240話 全勇者情報共有
「皆さま、お話はどこまで進みました?」
「ルキィ様達に直接関係のない話は済ませられましたよ」
ルキィ様がお仕事している間に、知らない級友同士で自己紹介したり、俺らの子供たちを紹介してうちの子と面識ない勇者に天丼反応させたり、帰還魔法を見つけたことを知らせたり、百引さんがチヌリトリカに乗っ取られていると伝えたり…ね。
チヌリトリカの話をしたら知らなかった有宮さんサイドの勇者たちが騒然とする中、最も百引さんに近かったであろう有宮さんが静かだったのが印象的だった。
「洗脳されてたんだからわかるに決まってるじゃん!」って言われると「まぁ、そうだよね」としか言えないのだけど。
「習君。帰還魔法の話はルキィ様も関係ありますよね…」
…あ。もろにあったね。帰還魔法捜索隊の面々も戦えないわけではない。確かに護衛として西光寺姉弟がついていた感じはあるけれど、戦い時に見たようにある特殊な条件では魔王討伐班の物を凌駕することだってある。ルキィ様はある程度、戦力としてあてにしておられる可能性もあるんだから、関係ないわけがない。
「あの、私に関係のある部分とは?」
「ここにいる勇者勢は、俺も含めて誰も帰らないt「そうですか!皆さま、ありがとうございます!」………喜んでもらえてうれしいです」
ルキィ様は彼女にしては珍しくタクの話を遮ってまで喜びを露わにした。タクの返答が遅かったのは…、ルキィ様に見惚れていたからだな。…武士の情けだ。黙っておいてやろう。
「話すべき話題はそうそうないけど、とりあえず、文の知ってることはルキィ様も聞いて貰った方が良いから話すね。それに文以外は文の知ってる以上のことは知らないし…」
「待って。有宮さん。まずは青釧さんの話をきっちりしておくべきじゃない?」
光太…そこに触れちゃうのね。
「ん?うち?うちには話すべきことなんてなぁんもあらへんよ?」
「洗脳されてなかったのにあっちについてたよね?」
「望月はん。それがどないしはったん?」
「なっ…、洗脳されてなかったならこっちにつくべきだったんじゃないの?」
「じょーくんとりっちゃんが有宮はんにつくんよ?なしてそんなんせなあかんの?」
光太も青釧さんも本気で訳が分からないとばかりに首を傾げている。
「あー。もっちー。あーちゃんのことは責めないであげて。文が悪いんだしさ。それに、文のシャイツァー的にあーちゃんにどうにかできるものじゃないんだよね」
「何故?」
有宮さんはすぐさま袋を逆にして種を取り出した。
「この種を植え付けて体内に寄生させることで洗脳…というか支配下におくんだけど…」
字面がエグイ。
「皆、その顔は止めて。文だって自分で言ってて「うわぁ…、ないわぁ…。ドン引き(ガチ)」って思ってるんだからさぁ…」
有宮さんも操られていたしな…。
「で、これ。洗脳できるのは良いけど、洗脳しちゃうと若干、能力落ちるの。だから、あーちゃんにはどうしようもできない上、あーちゃんの性格考えると二人がこっちにつくと言ってもらえればこっちについてもらえる。だからそうした。だから、許してあげて」
