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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
8章 再人間領域
268/306

238話 王都決戦 in 謁見の間 イジャズ

「行きなさい。主の滅茶苦茶な指令は守るように」


 イジャズの指示で元国王のメリコムと、現国王のアーミラが突っ込んでくる。表情筋が死んでいるのか、表情は最初見た時とまるで変わっていない。



 だが、その顔でしてくるのは芸のない突進。この軌跡だと、俺と四季の間に丁度飛び込んでくる。俺らが刃を置くだけで取れる。だのに止まるそぶりもない。



「起動なさい」


 イジャズの声と、



「「がっ」」


 それに続くメリコムとアーミラ、二人の悲鳴。悲鳴に少し遅れて、二人の背中からいつもの白と黒が混じった汚い色。そんな色の腕が無数に生えてきてゆらゆら揺れる。



「やりなさい」


 イジャズの声で背中に生えてきた腕がピンと張ると、そのまま各々が俺ら──俺、四季、カレン、ガロウにレイコ、そしてルナにタクと謙三──に振り下ろされる。



 後ろに跳ねて距離を…って、まだ突っ込んでくるか! 避けられない。剣で受ける!



 ッ!見た目に反して重い! 跳んでいたのに地面に即落とされた。押しつぶされてやるものか。剣を下に下げると同時、膝も曲げる。そのまま後ろに飛び退いて…、また殴られるのはわかってるから筆で受けて流す。



 流しただけなのに一撃が割と重い…! 見たところ腕の長さは2 mくらい。太さは俺の腕より一回り大きいだけ。なのにこの重さ。まったく、嫌になる。



 受けた時点で分かっていたけれど…、相手の勢いを利用してスパッと斬る! というのは難しそうだ。そんなのやってる間に別の腕に殴られる。攻撃は基本躱すべき。無理なら受け流す。



 攻撃出来る機会は相当少なそう。適切なタイミングで斬る、もしくは一撃で殺さなければ、斬ったはいいが、逆撃されて大損害を受けかねん。



 剣で受け流し、ペンで受け、わざとペンから手を離してさらに後ろへ。



「やらせねぇよ!」

「ガロウ!ありがとう!」


 爪が俺と四季の間に割り込んでくれた。これで、ようやっと体勢を立て直せる。



「二人とも!床の心配は要らない?」

「おそらく大丈夫です!」


 有宮さんのツルは謁見の間をぐるっと囲むように残ってる。密室状態で崩れ落ちそうな気配もない。もう、ガロウの爪を足場にしておく必要はないだろう。



「わかった!」


 俺らの返答でガロウは爪を全て移動用ではなく、攻撃用に使い始めた。ルナの家の障壁内にガロウ、レイコ、ルナが揃っていて、弱そうに見えるからか、やたら攻撃がルナの障壁に集中してる。それの対処の足しにはなるだろう。



 もう一人、俺らに比べて体格が貧弱で弱そうに見えてしまうカレンは既にメリコムとアーミラの攻撃範囲外。腕が伸びる…といったことは無さそうだから、一方的に遠距離から嬲れる…、



「あの子をやりなさい」

「我らが神、チヌリトリカよ、武威を示すために助力を請う。『火球(フォイヴァル)』!」


 かと思ったが、そんなことはないよな。当然カレンも射程内! だが、2発だけ。放っておいてもカレンなら避けられる。



「なっ!?魔法!?」

「ええそうですよ。大剣持ちのお兄さん。逆に何故使えないと思われたのか謎です。ですが、ただの魔法ではありませんよ。皆様のお相手をするとなると通常の魔法では発動まで時間がかかり過ぎますから。…とはいえ、やってることは主の名を借りて、適当に短縮させているだけですが」


 何故そこまで教えてくれるのか。意味が分からない。それはさておき、



「正面にいる俺らを無視して、カレンを狙うのはどうかと思うぞ?」

「まったくです」


 二人でイジャズに斬りかかる。が、当然のように避けられる。



「9人もいて、しかも真正面にいる」

「そんな私達を無視してカレンちゃんを何故狙うのです?」

「そうですか?ちっさいながらに鬱陶しい。先に潰す理由としては十分でしょう?それに、家を武器にしている正気を疑う子は、障壁があって邪魔。その上、その障壁は豊穣寺様曰く「複数人が関与しているとしか思えないくらい障壁が頑丈」だそう。実際、勇者様方が収容されていましたから、障壁が頑丈であるのは確かなのでしょう。であるなら、狙うならあの子しかいますまい」


 絶対答えるわけないと思ってたのに、理路整然と答えやがった。しかも俺と四季の攻撃を避けながら。こいつ、スペック高い? いや、単に回避に専念しているから?



