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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
1章 バシェル出国とフーライナ
26/306

閑話 出立 (タク)中

 翌日。



「うにゃあ!?」

「なんてことですのー!?」


 叫び声で目が覚めた。ああ、あの二人か。



 顔を真っ赤にする二人。爆発しろ。……習と清水さんもこんな感じなのかね?でもアイリーンちゃんもいるのか。んー、どうだろ…。



 ………やってるな。間違いない。いてもいなくてもやってる。そんな気がする。



「頭が痛いです…」


 頭を押さえながら言うのはルキィ様。まぁ、あんだけ飲めばね。



「今日動けます?」

「私は、ルキィです」

「そうですね」

「王女なのです。だから、二日酔いなど…、おえっぷ…」


 ダメだな。これ。トイレに優しく連れて行こう。防御用の布団もって。



 え?メイドさんたちへの慈悲?ないな。それと、好きな人でもリバースしたものはさわりたくねぇし、かけられて喜ぶような性癖もない。



 さて、トイレに押し込んだし…。って、あの二人まだやってんのか。



「望月、天上院さん。ルキィ様と近衛置いて、朝ご飯食べに行くぞ。下まで」


 さすがに今まで人が寝ていたところで朝ご飯を食べる気はない。まだ、ダウンしている人いるし。



 ご飯を食べればルキィ様たちを置いて出発だ。めっちゃうまかった。食べたものの名前は知らんが。



 今日の目的はプロスボアの拠点を探すこと。今までもプロスボアは討伐しているが、一向に数が減らないらしい。「生産工場的なものがあるんじゃない?」と望月が言うので、それを探す。



