227話 西光寺班
「で、森野氏、清水嬢。もう話を始めても構わないか?」
「姉。その言い方だと少し冷たく聞こえるぞ…」
「む?そうか?」
弟である賢人からの言葉に目を丸くする薫さん。薫さんは170 cmくらいあって高身長、白髪で釣り目、そしてスタイルもスラッとした美人さん。だから、賢人の言う事は的外れではない。けれど、
「既に私以外と薫さん…あ。薫さんとお呼びしても?」
「呼び方は自由で構わんよ。清水嬢。弟の呼び方も自由でいい」
「ありがとうございます。では薫さんとお呼びさせていただきます。私以外は薫さんと面識ありますから、弟さん…西光寺君の心配は杞憂でしょう。唯一、私が例外ですが…、非戦闘員を連れて上手く逃げ延びてくださった貴方を冷たいとは思いませんよ」
四季がそう言うと薫さんがドヤァと言うように賢人に胸を張る。
「清水さん、姉を甘やかさないでくれ…。初対面で冷たい印象を与えるのは良くないと言ってるのにこれなんだ…」
「そうか?交渉だと冷たい方が有利そうだが…、というか、弟。お前もあまり姉のことは言えないぞ」
「うっぐ」
性格的にも見た目的にも賢人は薫さんと似てるしな…。身長は176 cmぐらいで、薫さんより高いけれど、それ以外の容姿は一卵性双生児だからか性差の出るところ以外は結構似てる。少し茶色がかった黒目とか、釣り目とか…、だから割と冷たく見える。
というか、二人とも並んで黒か青系統の衣装に身を包んで黙っていれば、氷の皇帝姉弟とかそんな風に見えないこともない。
「さて、弟は放っておこう」
「待て。一つだけ聞かせて。清水さん。なぜ俺の呼び方は西光寺君なんだ?」
「私の気持ちの問題ですね。西光寺君達が兄弟ではなくて姉弟で助かりました」
…俺以外の男性をあんまり「下の名前+君」で呼びたくない。そんなこだわりか。そう呼ばれているのは四季が小さいころから知ってるであろう謙三と、四季の夫たる俺だけ。そして、この年齢で出会ってすぐにそう呼ばれたのはきっと俺だけ。
…四季が特別扱いしてくれているんじゃないか? そんな推測だけで嬉しい。…にやけてしまわないようにしないと。
「把握した。姉。いいぞ」
「まず、結論を伝える。私達を含めた逃げ出せた西光寺班は森野氏と清水嬢の指揮下に入る」
「つまり、地球には戻らないと?」
薫さんはコクっと頷く。マジか。誰かは戻ると思ったんだが…。
「ルナ嬢の家があるからな。戦闘では活躍できずとも魔力タンクとして活躍できる。戻らない理由は「級友だけおいて戻るのは気が引ける」ということと「俺らだけで戻っても、家族とかへの説明どうするんだ?」という二点だな」
確かに。地球でも容赦なく時間は流れているはず。順々に戻ったら説明が大変だな。
「了解。薫さん達は何人いる?」
「私達を含めて7人だな。すまん。残り6人…半数近くは持って行かれた」
ん? 半数…?
「当初は森野氏と清水嬢を加えて15人だったろう?そこから二人が抜けて13人。その6人となれば半数だろう?」
あぁ、そう言う事か。了解。俺らを入れて15人…あれ?