「と答えてみたはいいものの…、実際のところ、理由などなんでも構いますまい。私は小さい子から落としたい。ですが、それは骨が折れそうです」


 頷かざるを得ないことを言ったイジャズはくるりバク転。未だに大部分の腕がルナの障壁を殴り続けているメリコムとアーミラの元へ着地する。



「これが必要でしょう。『イウキスビョレン』」


 瞬間、メリコムとアーミラの体がドクンと震える。あいつは今、何を…? 見た感じ、白授の道具で触ったのだろうが…、それがわかったとしてもあいつが何をしたいかわからない。



「起動」


 静かな、力のこもった言葉。わずかに遅れてメリコムとアーミラの喉元が膨らみ、皮膚が人間のモノでなくなる。そして、口にいつもの汚い色が収束し始める。



 これは…ブレス!? 狙いは…、顔の向き的にカレンか!



「「『『壁』』」」

「『護爪』」


 カレンと二人の間に紙を投げ、発動。たちまち完成した土壁と、ガロウが発射してくれた爪が射線を遮る。直後、白と黒の混じった汚い光線が二条直撃。光線は壁でわずかに勢いが弱まる。が、止まらずにすぐさま壁を貫きバラバラに。奥の爪でも威力が弱められる。が、止まらない。壁と同様爪を破砕し、カレンに迫る。



「『壁』ー!」


 避けられないと察したカレンが時間稼ぎに渡した紙で壁を展開。さらに速度を削る…が壁は砕かれた。だが、時間稼ぎのおかげで辛うじてカレンは射線から外れ、ルナの障壁の裏へ。同時にようやく発射が停止した。わずかに残っていた光線の残り香は何物にも遮られずにツルにぶつかり、そこでかき消される…わけではなく、あたりにドロッとした何かが飛散する。



 ドロッとした何かは…明らかに瘴気だな。瘴気であるならガロウ、レイコ、ルナは特に注意しなきゃならない。獣人と魔人だしな…。勿論、俺ら人間とハイエルフたるカレンも受けまくると危ういが。



「「『『浄化』』」」


 滞留する瘴気を浄化。これでやっと完全に攻撃が終了したといえる。



 で、またカレンが狙われてる。折角、射線をルナの障壁で遮ったのに、イジャズ本体が動いて殴りに行った。



 イジャズが振り回すものを必死に弓本体で受けるカレン。二人の間に割り込み、無理やり距離を作り…、逆に俺と四季の二人で斬りつけていく。



 だが、やっぱり当たらない…! さっきまで手に持ってなかった何か…で綺麗に捌かれる。たぶん聴診器。…なるほど、それで医者か。聴診器を持ってるのは大抵お医者さんだ。



 久安と被っているが、方向性が全く違うな…。



 で、そんな聴診器で攻撃が流され、受け止められてる。明らかに聴診器の硬さじゃない。わかってはいたけれど、これがこいつの白授の道具で確定。



 さっきの攻防では軽い裂傷を顔や胸にたまにつけられていたのに…、今回はそんな急所は全て外されてる!



「起動」


 イジャズの言葉に反応して、以前と変わらずメリコムとアーミラの口が輝く。視線は…変わらずカレン。戦ってる間にまた射線が通るようになったか! これは止められ…、



「行かせない、よっ!」


 ないかと思ったけれど、ルナがスルリと二人の間に割り込み、光線を止めた。だが、代償にガロウとレイコが障壁外へ出てしまう。それ目敏く発見したメリコムとアーミラの無数の腕がガロウとレイコの二人へ殺到する。



「習!清水さん!」

「あぁ、頼む!」


 ほんと徹底してやがる! どんだけうちの子達から減らしたいんだよ、イジャズは!



 俺らの方が二人に近い。タクもそれを踏まえて行けと言ってくれてる。イジャズの対処はタクと謙三へ任せて、二人の援護に…!



