230話 王都決戦 in 継ぎ接ぎ要塞 城下援護
芯視点です。
時系列は大宮恵弘が要塞を作るため魔法を使ってすぐです。
「大宮叔父さま!?」
「大丈夫だ。芯坊が支えてくれたからな。それより足元注意だ。動くなよ?」
恵弘坊がニヤッとした瞬間、足元がゆっくりせりあがり始める。まるで高性能なエレベーターがゆっくり上昇しているかのようで、揺れは一切無い。
「芯坊。もう肩はいい。少し寝かせてくれ。しんどい」
「なら、端まで連れて行こう」
既に我が頼んだ滅茶苦茶な作品、その最上部は地中から顕現済み。安全であろう端にまで連れてゆくなど造作もない。むしろ、頑張ってくれた恵弘坊への当然の報酬だ。…報酬という割に、後は労いの言葉を贈るぐらいしかないが。いささか安すぎるが、今はこれで許していただきたい。
4隅の端、そこに寝かせて列たちの近くへ戻る。…む、姫は既に攻撃できるよう準備しているな。『グドストラ』が既に最上階中央に陣取っている。姫はこの巨砲が好きらしい。破壊力が最高だからか、我と一緒に考案したからか、確たる理由は不明である。だが、この局面においては間違いなく最良の砲の一つ。
陽光を反射して煌めく砲。ふと下を覗けば、眼下には様々な材質のブロックが繋ぎ合わされたような継ぎ接ぎが目立つ。それも当然。この継ぎ接ぎの一つ一つが元は別の建物だった。それを統合して新たな一を作ってもらった。我ながら無茶を言った自覚はあるが…、恵弘坊は実現させてくれた。感謝の言葉しかない。
要塞最大高は30 mほど。高さはそれほどないが、一階しかない渦巻きだとか、ひたすら階段で上下動するだけだとか、奇怪な建物が一つになっている。中はさぞ愉快な光景が広がっていることだろう。適当にくっつけたから中は迷路さながら。そして、罠の類も恵弘坊の設計図にあったまま。やたらと罠があるくせにはずれ。そんな道もあるだろう。まさに『継ぎ接ぎ要塞』という名に相応しい。
尤も、要塞まで誰も来なければただの歪な建造物で終わるのだが。一応、観測台として我らは使うが…、地球でこんなもの作ろうものならホテルとか言われそうだ。罠があるせいでホテルにすらならぬが。
要塞の上昇が終了。上昇による慣性で軌道がズレることが無くなった瞬間。姫は『グドストラ』を少し動かし、射線修正。我や順にわかる程度に僅かに首を満足そうに動かした瞬間、『グドストラ』が火を噴いた。地球にあった最大の巨砲を模した一撃は容赦なく王都を覆う積乱雲を貫き、爆発。圧倒的破壊力で四散させた。
…のはいいが、今のどう見てもカレンちゃんにまで被害いってるよな? 王都に被害を出すなとは言った。衝撃波を抑えてくれるのはいい。脆い家なら吹き飛ぶからな。でも、列はものの見事に光と音を忘れてやがる…! ヤバい。
王都の住民はまぁいい。いや、正直、戦後を考えれば絶対よくないけど戦場になるからどうしようもない。だが、カレンちゃんはマズい! 習と清水さんを怒らせるぞ!? 音と光は重要な情報。どちらも莫大過ぎれば傷つける武器となるが…、障壁がそれを遮る効果があるかといわれると微妙。
いや、ない。例えあったとしても列の攻撃。光と音で合図をする可能性も踏まえて弾くようにしていない可能性が…。
珍しく少し列の顔が青い。習も清水さんも怒らせるとマジでヤバいからな…。
「巻き返す」
ちゃんと喋った…だと!? いや、驚いてる場合じゃない。列がやらかしたなら俺も仕事して巻き返すのに協力しないと。
「『ヴォルフォース』」
列が砲を対空砲に変えた。参考にしたのは二次大戦の瑞典にあった会社の対空砲だったか? この砲が二次大戦中の米艦艇で最も飛行機を撃墜した…とかだったような。…いや、両用砲だったような…。
「芯!お前も撃てぇ!あのおっかねぇ夫婦に雷落とされたくはねぇだろ!?」
順もハイになってない…だと!? いや、そもそも俺が厨二ってない時点であれだ。
とか言ってる場合じゃねぇ! マジで協力しないと死ねる。てんぱってる場合じゃない! 銃を構え、スコープを覗き込む。周りの雲を糾合し、ちょっと大きくなっている雲目がけて…、ファイア!
