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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
8章 再人間領域
265/306

235話 王都決戦 in ダンスホール 呪歌

アイリ視点です

 また音楽が流れだし、黒い雲もあふれ出す。不可視の風と、光速の雷光が叔母さん達の主な攻撃手段であるのは変わらない。けれど、さっきまでと量が違う。そして、溢れる黒雲は刻一刻と合体して大きくなっていく。…まるで、雲が部屋を覆ってしまおうとしているくらいに。



「そら。『光球』!」

「光よ、闇を照らせ!『ホーリーレイ』!」

「力をお貸しください。『天照(あまて)らす』!」


 賢人叔父さんの弾、望月叔父さんの光線、天上院叔母さんの後ろから放射される光。それらは黒雲を切り裂いて進んでいく。けれど、途中で雲に呑まれて消えてしまう。



 …どうするのさ、これ。



「ひとまずこいつらを飲め。こっちの茶色は電気抵抗を一時的に爆増させる薬。心なしか雷が来にくくなる」


 …「心なしか」なの?



「そうだ。お嬢。「心なしか」なのだ。電気抵抗の大きいところには電気は流れにくいが…、そこしか回路がない場合、超電圧があればガン無視して流れて来るぞ」

「雷が落ちる原理は電気が流れる原理程簡単ではないがな。空と大地のリーダが繋がったら落ちて来るらしい」


 ?



「ま、弟含め賢そうな電気の解説をしてみたが…、魔法だ。物理法則を無視することもあろうよ。だから、「心なしか」なのだ。要するに気休めだな」


 …おぉう。



「もう片方の緑の薬は雷の被害を一時的に軽減するモノだ。体中の細胞を強化して雷による損傷に耐えられるようにする」


 なるほど。当たった時の痛みを軽減してくれるもの…かな。口に試験管を持って行って、グイッと飲む。



 …すごい。何だろうコレ? 美味しくもないけれどまずくもない。…口当たりも、臭いも、何もかも、特筆することがない。…ただただ普通。そう言うしかないや。



「…効果時間は?」

「一日は持つだろう」

「…わかった。ありがとう」


 なら、急ぐ必要はないかな。突っ込みたいけれど、今、雲に突っ込んだって無謀。せめて賢人叔父さん達の援護が欲しい。幸い、詠唱ももうすぐ…、



「二回目!『嵐の王』!」

「闇に惑わされぬ導きを…『八咫の烏の道案内』!暗視ですわ!」


 終わったね。ありがとうございます。…行こう。



 黒雲の中に飛び込む。雷と風に早速撃たれる。…雷の威力、あんまり変わってない気がする。これは薫叔母さんの薬効がないんじゃなくて…、出力を上げてきたのね…! 風も相変わらずちょっと痛い。…それに、風以外の何かも混じってるような? …たぶん雹。



 床は濡れてて、滑りやすい。雲の中は上昇気流が主のようだけど、風の流れが複雑に入り混じってて移動しにくい。…こんなに滅茶苦茶に風が吹いているくせに、風の刃は問題なくわたしの体を斬っていく。少し理不尽。



 でも、これくらいならわたしが足を止める理由にはならないね。駆け抜ける。防御用に既に『身体強化』で魔力は回してる。早く走れるように足に追加でちょっと多く回す。



 その状態で走る。天上院叔母さんのおかげで暗くてもよく見える。床には傷がないから気流と床で滑らないようにさえすればいい。



 …見えた。雲の横スレスレで待機してくれていれば雲の中にいるうちに殴れたんだけど…、普通に距離取ってるね。…ということは少し待った方が良いかな? 望月叔父さんの光なら距離が関係ない…、



「「ぐっ」」


 って来たね。わたしの横を大きな光の壁が通り抜けていった。わたしよりも到着が遅いのはわたしが先に飛び出したし、詠唱も必要だったからかな。



 それは兎も角、壁は座馬井(ざまい)兄妹を捉えてくれた。一瞬だけ魔力をさらに足に流して突撃。座馬井兄妹を狙ってもどうせ青釧(おうせん)叔母さんに邪魔されちゃう。だったら最初から叔母さんを狙って、落とす!