青釧さんはうちの子と精神構造が似通ってるのか。うちの子はちゃんとダメなら駄目って言ってくれるけど、青釧さんはそれをしなさそうという違いはあるが。…一体過去に何があったんだろう? 知りたくはあるけど、知りたくない気持ちもある。
「別にうちの話はしてもええんよ?なんも楽しくない上に面白くもない。そんな話…やと理解してくれはった上で聞いてもらうことになるんやけどね?」
「あーちゃんの話はマジで面白くないよ。というか胸糞悪いし。それでも聞く?」
だいたい想像がつくから要らない。
確か青釧さんは神楽舞を代々やってきた家系だったと聞いた。無理やり舞をやらされて嫌だったんだろうな…。例え上達しても求めるレベルではないから褒めてもらえない。逆に叱られる日々。…青釧さんの纏う色から考えると「最悪」もありうる。
座馬井兄妹はそんな中に現れた青釧さんの希望。であれば、あの姿勢もわからなくもない。
「要らへんの?別にうちはしても構へんねんよ?」
「楽しくない話をされても文らが反応に困るだけだぞ☆。だから流すに限るね。文のシャイツァーをもっと話そ!ほら、拍手!」
…………。
「拍手ー!」
「「「わー。パチパチパチ」」」
「口かよ!まぁ、いいけどん」
良いんだ。いつもならぶー垂れるくせに。
「文のシャイツァーは植物を使って色々出来るよ。多分、かおるんのやつの植物版だぜぃ。ただ、どこまでいっても植物だから、酸素は要るし、光合成もしなきゃ死ぬ。班員を洗脳した方法は簡単!1!家を文のシャイツァーで出した植物で建てます。2!寝ている間に家からツルを伸ばして種を植え付けます。3!発芽までコツコツ専用の液体をかけます。終わり!発芽期間は魔力量によるぜぃ。班員の時は1ヶ月、兄妹の時は頑張って5日だったかな」
落差エグイな。
「5日でいけるのかよ…」
「文の「いろんな植物を育てたい。何ならいい物質も欲しい」そんな望みの具現だから、これ以上は短くなんないよ。そもそも、文に洗脳したいという願望はナッシング!だしね。なお、5日で終わるようにしたら魔力不足で1週間ほど昏睡した模様…」
俺らが魔力不足でぶっ倒れた時より長いんだが…。
「後遺症はないから心配いらないぜぃ。まぁ、暗闇に監禁してあれやこれやする方法もなくはないけど…」
ちらと西光寺姉弟を見る有宮さん。
「私がどうした?」
「かおるんとかおとを出し抜ける気がしねぇ!というかそんなの無理無理無理のカタツムリ。だからやらなかった!以上!閉廷!」
閉廷も何も、そもそも廷? は始まってないんだよね…。
「有宮。お前…、俺を姉の付属品扱いするのを止めろと常々言ってるだろうが…。」
「え…。何でバレたし。だが断る」
「即答かよ…」
ドンマイ、賢人。「かおと」は「薫さんの弟」を短縮しただけ。賢人らしさは最後に偶然入った「と」にしかない。
「ま、基本は毎日コツコツ。城のツルもね。適当に愛情込めた種を植えて、適当に愛情込めて世話したらああなった!」
適当に愛情って何だ。言葉の軽薄さが尋常じゃない。
「森は?俺らのいた森にも手を回していただろ?」
「ん?役に立ったでしょ!ふふん頑張ったんだよ、文!一日分の魔力を込めた種を投げ込んだぜぃ?」
ん? 役立つ?