よし、消えた。これを繰り返して行けばいい。雲の出所はシャイツァー的に青釧さん達。見つけて戦闘にでもなってくれれば雲にまで気を配る必要はなくなるはず。幻覚は狩野さん…か? あの宙にぷかぷか浮いてる謎物や、地の魑魅魍魎中に本物がいる…とは思えないがいたらめんどくさいよな?
というか、勇者勢で外いるやついたらまずいよな? おそらくあいつらは城内にいるだろうが…。
「ミズキちゃん。中で勇者見つけたら教えて」
「心配せずとも大丈夫よ。見つけたら教えるように言われてるもの」
出来たら先に言ってほしかった。…察しろと言う事かもしれないがな。というかあいつら割と中にいる前提で動いているような…。
…あぁ、城にいなけりゃ捜索は後。先に城を占拠してルキィ様の玉座を確保…って腹か。ルキィ様が玉座にあれば援軍を呼ぼうと思えば呼べるしな。
それより雲だ雲。考えながらでも撃てるが、ちょい鈍る。デカいのは…アレか。引き金を…、あ。順に取られた。なら、こっち…、今度は列に取られた。
あれ? 次…また列か。次! よっし! 次、順、次、列。次、順。次…やっと撃てた。感慨に浸るな次。
順、列、列、撃てた。列、順、順、列、撃てた。列、列、撃てた。撃てた。順、列、順、列、列、列、撃てた…。
俺、要らない気がしてきた。そりゃ面制圧する機関銃、弾幕張って撃墜する対空砲と、一発一発正確に撃っていく狙撃銃では役目違うけどさぁ…、これは酷くねぇ?
座馬井兄妹のシャイツァーで出来てる雷雲。それは上から吶喊してくる奴を防ぐためなんだろうが…、列と順でほぼ封殺されてる。たまーに雷撃が当たってるけど習達にダメージいってるのか?
ルナちゃんの障壁をぶち抜く必要があるわけだが…、細々と雷撃を同じ地点に撃とうにもカレンちゃんは暴れるし、雲は消される。デカい雲で一撃かまそうにもデカい雲はできる前に潰される。
それに幻覚も一回は順か列に撃たれている。…やっぱ俺、要らなくね?
!
「カレンちゃんが急降下始めた!当てるなよ!」
「当然!」
「勿論!」
またちゃんとした答えが返ってきた…!? って、それはいい! 下に下がったってことは…不法侵入は諦めて城門から入る気だな。門付近の障害は…デカい植物か。
あれの処分は俺が一番適してるか。二人は狙う銃じゃない。あれは多分ウツボカズラモチーフ。溶解液をぶっかけるつもりのはず…なら、とっておきを喰らわせてやる。弾丸交換! 構え!
