236話 王都決戦 in 謁見の間 有宮
時系列は229話の直後です。
「もー!ずっこいなぁ!速攻で9人しかいないって看破できるとか!」
「有宮ァ!」
「ケンゾ。うるさい!」
斬りかかる謙三をいなし、苦言を言う有宮さん。謙三の攻撃はここぞ! という時しか当たらない。が、ぼさっと突っ立っていれば確実に横一閃される。だから、当たらないと思っていても避けざるを得ない。
…まぁ、謙三は味方だとどんだけ危なくても何故か絶対に誤射しないが、慣れるまで精神的にしんどいというある意味絶大のデメリットを抱えているが。
「ケンゾ!落ち着いて!話出来ないじゃん!」
話? この期に及んでまだ話すことなんてあるのか? …謙三が暴走しているうちにルキィ様にアレの準備をお願いしよう。
よし、了承してくれた。一瞬だけ、筆舌に尽くしがたい程悲しそうな顔をしたけど、すぐに戻った。…ほんと、王族は大変だ。
「落ち着けって言ってるじゃん!話出来ねぇ!」
「謙三。少し落ち着いて」
「です。一応、聞きましょう。…それでいいです。ありがとうございます」
俺らの制止で謙三がピタリ動きを止めた。だが、剣を握る手はプルプル震えていて、放っておけば速攻で動き出してしまいそう。
「では、文香ちゃん。話とは何です?」
「まさか降参してくれるとでも言うのか?」
「あははー。まっさかー。この状況下で何もしない。そんな消極的な事が出来るわけないでしょー?」
知ってた。
「じゃあ、何?」
「え?そりゃ…、あれ?何だろ?えっと…、えへへー。久しぶりー」
…たいした内容は無しと。じゃあ、
「うん。久しぶり有宮さん」
「久しぶりですね。文香ちゃん」
「「押し通る!」」
無駄話をする気はない。さっさと戦闘に持ち込んでしまわなければ狩野さんと豊穣寺さんにフリーな時間をあげるだけ。突っ込んで戦闘に叩き込む!
「あぁっ!くそぅ!しゅーとしーちゃんはこういう子らだったぁ!?」
後ろでチヌカ…イジャズが「貴方の話題運びがド下手なだけでは?」みたいな顔をしている。…残念ながら相手が誰でも戦闘に叩き込むのは変わらなかったと思う。
「「頼む!」」
元国王メリコムと現国王アーミラを蹴り飛ばしてイジャズの元へ。落とせるならこいつを落とすのが一番いい!
「「『『アースバレット』』」」
岩の弾丸を放ち、続いて剣を振り下ろす!
「防ぎなさい」
イジャズの一言。その言葉で蹴り飛ばしたはずのメリコムとアーミラがあり得ない挙動で戻ってきて、全てを防いだ。盾で俺らの攻撃を防ぐだけ、まだメリコムは良心的だが…、俺らが受けた印象で正解のよう。
正直、外れていて欲しかった。…まったく、外道だが実にいい手法だよ。…こんなことが出来る以上、イジャズから倒すべき…なのだが、駄目だ。後回し。
ひょろっこい印象からすぐ落とせるかと思ったが、そんなことはなかった。腐ってもチヌカなんだ。今までのチヌカと同じくらい倒すのに時間がかかると思うべき。
であれば、先に非戦闘員である有宮さん以外の勇者たちを潰す!
「プランA!」
俺の声に反応する6つの声。
「謙三君!Aですよ!」
「…ッ!わかった!」
謙三も下がってくれる。すまない。早く終わらせよう。
「好き勝手は、やらせないぜぃ!」
有宮さんが指を振るうと、壁を突き破って溢れてくる大量のツル。面倒な…!
「そーれ!捕まえちゃえー!女の子を捕まえたらR1・・・あ。うん。嘘です。ごめんなさい」
一瞬、有宮さんを凄惨な死に方させてあげないと駄目かと思ったが…気のせいだったか。
「セーフ!文は一命ととりとめた!」
気絶してくれてもいいのだが。襲い掛かってくるツルをペンで斬る。…十分斬れるな。
「ガロウ!」
「了解!カレン姉ちゃんは要らないだろ!自力で頼むぜ!」
「あいさー!」
「ルナも、要らない、よっ!」
!? 下から出てきたら危うい…かと思ったけど、下からの攻撃は大丈夫か。ルナが家を槌として振るい続ける限り、障壁で通らない。だが、足元の床が無くなったらアウト。
「ルナ!足元ぶち抜かれたら終わるから、足場は貰って!」
「むぅ。わかった!」
聞き分けが良くて助かる。ありがとね、ルナ。
「なら、ルナの分も出して…、これで必要な足場は揃ったぜ!」
既に出した7枚にさらに追加で一枚出してくれるガロウ。早速乗り込んで上昇。
「あっ!汚い!さすが勇者、汚い!飛ぶとかないわー!」
「お前も勇者じゃねぇか!」
「あっ!テヘペロ」
有宮さん。しっかりして。
ズルッ!
