233話 王都決戦 in 城下街 激突白金級
コウキ視点です。
アウラーさんがカードケースに手を突っ込んでカードを取り出し投げ、ラネルイさんが手に持った矢を投擲してくる。
矢って確か弓に番えるモノだったはずなのだけど…? こうも変な使い方されると自信が無くなってくる。変な弓の使い方をするカレン姉さんでさえ、そこは死守してたのになぁ…。
僕もミズキもセンも飛び道具を危なげなく回避。突撃してくるラヴィさんの拳。それをギリギリで避け…るのは危険かな。
ギリギリよりも大きく避ける。そのせいで反撃できないけれど仕方ない。変に受けるよりはいいでしょ。追加で投げられて来る矢2本も避ける。
飛んでくるカードも避け…ん? 桜吹雪? 視界がっ…。
「風よ」
ミズキが桜吹雪を風で吹き飛ばし、奥から飛んできていたカードを切り裂く。切り裂かれたカードはボッと火を噴き出して消える。
無言で突っ込んでくるラネルイさん。彼の手に握られた矢の猛攻を槍で受け止める。…矢がシャイツァーで間違いなさそうだね。鏃部分じゃなくて、木材部分を殴ってみてもへし折れる様子はないし。
なら、これにつき合うのは愚策だね。こっちの槍が先にへし折れちゃう。
横からセンが頭に角を生やして頭突き。当たる…かと思ったけれど、ラネルイさんはフッと力を抜いて後退して回避。ついでに矢を投げてくる。木兵をミズキが召還。グサッと矢が突き刺さり、矢が停止。…したはずなのに再度動き出し、木兵を連れたままぐるっとラネルイさんの元へ戻る。
なるほどね。シャイツァーの基本機能を活用して矢を動かしているのか。シャイツァーは持ち主のそばから離れ過ぎると自動で戻ってくる…っていう機能。戻っていくのを見たからって、あれが彼のシャイツァーの能力だ! なんては言えないかな。
ただ、戻るにしても彼は勇者じゃないから瞬間移動じゃなくて、こっちの世界の勇者の戻り方──勝手に浮いてほどほどの出力で移動する──なのは間違いないかな。彼の『矢』が瞬間移動能力を持っていれば別だけれど…。おそらく違う。
矢が木兵ごとラネルイさんの元へ帰る。木兵は攻撃が届くようになった瞬間、滅多打ちにされて壊れた。ミズキが言うには完全なオーバーキルらしいけれど、念を入れたんだろう。…油断してくれればいいのに、それがない。やりにくいなぁ…。さすが白金クラス。
情報が無さ過ぎるのもやりにくさに拍車をかけてるかな。アウラーさんだけは黒髪貴族の家系だから、名前…というかシャイツァーの前についている漢字名が分かれば、多少の方向性は分かるはずなんだけど…。
…ん?いや、だからこそわかるか。
「ミズキ!嘘つきはいるかい!?」
「いいえ!いないわ!」
であるならアウラーさんの言った『カールネイスィ』は正しい。僕の記憶…正確には父さんと母さんから貰ったものだけど、その中…二人が本を読んだ中に該当するのは…、
またカードがッ…避けてッ!? え? カードからびっくり箱の中身が出てきた? …うん? しかもこれで終わりなの?
まるで意味が分からない。無視してラネルイさんの投擲矢を避け、続いてくるラネルイさんの刺突をいなして…、ッ! 危うくあたるところだった。
…見つけた。二人の記憶にちゃんとあった。
「『乱魔符箱 カールネィスィ』!これが正式名称!」
「そうよ!」
「ああっ!それは言っちゃ嫌ですわ!王子様!」
投げられたカードは勢いが足りず、地面に落ちる。奇声を上げた割に届いて…! 落ちた瞬間、ロケット花火のように火を噴いて猛スピードで吶喊してくる。
ッ! けど、これも…避けた!
「ラーフ!家の壁を突き破る気ですかッ!」
リヴィさんがカードを止め、僕に回し蹴りをしてくる。しゃがんで避けて、懐へ。アッpッ! ちえっ! ラネルイさんに割り込まれて止められた!
