224話 続樹塊
「習!清水さん!あいつを倒せばいいの!?」
「あぁ、光太!たぶんそれでいい!」
「目の前の木の集合体が、瘴気の大部分の瘴気を持ってます!」
四季の声が響くと同時、三連装砲が再度火を噴く。
バガギャッ!
!? 何で障壁に割とでかいダメージが!? …まさか、あの砲撃が跳ね返された?
「NE, NE」
NEすなわち” No Effect “。つまり、効果なし。だが…、状況から判断するに確かに相手には「無効」だが、こっちには跳ね返されてダメージきてるぞ。
「ひゃっはー!」
順の攻撃は…通ってるように見えなくもない。が、時折攻撃を阻むように無駄にでかいラフレシアがポトリ落ち、射線を遮る。あからさまに順の攻撃を拒否している。やはり聖魔法が嫌なのか?
「アイリ。カレン。レイコに下はいいからちょっとあっち殴るように頼んで」
「ついでにミズキちゃんも一撃お願いします」
「あいあい」
アイリの鎌、カレンの矢、レイコの冷凍弾にミズキの風の刃が樹塊の本体っぽいものに直撃。攻撃は通ってるっぽいが…。すぐに再生されてる。
「「『『聖光』』」」
光太と天上院さんの聖なる光線が樹塊の下の方に直撃。命中した部分の樹がしなしな弱っていく。が、光で萎びさせられるのは嫌らしく、ラフレシアがぼとぼと落ちてきて射線を遮る。
「セン。センの魔法は聖魔法と同じだったよね?」
前聞いたことがあった気がするけど、一応、聞いておこう。センはズィーゼさんの同類だったらしいし…。
「ブルルッ!」
「たぶんね!」…かぁ。なら、万一のために障壁を維持してもらうほうが良いな。
…さて、目の前の奴をどうしよう? 浅いところにある木は聖魔法なら簡単に、聖魔法でなくともちょっと苦労する程度で破壊できているようだ。しかしそれまで。その奥に入り込めない。
これだけガッチガチなら、このアルルアリ森林をこんな状態にしたやつはこの奥にいるだろう。そんな推測が出来る。だから、こいつを何とかすればいいだろうって仮説の正しさが上がったが…、だから何なんだって気がするな。
カレンの矢で適当に中央を抜いてもらう…のは無理か。この子のシャイツァーは境界を越えられる。だけれども、その特性的に『樹塊』ソレ自体を無視してしまいそうだ。…一切内部に損害を与えずに向こう側に出る。意味がない。
レイコ…も同じか。凍らせるベき対象がわかっていない。それでは通じない。
「カレン!矢を一本頂戴!」
「姉さまに伝え…って、もう父さまと母さまの横にあるわね」
だね。俺らが何言うか予想できてたか? まぁ、いい。あるならあるで、ありがたく使わせてもらおう。『聖光』とだけ書いたいつもの長方形の紙を縛り付ける。
「芯!カレンのサポート頼む!」
「幹の部分ではなく、枝葉の多い部分を抜きます!」
「ふぁっ!?いきなりだな!だが、了解!俺の腕前見せてやる!」
芯の言葉を聞き終えると、ミズキが心得顔で頷いて矢を投げる。投げられた矢は加速しながら木の幹でみっちり詰まった下ではなく、枝葉で出来た比較的隙間のある上部を狙って飛んでゆく。誤差だが、多少内部に入り込んで損害を与えられる…はず。
聖魔法と違ってあまり脅威とみなされていないのかスルスル近づいていく矢。たまに蔵和さんを筆頭とする聖魔法発射メンバーの邪魔をすべく降ってくるラフレシアが当たりかけるけれど、それは芯とアイリがフォローしてくれている。
…アイリには頼んでないけれど、やれることを考えてやってくれる方が、あの子達の成長を考えるといいだろう。それに、人手は多い方が良い。間違った判断ではない。ありがとう。アイリ。いい判断。
レイコは下の防衛に戻ってくれてる。下から来る攻撃の迎撃率は3割だけど、一人でかつ、直接見てないと言う事を考えると十分すぎる。
矢が十分接近すると、アイリが鎌を巨大化させて枝葉を切り払い通り道を拓く。開かれた道にひょいと矢と芯の弾丸が入り込む。
「弾丸よ、爆ぜて全てを凍てつかせよ!」
いつもの詠唱で弾は爆ぜ、辺りを凍らせる。駄目押しにアイリの鎌がさらに奥へ続く道を作る。ある程度矢が内部に入り込み…、