! またツルか! 剣…では手ごたえ無し。幻か! 狩野さんのキャンバスによる幻覚。それに羽響さんの譜面台による音。それらを組み合わせて騙してきたか!
ますます早く非戦闘員の勇者を落としたいけれど…、久安が最初にいると言ってくれた場所。そこから既に移動させられてるはず。厄介な事この上ない。
出現位置から予測したいが…難しい。幻覚の出て来る位置は有宮さんの植物と完全に一体化してしまっていてわからないし、音の出ている位置は音なんてそこら中で鳴っているからもっとわからない。
だが、幻覚のツルはあると分かっていれば騙されることはない。…手が回らない状況だと騙されるだろうが。
ツルとツルがぶつかったところを見ればいい。ツルとツル。両方が本物ならぶつかり合って弾かれる。ぶつかり合ってなお、その挙動を取るならばどちらかは偽物だ。
上と横、二か所からツルがやってくる。…幻は所詮幻。本物には勝てない。だから、存在がぶれた横のツルは偽物だ。ぶれなかった上から落ちてくるツルが本物。それさえわかれば!
上から来るツルを剣で切断。切断しても本物だからツルは重力で落ちてくる。それは蹴り飛ばす。『輸爪』は『護爪』より早いが、走るよりは遅い。早ければ避けることもできるが、俺が避けてもこいつがやられては意味がない。
…にしても、有宮たちは活発に動いているのに、それ以外の動きがない。おそらくツルが邪魔なのだろう。…だが、それだけで動かない理由になるか?
メリコムとアーミラはまだ理解できる。だが、イジャズがわからない。チヌカなら遠距離攻撃を持っていてもおかしくないはずだが…、あいつの白授の道具は遠距離攻撃を持っていないのか?
…考えてもわからない。あいつらのことは頭の片隅に置きつつ、有宮さん以外の勇者を落とすのを優先する。…彼らの捜索から入る必要があるが。
最初に鷹尾が見た以外、彼らを見ていない。だから、ツルの向こうにいるはず。ツルで部屋を作って動かす…といった感じで俺らの目を誤魔化しているはず。となれば、いるなら外縁部。
「カレン!一人で行けるか!?」
「勿論ー!」
良い返事。カレンなら最悪、『越弓 ユヴァ―ゲ』の力で脱出できる。お願いする。
「ルナちゃん!ガロウ君とレイコちゃんの援護!」
「任せて!」
四季の声にめっちゃうれしそうな顔をするルナ。それと対照的にガロウの顔が微妙。…。うん。ごめんガロウ。俺らに足場提供してくれてるから、後、爪は2本しか撃てないはず。少し心もとないからルナに守ってもらって。勿論、何かあったら助けてあげて欲しい。
「タク!謙三!二人は一人で何とかできる!?」
「当り前だろ習!最悪、燃やし尽くしてやる!」
グッと親指を立てるタク。余裕だな。
「やめてぇ!?」
「はっは!必死で消せよ!」
進んで嫌がらせしてる。効果的だろう。非戦闘員に分類される勇者達が火にまかれてしまえば、戦力減衰に繋がりかねないのだから。
「俺も問題ないぜ!」
謙三も問題なしと。なら、俺と四季は…、
「お前らは二人でいろ!」
「それが一番いいぜ!」
了解。…離れると対応力下がるからな。出来た5グループで部屋の端へ。有宮さん以外からは攻撃はされない…はず。羽響さんは譜面台で音。豊穣寺さんはパソコンで分析。将はサングラスで交渉系。陽上はフライパンで料理。赤鉾は箒で掃除だし…。
だが、思い込みは駄目。羽響さんは爆音で攻撃しようと思えばできる。陽上はフライパンを質量兵器…は十分可能。俺らが予期できない使い方もあるだろう。
カレンは壁沿いを矢でツーっと滑るように飛んでいく。ツルのせいで一直線に…とはいかないが、ルート変更や、邪魔なツルの排除で突き進む。
ガロウ達は結構雑に進む。ルナがぶんぶん家を振り回し、ガロウが爪でツルを切り裂く。それをレイコが魔法でツルを燃やし、凍らせることでサポートしてる。
タクは順調そのもの。ツルを一刀のもとに斬り捨てている。時折、宣言通りにツルをレイコ以上に轟々と燃やし、「あーっ!」と悲鳴を上げさせている。
謙三も順調。相手に攻撃は肝心なとき以外当たらないが、それ以上に、敵の攻撃が当たっていない。そのせいで無傷。足場である爪もしっかり守っているのか健在だ。
俺と四季は二人で進む。一人でもまぁ何とかなるのに四季もいる。余裕で対処できる。
