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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
8章 再人間領域
253/306

223話 樹塊

 アルルアリ森林全域が敵の可能性がある。そして、森林の中に西光寺達がいる可能性がある。…であれば、彼らが被害を受けないように素早く倒さないといけない。でも、安全を疎かにしちゃいけない。



 …攻撃して道を切り開く者と、ルナのシャイツァーの障壁を支える者。その二つを上手く分けるべきか。



 とりあえず四季に戻ってきて欲しいけど…、



「戻りました」


 ナイス四季! 戻ってきて欲しいと思った時に戻って来てくれた。



「ルナちゃんは既にアイリちゃんやレイコちゃんが止めてくれてました。そして、中にいるミズキちゃんから状況は聞いてます」


 了解。



「おそらく、習君も役割分担しようと考えてますよね?私も同じ考えです。樹の攻撃が五月蠅すぎるので手早く行きましょう」


 だね。まず確定させられるのは近距離専門。その人たちは中。ガロウに『輸爪』を頼めば足場は増えるとはいえ、ちょっと不安定過ぎて振り落とされる可能性が高い。だから、



「ルナ、コウキ、謙三は確定で中か」

「ですね。全員、近距離戦闘が得意ですから」


 唯一、ルナだけは反撃が光線だから遠距離と言えないこともないが…、森林火災になるから禁止。



「久我達は銃火器だから外。タクは…中か?」


 あいつのシャイツァーは双剣で、火魔法使いだったはず。魔法使うと火事不可避で、使わないとリーチがなさすぎる。



「望月君と雫さんは…、一応外で良いですかね?」


 だね。たぶん遠距離攻撃出来るし。それに西光寺達に会った場合、俺らが出るよりも魔王討伐班のリーダーである光太が出る方が、対応が早くできるはず。



「名前の出てないうちの子らはどうする?」

「外の人数が既に私達含め7人いますからね…。ガロウ君だけ外に出して、後は中にいてもらいますか?」


 やっぱりそうなるよね。ガロウは万一、『輸爪』を消されたときのフォローとして外。それ以外の子らは人数オーバー。中にいてもらおう。



 今まで名前の出てない子の内、アイリだけは視線が通らないから『死神の鎌』があってもちょっと活躍はきついけど…、仕方なし。



 アイリには中のまとめを任せよう。家の中のメンバーを一番知ってるのはアイリだ。それに、タクと謙三はアイリとロクに接点がないが…、この二人なら俺らの娘を邪険にはしないだろう。



 カレンは家の中からでもちゃんと弓を撃てたはずだから戦力になる。レイコには『|蒼凍紅焼拓《ガルミーア=アディシュ》』を適当に撃って凍らせてもらう。狙いは適当でいい。俺らへの誤射の恐れが魔法の性質上ないからな。



 ミズキは勝手に増えて動くから外とか中とか関係ない。



「ミズキ。芯達と光太、天上院さん。それとガロウを呼んで。それ以外は中で待機。基本、魔力タンク!アイリは中のまとめをお願い!」

「カレンちゃんは矢で援護!ついでにレイコちゃんの目になってあげてください!火気厳禁でお願いします!」


 これで中はいいはず。



「習。来たよ」

「我らはどうすればいい?」

「進路上の木々を吹き飛ばしてください!」

「進路はあっち!瘴気が固まってる!」


 四季の言葉に引き続き、俺が指さす。



「ほいほいー」「受諾した」「海!海!」


 …承諾してくれるのはいいが、統一感が死滅してるな。順は軽いし、芯は堅い。蔵和さんの言葉は翻訳難度がエグイ。海→領海→了解。何だこれ。



「ガロウ君は攻撃よりも私達の防御に気を配っていてください。万一、『輸爪』が抜かれた際、すぐに補助に入れるように!」

「了解!とりあえずセンと馬車の足場を二枚にしとく!」


 お願い。



「僕と雫は?」

「遠距離攻撃出来るでしょ?芯らと同じく進路を阻むモノを薙いで」

「万一、西光寺君達と会えればその際は丸投げしますので、よろしくです」

「ちょっ…」


 不満は聞かない。頑張れ、魔王討伐班のリーダー。



「父ちゃん、母ちゃん、ちょっと高度下げたほうが良くない?」

「「やっぱり?下げて(下げてください)」」


 そんな気はしてたけど、どこまでやるべきかわかんなくて足踏みしてたんだよね。



 少し高度を下げると木々の頂点から少しだけ離れたからか圧力がマシになる。今の高さは3 mくらいになったか? けど、木の頂点まで10やら20 mぐらいしかないからあんまり変わらないかもしれない? …いや、それでも一応マシになってるか。