「…どうした?」
「人数に少しひっかかってる」
「うちのクラスメイトは32人ではありませんでしたか?」
前にタクとかアイリにも振った話題で、既にクラスメイトは30人だって言われたはずだけど…、32人だった気がする。
「30人だぞ?…確かに他のクラスが32やら33の中、30というのは妙に少ないような気がするが」
むぅ…。
「話をこっちの話に戻す。逃げる羽目になったのは有宮嬢のせいだな」
「フルネームは有宮 文香だな」
あぁ、やっぱり。西光寺達に危害を加えたのは謙三の幼馴染衆最後の一人、有宮文香さんか…。ここまでくると謙三だけ洗脳喰らってないの本気で可哀そうになってくる…。
「彼女のシャイツァーは『種袋』だ。拠点は何もない平原に作った。家は各人一個でふりわけたんだが…、」
「その家を有宮嬢が出す植物で建てたやつが有宮嬢含めて7人いた」
「あっちサイドの手に落ちたのはそいつらだ。生き残りは有宮の家を使わなかった俺らだ」
「万一を考えて、色んなものを一極集中させていなかったのが不幸中の幸いというところだ」
植物系…ね。家で寝ているところを押しつぶす! とかされたらアウトだわな。よく逃げたよ。ほんと。
にしても、植物…か。どうしてもこの前倒した『樹塊』が頭をよぎる。こいつも有宮さんのせい? …いや、たぶん違うな。シャイツァーはラーヴェ神から貰ったやつだし、チヌリトリカ由来の瘴気関係の魔物とは別だろう。
「あっちに落ちたのは誰です?」
「森野氏も清水嬢も知らない奴は何人かいるぞ。だから名前とシャイツァーの効果だけ軽く上げる」
「待て、姉。有宮の情報が薄いぞ。習、清水さん。あれでいいか?」
まぁ、俺も四季も謙三の幼馴染だから人となりは知ってるけど…、
「シャイツァーについてもうちょいない?」
「ないぞ。強いて言うなら私のシャイツァーが化学系なのに対し、あいつのは植物系…といったところか?あ。私のシャイツァーは『試験管立て』だ。試験管立ての中に試験管を召還。その中で既知物質をこねくり回して新物質を作る。そんな感じだ。昨日二人に渡したのもこの産物」
昔、化学薬品をいじくり倒して白髪になった薫さんらしいシャイツァーだ。
「む。今は私も安全には気を使っているぞ。ついでに弟のシャイツァーを紹介しておこう。弟のは『全能の魔導書』だ。魔法を発動しようとすると「待て。俺がやる」そうか。なら任せる」
薫さん、自分が説明することに頓着せずに速攻で賢人に説明を投げた…。
「俺のは魔法を発動しようとするとパズルが出る。それが解ければ発動する。パズルの難度は魔法の規模とかに依存。解くのが面倒なほど魔力がいる。…が、魔力消費量をこのパズルは軽減してくれてる。このシャイツァーではたぶんだいたいのことはできる」
大体のことはできる。…ここは俺らのと似てるな。
「さ、戻すぞ。有宮嬢のシャイツァーは私のと似ていると言ったろう?それは「遺伝子組み換えの如く、望む性質を持つ植物を作れる」点を指している。すぐに成長して、丈夫で、断熱性とか通気性がよくて、管理もあんまりいらない。そんな植物を彼女が作ったから、家を植物で何軒か建てたわけだ」
そんな植物があれば頼るよね…。
「で、他だ。まず『狩野絵里』嬢。シャイツァーは『キャンバス』だ。書いた絵を幻影として展開する力がある。触れれば実体がないから速攻で偽物とわかるが…、触れない場合は本物にしか見えん。識別はかなり難しいだろう」
俺と四季のシャイツァーと一部似てる。彼女は絵を描く必要があって、俺らは字を書く必要があるという点とか、狩野さんのは幻影しか出せないけど、一人でも使えるという点とか違うけど。
「確か、狩野嬢は清水嬢と知り合いで、森野氏は知らなかったか」
正解。「少し瞳も髪も茶色がかった、ちっちゃくてかわいい子ですよ」…? 四季、耳打ちしてくれるのは良いけど、四季の身長だと大抵の同級生は「ちっちゃく」なるんだけど。
「文字通りの。です。確か145 cmくらい」…了解。
「すまない。二人とも。容姿の話は別の機会に頼む」
ごめんなさい。
