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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
1章 バシェル出国とフーライナ
25/306

閑話 出立 (タク)前

題名通りタク視点です。

 習達が出発して、すぐに、西光寺達や習達に都合のいいように骨を折った。がんばった。俺。



 何をしたかというと、俺たちとかち合うことのないように討伐組全員の王城での強制待機。これを勝ち取った。



 これでリーダー不在でばったり出会って言い争い。という最悪なパターンは避けられるだろう。



 この工作は望月光太もちづきこうた天上院雫てんじょういんしずくさんにも手伝ってもらえた。二人とも少なくとも、西光寺姉弟とは面識あったしな。何故か、習のことも知ってたみたいだが…。まぁ、いいだろう。



 そういうわけで、強制待機。少なくとも3日はな。名目は「異世界のことを知ろう!」だ。図書館で勉強するもよし、シャイツァーの性能をさぐるもよし、実際に模擬戦してみるのもよしだ。



 とりあえず俺は昼食を食べて、訓練場に行こう。シャイツァーのこともっと知っておきたいし。王様たちも快く貸してくれたが…。



 よく考えなくとも、西光寺達も習達も、こういう場がない。だから食事も粗末になるんだよな…。



 ん?訓練場には先客が。



「やあ、矢野君。おはよう」

「矢野さんおはようですわ」

「おはよう。望月君と天上院さん」

「敬語はいいよ。面倒だから。そもそも昨日話したじゃん」

「わたくしも結構ですわ」

「そう、わかった。俺もいらないぞ、呼び方もタクでいい」

「そうかい。わかったよ、タク君」


 君づけはとれないのな。



「わたくしは、そういうわけにはまいりませんわ。家の名前がかかってますので…」

「そうなのか。じゃあ仕方ないな。俺もさんづけはとらないことにしとく」

「まぁ、意地悪ですのね…。わたくしが名家の出だからですか?」

「も、は意地悪だった。すまん。単に女性を呼び捨てにするのが嫌なだけだ」


 これはまごうことなき本音。呼び捨てにできるのはたぶん、彼女か嫁ぐらい。今までいたことないけど。一応、これで天上院さんも納得してくれた。



 会話の後、二人と色々試してみることにした。



 望月のシャイツァーは聖剣。簡単に言ってしまうと、光魔法を使える剣。天上院さんのは、聖杖。こちらも簡単に言ってしまうと光魔法を使える杖。



 どちらも呪い等を聖水なしで解呪できる珍しいものらしい。



 俺のは双刀。火魔法を使える。どれもこれも魔法の行使には詠唱が必要だ。

 

 

 物によるが魔法の行使に、特に何も要求されないものやパズルを解かないといけないもの等もあるらしい。



 俺は詠唱が全く苦にならないが…。望月と天上院さんは、辛そうだ。主に詠唱が。



 詠唱は自作する必要があるからな…。厨二っぽいほうが威力は高い。…気がする。



 その後、3人で騎士と模擬戦だ。素人同士でやってもそんなに意味はないからな。すっげぇ疲れた。しばらく戦うと、何か連絡があって騎士はさっさと立ち去ってしまった。



 訓練場で3人。疲れて座っていると、ルキィ様がかけていくのが見えた。



「ルキィ様!」

「あ、探しましたよ!お二人は…。問題なさそうですね。ついてきてください」


 とだけ言うと、せっせと進んでしまう。なんだ?3人で首をすくめ、よくわからないなりに迷わないようについてゆく。



 ある部屋に入ると、ルキィ様は扉も窓もカーテンも閉め、魔法で明かりをつけた。



「適当におかけになってください」


 適当って…。とりあえず、皆で高そうなカーペットの上に座る。正座である。



「普通ソファに座りません?」


 確かに。でも、言われてなかったしな…。いそいそ座りなおす。



「では、3人にお伝えしますね。先ほど、暗殺者が戻ってきたようです」

「へえ…」

「ふーん」

「そうですの」

「あれ?皆さん反応がいまいちですね」

「ルキィ様の顔を見ればわかります。クラスメイトは全員無事なんですよね?」

「ええ、そうです」


 少しだけ恥ずかしそうに言うルキィ様。



「ところで、怒らないんですか?」


 ?何が…なのでしょう?