「あれ?立たなかった?せっかく魔物領域に逃げ込むだろうと読んで、梅雨払いしといたのになぁ…。何処をミスったのかな…」
「お前の投げ込んだ種って何だ?」
「元は筍だったかな…。とりあえず、森全体を覆うように成長するよーになーれ!とは言ったぜ!阿保の子だから指令は「黒髪の人間以外は抹殺、滅殺!」ぐらいしか出せてないけど」
森全体を覆う…となると樹塊しかいないな。
「私達が戦った木の束みたいなやつです?」
「しーちゃん。言われても文の元から羽ばたいた子の事なんてわかんねぇぜぃ。でもでも、たぶん合ってるよ!二人の子供に黒髪じゃない子混じってるし…、何なら馬さん混じってるもん。それだと襲われたはずだから…、その森に入ってるならそうだと思う!」
一辺の曇りもないやり切ったぜ! みたいな顔で言われると妙に腹立つな…。
「…わたし達、ついて行かない方が良かった?」
「結果論に過ぎませんから、罪悪感を覚える必要性はありませんよ。アイリちゃん」
「だね。どうあがいたってセンは移動のために連れて行く必要性はあったんだから、襲われることには変わりなし。なら、アイリも、皆もいてくれた方が絶対よかった」
戦闘力的にも、合流の手間的にも。
一応言ってみた。みたいな感じだから、この子らにこれ以上の余計な心労をかけずに済みそうだ。
「というかだな、有宮嬢。その言い分だと私達を殺す気はなかったのか?」
「そうだよ?文に聞かれてもわかんないけど、アキ…ううん、チヌリトリカだね。チヌリトリカからは「クラスメイト殺したらコロス」って聞いてたし…。イジャズも多分同じだよ?だからこそ文、植物の出力上げ過ぎないようにしてたわけだし…。そもそも、アレって自我崩壊して良いんなら、ちまちま水やる必要なんてないんだよ?」
!? ならノーリスクで洗脳出来てしまうの?
「ちまちまやる必要はないけど、ドバっと水やりする必要はあるみたいだよん。普通、根腐れ起こすはずだけど…、そこはファンタジーなんだろうね。まぁ、きっちり成長に必要な魔力は抜いていきやがるんだけどね!その上、体表面から根が見えておかしいこと瞬バレするぜぃ。ゴミ処理ぐらいでしか使い道はないかなぁ…」
…よかった。危険もなく一瞬で洗脳できるとかではないのか。…てか、洗脳特化じゃないって言ってたんだから、その心配はなかったか。
「文が嘘言ってないのはさかげんが保証してくれるぞ☆」
「は…?わたしか?わたしがするのか?わたしも皆にこれ!といったはっきりした証拠を示せるわけではないぞ…。シャイツァーなんて自己申告の塊じゃないか」
「さかげんなら出来ると信じてる!」
「買い被りだな」
豊穣寺さんが言葉で一刀のもとに有宮さんを斬り捨てた。
「だが、わたしも含め、誰も文香が嘘をついているとは思うまい。だから、保証など要らんだろう?」
「そ、そうだね!さかげん!というわけだよ!」
エヘンと胸を張る有宮さん。…「どういうわけだよ」と一瞬心によぎった言葉にはそっと蓋をしておこう。
「どういうわけだよ」
「ちなみに文に聞かれても、チヌリトリカがそう言った理由はわかりま10」
謙三のツッコミを強引に流しやがった。
「それこそ、アキの意識が生きててそうさせてるのかもしれないし、特に理由はないのかもしれない。想像は無限大!やったね!」
「百引なら案外、チヌリトリカを塗りつぶしてはしゃいでるという可能性もあるか…」
あるなぁ…。謙三の言葉を「ねーよ」と否定できないのが色々酷い。さすがにないと思うけどさ。
「頭痛が痛いですわね…」
「ずくずく!文p「承知しておりますわ」…すまぬ」
何故有宮さんはあからさまにボケにツッコミを入れてしまうの? 自分のは盛大に流したくせに。
「ま、ま。いいでしょ。文の話にもど…そうかと思ったけど、話すべきことがねぇ!」
「であれば、私が現状報告を」
「ルキィ様、任せた!文は風呂入ってくる!」
「そのネタはおかしい。座ってろ」
「ぎゅえっ」なんて声を出して座らされる有宮さん。ネタがネタと伝わらない人がいるんだから自業自得。誰も止めはしない。