 鎌と扇がぶつかる。だけど、さっきまでと違って攻撃に出ようとする動きがある。ッ! …一瞬だけ扇の先から魔力の刃が出てきて叩き切ろうとしてきた。



 …本当に血を流すことを辞さない覚悟はできてるみたい。なら、好都合だね。青釧叔母さんはかなり隙が少ないけれど…、さっきに比べたら大きくなってる!



「叔父さん!大丈夫!?」

「大丈夫!君は分からないけど、僕は雫がいるから!」


 兄妹と対応しながらもそう答えてくれる叔父さん。…でも、何が大丈夫なのかわかんないよ? …まさか、天上院叔母さんなら雲に遮られていても回復魔法を叔父さんまで飛ばせるってこと?



「聞こえてないかもしれないけどありがとう!」


 突然飛んできた魔法で回復する望月叔父さん。…当たってた。…お父さんとお母さんでも出来るだろうと思うけど、すごいね…。



 二人の場合、両方とも前衛で、しかもどっちかだけを前に出すことを良しとしないから、そんな状況はないだろうけどさ。



「行くよ。座馬井兄妹さん達!」

「だぁっ!演奏しながら対応するのはキツイやん!」

「兄ちゃん!無理に喋ったらあかんで!あたしなら演奏しながらでも喋れるから、あたしに任しとき!」

「頼んだ!」


 わたしは頑張って青釧叔母さんを落とさなきゃ。無理ならあっちに行かせないようにしないと。



 …叔母さんの殺気がもの凄い。放っておいたら強行突破してでもあっちに行っちゃいそう。だけど、焦ったら負けだってわかってるのか、攻撃速度と攻撃の殺意が明確に上がっただけで、隙は少ししか増えてない。…窮地に立たされるとさらに頭の回転と動きが良くなるんだろうね。



 鎌と扇をぶつけ合う。たまに扇に鎌を弾き飛ばされるけれど、回収は自動、もしくは『死神の鎌』に任せる。帰ってきたら再度持つ。それで十分回る。



「ほんまに、お嬢ちゃんは、面倒な相手やねぇ…!」


 通さないことを重視してるからね。無理に一撃は入れなくていい。時間をかけちゃっていい。



「兄ちゃん!回復を潰さなどうにもならんで!?」

「わかってる!せやけど、雲の向こうまでは見えへん!」

「なら、あたしが常に後ろを取れば…!って、だー!あたしが後ろとったのに何で回復が当たるんや!?」


… そういう生き物なんでしょ。



 『回復』で、わたしが負った傷を回復。まだまだいける。



「なっ…、あんまりやりたくはなかったんやけど…、」


 鎌が弾かれる。そしてわたしの横を抜けようとする。強行突破する彼女の脇腹を鎌で斬り裂く。…けど、止まらない! なら、



「『壁』」


 進路を遮るように設置。一瞬戸惑った隙を突いて、鎌の柄で思いっきり殴りつける! 青釧叔母さんを吹き飛ばして壁に叩きつける。



 …骨を砕いた感触はある。けれど、これだけではまだダメだね。…でも、立ち上がってはこないからこれ以上殴ると死んじゃうかもしれない。でも、反撃される可能性はある。ゆっくり慎重に近づこう。



「りっちゃん!後ろ!」

「えっ…、なっ、火球!?」


 飛来する火球は律叔母さんを掠め、外れた瞬間に消え去る。



 瞬間、望月叔父さんが律叔母さんの足を横一閃で斬り裂く。少し遅れて放り投げられた試験管が律叔母さんの顔の横で地面に叩きつけられて液体をまき散らし、叔母さんの気を失わせる。同時に、雲の中から飛んでくる光線が条二叔父さんのお腹を貫き、望月叔父さんが足払いして地面へ叩きつける。と、律叔母さんと同じ色をした液体が飛んできて条二叔父さんも気を失う。



 二人が倒れて雲が消える。すると近くのもともと雲があったところから薫叔母さん、天上院叔母さん、賢人叔父さんが出てきた。天上院叔母さんが杖を掲げると、光が辺りを包み、わたし達を纏めて癒してくれた。



「座馬井兄妹は死にかけなので処置しましたが、青釧さんはまだです!わたくしは二人の対処をするので青釧さんを!」

「ならば私が青釧の様子を見「許さへん」なっ!?」


 やっぱりまだ立て…え?