 …その代わり上にある枝葉量が相対的に増えて光が届きにくくなったが。このままだと真っ暗になるか? まったく、密度が高すぎる。真っ暗はごめんだ。



 紙を一枚、御者台の上に投げる。そして、発動。



「「『『明かり』』」」


 馬車を中心に周囲が明るく照らし出された。たぶん1時間はもつ。



 …見やすくなったのはいいけれど、何で木が集まってるだけなのに気持ち悪いように見えるんだ? …あ。木の色合いと模様が微妙にミミズに似てるのか。



「ちょ!?芯!列を!」

「わかってる!目がヤバい!列!頼むから燃やすのだけは止めろよ!」

「アッシュ!アッシュ!」


 Ash(アッシュ)は和訳すれば「灰」だ。そこから同音の「了承」を伝える「はい」に派生したか。まだわかりやすい。ただ、目下の問題は…ちゃんとやってくれるかどうか。



 唐突にズガガッ! という音が響く。…燃えませんように。



 ズガガガッ!



 また響く。…だけど、森が燃えている様子はない。セーフ。



 安心している横でまた飛んで行く。撃ちだされたのはおそらくただの鉄球。…別に変な使い方ではない。…弾が爆発するようになったのは火薬が安定するようになってからだし、それより前の使い方とすれば普通だ。



「なぁ、父ちゃん。母ちゃん。あの兵器ってさ、撃つときに音しないの?」


 ? …あぁ。そういえば音がしてないな。大砲は撃ち出すときに火薬を使うはず。なのに爆裂音がしてない。確かに謎。



「あぁ、それ?それは砲声が五月蠅すぎるからこっちに来ないようにしてだけだよ。俺の機関銃も同じことが出来る。唯一、芯だけそんな機能ないが…」

「『無音の狩人(かりゅうど)』を使えばよい」

「『無音の狩人(かりゅうど)』…?」


 ガロウがこてっと首を傾げてる。通じてないじゃん、芯。翻訳させるのは止めろ。



「消音できる何かがあるらしいよ」

「ほぇー」


 露骨に「あ。そんだけなのね」みたいな顔するのね。ガロウ。…うん。すまない。名前負けしてる名前をよく付ける。芯はこういうやつなんだ。



 俺らも加わろう。たぶん真正面の火力は足りる。だから、わずかに不足するであろうその外周部の火力を…!



「「『『ウインドカッター』』」」


 スパッと風の刃が枝葉を切断。抵抗なくガンガン進んでいくが、しばらくすると消え去った。…うん。やっぱり四季と一緒の方が威力出るね。…まさかとは思うけど、気分的にも四季が一緒の方が嬉しいから威力が上がってるとか……、ないとは言い切れないな。



「仲間だけに任せておけねぇ!ひゃっはー!俺も撃つぜぇ!俺のマシンガンがコンスタントにファイヤーするぜぇぇ!」

「えっと、” constant”が「継続」で、」

「” fire”が「発射」ですね」


 すまない。ガロウ。テンション上がるとなぜか片言の英語を使いたがる。順はそんな奴なんだ。



「父さま、母さま、文法おかしいわよね…?” constant”は名詞か形容詞よね?「継続()発射」って何よ?」

「気にしたら負けだよ」

「確かにあの場合は副詞である”constantly”、すなわち「継続的に」を用いる方が正しいと思いますけど…」


 順がそんなこと気にするわけがない。それに日本語に中途半端に英語をぶち込んでいるんだ。気にするだけ無駄って感じもある。



「我も行こう」


 芯がツッコミ放棄しやがった。まぁ、いい。俺らも魔法で援g…って、要らなさそうだな?