下がって距離を取る。
「コウキ兄さま!言っちゃだめじゃない!」
「そうだったね!」
アウラーさんは貴族の出自を隠したいみたい。なのに、彼女は黒髪で、しかも漢字名のあるシャイツァー。それだけで勘のいい人なら貴族の血統って気づける。例外もあるようだけれど。
でもなぁ…、名前がわかったところで、結局名前から性質を推測するしかないんだよね。他の二人の戦闘方法も同じく不明、見た以上のものはない。ミズキならワンチャン知ってる可能性があるけれど…、ミズキの知識はルナ姉さんの家にいるルキィ様のはず。ルキィ様は国に属する人間だから、国から独立しているギルド職員の情報は知らない可能性がある。さすがにギルマスとかプラチナ級は持ってるだろうけれど、噂レベルとかだろうし…。
噂レベルでも役に立つ情報であるのは間違いない。でも、それをミズキに確認しちゃうとなぁ…。さっき折角、アウラーフさんのシャイツァー名を全部看破して「相手にまだ知ってるかも?」って思わせられているのに、それが無駄になっちゃう。「ミズキに聞く=それ以上は知らない」とほぼ同義だからなぁ…。質問に気を付ければワンチャンあるかもしれないけど、ギルド職員を騙せる気がしない。まったく、本に情報をちゃんと書いてくれていればよかったのに。
でも、知らないままやっていたらやっていたらでボロが出る可能性は十分あるしねぇ…。ままならないものだね。
「明日!」
アウラーさんの言葉。何か来る! 投げられて来る矢。続けてくるカード。少しだけ飛んでカードが弾け、矢を急加速させる。ミズキ目がけて飛んでいく矢を『ロックバレット』で弾き飛ばす。構えてなければ無理だった。間髪入れずにやって来たリヴィさんのストレートをバク転で彼女の上を越えて回避。着地狩りを狙ってくる連撃を槍で応じて捌く。右、右、左、アッパー…は、槍で拳を突いて止める。
ミズキの風が割り込んで距離が開き、隙間を埋めるように矢が飛来して、センが横から弾き飛ばす。
ありがとう!
…にしても矢を投げるって普通の矢の使い方じゃないよね。まだこの矢が投げる専門の矢である打矢だったり、弓兵が白兵戦になった時に使う打根だったらわかるんだけど…。どう見ても普通に弓に番えて撃つ矢。
矢はシャイツァーだから頑丈。頑丈なら長い方が便利。そんな思想かな? シャイツァーならほぼ間違いなく折れないもんね。…もはや矢じゃなくて手槍って考えたほうが良さげだね。
…はぁ、あの時にこんな矢があればなんとかなったかもしれないのに…。
矢を落としたセンは少しだけ前進すると急停止、慣性をうまく活用して、近づいてきていたラヴィさんを後ろ脚で蹴る。けど、止められた。馬の蹴りを真っ向から受け止めるって一体、どんな鍛え方してるのかな? 魔力消費は激しいんだろうけどさ…。
センの隙は木兵がカバー。正面からまたカードが飛んでくる。いつもなら迷わず避けるけれども、何故だかこれは当たっていい気がする。
「だぁっ!」
! ラヴィさんが木兵に斬られながらも強引にセンから脱出。カードを受けて傷が癒える。それで当たっていい気がしたのね。回復を止められなかった分、返す刀でセンを殴るのだけはやらせないよ。
割り込んでリヴィさんのお腹に蹴り…は止められた。足をガッチリつかまれた。掴まれちゃった足と地面に接した足を軸に回転。槍を叩きつける! ついでにミズキの風の刃がラヴィさんの手を狙う。
ラヴィさんは咄嗟に手を離して距離を取る。突っ込んできていたラネルイさんはミズキが必死に捌いてくれてる。復帰したセンがラネルイさんを踏みつけんと前足を高く持ち上げると、不利を悟って距離を取る。
どっちも明確な一撃を入れられていない。こっちは僕。あっちはラネルイさんがシャイツァーの効果をしっかり使ってないせいもあるかもしれない。
「ミズキ。余裕ある?」
「あるわ。誰も通さない」
そう。なら、僕等は焦る必要はないね。倒せないってのはちょっと癪だけど、僕らの仕事は誰一人城門を通さないこと。ここでずっと対決していたって構わない。その方が互いに怪我もなくて済む。
? …あれ? なんだか街の様子が変わったような…。
「コウキ兄さま。アッバスさんが負けたわ。それに伴って、金級2集団が街の外に行ったわ」
ありがとう。つまり、街の様子が変わったのも、前三人の様子が変わったのも…、街の戦力が減った。そのせいか。
「ラーフ、リヴィ、避難状況は?」
「王城に向かう方面は誰もおられないかと思いますわ」
「ですが、誰もいらっしゃらなくとも、縛られている方や逃げ遅れがいらっしゃるかと…」
口にも顔にもほとんど出ていないけれど、ラネルイさんの顔に一瞬、悔しそうな色があった。…少なくともシャイツァーは水平方向には使えないっぽいね。
「周辺の人、すまないね」
あ。これ不味いやつ。素早くミズキが風を放ち、センが動き、僕も槍を投げる。だけど、彼らの行動は非常に早い。
ラネルイさんが矢を一本取り出し、口を動かしながら頭上に放り投げ、リヴィさんがその矢を掴む。
アウラーさんはカードを一枚取り出し、戻す。再度取り出して投げてくる。
カードが弾けて壁が出来る。こんな壁に止められる僕等の攻撃ではない。だけれども、確かに一瞬彼らに到達する時間が遅れ、リヴィさんは矢を掴んで飛び上がった。
センの角をアウラーさんがシャイツァーで一回だけ受け、爆音が鳴る。それにかき消されながらもラネルイさんは詠唱完了。矢が真上に向かって超加速する。
呪文を唱え終わったラネルイさんが矢でセンの角を捌いて、アウラーさんと引き離す。ここまでされれば何をしたいか馬鹿でもわかる。…落ちてくる。
「ミズキ!セン!下は任せる!」
「わかったわ!」
だらだらと戦闘していられる時期は過ぎた。相手が無理やりにでも終わらせようとするなら、こっちは其れより早く、相手を詰ませるしかない!
