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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
8章 再人間領域
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237話 王都決戦 in 謁見の間 勇者激突

「燃えろ。『火斬』!」


 ピリッと張り詰めた空気を破り、タクが剣を振る。タクの振るった剣が通過した空間を燃やすように火が生じ、刃の形を成して炎が飛んでいく。



 その一撃が完全に膠着した空気を破壊し、俺らも、有宮さん達も動き出す。



 俺らが種々の魔法を、カレンが矢を、ガロウが爪を、レイコが火と氷の玉を撃ち、謙三が斬りこみ、ルナが殴りこむ。



「わたしらを守ってくれよ?」

「勿論だぜ!さかげん(豊穣寺咲景)!」


 攻撃を迎撃に動く有宮さん。そして、陽上(ようじょう)赤鉾(せきむ)も動く。



 陽上は火魔法をフライパンの底面で受け、それ以外は純粋にシャイツァーを盾として振り回して受け止める。赤鉾は矢や『ロックバレット』、『水球』といったものを箒で掻き集めて消滅させる。



 狩野(かのう)さんは見る限り…、キャンバスを盾に魔法を防いでいるようだ。



「有宮ァ!」

「ほんと!ケンゾは迫力だけはいっちょ前だよね!当たらないけど!」

「なら避けんなよ!」

「いや、それはそれで死ぬじゃん。絶対」


 有宮さん。突然真顔になられても困る。



「おい。久我ぁ。ちょっと面かせ」

「おうよ!」


 なんで有宮さんへの攻撃を止めて、(鮫波将)について行くんだ…。



鮫波(さまなみ)君。余計なことはしないでください」

「!りょ、了解っす!久我。やっぱいいぞ」

「お。そうか。有宮ァ!」


 くるっと方向を変えて有宮さんに斬りかかる謙三。



「情緒不安定なの!?」


 情緒不安定なんじゃなくて、将のシャイツァーに邪魔されたんだろう。…将のサングラスは交渉系列の能力っぽいとはいえ、強面の将に敢えて突っ込んで行く原理はよくわからない。一般的には、避けるだろうに…。



「おいこら、(さめ)ェ!仕事してよ!」

「そいつは無理な相談だなぁ、有宮さんよ。清水(きよみず)の姉御に逆らうなんて…、んな馬鹿の事出来るわけねェでしょうが」


 サングラスをかけていて、顔つきがめっちゃ凶暴なのに、やれやれとコミカルに首を竦める将。四季、一体将に何したの…。



「な ん で…あ。あぁ!そういえば小さい頃の道場の関係でどちゃくさに叩き潰されたって言ってた!」

「そうっす。そうっすよ!わかってんじゃないっすか!」

「どーだ!すごいだろ!…って、ちっちゃい頃なら勝てるだろぉ!?男女の性差あるんだぞっ!?」


 チラッと四季を見る将。見られた四季はにこっと微笑んで手を振る。



「無理っす」

「調教されてんじゃないのぉぉぉ!鮫!あんたは象か!ちっちゃいころに杭につながれて大きくなっても勝てないって諦めてる象か!諦めるなよぉぉぉ!」

「なら、そこのおおk「将。その子らに手を出すな」…了解すっ!森の兄貴!」


 いい子だ。



「え。シューもダメなの?…あ。うん。叩き潰された。言ってたね。…ナンテコッタイ。出力上げ「るのは駄目よ」だよねー。さかげんが計算してくれたやつの安全ライン越えちゃう!」


 安全ライン? …何故そんなものを気にするんだ?



「壊れちゃうわ」

「わかってる!」


 壊れる…精神がか? それなら気にしてもおかしくはない…か。わからない。謎。だが、たぶん勇者達には有宮さんは何もできないっぽい。



「ええい!仕方ない!鮫!肉壁になって!さかげん守れぃ!」

「文香!わたしに期待されても困るぞ!?ただでさえ森野さんと清水さんという超面倒くさい変数があるのに…。さらに追加でこれまた面倒そうな変数4つとか酷すぎる。適切な関数見つかるかなんてわからないぞ」