 あれ? 蔵和さんも芯も順も。武器は火器。火災の可能性があるから、爆発禁止。そうである以上、点制圧しかできないから、めっちゃ大変だと思ったんだけど…。



 …あぁ。弾を大きくした上、風を纏わせて解決してるのか。弾を大きくして制圧面積を単純に拡大。弾を中心にした風で枝葉をねじ切ることでさらに面積拡大…ね。それでも足りない分は連射で補ってるのか。



 …マシンガンは弾を撃ちまくることで「面制圧!」をする武器だからいいけれど、弾が爆発しない大砲とスナイパーライフルの使い方としては根本的に変な気がする。普通の火器なら焼きつくぞ…。



 そもそも、弾が爆発しようがしまいが、面制圧するならソ連みたいにいっぱい揃えて投射量増やしてやるはずだけど。まぁ、いいか。シャイツァーだし、細かいことを気にしてはいけないだろう。



 …気にすると俺らが一番気にしないといけないし。ペンとかファイルとか、家は武器じゃない。



 兎も角、いい方向に予想外れなことに進行方向の木々の排除は十分だ。であるならば、



「光太!天上院さん!二人で馬車後方の対処お願い!」

「ミズキちゃん!中のアイリちゃん達に下の排除を頼んで!」


 そして俺らで上の対応をする。前後、上下。どの方向をとっても攻撃を完全に防ぐことは不可能。だけれども、障壁の負荷を少しは減らす!



 それに必要な最適な魔法は四季から紙を貰って作ろう。…幸い、何故か馬車の真上からだけは攻撃が来ないし。



 字を書き始めると同時、ミズキの言葉が伝わったのかアイリの鎌、カレンの矢そして、レイコの敵を凍てつかせる球が家の中から射出された。



 家の中からはカレンを除いて、外の様子なんて完全に見えていない。けれども、馬車の下なんて位置は、外にいようが中にいようが見にくい。だからそんなに変わらない。



 馬車下での暴れっぷりを見る限り…、戦果的には…6割か? すべて防ぎきるのは土台無理な話。でも、あの子らもその中で最大限やってくれてる。



 アイリは2本鎌を動員。2本とも大きくして『死神の鎌』で操っている。たまに枝葉に絡めとられているけれど、鎌を小さくして即脱出。馬車内だから見えてないはずだけど…、カレンが補助してくれてるのだろう。



 そのカレンは矢を大きく…するよりも、丁度枝葉を切断できる太さの矢を増やすことで制圧面積を増やすことにしたみたい。…下手に大きくしても速度下がったりして扱いにくいしね。捕まった矢は孤立していれば見切りをつけて放棄。助けれそうな場合だけ助ける。そうやって手際よく片付けている。



 レイコは魔法を我武者羅に撃ってる。小さすぎると当たらない。大きすぎると無駄になるかもしれない。そんな矛盾を抱えながらもサイズ調整を上手くやってる。やけに命中率が高いからカレンときっちり連携できてるっぽい。…ん? もしそうなら、カレンの負担デカすぎないか? となると、アイリの方もだけど…、馬車下の制圧戦の指揮にはミズキも加わってるのかね。



 馬車の後方では光太と天上院さんが枝葉を捌いている。二人とも使っているのは聖なる光。光太は剣から、天上院さんは杖からという違いはあるけれども…、どちらも等しく枝葉を無力化している。



 …光だと火とかと同じく燃えるかも? という懸念があったが、燃えていないな。…むぅ。どうも「焼き切っている」というよりは「枝葉が嫌がってる」という感じだ。枝葉を通じて当たってないところまで浄化されたくない。そんな意思を感じる。



 それを象徴するかのように当たったところは妙に萎びていて、そして切断箇所は萎びたところよりも少し手前。…一度、試してみようか。



「「『『聖光線』』」」


 聖なる光を一直線に木の幹目がけて発射。進路上の枝葉をしなっとさせて、狙い違わず命中。そして、命中した場所の少し下が勝手に砕け、木がへし折れた。



 なるほど。だが、俺と四季も動かないとまずいか。上方向の迎撃が一切ないからか、静かだった馬車直上が蠢き始めている。この敵…樹塊(じゅかい)でいいか。こいつら、何で直上で蠢いているのだろう。バレないとでも思ってるのか?