「許さへん許さへん許さへん許さへん許さへん許さへん許さへん許さへん許さへん許さへん許さへん許さへん許さへん」


 …見た目は明らかに重症。わたしと壁。この二回で骨が粉砕して露出しちゃってる。なのに、何かよくわからない黒いモノが叔母さんを無理やり立たせた。挙句、骨折した骨をお腹に押し込んだ。



「殺す。殺す殺す殺すコロすコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスッ!絶対コロス!うちの大事な人を傷つけてくれはった罪!その身で償ってもらう!」


 傷がどうとか、生死がどうとか言ってる場合じゃない、落とさなきゃ!



「嬢!『強化薬』だ!受け取れ!ついでにこれも喰らえ!」


 薫叔母さんの薬がわたしの移動力と破壊力を底上げ、兄妹目がけて放り投げられた薬が飛ぶ。



「全天で最も眩い星の輝きを此処に!『青星(シリウス)』!」

「『極光弾』!」


 明らかに人を何人も殺せる威力を持った2つの球が望月叔父さんと賢人叔父さんから放たれ、わたしの横を通過する。



「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ネ死ネ死ネシネシネシネシネシネシネシネ!」


 もはや吐き出す言葉まで黒い呪詛と化した青釧叔母さんから黒い魔力が噴き出て、試験管を粉砕、さらに鎧袖一触で叔父さん達の光を黒に染めて消滅させた。



「お嬢!下がれ!おい!何故、弾かれた!?」

「詠唱が短いからじゃないかな!?何文もあるような奴だと多分通ったよ!」

「姉!俺のも威力は高いがそこまで高くない!」

「何故手抜きした!?」

「「城が持た(ないよ)!」」


 …二人は城に配慮したから加減した。その結果、止められた。じゃあ、青釧叔母さんは? 今の青釧叔母さんの状況なら…、わたし達を確実に殺すために城ごと崩壊させて来る気がする。



マズイ!



「天上院叔母さん!二人は!?」

「精神干渉は何とかしましたが、起き上がりませんわ!回復させたとはいえ、やはりダメージが…!」

「仕方あるまい!手荒く行くぞ!」


 毎度のように試験管を口にねじ込む薫叔母さん。手荒だって自覚してるならもうちょっと優しさを持つべき。



「光太!賢人さん!二人がしっかりするまで抑えておいてください!」

「あぁ!」

「了解!」


 …わたしは近づけないし、何もしない方がたぶんいいよね。



「抑えるってどうする!?賢人!?」

「知らん!さっきの以上にしないと通らないだろうが…。威力上げ過ぎると最悪、城に命中させて撃った俺らを巻き添えに殺す…とかやりかねん」


 …え。打つ手なし? 青釧叔母さんが口ずさむ言葉が何かの形を取り出してきているのだけど…?



「ほら、シャキッとしろ!したな!?なら、あっちを見ろ!」


 緊急事態だけど、起きぬけにそんなこと言われても反応出来るのかな…?