 面倒極まりないと言わんばかりに首を竦める豊穣寺さん。だが、その目は死んでいない。むしろメラメラ燃えている。



「あの、鮫波君。貴方肉壁にならなくても…、シャイツァーで魔法は捌けるんじゃない?」

「!確かに!狩野さん!ちっこいのにさすがだな!」

「…ちっこいは余計よ。お詫びに必死に動きなさい。躍動する肉体、飛散する血しぶき、絵になるものは余すことなく記憶にとどめてあげる!」


 躍動する肉体も、飛び散る血しぶきも一瞬のモノ。だから絵にするのはすごく大変だと思うのだが…。狩野さんならちゃんと描けるか。…俺らなら静止画すら無理だからそれ以前の問題なのだけど。



「『交渉』!そら、戻れ!」


 黒いサングラスが一瞬輝くと、タクとガロウの攻撃だけくるっと反転してくる。この程度ならすぐさま無力化できる。



「鮫!ちゃんと捌けよぅ!?」

「不可能だ!」

「何故!?鮫波さん!何でダメなの!?情報をくれ!」

「単純に、あそこの弓子ちゃんと狐子ちゃん。それと兄貴と姉御の二人はどうしようもないってだけだぜ!よくわからないが…なんていうか、あれだ!生命としての格が違う!」


 …格? カレンはハイエルフ。ハイエルフは存在にラーヴェ神が介入してるのは間違いないから、格はありそう。レイコは神獣。神獣の存在意味はよく意味が分からないと言われたが…、「神」を冠するだけはあるということだろう。だが、俺と四季が分からない。何かあったか?



「それって…。4人の変数が尋常じゃないってことだな!?」


 パソコンを右手に持ったままガシガシと頭を掻く豊穣寺さん。



「やってやる、やってやる!」


 不屈の闘志とはまさにこのことか。諦めてくればいいのに面倒この上ない。けど、見つける前に片が付きそう…。



「譜面A!行きなさい、ワタシの子供!『サウンドボム』!」


 咄嗟に耳を塞ぐ。わずかに遅れて爆音が鳴り響き、衝撃波とちぎれたツルが体を叩き、吹き飛ばされる。普通に痛い…!



 足を下に。ガロウが飛ばして来てくれた爪と、四季を掴む。俺と四季の着地点に爪を投げつけ、停止と同時に爪に乗る。



「「『『回復』』」」


 俺と四季、謙三とタクを回復。例え音で鼓膜が破れていてもこれで修復できたはず。子供たちは…、うん。ルナの家の障壁のおかげで大丈夫そうだね。ガロウがフォローしてくれた時点でだいたいわかってたけど。



「文香。今の爆発でツルや部屋への損傷は?」

「無いように抑えたぜぃ!」


 有宮さんがツルで守ってあっちも損害無しか。音を出した羽響(はねひびき)さん自身も守ってもらっていたようだから、自分は自分の攻撃でダメージを受けない…というタイプではないと。



「人間は0.3 MPaの風圧で死ぬらしいが…、この程度では傷なしか。森野さんと清水さんは回復も出来る…と。面倒な」

「兄貴!姉御!データとられたぞ!」


 そりゃね。手の内を晒さないとどうしようもなかったもん。でも、こっちだって取れてる。



 陽上のシャイツァーで無効化できるのは「火」か「水」だけ。ただし、受ける場所に注意が必要なようだ。「火」はフライパン底面、「水」は上で受けないと駄目。それ以外の場所に当たったやつはシャイツァー自身の馬鹿みたいな防御力で防いでるだけに過ぎない。



 たぶん「火」は料理の際の火力調節。「水」は蒸しや煮物なんかに必要な水…といった認識で防いでいるのだろう。防いだら料理が出てきて、食べたらバフ(能力向上)! とかはないようだが。



 赤鉾の箒で掻き集められるものは固体限定。固体であれば元が魔力であろうがなかろうが関係なし。だから、カレンの矢や『ロックバレット』は掻き集められてしまう。ついでに普通の剣や槍なんかで斬りつけてもまとめてポイされるはず。だが、実体のないものは対象外。故に『火球』やレイコの魔法は止められない。



 …一応、俺と四季の持つ謎剣もゴミ扱いされないように気を付けてあげないといけないかな。ちゃんと言われた手入れしてるからか、俺らに従ってくれてるし。



 この剣は片方を無くした時なら兎も角、二本揃っている状況なら赤鉾のシャイツァーは何もできないと思うが。



 兎も角、赤鉾のシャイツァーで楽に処理されたくなければ『風』魔法を撃ちまくるのがいい。実体がなければあいつは避けるかシャイツァーで殴るしかない。



 だが、叩き潰すだけでは根本解決にはならない。根を張って操っているのか、花粉を吸い込ませてそれで洗脳したのか、具体的な手段は分からないが…、青釧(おうせん)さんと違って、操られていたであろう座馬井兄妹たちと同じ気配を感じる。だから、叩き潰した後、その辺りも含めて解決しないと。