「『聖光』」
矢に巻き付いた紙をカレンが発動させる。少し奥まったところで炸裂したからか、光は見えない。…効いてるような気がするし、効いていないような気もする。
観察し…ようかと思ったけどするまでもないか。駄目だ。効いてない。まるで瘴気の気配が消えてない。多すぎて…とかの可能性もなくはない。ないが、ぴんぴんしてるからなぁ…。
聖魔法をぶち込めば、攻撃範囲より少し過剰に削れるだけなのも一緒か。…聖魔法を撃ちこんだところからは再生できない! …ってなら非常に楽なのだけど。
…どうするか。こうしている間にも家の中にいる子らとタクたちの魔力は削られている。
ジンデの時に使ったアレは強力だが…、今回は使えなそうか? 枝葉や根を捕まえたとしても、紙を貼るスペースがない。幹に貼るならいけそうだけど…、幹に貼るとするなら、この激しい攻撃を掻い潜って貼り、書かなければいけない。障壁があれば余裕で耐えられるけれど…、書いたところで無理そう。
「紙をペタっと貼り付けた部分を削ぎ落す」たったそれだけの動作でこの魔法は封じられてしまいそう。…使い方を考えればもっと大きいことが出来そうな予感はあるのだが、それが何かわからない。…仕方ない。
「とりあえず、周りをぐるっと回ってみる」
「何か違いがあるかもしれません」
正直、何もない気がする。それでも、このまま手をこまねいて何もしないよりははるかにマシだ。
「蔵和さん!あまり魔力を使いすぎるなよ!」
「肝心な時にガス欠はシャレになりませんから!」
「習!清水さん!それくらい列もわかってるさ!」
「k」
? 何で途中で言葉が止まっ…あぁ、なるほど。芯が蔵和さんの口をガっと抑えたのか。蔵和さんはコクコク頷いているから大丈夫そう。…何で止められたかはだいたい察せたが、スルーしておこう。
「習!清水さん!一周の終点を定める目印はいらないのかい?」
「終点がわからなくて何時までもグルグル…は光太がいれば楽しいですけれど、ずっとというのは流石にごめん被りますわよ?」
天上院さんが自然に惚気てくるのはいつもの事。流す。それより光太の話。確かに終点はわからなければ困る。今なら地面には敵から出てきて俺らに撃墜された枝葉やラフレシア擬きが落ちまくっているからすぐにわかる。
が、これらを片付けられてしまえば終点は分からなくなる。これを当てにするのは不味いか。こんなもの言ってしまえば荒れているだけ。荒れている部分を根で押しつぶされるだけで分からなくなる。
「四季」
「はい」
そっと紙を渡してくれる四季。…四季がいてくれるなら大丈夫か。無言…は駄目か。声をかけておこう。
「試すために少し燃やす!」
「安全マージンは確保しますから!」
「「「ふぁ!?」」」
返答は聞かない。「火を使うな」っていう前言と矛盾するから、説明が面倒だ。
「「『『火球』』」」
…やりやがった。そんな視線を感じる。
「なるほど。これくらいの火であればこいつらは消せるのか」
「のようですね。ジタバタするより土にもぐったり、周りの樹で火を圧殺しようとしたりするあたり中々賢そうですね」
四季の言うように賢そうなのは間違いない。もしくは人から入れ知恵でもされたか。どっちにしろ面倒だ。
「習!?お前何やってんの!?てか、清水さんまで何してるの!?いや、検証なのはわかるけど…、説明省くなよ!?」
このまま流れないかと思ったけれど無理か。…芯がまともな時点で全員の驚き度合いが察せる。
「こいつらが火を消せるかどうかの確認」
「だろうな!だが、いくら安全マージン作ったとは言っても火事舐めんな!」
ごもっとも。「確実」はありえないからな…。最悪、触媒魔法があるからいけるとは思うけど。やっぱ説明したほうが良かったか。
「芯!いつまでも喋ってる場合じゃないよ!?
「…光太の言う通りだな。回るぞ。あぁ、心配しなくても列には火は使わせねぇぞ。お前らは加減するが、列はなぁ…」
ありがとう。蔵和さんは被害の予想が出来ないからな。『大武』なんかで一般的にイメージされる砲弾なんか撃たれれば、一気に大炎上……ん? 炎上…? あぁ!