 …理由は何でも構わないが。馬車の上の枝葉はきちんと吹き飛ばさなければならない。そうでなければ、上から降ってきて障壁に当たる。一回一回は大したことがないかもしれないが、積み重なると面倒だ。だから、書き上げたばかりの魔法を撃つ。



 触媒魔法でもなく、字を(かたど)った紙でもない、いつもの紙。だから光太達のを見た後でも十分書き上げられる。



「「『『聖岩弾』』」」


 紙に魔力を少し多めに込め、聖魔法を纏った巨大な岩を高速で射出。突然の攻撃に真上の木々は回避も出来ずに直撃。岩に付随する聖魔法が抵抗も許さずに木々を萎びさせ、中身の岩弾で粉みじんに粉砕しながら馬車上空から弾き飛ばしながら、ある程度まで進んだのち、跡形もなく消えた。



 岩が通った後にぽっかり穴が空いている。…何故回避出来ないのにそんなことをしていたのか。…あぁ。すぐに蠢きだした。穴を埋めて…こない。そのままこちらに来る。



 …回避出来ずに消し飛ばされているのはちょっと間抜けに思える。が、細々とした枝葉の攻撃に戻ったのは評価できる。こっちの方が対応しにくい。



 だが、聖魔法が効くならば『ウインドカッター』を単純にぶっぱするより対応量は増やせる。



「「『『聖岩弾』』」」


 使う魔法は先と同じ。でも、効果が違う。小さな聖魔法を纏った弾を無数に射出する。枝葉を萎びさせるだけならば聖弾で十分。だが、吹き飛ばせない。だから、岩という実体を持たせる。岩という実体があれば、弾の勢いで障壁に命中する範囲からはじき出せる!



 …あ。



「そういえばミズキ。ミズキの魔法で木を操ったりできない?」

「無理よ。たぶん父さまも母さまも、アタシが木兵を作れるから、植物を操れないか?って思ったのでしょうけど」


 …そっか。無理か。了解。…なぜか思い至った理由を看破されてるけど。



「そうよ。悪いけど無理よ。あれはああいうものなのよ。アタシの魔力からアタシに従う忠実な木兵を作る…その程度よ。それよりも、アタシの出番がないわ!新しくアタシを作っても即死させられちゃうし、木兵なんてもっと雑魚だから即粉砕!よ?流石に魔力の無駄よ…。火をつけて良いなら『火球』とか『炎』とかをあたりにばら撒きながら走ることぐらいは出来るのだけど」


 アイリ達のサポートしてくれてる…ってのは慰めにならないな。ならないから、こんなエッグい魔法の使用例を挙げてきたのだろうし。



 どう考えても「魔法を使って走り回る」のは増えたミズキで、木兵じゃない。なのに火を付けながら走り回る…ってそれ、自爆特攻とほぼ変わらないぞ? …運が良ければ、焼死しないだろうけれど、どう考えても焼死の目算の方が高い。



 …焼けないからこそ面倒なことになっているのだけど、焼けなくてよかったと少し思ってしまう。…まぁ、焼くなら焼くで、四季が作った『火』の紙に、俺が字を書けば一発だと思うけど。



「アタシに出来るのは風魔法を撃つことだけよ。一応、アタシなら落ちても問題ないから馬車から顔出して、馬車下をサポートしてるわ。増やしたアタシ全員を出しちゃうと邪魔だから、外にはアタシしかいないけど…、中には20人いるわ」


 なるほど、現有する魔力量はミズキ一人一人で独立してる。その性質を利用してるのね。ミズキを増やして家の中に放置。こうすれば自然回復で魔力量が増える…のか? 何となく、ミズキを増やす分の魔力消費の方が大きそうだけど…。