「ルナ!」

「!」


 俺らとルナたちの間にあるツル、それは俺らの声がルナに届いた途端、叩きつけられた家にぺちゃんこにされた。床抜かないでね…。



 ルナは一切、叩き潰したツルに興味はなく、「呼んでくれた!遊んでくれるの!?構ってくれるの!?何かやることある!?」と言わんばかりに嬉しそうな顔をしている。たぶん『輸爪』が無ければそのまますっ飛んできただろう。



「守備をお願いします。家を大きくして見えないように」

「ん!」


 家が巨大化。俺と四季、ルナにガロウとレイコの間と、有宮さん達の間を遮る。防御はルナの家が張る障壁がしてくれる。中の皆の魔力もまだ余裕がある。安心して書ける環境ではあるが…、のんびり書く気はさらさらない!



 必要なのは洗脳を何とかする魔法。あいつらが操られているのは有宮さんのせいだと断言していいだろう。メリコムとアーミラの二人と、座馬井兄妹やあいつらと受ける印象が違うから。だから、メタった魔法を作ればいい。



「あ。家の戸は閉めておいてください。悪いですが代わりは私達の側の窓で」


 フォローありがとう四季。さて、書くか。有宮さんのシャイツァーはどう見ても植物系。であれば、勇者達に悪影響を与えているのは植物それ自身か、植物由来の物質のどちらかだろう。それを無効化してしまえば良さそう。そして都合のいいことに丁度いい単語がある。



 ペンに魔力を込め、スラスラッと完成させる。…あ。でも、有宮さん自身の洗脳は有宮さんによるものじゃない。十中八九、百引(ひゃくび)さんによるもの。作った魔法は効かないであろうことは注意しないとな。



 元からやる気もないけど、触媒魔法ぶち込んで一撃で終わらせる…のは無理だ。…一枚じゃ不安だな。後、もう数枚…。



「はい。どうぞ」

「ありがとう。早急に仕上げる」


 さすが四季。欲しいときに欲しい枚数くれる。これも俺と四季の考えが似通ってるからこそか。さて、家の向こうが五月蠅くなってきたし、すぐに終わらせよう。



 一枚完成させて…、二枚目。二枚目は…、これ三枚目だからか、少し魔力消費は多いけれど、形紙魔法に比べればほぼないようなもの。すらっと書ける。



 『アンチボタニカル』っと…。「ボタニカル」は「植物由来の」という意味。「アンチ」は「打ち消す」とか「反抗する」とかいう意味。二つ引っ付ければ「植物由来の何かを打ち消す」という意味になる…はず。…万一、ならなくてもなると思い込めば問題なし。



 ついでに、『追い風』…っと。これで準備万端。さ、将たちを返してもらおう。



「カレン!万が一の時はよろしく!」

「ガロウ君!後始末は任せます!」


 四季の手を取り、『輸爪』から飛び降りる。



「ちょっ!?」


 ごめん。ガロウ。でも、これが一番早いんだ。ルナが大きくしてくれている家。正面に回るために走りながら、魔力を全身に回して『身体強化』。正面に来たと同時に『追い風』を発動。俺と四季の背中をちょうどいい塩梅で強く押してくれる。



 細いツルなど障害にすらならない。強化された肉体の持つ速度。それだけで跳ね除けられる。無理そうなものや、花の放つ花粉と種なんかは斬り裂いてやればいい。



「文香!」

「わかってる!狙いは皆だね!文が…」

「邪魔はさせねぇよ!」

「あぁ!兄貴と姉御の邪魔をすることは許さないぜ!」


 タクがツルを燃やし、謙三が有宮さん本体の行動を阻害してくれる。ガロウは無言のままに爪でフォローしてくれている。カレンとレイコもまた、ツルを切断してくれている。



 今までの動向を見る限り有宮さん側の勇者たちはある程度戦える。だが、ある程度戦えるとは言え、やはり魔王討伐班に振り分けられた勇者達よりは打てる手が少ない。だから、位置が露見した後でも、俺らの攻撃から守るために固めて配置していたのだろう。それが一番俺らにとって都合がいいとも知らずに!