「燃やすか」
「…よいのでは?引っ込まれちゃうと面倒ですが、燃えているせいで変な行動をとる。それだけで目印になりそうです。」
火を完全に操れる…なんてことは言わないが、ある一定区画を一周に必要そうな時間燃やす。もしくは目印になりそうなくらい暴れさせる…というのならいけるはず。こいつの直径は目算で100 m。多めに見積もって一周15分。それくらいならいけそう。
…さっきこいつは火を消していた。だから、「火がついたままでいたい!」なんていう奇特な趣味はないはずだ。燃える範囲を限定してやれば、そこに繋がる可燃物は切断してポイするか引っ込めるはず。後は自然鎮火に任せるか、消火しようとする…はず。適度な燃料があればいけそうだが…、これは…うーん。考えてみたけどダメそう? 失敗すればシャレにならない。一応、消火できるように水は用意する…けど。
「適量の燃料ってどれくらいだろう?」
「さぁ…?というか失敗した場合、私達だけなら何とかなりますが…」
アルルアリ森林にいる西光寺達がどうなるかわからない。もしこの場にいるのが俺らだけで、他の子らの許可を貰えるなら実行するが…。この場にいない人を巻き込む可能性があるのは駄目に決まってる。だから全員に火気を禁じてるわけだし。
「やめとこうか。もしグルグル周回することになってもこいつの直径が100 mって推測はあまり外れてないはずだ」
「ですね。50 mも違うということはないでしょう。仮に200 mだとしても30分あれば確実に回り切れるはずです。それに幻術系列の魔法を使える。そんな雰囲気もありませんから…」
幻術が使えなくても、最大30分以上ぐるぐる回ることになる。これだけで15分っていうさっきの概算時間よりも長い。
やはり仕方ないか…。早く倒すって言う命題には矛盾するが、ここは冒険しない方が良い。
「ごめん。やっぱやめる」
「目印無しでクルクル回ります。30分もあれば一周できそうですから」
「一応、キャンプファイヤーして目印も作れるけど…やる?」
俺らだけで納得するのはあれだから聞いてみる。
「ヤメロ」
「やめとけ」
「ブレイン、ブレイン」
「止めて」
「嫌です」
「父ちゃんの言うようにやめた方が良いと思う」
「アタシも兄さまと同意見」
芯、順、蔵和さんに光太。天上院さんにガロウ、ミズキ。外にいる全員却下。なら、普通に回ろう。
『護爪』を制御して馬車ごと移動させる。それにつられて敵の攻撃も移動し、それを迎撃するこちらの攻撃もズレていく。目の前の樹の束擬きは目測だが直径100 mくらいはある。適宜、樹塊の上や根の部分、そして樹の束ではないところ。そして外側?の木にも聖魔法を撃ちこんでいく。
…にしても蔵和さん、さっきのはbrainの和訳「脳」から似た音の「のー」に派生させたのね。相変わらずわかりにくい。
30分くらいかけて見ていくならば、『護爪』の速度は落としても大丈夫。約30 m/minというゆっくりした速度でぐるり一周。
「習。清水さん。そろそろ30分経つけど、どうなの?」
「どこも同じ」
「ですね。何処かが極端に聖魔法に弱い…とかは無さそうです」
「ただ、目の前の奴がこの森の急所ってのはほぼ間違いないね」
その急所を何とかする方法が現状ないのだけど。コアとかあれば倒しやすいんだけど…。
「そうなの?案外、アタシ達がこっちにいるから、この樹の塊というか、樹の束というか…、えっと…、あぁ、もう面倒ね!樹塊で良いわ!」
ミズキ。呼び方は別になんでもいいよ。さっき樹塊って言っちゃったから、困ってるんだろうけれど…、樹塊の本体はアレなのだし。
「兎も角!あの樹塊はアタシらがこっちにいるから、弱点を向こう側に隠してる…とかない?」
可能性はある。あるけれど…。