「咲け。氷獄の華。『二ヴルヘイムに群生する薔薇』!」
発射。間髪入れずに装填。わずかに銃先をずらし、発射。俺が放った2発の弾は狙い違わず真っすぐ飛んで行き、丁度降りてきたカレンちゃんよりわずかに早く城門前へ到達。巨大化するルナちゃんの家を置き去りにウツボカズラの口のように開いた部分に飛び込み、炸裂。
命中と同時、ウツボカズラは光に包まれる。光は徐々に弱まっていき、代わりに氷が出現する。現れた氷はぴきぴきと薔薇が成長するかの如く、棘の生えた茎をのばし、華を咲かせてその領域を広げる。そうして凍てついたウツボカズラの横をカレンちゃんが通過する。
カレンちゃんが通過しても成長は止まらない。門を防ぐように氷が成長、誰にも止められることのなかった氷の薔薇は門中央で合流。ガッチリと組み合わさって成長を止めた。
「芯叔父さま?」
ミズキちゃんの目が「何やってるの?」って言ってる。
「ちょっとした友人の娘、息子達への援護だよ。最初に植物を凍らせるときに冷気はほぼ使っちゃてる。だから周囲の植物に押しつぶされるかもしれない。し、押しつぶされなかったとしても強度は雑魚。だけど、一応塞いだ。過信はされると困るがな」
「わかったわ。ありがとう、叔父さま。でも、脆さの心配はいらないわ。そもそも城門まで行かせないから」
ミズキちゃんはそう言って一瞬だけ笑うと、すぐに真面目な顔に戻った。…頼もしいことだ。
中に習達が入れた以上、雲はそろそろ消えるはず。俺の役に立ってない感は凄まじいし…。
「列、順。俺は幻覚を撃つ。雲は頼んだ」
地上の幻覚に対処していこう。
「ふはは!任せろ!今まで以上に滅多打ちにしてやる!」
「ありがたいがやめとけ。魔力ある程度残しとけよ?」
不安だ。列は魔力の関係を理解してくれてるっぽいのにな…。
「はっ!幻覚もどうせいつかは消えるだろ!」
「だからといって放置するわけにはいかんだろうが!」
俺らが何もしなくてもコウキとミズキちゃんなら何とかしそうだけどな!
それでもやる。弾種変更。装填。穿ちぬけ『夢魔の晩餐』!
弾丸が鬼のような奴に命中。弾丸諸共鬼が消え去る。消えたと言う事は今のは幻覚。次。…消えたけど中からなんか出てきたな。実体のある奴に幻覚を重ねるなよ…。
ただの兵士だったから近くのミズキちゃんに即、処理された。次。次は…、大男か。撃つ!
弾かれて、別の幻覚が消えた。おそらくあいつの着ている鎧が高性能。
「ミズキちゃん。一般人の扱いはどうだったっけ?」
「出来るだけ殺さないように…だけど、無理なら吊るしていいみたいよ。こっちが死んじゃうとお話にならないもの。あ、でも、街にいるうち、本当に守らなきゃならないのはコウキとセンよ?そこは間違えられると困っちゃうわ。アタシはここにいるし、家にもいる。守る必要なんてないわ」
ミズキちゃんはそう言いながらも時折めっちゃ苦しそうな顔をする。正直、見ていたいものではないが…、この子も習も清水さんも納得ずく。他人が口をはさむことじゃない。
鎧野郎を始末しよう。麻痺段を…撃つ前にミズキちゃんに見事に押しつぶされた。木兵で挟み込んで圧迫するとかそんなことよく思いつくよ…。
次。撃って、撃って、撃つ。俺の弾が命中する大部分の標的が幻覚だが…、極たまに人間が混じってる。が、それは放置。それのターゲットはミズキちゃん達に近いところ。そのためか、撃たれて一瞬つんのめってる間にミズキちゃんが何とかしてくれてる。
「芯叔父さま。今、叔父さまが撃ってる弾はどういうものなの?」
「ん?炸裂した際、周囲の魔力を奪う…そんな弾」
「あれ?幻影に当たり判定ってあったかしら?」
「ないよ。だからいいところまで行ったら手動起爆。起爆するまで目を離せないから効率悪い」
人間だったら弾かれたり、刺さった衝撃で破裂したりで何もしなくていいのだが。
「アタシの木兵にぶつけられると倒れるわね…」
「だろうな。だが、心配無用。順と列なら兎も角、俺のは狙撃。誤射してるようじゃダメなんだ」
「別に誤射されてもいいのだけど。あ。叔父さま、叔母さま!青釧叔母さま達を見つけたわ!」
よっし!
