228話 合流後の作戦会議
「はっ!?ボクは一体…!?」
「お、久安氏が起きたぞ」
「だね。じゃ、こっからどうするかはなそっか」
光太の言葉に待機していた各々が改めて席に座りなおす。
「え。まさかボク待ちかい?」
その場にいる全員が首肯。途端、久安は寝かされていたソファから体を跳ね起こした。そして、すごく気まずそうな顔になってペコリ頭を下げて空いている椅子に座った。
「始めてください」
「では、始めましょう。我がバシェル王国の現状はシュウ様とシキ様が寝ていらしたときに説明したとおりです」
え゛。既にそっちの話もしてたのか。その中に新情報は…、
「…ないよ」
ありがと、アイリ。
「そして内乱で皆さまが私に助力くださると言う事も既に確認しております。が、もしも心変わりされたのであれば言ってくださいね?」
「ルキィ様、今更それを確認するのは野暮ですよ」
悲しそうなルキィ様の声を否定するタクの言葉。それにこの場の全員が追従する。ルキィ様の目は最初に言葉をかけたタクの方に向けられていて…、その目は少し熱っぽい。
何だ、タク。ちゃんとルキィ様の心を自分の方に引きつけることは出来てるじゃないか。
「皆さま、ありがとうございます」
あ。駄目だ。感慨を抱いている場合じゃない。さすが王族たるルキィ様。切り替えが尋常じゃなく早い!
「私達はバシェルへと戻り、アーミラ姉様を討つことが目的です。が、いつ、どのように、どれくらいの規模で?という点を詰めましょう。サイコウジ様達も加わりましたしね。魔人領域で一度会議を実施しましたが、あれは救援優先のものでしかありませんでしたから」
この場にいる全員がまた頷く。
「ルキィ様の言ったうち「いつ?」は議論するまでもない。動けるならば今、すぐにでも。だよな?」
何故かタクが俺と四季を見て聞いてくる。
「あぁ。時間をかけすぎると最悪、ルキィ様は既に死んでるってことにされかねない」
バシェルではルキィ様は「戻ります」と伝えたところで安否不明になった。そんな感じになってるはず。魔人領域の人間連合軍に緘口令を布いたわけではない。ルキィ様が姿をさらした以上、あちらにルキィ様の存在は手紙のやり取りで伝わっている可能性はなくはない。…けど、おそらく手紙は止められているはず。あちらに情報は伝わっていまい。
「それに豊穣寺さんがいますからね…。時間は相手の味方でしょう」
分析時間を相手にあげる必要はない。だからこそ、突撃は早い方が良い。
「では、どのように戻りますか?」
「殴りこもうぜ!」
謙三らしい策とも言えない一直線の行動。だけど、今の情勢を踏まえると…、
「悪い…というよりは良いか?」
「ですかね?私達はこの内乱に『チヌカ』が関わっていると言う事を知っていますが、一般の人々は知らないでしょうし…」
『チヌカ』のことを言ってしまえば大混乱になりそう。であれば、突撃して速やかに刈り取って混乱を起こさせないのが一番じゃないか? …『チヌリトリカ』が誰の目にもわかる形で蘇れば一撃でぽしゃるけど。
「よさそうだが…、その案を採用すると魔人領域のルキィ様が手下を動かせぬぞ?」
「確かに芯の言う通りだよね?出来るだけ早く中枢に殴り込みをかけるというなら、今、この場にいるメンバーだけだよね?」
光太がこっちを向いて問うてくる。
「そうなる。機動力を落とさないとなると、家に詰め込まないといけないけど…、」
「流石に無理ですね。ルナちゃんの許容量をオーバーしちゃいます」
障壁の魔力は家の中にいる人の分で賄えるが…、家の拡大・収縮は俺か四季、ルナの魔力じゃないと駄目だ。
「となると…、王都殴り込みを遅らせてまで一般的な騎士団の助力が必要なのか?という話になりますわね」
「だな、天上院譲。私達は曲がりなりにも勇者。勇者ではないアイリ嬢などもいるが…、大半がシャイツァー持ち。そして、あちらにもシャイツァー持ちが沢山。シャイツァー持ちとシャイツァー持ち。火力過多の戦いに彼らはついて来れるのか?」
「もしついて来れないのであれば…、彼らがバシェル王都に到達するのを待つだけ無駄」とまでは薫さんは言わなかった、けれど、誰もがその言葉が後に続くだろうと言う事は悟っている。
「姉の言う事は尤も。だが、俺ら勇者はこっちのことをあまり知らない。だから、こっちの世界の人の言葉を聞こう。幸い、複数人いるからな」
だね。ルキィ様にアイリにカレンに…大多数は俺らの子供だな。…あれ? 大丈夫か?