「『壁』」

「『壁』」


 ガロウとレイコが渡した紙で壁を作る。走っていたら間に合わない。



「「『『火球』』」」


 壁よりもメリコムとアーミラ側へ放つ。燃やされるのを嫌い、距離を取ってくれればいいが…、駄目か!



 火球が命中。当たった腕と付近の腕を纏めて消し飛ばす。が、それだけ。二人はびくともせずに突撃し続け…、爆発音より少し遅れて壁が粉々になる音が響き渡り、それにガロウとレイコの悲鳴が続いた。



「「『『回復』』」」

「「『『浄化』』」」


 二人の方に必要な魔法を飛ばし、メリコムとアーミラの前に割り込んで、二人の進行を妨げる。吹き飛ばされるのは防げなかったが、追撃はやらせない!



 進行を妨げながら、二人揃ってガロウとレイコに『回復』を飛ばす。きっと吹っ飛ばされちゃったから着地失敗してしまうだろう。その傷を癒してあげねば。



「ルナ!二人を頼む!」

「貴方の判断は間違ってませんでしたよ!」


 ルナが入っていなければ、カレンに光線が直撃していた。そして、吹き飛ばされてツルにたたきつけられ、光線でガリガリ削られる羽目になっただろう。それに比べれば、まだガロウとレイコの方が受ける体勢になれた分、被害はマシだ。



 たぶんそう判断してくれたのだろうから、ルナに委縮されちゃ困る。しっかりフォローをしておかなければ。



「『回復』」


 え゛。今の声はガロウ。…回復が足りなかった? クソっ!



 落ち着け。俺。ただでさえ、心の奥底から湧いてくる不甲斐無さだとか、自分の見込みの甘さへの苛立ちがあるのに、これ以上はまずい…。



 二人が吹き飛ばされたことを全て俺らの責としてしまえば、怒りに転化してイジャズに叩きつける…と言う事は可能。…大人げないけど。



 だが、それをしてしまうとガロウとレイコに申し訳なさすぎる。それはガロウとレイコに過失がないことになる。普通なら怒られずに済むから嬉しいだろうが…、俺らに認められたい二人からすれば別。



 全部俺らが悪いということは、二人を参戦させた判断が間違いってなる。あの二人は実力不足なんかではない。だのに、俺らがあの子らの思いを踏みにじってたまるか。



「父ちゃん!母ちゃん!怒りで我を忘れるとかやめろよ!?」

「そのせいで無駄に被弾されようものなら(わたくし)達、お姉様や妹達に顔向けできません!」


 ……念押しされてしまった。言われなくてもわかってるよ? うん。…一体、あの子らの中で俺と四季はどうなってるんだろう。



「どう思われてるって…、見たまんまだぞ!習!清水さん!」

「二人ともさっきから一言もしゃべらず、冷たい目で淡々と動いてるからこえぇんだよ!」


 なるほど。だが、たぶん倒すまで変わらないと思う。



 腕の動きはだいたい読めてきた。力が強くて手数も多いが…、腕は伸縮出来ない。それが有難い。距離を取れば容易に範囲外に出れる。



「ルナ!」

「左へ!」

「ん!」


 ルナが左へ移動。駆け寄ってくるガロウとレイコに、わずかにメリコムとアーミラからの射線が通る。



「起動!」


 口にエネルギーが収束する。乗ってこないかと思っていたけれど、まさか本当に乗ってくるのは思わなかった。この距離でそれを許すわけがないだろうに。



「「『『ロックランス』』」」

「「『『雷槌』』」」


 顎の下からロックランス、頭上から雷でできた槌。二つの魔法で頭を上下から殴って、口を閉ざさせる。



「「『『壁』』」」


 メリコムとアーミラを囲むように壁を作る。二人だけで爆ぜてろ。



「ぎゃっ、ぐあらっ!」


 痛そうではあるが、爆発はないか。普通に『壁』を貫き通せる元気はまだ残ってる…と。



「おまけあげるー!」


 カレンに誘導された矢が二本、穴に向かって吸い込まれる…なっ!? まだ光線は残ってる!?