「うっげ!青釧さん!俺は無事だぞ!」

「あたしも無事やで!」


 !? 起きるの早いね…。でも、肝心の本人に言葉が届いてない。



「青釧!聞いてんのか!?俺らは無事や!魔力を鎮めろ!」

「あたしらとさっちゃん(西光寺薫)達が戦う理由はどこにもあらへんで!?」


 …止まらないね。初期のうちに叔母さんにまとわりついて無理やり立たせたソレが、強化されて鎖みたいに絡みついちゃってる。しかも、叔母さんの吐き出す呪詛はもはや呪歌になった。聞くだけで嫌な気持ちになるソレがホールに響いている。



 だから声が届かない。でも、歌はいい。問題は鎖。



「天上院叔母さん。見えてる?」

「え?何を…あ。あぁ。了解です。鎖…ですね?」

「え。ほんとに?…うわぁ。ほんとだ。言われて気が付いたけれど、呪いの鎖が巻き付いてるね」


 なんで望月叔父さんも見え…勇者だからかな。



「あれはわたしなら斬れる」


 わたしのシャイツァーは呪いを断つ鎌。呪いの鎖なんて如何にもそれっぽいモノ。断てないわけがない。



「ならば、危険ですがお願いしますわ。わたくしは聖魔法で、あの鎖を打ち砕きますわ」

「僕もそうする」


 了解。支援お願いします。



「なら、私は呪いに対抗できる薬「あ。それはいらないよ。わたしに呪いは効かない」…そうか。だが、一応念のため。受け取れ」


 頭の上で試験管が砕かれ、中に入っていた液体がわたしの頭にかかってスルスル下まで降りていく。…不快な気分は全くしないけれど、もうちょっとどうにかならなかったのかな。



「内部の呪い防御能力と干渉しても困るからな。飲んでも、塗ってもいい薬だからぶっかけた。後、私は魔法班の魔法効果増幅薬でも作ってぶっかける」

「俺も聖魔法を撃とう。「聖魔法って何だよ」って感じだから、火や水に比べて難度高いが」

「俺とりっちゃんは音楽を」

「青ちゃんの歌にはあたしらの音楽や!」


 お願いします。



 …座馬井兄妹は回復したばかりで心配ではある。けれど、それを口に出して止めることはできない。だって、わたしも同じ立場なら止められたくないもん。



 兄妹の音楽が呪歌をかき消し、湧き出る鎖とぶつかる。鎖はよく見ると一つ一つが言葉になってて、それが連なってる。おそらく、巻き付いてる鎖と同質のモノだけど…、これがかなりの数になって、意味をなすようになれば…、最悪のことが起きそう。



 文字のある鎖…呪符鎖にはこっちの言語も混じっているけれど、大部分は日本語。…お父さんとお母さんのおかげで読める字は読める。だけど、あんまり読んでも楽しいモノじゃあないね。



 「殺」だとか、「死」だとか、「呪」だとかそんなものばかり。…これひょっとすると精神的に弱い人が見たらそれだけで、まいっちゃうんじゃないかな。



 そんな呪符鎖と座馬井兄妹のシャイツァーから出た何かが激突する。



「これは雷と風の象形やで!子供のころは雷と風はだいたいこんな形…!って絵を描いたもんや!」

「…なるほど。でも、なんでわざわざ形を作ってるの?」

「殺したいわけやあらへんねん。せやから、バチって一瞬しか見えへん雷光とか、そもそも見えへん風刃なんかより、見える雷様や風神さんの方が楽しいやろ!」


 …言われてみればそんな気がする。見えないのと見えるモノ。どちらがより効果があるかなんてわからないけれど…、確かに二人の演奏は青釧叔母さんへ効果があるみたい。



 …浄化は出来ていないけれど、呪符鎖は確かに揺らいでる。そして、呪歌はかき消されてる。…少し効果があるならさっさと正気に戻って欲しいと思うけど、少し厳しそうだね。



 叔父さん達の詠唱は…、



「そら!薬だ!森野氏と清水嬢に試したら1.5倍予定だったのに、1.1倍ぐらいしか効果がなかったがな!足しにはなるだろ!」


 なんて言いながら頭からまたぶっかける薫叔母さん。…もう少し別のやり方ないのかな。



「闇を打ち払いし、聖なる力をここに!『昇陽』!」

「わたくし達に闇を打ち払う力をお貸しくださいませ!『天照(あまて)らす太陽の導き』!」

「完成だ。『銀の弾丸(シルバーバレット)』!」


 薬をかけられた直後、魔法を使う気だった叔父さん達全員の魔法が一気に完成。



 望月叔父さんの剣から燦々と輝く光球が出現。その球体の上では、たまに龍みたいな光が出てきて、球体に帰る。そんな球体が直進する。球体には呪いを引き付ける力でもあるのか、呪符鎖も呪鎖も引きつけられ、焼かれて消滅する。球体はわたしと青釧叔母さんの間のど真ん中に到達すると、邪魔にならないように天井すれすれに上昇し、滞空。呪いを一身に引き受け始める。