「何を、です?」

「暗殺者のことを、です」

「それは…」

「僕としましては、王女様に怒ってもどうしようもないということはわかってますし…」

「それに、ですわ。戻ってきた暗殺者が西光寺さん達を襲ったのであれ、森野さん達を襲ったのであれ、すでに報復は受けているでしょう?」


 うわ。習の性格バレてる…。習は確実に報復する。そのときに本人が最も効果的だと判断した、許される範囲内で。西光寺姉弟も確実にする。ベクトルは違うけど。



「そうですか…。ありがとうございます。戻ってきたのは、西光寺様のほうですね。一人を除いて全滅。その一人は、城の中で発狂。最後には私の大嫌いな奴に向かって…。あ、思い出すと気分悪いので省略します」


 内臓だばぁとか、目の前で破裂とかかね。西光寺姉弟ならやる。



 あいつらはお互いが大好きだからな。姉も弟も事故の影響で、無意識のうちに互いを失いたくないと思っている。そんな風に見えるし。



「で、ルキィ様。要件はそれだけじゃないでしょう?」

「ああ、そうなんですけど…。非常に言いにくいのですが…。今、討伐組、自由行動中じゃないですか」

「はい。そうですね」


 代表して俺が答える。



「それでですね…。さらに何班かに分けて治安維持にでも出てもらおう!という意見が採用されたんですよ…」

「マジですか」

「マジです」


 せっかく会わないようにお膳立てしたのに…。



「どうするんだい?タク君」

「どうもこうも…。とりあえず、北は俺がなんとしても抑える」

「了解。僕らもそうしようかな?たぶん、討伐組の中じゃ一番強いし」

「そうですわね。となると…、ちょうどいいかしら?」

「クラスが確か…32人で。2人抜けて、30。ちょうど半々に分けたから…15。方角当たり、3人か4人。ほんとだな。頼まれてくれるか?」

「もちろん」

「もちろんですわ」

「ありがとう。ルキィ様。ということでよろしくお願いします」

「わかりました。わたくしも北に向かう予定があるので護衛お願いします」


 ルキィ様、色々謀ったな。そう思える笑みいたずらっぽい笑い方。そのほうが俺にとってもうれしいけど…。







_____


 というわけで、さらに2日を今日のように過ごし、その次の日は出発準備。そして、召喚4日目の今日、フーライナ西部にある『リヴィレスト』に向けて出発した。



 ルキィ様も一緒だ。曰く。



「勇者召喚しちゃいましたからね…。侵略の意思はないという説明です。勇者様方は強いので…」


 とのこと。外交は面倒くさい。



 馬車に揺られること、半日。異変が起こった。



「ん?変だな」


 俺の前の馬車…。どうも違和感が…。



「矢野様どうしました?」

「いえ、前の馬車に違和感があるんですよ…」

「違和感…?ああ、確かにありますね」

「ああ、本当だね。何かが変だ」

「ですわね。何でしょう…。どこかであれを見た気がするのですけれど…」

「ああ、オーラだけじゃないわ。馬車の格がおかしいんだ」


 この馬車よりワンランク下ぐらいとか何考えてるんだこいつら。俺の言葉にルキィ様が頭を抱える。



「あれ…。たぶん、暗殺集団です…。道理で変な気がしたのですね。ところで、どうしてお気づきに?」

「え?ああ、気づいたのは、習が怒っているときに放つオーラに似たものがあったからですね。あいつらかなり気が立っているんでしょう」

「ああ」

「なるほどですわ」


 頷く二人。



「ちょっと待ってください。お二人とも森野様と面識ないのですよね?」

「はい。しかし、タク君から清水さんと森野君が似てると聞いていますから…」

「間近で清水さんのあれを見たことのあるわたくしと光太ですもの。納得するのも道理というものですわ」

「それでも、タク君はすごいね。付き合いの差かなぁ…」

「知らねぇよ」


 俺だって、やりたくてやってるんじゃないやい。俺が心の中で愚痴を言っていると、ルキィ様が殊更真剣な目で、