 穴から出てきた二人はカレンを発見すると、そちらに顔を向けて光線を放つ。



「ふっふーん!さっきみたいな連携もないよーじゃ、当たんないよー!」


 俺らが前にいるのに狙いはやはりカレン。ほんと、良い性格してる…!



「あまりぽこじゃか使わないで欲しいのですがネッ!」


 イジャズはほんのちょっとだけこっちに気を取られたタクと謙三のシャイツァーをカチあげ、二人に蹴りを入れて吹き飛ばした。



 あいつ、体の性能どうなってんだ。タクと謙三はなんだかんだで鍛えてるから、簡単に隙を突かれたり、カチあげられたり、吹き飛ばされたりしないはずなのだが。



「行かせませんよ」

「やはり一回見られるとバレますか」


 そりゃね。一回、イジャズがメリコムとアーミラに触って何かしようとしているのを見た。そのおかげで「触ったら二人に何かできるんだろう」って予想はつけられる。



 …もし鈍くて予想できなくてもボソッと愚痴ってたから気づける。



 俺と四季がイジャズを相手取って、ガロウにレイコ、ルナとカレン、謙三とタクがメリコムとアーミラを相手取る。そして、イジャズと二人を引き離す。



 こいつの行動を見る限り、こいつの白授の道具は誰かほかの人がいないと碌に効果を発揮できない。だから、いくらこいつの身体能力が良くて攻撃を当てにくくても…、メリコムとアーミラを落とせばこっちが一気に優勢になる。



 だから、引き離しているうちに決着を付けて欲しいのだが…、苦戦している。



 ただ手の数が多い…というなら『ノサインカッシェラ』とあまり変わらないだろう、だが、あいつより腕の数が多いうえに力が強い。苦戦は必至か。



 でも、抑えることなら出来るはず。俺と四季も無理しなければ抑えられる。俺が見る限り、抑え続けられるなら勝てる。



「四季はどう?」

「少々お待ちをッ…!」


 四季の邪魔はさせない。ペンを目に投げ牽制し、剣で斬りかかると同時、前に出る。イジャズの聴診器を受けて…、



「えぇ、問題なさそうです」


 言いながら、四季がファイルをイジャズの脳天目がけて投げ、弾かれ回収。



 ありがと、四季。この部屋に入った時と同じく、密閉状態が保たれている。四季もそうみてるなら、このまま待ってるだけでいい。



 部屋はボロボロなのに、密閉状態が保たれているのは間違いなく有宮さんのツルのおかげ。さっきまで敵対していた人のモノが役立つのはちょっとアレだが、役立つなら気にするモノか。



 気になるなら元は味方だったんだから、味方の最後の置き土産? 的なモノに解釈すればいい。…全力でツルが殴ってきたが。



 それは置いておこう。密閉されているなら分断維持を優先。分断して、待っていればイジャズは大きな動きは出来ない。メリコムとアーミラもまた同様だろう。そして、待ってさえいれば…見栄えはしないが勝てる。



 …戦いに本来、見栄えなぞ必要ないが。それが求められるのはそう言う戦い(剣闘とか)だけだ。



 無理して攻めなくていいから、魔法は温存。紙が無くなって使えなくなったら困る。『身体強化』している以上、魔力は奪われるし、動くから体力も減る。だが、活発に動くときに比べればマシ。



 動きをガラッと変える。こいつがメリコムとアーミラの二人のそばに行けないよう、徹底的に邪魔する。勿論、取れそうな隙が出来るならば、容赦なく取るが。



 イジャズが走り抜けようとすれば剣を置き、身を割り込ませる。イジャズが跳ねていこうとすれば、俺か四季のどちらかが跳ね、進路を塞ぎ、降下してくるときに蹴りを入れようとすればいい。俺と四季の間を通り抜けようとするなら、二人の全力で剣を叩き込む。



「動き変わりましたか…ね?いや、気のせい…?厄介ですネ。抜けやすさなら中央突破のはずなのですが、駄目そうですネ。普通、互いに遠慮するはずなのですけド…」


 甘いな。俺らにはそれはない。寧ろ、間を通ろうとしてくれるのが一番楽だ。四季の位置関係はだいたい把握できてる。誤射など万が一にもあるまい。



 だから、間を抜けられるとさえわかれば、瞬時に距離を詰めて二人で押しつぶすなり、距離を話して思いっきり剣を振るうなり出来る。



 積極的にいかなくなったからか少々やりにくそう…というよりは迷っているように見える。動かないならこちらから攻めてやる。絶対に合流させはしない。







______


 …いまだにイジャズは迷っているように見える。何を迷ってるんだ? 俺らが攻め立てた瞬間、思考を止めている。そんな感じがする。…が、それでも長くないか? 既に30分は経つ。1分に20秒くらいしか考える時間がなくとも、10分は考える時間はあるぞ?