 捜索中に見つけても、最初は撤退。数をそろえてぶん殴る。



 当然ながら、もしそんなやつがいるならフーライナ第二騎士団にも報告が行く。のだが、ルキィ様的にはそれまでに頑張って終わらせてほしいらしい。



 理由は「私達だけのほうが、謝るのがスムーズにいくかもしれませんから!」…あ、違うわ、酔ってた時のやつだこれ。



 「私達の召喚した勇者様方の力を知らしめるのです!」だったわ。まちがえた。吐きそうになりながら言ってた。



 それはともかく、探しに行こうか。



 ノーヒントはあまりにも馬鹿らしい。天上院さんが、



「ギルドに行けば何か法則がわかるのではありませんか?」


 と、言うので行ってみる。



「すっごいあれだな」

「だね。僕もそう思うよ」

「わたくしもそう思いますわ。でも、邪魔ですし、入りましょう」

「そうだな」


 ザ・ギルドという、建物の門を潜り抜けると、少し空気が固まった。そして、視線が望月、天上院さんと動いてから俺に来た。



「黒髪黒目の夫婦…、まさか!?」

「いや、よく見ろ。あのお方たちは横に男なんていないはずだ」

「なら、別人か…。焦ったぜ…」


 早速やらかしてるな。習達。仕事が早い。こっちでは後始末しないぞ。そばにいたら考えてやるよ。やるとは言ってない。



「すいません。プロスボアの討伐記録、目撃情報を見せていただけますか?」

「は?えっと、すいません、ギルドカード、もしくは身分証をお出ししてください」


 おい、望月。しっかり。



「はい。これでいいですか?タク君と雫さんも。だして」

「はい、どうぞ」

「はい」

「はい、確認しますね………」


 フリーズすんな。



「勇者様…?」

「一応、そうらしいですね」

「あ、え、じゃあ、あ、はい。どうぞ」


 テンパりすぎだ。しかし、個人情報漏洩はしない。プロである。



 プロスボアの討伐記録、目撃情報はそこそこあった。大量発生しているらしいしな。



 それのおおよその討伐位置、目撃位置を地図に書き込む。そうすれば、一目でどこの討伐数が多いかわかる。



「ん?これ違いますわね。魔獣のイノシシですわ」

「あ、そうだね。はねといて」

「了解しましたわ。スペースを新たに作って…と」


 どれどれ…。ん?バシェル国内で、イノシシの群れと、イノシシ・ゴブリン混成の群れを殲滅…。情報提供者は、ルキィ王女近衛と。…習達か。またやらかしてんな。



 流石すぎる。



「タク君、さぼらない」

「ああ、すまん」


 さぼっていたわけじゃないが…、言い訳は無用だ。昼頃まで情報を整理していると、おおよそ絞ることができた。



「このあたりが特に怪しいな」

「そうですわね」

「そうだな」


 地図の中で特に怪しい地点、それは小高い丘のようになっているところ。



 最近の地殻変動か何かでできた丘らしく、名前は『コーシュリスティヌの丘』。怪しさ満点。



「よし、行こうか、二人とも!」

「ああ!」

「ちょっと待ってくださいまし」


 望月と俺が立ち上がろうとすると、天上院さんは恥ずかしそうに顔を赤らめて…。



「先にお昼にいたしませんか?」


 と言った。ちょうどなった鐘は5の鐘。14時である。



 宿に戻って昼ご飯を食べる。ルキィ様も近衛もまだグロッキーでダメ。近衛とはいったい何だったんだろうか。ひょっとすると、(ぢか)(に)(えい)(生兵が必要になる人) という意味だったのだろうか?



 仕方ないから慣れない馬に一人ずつで乗っていく。練習すればよかった!



 天上院さんはすごく上手だ。なんでも、家の人が「貴族たるもの馬に乗れなければなりませんわ」ということで、ビシバシやられたらしい。



 時代錯誤甚だしい。庶民にはわからん感覚だ。望月もそれに付き合ったことがあるらしく、俺よりも確実にうまい。はぜろ。



 俺も一応は乗れる。乗馬ゲームやっててよかった。なお、評価。



「タク君も乗れるんだね」

「まあ、一応な」

「その通りだね」

「及第点と言ったところでしょうか?派手な動きはなさらぬよう」


 割とボロボロだぜ…。



 幸い、全員方向音痴じゃないから道を通るときは迷わなかった。問題は、その後だ。



「丘までは道がないんだよね」

「それなんだよな…」

「そんなこともあろうかと、目印になりそうな赤いリボンを宿から拝借してきましたわ!」

「おお、さすがは雫さんだね!これで迷わず帰れるよ!」


 言いにくい…。言いにくいぞ…。嬉しそうな二人、しかも親密そうな二人にはかなり言いにくい。



 ここでの問題はそう。「行き方がわからないこと」だ。



 誰も帰り方とは言っていない。帰るときに迷わないのも大事だが。答えがずれている。にもかかわらず、納得してしまう。それに説得力があるから。これをスフェル効果という。



…嘘だ。あるかもしれないが俺は知らん。



「どうした、タク君」

「あ?ああ、言いにくいけど、根本的解決になってないぞ」

「あ、そうでしたわね。では…」

「こういうときはね、脳筋理論で行くんだよ」


 にっこり笑う望月。ま、それでいいか。天上院さんのおかげで迷う要素もないしな。



 というわけで、突撃。3回ほど森から出たから出発点に戻り、また進むというのを繰り返すと、ようやく目的の丘が見えた。



「丘?」

「丘ではないよな」

「ですわ」


そもそも丘って何だろう。まあ、いいか。俺たちの目の前に現れたのは、変な形をしたでっぱり。その二つ並んだ穴から、プロスボアが出てきている。



「これだな。これ」

「間違いないですわ」

「で、どうするんだい?」

「殴る?」

「脳筋理論か?んー、やめておいたほうがいい気がするな…」

「でも、このままじゃ調べようがありませんわ」

「殴ろう」

「ちょ、待てって…」


 俺が引き留めていると、丘の前に鹿の群れ。そして、その群れの一部は突然、丘に喰われた。むしゃむしゃと口を動かす丘。口の中は無駄に生物チック。



 そのくせ丘にしか見えない外見。非常にミスマッチ。



 どうやら丘はイノシシだったらしい。近づかなくてよかった。食われたらさすがに即死だわ。



 俺らの目の前でプロスボアとともに、鹿の群れを追いかけまわして、一部を喰う。逃げられたら追い回して喰う。また追い回して喰う。そして、全て食い尽くすと、鹿を喰ったプロスボアまで喰う。そして、のそのそと元の位置まで戻って、完全に元通り。