「おぉ!見つかったからか雲の量が減った!芯!俺も街制圧手伝う!」
「ああ。頼む!列はまだ雲を頼む!」
不満そうな顔をしてもダメなものは駄目! まだ雲が残ってるんだからそっちの対処して。ていうか、街にぶっ放せるような砲弾、そんなに持ってねぇだろうが。列。
不満げな顔をしてもちゃんと雲を撃ってくれる列。目に見えて雲が減ってきている。中の対処に順序シフトしてるのだろう。
「順叔父さま!しつこいかもしれないけど言うわ!アタシや木兵は気にしないで撃っちゃって!でも、センとコウキは駄目よ!」
「ほんとにしつけぇな!でも、ありがとな!俺だって楽しく撃ちてぇ!」
だって、間違えてコウキとセンを撃とうものなら確実に親が出て来るからな! 事故なら許してくれそうだが、やってみるまで分からん!
役割が少し変わったが作戦続行。俺は幻覚潰し。順がコウキ、ミズキちゃんの援護。列が雲潰し。ついでに上空の幻覚が幻か否かの判定。そのうち列の雲潰しはそろそろ終わる。俺の幻覚潰しも狩野さんさえ戦闘状態に突っ込んでくれれば終わる。上の幻覚も潰しとくか? 害はないのだが…。
「あ。叔父さま。今更だけど幻覚は塔の最上段、こっちからは見えない方から出てきて補充されてるわ」
「ちっ…。俺も順も列も要塞から降りないと撃てないな!」
俺の意思でカクっと曲がる弾とか、城に被害なくそこまで影響を及ぼせる弾とかあれば、此処からでも撃てるが…、無理だ。あったらそこを滅多打ちしてやるのに!
ッ!
「列!」
砲の前にいる列をこちらに引っ張って俺の方に倒す! 俺の上に乗った列は嬉しそうな顔で身をよじる。「違う、そうじゃない」と思った瞬間に「ガッ!」という爆音。列が目を白黒させているうちに立て続けに同じ爆音が連続で響く。計三回の爆音。その直後に爆音を軽く上回る嫌な音。
マジか。列の障壁は砕けていないが…、ヒビが入ってる。
「今のはアッバスね。冒険者ランクはプラチナって聞いてる。シャイツァーは『剛弓 シュランガーヴォー』だそうよ。街中では破壊を恐れてか、あんまり強くなかったし、逃げ回るから放置してたけど…まずかったわね。アタシらが別のところに気を取られている隙にこんなことするとか許せないわ!ちょっと撃ちやすいとこに移動したからか遠いとこになってるけど、すぐに片付けるわ!」
「待て。ミズキちゃん。遠いなら俺がやる」
順を狙ったのなら兎も角、列を狙われてこのまま黙っていられるものか! ミズキちゃんがすぐに終わらせられるのならこんな意地は速攻で捨ててやるが、そうでないなら意地は通す。
「わかったわ。戦った感じ、カレン姉さまみたいに撃った矢が曲がったりしないわ。その分、普通の弓に比べて、威力、速度、射程とかに補正があるみたいよ」
「だが、それも微々たるものだろう?俺よりは弱い。すぐ終わらせる!」
弾を装填。
「純正勇者の叔父さまやハイエルフのカレン姉さまと比べちゃだめよ…」
脇で何かミズキちゃんが言ってた気がするけど聞き取れないから無視。大事だったら二回言ってくれるだろ。
要塞から体を乗り出す。発射点からだいたいの位置は分かってる。…見つけた。って、もう撃たれてる! あいつも早いな! 回避。後に射撃!