「「『『壁』』」」


 援護のおかげで勇者の周りに空隙が出来てる。だからこそ囲い込んで逃げ場を無くして、一瞬で距離を詰める。



「豊穣寺さんの言う通り!ゴミ掃除っ!」


 壁が消えるが想定内。って、赤鉾が二人いる!? しかも縦に連なってる。声の聞こえる方向判断…は出来ない。だが、箒の射程の関係で両方とも苦労せずに殴れるから無問題。俺が数歩歩幅を大きくして、四季と吶喊。両方のお尻を蹴り飛ばす。



「四季!」


 やっぱり遠い側が本物か。すぐさま四季と手を結び、無言で『アンチボタニカル』を発動。出てきた球体が命中。…うん、手応え的にはもう大丈夫。『回復』を赤鉾へ!



「ルナちゃん!」

「ん!」


 ルナに任せておけば、障壁内に回収してくれるだろう。まだまだ行くぞ。



「「『『壁』』」」


 もう一度壁。俺らを含めて全員囲みきる。赤鉾がいない今、これを砕くことはこの中にいるメンツでは不可能。有宮さんが来る前に落としきる!



「「『『火球』』」」


 当たれば即死する威力の火球。罠とわかっていても陽上は受けざるを得…、



「鮫波さん!」

「言われずとも!俺が陽上を守る!」


 ッ! 余計なことを…! やっぱり俺らも級友は殺したくない…と思っているのはバレてるか! 消えろ。



「やはりな!俺ごt『サウンドボム』ッァッー!?」


 俺ごとやれ…という前に音響爆弾。シャイツァー自体、爆音を出すのに特化したモノじゃないから、もう使えないかと思ったが、そんなことはなかった。



 微妙に塞ぎ損ねた耳と、衝撃波で体が痛い。が、この程度、障害にならない。倒れてる将を四季と持ち上げて、二人でぶん投げる。『回復』を間髪入れずに発動させて、俺らと将を回復。『アンチボタニカル』を無言で発動。球体が飛んで行って、命中。洗脳は解けた。



「ルナ!」


 後はルナたちに任せる。着地の衝撃は…、ガロウが何とかしてくれる。死にさえしなければルキィ様に預けた魔法で何とかしてくれる。



「「『『壁』』」」


 今度は俺らの方だけ開けて囲む。『アンチボタニカル』は1枚無くなったが…、まだいける。ここで全部落とす。逃がさない。



「「『『ファイアバレット』』」」


 小さな火球を大量に発射。一発一発は銃弾程度だが、非常に高温で命中すれば容易に骨すら貫通できる。逃げ道を完全に封じることで陽上に受けさせ、かつ、陽上の後ろに勇者を誘導する。



 よし、陽上が受け…って、今度は狩野さん!? …いや、出て来るわけないか。これは幻だろう。それに、当たっても即死はしないさ。心臓と頭に当たりそうになったらその部分だけ消すけど。



「四季!」

「はい!」


 四季を上へ放り投げる。…やはりあの狩野さんは幻覚か。一切干渉なく火球が飛んで行った。そして、四季が魔法を発動…するわけもなく、正面から飛んできたレイコの『|蒼凍紅焼拓《ガルミーア=アディシュ》』が、陽上のフライパンがそこに存在しないかの如く透過、陽上のお腹付近を凍らせ、ダメ押しに横から飛んできたカレンの矢が腕を貫いた。



 落ちてくる四季。彼女の両足を両手のひらで受け止め、再度放り投げる。容易にフライパンを越え、フライパンと陽上を蹴り飛ばしてくれる。飛んできた陽上だけを蹴り飛ばし、四季と合流。『アンチボタニカル』っと。ついでに『回復』。ルナ、お願いね。



「ちっ…、仕方ない。解析不十分、効く気が全くしないが…。『励起(ウェイク)』!『増幅(アンプリケイション)』!」


 豊穣寺さんのパソコンが光っ…!



 何故か懐かしい感じがする。そして、俺と四季、そして誰かわからないけど、大切っぽいちっちゃい子が2人。俺らを囲む大量の人。この人らも大事っぽい。「死ね」だとか「悪魔」だとか言っている気がするが…。残念。俺が生きてきた中に、少なくとも視界いっぽいになるくらいの大事な人などいない。



 …? 消えた。よくわからないが、よくわからないうちに魔法を潰したらしい。



 逃げられないうちに…。



「あっ、やっぱり…!」

「「『『アンチボタニカル』』」」

「『サウンドボム』」


 またか!