「後ろから殴ろう」

「え!?まぁ、いいけど…」


 攻撃が通るかどうか。これは大切。通らなければ、手を考えねばならない。



「いつでも逃げられるようにしといてね!」

「わかってますわ」

「望月も気をつけろよ!」

「わかってる。じゃあやるよ!『僕の魔力よ、僕の聖剣に力を与えて、何物をも貫く矛の力を!『グングニル』!』」


 聖剣から放たれた光の槍による一撃。しかし…。



「ダメだね。これは…。せっかく、武器の名前借りたのに…。イメージでは、剣から出たビーム?で貫通させるつもりだったんだけど…」


 指さした先には、剣の形に少し凹んだ穴。グングニルは北欧神話の主神オーディンの使う槍だったはず。それを冠してなお貫通できていない。



「尋常じゃないぐらい硬いよ。こいつ。これでおきないし。手を考えよう」

「まじかよ…。一応、火も試していいか?」

「いいよ。ちょっと待ってね」


 逃げる準備を整える二人、今度は俺だ。



「『我が魔力を糧に、燃えよ我が半身。刃を突き立て、溢れんばかりの業火で、敵を内から滅せよ!『オーバーヒート』!』」


 望月の凹ませた穴に、刀を突き刺す!そして、爆発!



 ………ダメか。



「だめだ。ちょっとしか効いてない。刀で切った分だけだ」

「そっか…、じゃあ、プロスボアを始末しながら撤退しよう」


 ん?天上院さんは、何してるんだ?



「じゃあ、帰りましょうか」

「そうだね」


 気になったが、質問する前に帰ることになった。覚えてれば聞こう。







______


 と思っていたら、プロスボアを殲滅していたら何を聞こうとしていたのか忘れた。ナンテコッタイ。習と一緒ならやらかしたことないぞこんなミス。緊張感が違うからか…。



 夕食だ。今日は酒なし。昨日の惨状的に当然の処置。食べながら、今日のことを報告する。



「なるほど…、プロスボアを作る謎の大イノシシですか」

「それもですね、驚くほど硬いんです。シャイツァーで削り殺すことはできるでしょうけど、何年かかるか…」

「タク君、熱も効かなかったこと忘れてない?」

「いや、覚えてる。まるでダメでした」

「ということは…、普通にやってもダメだと思ったほうがよさそうですね」

「そうなります」

「後、プロスボアが出てくる穴…鼻なんですけど、その前を通った鹿の群れが食いつくされました」

「どんなふうにですか?」

「プロスボアと一緒になって追いかけまわしていましたわ」

「そのあと、元の場所に戻りましたよ」

「その前に、プロスボアも食べてました」


 俺たちの報告を聞いて、ルキィ王女は考え始める。手柄が…、とか言っていたような気がするが気にしたら負けだ。



「あれをこうしてもらって、ああして…」


 ブツブツと何かを考えている。そして、



「いけました。これで私達だけで勝てるはずです。協力お願いできますか?」

「はい、もちろんです」

「もちろんですわ」

「ルキィ様のためなら、なんだって」

「ご協力感謝します。では作戦説明をいたしましょう」


 というわけで、プロスボアの親玉――ヒプロア (命名俺)――の討伐作戦が始動した。







______


 これはちょっとないんじゃない?



 絶賛後悔中。ルキィ様にかっこつけようと思って、何でもするって言ったからな。はぁ…。



 俺はいつの間にか横に来ていたプロスボアの足を切る。殺さなくてもいいからな。出血多量で死ぬ。倒れ伏す際に、ドシーンと音が鳴る。



 音からしてたぶんかなり重い。それはともかく…、これ、いつまで続けりゃいいのかね?



