231話 王都決戦 in 継ぎ接ぎ要塞 要塞襲撃
前回に引き続き芯視点です。
後ろの移動は万の集団だからか遅い。移動の早い前から片付ける。
「叔父さま、叔母さま。要塞付近の敵の対処に全力注いでもらっていいわ。援護がなくても金8人が抜けたのよ。何とかなるわ。でも、どうしても駄目そうなら頼みます。ごめんなさい」
「わかった。頼むとき遠慮はいらない」
子供なのだし。…まぁ、転生者って聞いてるけど。肉体年齢だけ考えときゃいいだろ。にしても、
「後ろの進軍速くないか?」
さっきはまだ橋に差し掛かるか差し掛からないかだったのに、既に渡り終えているのだが…。横幅が結構ある上に短い橋だからか?
「たぶんそういうシャイツァーがあるのよ。あ。旗見えるかしら?偉そうなやつの」
「芯。俺らは金を相手にしとくぜ!」
「頼む!出来るだけすぐ加勢する!」
だからそれまで嫌がらせをしておいてくれ。
旗は…速いとはいえまだ距離的に目視は出来ない。やはりスコープを使うしかない。ったく、総大将としては正しいのだろうが、後ろにいられると旗を見るのが面倒だ。それにさすがに射程外。
スコープを除いて、ズーム。見えた。先頭からずっと同じ旗が続いている。超大雑把に言えば白地に木。その周りに竜。エルフ領域の世界樹とワイバーンがモチーフになってる。これはエルツェル国旗だな。えっと、他…あぁ、あった。最後列ではないが、10等分した時の後ろから二つ目。その最後尾にある。旗は…、パッと見、国旗だな。だが、黄地に木。竜の代わりに大地から植物がかなり生えている。後、青い実っぽいものがついてる。
「どんな旗かしら?」
「ほぼエルツェル国旗」
「実の色は?」
「青」
…あれ、一体何を……あぁ。ルキィ様に聞いてくれてるのね。ルキィ様なら間違いなく国旗は勿論の事、総大将を任せられるような貴族の旗を知っている。
「ごめんなさい。えっとね、どうも双子の出来の悪いほうらしいわ。移動速度が上がるシャイツァーで該当者は兄弟の二人。青い実で出来の悪いほう確定よ」
二回も出来の悪いって言わなくても…。
「どうも当主は実は金色らしいわ。二人とも当主になってないから実の色で区別するみたい。出来の良い方は赤。悪い方は青よ。鎧の色でも判別できるようにしてるみたいだけど、鎧が汚れたり、壊れたりしたら困るから…って事みたいよ」
ルキィ様、よっぽどあいつ嫌いなのな。出来の良いのが兄か、弟か。どっちかすら言わねぇんだもん。
「アタシも思ったわ。でも、こんな言葉聞かされちゃうとね…。「「あの阿保の赤は熟れて腐りかけですが、私の青は青い血の象徴です」とか言っておられました。が、赤い実は収穫し、食べることが出来ます。故に皆にありがたがられます。しかし、青は未熟で渋いです。取ることも食べることも出来ない。挙句その青は色づく気配すらありません。木の栄養を奪い取る害悪です」って」
うん。何も言えねぇわ。ガチであいつ嫌いなのですね。「色づく気配すらない」=「まるで成長できる要素が見当たらない」ってこと。
というか“blue blood”ですか…。こっちにもその言葉があるのですね。
「とりあえず、あいつは潰していいみたいよ。寧ろ潰してくれた方が有難い。そんなレベルの奴みたい」
了解。なら、潰す。
「叔父さま。他に旗はあったりしない?」
「ないな。エルツェル国旗と青の旗だけ」
「後継者争いをこの功績で優位に立ちたいのかも…ですって。そもそも出来の良い方に人魔大戦で功績離されてるから何とかする必要があるそうよ。だから、自分の息のかかった者だけ指揮官級に集めてる。そんな感じだとおっしゃってるわ。シャイツァーは味方の移動速度と悪路踏破性の向上らしいわよ。悪路踏破性の向上は枝葉とか石に引っかかっても怪我しない。その程度らしいわ。だから叔父さま、叔母さまの攻撃の前にはないのと同じよ」
ありがとう。じゃ、まずは冒険者を処分するか。もう終わってるかもしれない…ん?
あれ? ぴんぴんしてるな。散会すらしてない…。
「列。まだ撃ってないのか?」
「米、米」
「米」は「稲」からできる。そして発音をちょいと変えれば「否」。だよな撃った…ん? え。否定? 撃ったの?