「確かめる術がないのですよね…」
全周を確認する目の役目はミズキが担ってくれるのだろう。そもそも、そのつもりで案を出してくれてる。だが、その場合、ミズキを守る障壁はセンとルナではなくなる。強度が足りない。それにたぶん足場…、『護爪』の数も足りない。地面に直接立とうものなら根に貫かれる。
…浮く足場が作れれば足場は問題じゃなくなる。が、たぶん作れない。よしんば作れたとしてもやっぱり強度が足りない。
「ですが、一度試してみましょう」
「だね…」
作れないと思っていれば浮く足場なんて作れない。昔より強くなってるし、色んなものも見た。試す。
さて、どうやって浮かせよう? 火を噴くとか、風を送るとかなら浮けそうだけれど…、安定しないだろう。ガロウの『輸爪』とか『護爪』みたいなのが良い。普通に浮くもの…か。あぁ、そう言えば。超有名配管工のゲームなら普通にレンガブロックとか浮いてたな。それにリンヴィ様やリンパスさんも浮いてる、
…うん。浮くのは何とかなりそう。…魔法を使った後、微動だにしないものになりそうだけど。
となると次に要るのは強度。ただの岩ではダメ。もっと硬いモノ…。硬いといえばこの世界では『シャリミネ』だが、どう考えても一枚で魔力をえぐいぐらい持って行かれる気しかしない。…これは下手に材質変えるより魔力量で無理やり強度上げたほうが楽か。
『浮岩』…っと。「うきいわ」と読もうが「ふがん」と読もうが別の意味があった気がするけれど、ここは無視。紙を障壁外へ投げ捨て…、
「「『『浮岩』』」」
丁度いいところで発動。2 mくらいの高さに人一人が乗れるサイズの浮く岩が出来た。のだが…駄目か? あぁ、うん。駄目だ。ある程度子供達が防御してくれているのに、ガリガリ削られてる。表面を貫き通すにはまだ火力が足りてないようだが…。
あ。今、薄くなった部分を根に貫通された。…てか、全周囲まないと意味ないから、見えないじゃん。ま、それは透明にすれば解決する。でも、
「うん。駄目だな」
「ですね」
「何でよ!?アタシがいれば…」
ミズキがいても。駄目なんだよね。
「ぐるっと一周するってことは、俺らが近くにいないってこと」
「今でさえこれなのに、ミズキちゃん一人では悪いですけれど、確実にグサーされますよ」
『浮岩』は1分ぐらいで一部貫通された。もしミズキだけ…ってなるとたぶん30秒もてばいいほう。下手したら20秒で一枚破られる。この樹塊の周囲を一周するのに急いでも10分はかかる。到底持ちこたえられない。
…岩壁を二重にして、壁の間に火を敷き詰める…とか出来ないこともないだろうけれど、たぶん一周する間に蒸し焼きになって死ぬ。もしくは、壁が貫かれて大火災。
「速度が問題ならセンを使うのはどうなのよ?センなら早いから多分持つわよ」
セン…ね。確かにセンは早いから3分くらいあれば余裕で一周できるはず。ただ魔力消費が…ってわけでもないか。
家に馬車を収納。家をキーホルダーサイズにまで小さくする。ミズキは一人でも馬に乗れるから、家を持ったままセンに一人乗ってもらってぐるっと一周。その間、俺らは魔力タンク…であればいける?
同じ紙ばかり出していると魔力消費がガンガン増えるけど…、それは別言語使えば何とかなるか? 貰っている言語チートが使えれば何とかなるな。スペイン語とかロシア語とか知らないが…。あぁ、書けそうだ。
「出来る。出来るよ!ミズキ!」
「ですね、出来そうですよ!そのための準備をしましょう。ガロウ君、馬車を家に収納するのでもう一枚、爪を。あ。後、馬車の上にいる人は今のうちに降りてください」
俺が四季から紙を貰い、書く間に皆が家の中に移動する。スペイン語で『岩壁』…は『Pared de roca』っと。使えるか?
