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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
7章 魔人領域再び
245/306

218話 討伐後

 …ふぅ、よかった。無事に目が覚めた。意識を失うのだけは本当に慣れない。…なれる気もないけれど。



 俺の体の下はフカフカで、右は柔らかい。けど、他は特に何もない。下はベッドで、右はたぶん四季だろうけど…、右以外に感触がないのが若干不思議。こういう時、だいたい周囲をガチガチに子供達に囲まれているはずなんだけど…。



 とりあえず、体を起こ…したら真横に四季の顔。



「習君、おはようございます」

「おはよう。四季」


 小声で挨拶を交わす。いないと思っていた子供たちがベッドの周りで寝ちゃっているから。あれだけ辛そうにしていたコウキをはじめ、アイリにカレン、ガロウとレイコ。ルナにミズキ。全員いるね。



 体の周りに子供達の感触がなかったのは、こうやって寝ちゃってたからか。こうしてベッドの上から見ていると、すごく可愛らしいのだけど…、この状況になっているのは俺らが心配をかけたからだと思うと、複雑だ。



 俺らが気絶しても、一緒にベッドで寝ているときはあった。でも、今回はそうではない…ということは、一緒に寝ちゃまずいと思わせる程度にヤバかったということだろう。…ごめんね、皆。



 えっと、この子らの顔色は…悪くはないな。痩せこけているわけでもない。俺や四季の思考をある程度察してくれている、ナヒュグ様やジャンリャ様、シールさんに謙三らへんが、その辺りを調整してくれたんだろうか?



 寝ているこの子らに布団がかかっているのも…、心配だからこうやってベッド際で寝落ちするのは許容するけど、そのせいでやつれるのは許さない。そんな俺と四季の気持ちが反映されている気がするし。まぁ、アイリ達なら自分で自分を律して、その辺りの配慮をしそうではあるけれど。



 ところで、一体何日経った? この子らにここまで心配されていて、あれだけ辛そうだったコウキも穏やかな顔で眠っている。一週間とか言われても不思議ではないが…。



 ガチャッ。



 あ、ドアが開…、自然に手が動き枕を掴み、それを戸へ静かに、でも素早く投げつける。



「あnぶっふ「「黙(って)ください」」…」


 よし、セーフ。謙三だと叫ぶと思ったけど…、案の定か。



 俺らが起きて喜んでくれるのは嬉しいが、皆が起きちゃうから叫ぶのだけは許さない。



 そんなことを考えていると、謙三はガバリ立ち上がって、親指を立てて今度は出来るだけ音を立てないようにしてくれているのか、やたらゆっくりした動きで出ていく。あいつは加減というものを知らんのか。



 …知ってるわけないよなぁ。ドアがびっくりするぐらいゆっくり閉じる。時々力の制御を失敗したのかギュン! と加速したけれど、大事な最後だけは、本当に静かにドアが閉じられた。



 そういえば、ノックなかったな。別に俺だけだったらいいけど、四季もいるんだからノックくらいしろよ、馬鹿。謙三らしいと言えばらしいけどさ…。あ、でも、あいつに言ったことなかったような…。今度言っとこう。



 …でも、光太や天上院さんと行動を共にしてるっぽいのに、今のをやらかすってどうなってるんだ? 光太が謙三に天上院さんのあられもない姿を見られないように、さり気無く鉄壁防御でもしてたのかな?



 まぁ、いいか。この部屋は…、たぶんルナのシャイツァーの中だね。魔力が極微少量だけど吸われているもの。ならば。



 四季と手を繋いで、ルナのシャイツァーに魔力を流す。それを動力にして、子供達から魔力を奪うようなことが無いようにしつつ…、ベッドをゆっくり消して、代わりに布団と、俺と四季が座るソファを出す。



 布団が出せたら、後はフカフカの枕や布団でうつ伏せじゃなくて仰向けになるよう、かつ子供達が重ならないように調整して…。ここまで出来たらいいか。布団をかぶせてあげて…っと。さ、ちゃんと横になっておやすみ、皆。俺らはここで黙って見てるから。