「悪いな。テンポが悪くなるから…、次は『羽響芽衣』嬢。シャイツァーは『譜面台』だ。譜面台の上で楽譜を書く必要があるが…、作った楽譜を再現するらしい。音量は魔力依存。彼女の魔力量では音響兵器にはならんだろう。が、黒板をひっかく「キィーッ!」やら、発泡スチロールをこすった「キュウキュウ」といった不協和音は出せるみたいだぞ」
羽響さんのも「書く」必要があるのか。
「あの。薫さんの説明を聞く限り…、音を出すには「楽譜に再現」する必要があるのですよね?それって、音階が分からないといけないのでは?」
「そこは問題ないよ。四季。羽響さんはかなり精度の良い絶対音階持ち」
「あぁ…」
俺がしゃべる言葉とか自動車の駆動音でさえバッチリ一撃で当てるからな…。記憶に残ってさえいれば、お茶の子さいさいだろう。
「清水嬢の懸念は正しいが、森野氏が補足した事情があるから無問題だ。言うべきことが無くなったから次だ。次はパソコンがシャイツァーの『豊穣寺咲景』嬢。パソコンがシャイツァーとはいえ、ネットに繋がってないらしい。だから彼女を通しても地球の情報は入ってこない。残念ながらな。彼女のパソコンで出来るのは…、彼女が得た情報の集積と分析。時間をかければかけるほど面倒くさいことになる」
話聞くだけでも面倒くさい。時間をかければかけるほど豊穣寺さんのところに情報が集まって分析されてしまう。出来るだけ手を晒さずに初見殺しで落とすしかないな。
「ちなみに言う間でもないだろうが、私達のシャイツァーの情報は森野氏と清水嬢を除いて彼女に渡ってるぞ」
召喚当初、俺らが寝てた時に魔王討伐班、帰還魔法捜索隊の班分けに必要だったからか…。
「姉。何故に「言う間でもなく」とか付けた?」
「森野氏と清水嬢だぞ。しかも子供達も察せたのだ。親である二人が出来ない通りがあるか」
…「絵」は子供たち出来るけど俺も四季もてんでダメなんだけどね。
「俺も思わないでもないが、姉。二人の顔が微妙だぞ」
「む。何か気に障ることがあったか。すまない。確か豊穣寺嬢のことは二人とも知らなかったな?お詫びに追加情報だ。豊穣寺嬢は私の同類。好きなことが出来るならそれに超熱中したいタイプだ」
詫び(詫びることが無くてもあったほうが良いからくれる情報)か…。斬新だな。
「あの習君、つまり?」
「薫さんは所謂化学馬鹿。事故って多少学習してるけど。豊穣寺さんもその同類、つまり情報馬鹿。たぶんデータ触るのがめっちゃ好きなんだと思う」
「あぁ…。となるとますます時間あげない方が良さげですね…」
違いない。データを触って色んなことを見つけ出す。それに快感を覚える人だろうから…、放っておけば置くほどデータが分析される。
「森野氏の言い方に棘を感じるのだが」
「姉が悪い」
「だよな」
じゃあ言うな…というのは野暮か。
「コホン。以上3人、有宮嬢を含めて4人がこちらから抜かれた女子だ。後は男子。弟、任せた」
「唐突だな。構わないが…、男子は三人だ。まず『鮫波将』だ。シャイツァーはサングラス。二人ともこいつを知ってるだろうが…、あいつ体格がごついからアレだ。あっち系にしか見えん」
ぼなんとか団とか、やのつく自由業の人にしか見えないと。…うん。そうとしか見えないな。
「シャイツァーの効果は視界に入った生き物の心拍数、発汗量、手の震え具合…とかがわかるらしい」
となると…、
「交渉を有利に運べるようにする」
「それが主たるシャイツァーの効果ですかね?」
「おそらくはな」
心まで読まれる『真想天秤 リヴラ』に比べれば、まだマシだろうけど…、交渉しないといけない人は大変になるんだろう。
しかも、その性質上、カマかけて弱み握って脅すとかもやれなくはないだろうから…、これもあんまり時間はかけない方が良いか。…脅迫しだしたら余計にあっち系の人にしか見えないけど。
「次行くぞ。次は俺らの料理を握っていた『陽上和昭』だな。シャイツァーは『フライパン』だ。能力は完全に料理特化。フライパンの下からいつでも火が出る。フライパンの縦横サイズや深さが調理器具の範疇で調整できる。絶対に汚れないし、焦げ付かない。そんな感じだ」