「……矢野様」


 声をかけてきた。何だろう?俺は王女に向きなおる。少し青い顔になったルキィ王女が問う。



「アイリーン。任せてよかったのでしょうか?」

「世界一安全ですね」


 即答だ。考えるまでもない。あぁ、そうそう。アイリーンの話は暗殺者の話の後ぐらいにもされた。その時も同じこと言った。



「そうですか…」

「それは、今、置いておきましょう」

「そろそろ近づいてきたが…、どうする?」

「どうするも何も…。ルキィ様、間違いないですか?」

「間違いないです」

「じゃあ、やろう」

「そうだね」

「それがいいですわ」

「名目は?」

「でっちあげればいいよ。石でも投げられた、馬車をぶつけられた。等々。たくさんあるよ」

「これは慈悲ですわ」

「俺がやろうか?」

「頼む」

「お願いしますわ」


 詠唱が嫌いなのだろう。了解。



 さて、こんなところにいる暗殺集団。ターゲットはたぶんあの二人。だからこれは天上院さんの言う通り、慈悲だ。



「慈悲って…。いえ、殺すのはいいのですけど、何故慈悲?」

「ターゲットがあの二人でしょう?」

「そうでしょうね。おそらく」

「それだけで、十分です」


 笑顔で固まるルキィ様。



「知らないほうが幸せですよ。あれは」


 報復される奴が一番嫌なことを笑顔でする。それがあいつ。自分の使えるもの(物も者も)全て使ってやる。



 その後始末をするのは俺。勉強とか、そのほかで習に迷惑かけてるけど…。これでトントンどころかオーバーワークだぞ。こっち。人を見る力はぶっちゃけ、後始末に奔走していたら身についたものだ。



「そうだね」

「間違いないですわ」


 俺の言葉に二人も同意する。似ているとは思ったが…。マジで清水さんもか…。絶対に俺はこっちでは後始末しないぞ。ていうか、どう考えてもキャパオーバー。



「さて、やりますか」


 俺の言葉にルキィ様が起動。すぐに俺の手を掴み、殊更真剣な目で、



「一つだけ、お聞かせください。あなた方はこれから人を殺す。という覚悟は本当におありですか?どうも、私には、皆さまがシュウ様達を言い訳にして、その事実からできるだけ目を逸らそうとしているように見えるのです」


 3人全員の目…、特に俺の目を見つめながら真摯に、言葉を選ぶようにして言った。



「当然です。確かに、目をそらしているということは否定しませんし、少し怖いですが…」

「僕たちは当然、その覚悟をしています」

「ルキィ様はわたくし達が討伐組…ということをお忘れですか?わたくし達…、少なくともここにいる3人は魔王が本当に最悪な方だった場合、討伐する覚悟…、いえ、この言葉の使用を避けるのはやめましょう。殺す覚悟はありますのよ?」


 俺たちの言葉にルキィ様は目を丸くした。



「それに、ですわ」

「俺達は友人が狙われてそれを黙ってみていられるほど、」

「聖人君主じゃないんですよ」


 3人でニッコリと黒い笑みを浮かべる。



「それが、俺たちの覚悟です」

「なるほど、確かに。確認いたしました。差し出がましいことでしたね」

「いえ、その確認は大切なことです。俺たちも何のために戦うのか、再確認できましたから」

「距離が近づいてきましたわ。お願いいたします」


やっぱり少しだけ手が震えるな…、手は関係ないけど。詠唱開始。



「『我が魔力を糧に、天より来たりて焼き尽くせ。かの者たちに速やかなる終焉を…、『太陽出現(ドーン・オブ・サン)』!』」


 馬車より少し大きいぐらいの火球が、速やかに馬車を燃やし尽くす。



 火球はすぐに消え、後には焼け焦げた跡しか残らなかった。

 

 

 ぶっちゃけ、ほぼファイヤーボール。大事なのは、ノリと勢いだ。中が見えなかったのは幸いだな。見えたら躊躇したかもしれん。生き物を殺すという意味では、虫であれ、魔物であれ、人であれ同じなんだがな…。