______


「「落ち着(きまし)た?」」


 俺と四季の言葉に首を縦に振る子供達。ここまで心配してもらえるのは嬉しい。嬉しいけれど、罪悪感が掻き立てられる。ギャン泣きされはしなかったけど、俺も四季もめっちゃ甘えられた。



「…ん。ごめん」


 アイリが頭を下げると、他の子も下げる。



「気にしてないから大丈夫」

「ですです。寧ろ甘えてくれて、嬉しいくらいです」


 滅多に甘えて来ないからね…。



「にゅ!」


 「じゃあ、早速!」とばかりにルナが四季と俺に甘えてくる。でも、他の子らはそのまま。…まぁ、精神年齢的に厳しいか。うちの子ら、妙に精神年齢が高い子が多いし。



「ところでコウキ。落ち着いてきたみたいだから聞くけど…、大丈夫か?」

「習君や私が見る限り、今までの行動からして大丈夫そうですが…、無茶はしていませんか?」

「うん。大丈夫。心配かけてごめん。でも、僕が倒れてからもう3日も経ってるもん。大丈夫」


 そっか。それならいいけど…。そして、コウキが倒れて3日…ね。となると、俺らが倒れてからも3日だな。思ったより時間は経っていない。



「あ。大丈夫って僕が言っても、心配してくれそうだから言っとくけど、本気で大丈夫。何より、原因もはっきりしてるもん」

「あ。そうなの?」

「差し支えなければ、その原因を聞かせてくださいな」

「勿論。二人に対して差し障ることなんてないよ。でも、二人に聞きたいんだけど…」


 コウキはそこで言葉を切り、これまでにないくらい真剣なまなざしでこちらを見つめてくる。そして、



「ねぇ、父さん。母さん。久我(くが)謙三(けんぞう)って信用できる?」


 と言葉を紡いだ。



「「{勿論《勿論です》」」


 俺らは漢発入れずに答えた。謙三は信用できる。というか、謙三は素直の塊みたいなやつ。あいつが信用出来なければ誰も信用できない。それくらい信用していい。一応、服芸も出来るはずなんだが…、俺は懐かれてるのか、常に全力で正直な気がする。それは多分、四季に対しても同じ。例えるなら遊んで欲しくて常に全力で尻尾を振って目を輝かせている犬。



「なるほど。じゃあ、魔法的な干渉…、洗脳とか思考誘導とかって受けてる?」

「受けてないはずだよ?」

「ですです。その上、雫さんは聖杖持ちで、回復系です。何かあったとしても癒しの力で既に消滅していると思いますよ」


 だね。あいつが無傷…なんてのは想像できないし。というか…、合流した時も服が破れていて、赤がついていた。あれで怪我してなかったら色々おかしい。



「そっか。ならあの人は大丈夫か…」

「「あの人()?」」


 待って。それ、別の人は大丈夫じゃないってことだよね?



「そうだよ。父さん。母さん。えっとね、準前世の話になるんだけど、いい?」


 勿論。俺らの子供たちの話だ。否なんてあるモノか。



()前世って言ったのは、死んでから転生する前の段階の話だからだよ。前世はまだ思い出してないけど…。こっちは思い出したよ。準前世では理由は定かじゃないけど、チヌリトリカの封印の一翼を担ってたみたい。」




 担ってた(・・・・)ね…。それにコウキが謙三の話を聞いてきた。ということは…、なるほどね。だいたい察した。



「あ。わかった?流石父さんと母さん。そうだよ。封印を担っていた僕は既に負けてる。その僕を討った一人が…、久我健三だったんだ」


 やっぱりな。



「となると、コウキの頭痛は謙三を見て、準前世のことを思い出したから…でいい?」

「うん。合ってるよ。大正解。封印守護中、最期以外特に何もなかったとはいえ…、だいたい2000年。脳なんてなかったはずなのに、無駄に記憶の容量があってさ…。ただでさえ、父さんと母さんの記憶があるのに、その上にさらに追加!は正直バカだと思う」