「述べるとすれば年齢的に私から。になりますかね?では、私の所見を述べさせていただきます。まず勇者様ではない一般のシャイツァー持ちの方と一般兵であれば、シャイツァー持ちの方の方が強いです。一人で10人くらいにはなるのではないでしょうか?勿論、シャイツァーによって得手不得手があるので、概算ですが。勇者様と一般兵となると…、かなり差があるかと」
年齢順にいくらしい。…となると次はアイリ。
「…要らないと思う。シャイツァー持ちがいるなら兎も角、一般兵だったらお父さん達が本気を出せば巻き添えになって消し飛ぶよ?…勇者であるお父さん達のシャイツァーも強い。けど、それ以上に魔力量が違いすぎる」
…一般兵の魔力じゃ勇者と勇者の対決で出る余波を十分に防ぎきれない。そういうこと…かな? 次はカレンだけど…、うちの子らアイリ以外箱入りだよな。答えられないはず止めないと…。
「…カレンはどう?」
ちょっ!? アイリがカレンに話題を振った!?
「ボクはよくわかんないからパスー。ボクの知識はおとーさんとおかーさんだよ?実質的にー、おとーさん達、ゆーしゃと何も変わらないっていうー」
「それを言ったら俺もなんだが…。レイコともども社会に疎いぞ。そしてそもそも獣人だぜ…?」
「ですね。人間と獣人では身体能力が異なります。参考にならないかと…。そして私の方がガロウよりも無知なのであてにしていただくと困ります。そして、ルナは…、」
「わかんにゃい!」
「ある意味私よりも箱入りで、そして魔人で種族がやはり違います」
存外明るく話題が終わった…。…俺らが心配し過ぎていただけか。
「…過保護」
ほっと安心していたらアイリから飛んでくる声。最近よく言われる気がするけど…、今回のは特にそう。過保護だと認めざるを得ない。
過去のことに触れないといけない話題ではあるけど、地雷の核心じゃない。だからこの子らが傷つくことはない。いや、これはある意味不適切か。おそらく地雷案件でもこの子らは乗り越えられる。
「…今が幸せだからね。…過去にこだわってもどうしようもない」
少し気まずそうにする友人たちを尻目に、子供たちはアイリの言葉に一斉に首肯した。この子ら、過去は過去にしている。過去は今の自分を構成する要素ではあるけれど、ひきずることがないようにしている。
…やはり過保護と言わざるを得ない。だって、後は俺と四季の気持ちだけなのだから。…でも、難しい。自分のことならこんなに悩まないのに…。
この子らの背景を一番気にしているのは俺らを筆頭とする勇者たちかもしれない。俺ら勇者は、自称進学校に通えていてバイトもしてない。そんな経歴しかない俺ら勇者からすれば、この子らの経歴は『自然と同情してしまうモノ』。
…俺らはこの子らの親だけど、心のどこにも同情の気持ちがない…なんて、断言できない。あぁ、本当に難しい。
「気持ちは分かるけど、父さま、母さま、それに叔父さまに伯母さま。気持ちは分かるけど落ち込んでたら話進まないわよ」
ミズキの言葉に皆復帰…するかと思ったけどしない。女性陣が何か考え込んでいる。
「お」
「ば」
「さ」
「ま」
示し合わせたかのようにルキィ様、天上院さん、薫さんそして蔵和さんが一字ずつ言葉を繋いでこてっと首を傾げる。
その動作は非常に軽妙で可愛らしく見える。それこそ、四季が大好きな俺でもちょっと心動かされたかもしれないぐらいに。ただし「何言ってくれてるの、お前?」みたいな目をしてさえいなければ。という注釈がつくが。
「ごめんなさい。冗談です」
即頭を下げるミズキ。
「叔父さまと伯母さま呼びに悪意はありません。兄さまと姉さまでもよいかと思いましたが、父さまと母さまが混沌とするので止めました」
「ミズキの兄姉」=「俺と四季の子供」そんな図式が成立するからね…。普通なら仲の良い先輩を慕って兄姉呼びしてるのかな? って思ってもらえるだろうけれど、俺と四季の場合はヤバいもんね…。他でもないミズキとコウキっていう例があるから。
二人は産まれて数カ月だけど転生者で心は完成してるし、体も育ってる実子。そんな子達がいれば、「この子が兄姉と呼ぶ子も子供では?」と思われるのは自然な流れ。
実子扱いしたいけど実質的には養子。に、実子。後、孵化を見守った子。そして友人。それらが入り混じることになる。…カオスすぎる。
「…いい」
? かなり小さくて聞こえにくかったが…、今の声はルキィ様?