「では、恥ずかしいですけれど…。わたくしが後始末をしますわ。『わたくしの魔力を代償に、お力添えをくださいませ。故郷日本の神よ、ここにある不浄を浄化し、不都合な物を隠したまえ…、『わたくし達の神々』』」


 光があたりを包み込むと…。文字通りすっかり何もなくなった。



「恥ずかしいので、日本の神様の名前をお借りしようかと思いましたが、恐れ多いのでやめましたわ。それでも、綺麗にしてくださいましたわね」

「だね。僕も、その案借りようかな…。でも…、うーん。何かないかな?」

「がんばれ」


 馬車は進む。覚悟の上で、もはや戻れない道に踏み出してしまった俺たちを乗せて。







______


 リヴィレストについた。



「ここでの仕事はなんですか?」

「それはですね、4大魔獣の撃滅ですね。キラービー、アベスホッパー、プロスボア、アロス。以上です。ここには、プロスボアがいるそうです」

「へぇ…」


 習達はこのうちのどれか一つは確実に当たってる。そんな気がする。



「でも、今日は遅いです。宿でお休みください」


 宿は全員、びっくりするほど高価なもの。そこに全員が泊まる。しかも一人一部屋。



 最上階貸し切りだ。護衛もいるからな。俺ら以外にも。護衛は近衛らしい。ちなみに、あの暗殺集団も一種の近衛らしい。



 最上階の一室で、みんなで夕食を食べる。



 ここで誰かが間違えて度数の高いお酒を持ってきた。ここに地獄が完成した。俺の。俺が無事な理由?トイレで離籍していたら、俺の分も酔いつぶれたルキィ様に飲まれたからだ。



 特に印象に残った愚痴をツッコミとともに列挙しよう。



「あの医者嫌い。死ね」──ルキィ王女


 前も習に言ってましたね。



「なんで、矢野様は酔ってないんですか」──ルキィ王女


 あなたのせいです。



「どうして、皆、俺らが北に行くことに賛成したんだろうな?」

「さぁ?わかんなーい。はは、たーのしー!」

──望月と天上院さん


 あんたらが付き合ってると思われてるからだよ。実際、俺もそう思ってるわ。お似合いだ。習と清水さんの次ぐらいに。二人ともちょっと日本人ぽくない、美男美女だしな。



ちなみに最大の理由は望月が天上院さんだけ、苗字じゃなくて「雫さん」と名前で呼んでいること。永遠にはぜろ。



 後、ルキィ様に俺が好意を寄せていることをあんたらがあんたらの友人に吹き込んだから、俺がルキィ様と一緒に行けるように遠慮してくれたからだよ。



 それと、キャラ崩壊ひどいぞ。



「うわーん、アイリーンに会いたい。アイリーンに会いたい。やけ酒です!」──ルキィ王女


 ………。たぶん、ルキィ様、すこしウザがられてるだろうな。



 で、これ以上飲むな。明日に響くぞ。止めても聞いてくれないけど!



「あの、邪魔なアイリーンとやらがいなくなったから、やっと私が…ぐう…」──近衛


 たぶん無理。ルキィ様の好みは小さい子。人の趣味をとやかく言う気はないが…。せめてもっとロリ体形になろうぜ。



「そうれす!今なら、しゅごい魔法をちゅかえるかもしれましぇん!」

「ちょっと、まちぇ、ゃな、予感がしゅる。」

──天上院さんと望月


 この後、もつれあってキスした。まあ、あれだ。俺から贈る言葉は一つだ。末永く爆発しろ。このお似合いどもめ!



 以上、戦場からの報告でした!



 さて、衛生兵メイドさん呼ぶか。



 衛生兵メイドさん来てー!さっそうと衛生兵メイドさんが現れる。早いな。さすがはこの町一番の宿だ。



 ん?近衛?全員女性だよ。任せる。



 え?その女の子?うちの王女ですが何か?あ、恐れ多い。そうですか。じゃあ、一番いい掛け布団を頼む。



 そこの二人?うわぁ…。ラブラブカップルみたい。ご馳走様。末永く爆発して。とりあえず、大きめの掛け布団でもかけといて。ん。ありがとう。



 はい、全部終わり。あ、これ俺の分?ありがとう。おやすみなさい。



 よし、寝よ。

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