業務用の鍋とかだとかなり大きい。大きくして障害物に…とかなら出来るか? 下から火が出ていればさらに近寄りがたいけど…それだけだよな。
「料理を食べた相手にバフとかは?」
「ないようだ」
あまり脅威ではないかな? デカいフライパンを投擲して回収。とか出来るけどそれまでだしな…。
「超凄い調理器具…の範囲を出てませんよね、これ?」
四季がこてっと首を傾げて同意を求めてくる。
「『超凄い調理器具』…うん、言い得て妙だね。陽上の性格的に魔法で水とか食料出すとか認めないだろうし…」
「そうなのです?」
「ああ。あいつは料理するときの調味料や水に一家言あるみたいだからな…」
出汁を取るなら軟水使え。レベルだけど…。とはいえ、あいつの主義心情から外れるとはいえ、洗脳されれば主義心情なんてかなぐり捨てるだろう。…使わないだけで実は魔力で食料を作れるかもしれない。あちらさんサイドの食糧事情が多少マシになりそうだ。
「次、こいつで最後。『赤鉾諭志』だ。シャイツァーは『箒』。空は飛べないぞ」
と言う事は、
「掃除用か」
「そうだ。撫でるだけでゴミが消える優れものだ。掃き掃除ついでに拭き掃除も出来る上に、サイズも可変。さらに掃除する先端部は自由自在に回るとかいうテレビショッピングもびっくりの一品」
テレビショッピング云々は陽上のフライパンも一緒だぞ。
「人を消したり、動物を消したりは出来ませんよね?」
「無理だな。出来るなら討伐班の方に回した」
「ですよね。謎の不死身性があっても突破できそうですものね」
攻撃は効かない。もしくは超耐性持ちで真っ向から倒すのは死ぬほど面倒くさいけど、一撃必殺は通る。そんな奴はゲームにいないこともないしな…。新豚街北東にいる王の像とか。
…ゲームとこの世界を同一視する気はサラサラないけど。
「四季は同じクラスになったことないから知らないだろうけど…、あいつは箒で掃除するのが好きだから…」
「ゴミを箒で払いのける感覚がいい!掃除機は邪道!…だったか?正味、よくわからん」
「「ゴミ屋敷にすれば延々とゴミを掃き続けられる!やったぁ!」のような謎思考でないだけいいだろう」
虚無感に襲われそうな思考だな、それ。まぁ、赤鉾は掃除したらちゃんとゴミはチリトリで集めて捨てる。綺麗好きなだけで潔癖症ではない。
「以上だな」
「次は私達と一緒に来た奴らの紹介だ。私らがやってもいいが、喋りたがってるから任せる。ちなみ全員、男だ。おそらく有宮嬢はわざとやってる。「何で!仲良くもない!男と!一緒に!いなきゃ!ならないの!」そんな思考だろ。…私だけ狙われるそぶりもなかったのはさすがの私でもちょっと傷つくが」
狙われなかった理由は「薫さんだから」で片付くな。…ただこの手の話は男の俺が口を出すのは荷が重い。かといって四季は面識があんまりないしなぁ…。一択か。賢人。頑張れ。
「姉。それは姉が姉だからだ。俺も一切狙われてないから…、狙うのが面倒だと思われたんだろ」
「…ふむ。今はそれで納得しておこう」
今は…ね。「後で有宮嬢を締め上げればいいしな」とかボソッと言ってるし、有宮さんが締め上げられるんだろう。元凶だし、甘んじて受けろというほかなし。
「さて、男どもの紹介だ。そら。右端から…って、右端は『朝昼夜翠明』氏か…。二人とも知ってるよな?」
「うん」「ええ」
有名だからな。常に寝てるのに何故かいい成績とる奴って。
「ならいいか。シャイツァーは『寝袋』だ。いつでもどこでも寝られるぞ。朝昼夜氏限定で。寝たままゴロゴロ転がって移動できる。水でも毒でもなんであれ、朝昼夜氏に危害を加えるモノは障壁で排除される。障壁の範囲は私達が全員入れるくらいはあるから、森を移動できたのは朝昼夜氏のおかげともいえる「久」…」
何でかなり遅れてるこのタイミングで立ち上がって挨拶した朝昼夜…。
「水中に放り込んでも、私の作った毒沼に叩き落しても無事だったから障壁はかなり硬いぞ。ただ、魔力量は朝昼夜氏だけに依存する。だから、ルナ嬢の障壁には負けるな」