「俺と列は勝手にやるぜ!」
「あぁ、俺がお前らをもう撃たせん!」
俺ならそれが出来る。あいつは撃つたびごとに矢を番える必要がある。かなりスムーズだが撃つまでに数秒はかかる。こっちは魔力を弾倉に注いでやれば、一瞬で装填完了だ。狙いをつける時間が同じだとすれば、奴の矢を番える数秒。それすなわち俺が優れている秒数だ。
この装填方法の唯一の欠点は魔力で0から弾丸を作り出さないといけないから、貯金を食いつぶすのではなく、有り金が減ることだが…、俺だって勇者。魔力量はそこそこある。問題ない。
さっきは後れを取ったが、今度はそうはいかねぇよ? クソ弓野郎。
装填。発射。装填。発射。黙々繰り返す。撃てば撃つほど矢と弾丸がぶつかる地点があちらへスライドしていく。
順や列を狙いたいのか、狙いがズレるが…。甘い。来るのがわかっていればいくらでも迎撃できる。最初、障壁にひびを入れたような破壊力は、矢が3本同地点に命中せねば出来ないらしい。であれば、最初の一本を迎撃してやれば事足りる。
そら、遊んでる間にお前を撃つ…のは無理か。反応速度いいなあいつ。身をよじってよけやがった。面倒な…。
「芯。俺らの助けは要らないか?」
「要らない。ていうか、お前らの助けを借りるならミズキちゃんに頼むわ」
「だよなー」
そんな馬鹿でかい機関銃で精密射撃なんざ出来るかよ。されたら狙撃銃の役目が無くなって死ぬ。…近づいてきたときなら弾幕で迎撃できるだろうが。超素直に飛んでくるから射線に合わせて真っ向から撃てばそれで事足りる。
弓の照準がズレた。撃って、撃って、撃つ。矢を迎撃したのち、本体を狙う。チッ、転がってよけるか。あっ…、下に降りやがった。絶対動かない! のなら楽だったのだが。
3本じゃダメなら…と考えて矢を重ねてきたのは評価してやる。だが、それで通ると思われたら心外だ。俺も舐められたものだ。俺の視線は常にお前を向いているというのに。わずかに弓先がぶれた、ぶれてない。それくらいは判断出来る。それさえ判別できれば…、カレンちゃんみたいな反則でもなきゃどこに着弾するか? ぐらいは一瞬で分かんだよ。俺はスナイパーだぜ? どれがどういう風に飛ぶかなんてわかるさ。
…シャイツァーだからか「重力、風、(あるのか不明だが)コリオリ力とかどこ行った?」という軌道をしているが、その分わかりやすくなってるのが何とも言えん。
…おや。そのまま逃げるかと思ったが…、逃げないか。別の建物だが、こちらをまだ見据えている。この世界の冒険者。その最高峰としての意地か? …人のことを言えた義理ではないが、それはこの場じゃ悪手だぜ?
弾丸を発射。一直線にあいつに向かって飛んでいく弾丸。追加を贈ろう。時間はある…というか寧ろ、時間は置かねばならない。生成してあった弾丸を取り出して装填。先と寸分違わず同じ位置にいるあいつを一瞬で照準に収め、発射。
起死回生を狙っているのか口が動いている。…悪いが、それが完成するまで待つ気はねぇんだわ。せめて、下にいるときに完成させとかなきゃ届かねぇよ。
「飛べ。『加速弾』」
一発目の弾の内部は二層になっている。前は弾で後ろが火薬。発射と同時に後方の火薬に点火。現実ならば軌道がブレて使い物にならないだろうが、これは魔法。一瞬で加速し、これまでの弾速に慣れ、油断しているあいつの手に命中。
だが、あいつは倒れない。二発目の銃弾に気づいたらしく、射線外へ。体勢を立て直すつもりか、こちらを向いたまま下へ降りようとしている。…が、悪いな。チェックメイトだ。
『魔散弾』
2発目の弾が爆発。中から大量の小弾が溢れだし、あいつの方へ飛んでいく。命中した弾に悉く魔力を奪われ、ふらりバランスを崩して大地に落ちる。
「回復要るかな?」
「さぁ?ミズキちゃんの判断に任せる。地球の人間なら即死だろうが、頑丈だしな。平気かもよ。ただ、俺の最後の弾丸は魔力の濃い方へ飛び、命中した物体から空気中へ魔力を逃がす…そんな弾。ただの魔力欠乏だ」
「おぉう…。でも、一発目と落下で怪我してるわよね?暴れられても面倒だし、止血だけして縛っちゃうわね」
了解。
「戦線復帰されないようにな」
「わかってるわよ。戦線離脱者は縛って一か所に纏めてあるわ。暴れるなら皆殺しにするって言ってるし、平気でしょ」
「どうするつもりだ?」
「列叔母さまに協力してもらうか、アタシが突入して自爆。それで事足りるわ」
皆殺し(捕虜)じゃねぇのかよ。皆殺し(王都全部)じゃねえか! これは酷い。この子が言うならやる。そんな確信さえあるのがなお悪い! 善悪で語るのは無理なのはわかってるが…、敢えて言いたい。こっちが悪者じゃねぇか!