「姫は撃ったぞ。だが、通らなかった。前にいる盾が邪魔だ。爆風も俺の銃弾も何も通りゃしねぇ」
「撃ちまくったら粉砕できるんじゃ…?」
ルナちゃんの障壁とか、列の前方障壁のように。
「かもしれんが、盾自体がシャイツァーだぞ?抜けねぇよ。俺が頑張ってぶち抜いて全魔力を使ったとしても姫が何とかしてくれるだろうが…、後ろに万がいる状況ではやりたくないわ」
なるほどな。そりゃあいつら処分できないわ。
「ただの攻撃弾でよければ跳弾で当てられるけど、ミズキちゃん。それでもいい?」
「え?叔父さま達がやりやすいようにやってくれていいわよ。アタシの許可なんて要らないわよ。不安ならこの言葉を送るわ。「父さまも母さまも。皆、見知らぬ他人よりも知ってる知り合いのが大事」なのよ?」
だよな。おっけ。やりやすいようにやる。
「芯。あの盾は二人で一つだ。二人いないと十全に力を発揮できない。そんな縛りのせいか正面はえぐいぐらい硬いぞ」
なるほどな。盾の中央線より著しく端に取っ手があるのは、近づいたときに体を接近させられるようにか。
「列。順。右側のやつを集中砲火する。崩れたら崩せ」
相手がよほど我慢強ければ崩れないだろうが…、油断している。そこの一撃なら絶対崩れる。崩れなくとも崩してやる。
「はっ。崩れた後も手伝え。下手すりゃお前しか完全に崩せないぞ」
「だな」
後ろのあいつらではこいつらほど活躍できないんだ。なら、今回俺が仕事しまくっても構わんだろう?
要塞から体を出して発射。0秒装填。銃先をずらして発射。装填。狙いを付けて発射。装填。さらにずらして発射。きっかり4発。放たれた弾丸は最初、明後日の方角へ飛んで行く。だからといって、彼らは油断しない。寧ろ、音が四回したのに何もないことを訝しんでいる。
そんな最中、4発の弾丸は地面で一度目の反射をする。あいつらの裏手へ回り込む。再度体を出して銃を構える。注意をこちらへ引き付けてあいつらの注意をさっきのどこに行ったからわからない弾丸から逸らし…ているうちに二度目の反射。これで命中コース。
芯と列が攻撃を開始。効かないと分かっていても変な攻撃がありうる。だから、無警戒の馬鹿はいない。注意は完全にこちらへ。ここまでお膳立てした時、背後より忍び寄る4発の弾丸が、寸分の狂いなく右膝、左足、左右の腕の付け根を撃ち抜いた。
崩れた。生じた隙間に一発流し込む。
「行け。『雷霆』」
通常の弾よりも速い弾丸が盾の隙間へ飛び込み、右の盾持ちを押し倒す。完全に盾が崩れ、順の弾丸と列の砲弾が蹂躙する。
……大丈夫だろうか? 煙のせいで見えないからよくわからんな。
「芯。『雷霆』はかっこつけすぎじゃないか?」
「お前には我の高尚な”naming sense”は分かるまいよ」
例えあの弾がサイズを小さくし、密度を上げたうえ、初速を高めるために発射弾薬量を増やしただけの弾であったとしても。撃たれたものには何が起きたかわかるまい。かつて雷に撃たれた者のように。故に『雷霆』なのだ。そんなことより、
「順、列が撃った…というか今も容赦なく叩き込んでるのは魔力を奪う弾だよな?」
「勿論」
「冬、冬」
「冬」といえば「餅」。「餅」から「勿論」か…。相変わらずえっぐい連想ゲームだ。
そろそろ煙が晴れるが…、ッ! 前から矢! …あ。焦る必要ないな。これは当たらん。俺らの居る最上階にすら届かず、要塞一番手前ぐらいの屋根の上に落ちた。
「発射」
俺が狙われたことに腹を立てたらしい列が追加で一発。魔力マイナスとか死ぬんじゃねぇかな。
着弾する前に一人だけ出てきた。正統派の剣士っぽいが…、一人で何をする気だ? 飛んだ。口が動いてる。
持っている大剣を大上段に構えて振り下ろす剣士。衝撃波が出てきて列の放った砲弾に命中。だが、残念なことに列の放った砲弾は魔力を消し去る弾。おそらく魔力で出来ているであろう衝撃波では分が悪すぎる。相性の悪さを悟ったか剣で砲弾を斬りつけようとして…、
「爆破」
列の非情な一言により弾が爆発。斬るものを失った大剣は空を斬り、爆発で魔力を失った剣士は地に落ちた。
「まるでイカロスだな」
太陽に近づきすぎて翼を失ったってか? あいつが落ちたのは魔力が無くなって意識を保てなくなったからだ。蝋の翼を失ったわけではあるまいに。
「煙も晴れた。全滅だ。ミズキちゃん。縛ってきて」
「あいあい。そろそろ後ろに大軍来るから急ぐわね」
ミズキちゃん本体が行く…のではなく木兵召喚。ポンポンと現れた木兵がえっちらおっちら要塞の上を走って縛りに行く。
「たのもう!」
は?