左手に持っていた槍を右手へ。リヴィさんが最高点まで到達したのか落ちてくる。全身全霊の『身体強化』で槍を投擲。投げた槍を追いかけてジャンプ!
飛んで行った槍は天地逆転して落ちてくるリヴィさんと激突。寸秒ももたず槍が砕け散る。衝撃は多少彼女に伝わっただろうけれど、ナックルには傷一つない。
ただの兵士さんの槍だからね…仕方ないか。プラチナ級の人の武器とは質が違う。降ってくるリヴィさんと激突…はせずにスレスレで避ける。入れ違いになるときにお腹に蹴りを入れる。
そして、りだ…つ出来ない。足を掴まれた。何でこの人こんなに足掴むのが上手いのかな!? 仕方ない。
『ロックバレット』
貰ってた紙で魔法を発動。吹き飛ばす。死なないでね…。何とか体勢を整え…きれない。これはどうあがいてもシャイツァーのことを隠すのは無理だね。なら、出来るだけインパクトを残す方向で行こうか。
しくじって頭から落ちたように装って落下。
「コウキ兄さま!」
「ブルルッ!」
心配してくれている声。ありがとう。僕は無傷だけど…、これで戦闘不能になったように見えるはず。
あちらさんはリヴィさんが若干着地にしくじったっぽいけれど、無事…っぽい。
「行きなさい!」
相手の注意が比較的リヴィさんに集中する最中、ミズキは木兵を召還。木兵に突撃命令を下すと、センと共に吶喊する。僕の姿はそれに隠れてしまう。迎撃に出て来る攻撃のうち、カードはどうでもいい。当たったとしても木兵に当たったとしか思えないでしょ。矢は避けておく。兵の中に紛れて相手側へ接近。ミズキを打ち取るためか接近してきているラネルイさんに近づいて…!
足を引っかけ押し倒す。木兵の雑魚力しか想定していなければ、僕の力には耐えられない! 忽ち、倒れた彼に木兵が殺到。足と腕を狙い撃つ。まずは回復係であるアウラーさんを完全に潰す。
「ぬぅっ!」
!? 嘘でしょ!? さっきリヴィさんを浮かせた魔法って、詠唱なしで撃てるの!?
やられた。木兵が2本の矢に引っ張られて持ち上げられた。でも、僕は戻らない。手負いのラネルイさんであれば、ミズキで対処できる! アウラーさんの方が優先度は遥かに上。センはリヴィさんにかかりきり。僕が行くしかない。
飛んでくるカードは全て皮膚で叩き落す。攻撃を受ける場所が顔以外であれば、僕には致命傷になり得ない。それよりもカードを通してしまって、ラネルイさんを回復されるほうが不味い!
アウラーさんに肉薄。既に槍は無くなって素手だ。でも、僕の皮膚はシャイツァーだから、武器がないから火力が落ちる…なんてことはない。
連続で殴りこむ。カードは絶対に取らせない。執拗にカードケースを狙い続ける。当たらないけれど、構わない。ミズキがラネルイさんを落としきるまで沈黙させていれば…!
ガギャッ!