「よく考えてみますと…、シュウ様とシキ様のお子様に私が叔母様と呼ばれるのは良いのではないでしょうか?」
? さっきとおっしゃってることが真反対なのですが。
「あの、ルキィ様。今何と?」
「タク様、私は「シュウ様とシキ様のお子様に叔母様と呼ばれた方が良いのではないでしょうか?」と言いました」
聞き間違いではなかった。しかも、確かに俺らの方がルキィ様より年上ですけど、伯母から叔母に関係性変えてるし。この世界の言葉では伯母と叔母は発音が違う。だからこの言葉は「ルキィ様ははっきり自分が何を言っているか理解している」ということの証左に他ならない。
「その心は?」
「内乱後を見据えて。です」
? 内乱相手のアーミラ様もルキィ様も親は同じ、バシェルの国王と他界されている皇后陛下。俺らと血縁があるって言うなら俺か四季が国王陛下の子供ってことになる。条件的には変わらないはずだが…。
「血縁がないのは瞬殺でバレますけど?」
そもそも俺ら召喚されたばかり。タクの言うように一瞬でバレるはず。…実は隠し子説とか出る可能性もあるけど。
「だからいいのではありませんか!血縁が無いとすぐに見抜けるほど有能な方であれば「私がミズキ様達と叔母さまと呼ばれるほど親しい関係である」とはすぐに見抜けるはずです。見抜けない方は血縁だと思うでしょう。どちらであっても、勇者様が最低二人、私に後ろにいる…そんなことをにおわせられるのですよ?」
理由がまとも。まともだけど…、
「ルキィ様。その案の最大の欠点はご理解されていますか?」
もしも理解していらっしゃらないのであれば、例え俺と四季をうまいこと城から抜け出させてくれたうえ、アイリと会わせてくれ、そのアイリの親がわりでもあって、かつ、タクが好意を向けているルキィ様であっても…、
「勿論。「お二人が実際に動いてくれるかどうかわからない」ことでしょう?わかっております。それを当てにした策など立てませんよ。どうしても助けを求めることが不可能でない限り、素直に助けを求めますとも」
はっきりと俺と四季の目を見て言い切るルキィ様。
…であればいいです。俺らと深い関係がある。それを盾に滅茶苦茶に動かされても困りますからね。
「であれば、俺と四季は問題ありませんね」
「後はこの子たちの気持ち次第です」
俺がタクに持つ恩は多分今回の一件で少し清算出来ると思う。けれど、ルキィ様にある恩はまだ返せていない。なら、関係性をにおわせるくらいなんてことはない。
子供たちは一か所に集まって少し会議をしている。けど、俺らの記憶を持つコウキとミズキ。そしてルキィ様に恩のあるアイリがいる以上…、
「…ん。わかった。これからルキィ叔母さんって呼ぶね」
承諾するのは既定路線のようなものだけど。
うん? ルキィ様がプルプル震えている…?
もしかしてだけど、ルキィ様が「叔母扱いして!」って言ったのはアイリから「ルキィ様」って呼ばれていて、様付けが嫌だったからじゃ…。アイリは俺らのことをお父さん、お母さんって呼ぶ。ルキィ様なら「叔母なら叔母さんってなりますよね」と推測できないわけがない。
伯(叔)母さんって呼ばれるのは日本なら事実その関係でも忌避する人がいるはずだけど、異世界だからそれはあてにならないし…。
いや、さすがに俺の想像が飛躍しすぎているだけか。ルキィ様がそんな我欲だけで動くとは思えないし…。
「…となると、俺は叔父…ってことになりますかね?」
「そうしていただけるとありがたいです」
タクが悲しそうな顔してる。…残念でもないし当然。確かに結婚していた場合、ルキィ様が叔母ならお前は叔父になるんだろうけど…、お前、してないからな? というか、人のこと言える立場じゃないけど…、お前ヘタレてまだ告白してないだろ!? 伝わるわけないだろ!? 俺でもびっくりするぐらい遠回りじゃねぇか!