「あれ?死んじゃった感覚の衝撃…ではないのですか?」

「違うよ」


 コウキは四季の問いに即答する。そしてそのまま、



「前世は覚えてないとはいっても、最期ぐらいはうっすら覚えてる。アレに比べれば屁でもないよ」


 と何でもないように言い切った。一度死んだ記憶があると、死への耐性がつく…わけがないはずなのだけど、常人とは死への思いというか、気持ちというか、なんというかその辺りが違いすぎる。



「ま、その辺りは今、どうでもいいから置いておいて」


 どうでもよくはないと思うな…。



「うん。父さんと母さんがそう考えてくれるのは嬉しいよ。でも、二人の級友の方が大事でしょ?って、駄目だ。二人なら僕 > 級友だわ…」


 正解。よく俺らのことがわかってるね。コウキ。



「でもでも、重大事項だよね?」

「それは違いないね」

「ですね。少なくとも謙三君と一緒にいたであろう友人がチヌリトリカの毒牙にかかっていると言う事ですから」


 謙三は大抵、謙三含めて幼馴染5人衆とか呼ばれる集団を作ってる。そのうちの一人である有宮さん…、有宮(ありみや)文香(ふみか)さんだけは、シャイツァーが戦闘用でないから賢人たちの班に入ってるというのはタクから聞いている。となれば、必然的に残るは三人。


百引(ひゃくび)(あき)さん。羅草(らそう)(あい)さん。そして…、」

神裏(かみうら)(しゅん)の男子一人、女子二人。これであってる?」

「あ。うん。合ってる」


 コウキの言い方的に…、この3人はチヌリトリカの支配下にある。この三人を何とかしない限り、全員であっちに帰るって目標は達成できない。



「あー。それなんだけどさ。僕の所感だけど…。一人、支配下とかそんなレベルじゃないよ」


 え…?



「ちょっと待って。えっと、二人の記憶と、準前世のをあわせると…、体つき的に百引(ひゃくび)さん…かな?あの人、チヌリトリカに肉体乗っ取られてるよ?}


 ゑ?



 は? 嘘。待って。待って。



「えっと、(あき)さん、チヌリトリカに乗っ取られてるんです?」

「その状況で百引さんは無事なの?」

「どっちの質問にも”Yes”だよ。魂は消されてないみたいだけど…、体の端に追いやられてた…ように見えた気がしないでもない。ごめん。はっきりとはわかんないや。ただ、父さんと母さんが名前を挙げてた二人(羅草さんと瞬)は、間違いなくチヌリトリカの支配下にあるっぽいよ。久我さんはわかんないけど。ね?大事でしょ?」


 あぁ、うん。確かに大事だね。それでも皆の安全に比べれば多少重要度は落ちるけど…。でも、本格的に不味くないか、これ?



「あ、でも、父さんと母さんに謙三は信用できるって言われたからか、久我さんだけは素面だったように思えてきた…」

「たぶん素面」

「ですです」


 あいつなら素面でも嬉々として封印守護者を殴りにかかるだろうし。さすがに、明らかにやっちゃダメってわかってればギリギリで避けていくだろうけれど…。わかんなかったんだろうなぁ…。



「何で久我さんだけ素面だったんだろ?」

「たぶん、支配下に置いても無意味と思われたか…」

「無駄に精神が強靭なので、支配下に置く労力が無駄だと思われたか。でしょうね」

「なるほど」


 ま、謙三の話は置いておこう。今、そんなに大事じゃない。もっと大事なことがある。



「ねぇ、コウキ。今の話だと…、チヌリトリカ、復活してない?」

「完全復活はまだだよ。他の守護者のことは知らないけど、クアン連峰で会った『ズィーゼ』は本龍の言う通り守護者…だと思うよ。僕が言えたことじゃなけど、封印守護者に封印守護者の認識が薄いのは問題な気がする」


 なるほど。となればまだ大丈夫…かな?