「我らエルツェル王国軍。アーミラ女王のためはせ参じた次第!」
? 何でこいつ名乗ってるの?え、まさか俺らをアーミラ側の勇者だと思ってる? 王都でわちゃわちゃと戦闘が起きているのはここからでも見えるはずだが…。何が狙いだ?
「叔父さま。伯母さま。軍隊が消えてるわ」
!? うわっ。マジだ。ありがとう。ミズキちゃん。あれだけいたのに消えるとかわけわからんぞ…。
「姿を隠す魔法。それを使える奴が出来の悪い奴の傘下にいるみたいよ。そいつを起点に歌を歌えば姿を消せるみたい。燃費最悪な上、消えている間ずっと歌を歌い続ける必要があるみたいよ」
歌? 歌…
「たのもう!聞こえておられますか!?おおい!」
…あぁ。微かに。微かにだが聞こえた。こいつ、歌を隠すためにやってるのか! 賢い。ただ、明らかに敵の奴に声をかけまくるのは間抜けだと思うぞ。
とりあえず撃ち抜く。魔力を奪って、倒す。
「順!列!冒険者を引っ張って来るまで兵士に邪魔されないようにしろ!」
魔法薬でも飲まされて戦線復帰されると面倒だ。俺は適当に声のするところを荒らす。
まだ要塞の裏手には回り込んでいないだろうが、冒険者の周囲に順と列による弾幕が展開される。面倒だから放つのは普通の弾。当たれば死ぬ。
「ったく。金ランクなのにシャイツァー持ち3人しかいねぇ奴らを守らなきゃならねぇとはな!」
「順叔父さま。それは違うわ。シャイツァー持ちは珍しいらしいのよ?だから守って当然なのよ。まぁ、アタシも「シャイツァー持ち少ないわね」ってルキィ様に言ったら力説されたから、それを説明してあげる!」
「無聊を慰めるにはちょうどいい!言ってくれ!」
退屈っておま…。まぁ、標的も見えないのに撃つのは退屈だわな。明らかに地面を撃っている反応が返って来てるし。
「血統が関係するのかシャイツァーは同じ家中に現れやすいわ。平民のシャイツァー持ちはシャイツァーを使って功を上げて授爵されることが多いの。だからシャイツァー持ちは貴族に多いのよ。まぁ、数はそこまで多いわけではないそうだけど。その数少ない貴族のシャイツァー持ちは後継ぎ王族とかでもなきゃ基本軍属らしいわ。そんなわけで、冒険者でシャイツァー持ちなんてそれこそ元から平民か、出奔してる貴族か、教育方針でギルドにぶち込まれる貴族ぐらいしかいないらしいわ」
と言う事は、ゴールドランクで3人。プラチナランク4人。という数は破格か。…どっからそれだけ引っ張ってきたんだ?
「どこから来たか?なんてわかんないわよ。雇われたかたまたま仕事でいたか…聞いてみないとわかんないわ。それは置いておいて…、シャイツァーについての情報を追加すると、貴族のシャイツァーの方が強いことが多いらしいわ。貴族のシャイツァーって元は勇者様のだったりするみたいだしね。…若干劣化したりすることもあるみたいだけど」
「なら、あいつらそんな強くなかったし、在野か?」
「勇者とこっち産を比べんなって言ってんでしょ!」
俺らと比べると貴族も在野も基本そう変わらんってことだな。
「あ。でも、思いのたけによっては在野でも強いことあるみたいだけど。カネリアとか」
誰だ。そいつ。
「イベアで父さま達が戦ったやつ」
「あぁ…。言ってたな」
在野でも強いことがあり得るなら貴族でも強い可能性はあるか。
…どれだけ戦果があるかわからないのは面倒だな。姿が見えないが、そこにいないということではない。移動で生じる砂煙とか諸々何とかしない限り、俺は撃てる。ただ、どうやっても誰を撃ててるのか分かんないのだが。俺の撃ってる場所多分最後尾だろうが…、あってんのかね?