…まぁ、ルキィ様が王族だから勇者とはいえ何の功績もないから気が引ける…ってのは分からなくもない。けど、今のは明らかに「俺も家族ってことをにおわせて権力の補強手伝う!」という宣言にしかとれん。
「矢野氏が叔父であるなら私は叔母…と言う事にした方が良いか?」
「の方が良いかもな。姉。ルキィ様のサポートにはちょうどいいだろう。光太、お前はどう思う?」
「僕?僕も賛成。皆、どう思う?」
コクっと勇者である友人達が全員頷く。余計に「権力補強」の色合いが強まったな…。
「後は習と清水さんだけど、どう?」
「別に構わない」
「私もです」
毒を食らわば皿まで。そんな気分だけど…、此処にいる勇者が強い連帯の元にあるとなれば、馬鹿は減らせるだろう。
「森野氏、清水嬢。今更だが私達が叔母、叔父でいいのか?」
「俺は構わないよ。だって、俺の誕生日はたぶん誰よりも早い4/3だしね」
「!?習君!私も4/3なんです!」
!? ほんとに!? 誕生日一緒だったの!? 運命とかあんまり信じていないけど…、運命的なモノを感じる。
ついでに「婚約までしてるくせに誕生日知らなかったのか…」という呆れの視線も感じる。仕方ないじゃん。聞くタイミングなかったもん! …いや、モテる人ならサラッと聞き出して誕生日に花を贈るとかするんだろうけどさ。
「4/3か…。なら確かに問題なさそうだな。二人より年上なんてこのクラスだと4/1か4/2産まれしかありえないからな」
「いても一日二日なら問題ねぇだろ!」
グッと親指を立てる謙三。…気にする人は気にすると思うよ。でも、今、それはいい。
「脱線しすぎた。話を戻そう。えっと、子供達にこっちの世界の人は俺らがいても戦力になるか?を聞いてたところ。アイリは「ならない」で、コウキとミズキ以外は「知らない」」
「でした。残るはコウキ君とミズキちゃん。二人はどうです?」
答えはだいたい予想出来てる。でも、仲間外れはかわいそうだ。
「今世の話は分からないわ。前世だと…微妙ね」
「僕もミズキと同じく。前世は前世だし…、準前世は人来なかったしなぁ…」
「そもそも、前世は神話決戦の時代。ちょっと昔すぎて知識は活用できないわ…」
だよねー。となると信用できるのは俺らの感覚だけ。こっちの世界で人間をぶっ飛ばしたことはあるけど…、
「勇者補正が強いから、俺らに比べて一般兵はあんまり強くない…よね?」
俺の言葉に敵対した人をぶっ飛ばしたことがあるのか、友人たちは全員揃って頷いた。
「脅威になりうるのは数で押しつぶされること…ぐらいですよね?」
これにも同意してくれる。
「他に何か…」
……手が上がらない。他にはないと考えて良さそう。
「光太、芯。王都に残存する兵力は?」
「確か千だったはずだよ?」
「あぁ。だが、彼らの主な役割は王都の安寧を保つこと…いたっ!?」
順が芯の頭を叩き、軽快な音が響いた。
「翻訳するのめんどいから真面目にやれ」
「あい。役目は治安維持。戦場から抜けて来た奴らの迎撃は専ら我ら勇者…というか青釧さん達の仕事。そうなっていたはずだ。あぁ、後「迎撃はうちらで出来る」と、青釧はそう言っていたぞ」
ありがとう。となると、青釧さんは防衛に絶対の自信有。千の兵は防衛を彼女たちに任せ、治安維持に回る…はず。
「シャイツァー持ちはいますか?」
「そこまでは流石に僕等は知らないかな…。ごめん」
視線を滑らせても全員首を横に振る。防衛隊の陣容教えてもらっても困るしね…。こっちの世界の人間なら有名人の名前を聞けば「おぉ!あの人か!安心だ!」ってなるんだろうけど、俺らならほぼ確実に「誰それ?」ってなるからなぁ…。
「ルキィ様は?」
「ええと…、魔人領域で連合軍と接した際、私の国の兵士のシャイツァー持ちは全員いたと思います。ですが、冒険者までなると…」
冒険者の動向は予測不可能ですしね…。
「ミズキ。連絡を頼んだ三国はどうなってる?」
「無事に会えたわよ。フーライナは国主じゃないからちょっと微妙だけど、会議で動けないのはほぼ確定。アークラインとイベアは了承してくれたわ。軍の準備はしておくけれど、『チヌリトリカ』対策よ」
この3国が動かないなら北方は大丈夫かな…。後は南方。だけど、救援要請もないのに動いたら侵略だし、大丈夫…かな?