「報告いたしますね?城の使用人たちは城の各場所に閉じ込められておりましたが、無事です。普段なら近衛もいるのですが、人魔大戦の一部隊として出動中です。あの…、フミカ様。彼らはシュウ様達と突入した際、見かけなかったのですが、彼らを押し込めていましたよね?」
「そうだよ?糞真面目な理由と真面目な理由。どっちが聞きたい?」
「は?」
ポーカーフェイスに慣れているはずのルキィ様がほんの一瞬だけ、ポカンと口を開けて固まった。だけど、復帰は一瞬で…、
「では、かなり真面目な理由でお願いいたします」
「了解。普通に邪魔だったから。味方換算するなら、さすがに巻き添えにしてグサーは文の趣味じゃないし…、あっちについてね!って言ったところでやっぱりそれはそれで邪魔だし…、」
「有宮。見栄はらなくていいぞ」
「ふぇ?」
謙三の言葉に心の底から戸惑っているような声を絞り出す有宮さん。
「有宮さん。見栄はりたいからと嘘をでっち上げなくていいよ…」
「ですね。習君の言う通りです。私、文香ちゃんがそんな人ではないと知ってますよ」
「ナン…が美味しい」
「文香ちゃん。食べたことないでしょう?」
「うん!」
頭痛が痛い…。そして、四季は何故それを知ってるんだ…。
「前にツッコんだ時に教えてくれたので…」
なるほど。そして、有宮さんならソレを聞いた後で食べてたら、きっとそのことを教えてくれてそう。聞いてないってことは食べたことがないってことだ。
「有宮嬢。それで?理由は何だ?」
「うぇっ。超簡単な理由だよ。単に…、最終決戦っぽい雰囲気だしたいじゃん?そうなったら言っちゃ悪いけど普通の兵士さんとか、メイドさんとか執事さんとか居たら邪魔じゃん?足止めは街にいたギルドとかで十分だと思ったし…。それ越えてるなら足止めにすらならないじゃん。そんな人らなんて要らないでしょ?ちなみにこれが真面目な理由だぜぃ」
糞真面目と真面目の落差が酷すぎる…。
「まぁ、一応、勇者が分かれて戦うから、「どっちにつけばいいんだー!」ってなったらカワウソ。って理由もあるよ!王都に残ってる宰相とかその辺りの文官系列の人は特にその理由が強いかなー」
「あぁ、それでですか…。それで使える文官がそこそこいたのですね…」
皆殺しされてるかと思ったけど、違ったか。ルキィ様の負担は思ったより少なかったっぽい。喜ばしいことだ。
「文はそこまで考えてねぇけどな!はっは。あ。いちおー、文にも罪悪感はあるから、何なら使えない文官を内乱に巻き込まれた感を出して消そうか?」
「いえ。結構ですよ」
「えぇ…。貴重な贖罪の機会がー」
「結構…というよりは、出来ない。というのが正しいのです」
「え?」
有宮さんの言葉はたぶん、この場にいる人全員の総意だろう。
「何しろ、領地がファヴェラ大河川近郊にない無能は逃げ帰っておりますから、帰ってくる前に潰したいので粛清部隊を送っております。そして、近郊に領地のある、もしくは領地をそもそも持たない無能等はどさくさに紛れて既に消しています」
「手が早いね…」
滅茶苦茶ね。そのくせ、根回しはルキィ様のことだ、完璧に終わってるんだろう。
「それが私の仕事ですので。そして、城の掌握、街の掌握も済みました。ギルドは中立機関ですが、頷かさせました」
「中立なのにあっちにつくような行動したよね?どう落とし前つけるつもり?あ。そういえばチヌリトリカが復活するみたい。手伝ってくれる?」…みたいな交渉があったんだろう。
脅し自体が言いがかりみたいなものだけど。何しろ、チヌリトリカ自体、人類の脅威。ギルド自体、それに立ち向かうのに否はないはず。せいぜい「出し惜しみするなよ、ごるぁ」という感じか。
「また、外交関係は私が王位についたことによる悪影響は無さそうです。内乱終結情報はまだ行きわたっておりませんが…。失策は基本イジャズに押し付けます。それで拭えない分は、魔人、獣人両族との外交上の功績でねじ伏せられるでしょう。その上、チヌリトリカ復活の兆候もあり、かつ大抵の王とは謝罪行脚のおかげ?で面識あります。メリコム父様が国王だった時よりも下手するとやりやすいかもしれません」
それは不幸中の幸い…か?