 よっと、プロスボアの首、刀を投げてはねる。血が噴き出る。相変わらず、ドシーンという音が鳴る。が、そんなに気にならないな。



 だって、俺の背後からはどうやっても聞き逃すことも、聞き間違えることもない足音が断続的に響いているから。こっちの音が大きすぎるんだよ!



 さて、ルキィ様の立てた作戦を説明しよう。



 まず、俺がヒプロアを動かす。次に、その間にヒプロアの寝床のそばの地面に細工をする。

それでジ・エンド!というもの。



 問題は、細工がいつまでかかるのかということ。そのせいで俺が頑張らないといけない時間が変わってくる。とりあえず、すぐ終わるものじゃないから昼抜き確定。場合によっちゃ夕飯も。



 一応、気の毒に思ったカップル。じゃない、望月と天上院さんが、簡単に栄養と水分を補給できるものを魔法で作ってくれたが…。

 

 

 作り方は簡単、小麦粉をこねて練って棒状にして焼き固めたものに魔法をかける。それだけ。普通ぱさぱさになるはずなのに、水分も補給できるという謎物質が爆誕した。それが10本ほど。



 魔法の呪文は…、どこかの企業のCMで聞いたものばかり。数秒ゼリーとか、一本バーとかの。効果はありそうだ。だが、それでいいのか。



 問題はこれをいつ食べるかなんだけど!



 それはともかく、俺は準備ができるまでヒプロアと戯れておかなきゃいけない。図体通りに遅いわけじゃないから大変だ。それは群れの時にわかっているけど…。



 普通に走ってくる。若干、プロスボアより遅いが、だから何という程度。



 だって、こいつの後ろ脚をよく見ておかないと冗談抜きで死ぬから。後ろ足が「ギチギチギチ」と到底生物が立てる音じゃない音を立て始めたら要注意。



「ギチギチギチ」


 うわ、来るか。



 奴の足にばねのような螺旋が現れる。飛び掛かってくる合図だ。魔法を使っているからか、思い出したかのように使ってくる。挙句、その突進のスピードはプロスボアを軽く超える。



「ギチッ……ギチッ……」


 そろそろ来る。俺は双刀を腰に差す。そして、先ほどまで詠唱していた魔法を解放する。



「『バルメー』!」


 俺が横に猛スピードで移動したと同時に、奴は俺のいたところを通過した。当然プロスボアも巻き添え。すがすがしいわ。



『バルメー』は某アニメの技のもじり。有名すぎて俺の頭にあの言葉しか思い浮かばなかった。どうもじったかは忘れた。ノリでいいんだよ。ノリで。



 この技は優秀だ。なんてったって、右、左、上、後ろ。の4方向に回避できる。後ろは選びたくないが…。巻き込まれそうだし。これだけ選択肢があれば、避けるのはわけない。



 原理は腰に差した刀から、地面に向かって火を勢いよく噴出させる。その反動で動く。それだけ。火は攻撃するわけじゃないから、温度はすごく低い。触っても問題ない。ただ、圧が凄い。



 今なら食えるか。謎物質を口に含む。ぱさぱさの見た目のくせに、スイカを食べたときか、それ以上に俺の喉を潤してくれる。違和感ガッ。



 でも、お腹も膨らみ、喉も潤い、さらに疲労感も多少は取れる。…これだけ言ってると、やばい薬みたいだ。



当然ながら、あの大突進がみんなのほうに行かないようにするのも俺の仕事。かなり大変。



 よだれを垂らしながら、ヒプロアがこちらを振り返る。



 鼻からちっさいプロスボアが出てくるのはなかなかシュール。鼻をふさいでやればいいんだろうけど。「それができるなら、普通に殴ったほうが早い」的なことをルキィ様が言っていた。



 ですよね。そんなことしてる暇があるなら、心臓か脳。どちらかを壊してやるほうがどう考えてもいい。



 だから、早くしてくれよ!

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