「「『『壁』』」」


 普通に痛いが…、こっち魔法のが早かった。再奪還などさせるかよ。豊穣寺(ほうじょうじ)咲景(さかげ)さん、狩野(かのう)絵里(えり)さん。羽響(はねひびき)芽衣(めい)さん。3人がこれで解放された。『回復』して…、



 全員まとめてルナの方へ蹴り飛ばす。そして、目標を達成出来て余裕がある『回復』を、追加しておく。ガロウにレイコ、戻って来た謙三が受け止め、飛んできた回復魔法に当てて、回復させる。そして3人は手筈通り、ルキィ様や鷹尾(たかび)達に手渡され、家の中へ。



 これで後は有宮さんだけ。未だにメリコムとアーミラ…というか、その大本っぽいイジャズが動きを見せないのが不可解で気持ち悪い。が、動かないなら動かないで構わない。有宮さんも返してもらう。



「落ちちゃえ!」


 ツルが床を破壊し、床が抜けた。…なんだかんだで優しいな。有宮さん。最初に使っていれば終わったのに。味方を巻き込む覚悟があれば、俺らは落とせたのに。誤射の心配がなくなって、俺らだけになった瞬間使ってきた。



 だが、無駄だ。カレンの矢が俺と四季の体を支え、浮いている間に『輸爪』が俺らの下に来る。カレンに頼んだフォローはこの支えとしての矢が主だ。



「ッ!なら…!」


 大量に俺らに向かってやってくるツル。視覚効果は十分。だが、俺らに到達するまでにタクとレイコに燃やされ、ガロウとカレンに斬り刻まれる。



 それでも、ツルは有宮さんの意地を示しているのか燃えても、燃えたままやってきて、斬られても、斬られても再生して襲い掛かってくる。だから、それを真っ向から叩き潰す。



「「『『アンチボタニカル』』」」


 これまでの有宮さんの頑張りを無駄にしてきた魔法。その名前をはっきり唱える。有宮さんは馬鹿じゃない。所詮、英語を元に作った魔法。だから、彼女は十分にその魔法が何の魔法か理解できる。



 紙から放たれたのはただの球。だが、有宮さんのツル、花、花粉に種。およそ有宮さんの使える手札、その一切合切を等しく破壊して飛んでいく。彼女のシャイツァーは『種袋』。だからこそ有宮さん自身が一番、この魔法に彼女が対抗できる術がないことは分かってる。



「イジャズ!」


 叫ぶと同時、イジャズの方へ向かって転がる有宮さん。だが、そのまま進めば当たる軌道で追加で3発。これでもう『アンチボタニカル』は無くなったが…、彼女からは見えていない。だから、有宮さんはまだ飛んでくる可能性を考慮して、イジャズとは逆方向に逃げるしかない。



「ッー!」


 逆方向には謙三がいる。



「やっと届くな」


 言葉と共に謙三が大剣を振るう。振るわれた大剣は有宮さんの利き手である右手を一切の狂いなく断ち切った。



「「『『浄化』』」」


…一回じゃダメか。



「「『『浄化』』」」

「「『『浄化』』」」

「「『『回復』』」」


 浄化の紙一枚を使い切ってようやく解けるか…。なかなか強力な洗脳だ。『回復』で腕を引っ付け、そばに来てくれているルナの家の中へ収容。



 その間、俺らが渡した紙でタクや謙三は消火してくれてる。延焼は容易く止まり。元のようにツルで囲まれた密室に戻った。



 有宮さんが落ちてもツルが残っているのはありがたい。落ちた瞬間に消えられたら、この部屋ダメだった可能性があるからな…。



 …さて、と。



「降伏したりしてくれません?」


 今に至るまで、狙わなければ動かなかったイジャズさん?



「申し訳ありませんが、それは出来かねます」

「何故?」

「何故と言われますと…、何故なのでしょう?私にもわかりかねます。私の目的は内戦が勃発した瞬間、達された。であればこそ、戦う理由は正直ないに等しいのですよ。言いつけも守りやすいですしね」


 言いつけ? …それが何かわからないが、であるなら、戦わなくても…、



「が、戦わないとたぶん文句言われますし…、何より疲れたので戦いましょうか」


 動かなかった理由がまるで謎のまま。そして動く理由(疲れた)さえ俺には理解できない。だが、戦うのであれば仕方ない。戦おう。戦って潰す。それだけだ。

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