「内乱終結の書状と共に、行方をくらましたアキ様の捜索もお願いしております。勿論、ミズキ様が行って下さったフーライナ、アークライン神聖国、イベアは除いております。私達、バシェルは既に動いておりますが…、さすがに昨日今日でめぼしい情報は上がっておりません」
「ミズキ。獣人と魔人はどう?」
魔人はナヒュグ様のそばにミズキが一人いてくれている。獣人の方も飛んで行って随分立つから到着しているはずだけど…。
「魔人もめぼしい情報はないみたい。獣人も同じく。あ。でも、ニッズュンの雰囲気が違うかったような気がするわ。うまく言語化出来ないけど…」
ニッズュン? あの魔物天国を通ったのか…。
「父さま達も通ってるじゃない。そもそも、カレン姉さまの矢は結構早いわ。余裕で抜けられるわ。それに上の方を通り過ぎたから、そこまで来れるような奴はほとんどいないわ。いても、アタシを増やして特攻かませばそれで振り切れるもの」
おぉう…。相変わらずの手法使うなぁ…。
「で、話を戻すけれど…、魔人領域もめぼしい情報はないわ。獣人領域もないわね」
「確か…、円状に捜索範囲を広げてくれてるんだよね?」
「どこかに情報の空白地帯があったりしませんか?」
空白地帯があるなら、そこに百引さんが潜伏していて、殺されまくってるから情報が入っていない…という可能性があるのだけど。
「待って。頭の中で情報整理するから。お茶でも飲んでて」
了解。
「四季、何がいい?」
「習君と同じものが飲みたいです」
「了解。皆は?」
…も同じと。なら、お茶でいいか。アレならすぐに全員分出せるぐらい量あるし。
「あの、シュウ様。言っていただければ用意しますので…」
「では、お茶をお願いします」
あぁ、ルキィ様にホストの面子があるか。…内乱明けで物資もそんなにないはずだからあまり頼みたくないのだけどね…。
「ないわね。あ。父さま。アタシも父さまと同じがいいわ」
「早いな!?」
「早いのはいいことだろ、謙三」
「ですです。ミズキちゃんに限って、手抜きなんてありえませんし。ありがとうございます。ミズキちゃん」
「だね。ありがとう、ミズキ」
疑う必要がないのはミズキを信じてるのが一番だけど、早い理由もわかってるからねぇ…。
ミズキは30人以上のミズキが得る知覚情報を全て一個の脳で処理してる。逆に言えばそれが出来るだけの脳のスペックがあるってこと。今展開しているミズキは多くても10人くらい。20人のスペースがあれば余裕でしょ。
にしても空白地帯はない…のか。まだ捜索されていないところか、既に捜索隊が通ったところにいるか。どっちかか…。
「失礼します!」
「要件を」
突然入って来た兵士さん。その顔を見て緊急事態だと察したルキィ様が続きを促す。
「何かが…、何かが空から近づいてきております!」
何か? 何かって何…って、わからないから何かなんだよなぁ!
「ルナ!」
「あい!」
家を巨大化。家の中に帰還魔法捜索隊の面々を突っ込んで、いつでも迎撃できるように! 後、
「上から失礼。上位者様方」
! この声は…、
「「ズィーゼさん!?」」
「そうです。此方です。久方ぶり…というほどではありませんが、相も変わらず上位者様方は仲がよさそうで何よりです」
確かに子供達と仲は良いけど…、それより、
「何故ここに?貴方はクアン連峰を離れられなかったはずでは?」
「失礼。本日はその件で参りました。チヌリトリカ。かの者の本体の封印が解かれました」
!? 何でそのことが分かったんだ?