ルナの家の障壁は家の中にいる人の魔力の持ち合いだからねぇ…。魔力量勝負では勝ち目がない。
「そら地雷は処理した。後は各人でやれ。あぁ、先も言ったが右端からな。順番で揉めるとか恥ずかしいことこの上ないこと、しでかしてくれるなよ?」
「うん。わかったよ。初めまして…でいいよね?」
俺も四季もコクリ頷く。
「僕は『鷹尾智哉』だよ。渾名は智だから、もし渾名を使うならこれを使ってくれる嬉しいかな。僕も混乱しなくて済むからね」
「あ。智。少し待て。習、清水さん。全員、ため口でもいいか?後、呼び方は『習』と『清水さん』でいい?」
…いちいち許可出すのめんどいしね、問題ない。
「ん。ありがと。智。すまん。戻していいぞ」
賢人がそう言うと智は虚空から双眼鏡を取り出した。
「僕のシャイツァーはこの『双眼鏡』だよ。物凄く遠くまで見れるよ。後、怒らないで聞いて欲しいんだけど…」
窺うような目でこちらを見てくる智。チラッとみてくる。目を逸らす。チラッ&目逸らし。……黙ってたら延々と続きそう。
「怒らないぞ?」
「ですです」
「そう?じゃあ、説明するね。これ、欲しいなと思った人の情報を間にあるモノを無視して得られるの。びえっ、怒らないで!」
何で怖がられてるの…。
「怒ってないから続きどうぞ」
「ですです」
「え、そ、そうなの。情報を得ようと思うと双眼鏡で見える範囲…地平線よりこっちにいてくれる必要があるけど、速度とか距離とかがわかるの」
「俺らは俺らの班の現状が伝われば誰か来てくれるだろうと踏んでた。だから、役に立ってくれたぞ」
「来てくれる速度は予想外に早かったがな」
推測の上に推測を重ねたうえ、ヤバいんじゃない? って判断して来たからな…。ヤバそうじゃなければ西光寺達の駐屯地直行だし。
「で、ですね。これは覗きが出来ないようになってますので!で!信じて!」
土下座された。本気で何故こんなに怖がられてるの…。
「怖がられてるのは習と清水さんの子供のせいだな…。故意に「清水さんを除いたら殺す。事故なら記憶を壊す」とか言ってたから…」
あぁ…。
「平常運転だな…。俺らだって子供達を故意に覗こうとすれば殺すし、事故なら記憶を叩きだすし…」
「子供が駄目なら私…!なんて発想されたとしても対応が変わるわけでもないですし…。いえ、寧ろ対応が過激になる可能性が…」
「何故に?」
…誰だこいつ。まぁいいか。決まってるじゃん。
「嫁さんの裸体を見られて面白いわけないだろうに」
「夫でもない人に裸体を見せる趣味はないですし…」
「「抑止力は過激な方がいいでしょ?」」
「ふぅ!」
!? …あ。あぁ、そう言えばシールさんの同類がいたの忘れてた。問うてきたのは同類さんか…。
「割り込まれた…」
「わけじゃないでしょ?あれで終わりじゃん。大丈夫。西光寺姉弟がこいつらの人柄を保証してんだ。お前も嘘を言ってないんだろう?「信用できない!目つぶし!」なんてことあるもんか」
「億が一、嘘をついていても覗こうとしたら双眼鏡がいるだろうから…、双眼鏡してるかどうかでわかるよね?」
「ですです」
信用できないなら双眼鏡を覗いている智の前に女性陣を出さなきゃいい話だしな…。
「確かに」
「でしょ?ならボクだね。ボクは『久安基秀』。清水さんは同じクラスだったから久しぶり。多分覚えられてないけど…。そして森野君は始めまして。以降よろしく。呼び方はご自由に。腐男子でも百合豚でも、見境なしの節操無しでもいいよ!」
キャラが濃い…。腐男子は男対男の恋愛を好む男子。百合豚は女対女の恋愛を好む人の蔑称もしくは自虐。見境なしの節操無しは…、ダブルミーニングだよな?
「あ。待って。よく考えたら最後はおかしい。除外。とりあえずボクは恋愛なら何でも好きだよ!ジャンルは問わぬ!相互に愛しあっていればN「「黙れ」」…あい」
危なかった。それ以上は言わせん。
「えっと、正味、恋愛であれば何でもいいよ!好みは普通の恋愛だけどネ!」
情報量が多い。これはアレか。自分の性癖になると早口になる…そんな人か?