「むー!捕まらない!仕方ないから次の使うよ!イジャズ!当たらないでね!特にメリコム様とアーミラ様に当てちゃダメだよ!」
「貴方が調整してくれませんか?」
「めんどい!」
躊躇いなく言い放つ有宮さん。…敵ながらイジャズに少し憐れみを覚えてしまう。だが、有宮さんは洗脳とかそんなの関係なしにこんな人だ。
「行くよ!『球怪獣の種』!」
「「「おい!」」」
「文香ちゃん…」
「全員に突っ込まれた…だと!?」
むしろ何故突っ込まれないと思ったのか。ボールに入った怪獣とかモロパクリじゃないか。
「でも構わぬ!行け!『ストレンジシード』!『クリゼンティウム』!『ツリーガーダー』!『シードリングテイキング』!『アイビースネーク』!」
「有宮ァ!直訳はダセェよ!」
「五月蠅い!何で分かった!?」
「シリーズ順草御三家じゃねぇかよ!XY以降はどこに行った!?」
「文が知らねぇ!」
ドヤ顔されても困る。
「何で直訳した!?」
「ふふん!『クリゼンティウム』は直訳じゃないよ!菊の英語だよ!」
あの怪獣の元ネタは間違いなく菊科の植物であるのは正しかったはず。だが、あの怪獣の元ネタを考える限り、日本語名をアルファベットに置換すれば英名になったはずだが…。
「というか!シードリングテイキングは文法的に崩壊してるぜ!」
「無理やり訳したらね!」
訳せてない…。他動詞である” taking “がとるべき目的語はどこに行った。好意的に解釈すれば目的語は” seedling ”なのだろうけど…、テストで書こうものなら減点不可避。
「あっ!潰されたー!」
「何となくー、あぶなそーだったからー、」
「処分しておいたぜ!」
4人とも、ありがと。ナイス。
「ならば真面目に…!イジャズ!これも当てないように調整してよ!」
「え゛?貴方が「やだー」…はぁ」
本人がふざけても大丈夫と察している限り、言うだけ無駄だ。
「いっくよー!『冬虫夏草』!」
有宮さんの言葉に従うように、ツルから球体が出てきた。これは…、
「当たるなよ!」
「当たると面倒くさいことになりm「兄貴!姉御!」…」
何で言ったしりから当たる!
「当たった部分を切り落としてください!」
「おう!」
躊躇いなく被弾した脇腹を掻っ捌く謙三。掻っ捌いて数秒は何もなかったが、すぐに肉片のもともとお腹だった部分から根がうねうね出てきた。
「叩ききっていいのか!?」
「俺が燃やす!」
タクが燃やして完全に消滅。肉の焼ける香ばしい臭いが部屋に満ちる。
「うへぇ…」
ドン引きする有宮さん。じゃあ、撃つな。
「「『『回復』』」」
掻っ捌いた部分を再生。もう当たるなよ。
「対処法は今、謙三君が示してくれた通りです!当たった場合は躊躇なくやってください!侵食される方が不味いです!」
「一人だけで出来ないなら言って!俺らがやる。隠したら死ぬから隠さないように!」
「周りに助け求めてもダメな場合も言って下さいね!」
「ちょっ!?殺さないよ!?」
残念ながら敵の言う事は信用できない。死ななくても根が体中に張り巡らされて操り人形。そんなオチが待ってるのは目に見えてる。
「うわっ…。文信用無さすぎ!?」
「普通に考えて敵対している相手の言葉を信用する…という状況が異常でしょう」
「何でさ!?小説とかなら「敵対していた相手が手を組む」とか「命を狙ってきた暗殺者が守ってくれるようになった」とかあるじゃん!?」
「「「フィクション乙!」」」
「ここは現実ですよ、文香ちゃん!」
「敵対していた相手が手を組む」なんて状況、「情勢が急激に変わって片方白旗からの話し合い」が必須。もしくは「はなから殺す気がないけど話にならないから叩き潰してお話」…といった状況ぐらいしかない。
「命を狙ってきた云々」は「実は暗殺依頼人が過去の悲劇の原因だった!」ぐらいしかないぞ…。
「くっそぅ!なら…、『美しく咲く華よ』!」
「魔法名適当か!」
「悪いか!」
いろんな場所のツルから花が出てきた。外見は薔薇やチューリップのような馴染みあるもの。…ツルに生えているせいで違和感しかないが。
そんな花が種みたいなものを飛ばしてくる。…ますます攻撃手段が増えた。…ん? あれ? この種って…。
「習!清水さん!この種もやっぱり当たるとまずいぞ!」
タクもそう感じてる…! さっきの『冬虫夏草』と全く同じものな気がする!