 天上院叔母さんの杖から出た光は、鳥のような姿。でも、足が一本多くて3本あるように見える。そんな鳥が杖からバサバサ羽ばたいていくと、わたしに道を作るように飛んでいって、あまり引きつけられていない呪符鎖をくちばしで咥えて『昇陽』に叩き込んでいく。



 そして、賢人叔父さん一撃は魔導書からわたしぐらいありそうな巨大な銀の弾が飛び出し、進路上の呪符鎖全てを破砕した。



 行こう。放っておいたら呪符鎖が入って…あれ? 入ってこない? なるほど。『銀の弾(シルバーバレット)』が入ってくるのを阻害してくれてるのね。完璧な仕事だね。



 一切の障害が廃された道を走り抜ける。近づいたらわかる。やっぱり呪鎖は青釧叔母さんを雁字搦めにしてる。その上、目も耳も鼻も口も肌も全てが鎖に制圧されてる。…これじゃどう頑張っても届かないかな。



 なら、わたしはわたしのするべきことをしっかりやらないとね。カクとリピ。二つの鎌を合わせて一つに。



「わたしはわたしの信ずるままに、わたしと家族の幸せを阻む障害を斬り破り、未来へ繋ぐ。あらゆる戒めを断ち切り、幸福な未来の糸と幸せな今、二つを結ぶ力をここに」


 鎌に呪いを断つ力が集まるのを感じる。呪符鎖も呪鎖もそれに反応して邪魔をしようとするけれど、叔父さん達4人の魔法でそれが出来ない。その中で、青釧叔母さんだけがジッとしている。



 …ラーヴェ神ももう少し考えて欲しいな。叔母さんのシャイツァーは「自爆してでも全てを破滅させる」っていう願いに感化されちゃってる。



「『呪断結幸鎌(カクトぺ・リピイズ)』」


 最後の言葉を唱えて、魔法を発動させる。



 鎌を振るう。振るわれたところにあった呪鎖も呪符鎖も、一切の抵抗なく切断され、消滅する。一撃でわたしが最も危険であることに気づいたのか、呪符鎖が叔父さん達の魔法に邪魔されながらも、わたしを一番に除こうと襲ってくる。



 だけど、この程度わたしの敵ではない。そもそも、叔父さん達の3つの魔法をどうにかしないとわたしには届かない。



 …手早く終わらせよう。鎌を巨大化。叔母さんの顔と同じくらいの厚さの刃で、青釧叔母さんの顔諸共、呪鎖を切り裂く。鎌は呪鎖だけを砕き、叔母さんには一切傷をつけない。



 …けど、一撃じゃダメみたい。鎖が抵抗を止めるか、兄妹の言葉が届くまで続けないと。



「…叔父さん!叔母さん!言葉を!青釧叔母さんに言葉をかけてあげて!」

「うん!」

「やったるで!」


 !? いつの間にこんな近くに…! あんなボコられた直後で大丈夫…かどうかは関係ないか。青釧叔母さんには座馬井兄妹はわたし達にとってのお父さんとお母さん。逆に、兄妹にとっての青釧叔母さんはお父さんとお母さんにとってのわたし達。多少の無茶は押し通すに決まってる。