「なっ」
拳とケースが激突しただけじゃ考えられないような音。これで、シャイツァーが何か? は決定的に明らかになっちゃったかな。もはやどうにもならないけどさ。
!? 何で後ろから攻撃が来るの!? まさか、どっちかが抜かれた? いや、違う。今のはリヴィさんが靴を蹴り飛ばしただけ…あぁっ、もう! 今の隙に回復された!
アウラーさんがラネルイさんを回復させた。アウラーさんはその事実以上のホッとした息を漏らす。
「『ストーンランス』」
小さめの岩槍を発射。落とせないなら、アウラーさんの気を逸らしているうちに、ミズキの援護に…!
「あぐっ」
あ。ミズキが矢ともども吹っ飛ばされた。これはさっきの木兵と同じか!
「ミズキ!」
矢の速度はそこまでではない。だけど、上昇距離はかなりのもの。前に連行された木兵がいまだに落ちてきていないことを考えると…、呪文無しなら1000 mは行くのかな?
「ふぅ」
『ストーンランス』の回復が今? 確か『乱魔符箱』だったね、名前。カードを戻してたこともあったから…。たぶん出て来るカードで発動する魔法の効果はランダム。効果は見るまで分からない。嫌な効果なら戻す。とかそんなものかな?
「お坊ちゃま。今、降伏されるのでしたら悪いようには致しませぬが?お嬢様もお助けいたしますよ?」
「お断りです。そんなことしたら父さんと母さんに怒られてしまうので」
ミズキを人質にとれたつもりなのだろうけれど…、煽り抜きでこの人たちにはミズキをどうにかする手段がない。それに僕自身も余裕。降伏する意味など皆無。
「そうですか」
ラネルイさん、リヴィさんが突撃。アウラーさんがサポート。3人がいつもの体勢に入る。
僕とラネルイさん、リヴィさんとセンが正面から激突。その奥からアウラーさんのカードが来る。僕はシャイツァーで顔以外の攻撃は無視できる。センは障壁で弾けるからどうでもいい。正面から二人をねじ伏せる。
センは|カレン姉さんみたいな攻撃《境界越えの矢》、僕は|レイコ姉さんみたいな攻撃《ガルミーア=アディシュ》があるとマズイけれど…、これまでを見る限りそんなものはない。それに、たった一撃でどうにかなるほど僕等はやわじゃない。
ラネルイさんの攻撃を回避。上から降ってくる矢を見もせずに回収…しようとするから割り込む。一度、腕に当てて勢いを殺してから妨害。唖然としているうちに右肩を破壊する勢いで殴る。
「ギルマス!今、回復を…」
「させないわよ」
屋根上から木兵ともども降りてきたミズキがアウラーさんを押しつぶす。
一瞬、気を取られた隙にラネルイさんの無事な肩を外し、蹴って引き倒す。思いきり足を振り下ろして足の骨を砕…グエッ。
「お坊!それ以上はやらせない!」
リヴィさんが体でタックル。壁に叩きつけられた。このまま僕を殴るもよし、人質にとるもよしとまぁ、なかなか素敵な体勢だ。…抑えられているのが僕でさえなければ。
「セン!」
「ブルッ!」
僕の声に躊躇いなくセンは答える。センが僕ごとリヴィさんを貫く。
「がふっ」
痛そうな声。…ごめんね、リヴィさん。自爆戦法はミズキの専売特許じゃないんだ。…顔以外だと刺さらないから、ミズキほど自爆染みてないけどね。
「コウキ兄さまー!アウラーさんは縛れたわ。ラネルイさんは…どうしましょう」
「気絶させておくしかないんじゃない?それこそ、定期的に殴って」
センが後ろに下がってくれ、リヴィさんを『回復』してくれる。お腹に穴開けて放っておいたら死んじゃうからね。
回復早々、リヴィさんを押さえつけて、木兵に手足の腱を斬ってもらう。これでリヴィさんは終了。
ガッとミズキがラルネイさんを殴って気絶させる。そして、センが『回復』させる。一応、念入りに肩、ひじ、股関節、膝の関節を外しておく。ちょっと面倒くさいけれど、コツを掴めば簡単。
「矢はどうするのよ?」
「矢?矢は…5本あるね」
ラネルイさんの持つ矢は全5本。全部硬いからシャイツァーでいいはず。気を取り戻した瞬間、上に吹き飛ばされたら困るから…。
「一か所にまとめておこう。それから、王城の城門の下にでも置いて、木兵で潰しといて」
「あぁ、なるほど。城の中に置いてあるから変なことしないでね!的な感じで脅すのね。シャイツァーの有効半径がわかんないから、ラネルイさんだけは縛って連れて来ましょうか」