「治安維持用の兵は千とみて良いわよね?」
そのはず。
「なら、父さま、母さま達が王城に入ってから王城に兵を入れない…ぐらいならアタシと木兵で出来るわよ」
「マジで!?じゃあ、こっちの方が勇者の数が多いだろうから突っ込もうぜ!」
確かに戦闘系の勇者の数は多い。光太、天上院さん、芯、順、蔵和さん。俺、四季とタクに賢人と薫さんこれで10人。あっちは青釧さん、座馬井兄妹、百引さん、羅草さん、瞬、そして有宮さんの7人。
戦闘系で3人差。しかもその中の百引さん、羅草さん、瞬は謙三と一緒にいたのに姿を消してる。ひょっとすると王都に戻っていない可能性がある。そうなれば4人だけ。差は益々広がる。
子供たちの数を加えると圧倒的に有利に立てる。7人だとしてもそれは同じ。兵を連れて行けばシャイツァー持ちもいるだろうし、調教もしたけどちゃんと従ってくれるかどうか未知数。その上、相手も冒険者とか他国の援軍で増える可能性がある。となると、
「謙三の言う通り直行しようか」
「ですね。この人数で王城を叩きます。別の地点を押さえる必要はありません。占領する人員が無駄です」
俺らの言葉に全員がコクっと頷く。
「今すぐ出ようぜ…と思ったが暗いな!」
だから出るのは無理。
「兵を連れて行かないなら最速でいける」
「習、最速でいけるなら王都で足りないものを道中で仕入れて、ばら撒いて人気取りとか出来ないか?」
出来なくはない。お金はある。が、
「人魔大戦が勃発してる。商品が徴発されて無くなってる可能性があるぞ?」
「あぁ…、そっか」
「一応、食料ならありますが…、ばら撒くと私達の食糧に不安が出ます」
俺らだけで9人。友人たち含めれば優に20人を越える。食料はあることにはあるけれど、ガリガリ減らすのは困る。
「服は?」
「もっとない。だって自前で買った分は俺、四季、アイリ、カレンぐらいのしかないもん。そんなに買ってないぞ…。後はご厚意でいただいたモノ」
「あ。駄目だわ。貰いモノってことは…」
そう。服の質がおかしい。配ったら取り合いになるのは目に見えてる。しかも獣人と魔人の最高位の人がくれたモノ。忌避する人もいるだろうが、珍しさに拍車がかかる。
「あの。タク様。私のために考えてくださっていてありがたいので、言いにくいのですが…、おそらく、不足物資はないはずです」
「何故です?」
「人魔大戦では基本、ファヴェラ大河川を挟んだ消耗戦です。が、時折、どちらも戦線が後退する場合があるのです。その場合、物資を全部一か所に集めていると一撃で決まってしまう可能性が出てしまうので…、何段階かに分けて大量の物資を集積しているのです。例年通りであれば戦争は長く続くのですが…、すぐに決着がついています。ですが、物資自身は10年周期の戦争経験に基づいて生産、集積しております。したがって、物資には余裕があるかと…」
余裕そうですね…。しかもかなり。
「服は大丈夫なのか!?寒いと死んじまうぞ!?」
「ケンゾウ様、服も問題ありません。服はイベアの横にあります『人類の防寒具』たる『シメリーノープ』で大量生産されておりますから…」
「なるほど!?だから服屋に既製品が大量に並んでるのか!」
心得がいった! と叫ぶ謙三。ちょっとうるさい。
「そうです。シメリーノープでは『シャッペ』という生き物が大量にいまして…、その生き物から毛を刈らせてもらっています」
シャッペ?
「羊だよ。父さん、母さん」
了解。ありがとう。
「父さま、母さま。姉さま、兄さま達は羊が何かわからないはずだから、紙をくれたらアタシが絵を描くわよ?」
ごめん。お願い。絵は俺ら無理。
「狩る前のシャッペの毛は非常に弱い魔法ならびくともせず、ぶつけられた魔法の属性に応じて色を変えることが出来るという性質を持ちます。ですので、かの国ではシャッペ飼育により繊維を回収。それを裁縫に特化したシャイツァー持ちや人海戦術、そして勇者様の作られた国宝。それらで処理することで大量生産。と言う事をしているそうです」
国宝(織機)とかなのだろうな…。そしてそんなことが出来るならシメリーノープ以外のシャッペ毛を使った衣服産業は壊滅してそう。フーライナと同じく必須産業を抱えこむことで生き残りを謀る国か…。
…無理な値上げをしようものなら即、周りからフルボッコ。食料を握ってるわけじゃないからフーライナよりかじ取りが難しいはずだけど、よくやるよ。
「となると、何も要らないか?」
「だな。強いて言うなら体調を万全にしておくこと。ぐらいじゃない?」
「ですね。では、今日は解散しまして…、明日に備えましょう」
俺と四季が出した結論に全員コクっと頷く。
明日、バシェル王都を襲撃する。勇者と勇者の激突は避けられないだろうが…、無事に全員取り戻す。