 なら…! さらに鎌を巨大化させ、刃の厚みを青釧叔母さんと一致させて切り裂く。一瞬、鎖が無くなる時間が生じる。兄妹はそれを逃さずに青釧叔母さんを抱きしめて、



「青釧!」

「みっちゃん!」


 悲痛な声をかける。これで…、



「…ん」


 届いた! 青釧叔母さんに声が届いた。



 叔母さんはじりっと身じろぎ。すると、さっきまで握られていた手が僅かに開かれる。手の中に扇が弱弱しく、けれどしっかり握られてる。これはシャイツァーだけど…、今はこいつが原因。鎌で拾い上げて地面に叩きつける。後から後から湧き出てくる呪いを一切の慈悲無く、片っ端から塵滅する。



「おじょうちゃん。悪いけどあたしらが倒れたら後の処置は任せるわ」

「ごめんな。頼んだで!」


 !? 待って! 一瞬だったらいいけれど、まだ呪いは残ってる! そのまま抱き付いてたりしたら…呪いが二人にまで行っちゃう!



「ッー!」

「あぅ…」


 忠告する前に響く、悲鳴。



「…じょーくん?りっちゃん?」


 だけど、それがしっかり叔母さんに届いたのか、パチッと目を開けると…、崩れ落ちる。一瞬、兄妹は支えようとしたけれど、耐え切れずに纏めて崩れ落ちた。だけど、呪鎖と呪符鎖は完全に消えて、シャイツァーからの呪いの噴出も止まった。



「『回復』!」

「『浄化』!」


 賢人叔父さんと天上院叔母さんの魔法が二人を包む。倒れた三人は誰も起きてこないけど…、ん。脈はあるね。大丈夫。生きてる。



「終わったか?」

「…ん。少なくともわたし達のところは終わったよ」


 操られていた座馬井条二叔父さん、座馬井律叔母さんの精神干渉は既に解けた。唯一、素面だった青釧美紅叔母さんは既に気を失ってる。この場でわたし達がやることはないね。



「そうか。終わったか。では、上に行くか?」

「…行きたいのは山々だけど、さすがに疲れちゃった。無理して行ったら怒られちゃう。だからわたしはここで休む」


 …正直、エルモンツィを倒した時よりもキツイね。あっちの方が体感的にはしんどかったはずだけど、何でだろう? …心理的なものかな? それとも、使った魔法があの時よりも高度なもので、長く使ったからかな?



「アイリ嬢。先のは?」


 アレ? アレは…、周りから干渉できないように──周囲を滅ぼすという心が変わらないように──鎖でグルグル巻きにして、周囲に壊滅的な破壊をもたらす。そんなモノ。だから、



「…超強力な破滅願望の具現」


 としか言えないかな。起点が座馬井兄妹を失ったこと。だったから、座馬井兄妹の生存はその起点を打ち砕けた。だから、止められた。これが唯一、青釧叔母さんを殺さずに止められる方法だった。それ以外なら無理。



「アイリちゃん。アイリちゃんはこういうの見ても大丈夫なの?」

「…ん?大丈夫だよ?心配してくれてありがとう」

「でも、こんな人初めて見るんじゃないの?」


 ?



「…そうでもないよ。わたし自身が同じタイプだもん。…ただ、青釧叔母さんは大切な人を奪われて奪った相手諸共世界を滅ぼそうとしたけど…、この復讐法は確実性に欠けるからダメだよ。自暴自棄になっても復讐するならちゃんと相手を自分の手で叩き落して、それから死なないと。死を確認しなかったばかりに相手がのうのうと生きてた…とかになっちゃったらダメだからね」


 …叔父さん達に少しだけ引かれた気がする。…わたし達家族はだいたいこうだよ。



「そっか。なら、別に青釧さんの事情は説明しなくてもいいか…」

「…聞かせてもらえるなら聞きたい」

「了解。なら、今度しようか。習や清水さんも知りたいだろうし…、何より、真面目に語るならきっと、話より先にあっちが終わっちゃうだろうからさ」


 …わかりました。ありがとうございます。



「待機するなら着替えるぞ。全員、服がボロボロだ」

「ですわね。青釧さんと律さんはの着替えはわたくし達が行いますので、」

「僕等は条二だね?了解」


 わかった。じゃあ、着替えてお父さんたちを待とう。

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