「だね」
気絶している人は結構重い。二人で協力してセンに乗せる。後は連れて行けばおーけー。
「ミズキ。援護は要らないの?」
ミズキの態度は「仕事終わったー!」って如実に言っているから、援護なんていらなさそうだけど、聞いてみる。これで「要る」と言われたら急がなきゃダメだ。
「要らないわ。叔父さま達がアッバスとチーム『アルゼンハギム』、『クォドンノーセロス』を潰してくれてるし、アタシが残りの謎のタスウェンさん。回復のノルニーさん。それと、テイマーっぽいエイジュさんを潰したわ。後、諸々の詰め所と」
おぉう。ということは、
「これで全滅?」
「と言ってもいいわね。ただ、油断できないけど」
そりゃね。まだお仕事は続いてる。お仕事は「一人も通すな」なんだから、父さんと母さんが帰って来るまで守らなきゃね。それはそれとして、疑問点を潰しておこう。
「ミズキ、ミズキが矢から降りた方法は、どこかのミズキを減らして、召喚。矢のミズキを減らす…でいい?」
「近場にアタシがいなかったらそうしてたけど…、近場にいたから消して、召喚。屋根上に上がる…で終わりよ。そんな七面倒くさいことしないわよ」
それもそうか。
「木兵は周りにいたやつを前々から屋根上に乗せてたやつだよね?」
「そりゃね。二回増やしたら魔力足りないもの。戦闘中に余剰部分からコツコツ集めて置いたわ」
だよね。通りで数が多いと思った。
「ラネルイさんの矢って、詠唱したら飛ぶ距離を短くできるけれど、無詠唱だと伸びるタイプかな?」
「うーん、違うと思うわ?アタシは無詠唱…もしくは心の中詠唱だと規定の距離を問答無用で飛んで、口に出してはっきり詠唱だと距離を伸ばしたり、縮めたりできる…っていうものだと思うわ」
そっちの可能性の方がありそう。
「残りのプラチナ級はどうやって潰したのさ?」
「え?簡単よ。狭い路地の家の屋根に木兵を集めて、そこに突っ込んできた人に落とす。これだけよ」
簡単だね。でも、一つ聞きたい。
「被害者は生きてる?」
「生きてるわ」
よかった。
「タスウェンさんの組とエイジュさんではやり方若干違うけどね?タスウェンさんは敵意に反応して、超反応するから…」
「路地に逃げ込んだ時に罠に引っかけて木兵団子を落とした?」
「そうよ。でも、落とす!っていう確たる意思があると駄目だったのよ」
めんどくさ! …あれ? となると無理じゃない? どうやって押しつぶす…まさか、
「物量万歳?」
ミズキはコクっと恥ずかしそうに頷く。そっか、物量か。
「路地の前後+上から対応不能なほど木兵を詰め込んだと」
「そうなるわ。ノルニーさんはタスウェンさんの仲間だからか彼が守る対象だったわ。だから守ろうとしているところを容赦なくエイッとしたわ。…守りながら戦うのって厳しいわよね」
そうだね…。最期の時は僕一人だった。だから周りを気にせず戦えたけれど、他に誰かいたら守らないといけないからきつかったとは思う。
「エイジュさんは?」
「路地に逃げればテイムされてる子が追ってくるわよね?その子が追ってきたらテイマーさんのエイジュさんも追ってくるわ。後は路地を適当にかくかく逃げればいいのよ。追いつかれそうになったらアタシを消して、見える場所に新しいのを投下。いいところまできたらエイジュさんをプチッとして、困惑してるテイムされてる子もプチッとして終わりよ」
なるほど。
「生きてる?」
「気持ちは分からなくもないけど、既にされた質問よ。答えは同じ。生きてるわ」
だよね? ごめん。
「気にしないで。アタシも同じ立場なら聞くわよ」
「全員捕まえられたなら、助けられないように防衛しないとね。…あ。そういえば叔父さん達は?途中から援護なかったけど平気?」
「えぇ。外で襲撃があってそれを退けてたから援護が途切れたのよ。既に退け終わってるから、外で襲撃がない限り、こっちも助けてくれるわ。でも、油断は禁物よ?」
当然。油断はしないさ。前世で何があったかなんてあまりちゃんと覚えていないけれど、あの不快感だけは繰り返さない。それだけは確かに、僕の心にあるのだから。
タスウェン、ノルニー、エイジュの3人は解説死です。(死んでませんけど…)