 それはいい。こちらはそろそろ良さそうだけど…、まだちょっと必要っぽいな。早くしてくれなければ、ルナが精神的に危うい…。



「仕方ありませんね。行きましょう」


 イジャズが聴診器を投げ、俺らの間を切り裂かれながら通り抜ける。



「がふっ…」


 しっかりした手応え。だが…、止まらない!



「すまん!習!メリコム様は取ったが…!」

「アーミラ様が抜けた!」


 なっ…、メリコムが自爆覚悟でアーミラを通しやがったのか…。会話をはじめ、視線だとかでも一切やりとりはなかったはずだが…、腐っても支配主とその眷属ってことか…。



「戻れ」


 俺の手にあった聴診器が一瞬でイジャズの元へ。白授の道具も、俺ら勇者のシャイツァーと同じく、瞬間移動できたのか!



「私の身にある私の力よ、我が主たるチヌリトリカが偉大なる力よ、がっ…」


 俺と四季のペンとファイルが直撃。



「ふっ…。その力の全てを込め、主命を達せ、『ケンメジョッキン』!」


 が、それでも止まらない。止められない。



 イジャズの聴診器がぴとっとアーミラに引っ付き、イジャズからアーミラへ力がどくどくと移動する。イジャズが力を失うごとに、「ぐげっ、ぐげらっ」と悲鳴をあげながら膨張し、巨大化する。



「父ちゃん!母ちゃん!」

「安心しろ、ガロウ。チェックメイトだ」


 タクの言葉にガロウとレイコがこちらを向く。うん。終わったよ。俺らの力ではないけれど。



「なっ…!」


 これで詰み。イジャズの前でシュルシュルと力が抜けていくアーミラ様の体。先ほどまで声を上げて膨張していたのとは対照的に、声もあげず静かにゆっくり小さくなる。



 そして、元の大きさまで小さくなって…、不要な背中の腕やのどのふくらみも消えて、後に残ったのは死んだように眠るアーミラ様の体だけ。そして、メリコムの方も、メリコム様の体だけが残っている。



「あぁ…、やはり。駄目でしたか」


 瀕死だがイジャズは生きている。俺らの攻撃のせいで弱っているのだろうが、それ以上に、アーミラ様の体に全ての力を流し込もうとして失敗したのが大きそう。トドメを…。



「ごふっ。あの、押しつけがましいのですが、私の言葉を聞い…、ッアッ!」


 ドバっと血を吐くイジャズ。もはや喋ることすら辛いだろうに、俺らの行動を気にする余裕もないのか、ぽつりぽつり独り言のように話し始める。



「私は、私がわからない。私が、私である所以は、ごふっ。「主に、苦言を言える」ただこれだけ。ごはっ…。私は、あの方の表の思いと。ッガッ…はー、はー。本当の思い。それが矛盾していることに気づきました。ッ…。ですが。私にはそれを言う事すらッ、出来なかった。この点で、私は他の仲間と同じ…です。ごふっ、ごふっ。主に近く、主から力を貰っていながら、この体たらく。ごほっ…、今になって、このように言っています。がはっ…。が、どうせ生きていたとて、本人には言えなかったでしょう。…おっ、げぱっ」


今までとは比べ物にならないほど、大量の血を吐き出し、イジャズは血の海に倒れ伏す



「すみません。主を…お願いします。お……」


 ………後が続いてこない。…死んだか。最期に何を言いかけていたのか、そこはわからないが…。何故かチヌリトリカのことを託されたのは分かる。


 

何故イジャズは、こいつにとって敵方の主戦力たる俺らに、俺らの敵方の首魁(チヌリトリカ)を託したのか…。



 勝ったはずなのにスッキリしない謎が残った。だが、バシェル王都に巣食っていたチヌカとの戦いはこれで幕を閉じた。

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