「叔父さま。善悪二元論で語るの「知ってる」…そう」
心読まれたし…。
「まぁ、面倒なやつは魔力垂れ流しの刑か貧血にさせてるから大丈夫でしょ」
鬼畜か。
「あ。ごめん。叔父さま、叔母さま。報告遅れちゃったけど、狩野さんも見つけたみたい。戦闘中よ」
お。なら幻も消えるか。
「後…、申し訳ないけれど城門を抜かれないように頑張ってたら、この要塞に2グループ来ちゃってるみたい。ギルドランクはゴールドで人数は合計8よ」
!? え、8人!? たったの!? どう考えても俺らの齎してる被害はかなりあるはずだぞ!?
「怒るわよね、ごめんなさい」
「いや、怒らないよ。寧ろ、こっち来たのがたった8人ってことに驚いてる」
普通、要塞を潰さないとヤバいってことぐらいわかるはずだが…。
「だって、アタシが24人とコウキとセンがいるのよ?プラチナランクとはいえただの人。プラチナ7人とゴールド8人。兵士1000ぐらいアタシらで抑えられるわ。一人は叔父さまが処分してくれたけど」
!? よく抑えてくれてたな…。
「芯。芯」
服が引かれてる…。列を見ると無言で王都の後ろへ指す。…あぁ。なるほど。大軍がいる。旗は…この距離からは見えん。だが、スコープを使えば…見えた!
「『エルツェル』だな。旗がそれだ」
「俺らが南から侵攻しようとしたとき、ぶつくさ五月蠅かった国か!」
総兵力は万ぐらいか? あいつらがいたから街から出てきたのは8人だけ…というわけではなさそうだが。
「万って…。一体どこから捻出するのよ…」
「だいたい俺らのせいだな。俺らより前に展開されても纏めて吹っ飛ぶだけ。だから南にいた人間連合軍は下げた。無理やりな。その軍の主体はエルツェルだったはず。そして、下げた分、前線押し上げが若干遅れた。そのせいで人間領域に残ってたのかもしれない。もしくは、魔人領域との交渉もどうなるかわからなかったはずなのに、愚かにも「勝った」と判断して、防衛兵力を抽出したかだな」
「俺、あいつら嫌いだから蹴散らせるのが嬉しいぞ!」
順。ハイになってるからって脳筋思考ヤメロ。
「アタシ達への援軍の可能性はないわよね?」
「ないな。『エルツェル』は『南の雄』だ。強いのは違いないが『南の』だ。この内戦で恩を売りたいんだろう。こっちの援軍に出そうにもルキィ様の場所がわからんしな」
「戦闘した形跡もないものね。悠々とアーミラ側の支配下にあるバシェル領を通過できてるもの。既に何らかのアプローチが向こうからアーミラ側へあったのでしょうね」
目的はエルツェルの影響力を高める事か。阿保らしい…とは言えないか? ただ、『チヌカ』がいるっつってんのに、それを無視する短慮さはどうにかならないかね。
「そもそも父さまと母さまのせいでアルルアリ森林がぶっ飛んでるのだけど。それよりこっち優先してる時点であれよね」
それな。好意的解釈をしてやれば伝令が届いていない…になるが、俺ら何の連絡も入れてないぞ? 黙って調査してくれていればよかったのだが。
「前門の金級冒険者、後門の大軍。さて、どう対応しようかね?」
「叔父さま。故事成語を踏襲したのでしょうけど、あまり怖くなさそうよ」
…言って思った。前門の金級冒険者 (8人)、後門の大軍 (1万だがほぼ全軍が一般兵)だしな。
「それでも、油断せずにやるさ」
出来るだけ損害出しちゃダメだしな。