ポイっと投げて発動。…うん。いけた。何も問題ない。面倒くさいから「透明な」とか付けてないけれど、ちゃんと透明で、かつミズキをある程度は守れる壁になってる。心なしかいつもの壁より頑丈な気がするが…気がするだけだな。
家の上に誰もいなくなったからルナに家を小さくしてもらう。そして、ガロウに爪を出してもらい足場を確保。新しくできた爪の上に家を移動させて巨大化。家の前面全てが戸とかいう独創的な家が出来た。…今は作業中。こうしてる間も障壁は殴られているのだから、素早くセンに馬車を家へ入れてもらう。
さて、馬具を外している間に俺は紙を量産しよう。ロシア、イタリア、ポルトガル、ブルガリア、スウェーデン…、欧州の国は勿論、トルコ、アラビア、アルメニア、ペルシャ、メキシコ、アラビア、ヘブライ…。思いつく限り枚数を増やす。
ちっ、迎撃が薄くなったから障壁が殴られやすくなってる。今のところ誰も魔力消費が大きいせいできつい。というのはなさそうだが…、急ごう。
書いている感じ、言語を変えて誤魔化しているけれど流石に枚数が多いからか、魔力消費量は増えてしまっている気がしなくもない。だが、こいつらの消費魔力量は全体の二割も行かない程度。問題ないわけではないけれど打開策になりうるなら試す価値はある。
…ミズキの人数が足りるか? 今、最大動員できるのは20人…、まぁ、何とかなりそうか。そのために必要な紙の量は…、一人5枚って考えて、100枚あればいいか。最初の子らに配る紙を多めに後の子らは少なめにするけど。
後…、思いつく言語が100もあるか少し心配だな。たぶんいけるはずだけど。…世界には190ぐらいの国があるし、国名+語で何とかなるはず。…インド語とかアメリカ語なんてないけど。
………よし、書けた。
「ミズキ、俺らも魔力タンクになるから家の中にいるよ」
「待って!壁を貰えても、増えたアタシに紙を渡す足場がないわよ!?後、着地狩りされちゃう!」
あ。忘れてた。
「ガロウ。『輸爪』頂戴」
「着地狩り対策は…、私達がいるのが一番早いですか」
おそらくね。その役目は光太達でもミズキは嫌がらないだろうし、逆もまた然りだろう。でも、全員の顔を見る限り、ミズキは俺らの方が良いって思ってるっぽいし、光太達も「子供なんだから二人がそばのがいい」って思ってるっぽい。そして、万一、紙が足りなくなったら補給できるのは俺らだけ。俺らがいるのが最適だな。
ガロウの出してくれた爪をセンに結び付け、俺がセンにまたがり、その後ろに四季。さらにその後ろにミズキ。安定感は大丈夫。そして後ろのミズキが爪の上にミズキを増やしていく。
「ルナ。俺らが完全に家を出たら家を小さくして」
「うにゅ」
ルナがコクっと頷くのを見届けてから、センが歩く。家から爪が完全に出てから戸を閉めれば、言ったように家を小さくしてくれた。爪を操作して家を拾いあげて…。
「行くよ。ミズキ!セン!」
「準備はいいですか!?」
「勿論!」
「ブルッ!」
気合十分。であれば、出発だ。待つのは魔力と時間の無駄。
「セン!行って!」
「ブルッ!」
トンっと爪から飛び降りるセン。その後ろでミズキが爪から飛び降り、貫かれる前に間一髪魔法を発動させる。
危なかった。少し油断してた。着地狩り対策は障壁がさっきまでいたから少し後でもいいかと思っていたが…、飛んだ瞬間から身構えとかなきゃダメだな。
反省している間に2人目のミズキが飛び降りる。同時に進路に、後方に魔法をばら撒く。進路方向の魔法は出来るだけ障壁の圧を減らすため。後方の魔法はミズキの着地狩りを防ぐため。悪路ってレベルじゃないところを爆走しているから揺れは酷いが…、この程度問題ない。
3, 4, 5とミズキが飛び降りていく。センの速度は変わらず一定。樹塊から受ける圧も変わらず一定。変わるのは爪の上にいるミズキの数と、飛び降りるミズキの持つ紙の数だけ。
「いくわ!」
今ので10人目。
「ミズキ!まだ大丈夫か!?」
「うん!最初のアタシの壁は既に2枚貫通されてるけど…、もともと8枚あったんだし、1枚目より2枚目の方が、中にある分外側が邪魔で時間かかるから大丈夫…って、待って!5枚目のアタシのそばに何か…、人? …間違いないわ! 人よ! 人が来た!」
!? まさか、西光寺達か!?
「緑の謎の物体に乗ってるけど…、複数人いるわ!髪は黒ばっかりよ!それに白髪の人もいるわ!たぶん父さまの記憶にある西光寺姉弟だと思うわ!」
「ミズキ!ミズキの目から見てそいつらは信用できるか!?」
駆け寄りたいが、西光寺達も敵の手に落ちていたら最悪だ。
「出来るわ!」
よっし! なら合流しても大丈夫!
「一周は切り上げ!」
「合流します!」
俺らが叫べば家の中のミズキが全員に伝えてくれる。が、同意を得る前にセンを反転させる。
ミズキが家の中にいる全員の同意を伝えてくれるのを聞きながら、四季と一緒にミズキに絡んでいる枝葉を吹き飛ばす。元は自分の魔法。壁はすぐに消せる。籠っていたミズキを回収してセンの上のミズキに合体させる。
合体させていけば…見えた!
「西光寺!」
「習!に…、」
「清水嬢!」
目も耳も目の前にいるやつらは本物の西光寺達だと訴えてきている。よし! 合流できた! 全員揃っていればぶっ放せる! 揃っていなくても回収に行ける! 盤面が進んだ。次で詰ませられる。