「総員!突撃!」
姿を消すのを止めた兵士たちが一斉突撃。要塞内部に入ろうとする者、外壁を上ってここまで来ようとする者。様々だ。
ただ、王都側…要塞北方にはまだ誰もいない。…せっかちか?
「順!冒険者の防衛要らないだろ!?」
「かもしれんが、万だぞ!?万が一まだ透明なやつがいたらどうしようもないぞ!」
しかも兵の叫び声が五月蠅い。この中から歌声を抽出するのは不可能だ。秀がいればわかったのに…。
「撃たせろ!」
てめぇの本心はやっぱそれかよ。だー!
「芯坊…。心配はいらないぞ」
!
「恵弘坊!お前、起きて大丈夫か!?」
「ああ!お前が正気なんだ、オレだってこれくらいは…」
おい。俺が厨二か厨二じゃないかをヤバさの尺度にすんな。
「安心しろ。この『継ぎ接ぎ要塞』。人がいようがいまいが要塞に恥じない頑丈さだ。敵が来るとしたらそこの階段か、矢しかありえん。ふふ…」
おい。黙るな。生きてる? えっと…、顔を叩いてみる。ぺしぺし…あ。これ、寝てるだけだわ。
「ミズキちゃん。木兵だけで大丈夫!?」
「え?念のために残しておく魔力が要らないならまだ追加で50出せるけど?…ただ、木兵はかなり弱いからそこを踏まえて考えて」
おーけい。なら、
「ミズキちゃん。木兵を頼む」
「了解。叔父さま。叔父さま達、しばらくアタシは情報を伝えるとかしか出来ないからそのつもりで」
それを承知で頼んだんだ。問題ない。
「列!一番北側に来てる兵士を叩け!順!お前は東西ならどこでもいい!ただし、二人とも、南は撃つな!」
出来が悪いと評判の奴を撃ってしまうと、出来の悪い奴に逃げられそうだからな! …名前ねぇと呼ぶの面倒だな。
早速、列の大砲が火を噴く。今の列の大砲は一般的な火砲。人間が引っ張れるサイズだからか、移動が容易い。クルクルその場で回転して俺の指示通りに最も北の兵士の一団を東西関係なく潰していく。順は楽しそうにぶっ放している。ちょい要塞から遠い兵士をなぎ倒しているらしい。
俺もやるか。まず、登って来た兵士をかったっぱしから……。うん? 要塞の上に出てきている兵士がいない。何故に…。
「鼠返しみたいになってる上に滑って登れない。取り付いて登ってたら壁が突然回りだして要塞内部に叩き込まれた。突然、槍が飛び出てきて貫かれた。下の木兵から見る限りそんな感じよ」
「え?ありがと」
教えてくれて。その結果出て来る感想は一つだが。うわぁ。
矢は飛んでくることには飛んでくる。が、大抵クルクル回転する列の障壁に弾き飛ばされている。その上、優先的に順が矢隊を始末しているから直に東西の矢はつぶれる。唯一、南は俺でまだ弓兵はたくさんいるが…、偉そうな人ばかり撃っているからもうじき壊滅するだろう。撃ってくる奴がいれば個別に撃つ。
「叔父さま、冒険者持って戻ってきたけど、どこに放り込んでおけばいいと思う?」
「木兵の直近の入り口から入れば地下室がある建物だ!そこに詰め込んで防衛してくれ!」
「え?起きた?」
さっき寝たばかりだったはずだろ?
「要塞が活躍するんだぞ!?寝ていられるかよ!」
寝てたけどな。
「そ、そう…。なら、木兵は5でいいかしら?正直、ここまでこれそうにないもの。後は要塞を彷徨わせてみるわ」
「そうしてくれ!ここからじゃ中が見えねぇ!それを使えば中の惨状わかるだろ!?何なら罠に引っかかってもいい!」
「え、えぇ。そうね。ならそうするわ」
軽くミズキちゃんに引かれてるぞ。恵弘坊。しかも木兵じゃなけりゃミズキちゃんが痛いの忘れてねぇか?
