増えたような気がして」
「気のせいではないですね」
厳密には、増えて、ちょっとしてから降って来た方が潰れたのだけど。
「えぇ…。こほん、それはそれとしましょう。御存じのようですが、私はアレム=ルジアノフ。こちらが、リベール=クランスキーです。妻のフランソーネはただいま別行動中です。また、口調は崩してくださっても結構です」
「わかったわ。ありがと。フランソーネさんがいないのは残念だけど…、アタシの目的には支障ないわ」
手紙渡すだけだもの。とはいえ、貰った記憶にしかフランソーネさんはいないから会ってみたかったのだけど。
「目的…ですか?何用で?」
「手紙を渡しに来たわ。差出人はバシェル王国のルキィ様ね」
…さっきまではしゃいでいた人とは思えないくらい、アレムさんもリベールさんも顔が真面目なものになったわね。
「よりあえず、渡しちゃうわ」
「リベール。受け取れ」
「畏まりました」
…ん。渡せたわね。これでアタシの目的は果たせたわ。
「内容はご存じで?」
「えぇ。掻い摘んで言うと…、1. 使者であるアタシの生い立ち。2. 人魔大戦の経過。 3. バシェル内戦不介入のお願い。 4. チヌカ対策お願いします。かしら?」
「なるほど」
「あの、ミズキ様、この手紙、国王陛下宛てになっているのですが?」
「そうよ?」
アタシが確認してないわけないじゃない。
「なのです?」
「なのよ」
露骨に何でこっちに持ってきた? って顔してるわね…。
「直接持って行くのは無理よ?だって、アタシ面識ないもの」
黒髪だからワンチャンあるかもだけど九割九分九厘弾かれるわね。
「というか、アタシも二人と一切面識なかったのに、よく自己申告だけで話聞いてくれたわね?」
「「だって、お二人の娘さんですし」」
何でよ。いえ、そっちのほうが有難いのだけど。何でよ。
「意味不明な飛び方しておられましたし、降りてこられた方法もアレでしたから…」
「です」
納得のされ方が酷いわね…。横で真面目っぽいリベールさんまで神妙に頷いてるのもそれに拍車をかけてるわ。
「ええと、私どもに持ってきた理由は了解いたしました。リベール。王都に持って行くのは任せます」
「お任せください。ただ、私がいなくなりますが、フランソーネ様とお会いするのはご自t「善処します」…。行ってきます」
「ご自重」っていう短い言葉すら言う前に遮られたわね。あぁ、本当に諦めて行っちゃうのね。「やらかしてもアレムさんの人望が落ちるだけだし…」なんて現実逃避したのかしら。
「ミズキ様。私にもお手紙の内容をお聞かせ下さい」
「いいけど、独断で動いてもいいの?」
手紙の内容で動いちゃって処罰されないのかしら?
「軍団長ですので大丈夫です。軍規に反するわけでもありませんので、ご心配なく。あ、ですが。1. は不要です。気になりますけど、情熱を抑えられなくなりそうなので」
え? ……聞かなかったことにしておきましょう。
「2.は「人魔大戦が終わった」ことと「敗残兵はたぶんこっちに来ない」ってことを知っててくれればいいわ。川付近の防衛線は完全粉砕されたからね」
だからわざわざファヴェラ大河川を越えてくるようなのは自殺志願者ね。
「3.はそのまま。内乱勃発したわ。経緯は既に聞いてるでしょう?」
「当然です。こちらの立ち位置もお分かりですか?」
勿論。
「フーライナは内戦不介入よね?それはわかってるわ。でも、出しとかないとまずいでしょ?」
「そりゃそうですね」
内戦なんて周囲から見ればおやつみたいなもの。他人の不幸は蜜の味っていうものね。「来るなよ!」と言っても絶対来ちゃうでしょうけど、「来るなよ!」の使者で遅延くらいはしないといけないわ。時と場合によっては無意味だけど。
たまに無意味は今回のフーライナね。攻めてる間に別口から殴られると終わるものね。
「4が一番大事よ。勇者である『百引晶』一派が行方不明で、しかもチヌリトリカに乗っ取られてるっぽいわ」
「!?…失礼。了解しました。となると、私達がすべきは警戒と、捜索ですね」
そのとおりね。アタシとの初対面はアレだったけど、やっぱり有能ね…。
「捜索までお願いしてもいいのかしら?」
「勿論です。神話決戦の再来は防ぐ必要があるでしょう」
力強い目でそう言うアレムさん。なら、このままお願いしましょう。
「では、早速行動を開始します。ソーネに会える口実には出来ますが、そのまま楽しめないのは辛いですね…。リベールがいれば押し付けられたのですけど」
それを聞かされるアタシはどう答えることを期待されてるのかしら? 「リベールさんがいればそもそもアレムさんはフランソーネさんのとこまでいけないと思うわ」かしら?
「ミズキ様。お泊りする場所はありますか?…というかそれ以前に、戻られます?」
「アタシはどっちでもいいわ。強いて言えば戻りたいけれど、アレムさんに従うわ」
アタシの存在でアレムさんが仕事しやすくなるなら、付き合うわ。
「私もどちらでも構わないですね。正直、ミズキ様がいようがいまいが、ソーネなら私のことを信用してくれますし、騎士団の皆も動いてくれますので」
「そう。なら、アタシは帰らせてもらっても?」
一人でもストックは多い方が良いもの。
「畏まりました。では、近くの町までお見送り「は結構よ。すぐに帰れるもの」え?」
ポカンとするアレムさん。
「帰るのは一瞬なのよ。というわけで、帰るわ。アレムさんも気を付けてください。それでは、またお会いしましょう」
アタシは言い切ると同時に木兵を召還。そして、即座に木兵にアタシの首を断ってもらう。
「は?え?えぇ…?」
プツッと一人分の接続が無くなる瞬間、アレムさんの困惑する声の信号が脳に届く。
…驚かないでって言った方が良かったかしら? まぁ、過ぎたことね。残すはアークライン神聖国とイベアね。