「それが此方のいた場所に文字が浮き出ておりまして…。その字は「本体の封印が解かれた。じきにここも解ける」…だそうです」
…それが出来るなら最初からズィーゼさんに「ここは封印場所だからちゃんとしてね!」的なことを伝えておけよ!
「したがいましては、上位者様方にはチヌリトリカをすぐにでも討っていただきたく」
急な話。だが、俺と四季の答えは決まってる。であれば、他の皆は?
「皆さん、」
「行けるか?」
「もちろんだよ。ねぇ、皆!」
光太の言葉に魔王討伐班の面々が同意を示し、
「俺らも当然行ける」
「あぁ、皆、私達の友を返してもらう準備は出来てるよな?」
賢人と薫さんの言葉に帰還魔法捜索隊の面々が続く。そして、
「皆、私達を手伝ってくれますか?」
「「「勿論」」」
四季の問いにうちの子たちが間髪入れずに答えてくれる。全員おっけい。なら、
「皆、ルナの家に入って!」
「私と習君、ルナちゃんで運びます!」
ルナの家の効果は説明してある。だから、全員ためらわずに乗ってくれる。
「あの、シュウ様。シキ様。私はどうしましょう」
「ルキィ様は即応体勢を。ひょっとしたら同じような封印は各地にあるかもしれませんし、チヌカが出たり、強い魔物が出たりするかもしれません」
「承知しました。どのみち、一般兵では足を引っ張るだけでしょうから…、そのように。後、皆様が家に入ってしまわれましたので、伝言をお任せしてもよろしいですか?」
「えぇ、勿論」
まだ家に入っていないタクが俺の陰でごくりと唾をのんだ…気がする。
「皆様に「ご武運を、そして、無事の帰還をお祈りしております」…と。お願いします」
「了解しました」
「ありがとうございます」
ルキィ様はペコリ頭を下げると部屋を出た。
「矢野君、そう言う事もありますよ」
「清水さん。優しさをかけるのは止めてくれ…」
「まぁ、死亡フラグ立たなかったからいいじゃん」
ここでもし「タク様に「好きです!」とお願いします」と言われてみろ。絶対、「帰ったら結婚しよう!」とか言って鉄板のフラグが成立する。
「慰めが雑だが、それもそうか…。だが、俺、フラグはへし折るモノだと思ってる」
「うん。じゃあ、宿題やって来いよ」
毎回毎回「今回こそは夏休みの宿題をやる!」といっておいて…。今年で何年目だよ。
「あ。うん。そうだな」
「…タクさん。早くのって。出発できない」
「了解」
これで全員乗った。さ、行こう。背を向けるズィーゼさんに乗り込んで…っと。
「行きましょう。ズィーゼさん」
「助かります。では、飛びますよ」
お願いしま…、
「あ!皆さま待ってください!目的地はどこですか!?」
え? 目的地…? …そう言えば聞いてないな。
「あの。ズィーゼさん。ルキィ様の言うように目的地はどこですか?」
「目的地です…?あ。言っておりませんでしたね」
蛇のような体をくねらせ、器用に爪で顔を掻くズィーゼさん。
「行き先はニッズュンです。かの者の力はそこから溢れだしております」
ミズキの感じた何かがその兆候だったか? いや、今はいい。
「わかりました。では、お願いします」
「畏まりました。では、行きます」
「ご武運を!」
ズィーゼさんが言葉を発した瞬間、ルキィ様の言葉を置き去りに飛び立つ。見る間に街が小さくなり、あっという間に豆粒以下のサイズになって、すぐに見えなくなってしまった。
チヌリトリカがニッズュンで復活したと言う事は、乗っ取られている百引さんはそこにいるだろう。そして、彼女がいるなら神裏瞬と、羅草愛さん。その二人もいるはず。
この3人で皆が覚えているクラスメイト、総勢30名が揃う。誰一人欠けずに厄介事を終わらせて、全員で地球に帰ろう。