しかもキラキラした目をこっちに向けてきてるし…。久安の趣味嗜好的には芯と蔵和さんのようなヤンデレ染みた愛や、光太と天上院さんのような無自覚恋愛より、俺と四季の互いに好意を自覚している恋愛が好きということか…。
「ボクのシャイツァーは『聴診器』だよ。向けた先の音が聞ける。智君のシャイツァーともども、合流に一役買ったよ。それに音に籠った情報も見えるよ。誰が、誰に、どんな気持ちで、どういう意図で、この言葉を言ったのか。とか一瞬でわかるよ!故にぃ!ツンデレなど!ボクにかかれば!内心は一瞬で分かるから!ただのデレと変わらヌ!少し残念だけど、それはそれで面白いからGood!あ。ちなみに感情は『見える』って感じ。何がどうとか上手く説明できないけど、恋愛関係はめっちゃ綺麗!嫉妬絡むとノーサンキューだけど。軽いヤンデレぐらいなら美しいよ!あ、でもやっぱり一番綺麗なのは純愛だから!だから森野君と清水さんは本当に、何かもうアレなんだよね。言葉にできないんだよね。筆舌に尽くしがたいとかね、圧倒されるというかなんというか、陳腐な使い古された言葉では表しきれないんだよね。兎も角さ、めっちゃ綺麗でずっと見ていたいんだ!それこそ産まれた瞬間から死ぬまで!わかる!?ていうかわかれ!ほら!わかx「そろそろ黙ろうか」…げふぅ」
賢人に久安が黙らされた…。
「次どうぞ」
「了解。習は久しぶり。清水さんは始めまして。わたしは『暁治難』といいます。よろしくお願いします」
久安の惨状はガン無視して頭を下げる暁。
「ここからは二人とも聞いてね。シャイツァーは既に目に入ってると思うけど『マスク』。これのおかげで埃やらハウスダストやら、鼻炎に苦しまなくてよくなった!」
よかったな。暁。お前、ちょくちょく鼻炎に苦しめられてたもんな…。季節問わず、週に一回ペースで一日にティッシュ箱2箱潰すとか可哀そうとしか言えないからな…。
「あ。ごめん。嬉しかったからつい。こっちじゃないよね。わたしのシャイツァーの効果はわたしの周辺からの毒の排除。と、マスクを通して入ってくるわたしとって有害なもの、不快なモノの排除。だよ。だから、毒ガスが充満している部屋に入っても死なないけど、火に焼かれると普通に死んじゃうから止めてね」
マスクしてる人を丸焼き…ってどんな発想してるんだ。
「後、マスクについた物質の鑑定も出来るよ。物質なら元素まで戻れるよ!そこまで戻っても意味ないから、化合物名まででだいたい止めるけどね。後、魔法を使った後にしばらく滞留する魔力なら、誰が使ったものか?までわかるよ。だから智ともっちゃん…あぁ、久安君ね。と一緒に合流の可否を決めたよ。視覚、聴覚、嗅覚から判定したんだ。わたしの話はこれで終わり。次、お願い」
「あいよ」
暁の代わりに前に出てきたのは日焼けした恰幅のいい同級生。俺より背が高いとか…。新しい同級生との出会いでは久しぶりな気がする。
「森野は始めまして。清水さんは久しぶりです。オレは『大宮恵弘』だ。今後ともよろしく。呼び方は自由でいい。が、棟梁とか親方だけは止めてください死んでしまいます」
また土下座された。今度は何でだ…。
「習君。大宮君は宮大工の家系なのです。ですから…」
「未熟なのに棟梁とかで呼ばれちゃうとまずいってこと?」
「ですです。たぶん親御さんに比喩抜きでぶっ飛ばされます」
…マジで?