「あ。地下に繋がる階段。その左右5 mぐらいのところは踏むなよ。そこ隔離されてる部屋で、そこ踏むと天井が地面上50 cmくらいまで落ちて来るぞ!」
なんで50 cm開けてんだ。そんなことしなくても急に落ちてきたら頭直撃で死ぬわ。
「芯。東西もだいぶ薄くなってきたぞ」
「なら、南も端の方からじわじわ削って。一気にやり過ぎると駄目だ」
出来悪の取り巻きはたぶん出来悪と一緒に逃げるはず。その時にまとめて潰す。護衛っぽい200人を引っぺがさないと護衛諸共処分になってしまうからな。
「東西に木兵分散させたわ。でも、外の生き残りが少なそうだから、入れそうなところから要塞内部「!活躍を!要塞の活躍を見せろぉぉぉ!」…えぇ。わかったわ」
ごめん。ミズキちゃん。殴ってもいいよ。たぶん殴らないだろうけど。殴っていいよ。
「早速一体、どこからともなく飛び出てきた槍で破壊されたんだけど?」
「おぉ!」
いや、目を輝かせてんじゃねぇよ。どう考えても即死仕様じゃねぇか。
「それはコンセプトの問題だ。即死させて兵力回復を不能にするか、怪我させて経線能力を奪うかっていうな。基本、怪我優先だが死ぬときは死ぬ」
前の天井とか死にそうだしな。
「それより、安全に無力化するのはないのか?」
「あるにはある。だが、芯坊。適当に組んだから真ん中の方になってるぞ?グルグル歩いてる間に魔力を奪うやつとか、これ見よがしに置いてある椅子に座ると魔力奪われる部屋とか」
Oh…。
「階段登ってる間に階段が坂に変化して、上にいた兵士と木兵が壁に突っ込んだわ」
「ふぅ!」
くそっ! 罠の作動状況に喜んでやがる!
「ジャンプしないといけない場所で飛んだら横から出てきたブロックに突き落とされて捻挫。扉だと思って触ったら罠のスイッチで足元左から槍が出てきて負傷。アタシの木兵が通った瞬間、壁が倒れてきて押しつぶされる。一面トランポリンの部屋で跳ねて進んでたらトランポリンが破れて負傷。微妙に坂道になってるところで大玉、安全地帯に逃げたら人数にあってなくて酸欠。なお、逃げなくても通路の幅的に絶対当たらない…」
出るわ出るわ。罠に引っかかってる状況報告。これを考えたやつは性格悪いとしか思えん。目の前にいるけどな。しかも、たまにミズキちゃんの木兵も引っかかってるし…。せめて申し訳なさそうな顔しろ。嬉しそうに聞くな。
「そろそろ損耗率ヤバいと思うのだけど、撤退しないのかしら?」
「武功立てに来て損耗だけして撤退…は出来ないだろ。俺なら引くけど」
だって要塞の全貌すらわかってないし。…とはいえ、出来悪の立場なら逃げられないのだろうけど。
「やっぱそうよね。ところで、叔父さまがあの立場ならどうする?」
「能力据え置きなら、そもそもそんな状況にならん」
「よねー。アタシもそう思うわ。でも、据え置きじゃないなら微妙ね。亡命しようにも殺されそうだし。帰っても軟禁されそうだし。詰んでるわね」
俺らが何もしないでもよさそうなレベルにまで詰んでるな。
「ま、残しておく必要もなし。刈り取るけど」
そろそろ最終フェイズ。探索兵がガリガリ減って、ついに護衛兵を要塞に向かわせる。そして、取り巻きと出来の悪いやつは少しだけ要塞から離れたところに下がる。
動ける兵士が要塞内部に入ったせいで、あいつらが狙われないようにするには要塞中に入るか、距離を取るしかないのは間違いない。けど、ここで遠ざかるほうを取ったか。でも、お疲れ様。そこはまだ射程内。寧ろ離れたおかげで容赦なく叩ける。
列の大和の主砲を模した『大武』が火を噴く。俺も調整して3発発射。
どの砲弾も逃げようとするあいつらを直接狙っていない。そいつらが逃げるであろう方向の内、要塞方面である北側以外を防ぐように発射されている。
飛んで行った砲弾が地面に命中する前に銃弾が砲弾を貫き、起爆。3つの巨大な火球が姿を現す。遠隔爆破が出来ない分、生じた火球は強力で、忽ちのうちに最も要塞から遠い南側に迷わず逃げていたやつらを消し飛ばした。
掃除完了。さて、
「兵士諸君!降伏するかい?」
俺が問えば動ける中で一番偉そうな人がコクっと頷いた。よし。
「ミズキちゃん。援護は?」
「要らないわ。もう終わったもの。今、一段落してるわ」
了解。なら、俺らの仕事はひとまず終わり。また湧いてくるようなら叩き潰す必要がある。が、何か動きがあるより早く終わるだろ。