「グッ!」
だから何で喰らうんだ謙三!
「『壁』」
種が当たった場所は上腕。すぐに抉りだせるだろうが、隙は潰しておくに限る!
…しかも花が種ではない何かまで吐き出し始めた。おそらく花粉で、いい匂いがするが…、これもたぶん攻撃だな。
「「『『火球』』」」
「燃えろ!『火斬』!」
粉塵爆発が起きかねないが…、気にしてられない。この花粉は潰す!
「花を出来るだけ潰せ!」
花粉の元を断つ! …が、花の生えたツルの幻覚まで現れ始めた。本気で勇者たちを落とさないと…!
既にカレンはぐるっと一周し終わっているはず。なのにあの子からは何の報告もない。グルグルカレンが回っているからぶつかり合わないように調整されているのかもしれないが…、外周部は俺らが暴れるせいでちょくちょく燃えてる。
…ありがたいことにツルで覆われているおかげで、中でどれだけ燃えようが、外にあるツルが全部燃えない限り、外から燃えていることは見えない。パニックをあまり心配しなくていい。
…有宮さんは『冬虫夏草』の後に『美しく咲く華よ』を発動させた。最初に『美しく咲く華よ』を発動させていた方が俺らに初見殺しできたはず……。
…『冬虫夏草』は種みたいな魔法だった。そしてその種は花から出るモノに似ている。まさかとは思うが…。確認するか。
飛んできた種を回避。ツルの上に着弾させる。着弾したツルを殺さないように注意しておきながら…、周囲の環境を破壊する。
そのまま戦闘していれば…、花が出てきた。やっぱりか。
「5分です」
ありがとう。四季。見る限り…、最初に種がツルに着弾してから5分。その時間が立たないとツルから花を咲かせることが出来ないっぽい。
「習!清水さん!種がツルに落ちたところだな!」
「あぁ!種がツルに落ちたところと、花を潰せ!」
さすがタク。気づいたか。
「待ってー!見つけたよー!」
え!? どこに!?
カレンの方に目線をやると、「紙、つかっていーい?」と目で訴えてきている。勿論。
カレンは極太の矢を召還。クルリと紙を矢に括り付けると弓に番えて発射。さらに、細い矢も何発も撃つ。
矢はカレンのいる謁見の間の入り口から、謁見の間の最奥までズガガッ! とツルを打ち滅ぼしながら飛んでいき、真ん中と玉座のある部分、その中央で紙に書いた魔法…、『爆発』が炸裂。
…した? あれ? …いや、してない。爆発が正しく機能してない。だって、俺と四季はあんな風に…、
「よう!習!久しぶり!そこの弓ちゃん!誰かわからんがナイス火力だ!」
フライパンを温めるような火にはしてない。
「ゴミはゴミ箱に!掃き集めるの楽しいー!」
赤鉾がカレンの矢を箒で触れて接着。全てまとめて一つの大きい塊にすると消滅させた。
「おーい!みんな無事!?」
「無事。ですが、状況は悪いですね。どこの誰でしたっけ?「アタシがいれば絶対にバレないよ!エヘン!」とかほざいたのは?」
「文だぜ。さかげん!」
有宮さんの言葉に眼鏡を抑えて天を仰ぐパソコンを持った女性。あれが豊穣寺さんか。
「えっと、兎も角…、こっから第二ラウンドの始まりだぜぃ!」
……………。
「いや、せめてこっちの陣営はのろうよ!別にそっちものってくれていいのよ!?泣くぞ!?」
「「「「断る」」」」
有宮さん以外の勇者全員の言葉が揃った。これで一体感が出て正気に戻ってくれれば楽なんだが…無理だろうな。さ、やるか。有宮さんが言うところの第二ラウンドを。