「「本気」と書いて「マジ」です。家を解体するときに出る不要な角材で、鐘を思いっきり突くが如き勢いでやられるそうです。…脅しだったので逃げても許されたようですけど」
と言う事は、角材持って走り回ったのか、親御さん…。パワフルだな…。やり過ぎな気がするけど、四季が敢えて「不要な角材」って限定してる。と言う事は、家を建てる建材で殴ることはないってことで、仕事に誇りを持っておられると推測できる。とはいえ…、
「恵弘って呼ぶことにするから落ち着け」
「お、おう!ありがとうごぜぇます」
おぉう…、拝まれた。子供にトラウマ刷り込みすぎ。ちょいやり過ぎてる気がする。今ならたぶん児相から職員さん飛んでくるレベルじゃないかなぁ…。
「大宮氏。拝んでるだけでは進まんぞ」
「お、おぅ!そうだな!オレのシャイツァーは『建築設計図を書くための道具一式』だ。シャイツァーである机に魔力を流せば紙が出る。その紙に設計図を書いて、細かい仕様を書いて、魔力を流せば…、書いたものが出来る。そんな感じだ。狩野さんや羽響さんのと少し似てるな。家を作るのが主だが…、他のこともしようと思えばできるはず。ちなみに、此処にいるやつらはオレの家に住んでた奴らだ。耐用年数は10年。だが、定期的に魔力を流せば伸びるぞ」
俺らのシャイツァーでも無から岩壁は建てられる。けれど、すぐに消えちゃうから持続時間を考えると恵弘のものの方が優れてそうだな…。
「投石器とか作れそう?」
「たぶんできるぞ。でも、作ったところで何に使う?」
…まぁ、そうだよね。一発一発に時間がかかるし、バシェル王都を攻撃するにしても出来るだけ損害を出さないようにしなきゃいけないんだから。
「ま、オレの話はいいだろ。悪いがあんまり協力できる気がしねぇ。そら、ショウ、行け」
「了解。習、清水さん。久しぶり。でも、一応ちゃんとフルネーム名乗っとくね。ぼくは『葉蔵波翔』。えっと、ちゃんと覚えてくれてる?」
俺も四季もコクリ頷くと、波翔は目深にかぶった船長帽の奥の瞳を嬉しそうに輝かせた。
「えっとね、ぼくのシャイツァーは『船長帽』でね…、水の上を進んだり、水の中を進んだりする乗り物の能力を向上させるの」
「乗り物?」
「船や潜水艦ではないので?」
「ふぇっ!?」
あ。少しパニくってる。
「ほら息をゆっくり吸って…ゆっくり吐いて…、」
「慌てずに深呼吸…そうです。後、何回かしてください」
うん。落ち着いてきたね。
「波翔。俺らは怒ってないから。疑問を出しただけだから」
「ほ、ほんとに?習君はそうなの知ってるけど、し、清水さんと話したことないから…」
顔と名前は知ってるけど、性格がよくわからないと。なるほど。
「私も、習君と同じく疑問を呈しただけですよ。怒ってませんし、怒りませんから続きを」
「う、うん。えっとね、船とか潜水艦はいけるのは当然なんだけど…、肝は「水上か水中を進める」ってところなの。普通の車を海にダイブさせて海中車!とか言っても、単に沈没してる車だから意味はないんだけど…、水上バスとか潜水車とかその辺りの水中を走ることを前提に作られてる車なら、水上(中)走行中は勿論、陸上でも効果は発揮されるの」
それで「乗り物」なのね。了解。
「道案内はさっきの三人衆だが、操縦は葉蔵氏だぞ」
そうなんだ。すごい…って操縦? あれ? 薫さん達が乗ってきたのって朝昼夜の寝袋のはずだけど…。
「あのね、えっと…、朝昼夜君の寝袋自体「移動するときに起きたくない!」っていう思いがあるからか、水中移動できる…ってのはさっき説明されてるから理解してくれてると思うの」
あぁ…。「水中移動前提=波翔の乗り物」っていう方程式を満たすのね…。
「察したの?じゃ、ぼくの説明はいらないよね?ね?ね?うん、って言って!」
ゴリ押しが凄いな。足りないところは賢人や薫さんに聞こう。コクっと頷くとシュバッ! となんかすごい勢いで引っ込んだ。
「習、清水さん。ちなみにあいつ、操縦桿握ると性格変わるぞ」
あ。やっぱり? 地球ではついぞそんな場面に遭遇することはなかったが、俺の見立てはあってたか…。
とりあえず、30人の名前は揃った。けど、誰かが足りていない気がする。誰だ? 記憶を漁れ。脳から、情報を保存している海馬から、該当する情報を探し出し、引っ張り出せ。えっと…、
「『富湯楽黒都』」
「『白螺宇恵』」
俺の呟くような言葉の後に四季の俺と同じような声が響いた。間違いない。たぶんこの二人だ。
「ん?その名前はどこかで聞いたぞ?」
「久我さん、その名前でしたら以前、魔人領域侵入前の会談の際に出たはずですが…」
「だね。雫。だから西光寺君らは話題になったことを知らないだろうけど。…で、誰だっけ?」
あれ?