「アタシを増やすのにはあんまり魔力要らないから大丈夫よ。最悪、アタシ達が同時に激マズの回復薬を飲めばいい話だし…」


 人数が多いから俺らが飲むより損害が大きそうだな…。不味くて死にはしないと思うけど、って、不味すぎて咽て気管に詰めちゃうと可能性はあるのか。…頼むから全滅だけはしないでね。ミズキにとって、ミズキの死が軽いモノであっても、「全滅 = ミズキという存在の死」という図式は成立するんだから。



「わかってるわ。それくらい。安心して。…でも、父さまと母さまの顔を見てると、やるのが怖くなるわね…」


 俺らと違ってそんなに魔力量はないはずだから…、きっと、たぶんそこまで不味くはない…かもしれない。



「二人の顔見てうわぁ…ってなるわ…」


 諦めて。アイリが頑張って作ってくれたんだから。飲め()するよ。毒じゃないし。



「もしも、頑張って作ってくれたものが有害なら?」

「「拒否する(します)」」


 例え作ってくれたのが四季でも、拒否する。毒物は毒物でしかない。



「習!清水さん!進路はこのままか!?」


 え? …瘴気の固まってる場所は変わってない。



「あぁ!このままだ!」

「このまままっすぐ行けば瘴気の集積点があります!」

「距離は!?」


 距離!? 距離は……、!?



「「かなり近い(近いです)!」」


 叫んだ瞬間、ぬるりと巨大なラフレシアのような花がこちらを向いて立ちはだかる。が、間髪入れずに蔵和さんの大砲が火を噴き、命中。したが…、



「跳ね返されたぁ!?」


 ガロウの言うように砲弾がポフッと受け止められ、勢いそのままに反射してくる。



「慌てるな」

「はっは!俺らに打ち破れぬモノなし!」


 砲弾を順が大言壮語と共に滅多打ち、岩の速度を奪う。そうして出来た時間を使い、芯が未使用の薬莢を排出。ガチャリ装填しなおして、すぐさま狙いを定め、流れるような動きの勢いのまま、



「『破撃(はげき)』」


 らしくない割とまともな名前をぼそり呟き、引き金を引く。撃ちだされた弾丸は正確無比に砲弾中央に命中。弾丸は砲弾を貫き通し、衝撃で砲弾が砕け散って、進路外へ落ちる。



「『大武(おおぶ)』」


 割れた砲弾に目もくれず、蔵和さんが大砲を変形させる。あの形は…三連装砲か?



「来たぁ!姫の十八番!46 cm三連装砲!」


 三連装砲が十八番? それに大武(おおぶ)……、あぁ! 大和型戦艦の艦載砲か! なるほど。それなら十八番だ。初対面の蔵和さんの名乗りは基本「戦艦、戦艦」だ。…武蔵と大和の後ろを引っ付ければ、苗字になるよ! っていうトチ狂った十八番だけど。



「『聖弾』装填」


 芯に引き続き珍しくまともな、妙に通る蔵和さんの声が響く。シンと一瞬だけ辺りが静まり返り、



「『斉射』」


 一瞬の静寂を淡々とした蔵和さんの声が破る。こちらに一切砲声を届かせないよう配慮された砲は、一瞬たりともズレることなく火を噴いて巨大なラフレシアを吹き飛ばした。放たれた砲弾は花を吹き飛ばしてなお勢いを失わずに突き進み、瘴気の塊が存在しているであろう場所まで突き破る。



「「『『風』』」」


 風で砲が出した煙をどける。何もしなくてもすぐになくなるだろうけれど、今は向こうが見たい。…ん?



「何だ…あれ?」


 誰ともなく呟かれた声。声の主はもしかしたら俺だったのかもしれない。けれど、俺はその声に同意したい。



 目の前にあるのは木の集合体。普通、どんな森であっても多少の間隔をあけておかねば生育できないはずの木々。それが一切の隙間なく、所狭しと詰め込まれているのが眼前の物体。



 そんなものが明確な敵意をこちらに叩きつけてきている。

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