「あ。そうでもないよ。封印の大本はだいぶ弱ってるみたいだもん。何が守護してるかは分かんないけど…、僕がやられたのとほぼ同時期だから、チヌリトリカ本体がやったわけじゃなさそうだよ?で、大本がやられると、ズィーゼがいようがいまいが、そこの封印は解けると思う」


 うへぇ。となるとまだ(・・)大丈夫。でしかないな…。しかも、もうほとんど時間は残ってない。



「わかった。ありがと。とりあえず、謙三達と合流しよう。あ。その前に。百引さん達三人の話が出なかったってことは、三人はこの場にいるわけではないんだよね?」

「うん。そうだよ。何処に行ったかわかんないみたい」


 …本格的に時間ないか?



「あ゛。習君、習君」

「何?」

「私達、謙三君が無事ですから、幼馴染4人組以外は大丈夫だと勝手にみなしていましたが…、百引さんが支配下に置かれたタイミングによっては、文香さんや、他のメンバーも危うくないですか?」

「……危ういね」


 そうだよ。タイミングの如何によっては危うい。というか…、俺も四季もここに至るまで、こっちの世界で百引さん達に会ってない。タクも帰還魔法捜索隊の面々や、魔王討伐班の一部…とは会えてないって言ってた。否定できる要素がどこにもない。何でその可能性が抜けてたんだ…。ちょっと寝起きでボケてるか?



 最悪のケースだと、百引さん自体が地球にいたころからチヌリトリカに乗っ取られていて、地球でも悪さをしていたとかもある。その場合、おそらく俺や四季、タクでさえも見抜けないからお手上げだな。



 …でも、基本的に俺も四季もタクも、クラスメイトは見た感じ善良だと思ってるから…、地球にいた時からダメ説は否定できると思いたい。だが、その可能性を捨てるのは間抜けだな。



「とりあえず、合流しよう」

「ですね。出来るだけ共有しませんと…」


 扱いを間違えると大惨事。勇者の信用が地に堕ちる。



「…待って。合流する前に一つ伝えさせて。…わたし達と、勇者たちとの情報交換は済んでるよ」

「あれ?そうなの?どのタイミングでやったの?」

「お二人が倒れてから一日目です」


 そうなのね。となると、俺らが倒れていたからかなり雑になってるんじゃあ…。



「…そうでもない。倒れた当日は不安だったけど、倒れてから一日目は容態も安定してたから。安心して話せてる」

「とはいえー、ボクらのー、特にコウキとミズキの話したらー、色々楽しいことになったからー。ちゃんとできたかって言われるとー」

「わかんないぜ!」


 だよねー。



「アタシらが父さまと母さまの遺伝子学上の子ってのが駄目だったみたいね」

「処女懐胎だとかおっしゃっておられてましたね…」


 阿鼻叫喚だな…。その光景が目に浮かぶようだ。



「ぶっちゃけ、それ以外は伝えられてないよ」

「…ん。でも、それ以外は些事。…無問題」


 結構大事なの混じってると思うけどね。その辺りは切り捨てたか。…ん? あれ?