「二人はクラスメイトじゃなかったっけ?」
「ですです」
…反応が鈍い。記憶を探っているのは間違いないけれど、長すぎる。「探し物が見つからないから手当たり次第にタンスもクローゼットもぶちまけている…、そんな風に思えるくらい苦戦している気がする。
少し待って出てきた言葉は全員揃って「言われればそんな気がする」というもの。あれぇ? やっぱり記憶違いか…。
「望月氏。その時、この話題はどうなった?」
「確か…「不思議なこともある」で流れたはず。でも、あの時はもっと早く結びついたような…」
「それはクラス名簿があったからでしょう?後、状況もあるかもしれませんわ。その際、3席空席がありまして…」
「一席はタクの分。残りの椅子2脚は誰かクラスメイトの分…だと認識していたはずだ。だから繋がりやすかったのやもしれんな。唯一、例外として、」
「鹿児島!鹿児島!」
は? 鹿児島? クラスメイトの名前で鹿児島が関係ありそうなもの…、
「習。清水さん。まともに翻訳しようとしなくていい。これは俺ら知ってるから。百引さんが例外だ。彼女を除いた俺らは、2脚は確かに誰かの席だと思ってたのさ」
翻訳難度が高すぎる…。鹿児島→百引(鹿児島にある地名)で、漢字の読み方変える。無理ゲー。気分を切り替えねば。
「要約すると、僕をはじめとする雫や、タク、賢人たちは『何かきっかけがあれば後二人いるような気』がしていて、」
「習と清水さんは『常に後二人いるような気』がしている」
「そして、百引さんだけ『完全に二人の存在が抜け落ちてる』…」
光太、賢人、芯が言葉を繋ぐ。
「そしてこれらを統合すれば………何もわからんな」
「だな!」
思わずズッコケてしまうような結論を下す薫さんに、謙三が迷わず追従する。えぇ…。
「ところで子供達に聞いたが、森野氏と清水嬢が子供達の父母とはどういうことだ?」
急に話題がこっちに来た。考えてもわからない。だから投げる。…か。今はそれよりこっちの交流とバシェル内乱のが大切だしね…。
「薫さん。それは既に子供たちが説明してくれてる通りだよ?カレンとコウキ、ミズキ以外の子らは養子みたいなもの。カレンは…卵を孵化させた親?みたいなもの。コウキとミズキは俺らの実子。実子のところの説明は求められても子供たちがしてくれてる以上は無理」
「ですね。湖に落ちた私と習君の精子と卵子を受精させて急速に生育。器を作ってそこに前世持ちの二人の魂を入れて完成。らしいですよ?奇天烈すぎます」
だからマジでこれ以上の説明は無理。
「了解。コウキ氏とミズキ嬢の誕生過程には大いに興味はあるが生命分野だからな…。私はあまり触れたくない。アスクレピオス神よろしく雷霆に撃たれたくはないからな。すまない。私の話はいいだろう。地球に帰れた場合とかは考えているか?森野氏と清水嬢の様子からして子供達を切るのはなさそうだから、考えておかないと地獄だぞ?」
「ありがとう。心配してくれて。でも、考えてあるよ。帰れたら実子に出来るように戸籍を魔法使って無理やり弄る必要はあるけど…」
「習君から既に求婚されて、私はそれを受けてます。ですからこの子たちは向こうに行っても私と習君の子供。それで通します」
俺の親も四季の親も説得しないといけないけど…、多分納得してくれるはず。だから結婚届を出すとか、諸々の処置を済ませればいい。どうしようもなければ魔法でゴリ押す。
「なるほど。となると、二人が指にしている指輪は結婚指輪か」
「材料は俺が独断で揃えて、」
「デザインは私と一緒に考えたものなのです」
「ふぉぉぉぉ!」
あ。久安が鼻血出して倒れた。
「もっちゃんがまた尊さに浄化されてる…。いつものことだから放置してていいよ」
「これからの動きを決める必要があるのだが…。聞いた私が悪かったか。まぁいい、一応、会話に加えたい。起きるまで待機だ」
了解。じゃあ、少しの間のんびりしてようか。