「一日目にそんなの出来るくらい余裕あったのに、」

「何故、私達の周りに皆いたのですか?」


 その余裕があったなら、いつも通り周りで寝ていてもよかったと思うんだけど…。



「あー。それはね、外傷とかなかったし、心臓とかも動いてたんだけど、「このまま目覚めないんじゃないか?」って思ったからよ」

「…ん。お父さん達が魔力不足なのはわかってた。けど、今まで紙を書いてた時に黒い何かが出て来ることはなかったから…」


 黒いの…? そんなの出てたのか。



「…出てた。それを思い出すと不安になっちゃった」


 なるほどね。…心配かけてごめんね。



「黒いのがー、何かわかるー?」

「「さぁ…?」」


 言われてから始めて気づいたくらいだし…。



「ジンデがふがふが何か言ってたんだが…」

「ロクに聞き取れておりませんので…」

「死!神!」


 おおう、いきなりルナが何か言いだした…。



「死!神!」

「この話題になると、ルナ姉さまはだいたいこんな感じになるのよ」


 なるほど。死と神…ね。死神か? そりゃ不安になりもするか。



「…あ。でも、お父さんとお母さんが寝込んでるとき、ルナは比較的元気そうだったよ」

「ボクらがやってるから、やろー!って感じー?」


 了解。…むぅ。黒いの…ねぇ。全然検討がつかないな…。



「僕には黒が何か全くわかんないんだけど…、ジンデを倒してどう?何か変わった?」

「あー。ちょっと待って」

「ですね。ちょっと時間下さいな」


 んー、どうだろ? 何も変わった気は…しないな。四季も…同じっぽい。



「何もないね」

「同じくです。帰還できるようになったかと思いましたが、そんなこともまるでなしです」

「…『魔王討伐』は、全部の魔王、公称皇帝を倒せってこと?」

「なのかもしれないね」

「ですね。となると、この帰還法は却下ですね」


 だね。さすがにナヒュグ様とジャンリャ様を討つ気はない。それに何よりうちの子であるルナも公称皇帝。誰がやるか。寧ろ、級友を全部敵に回してでも守る。



「…さすがお父さんとお母さんだね」


 アイリのボソッと呟いた言葉にルナ以外の全員がコクっと頷く。



「え、えっと、そういえば、ここはどこ?」


 なんかこそばゆいから露骨に話題を逸らしにかかる。



「シャンドゥです。勇者様がいて、お父様とお母様がお倒れになったので…、」

「一番、大きな町に行こう!って感じだったぞ」


 ちゃんと乗ってくれた。ありがとう。若干、微笑ましいものを見る顔をされている気がしないでもないけど。



 シャンドゥであるなら、シャイツァーの外はジンデの城か。全員起きたし、まだ少しいたたまれないし…、



「皆、そろそろ行くよ」


 声をかけると、人数分の頷きが返ってくる。よし、行こう。戸を開け…、あれ? まだ部屋がある。ルナのシャイツァー、部屋数もいじれるのね…。



「ん!」


 視線を感じたからか、嬉しそうに目を輝かせて体を摺り寄せてくるルナ。そう言えば、この子の性格なら起きぬけに甘えてきてもおかしくはなかったのに来なかったな…。俺らが寝込んだ後って事情を考えてくれたのかな? それとも、アイリ達お姉ちゃんs()が何か言ってくれたのか…。



 まぁ、どちらでもいいか。どちらであれ、ルナが自重してくれたのは確かだ。偉いね。ルナ。俺と四季がそっと頭を撫でると、



「にゅにゅ!」


 甘えて良いと判断したのか、全力で体を俺と四季に摺り寄せ、抱っこをせがんでくる。



「仕方ないですね…」


 なんて言いながら四季は俺が動くよりも早く、準備を整えてルナを抱き上げる。



「ねぇ四季。いつも四季ばっかりルナを抱っこしてくれてる気がするんだけど…」

「そうですか?たぶん気のせいですよ。あ、先に言っておきますが交代は不要です。私がこのまま行く方が早いです」


 気のせい…ではない気がするんだけど。四季が言うならいいか。家を出…、



「「何してる(んですか)…?」」


 謙三が家の前で倒れているんだけど…。



「………」


 えぇ…、無言? 何で…あ。あぁ!



「謙三。もう黙らなくていいよ」

「ですです」

「よっし!兄貴!姉御!平気か!?」

「うん。平気」

「私もです。それより、謙三君はどうなんです?」


 さっき声かけてもしゃべらなかったのは「黙ってて」の命令が継続していたからだとは思うけど…。倒れてた理由がわからない。



「大丈夫だぜ!ちょっと酸欠で死にかけただけ!」


 大丈夫じゃねぇ。誰が息まで止めて呼吸音すら漏らすなと言ったよ…。てか、地球だったらそこまでやってなかったじゃん…。



「出来ると思ったからやった!後悔はしてない!」


 しろよ。まったく、頭が痛い…。



「「『『回復』』」」


 効果あるかは不明だが、四季の手を俺が掴みに行って魔法発動。ついでに、精神干渉とか受けてるか調べてみる。…うん、手ごたえ無し。



 チヌリトリカは謙三まで手にかけてはいないな。



「ん?回復?ありがとだぜ!にしても、姉御が子供を抱いているのを見るのは何か新鮮だな。子供がちょいでけぇけど。ま、兄貴も姉御もお幸せにな!」


 くるっと方向転換して去っていく謙三。



「って、あぁ!忘れてた!兄貴!姉御!復活したなら来いよ!朗報が一つあるぜ!」


 朗報? それは一体なんだろう?



「あ、兄貴、姉御!二人はなんかある!?」

「いいのと悪いのが一つずつ」

「おうふ…。いいのだけじゃダメか?」

「駄目ですね。謙三君、死ぬほど後悔しますよ」


 悪いことは主に謙三の幼馴染である百引さん達の事。聞かなきゃ確実に後悔する。



「うへぇ…。あ、じゃあ、紙に書いてくれよ!光太も天上院さんも門臥も蔵和さんも旅島。それに皇帝様も、シール様いいよな!?」


 ? 誰もいないのだけど…。



「さ、行くぜ!」


 え。待って。走り出す謙三の後ろをついて行く。素朴で実用的な大きなドアを跳ね開けると、そこにさっき謙三が名前を呼んだ全員が揃って、朝の食事をしている。



「謙三。この部屋が城のどっから叫んでも声が届くようになってるとは言ってもさ…」

「我らの言霊は伝わらぬのだぞ」

「あ。ごめん。でも、書けただろ?皆!」


 コクっと頷く全員。なら、俺らが書けば全員で共有できるか。一応、謙三達、夫妻、シールさんの分で3枚、合計6枚あればいけるだろう。



「四季、紙…って出せる?」

「はい。出せますよ。ルナちゃん。もうちょっと上来てください。はい。それでいいです。ちょっとの間、頑張ってください」


 そう言うと四季はファイルを机に置き、左手でルナを支えつつ右手で紙を取る。



「はい、どうぞ」

「ありがとう」


 俺が紙を受け取ると、四季はちょいちょいとルナの肩を叩く。そうするとルナがスルスル降りてくる。四季は降りてきたルナの脇を持ち上げ、椅子にポンと座らせ、頭を優しく撫でる。



 すると、強制的に抱っこを終わらされたにもかかわらず、ルナの顔が蕩ける。可愛い。



 …でも、見とれてちゃダメだな。書こう。良いことは『帰還魔法が見つかった』こと。悪いことは『百引さん達謙三の幼馴染がチヌリトリカの支配下にある可能性が高く、他の勇者もチヌリトリカの影響を受けている可能性が否定できない』ということ。



 良いことはほぼ俺らにしか関係ない。だが、悪いことは…、この世界に生きる者すべてに関係があって、扱いが難しい。人間の最高位クラスがいないのが面倒だが、獣人(シールさん), 魔人(ナヒュグ皇帝陛下夫妻), エルフ(カレン)の最高位クラスはいる。十分、世界の進路を決めるに値するだろう。



 よし、書けた。ジンデに書いた時と比べるべくもないほどに、楽。



「よし、書けた」

「習君、ありがとうです。では、私に2セット下さい。ナヒュグ様夫妻と、シールさんに渡します」

「了解。謙三。そっちの頂戴。こっちの渡す」

「おう!」


 交換終了。ナヒュグ様達には失礼だけど、そっちはだいたい想像がつく。先にそっちを見よう。



 俺の行動を予期したのか四季が僅かに体をずらし、スペースを作ってくれた。



「ありがと」


 さて、内容は…。予想通りだな。『魔人と人間の交渉が上手く行ってない』か。でもこれ、さっき俺らが渡した悪い情報で一気に解決しそうだ。何より、感情を押さえるのが得意そうなナヒュグ皇帝陛下夫妻にシールさんまで声を漏らしていたのだから。



 さて、光太たちのは…。



魔王(ジンデ)討伐により、帰還できるようになった』


 …え? 待って。俺も四季も、そんな感覚まるでないんだけど!?

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